あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

中佐最近の書信・十月十六日  『 少しのことで長い間曇つた心を持つていてはいけないよ 』

2022年02月20日 12時43分46秒 | 相澤中佐の片影


相澤三郎中佐


昭和十年十月十三日、長女宣子  「 衛戍刑務所にて接見・・・学校の件 」
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相澤中佐の片影
(三 )  中佐最近の書信
十月十六日  ( 正彦殿宛 )


昨日は宣子ねーさんが元氣なく訪れてきたことは
本十四日朝になつてその理由がわかりました。
父は覺悟のことであるからなんとも思はない。
福山で別れる時言つたことを心に銘じて
少しのことで長い間曇つた心を持つていてはいけないよ。
生死は命あり、唯時所を得るのみであります。
獅子は三日にして可愛い赤坊を千仭の谷に投ずるではありませんか。
紊りに憂愁を以て忠魂を損ずることは嚴にいましめなさい。
想起せよ。
大義桜井驛前途茫々として妖雲天に迷ふも別に弱氣心を起すべきに非ず。
唯正に聖訓を奉戴して進みなさい。
妖雲は自ら消散します。
正彦は朝ねぼーではないか。
天気の朝は富士山が見える筈です。
未だ左手で書描する癖がとれないではないか。
大部皆上手になりましたねー。
おかーさんの言ふことをよく守つて皆一生懸命に勉強しなさい。
おとーさんは非常に元気だよ。
父より
正彦殿
おかーさんや、宣、靜ねーさんや道子ちゃんにも、尚大野大佐殿にもよろしく。

述懐    十月六日
神州男子坐大義    盲虎信脚不堪
誰知萬里一条鐵    一劍己離起雨情
述懐    十月十一日
丹心挺身揮宝刃    妖邪移影無常観
唯膺聖恩期一事    二八閑居無秋心
述懐    十月十五日
善勝惡敗浮雲如    危乎同胞八千萬
永夜靜宵間大空    天邊拂雲仁兄誠
 呉々も皆元氣でやりなさい。さようなら。

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