木洩れ日通信

政治・社会・文学等への自分の想いを綴る日記です。

内向きと倒錯の象徴「靖国」

2008年09月04日 | Weblog

映画『靖国』見てきました
5月頃、上映をめぐって問題になった、中国人監督リ・イン氏によるドキュメンタリー映画ですが、長野でも9月1日に長野映研の手によって上映されました。
私は昼の部、午後2時の回に行ったんですが、会場は、平日の午後なのに満員。通路に座ってみる人も。
以前にもこのブログで書いたと思うけど、地味なドキュメンタリー映画として、ひっそり上映されて終わっていたかもしれない映画が、1部国会議員や、右翼団体ののイチャモンによって、かえって注目され、「見てみよう」という人が増えたのはよかったのでは・・・。
この映画は8月15日のありのままの「靖国神社」を映し出している。
週刊誌がまず「反日映画」と口火を切り、政治家がそれにのった形で、事前上映を要求したわけだけど、週刊誌が「反日的」だと感じたとしたら、それは多分、8月15日の「靖国空間」で繰り広げられるパフォーマンスの時代錯誤、自己中心の陶酔が、滑稽なまでに映し出されていたからではないだろうか。
これは中国人監督が悪意を持って、日本と日本人を馬鹿にするために、こんな映像を切り取ったのだと。
旧日本軍の軍服姿で参拝する老人、天皇陛下万歳を叫ぶ人たち。
「大東亜戦争は断じて侵略戦争ではなく、祖国防衛戦争であった」と演説する、これまたかなりの高齢と思われる男性。
「南京大虐殺は、支那中共のでっちあげ。百人斬りの冤罪で苦しんでいる人たちのために署名を」と呼びかける中年の女性。
この「靖国空間」だからこそ許される主張を、ここぞとばかり叫ぶ人々は、哀しいまでに歴史に向き合わない人たちでもある。
だからといって、批判的なナレーションが流れるわけではない。淡々と無造作と思えるほどに、それこそ無言で、カメラはこの喧騒を切り取る。
この映像を見たら、戦争被害者のアジア諸国の人々は、心底日本と日本人を軽蔑するだろう。そういう意味では「靖国」をドキュメントすること自体が「反日的」と言えるかもしれない。
「靖国」は日本の「恥部」なのだ。
リ・イン監督は、ほぼ10年にわたって「靖国」をウォッチしてきた、その集大成が映画『靖国』となったわけだが、この境内で、英霊の御霊に答えよとパフォーマンスする人たちに、本当の戦場体験者はいないのではと、私は推測している。
NHKの「兵士の証言」で、戦場の地獄を、淡々と語る元兵士達は、自分の身代わりのようにして死んでいった仲間を忘れることはなくても、大勢の前で叫ぶことはしないだろう。
その死に様が、言葉にできないほどひどい場合が殆どだから。
この映画の異色さは、「靖国神社のご神体」とされる「靖国刀」を作ってきた90歳の刀匠を登場させたことだろう。
「気は確かか」と言いたくなる「靖国の喧騒」とこの刀匠が、刀を作る過程とを交互に描くことによって、映画に奥行きを与えている。
昭和8年から敗戦まで、この神社の境内に靖国刀を制作する工房があったということで、できあがった刀は将校級の軍人に下賜されていた。
軍刀は軍人精神の象徴でもあるが、実際に捕虜やスパイとみなした敵国の住民の処刑に使われる殺戮の道具であった。
それはところどころに挿入される当時の処刑場面の写真によって、否応なく見る者に、そしておそらく映画を後から見た刈谷刀匠にも突きつけてきたはずだ。
刀匠は、当時の時代の流れの中で、自分の仕事として「靖国刀」を作っていたわけで、その刀の意味、そしてそれが実際どのように使われたかまでは想像することもなかっただろう。
刀匠は90歳とも思えぬ若々しさで、自分の仕事に関心を持ってくれる人がいる、ということで、嬉しそうだった。
「騒ぎ」の中で、自分の出演場面を削除してくれるよう、言ってきたということだが、おそらく「圧力」、「嫌がらせ」があったのだろうけど、それと共に美術品ではない、武器というより、むしろ殺人、処刑の道具としての「靖国刀」であったことを理解したということもあったのでは。
中朝の反発の中、あえて「靖国参拝」を強行し続けた小泉総理だったが、その彼の言い草は「一国の首相として、2度と戦争をおこしてはならないという思いをこめて戦没者に哀悼の意を示すことに、外国がとやかく言うのは理解できない」というものだが、この発言には侵略戦争であったという自覚もないし、侵略され、おおくの犠牲を出したアジア諸国の人々のことはまるで勘定に入っていない。
自分のことしか考えていない人物の典型であると同時に、海にへだてられた島国日本人の典型でもある。
殆どの日本人は8月15日の「靖国の喧騒」とは無縁だ。それだけにこんな騒ぎが毎年繰り広げられているんだ(今年はそれほどでもなかったようだが。)ということを知るだけでもこのドキュメンタリー映画の意味は大きい。



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