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中国が「一帯一路」構想を放棄した模様

2020-08-03 06:00:00 | 国際
2014年に中国が発表した「一帯一路」構想。中華思想の実現に向けて着々とプロジェクトが進行しているのかと思いきや、どうもそうでもないようである。この件について作家で中国ウォッチャーである石平氏が解説されているので、抄録の形で紹介したい。



AIIB(アジアインフラ投資銀行)理事会は、2020年7月28日に北京で開催された。この報道が2020年7月29日の中国・人民日報に掲載された。習近平主席はビデオ映像で演説をしたのだが、実はこのビデオ演説に非常に大きな注目ポイントがあったのである。

それは、習近平が「何か凄いことを発言・発表した」のではなく、逆に「何かを”言わなかった”」ことにとても大きな意味があったのだ。

どういうことか?

それは、習近平主席自身肝いりの「一帯一路」構想に一言も触れなかったこと、である。

この”触れなかった(言わなかった)”ことにいったいどのような意味があったのだろうか?
これがどれほど重要で大きな意味を持つことなのか?


以下にその説明をする。


その前に前提として、そもそもAIIB(アジアインフラ投資銀行)とは何なのか?について説明しておく。

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AIIB(アジアインフラ投資銀行)
中国語名:亜州基礎施設投資銀行(通称「亜投行」)


・2015年12月発足
・中国が提唱し手動する形で発足した国際開発金融機関 
・創設メンバーは57カ国
・現在の加盟国は100カ国・地域
・米国、日本などは不参加
・本部は中国北京 
・組織の行長(総裁)は中国共産党幹部
・北京の本部には各国選出の理事を常駐させない(事実上の中国支配)
・加盟国には金を出させるが、口は出させない
・中国の中国に依る中国の為の機関
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2014年11月、中国の習近平主席は共産党の中央財経指導小組会議にて「多くの国と連携して亜投行(AIIB)を設立し発展させるのは”一帯一路”関係国のインフラ建設に資金を提供するためである」と明言している。

AIIB(亜投行)はすなわち中国の中国に依る「一帯一路」の為の金融機関なのである。

2014年、亜投行が発足した当時の中国メディアのニュースでも習近平の上記の発言(亜投行の目的が一帯一路の資金提供であること)をはっきりと伝えている。

これ以降、中国では亜投行は常に一帯一路とセットで語られることになるのである。


その「一帯一路」構想とは何なのだろうか?


習近平国家主席が2014年11月に提唱した広域経済圏構想である。中国が中心となって亜投行を基軸にアジア全体と陸路・海路をそれぞれ経由してヨーロッパ・アフリカの一部を巻き込んで投資プロジェクトを展開していくものである。上述の広域における中国の経済的影響力を強め、「中華経済圏」の成立を目指すものだ。また、アジア・アフリカ諸国に返済不可能な貸付を行うことによって港湾や資源を奪い、中国の政治的軍事的覇権を樹立する、という目的がある。こう書くと、「一帯一路」構想というのは随分と中国にとって虫の良すぎるプロジェクトだな、と気づく筈だ。

参考資料:
極めて危険な中華思想の野望は現在進行中


AIIB(アジアインフラ投資銀行(亜投行))と「一帯一路」構想をセットで捉えると下記のような事がわかってくる。

①100カ国参加・出資の亜投行で「一帯一路」を推進する。
②中国からすれば参加各国に金を出させるので、他人の褌で相撲を取るようなものである。
③中小国歌に返済不可能な貸付をすることによってアジア・アフリカ諸国の主権・利権を奪う。
④つまり、典型的な「ヤクザ金融」である。ウシジマくんの世界だ。


中国の野望、習近平の世界支配、アジア支配の野望の一つの大きな柱が、正に亜投行によって支えられる一帯一路構想なのである。亜投行と一帯一路構想はセットであり表裏一体のものだ。分けて考えることはできなものである。

従って、そういう前提や経緯があるからこそ、習近平が7月28日のAIIB理事会でのビデオ演説で「一帯一路」構想についてまったく言及しなかったというのは、実は異常な事態であり、非常に重大な焦点なのである。

「触れなかった」というのは、中国人的に捉えるならば、すなわち「一帯一路構想をこそこそと取り下げた」ことを意味する。「やる気がなくなった」に等しい状態であり、ここが重大なポイントである。つまり中国は”鳴り物入りで始まった「一帯一路」構想は放棄した/捨てた”ことを意味することになる。


どうしてそうなったのだろうか?

