窓際の席に腰を下ろした途端、この方が呟いた。
「あっ、オレぜったいこの席ででインベーダーゲームやった」
久しぶりにお昼をご一緒した後、たまたま入ったのが喫茶店『ホルン』。にぎやかな中華街にあって、路地にひっそり佇む風情がいい。いつも通る度に気になっていた店だ。
注文してから豆を挽きコーヒーを丁寧に淹れてくれたお母さんにが二代目だそう。オープンからは数えて37年になるとのことなので、背中を丸めキューンキューンと夢中でボタンを押していたのはたぶん開店まもないころのことだろう。
染みついてかすかに漂う煙草臭は気になるけど、この店の歴史を感じさせてくれる。それでも、平日にもかかわらずお祭りのような中華街の喧騒から逃れ、ちょっと一服するにはとてもいい空間だ。だからこそ、今日まで続いているのかもしれない。
♪あの頃は恋だとは知らないで~
大きめのカップに並々と注がれた珈琲。強めの酸味は、若い頃の切ない日々を思い出させるには充分だった…
ってしみじみ語ったけど、よく考えたらオレにとってはこの店、何の思い出もなかったよ!
でも、そんな感傷に浸れそうな雰囲気なんだよね、ここ。