ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年07月15日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第65回

144) ひいおじいさん
ヒイおじいさんの「昔はよい時代だった」という口癖にも、やはり電信(電報)の発明の恩恵は否定できないことをわかりやすく子供にきかせるお話です。アンデルセンは決して文明否定はしませんし、むしろ文明の便利さは無条件で肯定しています。便利になったが、しかし利口になったかどうかは分からないということは、いまでも東電福島第1原発事故を思えばうなずけます。

145) ろうそく
蜜蝋ろうそくと鯨油ろうそくの社会における位置づけを的確に示したお話です。しかしどちらもそれぞれよいというような無原則的な平等価値論ではなく、その時代における宿命を踏まえたうえで現実的な位置づけです。蜜蝋ろうそくは高級で金持ちの食卓や舞踏会を照らすもの、鯨油ろうそくは貧しい家で使われ、実用的で台所を照らすものである。蜜蝋ろうそくの燭台は銀製で、鯨油ろうそくの燭台は真鍮製である。綺麗に着飾って舞踏会で音楽やダンスを楽しむ幸せと、ジャガイモを食べられて飢えをしのげる幸せの違いはあります。

146) とても信じられないこと
童話にありがちな荒唐無稽なお話の一つです。「信じられないことをやってのける」というお姫様の願いをかなえた者と結婚できるお触れが出て、候補者がお城の集まって知恵比べをするという設定です。信じられないということの定義が不明確なままテストされる方も大変ですが、荒唐無稽なほど面白いことも事実です。実に精密な仕掛けのついた置時計を提出したものがいました。1時にモーゼがでて掟を説き、2時にアダムとイブが出会い、3時に3人の聖なる王が出て、4時に4季が現れ、5時に5感が出て、6時にサイコロの6の目が出て、7時に7つの罪悪が出て、8時にミサを唱え、9時に9人の芸術女神が出て、10時にモーゼの十戒が出て、11時にかわいい子供が出て、12時に夜警の歌が出ました。これを見て評議会はこの時計の製作者に決定しようとしたところ、その時大男がまさかりでこの時計をぶっ壊しました。とても信じられないことをやったとしてこの大男がお姫様と国を2部することになりました。婚礼の日、粉々になった時計の部品は再び集まって時計は蘇ったのです。乱暴なだけで破壊者の大男は退けられ、芸術の魂を持った男が選ばれました。乱暴な行動力は世の中の人をハッとさせますが、世の中をつくる力は暴力ではないことを教えるお話でしょうか。英雄待望論は百害あって一利なしということです。ヒトラーを生んではいけません。

(続く)


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