あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

国防の本義と其強化の提唱 2 『 國防力構成の要素 』

2016年11月13日 20時14分41秒 | 其の他

 
國防の本義と其強化の提唱
陸軍省新聞班

本篇は 「 躍進の日本と列強の重圧 」 の姉妹篇として、
國防の本義を明かにし其強化を提唱し、
以て非常局に對する覺悟を促さんが爲配布するものである。

目次
一、國防観念の再檢討
二、國防力構成の要素
 其一  人的要素
 其二  自然要素
 其三  混合要素
三、現下の國際情勢と我が國防
四、國防國策強化の提唱
 其一  國防の組織
 其二  國防と國内問題
 其三  國防と思想
 其四  國防と武力
 其五  國防と経済
五、國民の覺悟
  ( 附表省略 )

一、國防観念の再檢討 の 續き
二、國防力構成の要素
國防の要素は、凡そ國家を構成する凡ての要素を包含する。
而して便宜上之を分類し人的要素、自然要素及び混合要素の三者とする。
 其一、人的要素
人的要素は國防力構成要素中第一義的重要性を有するものである。
而して人的要素が精神力と體力との合成せるものなることは玆に説明する迄もないことである。
而して、國際生存競爭場裡に於ては、正義の維持遂行に對する熱烈なる意識と、
必勝の信念とか人的要素の主體を爲すべきである。
「 勝利は正しき者と、勝たんと意志する者にのみ与へらる 」
とは、凡そ兵を語るものゝ信條とする所、國家間の競爭に於ても此の原則の適用せらる可きは勿論である。
 人的要素の培養 
 一然らば、右の要素は如何にして培養するか。
1、建國の理想、皇國の使命に對する確乎たる信念を保持すること。
 誤まれる人生観、國家観乃至は哲學、宗教、芸術等に基く現時の世界苦を除き、
更生の光を与ふべき、皇國現下の重責に目醒め、之が徹底的、把握實現を庶幾せんとするの心を養ふこと。
2、盡忠報國の精神に徹底し、國家の生成發展の爲め、自己滅却を涵養すること。
 國家を無視する國際主義、個人主義、自由主義を芟除し、眞に擧國一致の精神に統一すること。
玆に一般の注意を喚起せんと欲するは、列強は今や宣傳工作の秘術を盡して、
前述の如き非國家的思想を普及瀰漫びまんせしめ、或は國體の改變を企圖し、
軍民離間を策し、祖國敗戰を謀る等の方法により國際競爭を忌避し、戰意を抛棄ほうきせしめ、
以て最後の勝利を求めんとする思想戰的謀略を常用しつゝあることである。
從つて後に述べんとする、國防目的の爲めの國家組織の改善と共に、
國民の精神統制 即ち思想戰體系の整備は、國防上一刻も猶餘遅滞を許さぬ重要な政策なのである。
3、健全なる精神は健康なる身體に宿る。
 就中武力戰の主體を爲す兵員を補充すべき國民の體育を重視することは言を俟たぬ所である。
又 深刻なる國際文化競爭の闘士として内外に活躍せんが爲めにも、
戰時遭遇することある可き長期の經濟封鎖に堪へ得んが爲めにも、
國民保健政策に於て些の遺漏あることを許さぬのである。
萬一物質文化の余弊により、國民體格の低下を來す様なことあらば、
そは國防上看過し得ざる重大問題である。
4、次に國民が國際競爭の闘士として、自己を没却して君國の爲め奮闘せんが爲めには、
 其生活の安定を必要とし、兵士をして後顧の憂なく戰場に立たしめんが爲めには、
銃後に不安あらしめてはならぬ。
玆に國防と一般國策との不可分の關係を見るのである。
既刊の 「 近代國防より見たる蘇聯邦 」 に述べた如く、
蘇國の近代國防観念に立脚する國防組織の規模の廣大なる、
又 其の著々として實現する實行力に至つては、眞に驚嘆に値するものがあるが、
惜しい哉 共産主義自體の有する欠陥と國政の適正ならざる爲め生じた國民生活の不安定と、
國民の窮乏とは國民的気力を殺ぎ、不平不満は擧國一致的精神を喪失せしめ、
延て必勝の信念涵養の上に大なる禍となりつゝある。
輓近ばんきん、皇軍の軍紀、國民精神等を中傷し、或は大和魂恐る可らず等の宣傳によつて、
志氣の振作に努力しつゝあるは上述の消息を遺憾なく物語りつゝあるものである。
玆に於て結論し得ることは、國民の必勝信念と國家主義精神の培養の爲めには、
國民生活の安定を圖るを要し、
就中、勤勞民の生活保障、農村漁村の疲弊の救濟は最も重要なる政策であると謂ふことである。
 二、人口及民族問題
 人口問題
精神要素に就ては既に述べた。
次に考慮すべきは人的要素としての人口及民族の問題である。
人口は今や日本内地にのみで六千五百萬、全國で九千二百萬、満州國と共同防衛の場合を考ふれば
一億二千萬に達し、米蘇に匹敵する堂々たる世界の大國である。
人的要素に關する限りに於ては有利なる狀態に在りと謂ふべきである。
 民族問題
次は民族の問題である。
蘇國の如きは百八十有余の種族よりなり民族間の反目甚しく、
殊に三千萬の人口を擁するウクライナ人の如きは機會だにあらば獨立せんとの希望に燃えて居る。
独國が同化せざる獅子身中の虫たる猶太人に、如何に禍せられたるかはヒツトラーの、
猶太人排斥の徹底せる政策に見るも明瞭である。
米國亦各種の民族の混合國家であり、就中一千二百萬の黒奴を有する事は彼の永久の悩みである。
國家内の民族を相反目せしめ、獨立運動を支援し、母國の崩壊を企圖するは、
近代戰爭に於ける思想戰の重大戰略であることに想到すれば、
民族問題は國防國策上輕視すべからざるものである。
本件に関しては左記事項に留意を要する。
 イ、民族心理を十分研究し、統治上錯誤なきを要す。
 ロ、皇道精神を徹底せしめ、國家意識の鞏化を圖る。
 ハ、敵側の民族的分壊策謀に乗ぜられざる思想的對策を講ずること。

