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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

夜明け告げるルーのうた

2023-06-11 | 映画(や行)

◾️「夜明け告げるルーのうた」(2017年・日本)

監督=湯浅政明
声の出演=谷花音 下田翔大 篠原信一 柄本明

人魚と人間の心の交流の物語とくれば「崖の上のポニョ」がどうしても浮かぶだけに、冒頭からしばらくは「スキ!」の響きがどうしてもチラつく。しかしそれは束の間。すぐに世代を超えた行き違いが理解へと結びつく物語だと気づくことだろう。音楽で人魚のルーと通じ合った主人公カイとその友人遊歩と国夫を発端に、人魚に大事な人を喰われたと主張する老人たち、主人公カイと父親の関係、町をを出て行ったけど戻ってきた人たちの思い、様々なミスマッチが描かれていく。さらなる誤解と人間のエゴがルーや人魚たちを窮地に追い込んでいくクライマックス。物語の上だけでなく、こっち側の僕らの身につまされるようなテーマが幾重にも重なっていく。優しいキャラクターの造形、幻想的な場面では縁どりをなくして絵本のようになる演出に、ほんわかとした気持ちにされるが、物語から滲み出るのは結構深くて重いテーマでもある。しかし爽やかな印象で終わりを迎えられるのは、主人公や周囲の人々の成長物語だからだ。

湯浅政明監督作は水の描写に特徴がある、とよく言われる。本作で人魚のルーが水を自在に操る描写は素晴らしく、四角い水の柱となった海水が宙に浮かびハイスピードで動き、主人公や僕らの視点を非日常へと導く。アニメだからできる表現。ジェームズ・キャメロンの「アビス」の水の描写でも、こんなにワクワクさせてくれただろうか。何度も書いているけれど、大量の水が動く時にドラマも動くのは、日本アニメの王道。「ルパン三世 カリオストロの城」「千と千尋の神隠し」「パンダコパンダ雨降りサーカス」「思い出のマーニー」「つり球」、最近なら湯浅監督の「きみと、波にのれたら」もそうだ。でも「夜明け告げるルーのうた」がすごいのは、その物語の大きな動きだけでなく、舞台となる町までもが大きく変わるところだ。水が町に押し寄せる描写のあと、日無町(ひなしちょう)という寂れた港町に日が差すラストへと、大きな舞台装置の変化まで起きる。それがビターだけど爽やかな感動へと導いてくれる。この作品に根強い人気があるとは聞いていたけど、なるほど納得。

世代をつなぐ要素として、親が聴いていた斉藤和義の「歌うたいのバラッド」がカイに歌いつがれる流れが素敵だ。あのコード進行を耳コピーで弾きこなすのか、国夫やるじゃん♪

「ポニョ」が母性で主人公の気持ちを包み込む話なのに対して、「ルー」は背中を押してくれる父性が描かれているのも対照的で面白い。また、音楽を聴くと尾びれが変化して足になるというシンプルな設定もうまい。ポニョは、シン・ゴジラやバルキリーみたいに三段階だったもんな。





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