錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

錦之助映画祭り2010日誌(11月21日)

2010-11-25 00:33:38 | 錦之助映画祭り
 21日の日曜。5日間が終り、今日は中日で、上映作品は錦之助映画ファンの会寄贈ニュープリントの『忠臣蔵』。錦ちゃんが浅野内匠頭を演じた作品である。3時間を越す大作で、櫻花の巻と菊花の巻の二部構成。錦ちゃんは櫻花の巻しか出ていないので、ファンの会の会員の中には、前半だけニュープリントにして上映すれば良いという意見もあった。しかし、そんなこと、出来るわけがない。東映本社も映画館も絶対に承諾しないと思う。こういう錦ちゃんファンの身勝手な意見も分からないことはないが、現実を認識してほしい。私だって、東映本社が半分でもお金を出して、ニュープリント制作に協力してくれればどんなに良いことかと思うのだが、東映にそんな気がないことは今更言うまでもない。あるいは、橋蔵ファン、ひばりファン、千代之介ファンなどが少しでも寄付金を出してくれたら助かるのになーとも思うが、だいたいファン同士の連携ほど難しいことはないし、今、錦之助映画ファンの会がやっているように、寄付金を集めてニュープリントを制作し上映活動を行うことに、理解と協力は得られないだろう。橋蔵ファン、ひばりファン、千代之介ファンは、ともかく出演作だけでいいから、入場料を払って観に来てくれれば良いと思っている。
 さて、今日は『忠臣蔵』の一本立て。どのくらいお客さんが入るか心配だったので、朝一番の上映に間に合うように新文芸坐へ行く。嬉しいことにほぼ満員。朝一の上映ではこれまで一番多かったのではあるまいか。ニュープリントで、約50年ぶりにスクリーンにお目見えした『忠臣蔵』である。さすがにお客さんの入りが違う。それも、圧倒的に男性が多い。年配の男性ばかりだ。錦ちゃんファンというより東映時代劇ファンがほとんどだと思う。オールスター映画を懐かしく思い、皆さん足を運んだのだろう。
 ニュープリントは、やや青みがかり、コントラストも甘くなっていた。特に前半にそうだった。もうネガが劣化しているのだ。でも、今回ニュープリントにしておいて良かったと思う。ネガの劣化はどんどん進んでいくからだ。ニュープリントに焼いておけば、20年以上は持つであろうし、いつでもスクリーンで上映できる。ただし、東映がこのプリントをジャンクしない限りでの話である。そして、新文芸坐のように、こうした映画を上映する名画座が今後も存続していればの話である。(この点、どうも私は悲観的にならざるを得ない。20年後、いや10年後のこの国日本がどうなっているか、悪い予想しか浮ばない……。)
 『忠臣蔵』を一回半観て(櫻花の巻を二回観て)、映画館を出る。だんだん疲れが蓄積して、映画を観る集中力も欠けてきた。それに、昨日『反逆兒』を観たせいか、どうも作品的に見劣りを感じてしまった。錦ちゃんが切腹してからはあまり見どころもなく、退屈に感じた。千恵蔵の大石内蔵助は力みすぎ。「菊花の巻」は、ひばりちゃんが出すぎで、ストーリーが歪んでしまったと思う。大川恵子の内匠頭夫人(阿久里、瑤泉院)は美しく、最高だと思う。 


錦之助映画祭り2010日誌(11月20日)

2010-11-21 21:12:48 | 錦之助映画祭り
 11月20日(土)、今日は錦之助さんの誕生日で、ご存命なら78歳。まだまだ元気でいても不思議でない年齢である。錦之助さんは64歳で亡くなった。還暦を迎えてから4年4ヶ月という早すぎる逝去であった。が、芸暦は60年に及んでいる。4歳になる直前に歌舞伎座で初舞台を踏み、そして21歳で映画界入りしてから、役者人生をまっしぐらに突き進んだ生涯であった。
 今回の錦之助映画祭りは、錦ちゃんの誕生日をはさんで11日間というスケジュールで催している。今日は、スペシャル・デイ。トーク・ゲストに二代目中村錦之助さんを迎え、上映作品は『沓掛時次郎 遊侠一匹』と『反逆兒』という絶好の二本立て。『沓掛時次郎』は、二代目錦之助(中村信二郎)が子役(太郎吉)で出演しているので選び、『反逆兒』は、143本の錦之助出演作の中でも、傑作にしてかつ錦之助の名演が際立った作品なので、スペシャル・デイにふさわしいと考え、選んだ。両作品とも中身の濃い、見ごたえたっぷりの作品である。文句はあるまい。
 