 其二、自然要素
 一、領土
領土の廣狭、地勢、可耕面積の廣狭、海岸線の延長、國境、隣邦との關係等は國防上重大なる關係を持つ。
就中、領土の地理的位置は武力戰は勿論經濟的戰爭に於て極めて重要なる価値を持つものである。
皇國が東亜の外郭とも稱すべき位置に在ることが、戰略的には勿論、
後略的に東亜の平和の守護者たるの天賦の使命を有するに至らしめた一つの素因である。
世界全人口の半を越ゆる十一億の人口を抱擁する地方に位置し、
世界の宝庫の稱ある支那、印度、南洋を指呼の間に見、
之を連絡するに交通自在の海洋を以てせることが、
如何に皇國將來の經濟發展を有利ならしめあるか。
皇國が海洋に囲繞せられあることは、國防上極めて重要なる利點なると共に、
他面一國の運命を制海權の得喪に託するの危険性をも包含するものである。
蘇満國境を介して、強大なる軍備を有する蘇國と對し、
太平洋を隔てゝ世界最大を誇る米國海軍の存在することは、
皇國軍備の上に重大なる關係を持つ。
殊に輓近 航空の發達と共に行動半径千五百粁以上に及ぶ優秀なる爆撃機出現するに及び、
海洋よりは航空母艦に對し、
又陸上よりは浦塩、上海、フイリッピン、カムチャッカ、アリューシャン等の各方面に對し、
國土上空を暴露するに至つた。
強力なる航空兵力を速に整備するの必要もそこから生まれて來る。
 二、資源
武力戰の場合の戰用資源の充實と補給の施設とを考慮すると共に、
經濟戰對策としての資源の獲得、經濟封鎖に應ずる諸準備に於て遺憾なきを期するを要する。
資源に就て考慮すべき件は
 イ、資源の調査
 ロ、戰用資源の貯蓄
 ハ、資源の培養
 ニ、資源の開發
等であらう。

