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Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

奴らを高く吊るせ!

2023-08-23 | 映画(や行)


◾️「奴らを高く吊るせ!/Hang'em High」(1968年・アメリカ)


監督=テッド・ポスト

主演=クリント・イーストウッド インガー・スティーブンス エド・ベグリー ジェームズ・マッカーサー


マカロニウエスタンで有名になったイーストウッドが、アメリカに戻って撮ったウエスタン。ハリウッド西部劇というと勧善懲悪が基本の娯楽作のイメージが強い。そんな中で注目すべきは、「奴らを高く吊るせ!」が正義というものの脆さを描いている点。それは西部劇の世界で元来最も揺らいではいけないもの。


1880年代のアメリカ、オクラホマ。牛泥棒の濡れ衣を着せられて、縛り首の私刑(リンチ)に遭ったジェド。助けられた彼は判事フェントンに保安官として手伝わないかと提案される。広大な州の犯罪を裁くのに、たったひとつの裁判所とひとりの判事しかいない。合法的な復讐になるとジェドは保安官バッヂを手にする。彼を枝から吊るしたグループを一人一人捕らえていく。しかし犯人の改心など受け付けず、事実だけを理由に法で裁くことに、人情派のジェドは疑問を感じずにはいられなかった。一方、ジェドを吊るした仲間たちは彼を襲撃することを企てる。

死刑判決を受けた犯人たちが町の広場で公開処刑される場面。まるで芝居でも見物するかのように群がる人々。その傍らでは酒が売られ、人の死が見世物になっている。見ていて辛い場面だ。事情や懺悔の言葉も聞かずに吊すだけなら、法の掲げる正義って一体何なのか。そして映画のラストに、判事とジェドはお互いの考えと思いをぶつけ合う。


派手な銃撃戦でスカッとさせる映画ではない。音楽や映像のつくりは、イーストウッドの出世作であるマカロニウエスタンを思わせるが、訴えるものは全く違う。法による秩序の下で、復讐という自力救済が禁じられる世の中になっていく時代を描きながら、正義を貫くことの難しさ、人それぞれの正義について考えさせられる作品。当時の評価は低かったかもしれないが、後のイーストウッド監督作品にも通ずるテーマだけに、今観るとその片鱗を感じることができる。イーストウッドが設立したマルパソプロダクションの第1回作品。






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夜明け告げるルーのうた

2023-06-11 | 映画(や行)

◾️「夜明け告げるルーのうた」(2017年・日本)

監督=湯浅政明
声の出演=谷花音 下田翔大 篠原信一 柄本明

人魚と人間の心の交流の物語とくれば「崖の上のポニョ」がどうしても浮かぶだけに、冒頭からしばらくは「スキ!」の響きがどうしてもチラつく。しかしそれは束の間。すぐに世代を超えた行き違いが理解へと結びつく物語だと気づくことだろう。音楽で人魚のルーと通じ合った主人公カイとその友人遊歩と国夫を発端に、人魚に大事な人を喰われたと主張する老人たち、主人公カイと父親の関係、町をを出て行ったけど戻ってきた人たちの思い、様々なミスマッチが描かれていく。さらなる誤解と人間のエゴがルーや人魚たちを窮地に追い込んでいくクライマックス。物語の上だけでなく、こっち側の僕らの身につまされるようなテーマが幾重にも重なっていく。優しいキャラクターの造形、幻想的な場面では縁どりをなくして絵本のようになる演出に、ほんわかとした気持ちにされるが、物語から滲み出るのは結構深くて重いテーマでもある。しかし爽やかな印象で終わりを迎えられるのは、主人公や周囲の人々の成長物語だからだ。

