錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

続『浪花の恋の物語』(その2)

2018-03-23 18:48:09 | 浪花の恋の物語
 小一時間ほどの秘密会談で吐夢と錦之助が有馬に梅川役を懇請し、プロデューサーの三喜雄が大川博東映社長の意を伝え、正式に出演依頼したのだと思われる。大川博は、3年前、有馬が初めて出演した東映作品『息子の縁談』を見て、有馬のファンになってしまい、有馬の東映作品出演を常に望んでいるほどだった。錦之助との共演に対しても喜んで賛成し、有馬をVIP待遇で招くつもりだった。有馬は感激し、梅川役を喜んで引き受け、吐夢の音頭で乾杯があり、その後は打ち解けて楽しい会食となったはずである。
 しかし、問題は、有馬が個人的に出演をオーケーしても、松竹本社が他社出演を了承するかどうかであった。当時有馬は一般には松竹の女優と見なされていたが、松竹と専属契約を結んでいたわけではなかった。有馬が松竹と結んでいたのは、年間6本の優先本数契約だった。優先本数契約というのは、主演級のスター俳優を映画会社が囲い込むため、自社が製作する映画に一年間に俳優が出演する最低本数を決めた契約で、1本の出演料も決まっていた。有馬は1本200万円だった。女優としてはトップクラスの高額である。ただし、優先本数契約の場合は月給がなく、ここが、出演料の他に専属料として一定額を毎月支給される専属契約と違っていた。また、専属契約では五社協定(ないし六社協定)によって他社出演を禁止されていたが、優先本数契約では撮影日程などで支障のない限り他社出演も可能であった。
 有馬と松竹との契約条件には互いの了承があれば他社出演も2本まで許可するいう条項も入っていたのだが、実際に松竹以外の映画に出演するとなると大変だった。松竹側が容易には承諾せず、いろいろな要求を突き付けてきたからだ。
 昨年(昭和33年)有馬は他社製作の映画に2本出演したが、松竹本社の要求で思い通りにならず、妥協する結果になってしまった。その2本とは、内田吐夢監督の東映作品『森と湖のまつり』と、にんじんくらぶ製作、小林正樹監督の『人間の條件 第一部・第二部』(公開は昭和34年1月15日)であるが、どちらも有馬は主演ではなく助演であった。実は2本の映画ともヒロイン役を依頼され、有馬自身もそれを望んだのだが、松竹本社に反対され、他の女優に譲らざるを得なかったのである。『森と湖のまつり』のヒロイン役は香川京子に代わり、有馬は特別出演という形になった。有馬はスナックのマダム役(主役の高倉健の元恋人)で出番はワンシーンだけ、セット撮影は夏のわずか3日間で終わった。とはいえ、有馬は、吐夢が感心するほど熱演し、映画公開後も有馬の演技は好評を博した。『人間の條件』は有馬が所属するにんじんくらぶの製作であったにもかかわらず、宝塚の先輩新珠三千代がヒロイン役を演じ、有馬は中国人娼婦の役になり、中国語のセリフを吹き替えなしでしゃべり、熱演している。女優として主演できなかった悔しさを、与えられた役にぶつけたのだろう。
 そうしたこともあって、有馬は今度の東映作品の梅川役をどうしてもやりたいと思い、松竹と直談判してあくまでも自分の主張を通そうと決心したのだった。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