 其三、混合要素
 一、經濟
戰爭の要素としての經濟、
否 戰爭方式としての經濟戰が、重要なる役割を演ずるに至つたのは、
主として世界大戰以來のことに属する。
況や本篇に説く所の國防は、平時の生存競爭たる戰爭をも包含せしめんとするものであり、
其の主體は殆ど經濟戰であると見ることも出來る位である。
從つて經濟が國防の極めて重要なる部門を占むるの點に就ては論議の餘地はあるまい。
經濟戰略に就ては専門家に譲ることゝし 玆に詳述を避ける。
原則として對外的には自由貿易による可きではあるが、
現下の如くブロック對立の時代であり、列国競うて保護貿易を採用し來れる場合には
之に應酬するの對策を講ずるは止むを得ない処である。
之が爲め相互的に輸出入統制を行ひ、価格及數量に或種の制限を附し、
對手國に於て無法なる關税政策或は輸入割當制の如き方法を採るに於ては
我亦報復手段を採用するの已むなきに至るであらう。
全世界の大部分を占むる消費者階級たる大衆の利益の爲めには、
優良品を廉価に提供するを善しとする。
此見地に於て生活程度比較的低き我が國の如き新興國家は、大なる便宜を有するに反し、
英國、和蘭の如き老成國は甚しく不利になる條件下に置かれる。
彼等は英人、蘭人の如き少數支配民族の利益の爲め、
世界大衆たる植民地の有色人種に、高価なる物品を購買せしめんとするもので、
明かに道義に背馳して居る。
之に反し皇國の立場は世界大衆の利益に一致するものであり、
道義的見地よりするも最後の勝利を得べきことは疑を容れない。
萬一彼等が飽迄不正競爭を繼續するに於ては、
皇國としては、場合に依ては破邪顯正の手段として武力に訴ふることあるも 亦已む得ない所であらう。
經濟を對内的見地に於て見る場合は、武力に訴ふることもあるも亦已む得ない所であらう。
經濟を對内的見地に於て見る場合は、武力戰其他の國防力を維持培養するの任務を有して居る。
此見地よりして精神要素と共に頗る重要の役割を演ずべきものである。
國民生活を維持向上せしめつゝ、眞に必要なる國防力を充實せんが爲めには、
尨大なる經費を要し、右の負担に堪へ得る如き經濟機構の整備は、
現在の如き非常時局に於ては當然第一に考慮せらる可き問題である。
日満提携により今や資源に於ては優に如何なる國際競爭にも堪へ得るの情態に在る。
人的要素に於ては日本のみにて九千萬、日満合すれば一億二千萬に達し、
勤勉世界に比類なき活力を擁して居るのである。
此の人力と資源とを組織し運營し、最大限度の効果を發揮し、
以て來る可き經濟戰に備へんとするのが經濟國防の主眼でなくてはならぬ。
 二、技術
科学の進歩は國家を近接せしめ、
往時交戰不可能と考へられた國家間に於てすら戰争を可能ならしむるに至つた。
又 戰場と内地との區別を撤廢せしめ、開戰劈頭より國民の頭上に爆彈が落下する世の中となつたのである。
將來戰は國民全部の戰爭であり、兩國民の智能の戰爭である。
開戦戰當初の新式兵器は直ちに旧式兵器となる。
創造力の大なる國民は將來戰の勝者たり得る國民である。
欧州戰當初誰れか、タンクや毒瓦斯の出現を信じたらう。
無線操縦、殺人光線等は今や夢想の時代を過ぎて實用の時代に入りつつあるであるではないか。
以上の武力戰に就て述べたが、經濟戰に於ても然り。
日本商品の海外飛躍の原因は、圓価安にも因るが技術の優秀も与つて力がある。
武力戰に於ける如く經濟方面に於ても一層の技術の發達、創意、工風の行はれんことを希望する。
此の見地よりして、科學的研究に於ても、無統制の現況より一歩を進め、
合理的、能率的に研究の統制を企圖することが、國防の見地よりして望ましいことである。
更に發明の國家的奨励を鞏化し、資金の供給、研究機關の利用、特許制度の改善 等
緊急焦眉の問題は枚挙擧に遑いとまなき程である。
 三、武力
武力が國防の基幹を爲すことは謂ふ迄もない。
而して本書劈頭に述べたる國防目的達成の爲めには、
海軍に於ては速に華府、倫敦兩條約の不利なる拘束より脱し、
自主的國防權を獲得し、眞に國家の積極的發展を支援し得るに足る兵力を必要とする。
陸軍に於ては、蘇國の駸駸しんしん乎たる軍備擴張に鑑み、
皇國の生命線を確保するに足る兵力を更に充足すると共に、
速かに航空兵力の大擴張を即行し諸方の脅威を除去する必要がある。
民間航空は軍事航空の第二線兵力たるの価値を有するものであり、
其消長は直ちに國軍空中勢力の消長に影響を持つ。
從つて民間航空の發達は武力戰の見地よりして極めて重要なる意義を持つものである。
最後に一言し度きは國防の基幹たる可き我武力は、
皇道の大義を世界に宣布せんとする、破邪顯正の大乗劍であり、
利己的覇道を基調とし、優勝劣敗をのみ念として動く、他國の小乗劍に比す可きものではないという點である。
 四、通信、情報、宣傳
通信は武力戰たると 文化戰たるとを問はず、極めて重要なる要素である。
就中宣傳戰に於ては其の國の全世界に有する通信、宣傳組織如何が直ちに戰爭の勝敗に重大なる影響を持つ。
情報、宣傳勤務が戰爭に如何なる役割を演ずるかは、
彼の世界大戰於て、獨國の宣傳が英仏側の宣傳に壓倒せられ、
遂には帝國主義的侵略國なりと折紙を付けられ、全世界の反感と憎惡とを買ひ、
敗戰の重大なる原因を爲したることを想起すれば分る。
又 近くは満洲事變に於て我が宣傳の拙劣なりし爲め、我正義の主張を十分全世界に徹底せしむるを得ず、
遂に聯盟脱退の餘儀なきに至つた苦き經驗がある。
思想宣傳戰は刃に血塗らずして相手を壓倒し、國家を崩壊し、敵軍を遺滅せしむる戰爭方式である。
識者にして今尚ほ玆に着眼する者少きことは眞に慨しい次第である。
宣傳の要素たる可きものは、新聞雑誌、通信、パンフレット、講演等の言論 及 報道機關、
ラヂオ、映画其他の娯楽機關、展覧會、博覧會等多々あるが、
平時より是等機關の國家的統制を實行し、
平時より展開せられある思想戰對策に遺憾なからしめるひつようがあるのではないか。
××××
( 附言 )
國防要素としては、以上列擧した以外に、尚ほ擧ぐべき事項が多々あるが、
以下本書に述べんとする内容と直接關係なき要素に就ては、記述を省略することにする。