その理由は実に簡単である。


2014年あたりから一帯一路構想が始まって、亜投行(AIIB)の運営も始まったのだが、しかし現状は「惨め」というほかない状況のようである。

「亜投行」開店休業の惨状を示す事実は下記の通りである。

まず、融資が明らかに伸び悩んでいる。融資件数は開業4年半で87件、196億ドルに過ぎない。開業当時に想定した融資額の実に半分以下である。さらに、融資実行額の寂しい実態がある。2019年末までの融資実施額はわずか22億ドルである。(参考までに、日本の三井住友銀行の貸出金は7666億ドル(2020年3月)である)

つまり、鳴り物入りで始まった「亜投行」はほぼ開店休業状態なのである。


なぜそうなったのか、と言えば、今は「一帯一路」構想そのものが風前の灯火となっており、ほぼ破綻しかけているのが実態である。あちこちの国や地域でプロジェクトは中止・停止になっているのが実情である。

いくつかの実例を挙げると次のようになる。

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風前の灯となった「一帯一路」

・世界各地における一帯一路挫折の一部実例

 マレーシア湾岸開発事業停止
 キルギスでの開発事業停止
 タンザニア・1兆円湾岸計画停止
 ルーマニアが中国との原発開発協議を中止

・稼働・開業が延期となったプロジェクト

 ミャンマー発電所
 カンボジア発電所
 タイ高速鉄道
 インドネシア高速鉄道

・EU諸国がここ数年で一帯一路構想に批判的な立場に転じている。EU諸国の外相会議では「一帯一路は新植民地政策」として批判が上がっている。
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前述のように、アメリカも日本も参加していない。アメリカがむしろ一帯一路の向こうを張ってアメリカ独自の投資プロジェクトを展開してゆくことにもなっている。


最近、最もAIIB(亜投行)にとって打撃になったのは、インドとの関係が決定的に悪くなったことである。実はインドこそ一帯一路構想の一つの大事な柱になる国だったのだ。従来のAIIBの融資の3割くらいがインド向けであった。インドこそAIIBが最大融資をしていた国なのである。インドと中国の関係がさらに悪くなると、一帯一路はほぼ完全に破綻するのは必至である。


こうした状況を背にして、AIIB理事会に於ける演説で一帯一路構想に一切触れなかった習近平主席・・・内心はどう思っていたのだろうか。それは恐らく次のようなものであろう。

一帯一路構想は失敗に終わった。但し、中国共産党は失敗に終わった事は絶対に明言はしないのである。今回のようなケースでの中国共産党のいつものやり方は「こっそり取り下げて、それ以降、何も言わなくなる」→自然消滅・自然忘却を待つ、である。(実に格好悪い)

これから先も習近平や中国共産党は「一帯一路」構想には触れないと思われる。失敗したしモチベーションもなくなったので、「なかったことに」する・・・それが中国共産党流の「幕の引き方」なのである。

約5年間に渡って全力あげて入れ込んできた「一帯一路」構想であるが、これをやめた、ということは、すなわち「中国のアジア支配・世界支配の大きな柱になる構想が潰えた」ということでもある。←これがAIIB理事会に於いて習近平が演説で「言わなかった」事によって判明した事なのである。



そして、最後に書いておきたいのだが、こうした重要な事実なりポイントを日本のマスコミは報道しない。左傾化の著しい日本のマスコミは中国に都合の悪いことは報道しないことになっているのだ。(蔑笑)