 昼過ぎに新文芸坐へ行き、13時半から『反逆兒』を鑑賞。ニュープリントだ。コマの飛んでいる箇所があったが、色調は良く、プリント状態は申し分なし。やはりニュープリントを新文芸坐の大画面で観ると感激が違う。しかも客席はほぼ満員。映画はこうした環境で観なきゃダメだ、とつくづく思う。映画が終り、館内が明るくなっても、みなさん感動醒めやらずといった様子。年配の女性の大部分が泣いていた。胸が詰まって、終っても席を立てないのだろう。ため息があちこちで聞こえるようだった。
 伊藤大輔監督の『反逆兒』という作品は、戦国物の時代劇とはいえ、テーマは非常に現代的で、われわれが切実に感じている身近なテーマを、戦国時代に移して、凝縮した形でドラマ化した作品である。母と子の愛、嫁と姑の憎しみは、いつの世にも変わらずあったと思うので、普遍的なテーマでもあろう。ただし、この映画のように、家康の嫡男信康が、今川家の血を引く母・築山御前と、信長の娘・徳姫との間にはさまれ、苦悩するという設定は、フィクションだと思う。ともあれ、『反逆兒』は伊藤大輔監督の戦後の傑作であり、若き戦国武将の悲劇をドラマチックに描いた時代劇の名作である。そしてまた、主人公信康を演じ切った錦之助にとっても、彼の悲劇作品のナンバーワンに数え上げられると思う。とくにラストの切腹シーンは、筆舌に尽くし難く、悲愴美の極致と言える。
 
 『反逆兒』を観た後で、次は『沓掛時次郎 遊侠一匹』。これまた、感動の名作である。監督の加藤泰は、戦前伊藤大輔の時代劇作品に憧れて、映画界に入った人であり、終生伊藤大輔を師として敬愛し続けた映画人である。しかし、作風や表現テーマは、伊藤大輔とはかなり異なる。端的に言えば、伊藤大輔は旅人やくざを好まず、加藤泰は旅人やくざを好んで描く。伊藤大輔は体制内反体制で、加藤泰は体制外反体制の傾向があると言えるのではなかろうか。つまり、伊藤監督作品は、主に権力や社会体制に抑圧され虐待され抹殺された人々を描き、加藤監督作品は、主に権力とは無縁で社会から疎外された人々を描き、それぞれ映画作家としての特色を発揮したと思う。
 加藤泰監督の錦之助主演作では、『風と女と旅鴉』『瞼の母』『沓掛時次郎 遊侠一匹』の3本が名作である。「源氏九郎」シリーズの2本は作品的には不出来だと思う。
 今日の作品『沓掛時次郎 遊侠一匹』は、図らずも9月26日に亡くなった女優池内淳子さんの追悼上映になってしまった。この映画の中での彼女のしっとりとした落ち着き、滲み出る情愛は、何とも言えず良い。取り乱さない年増女の内に秘めた情念がじわじわ湧き出して、観る者の心に浸透して行く。この映画、東映やくざ映画が流行しだした年代に作られたため、その風潮の影響もあり、立ち回りも惨殺的で、血の出る場面も多い。その点、今観るとやや、作品の情感を減じていると感じるところもある。やくざ否定と不倫愛という二つのテーマのうち、前者の描き方のくどさが目立つ。それでも、感動的な名作であることに変わりない。

 作品の感想を書いているうちに長くなってしまった。
 
 今日は、遠隔地に住む錦之助映画ファンの会の会員が何人か泊りがけで来てくれているし、錦ちゃんファンがごっそり集っている。また、錦之助さんとご縁の深い方々で私がお招きした方も映画を観に来てくださった。映画評論家の渡部保子さん、脚本家の石森史郎さん、『沓掛時次郎』ほか『宮本武蔵』などの脚本を書かれた故鈴木尚之氏の奥様の鈴木朝さんが見えたので、ご挨拶して少しだけお話する。
 
