
京都市東山区 建仁寺 模写「風神雷神図 光悦作」
J・ハーバーマス著 三島健一訳「デモクラシーか資本主義か」
岩波現代文庫(2019年6月)(その11)
第Ⅱ部
第5章) 我々にはヨーロッパが必要だ
2010年5月20日「ツアイト」紙に掲載された政治論文である。ギリシャ危機を欧州の政治的統合と関連させて考える意思のないメルケル首相を激しく批判した。ドイツの金が他国のためやヨーロッパのために使われるのを非難する保守的な大衆紙を恐れたメルケル首相は、同年5月8日に行われる首脳会議で、ヨーロッパ安定化メカニズムをしぶしぶ承認した。他の国の首脳の姿勢も併せて批判される。この安定化プロセスは本来なら関係にないはずのIMFの介入によって生まれた。一般市民の要望から新たな解決策が出てきたわけではない。重要なことは世論調査に合わせて政治をすることではなく、市民たちの議論によって政治の方向が見えてくることである。5月9日はロシアでは対独戦勝記念日を祝った。メルケル首相はモスクワの赤の広場でプーチン大統領と並んで立った。最大の犠牲を払ったロシア軍に敬意を表した。その足でメルケル首相はブリュッセルに飛び欧州首脳会議に臨んだ。メルケル首相は保守的大衆紙と金融市場の二つの大量破壊兵器をまえに苦悩した。ギリシャ危機による株式市場の大暴落を受け、アメリカ大統領、国際通貨基金IMF、欧州中央銀行ECBの強い圧力下で、欧州員会が全体としてEUのため市場で信用を引き受けることになった。この「危機メカニズム」はEUの仕事の基盤を変えることになった。今やユーロ圏の納税者は加盟国の国家予算リスクの保証義務を共同して負うことになった。これは間違いなく「パラダイム・シフト」であった。金融危機は政治同盟が未完のまま放置されていることに気づかせた。ヨーロッパ次元で加盟国の経済政策を効果的に相互調整する制度ができていないのだ。「ヨーロッパ経済政府」と不完全な政治的統一の間に意図的な不均衡があった。加盟国の議会の予算権への欧州委員会の介入は、EU憲法条約に違反し、EUにおける民主主義の欠如をあらわにすることに他ならない。ユーロ圏の加盟国諸国は、ヨーロッパの協力関係を深化させるか、ユーロを放棄するかの2者択一を迫られている。この政治的論議には規範的な次元に根差したメンタリティの変化が必要である。金融危機から学んだことは2009年4月のロンドンサミットG20 の文書化されているとはいえ、美辞麗句ではない。暴走し始めた資本主義を制御することは可能であろうか。2008年起きたことは資本主義の歴史で初めての事であった。金融市場を動因にした世界経済システムの中枢が破局から救われたのは各国政府のおかげではなく、金融機関の資本金ではなく、納税者の税金の保証のおかげであった。資本主義はもはや自分の力では再生することはできない。ここから国々の国境を越えて、一緒にヨ―ロッパの運命を共有しているという意識を持たなければならない。
(つづく)
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