弁護士法第72条は刑罰法規であり、いわゆる隣接法律専門職能にとっては非常に重い規定である。本来業務から附随して派生する周辺業務を取り扱うことの是非を、弁護士法第72条との関係で絶えず懸念しなければならないからである。従来「その他一般の法律事件」は幅広く解釈されており、日弁連「条解弁護士法」(弘文堂)においても、「いわゆる事件性のない『法律事務』であっても、弁護士以外の者がこれを取り扱うのはいわゆる非弁活動に該当する恐れがある。」との解釈が示されている。
しかし、司法制度改革推進本部の法曹制度検討会において「弁護士法第72条について、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め検討した上で、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保すること(企業法務との関係その他について)」が議題の俎上に上り、そこにおいて法務省の見解が示されている。
曰く、「法第72条本文の『その他一般の法律事件』については、いわゆる『事件性不要説』と、『事件性必要説』とが対立しているが、事件性必要説が相当と考える。」であり、さらに契約関係事務に関して「紛争が生じてからの和解契約の締結等は別として、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話し合いや法的問題点の検討は『事件性』なし」としている。一応「最終的には裁判所の判断にゆだねられるものであるから、法務省の見解を示しても、それは、捜査機関や裁判所の解釈を拘束するものではないことを留保する。」旨付言しているが、実務界に与える影響はきわめて大なるものがある。
これを受けて、NBL No.779紙上に、企業法務側(中川英彦京都大学教授)と日弁連側(藤井篤弁護士)のコメントが掲載されている。
中川教授は、「企業法務が今後グループ会社へのサービス展開を図ることを期待する」として歓迎している反面、「・・・事件性の点でかなり極端な解釈と思われる。たとえば、事件性の点でいえば、事件性がなければ誰でも第三者に対して有償で法務サービスを提供できることとなり、これを悪用して法務ビジネスを考える者が出てこないとも限らない。」旨懸念し、「コンセンサスとよき慣行が形成されていくことが望ましい。」と述べている。
これに対して、藤井弁護士は、「弁護士法第72条以下の立法趣旨(他人の法律事務を取り扱う能力もなく訓練を受けてもいない者が、みだりに他人の法律事務を取り扱うことによって、国民の法律生活の公正円滑な営みを妨げ、法律秩序を害することを防止する。)を忘れて、仮にも、この規定によって、弁護士の権益を守ろうとすることがあってはならない。」と述べつつ、弁護士法第72条に形式的には該当するが、正当業務行為として類型的に違法性のない行為と考えられるものが認められるとして、類型的に違法性を阻却する事由と条件を「日弁連の考え」として示している。
法務省の見解が社会的コンセンサスを得るものとなれば、司法書士の業務範囲も飛躍的に拡大することとなるが、司法書士一般が相応の訓練を受けているとも言い難く、無条件での開放は正直なところいかがなものかと思われる。よりよい法化社会に向けて、まさに「コンセンサスとよき慣行が形成されていくことが望ましい。」のである。
cf.弁護士法
第9章 法律事務の取扱いに関する取締り
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
しかし、司法制度改革推進本部の法曹制度検討会において「弁護士法第72条について、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め検討した上で、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保すること(企業法務との関係その他について)」が議題の俎上に上り、そこにおいて法務省の見解が示されている。
曰く、「法第72条本文の『その他一般の法律事件』については、いわゆる『事件性不要説』と、『事件性必要説』とが対立しているが、事件性必要説が相当と考える。」であり、さらに契約関係事務に関して「紛争が生じてからの和解契約の締結等は別として、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話し合いや法的問題点の検討は『事件性』なし」としている。一応「最終的には裁判所の判断にゆだねられるものであるから、法務省の見解を示しても、それは、捜査機関や裁判所の解釈を拘束するものではないことを留保する。」旨付言しているが、実務界に与える影響はきわめて大なるものがある。
これを受けて、NBL No.779紙上に、企業法務側(中川英彦京都大学教授)と日弁連側(藤井篤弁護士)のコメントが掲載されている。
中川教授は、「企業法務が今後グループ会社へのサービス展開を図ることを期待する」として歓迎している反面、「・・・事件性の点でかなり極端な解釈と思われる。たとえば、事件性の点でいえば、事件性がなければ誰でも第三者に対して有償で法務サービスを提供できることとなり、これを悪用して法務ビジネスを考える者が出てこないとも限らない。」旨懸念し、「コンセンサスとよき慣行が形成されていくことが望ましい。」と述べている。
これに対して、藤井弁護士は、「弁護士法第72条以下の立法趣旨(他人の法律事務を取り扱う能力もなく訓練を受けてもいない者が、みだりに他人の法律事務を取り扱うことによって、国民の法律生活の公正円滑な営みを妨げ、法律秩序を害することを防止する。)を忘れて、仮にも、この規定によって、弁護士の権益を守ろうとすることがあってはならない。」と述べつつ、弁護士法第72条に形式的には該当するが、正当業務行為として類型的に違法性のない行為と考えられるものが認められるとして、類型的に違法性を阻却する事由と条件を「日弁連の考え」として示している。
法務省の見解が社会的コンセンサスを得るものとなれば、司法書士の業務範囲も飛躍的に拡大することとなるが、司法書士一般が相応の訓練を受けているとも言い難く、無条件での開放は正直なところいかがなものかと思われる。よりよい法化社会に向けて、まさに「コンセンサスとよき慣行が形成されていくことが望ましい。」のである。
cf.弁護士法
第9章 法律事務の取扱いに関する取締り
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。