 19時20分ごろ、二代目錦之助さんが奥様といっしょに来館。二代目はねずみ色の着物で羽織り袴の正装。奥様(細面でほっそりした美人)は黒いシックな洋服。4階の事務室にご案内すると、二代目が『反逆兒』のラストが観たいとおっしゃるので、映写室に入り、窓ガラス越しに眺めていただく。切腹シーンを奥様といっしょに観てから、二代目を階下にご案内し、トークショー開始。聞き手は私。二代目とはこれまで四度ほどお会いしているし、昨年3月のトークショーでも聞き手を私がやったので、打ち合わせなし。
 二代目は、『沓掛時次郎』撮影時のエピソードを中心にお話してくださった。池内淳子さんのことについても触れていただいた。トークの模様は宮坂さんがビデオ収録。
 トークの後、サイン会を行う。30人以上のお客さんが並ぶ。二代目は一人一人に丁寧に対応なさっていた。彼の暖かいお人柄に接すれば、みんな二代目を応援したくなると思う。あの世で錦之助さんも喜んでいるにちがいない。
 その後、錦之助映画ファンの会の宴会に、二代目と奥様をお誘いする。近所のすし屋へ33人が集る。脚本家の石森史郎さんに乾杯の音頭をお願いし、二代目に挨拶していただく。二代目はわざわざ、萬屋錦之介の名前入り手拭いを40枚もプレゼント用に持ってきてくださった。集ったみんなの一人一人に二代目自ら、手渡してくださったので、みんな大喜びだった。二代目は明日の午前中からまた新橋演舞場で公演があるので、15分ほどで退席。二代目と奥様を駐車場までお見送りする。二代目は着物のまま運転席に着き、手を振って颯爽と帰っていかれた。『花吹雪御存じ七人男』を観たいとおっしゃっていたので、また来館されるかもしれない。今度はお忍びで。
 
 宴会は閉店の10時半過ぎまで続いた。今日はお客さんも大入り、映画も堪能、トークも楽しく、サイン会も宴会もあり、最高に充実した一日であった。


 

錦之助映画祭り2010日誌(11月18日・19日)

2010-11-20 09:32:08 | 錦之助映画祭り
 18日(木)、今日は三日目。トーク・ゲストの高岡正昭さんが11時に来館。京都を朝の7時半に出発されたとのこと。高岡さんとの打ち合わせでは、昼すぎにいらっしゃるという予定だったので、私はまだ飯田橋で仕事中。電話で、映画(『暴れん坊兄弟』)を観ていてくださいとお願いする。
 13時10分からトーク・ショー。聞き手は私。吹き替えの馬のこと、錦之助さんのこと、藤沢の錦之助宅に高岡さんが住み込んでいた時のことなどをお聞きする。トークの模様は宮坂さんがビデオ収録。
 トークが終って、高岡さん、磯田さん(映画プロデューサー)、円尾さん、中田さんとすし屋で会食。
 その後、高岡さんと私で新文芸坐へ戻る。大川さん、西奈美さんが待っていたので、4人で喫茶店へ行く。夕方まで歓談。池袋の駅まで高岡さんを見送る。
 やっと私一人になり、新文芸坐へ戻り、映画を二本観る。『暴れん坊兄弟』と『独眼竜政宗』。どちらも私の大好きな作品で、私は疲れていたにもかかわらず、眠気をまったく催さずに鑑賞。良かった。夜は、お客さんの入りが少ないが、落ち着いて観られる。高橋さんと会ったので、休憩時間と帰り道にいろいろ話す。
 今日は、やる仕事がたまっていたので、夜中の3時まで残業。