湯浅政明監督作は水の描写に特徴がある、とよく言われる。本作で人魚のルーが水を自在に操る描写は素晴らしく、四角い水の柱となった海水が宙に浮かびハイスピードで動き、主人公や僕らの視点を非日常へと導く。アニメだからできる表現。ジェームズ・キャメロンの「アビス」の水の描写でも、こんなにワクワクさせてくれただろうか。何度も書いているけれど、大量の水が動く時にドラマも動くのは、日本アニメの王道。「ルパン三世 カリオストロの城」「千と千尋の神隠し」「パンダコパンダ雨降りサーカス」「思い出のマーニー」「つり球」、最近なら湯浅監督の「きみと、波にのれたら」もそうだ。でも「夜明け告げるルーのうた」がすごいのは、その物語の大きな動きだけでなく、舞台となる町までもが大きく変わるところだ。水が町に押し寄せる描写のあと、日無町(ひなしちょう)という寂れた港町に日が差すラストへと、大きな舞台装置の変化まで起きる。それがビターだけど爽やかな感動へと導いてくれる。この作品に根強い人気があるとは聞いていたけど、なるほど納得。

世代をつなぐ要素として、親が聴いていた斉藤和義の「歌うたいのバラッド」がカイに歌いつがれる流れが素敵だ。あのコード進行を耳コピーで弾きこなすのか、国夫やるじゃん♪

「ポニョ」が母性で主人公の気持ちを包み込む話なのに対して、「ルー」は背中を押してくれる父性が描かれているのも対照的で面白い。また、音楽を聴くと尾びれが変化して足になるというシンプルな設定もうまい。ポニョは、シン・ゴジラやバルキリーみたいに三段階だったもんな。




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揺れる大地

2023-05-11 | 映画(や行)

◼️「揺れる大地/La terra trema: episodio del mare」(1948年・イタリア)

監督=ルキノ・ビスコンティ
主演=アントニオ・アルチディアコノ ジュゼッペ・アルチディアコノ アントニオ・ミカーレ

40年代から50年代のイタリア映画には、現実主義的な作風のネオリアリズモと呼ばれる作品群がある。「無防備都市」や「自転車泥棒」と並んで代表作の一つとされるのが本作「揺れる大地」である。ロベルト・ロッセリーニも俳優の演技に頼らず、現地の住民を起用することで知られているが、本作のルキノ・ビスコンティも同様の手法で撮った。

貧しい漁民一家が仲買人に搾取される状況から自立への希望を抱く。市場に自ら競りに行くが騒動を起こして逮捕されてしまう。釈放された主人公は、借金をして加工業を始める。しかし…。

ネオリアリズモ作品がハッピーエンドになるはずもない、という予備知識があって観た。それでも、どうしてここまで彼らを追い詰めるのか、と悲しくて仕方なくなる。貧しい生活をドキュメンタリータッチで撮っていて、モノクロの映像生々しい。元々貴族階級のビスコンティ監督だから、ほんとうにその痛みを理解して撮ってるのだろうかと勘繰ってしまった。でも、とことん気持ちが落ち込む話を見せられて、エンドマークを迎える「自転車泥棒」とは違って、ちょっとだけ希望が見えるラストシーン。それでも海に向かっていく姿が心に残った。

日本では1990年初公開。助監督はフランコ・ゼフィレッリとフランチェスコ・ロージ。




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野性の夜に

2022-11-18 | 映画(や行)

◼️「野性の夜に/Les Nuits Fauves」(1992年・フランス)

監督=シリル・コラール
主演=シリル・コラール ロマーヌ・ボーランジェ カルロス・ロペス コリーヌ・ブルー

1990年代、エイズで亡くなった人々の訃報を何度も聞いた。中でも日本に紹介されて間もないタイミングで亡くなってしまったシリル・コラールは印象に残っている。フランスの歌手で、小説や脚本と多彩な才能を発揮し始めたところだった。モーリス・ピアラ監督作品では助監督を務め、本作は監督、主演、脚本を担当し主題歌も歌う。

遺作「野性の夜に」で彼が演じるのはエイズキャリアの青年ジャン。自分自身を投影した主人公が、エイズ感染から迫る死という現実を受け入れて、少しずつ行動を変えていく物語。自分が感染者だと告げずにローラと関係を持ってしまうジャンに、苛立ちを感じずにはいられない。さらに映画後半には男性の恋人も現れて、ローラは精神が不安定になってしまう。申し訳ないが、主人公に身勝手な男という印象が強く残って仕方ない。それでも一人旅立つラストは爽やかな印象。日々に流されて生きているスクリーンのこっち側の僕らも、一日一日を大事にしないといけないという気持ちにさせられる。

