この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

『マーターズ』について改めて考察してみる。

2009-10-31 21:45:59 | 新作映画
 映画『マーターズ』についてのレビューはすでに一度アップしていますが(こちら)、そのときはネタバレを気にしすぎ、また作品が作品だけに腰の引けたレビューしか書けなかったんですよね。
 なので改めて『マーターズ』についてのレビューを書いてみたいと思います。
 この作品はホラー映画なので、その手の映画が苦手な方、またこれから観に行こうと思われている方は読まない方が賢明です。


 雨がそぼろ降る日曜日の朝。
 食卓に着いた妹はガールフレンドのことで兄をからかい、兄は妹をあしらいつつも高校を退学したことで気分が晴れない。
 父親は兄妹喧嘩をする二人を見ながら、やれやれといった感じで首をすくめ、母親は喧嘩を諌めるためか、とんでもないものを食堂に持ち込む。
 配水管の詰まりの原因となっていた鼠の死骸だ。
 やめてよ、ママ!!妹は本気で嫌がりながらも、いつしか家族の間で笑いが生まれる…。

 映画『マーターズ』の一シーンです。
 映画はこの後闖入者によって家族は皆殺しにされ、後半はさらに延々と残酷なシーンが続きます。
 しかしながら自分は、この家族団欒の一シーンこそ映画の中で一番恐ろしいのではないか、そう思っています。

 母親と父親は実はある組織に属していることが中盤になって判明します。
 その組織とは、若い女性を徹底的に暴力で痛めつけ、そうすることで強制的にトランス状態に陥らせ、その女性の口から発せられる言葉をご託宣として崇める、というものです。
 まぁ到底まともな組織とはいえませんが、それはこの際置いておきましょう。
 ともかく、組織は、徹底的に女性を痛めつけはするが、それが目的ではないので、同時に虐待する女性の健康管理にも非常に気を使う、ということです。

 さて、上述のシーンでは母親は朝早くから配水管と格闘をしている、という描写がされています。
 また組織において食事や身体を拭くといった面倒は男性の役目ではなさそうです。
 ではこの日の朝、監禁している女性に食事を与えたのは誰なのでしょうか。
 そもそも家の中に地下室があって、そこに女性を監禁していて、同居人である子供たちが気づかない、ということがありえるのでしょうか。
 理論的に考えて、子供たちは地下室に女性を監禁していることを知っていた、むしろ細々とした世話は彼らがしていた、と見るべきです。

 そう考えると家族の団欒シーンが空恐ろしいものに思えてきませんか。
 監禁している女性の様子を見ることを朝の日課にしている子供たち。
 女性に食事を与え、身体を拭いて、そしておそらくは虐待を加えたであろう後にどこ家庭でも見かけるような喧嘩をする兄と妹。
 想像すると心底ぞっとします。

 ホラー映画は数え切れないほどのモンスターを生み出してきました。
 しかしそれらのモンスターは一歩映画館の外に出るとさほど恐ろしいものではありません。
 何故かといえば我々は、我々が日常に暮らす社会の中に、ホッケーマスクを被った大男が潜むような隙間はないということを知っているからです。
 ゾンビや、宇宙生物、死霊などにも同じことが言えます。

 では『マーターズ』の組織も空想の産物と片付けられるのか?
 自分はこの組織の概容から、まずナチスドイツや旧日本軍、それに一部のカルト宗教を想起しました。
 無論、構成人数や規模、さらに目的など違いは多々ありますが、自らの正義のために他者を害するのも厭わないこと、それに家庭の中ではよき家庭人であったことなどは共通すると思うのです。

 映画『マーターズ』を、その残虐さ故に否定するのも自由ですが、人類の歴史にも血塗られた一面があったのだ、ということを忘れてはならないと思います。
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2 コメント

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Unknown (幸太郎)
2009-11-04 19:51:01
私は、「あんな簡単な細工で、子どもたちは
気付かなかったのか?」などと思い、
それで思考が停止していました。
考えてみれば、気付かないわけがありませんな。
となると、やはりあの拷問に子どもたちも参加していたのでしょうか。
食事を与えていた人物や、ホースで水をかけていた人物に
あまり注意せずに見ていたんですが、
もう一回じっくり見てみたいものです。

この手の神秘主義を実践していた組織は、
いくらでもありそうな気がしますね。
神様への生け贄も似たようなもんですし。
私が怖かったのは、暴力を受け続けていた親友と同じ目に、
自分があうのだと自覚したときの少女の気持ちです。
私なら鎖で首吊って死にますね。
返信する
知っていた、と考えるべきでしょうね。 (せぷ)
2009-11-04 21:58:58
秘蔵のエロ本をこっそり隠す、というのとはわけが違うのですから、同居している子供たちが地下室、およびそこに監禁されている女性のことを知らなかった、と考えるのは無理があります。

さらに監禁の事を知っていて、そのことを罪に感じていれば、家族で団欒が出来るわけがありません。

子供たちはすべてを知っていて、そのことに殊更罪の意識を感じてなかった、と考えるのが妥当です。

>この手の神秘主義を実践していた組織は、いくらでもありそうな気がしますね。
ありそうな気がしますね。
というか、オーム真理教とか、この組織と五十歩、百歩だったんじゃないかって思ってます。

>私が怖かったのは、暴力を受け続けていた親友と同じ目に、自分があうのだと自覚したときの少女の気持ちです。
アンナが自ら死を選ばず、運命を抗うことなく受け入れる気になったのは、彼女がリュシーの言葉を最後まで信じることが出来ずに、リュシーを死に追いやった、悔恨の念によるのではないか、と思っています。
アンナが無条件にリュシーのことを信じてさえいれば、リュシーは死を選択しなかったでしょうからね(それは難しいですが)。

幸太郎さんが自分の言葉に従って、素直にこの映画を観に行ってくれたときは嬉しかったですよ。
案外それって難しいことだと思いますから。
まぁでもしばらくは幸太郎さんに観て欲しいと思えるような映画はなさそうですが。

代わりに幸太郎さんがお好きだといっていた、ゾンビ映画(の亜種)を何本か紹介します。

まずは『REC/レック』。スペイン発のゾンビ映画です。一人のカメラマンが撮影した記録映像という形を取っていますが、これは怖いですよ。

もう一本は『28日後・・・』の続編の『28週後・・・』。
まぁこれも怖いといえば怖いんですが、特筆すべきはヒロインがめっちゃ可愛いんですよ。
この映画を観て、ホラー映画のヒロインは美人じゃないとな、って改めて思いました。笑。
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