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ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

文藝散歩 桜の歌人、漂泊の歌人 「西行」  (最終回)

2007年11月16日 | 書評
桑原博史訳注 「西行物語」 講談社学術文庫  第二回

訳注者桑原博史氏は筑波大学文藝言語学系教授であった。専攻は中世文学史。今存命かどうかは知らない。西行の生涯については辻邦生著 「西行花伝」に詳しいので繰り返しても意味がない。「西行物語り」のほうがむしろ俗にながれて、お涙頂戴式の哀れを誘う題材となっており、本書の最後に付け足された妻子の話は完全に付録である。そして年代の順も無視されて、読者に混乱を与える要因になっている。前後した話も多い。辻邦生著 「西行花伝」にも虚実織り交ぜて小説風に書かれているが、まだ西行年譜としては正確ではないだろうか。「西行物語」の筋を追っても仕方がないので、歌物語として読むといい。そこで取り上げられた歌をここに掲載したい。白洲正子著 「西行」に記した歌と重複するところも多いが、一応参考までに記す。

1)   「いつ嘆き いつ思うべき ことなれば のちの世知らで 人の過ぐらむ」
2)   「いつのまに 長き眠りの 夢さめて 驚くことの あらむとする」
3)   「何事に とまる心の ありければ さらにしもまた 世のいとわしき」
4)   「岩間とじし 氷もけさは とけそめて 苔の下水 道求むなり」
5)   「鶯の 声ぞ霞に もれてくる 人目ともしき 春の山里」
6)   「降り積みし 高嶺の深雪 解けにけり 清滝川の 水の白波」
7)   「求め来かし 梅盛りなる わが宿を 疎きも人は 折にこそよれ」
8)   「雲にまがう 花の下にて 眺むれば おぼろに月も 見ゆるなりけり」
9)   「聞かずとも ここを詮にせむ 時鳥 山田の原の 杉の群立ち」
10)  「時鳥 高き嶺より 出でにけり 外山の裾に 声の聞こゆる」
11)  「道の辺の 清水流るる 柳陰 しばしとてこそ 立ちとまりけれ」
12)  「あわれいかに 草葉の露の こぼるらむ 秋風たちぬ 宮城野の原」
13)  「小山田の 庵近く 鳴く鹿の 音に驚かされて 驚かしけり」
14)  「小倉山 麓の里に 木の葉散れば 梢に晴るる 月をみるかな」
15)  「秋篠や 外山の里や しぐるらむ 生駒の岳に 雲ぞかかれる」
16)  「越えぬれば またもこの世に 帰り来ぬ 死出の山路ぞ 悲しかりける」
17)  「世の中を 夢と見る見る はかなくも なほ驚かぬ わが心かな」
18)  「年月を いかでわが身に 送りけむ 昨日見し人 今日はなき世に」
19)  「空になる 心は春の 霞にて 世にあらじとも 思い立つかな」
20)  「おしなべて ものを思はぬ 人にさえ 心とどめよ 秋の初風」
21)  「世の憂さに 一方ならず 浮かれ行く 心とどめよ 秋の夜の月」
22)  「もの思いて 眺めむる頃の 月の色に いかばかりなる あわれ添ふらむ」
23)  「玉の露 消ゆればまたも あるものを 頼みもなきは わが身なりけり」
24)  「受けがたき 人の姿に 浮かび出で 懲りずや誰か また沈むべき」
25)  「世を捨つる 人はまことに 捨つるかも 捨てぬ人をぞ 捨つるとはいう」
26)  「世をいとう 名をだにもまた とめ置きて 数ならぬ身の 思い出にせむ」
27)  「さびしさに 耐えたる人の またもあれな 庵並べむ 冬の山里」
28)  「身の憂さを 思い知らでや 止みなまし 背く習いの なき世なりせば」
29)  「年暮れし その営みは さもあらで あらぬさまなる 急ぎをぞする」
30)  「昔思う 庭に浮木を 積みおきて 見しにもあらぬ 年の暮かな」
31)  「心せむ 賎が垣根の 梅の花 よしなく過ぐる 人とどめけり」
