シネマと虎とグルメたち

犬童一心監督作品に「ジョゼと虎と魚たち」があった。オイラは「観た映画が面白くて、美味いもの食って阪神が快勝」を望んでる。

遅ればせながらのドライブ・マイ・カー

2022年02月19日 | 映画
「ドライブ・マイ・カー」が話題をさらっているので見に行った。
ころなが蔓延していた頃に封切られていたので見逃がしていたのだが、話題となって追加上映されているので久しぶりに映画館へ。
9:40とショッピングモールがオープンする前の上映開始。
蔓延防止中とあって座席は一つおきで換気もいい。

トイレが近い私は通路側の席を指定したが、トイレに行くことなく3時間を堪能した。


「ドライブ・マイ・カー」 2021年 日本


監督 濱口竜介
出演 西島秀俊 三浦透子 霧島れいか 岡田将生
   パク・ユリム ジン・デヨン ソニア・ユアン
   アン・フィテ ペリー・ディゾン 安部聡子

ストーリー
俳優で舞台演出家の家福悠介(西島秀俊)は、元女優でいまはドラマの脚本家として活躍中の妻・音(霧島れいか)の新作の内容を聞いている。
それはひとりの女子高生がヤマガという思いを寄せている男子の家に忍び込み、彼の部屋に自分の来た証をひとつずつ置いていくというものだった。
その夜、家福の舞台『ゴドーを待ちながら』を観に来た音は、自分のドラマに出演する俳優・高槻耕史(岡田将生)を紹介した。
ある日、家福はロシアでの仕事に向かうため朝早く家を出たが空港に着くと天候不良でフライトがキャンセルになり出張が1日延びた。
自宅に戻った家福は、音が浮気している現場に遭遇してしまう。
気づかれないようにそっと家を出て再び車に乗る家福。
かつて家福夫妻には子どもがいたが、亡くなって20年近く音はその後子どもをつくることを望まず、家福もそれに同意して今まで過ごしてきた。
亡くなった子供の法事の帰り道、音は「あなたでよかった」と家福の手を握る。
帰宅後、ふたりはソファで愛し合い、まどろみながら音は例の恋する空き巣の女子高生の話を続けた。
翌日、女子高生の話はよく覚えていないと嘘をつき仕事に出かける家福に音は、「今晩帰ったら少し話せる?」と声を掛けた。
その夜遅くに帰宅した家福は暗い室内で倒れている音を発見し、音はくも膜下出血で亡くなっていた。
二年後、家福は国際演劇祭に参加するため、愛車で広島へやってきた。
車でのセリフ確認時間を大切にしている彼のため、運営側は車で一時間程度の瀬戸内海の島に彼の宿をとっていた。
ただし家福本人は運転せず専属のドライバーに任せるのがルールで、家福は渋々キーを渡す。
ドライバーは渡利みさき(三浦透子)という若い女性だったが、寡黙で運転もていねいだったので家福は彼女に運転を任せることにした。
翌日のオーディションには高槻も参加していた。
台湾の女優ジャニス・チャン(ソニア・ユアン)と組んだ彼の演技は荒々しく、思わず家福はストップをかける。
次の韓国人女優イ・ユナ(パク・ユリム)は言葉ではなく、韓国の手話を使って訴えかけてきた。
合格者が集められた配役発表の場で、だれもが家福が演じると思っていたワーニャ役が高槻に割り当てられた。
ある日、運営のコン・ユンス(ジン・デヨン)が家福を自宅の夕食に誘った。
自宅に着くと、妻として紹介されたのはユナだった。
帰りの車内でテープの声が好きというみさきに、それはぼくの妻だという家福。
今度は家福がみさきにどこで運転を覚えたかたずねた。
地元である北海道で、水商売の母を駅まで送り迎えするために中学生のころから運転していたと言うみさき。
翌朝、広島市内で助手席にジャニスを乗せた高槻が追突事故を起こしていた。
ふたりが遅れて稽古場にやってくると、本読みではなく立ち稽古がおこなわれていた。
試しにワーニャとエレーナのシーンを演じることになった高槻とジャニス。
オーディションのときと同じシーンをやってみるがひどい出来で、家福は本読みを再開することにした。
「どこでもいいから走らせてくれないか」という家福の希望で、みさきは彼をごみ焼却施設へ連れていく。
5年前、18歳のときに地すべりで母を亡くし、運転免許を取っていたみさきは難を逃れた車を運転してこの地までやってきて、この清掃局でドライバーとして働き始めたといい、渡利という父の姓がこのあたりに多いらしいが、その父は生きているかわからないと話す。
家福は結婚するとき、名前が宗教的すぎると妻が悩んでいたことを話し、そして2年前に亡くなったことも話した。
この日の稽古は外で行なうことになり、その端にはみさきの姿もあった。
その夜、家福と高槻がバーで話し合っている時に、近くで盗撮のシャッター音がした。
高槻が外でみさきと言葉を交わしていると、ひとりの男が出てきてまた高槻の写真を撮って逃げていく。
高槻は男を追っていき、ほどなくして戻ってくると高槻は家福の車に乗り込む。
自信を失っている高槻に家福は音の話をし始めた。
生きていれば23歳になる娘がいたこと、女優をやめ数年経ったころ突然物語を書き始めたこと、それは家福とのSEXの最中に語られ、改めて家福と話し合うことで完成していたこと等々。
ふたりはすべてにおいて相性がよかったものの、音には別に複数の男がいたという家福。
おそらくそのひとりだった高槻に向けて家福は、音の中にドス黒い渦のような場所があったが彼女を失うことがこわくて確認できなかったと話した。
高槻は、自分が音から聞いた空き巣の女子高生の話の続きを語り出した。
話し終わった高槻は「他人の心はわからない。本当に他人を見たいと望むなら、自分の心をまっすぐ見つめるしかない。ぼくはそう思います」と付け加えた。
ある日、舞台稽古をしていると高槻を連れにきた警察官たちが劇場内に入ってきた。
家福とバーで飲んだ日、黙って写真を撮った男を追いかけていった高槻はその男を殴り、後日男は入院先の病院で亡くなってしまっていたのだ。
高槻は家福に深々とおじぎをし連行されていった。
家福が警察の外で待っていると演劇祭運営の柚原(安部聡子)とユンスが出てきて公演をどうするか選択を迫った。
二日の猶予が与えられた家福は落ち着いて考えるため、車でみさきの故郷・北海道の上十二滝に行くと言いだした。