映画自体は唐突な印象を受ける編集やコラール自作曲が、ワンマン映画だけにちょっとナルシスティックに感じられる。それも彼の映画に対する真面目な向き合い方や思い入れの強さだと理解できる。

ただ、避妊具も使わずにローラと関係をもつ場面や、愛してるから病気までも受け止めたいと言わんばかりのヒロインの過剰な言動は、決して褒められるものではない。南野陽子主演作「私を抱いて、そしてキスして」みたいに多少説教くさい映画になる恐れはあるが、正しい知識が伝わるような描写は入れるべきだったんじゃないのか。コラール自身が実際にエイズキャリアだったのに。そう思えるのは、コロナ禍の今だからなのかな。

ロマーヌ・ボーランジェが演ずるローラがとにかく痛々しくって。でも僕はどうもフレンチロリータに弱いもので、この作品後の主演作でお気に入りの一人になるのでした。




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夕ぐれ族

2022-08-19 | 映画(や行)


■「夕ぐれ族」(1984年・日本)

監督=曽根中生
主演=春やすこ 松本ちえこ 蟹江恵三 山本奈津子 竹中直人

1982年。愛人が欲しい男性に女性を斡旋する愛人バンク「夕ぐれ族」が世間を騒がせた。翌年、会社が売春を斡旋していたとして女社長は逮捕され、実刑判決を受けた。そんな事件をタイムリーに映画化した作品。当時にっかつは、三越事件をベースにした「女帝」など実際の事件を扱ったロマンポルノ作品が製作されていた。今じゃ考えられない即応性。

当時僕は中高生だったが、性にまつわる事件が世間を騒がせたことはなんとなく覚えている。その映画化ということよりも、滑舌のいい漫才で人気があった春やすこが主演…!!という驚き。野村誠一が撮ったグラビアでは、テレビで見るのとは違うどこかアンニュイな表情も見せる春やすこにドキッ!とした当時の僕。この映画に少なからず興味はあったのだけど(高校生です)、配信の時代になった今やっと観ることができた。

愛人バンクの女社長を演ずるのは松本ちえこ。テレビであっけらかんと「クラブ活動みたいなもんですよー」と言い放つ。その恋人で仕掛人が蟹江敬三。男優陣は他にもなぎら健壱、岸辺一徳、竹中直人と豪華なメンバー。特に竹中直人は、ベットイン前にブルース・リーの真似したり、コントを見てるように軽い。男女が初めて会った時の合言葉。
「釜山港へ帰れ」
「ラブイズオーバー」
当時のヒット曲のタイトル。笑えるww

お目当ての春やすこは、蟹江敬三を取り巻く女性の一人で、彼に相手にされない腹いせに愛人バンクに登録する女子大生。関西弁で捲し立てるセリフ回しは、漫才のイメージ通りだが、蟹江敬三にからみつくと口調がガラッと変わる。テレビでは見られないオンナが感じられる。こんなんだったのね♡

彼女の父親は、大阪から東京に出張する時に愛人バンクを利用する。事件が報道されて、娘と鉢合わせするラスト。カメラが左右にパンして、元の位置に戻るとお父さんいる…というカメラワーク。お互いがどう愛人バンクに関係しているのか尋ねずに、「大阪帰るんやろ。送ったる」と声をかける場面は、おかしいんだけどどこか情を感じられて好感。

「マルサの女」の本田俊之が担当した音楽がカッコいい。登録しにくるバージン女子が大好きだった山本奈津子。ストーリー上重要な役割。映画全体としては、事件のツボも押さえつつ、ロマンポルノとしてしっかり成立している楽しい作品でした。

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夕陽に向って走れ

2022-04-29 | 映画(や行)