 19日(金)朝、大手町の銀行へ行き、用事を済ませる。お昼に新文芸坐へ着く。「一心錦之助」を40冊、持って行く。旅行用のキャリングバッグに入れて運んだのだが、重い。地下鉄の階段で苦労する。こんな時に限って、エスカレーターが点検中だったりして…。
 トーク・ゲストの松風はる美さんはすでにいらしていて、ロビーで待っていらしたので、ご挨拶し、10分ほどお話しする。『殿さま弥次喜多 怪談道中』を鑑賞。錦之助映画ファンの会が寄贈したニュープリント。多分この映画は封切り以来、約50年ぶりにスクリーンで観られることになった。東映チャンネルで以前放映されたが、ビデオもない。無論DVDも出ていない。新文芸坐のお客さんは東映時代劇ファンも多いので、そのことを知っている方も多いのだろう。今日は、ほぼ満員の入り。
 『殿さま弥次喜多 怪談道中』は、馬鹿馬鹿しいけど、とても面白い作品。錦ちゃんと賀津雄さん兄弟のずっこけぶりが楽しい。二人とも若くて、ピチピチしていて、新鮮で…。お客さんも喜んで、観ていた。私も大満足。ニュープリントにして良かったと思う。プリントの画質は少し悪かったが、仕方がない。
 13時55分より松風さんのトーク。聞き手は円尾さん。松風さんはお話が上手なので、楽しく拝聴。錦ちゃんのエピソードを三つ紹介してくださった。今日も宮坂さんがビデオ収録。
 トークの後、サイン会。「一心錦之助」が10冊以上売れる。松風さんは、『血斗水滸伝 怒涛の対決』もご覧になりたいとおっしゃるので、館内にご案内する。
 円尾さん、大川さんと外へ出て、食事。その後、円尾さんは東千恵子さんのお通夜へ。東川口の福祉会館で、今夜がお通夜、明日がお葬式。香典を円尾さんに渡す。
 映画が終るころ、新文芸坐へ戻り、松風さんにお礼を言う。
 今度は、錦之助映画ファンの会のご婦人たち(四人)と喫茶店へ行き、歓談。
 18時45分から『怒涛の対決』を観る。さすがオールスター映画。重厚である。錦ちゃんの押さえた演技が、ぐいっと心に迫って来る。
 今日は長い一日だった。へとへとに疲れた。飯田橋に帰って、倒れるように就寝。




錦之助映画祭り2010日誌(11月17日)

2010-11-17 21:25:25 | 錦之助映画祭り
 12時半開始の『浅間の暴れん坊』から観る。トーク・ゲストの稲野實さんはすでに来館なさっていて、最初の『瞼の母』からご覧になっていたとのこと。今日の聞き手は円尾さんに任せてあるので、私はゆったりしていられる。
 『浅間の暴れん坊』は、東映ビデオがDVDを製作した時に作ったニュープリントで、すでに昨年3月に上映している。色調のコントラストがやや甘い感じがするが、焼き方が悪かったのか、ネガが劣化していたかのどちらかだろう。
 河野寿一監督の娯楽時代劇で、錦ちゃんが浅間の伊太郎という旅人(たびにん)やくざを演じている。シネスコのカラー作品で、1958年(昭和33年)製作。この年は映画館の観客動員数がピークに達した時で、錦ちゃんの人気も出演作品数も絶頂期の作品である。錦ちゃんの年齢は25歳から26歳、演技も自信にあふれ、勢いがいちばんあった頃だったといえよう。河野寿一も東映の青年監督としていちばん充実していた頃で、河野監督は、『里見八犬伝』5部作以来、錦ちゃんのヒット作を連作し、また錦ちゃんをカッコ良く撮ることでは、当時ナンバーワンの監督だった。
 『浅間の暴れん坊』は、私の大好きな作品で、若い頃の錦ちゃんの魅力が十分発揮されている映画だ。チャンバラが随所にあり、錦ちゃんがやくざを何人斬ったか、数え切れないほど。親分だけでも三人斬っている。冒頭で瀬川路三郎、途中で原健策、最後に山形勲。それと、親分ではないが、片岡栄二郎も斬っている。女優陣も、丘さとみ、大川恵子、長谷川裕見子が共演し、見せ場を作っている。東映後期の長谷川伸三部作ほど、内容の深みはなく、また錦ちゃんの役柄に対する表現力もまだ発展途上ではあるが、スターの魅力と輝きという点では、ピカ一の作品の一本である。
 
