ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文藝散歩 「ギリシャ悲劇」

2008年12月26日 | 書評
啓蒙・理性の世紀、都市国家アテネの繁栄と没落を描く 第27回

ソポクレス 「オイディプス王」 藤沢令夫訳 岩波文庫 (1)

 ソポクレス「オイディプス王」の物語の筋書きは丹下和彦編 「ギリシャ悲劇」に書いた。数多くのギリシャ悲劇の中で傑作の誉れ高いこのソポクレス「オイディプス王」はアリストテレスの称賛するところであった。不気味な運命を通奏低音にした、最高度に発揮された緊迫した劇進行から、真実の発見がそのまま運命の激しい逆転をもたらす構成は見事の一言に尽きる。安っぽいサスペンスドラマは足元にも及ばない。オイディプス王家をおおう残酷な運命にもてあそばれる英雄的な人々はソポクレスの手でいかにも悲劇に仕立て上げられた。ソポクレスは90年に及ぶ一生(前496-406年)はギリシャ古典時代の最盛期で、祖国アテナイの興隆と衰退を歩いたソポクレス自体が古典の象徴になっている。全部で123篇と伝えられる彼の悲劇作品のうち、今日完全な形で残るのは、「アイアス」、「トラキスの女たち」、「アンティゴネ」、「エレクトラ」、「オイディプス王」、「ピロクテテス」、「コロノスのオイディプス」の七篇である。

 プラトン「ソクラテスの弁明」においてソクラテスは劇詩人との対話において「作家は自分が語っている事柄を何一つ知ってはいない」と言った。ソポクレスはアイスキュロスに対して「貴方は知りながら創作していない」といった。ソポクレスはエウリピデスに対して「自分はあるべき姿を詩作の中に描き、エウリピデスはあるがままに描く」と言って作風の違いを表現した。自覚して創作すると云う態度は悲劇という形式に理論的考察を行い幾つかの重要な変革をもたらしているのである。三部形式による劇の構成法を棄てて、同時上演の三つの劇をそれぞれ完結した独立の作品とした。同時出演の俳優の数を二人から三人に増やした事。合唱隊の数を十二人から十五人に増やした事、舞台における背景画の使用などである。これらは構成の複雑化や劇中の緊密度を高め、合唱隊の歌の占める分量的な割合を少なくした。



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