次頁 
国防の本義と其強化の提唱 3 『 現下の国際情勢と我が国防 』 に 続く
現代史資料5  国家主義運動2  から


國防の本義と其強化の提唱 3 『 現下の國際情勢と我が國防 』

2016年11月13日 05時33分31秒 | 其の他

 
國防の本義と其強化の提唱
陸軍省新聞班

本篇は 「 躍進の日本と列強の重圧 」 の姉妹篇として、
國防の本義を明かにし其強化を提唱し、
以て非常局に對する覺悟を促さんが爲配布するものである。

目次
一、國防観念の再檢討
二、國防力構成の要素
 其一  人的要素
 其二  自然要素
 其三  混合要素
三、現下の國際情勢と我が國防
四、國防國策強化の提唱
 其一  國防の組織
 其二  國防と國内問題
 其三  國防と思想
 其四  國防と武力
 其五  國防と經濟
五、國民の覺悟
  ( 附表省略 )

二、國防力構成の要素 の 續き
三、現下の國際情勢と我が國防
 世界的不安と日本
世界大戰における經濟的浪費の決濟難と、ヴエルサイユ條約の非合理的処理とに起因して、
未曾有の政治、經濟的の不均衡、不安定を招來した。
大戰に參加せし國も爲らざる國も、等しく直接間接に此の影響を蒙り、
今や世界を擧げて、不況不安に呻吟するに至つた。
此の世界的の苦難より免れんと焦慮する列國は、競うて理想主義的国際協調を棄て、
現實に即する國家主義に趨り、爲めに大戰後暫く世界を支配せし平和機構の破綻となり、
世界を擧げて政治及び經濟的の泥仕合を現出し、
主要列強を中心として利害を同じうする國々を以て結成するブロックの樹立とはなつたのである。
此間皇國亦其の渦中に巻込まれたのであるが、却つて之によつて不良なる企業を清算し、
産業の合理化を行ふ等、將來への飛躍を準備しつゝあつたのである。
偶々極東の風雲急を告げ、満洲事變突發し、支那の排日貨の爲め、
新市場獲得の必要に迫られたのと、圓価暴落に起因し、
皇國商品は支那を除く全世界の市場に怒濤の如く流出するに至り、
皇國未曾有の貿易時代を現出した。
一方満洲國の出現と共に、皇國の東亜に於ける地位確立し、
日満提携の結果は両國の前途に洋々たる希望を輝かしむることゝなつたのである。
これが爲め經濟不況に呻吟し、國際政局不安に懊悩する列強は、
等しく皇國貿易の進展を嫉視し、その政治的勢力の檯頭に不安を抱くに至り、
各種の手段により我が政治的經濟的の躍進に對し壓迫を加へ來つたのである。
現在の情勢を以て推移せんか、經濟的には遂に皇國の商品は到る処の市場より駆逐せられ、
皇國移民は到る処 締め出しを喰ひ、政治的には遂に孤立無援となり、
第二の獨國運命に陥るの虞無しといひ得ざるに情勢に在る。