 午後の1時過ぎから、稲野實さんのトーク。『瞼の母』の美術デザインに関し、中身の濃いお話を聴くことができた。キャメラマンの宮坂健二さんがいらしていて、客席からビデオ撮影していたので、トークの模様は収録済み。聞き手の円尾さんは、美術監督とかキャメラマンとかいった映画の製作スタッフへのインタビューはお手のもんなので、安心して聴いていられた。ただ、彼は声がでかく、突っ込みが鋭く、またゲストの話を奪って解説過多になる傾向があるので、前もって忠告しておくのだが、最近は私も慣れてしまい、お客さんがどう思おうと、円尾さんの好きなようにやればいいと思っている。今回は、稲野さんのお話も十分聴けたので、大変良かったと思う。『瞼の母』は、加藤泰監督が15日間という短期間にセットだけの撮影で作った映画なので、美術デザイナーの稲野さんも必死でセット作りに励んだそうだ。川の水を一切使わず、橋と、川面を通る舟や川端の風景で、江戸の町を表現したという。この映画のセットデザインは素晴らしく、15日間でおそらく30シーン以上のセットを作った稲野さんの仕事ぶりは特筆に値する。弁慶橋(山形勲と原健策が雨の中を渡る橋)と、ラストの開閉式のはね橋についての話は貴重だった。この橋を忠太郎が渡って去っていくラストシーン、あのシルエットの情景は、稲野さんの美術デザインの傑作だと思う。
 トークが終って、稲野さん、円尾さん、大川さんと私で昼食をとりに、近くのすし屋へ行く。一時間ほど歓談。『瞼の母』の脚本や、稲野さん(現在は絵描き)の風景画の絵葉書を見せていただく。稲野さんに内田吐夢監督回顧のパンフレットと記念本を差し上げる。
 途中で、円尾さんのケイタイに電話があり、月形龍之介の付き人だった東千恵子さんが亡くなったという連絡が入る。信じられない。東さんは、9月の月形特集でトークゲストにいらして、面白いお話をたくさんしてくださったばかりなのに、あれからまだ二ヶ月しか経っていないのに、亡くなってしまうとは……。あの時、すでに舌ガンで手術をされ、また検査をするとおしゃっていたが、トークの日が一期一会になるとは、思ってもみなかった。悲しい。トークの日、娘さんとお孫さんといっしょにいらして、その後、ホテルのロビーで月形家の門田さん親子と久しぶりで対面し、喜んでいらした。記念写真も撮った。あの時が最後の別れのお導きだったのだろう。東さんは月形龍之介の付き人をずっとやっていらしたのに、大の錦ちゃんファンで、錦之助映画ファンの会にも協力してくださり、寄付金やお手紙をいただいていた。もちろん今回の映画祭りのリーフレットもお送りし、ぜひ観に来てくださいと添え書きをしておいたのに……。
 
 みんなと別れて、私一人で2時間ほど暇をつぶす。喫茶店で読書したり、いろいろなことを考える。亡くなった東さんのこと、これからのことなど。
  新文芸坐へ戻り、『瞼の母』を観る。泣く。高校時代の友人の北くんが観に来てくれていた。少しだけだったが、北くんと話す。彼も泣いたそうだ。また、別の日に観に来ると言っていた。
 ロビーに古林さん(弟さんの方)と杉山さんが居たので、小一時間ほど映画談義に花を咲かす。
 新文芸坐の事務室に寄って、チーフの矢田さんとちょっと話す。お客さんの入りはどうかと尋ねる。思ったほどでもない(つまり、少ない)とのこと。雷蔵特集の方がずっと多かったと言う。それを聞いて、ガッカリ。
 夜の9時ごろ、飯田橋に帰る。でも、今日も充実した一日だった。


錦之助映画祭り2010日誌(11月16日)

