局の道楽日記

食道楽、着道楽、読書道楽  etc
生活色々を楽しんで暮らしている日々の記録です

かなわなかった夢の美しさに涙する

2008-08-20 21:43:35 | 見る(映画 劇場 美術館など)
ここ数年舞台に行く機会が多い。行き始めるとクセになっちゃうのである。
映画も本編の前に他の映画の予告があって ああこれも観たいな なんてことがありますよね。あれと同じで 一つ見ると劇場でもらう他の舞台のチラシに誘われたり、同じ舞台好きと話をして、じゃ 今度はこれを一緒に観に行こうという流れになったり。
おかげで労働しても お給料は舞台チケット代に流れてしまう。
昨日の舞台も、ちょっと興味は引かれていたが、(わざわざ行かなくてもな~) と思っていたのが、意外なことに身近に出演者に縁が深い人物が居たんですね。
といっても限られた出演者 特定されると私もバレルと困るので詳しくは語りませんが 
「へ~ そうだったの! じゃ 観させていただきます」とその方にチケットを手配していただき、いつも本当の宝塚に誘ってもらっている友人(物心ついてからの宝塚ファン)を 今回は私がお誘いして出かけることになった。

で、昨日観たのは「宝塚BOYS」・・・(もろネタバレします)

 

私も初めて知ったのだが 女の園の宝塚歌劇団に 終戦後すぐから10年間あまり 男子部が存在したのである。
発端は学徒出陣で兵役につき、回天基地に配属されて通信兵として 人間魚雷として出撃する仲間たちを (次は自分か)と思いながら見送っているうちに終戦を迎えた青年が 宝塚の創始者の小林一三に手紙を書いたことからである。
それが少女歌劇団を 男女が共演しての国民劇に移行させたいと思っていた小林氏の意にかなって 彼は宝塚男子部の第一期生として採用された。
同じように採用された 他にも、闇市の愚連隊あがりだったり、旅芸人の息子だったり、宝塚劇団の楽団の大太鼓担当だったりした男たちも一期生として集められた。

終戦直後、誰もが自分の命があるのが拾い物と思い、今まで信じていたものがくつがえされて、何を生きがいにしていったらいいかを手探りしていた時代だろう。
そこに 美しいものを求めて、それを作り上げることを夢見て集まってきた男たちが居たという真実にまず感動しませんか?

しかし、宝塚の大舞台に立ちたいという彼らの夢は なかなか実現しなかった。
「清く 正しく 美しく」という信条にオトコの汗は似合わない。 ファンも歌劇団のスターたちもそういう認識だった。そして上層部もその考えに傾いていった。
毎日 ダンスや歌を練習しても公演は実現されず、お呼びがかかるのは 馬の足や舞台袖のコーラスのみだった。
彼らはあせり、ここに居ていいのか?という疑問を持ち悩む。
しかも、実生活は 宝塚にいながらも女生徒たちとの接触は禁止。当然すみれ寮とは他に 男だけでまかないつきの寮に隔離される。そこには彼らを見守る優しい寮のおばちゃんがいるのだけれど。

ついに 男女共演を前提にした台本が彼らのもとに届けられる。舞い上がって練習を始める彼ら。しかし 女性役がいないので困っていたところ 寮のおばちゃんが彼らの相手役を務める。めちゃくちゃうまい。
実は彼女も戦前宝塚にいて、舞台に立つのを夢見ながら怪我のために志半ばで道を断たれた元タカラジェンヌだった。

劇中劇を演ずる初風 諄さん 男7人を圧倒する演技力、その貫禄に参りました。

その辺から 同行のヅカファンの友人は号泣。
往年の 初風さんの当たり役 マリー・アントワネットの決め台詞
「わたくしは フランス女王 マリー・アントワネットです」を思い出して涙がこみあげてきたそうだ・・・

そして ついに 宝塚男子部は解散の運びとなる。
あるものは怒り、あるものは意気消沈する。

しかし、舞台は 彼らが夢想して得られなかった、舞台にたちレビューを踊ると言う夢の世界を具現化してみせる。

今まで 宝塚の練習場と寮の二つの場面の繰り返しだった舞台に突如 あの大階段が現れる。
タキシードに身を包み、そこで 歌い、踊る男子部の面々。



最後に全員が羽をつけて 大階段から降りてきた時、もう友人は号泣であった。
私もつられ涙で鼻の奥が熱くなった。

で、夢の舞台は終わり、それぞれが旅支度で別れるところで物語は終わった。

同行の友人は声楽を教えている。彼女の生徒の中でジェンヌになった子もいるし、なりたくてもなれなかった子もいるらしい。
実際の宝塚に入るだけで大変な努力が必要であり、そしてその中で舞台を踏めること、そして頂点に立って トップとして羽をつけて大階段を降りてこられるというのが どんなに大変なことか。才能と努力と運と すべてが結集しないとそこに行き着けないということ、そしてそこに行く途中で諦め、振り落とされていった 幾多の生徒たちの涙も想像されて、この男子部の挫折と 彼女らの涙がシンクロされて涙したと言っていた。


そして私の陳腐な感想だけど、挫折した夢は無駄ではない。夢に向かって努力した思い出、かなわなかった夢を持てたこと自体 夢も持ったことのない人より幸福なのではないでしょうか。

どんな舞台にも かなった夢とかなわなかった夢が漂っている。
だから 私は 生の舞台を観てその夢の残照を味わいたい。


思いがけないきっかけで観た昨日の舞台でしたが。
観てよかったな。
たっかいな~ と思った チケ代9500円も惜しくはなかった。

今月末までやってます。

お薦めです



コメント (6)
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