清算の開始原因が生じた時に公開会社であった株式会社が,清算中に定款を変更して,その発行する全部の株式につき譲渡制限を付したとしても,当該株式会社に係る機関の規律判定時点は清算開始時点であるから,監査役設置が不要となるわけではない。また,清算手続の進行に伴って負債額が減少し,大会社の要件に該当しなくなったものについても同様である(相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」(商事法務)145頁以下)。
公開会社や大会社であった株式会社が清算中に監査役が要求される理由は,当該株式会社をめぐる利害関係者が類型的に多数に上るものと考えられることから,清算人を監査する機関の設置を儲ける必要があると考えられるためである(前掲・相澤)。
この趣旨からすれば,清算の開始原因が生じた時に公開会社であった株式会社が,清算中に定款を変更して,その発行する全部の株式につき譲渡制限を付したとしても,当該株式会社に係る機関の規律判定時点は清算開始時点であるから,会社法第389条第1項の規定は適用されず,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることはできない,ということになる。
レア・ケースかもしれないが,会社法改正法案が成立し,施行されると,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社について,当該定款の定めが登記事項に追加されるので,整理しておく必要があろう。