32)  「香を求む 人をこそ待て 山里は 垣根の梅の 散らぬかぎりは」
33)  「主いかに 風渡るとて いとうらむ よそにうれしき 梅の匂いを」
34)  「花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の 咎にはありける」
35)  「宮柱 下つ岩根に しきたてて 露も曇らぬ 日の光かな」
36)  「深く入りて 神路の奥を たずぬれば また上もなき 嶺の松風」
37)  「神路山 月さやかなる 誓ひにて 天の下をば 照らすなりけり」
38)  「榊葉に 心をかけむ 木綿四手を 思えば神も 仏なりけり」
39)  「思いきや 二見浦の 月を見て 明け暮れ袖に 浪かけむとは」
40)  「浪越すと 二見浦に 見えつるは 梢にかかる 霞なりけり」
41)  「岩戸明けし 天つ命の そのかみに 桜を誰か 植ゑはじめけむ」
42)  「神路山 御連にこもる 花盛り こはいかばかり うれしかるらむ」
43)  「この春は 花を惜しまで よそならむ 心を風の 宮にまかせて」
44)  「梢見れば 秋にかぎらぬ 名なりけり 春おもしろき 月読の森」
45)  「さやかなる 鷲の高嶺の 雲間より 影やはらぐる 月読の森」
46)  「鷲の山 月を入りぬと 見し人や 心の闇に 迷うなるらむ」
47)  「神風に 心安くぞ まかせつる 桜の宮の 花の盛りを」
48)  「君も訪へ われも偲ばむ 先立たば 月を形見に 思ひ出でつつ」
49)  「年たけて また越ゆべしと 思いきや 命なりけり 小夜の中山」
50)  「笠はあり その身はいかに なりぬらむ あわれはかなき 天の下かな」
51)  「秋立つと 人は告げねど しられけり 深山のすその 風のけしきに」
52)  「おぼつかな 秋はいかなる 故のあれば すぞろにものの 悲しかるらむ」
53)  「白雲を 翼にかけて 飛ぶ雁の 門田の面の 友慕うなり」
54)  「清見潟 沖の岩越す 白浪に 光をかはす 秋の夜の月」
55)  「風になびく 富士の煙の 空に消えて 行方も知らぬ わが思いかな」
56)  「いつとなき 思いは富士の 煙にて まどろむほどや 浮島が原」
57)  「山里は 秋の末にぞ 思い知る 悲しかりけり 木枯らしの風」
58)  「えは迷ふ 葛の繁みに 妻籠めて 砥上原の 牡鹿なくなり」
59)  「心なき 身にもあわれは しられけり 鴫立つ澤の 秋の夕暮」
60)  「いかでわれ 清く曇らぬ 身となりて 心の月の 影を磨かむ」
61)  「いかがすべき 世にあらばこそ 世をも捨てて あな憂の世やと さらにいとはむ」
62)  「秋はただ 今宵ばかりの 名なりけり 同じ雲井に 月は澄めども」
63)  「白河の 関屋を月の 洩るからに 人の心を とむるなりけり」
64)  「誰住みて あはれ知るらむ 山里の 雨降りすさぶ 夕暮の空」
65)  「都にて 月をあはれと 思ひしは 数にもあらぬ すさびなりけり」
66)  「月見ばと 契り置きてし 故郷の 人もや今宵 袖濡らすらむ」
67)  「朽ちもせぬ その名ばかりを とどめ置き 枯れ野の薄 形見にぞ見る」
68)  「はかなしや あだに命の 露消えて 野辺にや誰も 送り置かれむ」
69)  「立てそめて 帰る心は 錦木の 千束待つべき 心地こそせね」
70)  「身を知れば 人の咎とも 思わぬに 恨み顔にも 濡るる袖かな」
71)  「隈もなき 折りしも人を 思ひ出で 心と月を やつしつるかな」
72)  「あわれとて 人の心の 情あれな 数ならぬには よらぬ嘆きを」
73)  「頼めぬに 君来るやと 待つ宵の 間はふけ行かで ただ明けなましかば」
74)  「逢うまでの 命もがなと 思ひしは 悔しかりける わが心かな」
75)  「きりぎりす 夜寒に秋の なるままに 弱るか声の 遠ざかり行く」