寸評
3時間の長尺だが、長尺となった理由は本筋以外に家福が演出する戯曲の練習風景や、好きな男子生徒の家に空き巣に入る少女の物語などのエピソードが配置されているからであろう。
エピソードは本筋に類似を見せながら絡み合っているので、芝居のセリフや語られる物語の内容を家福や音に重ね合わせる。
そして家福の妻である音のミステリアスな好意を見せられていることが本筋以外のエピソードが意味あるものである風に感じられる。
家福と音はお互いに深い愛情を持っているよう思われるが、ある日、家福は音が自宅に男を連れ込んで不倫をしている現場を目撃してしまう。
しかし、家福が愛車で事故を起こした時に、音は本当に心配していたという態度を見せ家福を抱きしめる。
結婚したのがあなたでよかったと手を握るのだが、それは芝居ではない本当の気持ちを感じさせる。
不可解な行動を見せる音の描写によって、当初の僕は作品は音が不倫に走った理由を追いかけるのだろうと想像していた。
だが劇中劇と車のシーンが多く、ましてや音は登場してこないから不倫のミステリーは薄れていく。
ドライバーとして登場したみゆきは言葉少なく無表情でドラマの盛り上がり感はない。
退屈しそうなものだが僕は画面に引き付けられていた。
それは多分、気持ちの変化を何気ない風に描いていたせいだと思う。
例えば家福がユンスの家に招かれたシーンでのみゆきのとらえ方だ。
家福が美幸の運転を褒めたたえると、みゆきはどこかへ行ってしまい画面から消える。
最後にカメラが彼女に向けられると、彼女はテーブルの下で犬と戯れている。
最低限の会話しか交わさない関係だった家福とみゆきに通じ合ったものが生まれたことを感じさせる上手いシーンだ。
何気ないそんなシーンが随所にあることで起伏の乏しい物語を飽きさせない。
僕は三時間を長くは感じなかった。

家福は音を本当に愛していたのだと思う。
「真実は恐ろしいものがあるが、もっと恐ろしいのは真実を知らないでいることだ」と家福は言うが、愛する人の自分に対する不都合な真実は知りたくないものだ。
何かまずいことを言ったりすれば愛する人が去ってしまうのではないかと言う恐怖感は、心底人を愛すれば生じてしまう感情なのだと思うのだ。
だから僕は家福のとった行動を非難する気には全くならない。
そして音もきっと家福を愛していたに違いない。
みゆきが代弁したことは的を得ていたと思う。
大事なのは、家福が音をどのように理解するかであって、音の行動に大きな謎や意味などはなく、音は家福のことを本当に深く愛していたのだ。
音は家福に理解されていないことを感じて別れを告げるつもりだったのだと思う。

家福も音も亡くなった人のことを引きずりながら生きてきたが、それでも人は前を向いて生きていかねばならない。
ユナの手話による語り掛けはそう言っている。
ラストシーンでみゆきが韓国のスーパーで韓国語を使い買い物をしている。
家福が乗っていたのと同じ赤い車を運転し、ユンスの家にいたのと同じ犬が乗っている。
多国籍言語を交えて行われていた演劇の意味が何となく感じ取れた。
みゆきは家福によって母の呪縛から解き放され、世界へ向かって歩き出すことが出来ていたのだと思う。、

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