チック・コリアは素晴らしいジャズピアニストであり作曲家である。非常に幅広い音楽性を持っており、ジャズの全てのスタイルに通じているし、クラシックやスパニッシュ音楽にも造詣が深い。モダンジャズの王道スタイルはもちろん、抽象性の高いフリージャズから極めてロック色の強いバンド、そしてスパニッシュ音楽への傾倒など、どのチャレンジも全て実り豊かな音楽の創作をもって聴く者に音楽の喜びを与えてくれる・・・そんな音楽家である。(*1)
チック・コリアは1985年にややロック的な色あいのあるエレクトリックバンドを結成して技術と音楽センスを高いレベルで融合させた音楽を創造した。1989年には、その時のリズムセクションであるベースのジョン・パティトゥッチとドラムのデイブ・ウェックルとチックの3人でアコースティックバンドというトリオを結成した。要するにジャズのピアノトリオ編成である。
なお、普通は「アコースティック」のスペルは 「Acoustic」だが、このバンドにおいては「Akoustsic」である。(*2)
Akoustsic Band…だから略称はAKBになるのだ。もちろん、あのアイドルグループとは何の関係もない。当然だ。(*3)
Chick Corea Akoustic Band はジャズのピアノトリオと書いたが、実際に聴いてみるといわゆる伝統的なピアノトリオの聴こえ方とは少し違うものを感じるだろう。いわゆる16ビート系のコンテンポラリーな音楽を聴いていた人でもスムーズに入っていける親しみやすさがあることを感じるに違いない。それは何に起因するものだろうか。
バンドサウンドのリズム面の要(リズム型もサウンドも)になるのはドラムである。ドラマーのデイブ・ウェックルはスティーブ・ガッドのようなルーディメンツ的な要素もマスターしており、16ビートを叩かせた時のタイム感覚は聴いていて非常に心地よいものがある。そしてそのタイム感覚が4ビートやその他のリズム型(ラテンリズム、他)においても見事に発揮されているところが伝統的な4ビートジャズドラマーとの違いである。サウンド的にも伝統的なジャズドラマーが相対的に高めのチューニングをしているのに対して、どちらかといえば低めであまり音が残響しないようなチューニングをする事が多い。
このデイブ・ウェックルが演奏するドラムが土台になり、その上で展開されるチック・コリアの非常に現代的でクリアなピアノが展開される時、全体のサウンドは単なるピアノトリオを超えたコンテンポラリーな魅力のあるサウンドとして聴こえてくるのである。また、曲の展開において予めアレンジされた部分も少なくなく、その仕掛けを高い技術力で次々に決めてゆく心地よさもあって、一種のモダンな16ビート音楽を聴いているかのような錯覚をすら覚えるほど気持ちが良いのである。
ノリのファクターについて誤解を恐れずに言うならば、伝統的な4ビート演奏では前のめりというか、ビートを前詰めの感覚で演奏する傾向があるが、16ビート系音楽ではどちらかと言えばゆったりしたリズム感覚で捉える。言い方を変えれば、ビートの核の部分を拍の後ろの方で捉える…といったものだ。そこも大きな違いであろう。
ベースのジョン・パティトゥッチは凄腕のベーシストである。チック・コリアのエレクトリックバンドでは6弦のエレキベースを演奏するが、こちらのAKBではウッドベース(コントラバス)を演奏する。高い技術力と幅の広い音楽性でチック・コリアの音楽を盛り上げている。ちなみにジョン・パティトゥッチはウェイン・ショーターのレギュラーカルテットの正規メンバーでもある。ウェインはバンド全員が即興で曲を解体しながら同時に新たな作曲をするという難解な要求をバンドに与えるのだが、それに見事に応えることのできるスキルとセンスの持ち主でもある。
こうした鉄壁のリズムセクションに支えられたチック・コリアのピアノは非常に自由に動き回ることが可能になる。非常に現代的な感覚の持ち主であるチック・コリアはスタンダードナンバーを演奏しても無理なく現代的な色あいで演奏することができる。そしてチック・コリアの自由な発想で音楽がどのように自由に動いても二人のリズムセクションは瞬時にチック・コリアの意図を読み取って優れた音楽として仕立ててくれる。リスナーは得難く素晴らしい瞬間を何度も耳にすることになるのだ。
是非ともお聞きいただきたい。チック・コリアのAKBである。
(*1)
チック・コリアの演奏で特徴的なのはジャズに付き物のブルース色が非常に薄いことだ。皆無と言っても過言ではないほどである。1968年に録音された「Now He Sings, Now He Sobs」に収録されている「Matrix」は12小節のブルース(キーはF[ヘ長調])(*1a)なのだが、一聴してこれがブルースだと判る一般リスナーは少ないのではないだろうか。これほどモダンでインテリジェンスを感じさせるブルース演奏はそうそう無いだろう。これを最初に聴いた人はだれでもぶっ飛ぶ。それほどすごい演奏だ。
(*1a)
ブルースと言ってもいわゆる黒人のR&Bのようなテイストの曲や泥臭い演奏を言うのではなく、ジャズに於けるブルースである。1コーラスが12小節で完結する形式で、ジャムセッションなどでは100%必ず演奏される。
(*2)
ちなみにチック・コリア・エレクトリックバンドの方もエレクトリックのスペルは「Electic」ではなく「Elektric」となっている。だから、AKB同様に略すとEKBになる。