76)  「常よりも 心細くぞ おぼえける 旅の空にて 年の暮るれば」
77)  「憂き身こそ いといながらも あわれなれ 月を眺めて 年の暮るれば」
78)  「一人寝る 草の枕の 移り香は 垣根の梅の 匂いなりけり」
79)  「山賎の 片岡かけて 占むる野の 境に立てる 玉の子柳」
80)  「ほととぎす 都へ行かば 言伝てむ 越え遅れたる 旅のあわれを」
81)  「数ならぬ 身をも心の 持ち顔に 浮かれてはまた 帰り帰にけり」
82)  「これや見し 昔住みける 宿ならむ 蓬が露に 月のかかれる」
83)  「亡き跡の 面影をのみ 身に添えて さこそは人の 恋しかるらめ」
84)  「遥かなる 岩の狭間に 一人いて 人目思はで もの思はばや」
85)  「あはれとて 問う人のなど なかるらむ もの思う宿の 荻の上風」
86)  「枝折せで なお山深く 分け入らむ 憂き事聞かむ 処ありやと」
87)  「情けありし 昔のみなほ 偲ばれて ながらへば憂き 世にもあるかな」
88)  「山里に 憂き世いとはむ 人もがな 悔しく過ぎし 昔語らむ」
89)  「紅葉見て 君が袂や しぐるらむ 昔の秋を 思ひ出でつつ」
90)  「いかでわれ 今宵の月を 身に添えて 死出の山路の 人を照らさむ」
91)  「初秋の 中の五日の 今宵こそ 亡き人数の ほどは見えけれ」
92)  「その折の 蓬が本の 枕にも さこそは虫の 音にはむつれむ」
93)  「澄むと見し 心の月も 現れて この世の闇は 晴れもしにけむ」
94)  「なんとなく さすがに惜しき 命かな ありへば人や 思い知るやと」
95)  「数ならぬ 心の咎に なしはてで 知らせてこそは 身をも恨みめ」
96)  「思い知る 人有明の 夜なりせば 尽きせず物は 思はざらしも」
97)  「面影の 忘らるまじき 別れかな 名残を人の 月にとどめて」
98)  「疎くなる 人を何とて 恨みけむ 知られず知らぬ 折もありしに」
99)  「君去なば 月待つとても 眺めやらむ 東の方の 夕暮の空」
100) 「かしこまる 四手に涙の かかるらな またいつかはと 思ふあわれに」
101) 「何となく 落つる木の葉も 吹く風に 散り行く方を 知られやはせむ」
102) 「山おろす 嵐の音の けはしきは いつ慣やひける 君が住みかぞ」
103) 「世の中を いとふまでこそ 難からめ 仮の宿を 惜しむ君かな」
104) 「頼め置かむ 君も心や 慰むと 帰らむことは いつとはなくとも」
105) 「月の色に 心を清く 染めましや 都を出でぬ わが身なりせば」
106) 「世の中を 背く便りや なからまし 憂き折りふしに 君が逢わずは」
107) 「松山の 浪に流れて 寄る舟の やがてむなしく なりにけるかな」
108) 「ここをまた われ住み憂くて 浮かれなば 松はひとりに ならむとすらむ」
109) 「遁れなく ついに行くべき 道をさは 知らではいかが 過ぐすべからむ」
110) 「月を見て 心乱れし いにしへの 秋にもさらに めぐりあいけり」
111) 「わりなしや 氷る筧の 水ゆゑに 思い捨てにし 春ぞ待たるる」
112) 「深山こそ 雪の下水 解けざらめ 都の空は 春めきぬらむ」
113) 「大原は 比良の高嶺の 近ければ 雪ふるほどを 思いこそやれ」
114) 「今宵こそ 思い知るらめ 浅からぬ 君に契りの ある身なりけり」
115) 「道変わる 御幸悲しき 今宵かな 限りの旅と 見るにつけても」
116) 「訪はばやと 思い寄らでぞ 嘆かまし 昔ながらの 憂き身なりせば」
117) 「願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ」
118) 「仏には 桜の花を たてまつれ わが後の世を 人訪らはば」


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