2010-11-17 05:28:01 | 錦之助映画祭り
 初日の第一回目の上映開始に間に合うように新文芸坐へ行く。2010年錦之助映画祭りの皮切りは、10時45分からの『殿さま弥次喜多』。10時半ちょっと前に到着。私は新文芸坐の会員なので入場料は1000円。会員カードを見ると、75ポイント貯まっている。確か昨年の11月に更新したので、一年間に75日来場したということだ。私は主催者なので顔パスでも入れるが、ちゃんと入場料を払って中に入ることにしている。映画館の興行成績が少しでもプラスになるようにと思い、ずっと入場料を払いつづけている。
 入り口で館主の永田さんに「今日からよろしくお願いします」と挨拶。ロビーで錦之助映画ファンの会の会員(10名ほど)や知り合いと顔を合せる。みんなワクワクしている。私も同じ。
 お客さんの入りはまずまず。思っていたよりずっと多い。5割以上の入り。新文芸坐は定員266名なので、150名近くはいたと思う。美空ひばりファンと思われる方も何人かいらしていた。
 『殿さま弥次喜多』は、クレジットタイトルの後、まず家老の杉狂児が出てきて、その後すぐ、殿さま姿の晴れやかな錦之助が登場する。真正面からの錦ちゃんのバストショットで、もう、あっという間に「錦之助映画祭り」が始まったという実感が湧いてくる。「やっぱり錦之助はいいなー。惚れ惚れするよなー」と、声には出さず、心の中で独り言を言いながら、映画の中に引き込まれていく。沢島監督のこの映画、主義も思想もない、ただ会話の面白さとドタバタだけを楽しめばよいといった娯楽作品である。いかにも東映調の、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、家族みんなで楽しめる映画である。今観ると、受けねらいが失敗した箇所やカットつなぎが雑な部分があちこち目立つが、そこは勢いとスピードでカバー。ストーリーもあれよあれよと展開していくので、馬鹿馬鹿しいと思う暇もなく、見終わってしまう。私は、この映画を十数回は観ていると思うが、なぜか見飽きることがない。
 『殿さま弥次喜多』で、私が好きな場面を挙げると……、
疾走する荷車の上で錦ちゃんと賀津雄ちゃんが「舌噛んじゃった」と言う場面、焼き芋屋の屋台を丘チンと賀津雄ちゃんが引きながら語り合う夜道の場面、ひばりちゃんが錦ちゃんの殿さまの口真似をうっとりして聞き惚れる場面、そしてクライマックス、花の吉原で錦ちゃんと賀津雄ちゃんが二人助六に扮して出てくる場面、雪代敬子さんの花魁が登場する場面、錦ちゃんのスピード感あふれるチャンバラシーン、など。
 この映画、最後は錦ちゃんのにっこり笑った顔の大アップで終るが、これがファンにとってはたまらなく良い。なんとも言えない幸福な気持で胸がいっぱいになる。

 『殿さま弥次喜多』を見終り、館内を出て近くのそば屋で昼食をとる。朝食を抜いて来たので、空腹だったから。それから、銀行へ行って振込みを済ませ、古本屋で時間をつぶす。『股旅三人やくざ』が終る頃、映画館へ戻る。映画を観終わった漫画家のNさんと今日知り合ったKさんという女性とまた外へ出て、パルコの上のレストランで1時間ほど歓談。入江若葉さんから電話あり。『股旅三人やくざ』の開始時間にちょっと遅れるとのこと。内田有作さんから電話あり。映画館に来ているとのこと。急いで戻り、ロビーで、有作さんに会う。円尾さん、高橋さん、杉山さんを交え、しばらく話す。
 若葉さんがいらしたので、館内に案内。『股旅三人やくざ』はオムニバスで三話あるが、若葉さんは全部ご覧になるとのこと。有作さんと杉山さんと私は途中入場して、錦ちゃんが出演する第三話だけ観る。
 『股旅三人やくざ』は、同じ沢島監督作品であるが、『一心太助』や『殿さま弥次喜多』とは作り方が違い、芸術路線を狙っている。第一話と第二話はシリアスで、沢島演出の奔放な個性が発揮できないままに終っている。あまりにも正攻法すぎるのだ。主演男優に魅力がないこと、笠原和夫と中島貞夫の脚本がストーリーを頭でこねくりすぎていることが、第一話と第二話をつまらなくした要因だと思う。錦ちゃん主演の第三話だけが飛びぬけて面白い。脚本は野上龍雄。喜劇も抜群にうまい錦ちゃんの面目躍如たる作品である。すっぴんの錦ちゃんで、あの情けない顔の表情といい、ユーモラスな身振り手振りといい、カッコ悪さをあんなにうまく表現できる俳優は、錦ちゃんをおいて他にない。 
 第三話は、お客さんの笑い声が絶えず、愛嬌たっぷりな錦ちゃん、まさにエンターテナー錦之助を、十二分に堪能されたと思う。若葉さんの素朴な村娘も良かった。この二人が、武蔵とお通を演じた同じ俳優だとは、とうてい思えないのだ。
 映画が終り、若葉さんに感想を聞く。錦之助さんの名演には本当に感動したとのこと。『股旅三人やくざ』をスクリーンでご覧になるのは久しぶりだったそうで、とても新鮮で、今思うと、あんなに素晴らしい錦之助さんと共演していた自分があの頃はよく分かっていなかったとおっしゃっていた。若葉さんを池袋の駅の近くで見送ってから、有作さんと私の二人きりで、飲みに行く。11時過ぎの閉店まで飲んで話す。有楽町線の飯田橋まで有作さんと一緒に帰り、別れる。
 充実した一日だった。