鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

どこが違う? カワウとウミウ

2010-10-16 22:04:20 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
①育雛中のカワウ 2006年9月 東京都台東区)


(日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより172号」(2010年9月発行)より転載 一部を加筆・修正)


 外見がとてもよく似たカワウとウミウは、その識別がしばしば問題となります。それでは、野外でカワウかウミウと思われるウと遭遇した時、どこに着目して、何を基準に判断すればよいのでしょうか?


1)まずは顔に注目してみよう
 
2種を区別する際に役立つ最大の特徴は、顔にあります。距離がある場合には顔の細かいパーツを見ることは難しいですが、それが可能なくらい近い場合や画像が得られて拡大可能な場合は、まず顔の以下の点に注目してみるとよいと思います。

a. 黄色い裸出部の後縁
 両種とも嘴の基部から顔にかけて、羽毛の生えていない、黄色い裸出部があります。この裸出部の後縁、特に下方の形に着目します。カワウでは目の下から喉にかけて、この黄色い部分はまっすぐ下方に落ち込むか、わずかに後方へ、やや丸みを帯びて落ち込んでいます(写真②)。一方、ウミウではこの部分の下の部分が前方(嘴方向)に対して切れ込んでいるため、口角の部分で三角形に尖って見えます(写真③)。


カワウ(生殖羽)の顔
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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ウミウ(生殖羽)の顔
2009年5月 北海道厚岸郡厚岸町
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b. 頬の白色部
 どちらの種類も頬に白色部があります。この白色部の上の辺(目の後方のライン)に注目することで、識別可能な場合があります。成鳥の生殖羽では、カワウはまっすぐかやや下方に向かって伸びています(写真②)。ウミウではこの部分が、やや上(頭頂方向)に向かっており、結果として白色部分がより大きく見えます(写真③)。様々な季節や年齢からの写真を検証した結果、成鳥の生殖羽ではこの特徴は明瞭ですが、非生殖羽や若鳥では個体によって白色部の上部が不明瞭なことがあり、種の特徴が出ない場合があり、これは特にウミウの若い個体でその傾向があるようです(写真④、⑤)。


カワウ(若鳥)の顔
2007年10月 北海道十勝郡浦幌町
裸出部はカワウを示唆しているが、頬周辺の白色は不明瞭で「淡色部」程度。
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ウミウ(若鳥)の顔
2007年12月 北海道幌泉郡えりも町
裸出部は完全にウミウだが、頬の白色部は不明瞭。ただし、「淡色部」と考えればウミウ的ではある。
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2)成鳥なら上面の色も有効かも

 成鳥の生殖羽では、背や肩羽、雨覆など体上面の色が、カワウでは褐色みを帯びるのに対して、ウミウでは緑色みが強く、ある程度までの距離と光線条件下では識別可能です。ただし、この部分は太陽光の強さに応じて光沢の強さが変化するので、逆光や曇天時には注意が必要です。また、若鳥では両種とも褐色みを帯びるので、この特徴を用いることはできません。非生殖羽のウミウも緑色みを欠くため、秋冬には注意が必要です。ウミウの緑色みがいつまで使えるかはわかっていないと思われますが、10月上旬に撮影した亜成鳥の上面はウミウ特有の緑色みでした(写真⑦)ので、その時期くらいまでは有効な可能性があります。

3)その他

 体に対する翼の位置がカワウでは中央寄り(写真⑥)、ウミウではより後方(写真⑦)にあるため、飛翔時の識別に有効な場合がありますが、両種が混在していたり、画像が得られて比較可能な場合以外は、なかなか難しいと思います。


カワウの飛翔
2008年4月 北海道十勝郡浦幌町
左は生殖羽、右は若い個体であろう。
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ウミウ(亜成鳥)の飛翔
2006年10月 北海道根室市
一見成鳥風だが、喉や首の淡色等から若い個体であろう。秋の後半だが、背や翼は緑色みを帯びている。
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 ウミウの方が体重が重く、大型ですが、個体差もあるので識別の決め手に使うには難しいでしょう。混在している場合の発見のきっかけくらいには、なるかもしれません。
 一般にカワウは淡水や内湾で、ウミウは外海で見られるといわれますが、これも絶対的なものではなく、内陸にウミウが飛来することもあれば、外海でカワウを見ることもあります。実際、今年8月の厚内漁港(浦幌町)の、外海に面したテトラポッドには両種の混在する姿が見られました。


⑧内陸湿地に飛来したウミウの若鳥
2010年10月 北海道十勝郡浦幌町
海から遠くはないが、コガモやマガモが群れる淡水の湿地に飛来した1羽のウ。顔の裸出部は完全にウミウのものだった。
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 以上のように、カワウとウミウの識別はそれなりの距離で、典型的な個体の場合には十分可能ですが、必ずしもそうはいかないのが野外観察の大変なところです。距離が遠かったり、逆光、降雨、強風などの悪条件下では、満足のゆく観察ができないこともありますし、どちらともつかない特徴を示して判断に迷う個体も、もちろんいます。すべての個体を完全に識別するのはまず不可能と思って、気楽な気持ちで2種の識別に挑戦してみてはいかがでしょうか?


(2010年9月19日   千嶋 淳)



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
記事を拝見し、大変参考になりました。 (むつみ@とやま)
2014-02-18 22:14:46
記事を拝見し、大変参考になりました。
2014年2月18日の記事に参考としてさせて頂きました。ありがとうございました。
返信する
>むつみ@とやま様 (ちしま)
2014-02-20 22:56:32
>むつみ@とやま様
この度は記事を参照いただき、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
返信する

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