(*3)
当然のことだが、時系列的にもチック・コリアの方が圧倒的に先である。いわずもがな。
チック・コリアは1985年にややロック的な色あいのあるエレクトリックバンドを結成して技術と音楽センスを高いレベルで融合させた音楽を創造した。1989年には、その時のリズムセクションであるベースのジョン・パティトゥッチとドラムのデイブ・ウェックルとチックの3人でアコースティックバンドというトリオを結成した。要するにジャズのピアノトリオ編成である。
なお、普通は「アコースティック」のスペルは 「Acoustic」だが、このバンドにおいては「Akoustsic」である。(*2)
Akoustsic Band…だから略称はAKBになるのだ。もちろん、あのアイドルグループとは何の関係もない。当然だ。(*3)
Chick Corea Akoustic Band はジャズのピアノトリオと書いたが、実際に聴いてみるといわゆる伝統的なピアノトリオの聴こえ方とは少し違うものを感じるだろう。いわゆる16ビート系のコンテンポラリーな音楽を聴いていた人でもスムーズに入っていける親しみやすさがあることを感じるに違いない。それは何に起因するものだろうか。
バンドサウンドのリズム面の要(リズム型もサウンドも)になるのはドラムである。ドラマーのデイブ・ウェックルはスティーブ・ガッドのようなルーディメンツ的な要素もマスターしており、16ビートを叩かせた時のタイム感覚は聴いていて非常に心地よいものがある。そしてそのタイム感覚が4ビートやその他のリズム型(ラテンリズム、他)においても見事に発揮されているところが伝統的な4ビートジャズドラマーとの違いである。サウンド的にも伝統的なジャズドラマーが相対的に高めのチューニングをしているのに対して、どちらかといえば低めであまり音が残響しないようなチューニングをする事が多い。
このデイブ・ウェックルが演奏するドラムが土台になり、その上で展開されるチック・コリアの非常に現代的でクリアなピアノが展開される時、全体のサウンドは単なるピアノトリオを超えたコンテンポラリーな魅力のあるサウンドとして聴こえてくるのである。また、曲の展開において予めアレンジされた部分も少なくなく、その仕掛けを高い技術力で次々に決めてゆく心地よさもあって、一種のモダンな16ビート音楽を聴いているかのような錯覚をすら覚えるほど気持ちが良いのである。
ノリのファクターについて誤解を恐れずに言うならば、伝統的な4ビート演奏では前のめりというか、ビートを前詰めの感覚で演奏する傾向があるが、16ビート系音楽ではどちらかと言えばゆったりしたリズム感覚で捉える。言い方を変えれば、ビートの核の部分を拍の後ろの方で捉える…といったものだ。そこも大きな違いであろう。
ベースのジョン・パティトゥッチは凄腕のベーシストである。チック・コリアのエレクトリックバンドでは6弦のエレキベースを演奏するが、こちらのAKBではウッドベース(コントラバス)を演奏する。高い技術力と幅の広い音楽性でチック・コリアの音楽を盛り上げている。ちなみにジョン・パティトゥッチはウェイン・ショーターのレギュラーカルテットの正規メンバーでもある。ウェインはバンド全員が即興で曲を解体しながら同時に新たな作曲をするという難解な要求をバンドに与えるのだが、それに見事に応えることのできるスキルとセンスの持ち主でもある。
こうした鉄壁のリズムセクションに支えられたチック・コリアのピアノは非常に自由に動き回ることが可能になる。非常に現代的な感覚の持ち主であるチック・コリアはスタンダードナンバーを演奏しても無理なく現代的な色あいで演奏することができる。そしてチック・コリアの自由な発想で音楽がどのように自由に動いても二人のリズムセクションは瞬時にチック・コリアの意図を読み取って優れた音楽として仕立ててくれる。リスナーは得難く素晴らしい瞬間を何度も耳にすることになるのだ。
是非ともお聞きいただきたい。チック・コリアのAKBである。
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(*1)
チック・コリアの演奏で特徴的なのはジャズに付き物のブルース色が非常に薄いことだ。皆無と言っても過言ではないほどである。1968年に録音された「Now He Sings, Now He Sobs」に収録されている「Matrix」は12小節のブルース(キーはF[ヘ長調])(*1a)なのだが、一聴してこれがブルースだと判る一般リスナーは少ないのではないだろうか。これほどモダンでインテリジェンスを感じさせるブルース演奏はそうそう無いだろう。これを最初に聴いた人はだれでもぶっ飛ぶ。それほどすごい演奏だ。
(*1a)
ブルースと言ってもいわゆる黒人のR&Bのようなテイストの曲や泥臭い演奏を言うのではなく、ジャズに於けるブルースである。1コーラスが12小節で完結する形式で、ジャムセッションなどでは100%必ず演奏される。
(*2)
ちなみにチック・コリア・エレクトリックバンドの方もエレクトリックのスペルは「Electic」ではなく「Elektric」となっている。だから、AKB同様に略すとEKBになる。
(*3)
当然のことだが、時系列的にもチック・コリアの方が圧倒的に先である。いわずもがな。