◼️「夕陽に向って走れ/Tell Them Willie Boy Is Here」(1969年・アメリカ)

監督=エイブラハム・ポロンスキー
主演=ロバート・レッドフォード ロバート・ブレイク キャサリン・ロス スーザン・クラーク

キャサリン・ロス目当てで初めて観賞。生粋のハリウッド生まれのキャサリン・ロスは、ネイティブアメリカンの娘を演じている。役者の出身や血筋まで配慮を求める今のハリウッドと違って、こうしたキャスティングが可能だった時代だ。

ウィリー・ボーイと呼ばれる青年がネイティブが暮らす居留区に戻ってきた。かつて恋人ローラの父とトラブルを起こしたウィリー。再びローラに近づくが厳しい視線が注がれ、銃口が向けられる。居留区を見守る立場の監督役のエリザベスはローラの身を案じていた。保安官クーパーは、エリザベスと男女の仲であったが、それはあまりにも一方的で彼女には屈辱的な関係だった。ローラが真夜中に逢引きしているところを襲われたウィリーは誤って彼女の父親を殺してしまう。逃げる二人をクーパー保安官が追い詰める。

名作「明日に向かって撃て!」と同年に製作された映画で、ロバート・レッドフォードとキャサリン・ロス共演というだけで嬉しくなるのだが、こんなゲス野郎のレッドフォードを初めて観た。それに加えて恋人を思ってるのかプライド重視なのかわからんロバート・ブレイクにもイライラさせられる。それでも破滅に向かって突っ走るような、当時のアメリカンニューシネマ的結末は悪くない。特にクライマックス、どこから撃ってくるのかわからない緊張感は、他の映画では味わえない名場面。

ネイティブだけでなく、女性に対する差別も盛り込んだ作品。そして、窮屈な生き方しかできなくなった時代の西部劇でもある。ここには、赤狩りでハリウッドを追われたポロンスキー監督の思いが込められているのかもしれない。



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野性の呼び声

2020-03-24 | 映画(や行)



◾️「野性の呼び声/The Call Of The Wild」(2020年・アメリカ)


監督=クリス・サンダース

主演=ハリソン・フォード ダン・スティーヴンス オマール・シー カレン・ギラン


原作は幼い頃に読んだ記憶がある。今回で6回目の映画化だとか。物語が語り継がれるのはいいことだし、今の映像技術で描かれたことで主人公である名犬バック目線のストーリーも作り込まれているのが特徴。


どうせCG犬の映画でしょ?、と甘く見ていたのだが、アラスカの自然の美しさ、それを撮るヤヌス・カミンスキーのカメラがまた素晴らしく、気づくと仕事疲れで映画館にいることを忘れていた。前半はオマール・シーの明るいキャラクターが場を盛り上げてくれて、後半は渋味を増したハリソン・フォードとバックの素敵な関係に心を打たれる。やっぱりハリソン・フォードには毛むくじゃらの相棒が似合うよねww


監督は「リロ&スティッチ」のクリス・サンダース。「Mr.インクレディブル」のブラット・バート監督もそうだけど、アニメ出身監督が撮る実写は、画面の隅々まで作り込まれて絵になる場面が多い印象がある。森に惹かれていくバックが狼たちの住処にやってくる場面にしても、初めてアラスカの地を踏むバックが泥だらけの地面を歩いた後で雪に触れる場面にしても、美しさだけでなく物語の展開もからむ大事な場面。凍った川で彼らが陥る危機一髪の場面も心に残る名場面。観てよかった。ヒゲ面のハリソン・フォードと昔からの文学作品の映画化。いつかこの人で「老人と海」撮ってくれんだろうか、とちょっと思った。

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ヤマトよ永遠に

2019-10-03 | 映画(や行)


◼️「ヤマトよ永遠に」(1980年・日本)

