tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

毎月勤労統計問題は整理できなくなりました

2019年01月11日 17時28分35秒 | 労働
毎月勤労統計問題は整理できなくなりました
 昨年の春に気が付いた 平成30年に入ってからの賃金上昇率の高まりの原因を統計の扱い方の中で説明しようと思って試みましたが、結果は統計理論とは別のものだという事になるようで、「整理」は不可能のようですので、統計的整理は止めます。
 
 未だ厚労省から正式な発表はありませんが、現状、報道されている中から、こんなことが原因で、誤った統計数字(統計誤差ではありません)になっていたらしいという事だけ纏めておきたいと思います。

 推論の根拠となったのは、毎勤統計のデータを使った結果、失業保険や労災保険の給付が過少になっており、厚労省してそれは過去にさかのぼって支払う。過少支給の対象は約2000万人、過少支給分の総額は15年間にわたり総額530億円に及ぶという厚労相の発言です(1人当たり2650円)。

 担当大臣が誤りを認めたのですから、「やっぱり『毎勤統計』に誤りがあったんだ」ということになり、私には大ショックでした。
 こうした基幹統計(かつての指定統計)は、回答義務が法律で定められており、国の動向を国民に知らせるものですから、統計誤差以外、誤りは無いはずのものです。

 求人倍率などの「業務統計」は、それなりの意味しかありませんが、失業率(労働力調査)、消費者物価指数(小売物価統計調査)、平均消費性向(家計調査)、更には最も基本である国勢調査などの統計が信用出来なかったら、国の舵取りは出来ません。

 「それなのに何で」という感じですが、今回の誤りの原因と言われているのは、東京都の従業員500人以上の事業所については、母集団である「事業所・企業統計調査」(基幹統計:全数調査)の事業所(1400ほどだそうです)について全数調査をすべきところ1/3強の500事業所のサンプル調査で済ませていたことによると説明されています。

 東京都は大きな事業所が多く、そこで1/3ほどの事業所しか調査がされていなかったので、大きな事業所(賃金も高い)が抜け落ち、全体平均の賃金水準が低くなったという説明に聞こえます。
 そして、その誤りが解ったので、調査した事業所の数を3倍近くに膨らませて、平均の下がるのを修正(復元と言っています)したのが平成30年1月からで、そのため昨年1月から対前年同月の賃金上昇率が(異常に)高まったという事のようなのです。
 
 統計調査を担当する者の仕事としてはそんな基礎的な誤りは有り得ない筈です。500をサンプルとして調査するとしても、500事業所は統計手法に則って選び、その数値を母集団(1400ほどの)に正確に復元して統計数値とすべきで、そうすれば、全体平均が下がるといった事態は起きず、誤差は統計誤差の範囲に収まり、プラス・マイナスの誤差が出ても、統計的にはプラスの年とマイナスの年が同じぐらい出て、15年間もずっと平均が下がるという事はあり得ません。

 そこから類推されることは、東京都には従業員500人以上の事業所は調査対象になった500事業所しか存在しない事になっていた(他の事業所はなかった事になっていた)のだろうという事です。
 その他の900事業所は存在しないことになっていたので、そしてそれらの事業所は比較的賃金水準が高い所なので、それが抜け落ちたことで、全体平均が下がるという結果になったと考えざるを得ないのです。

 何故そんなことが起きるのでしょうか。基幹統計は答えないと罰則がありますが、回答率は下がる傾向にあるようです、担当者の苦労も多いと思います。しかし全数調査すべき所ををサンプル調査にしたら(これは勿論ルール違反ですが)、母集団に復元するのは常識でしょう。
基幹統計が信用できなくなったら、教育も研究も、国会論議もまともなものにはなりません。外国も日本の言う事を信用しなくなるでしょう。
 
 未だ書くべきことはいろいろありますが、この辺でやめておきます。