あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

中佐最近の書信・八月十四日 『 母の至情を心肝に銘じ毎日励むこと 』

2022年02月23日 09時00分40秒 | 相澤中佐の片影


相澤三郎中佐

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相澤中佐の片影
(三 )  中佐最近の書信
八月十四日 ( 宣子殿宛 )

「 親の命に意見を傳ふてもよい 」
と先生から聞いたと云ふことを誤つてはいけない。
大事な事だから説明する。
父三郎は幼少のころ評判の親孝行だつたが、之は全く恥しい次第であるが、
親を懐ふ至情は幼年學校 殊に中央幼年學校で幾夜人知れず泣いたものである。
是は親が有難い懐しい余りで理屈ではない。
親 殊に父親の御薫陶で大君を懐ふことも漸次増し
近頃は中央幼年學校時代と同様に大君を懐ふて人知れず泣くことがあるばかりでなく、
相濟まぬ 「 壯心劍を横へ功なきを恥づ 」 と南洲が申されたが、
同様に全く申譯ないと思ふ流涕。
この方が正しいと思つた行ひに対して若し親が何んとか言はれたら、
始めて親に謹んで意見を申し上ぐるも惡くないだらうが、
御前等の母が思はるる至情を心肝に銘じ妹弟に率先し毎日励むことを要望する。
先日海水浴から歸り静子が下駄の緒を切らした時、
迎へに来て居つた母が徒足になつて母の履物を静子に与へられたのを見ただらう。
忘れてはならないぞ。
しからないで妹や弟のよく云ふことを聞くやうに工夫しなさい。
御前等は然し皆おとーさんの幼いときよりも親孝行だよ。
荷物は返送して
尠くも来年春までは居を更へないで皆學校も更へないで居つた方がよいと思ふ。
此のことは母とも相談してきめたらよいと思ふ。
父は殊の外丁寧な麹町憲兵分隊の御世話になつて
其の後も亦此所に各位の手厚い御取扱ひを受けて出發前の下痢も全快し
何一つ不自由不足なく壯健で居る。
皆呉々も安心せよ。一同の健康を祈る。
父三郎
御一同様

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