監督=舛田利雄 松本零士
声の出演=富山敬 麻上洋子 仲村秀生 潘恵子 野沢那智

「宇宙戦艦ヤマト」劇場版第3作。テレビシリーズ「ヤマトll」「新たなる旅立ち」の続編という位置付けで製作された作品で、まだ著作者の争いが起こる遥か前の作品だけに、松本零士の名前が前面に出ているのが、今の目線だとなんか感慨深い。実は「永遠に」を観るのはこれが初めて。「完結編」もテレビシリーズもちゃんと観てるのに。

地球脱出の際に離れ離れになってしまう古代進と森雪を軸に、古代守とスターシャの娘サーシャ、暗黒星団帝国のアルフォン少尉が絡んできて、遠く離れても思い合う古代と雪それぞれに言い寄ってくる。
「私を受け入れて欲しい」
「待って、時間をください」
「おじさまの心には雪さんがいるのね」
…な、なんだ。もはや昼ドラのようなドロドロ感。

公開当時に観なかったのはイスカンダル人であるサーシャがわずかな期間で大人に成長するという設定を聞いて、中坊だった僕は「ありえん。ヤマトよ何処へ行くのだ?」と生意気にも思い、当時観るのをためらったのだ。でも高畑勲センセイも「かぐや姫の物語」で、地球上の人間ではないかぐや姫の成長の早さ(ぐんぐん大きくなるから"たけのこ"って呼ばれる場面ね)を描いてるし、もはやツッコミどころではないのかも。

大人になって観てよかったかも。あの年頃じゃこのドロドロ感の面白さは分からんだったろう。特に森雪がアルフォン少尉から、爆弾解除の秘密を引き出せるかがストーリーのカギとなる。しかしその為には、愛する古代進を裏切ることになる。
「地獄に堕ちてもいい。」
と、超重量級の台詞まで口にして泣き崩れる雪。オレは「ヤマト」を観てるんだよな、フジテレビ系の昼ドラ見てるんじゃないよな、と自分を問いただすww。

連続ワープが可能になったり、主砲がやたらパワーアップしてたり、と戦闘シーンも見どころ。暗黒星団帝国の本星にたどり着いてからの展開には唖然。しかしこの年齢で観たせいなのか、健気なサーシャの捨て身の活躍に、なーんかこの呆れた展開を許せている自分がいる。潘恵子の名演に萌え萌え。
サーシャ「おじさま」
tak (//∇//) …なぜお前が照れている?(爆)

壮大なSFメロドラマを堪能されたし。




ヤマトよ永遠に [Blu-ray]
富山敬,麻上洋子,仲村秀生
バンダイビジュアル
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夜は短し歩けよ乙女

2019-06-15 | 映画(や行)
◾️「夜は短し歩けよ乙女」(2017年・日本)
 
監督=湯浅政明
声の出演=星野源 花澤香菜 神谷浩史 秋山竜次
 
楽しい飲み会にお開きの時間が迫ると、「あーもう、この楽しい時間がずっーっと続けばいいのになぁ」と思ったことはないだろうか。この「夜は短し歩けよ乙女」は、お酒の嗜みと楽しさを知った大学生"黒髪の乙女"ちゃんと彼女に恋する先輩を軸に、一夜の酒宴から深夜の古書市、学園祭、謎の風邪蔓延と春夏秋冬のエピソードが続く。大学時代という楽しき日々と、覚めないでほしい夢心地に浸る上映時間は、愉楽のモラトリアム。
 
森見登美彦の原作は読んだ。とにかくアルコールを摂取し続けるどんちゃん騒ぎが延々と綴られる前半に、だんだんと僕のイマジネーションも酩酊状態になっていき、どんな場面を想像したらよいのか混乱しながらページを読み進めた。しかしこの映画化で示された世界は、中村祐介のイラストから自由に広がっていくイメージがとても魅力的なのだ。酒場のカウンターの背後にズラっと並ぶ真っ赤なダルマ。それはアニメセルというフィルターを外すとダルマやらタヌキと呼ばれたサントリーオールドが並んでいる様子なんだろうし、10代の頃から大好きだった(コホン)赤玉ポートワインの黄色と白のラベルが並ぶ素敵な風景もなーんか嬉しい。
 
