あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

本庄日記・昭和九年二月八日 「 農民亦自ら楽天地あり 」

2017年02月22日 16時58分16秒 | 本庄日記


本庄日記
昭和九年

二月七日
午前、現林陸相の対露方針に付き奏上す
( 当日朝 林陸相に確めたる結果に付き )
即ち 林が前陸相より、露国に対し強硬なる態度、
方策に出づると云ふが如きは断じてなしとの意味なり。
尚、此機会に繰り返して将校等が、部下の教育統率上政治に無関心なる能はずとする事情を述べ、
同時に政治上の意見等ありとすれば、其筋を経て改善の方法を申言すべく、
断じて直接行動すべからずとの方針なる旨言上したり。
然る処、
二月八日
午前十時 之に対し、
更に御下問あり
将校等、殊に下士卒に尤も近似するものが農村の悲境に同情し、
関心を持するは止むを得ずとするも、之に趣味を持ち過ぐる時は、却て害あり
との仰せあり。
之に就き、
余儀なく関心を持するに止まり、
決して趣味を持ち、積極的に働きかくる意味にあらざる次第を反復奉答せり。
陛下は此時
農民の窮状に同情するは固より、必要事なるも、
而も 農民亦自ら楽天地あり、
貴族の地位にあるもの必ずしも常に幸福なりと云ふを得ず、
自分の如き欧州を巡りて、自由の気分に移りたるならんも心境の愉快は、
又 其自由の気分に成り得る間にあり。
先帝の事を申すは如何かなれども、其皇太子時代は、極めて快活に元気にあらせられ、
伯母様の処へも極めて身軽るに行啓あらせられしに、
天皇即位後は、万事御窮屈にあらせられ、元来御弱き御体質なりし為め、
遂に御病気と為らせられたる、誠に、畏れ多きことなり。
左様な次第故、農民も其の自然を楽しむ方面をも考へ、
不快な方面のみを云々すべきにあらず、
要するに農民指導には、法理一片に拠らす、道義的に努むべきなり
と 仰せられたり。

陛下の此言葉には、感激恐懼禁ずる能はず、
即ち 荒木前陸相も常に、道義観念を養成するの急務を説き、
斎藤首相の自力更生を要望せらるるも、亦 同意義に出づる所以を奏上す、
只極端なる貧困者に対しては、
余儀なく道義的指導の中に、物質的考慮の止むを得ざるものある所以て附加す。