江戸学の田中優子と被曝・原発ドキュメンタリー映像作家鎌仲ひとみ
毎年恒例の長野県須坂市で開かれる「岩波講座」。
ただ講演を聴いて「そうだよね」と納得しているだけではどうしようもないと、昨年の大震災と、野田政権の暴走ぶり以来思っているが、それでも実際生で話を聞くと、目を開かされることは多い。
今こそ、江戸の完全循環型社会から学ぶべきと説く田中さん。それは江戸時代に戻れという意味ではなく、日本の国土に合った生活、産業のあり方を考え、実践していくことであるという。
例えば、今年の猛暑。熱中症で病院に運ばれる人達のことがニュースにしばしば登場したが、エアコンのない江戸時代に、外で太陽の熱でフラフラして倒れる「日射病」はあったかもしれないが、家の中にいて、あるいは夜に熱中症になる人はいなかっただろうという。
家が夏の暑さを考えて風通しよく作られているし、外はアスファルトで舗装されていないので、その熱で夜になっても温度がなかなな下がらないというようなことはない。
大都市江戸で、エアコンもなく、狭い長屋で「熱中症」になる人はいなかったのかしらと思っていたがその心配はなかったようだ。
それは私も自分の住まいで実感している。我が家は土と緑に覆われているので、暑い時は暑いには違いないが、熱がこもるということはない。
原発事故以来、節電の意味もあって、エアコン以外の「涼しく過す方法」をみんな考えたり、紹介されたりしているが、それは昔からやられてきたことばかりだ。
よしずやすだれ、グリーンカーテンになるような植物を植えるなど。
使わない部屋は暗くしておくことも効果があると、新聞にあった。
江戸時代、灯りは行灯。これはろうそくよりずっと暗い。この灯りで書物を読もうとすると暗くて読めない。田中さんは実際やってみたという。
しかし江戸時代の書物だったら、灯りに近づければ読めるのだという。紙の質、そして印字が、小さな灯りでも読めるように作られている。
グローバリゼーションの波を逃れた江戸時代。
第一次グローバリゼーションは「大航海時代」によって開かれた。
戦国時代、織田信長などは積極的にその波に乗り出していた。豊臣秀吉もまた国内を掌握した時点で海外進出を試みる。それが「朝鮮侵略」である。
秀吉は頭がおかしくなったわけではなく、外国に植民地にされる前にこちらから討って出ようとしたのである。しかしこれは大失敗に終わり、この進出の試みで、日本国内は疲弊してしまった。
秀吉後、権力を握った家康は国内で回っていく経済・政策に転換する。それしか道がなかったとも言える。
鎖国もそのための策であった。とにかく植民地化を避けたい。
幕末にも列強による植民地化の危機があったが、それも乗り越えたのに、太平洋戦争の敗戦後、アメリカによる植民地化が着々と進んで、今それが完成しようとしている。田中さんの話を聴いていてそう思った。やっぱり戦争をしてはいけないのだ。
「ヒバクシャー世界の終わりに」、「六ヶ所村ラプソディー」、「ミツバチの羽音と地球の回転」など、放射能、被曝、原発の矛盾など、ドキュメンタリー映画という形で世に問うてきた鎌仲さん。
多くの場で映画を上映してきたが、それらの活動の中心になるのは女性達、とりわけ子供を持つ母親達。
彼女達は「原発がなければ経済が、産業が立ち行かなくなる」などという屁理屈は言わない。
まず命と安全。それがなければ経済もへったくれもない。そこからしか物事は始らない。
それに使える火力や水力、その他の再生可能エネルギーも止めて「原子力が全電力使用量3割」という事実が明らかになっているのに、「原子力発電がないと、日本の産業はどうなるのか」と、思考停止から脱出しようとしない発言をするのは男性ばかりだという。特に壮年以上の。
この地球を守るためには「男はいらん!」と言いたくなるような現状だが。
とにかく女子力が「地球を救う」と感じた今回の講座だった。