欲しかったものと出会えるかもしれない古書市にしても、学園祭実行委員との追いかけっこにしても、美少女が風邪の見舞いに来てくれることにしても、とにかく"ずっとこの楽しい時間が続けばいいのに"と思えるエピソードたち。理屈を追っていけばなんだかわからない話。だけどこの自由な映像と、粋な台詞の数々、ラストを飾るアジカンの主題歌までをあるがままに受け止めて楽しめたら、この上映時間はあなたにとって、世知辛い現実社会に戻るまでの素敵なモラトリアムとなるに違いない。
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ユダヤ人を救った動物園〜アントニーナが愛した命〜

2018-07-29 | 映画(や行)

■「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~/The Zookeeper's Wife」(2017年・チェコ=イギリス=アメリカ)

監督=ニキ・カーロ
主演=ジェシカ・チャステイン ヨハン・ヘルデンベルグ ダニエル・ブリュール

ソビエトの侵攻やナチスドイツの支配と、ポーランドは他国に踏みにじられてきた。
この映画はそんな時代に300人ものユダヤ人を救った夫婦の物語。
1939年、ワルシャワ動物園を営むヤンとアントニーナ夫妻は、
爆撃や猛獣の殺傷で動物たちが次々と命を落とすのを耐え忍んでいた。
やがてユダヤ人の排斥が厳しくなり、ワルシャワ市内のゲットーに夫妻の友人たちも収容されてしまう。
夫ヤンは動物園にユダヤ人を匿って逃す計画を妻に提案する。
アントニーナは最初反対するが、命を守りたい一心から園内で匿い、日々の世話をする役割になる。
しかし、園内はドイツ軍の弾薬庫としても使われるため日中は兵士が常駐、
しかも動物学者でもあるドイツ将校がアントニーナに言い寄ってくる。
そんな状況で、二人は多くのユダヤ人を守り通した、実話に基づく映画である。

アントニーナを演ずるのは「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステイン。
この映画のプロデュースも兼任している。
気丈で人情に厚いヒロインを演じている。
家で匿われているユダヤ人たちは気づかれないために物音を立てることもできない。
危うくドイツ将校にバレそうになるのを、彼に気があるような振りをして難を逃れたり、
そんな状況から夫ヤンから誤解されてしまったり。
映画全編に漂う緊張感に目が離せない。
これまで製作されたホロコースト映画はドイツの非道ぶりを徹底的に描くことが多かったが、
この映画ではないそれ程でもない。
それよりもいかにユダヤ人が生き延びたかを丁寧に情感豊かに描いていく。
特にドイツ兵に乱暴されて心を閉ざした少女をヤンが救い出し、
アントニーナと息子そしてウサギが彼女の心を癒していく様は印象的だ。

また、ゲットーで収容されている人々の中に、
アンジェイ・ワイダ監督が伝記映画「コルチャック先生」(90)を撮った
ヤヌシュ・コルチャックが出てくることは、是非注目して欲しいポイント。
苦境に立たされる子供たちに手を差し伸べる活動で社会的に評価された先生は、
ゲットー収容時に恩赦されたが、子供たちと共にガス室送りになって最期を遂げている。
映画ではその列車に乗り込む直前、ヤンが先生を逃がそうとするのを断る場面が出てくる。
「コルチャック先生」の悲しくも幻想的なラストシーンが思い出されて、涙なくして観られなかった。

ポーランドの厳しい歴史をスクリーンに刻み続けたワイダ監督亡き今、
こうしたテーマが広く観られることになるだろう英語脚本の作品として製作されたことは、
とても意義あることだと思うのだ。
何度も観たい映画でなくてもいい。
でもオスカー・シンドラーや杉浦千畝だけでなく、
こうした尊い行為で命を救った人々がいたということは語り継がれるべきだ。

スクリーンの外側の事実で泣かせる映画はズルいとか言うなかれ。
そこに脚色があったとしても、歴史を刻むことは映画がもつ偉大な使命なのだから。




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