 一九三五--六年の危機
皇國は更に上述の危機の前哨戦とも稱すべき 所謂一九三五--六年の危機に直面しつゝある。
 海軍會議と米國
明年開催せらる可き海軍會議に於ては、皇國は如何なる犠牲を拂ふとも絶對に國防自主權を獲得するを要し、
斷じて從來の如き比率主義の條約を甘受することは出來ない。
既に述べたる如く、國防は國家生成發展の基本的活力作用であり、
從つて絶對的のものであつて、斷じて他國の干渉を許すものでない。
比率を鞏要せらるゝ如きは獨立國の面目上よりするも斷じて許容し得べからざるものである。
更に我が海軍力の消長は、所謂太平洋問題の解決 及 對支政策の成敗を意味する。
其理由は玆に縷説るせつするの遑いとまを有しないが、約言すれば、
米國が皇國に對し絶對優勢の海軍を保持せんとするは、
皇國海軍を撃滅し得べき可能性ある實力を備へ、
之によつて米國の對支政策を支援し鞏行せんが爲めである。
右は臆説でも何でもない。
エベリー提督は左の如く公言して居るのである。
「 モンロー主義擁護の爲めには、防勢海軍で足りるが、
 支那の門戸開放主義遂行の爲めには攻勢的海軍を必要とす 」

 支那の態度
支那亦傳統的以夷制夷の策を棄てず、又皇國の極東平和に貢献せんとする眞意を解せず、
常に列強の力を借り 皇國を排撃せんとするの政策をとり來つている。
其最なるものは聯盟に哀訴して満洲事變を解決せんとしたことである。
今や聯盟の無力は全世界の定評であり、支那亦其頼むに足らぬことを自覺し、
列強の利用は結局に於て支那分割又は國際管理への道程に外ならぬと云ふことが、
漸く一部に了解せられ、眞に日支提携を希望するの識者も現はれつゝある。
誠に極東平和の爲め慶賀すべきことである。
が、然し、一方依然所謂欧米派なるものありて、
皇國の所謂一九三五--六年の危機に乗じ、
満洲の奪回を企圖し、
或は皇國の東亜に於ける政治的地位の轉落を策謀すると傳へられて居る。
此の如き策動は
究局に於て支那の前途を誤り、極東を混亂に導くものであつて、
皇國の斷じて容認せざる処、
而して右の如き策動は、皇國の海軍力が米海軍力に壓倒せらるゝか否かによつて、
或は鞏く主張せられ、或は然らざることは、過去の海軍軍縮會議に於て、
皇國が英米の威壓を蒙れる都度、支那に排日運動起り、
其都度出兵を餘儀なくせられあるに鑑みるも明瞭である。
從つて今回の海軍會議に於ける皇國の主張が貫徹するか否かは、
延て支那今後の對日動向決定の爲の指針となるべく、
極東平和の確立するか否かは一に懸つて會議の成果如何に在りと謂ふべきである

 聯盟脱退と委任統治
明年三月を以て愈々皇國の聯盟脱退は効力を發生する。
満洲事變干与によつて鼎かなえの輕重を問はれたる聯盟は、今や本問題に深入りする事を欲せず、
從つて支那側が恒例によつて策動するとしても、大なる反響なからんと観察せられるが、
本件に關聯して、委任統治問題の上程を見ることがないとは保障されない。
抑々委任統治は平和會議の際 旧聯合國側大國會議に於て決定したものであつて、
聯盟から委任せられたものではない。
從つて脱退するとも皇國は之を永久に保有すべき法律的根拠があり、
萬一之が奪還を圖するものあるも實質、皇國に決意ある限り何等懸念の要なきものと考へられる。

 蘇聯邦と極東政策
次は蘇國との關係に就て一言する。
蘇國の近情と皇國との關係に就ては
既に 「 近代國防より見たる蘇聯邦 」 に詳述して置いたから玆には再説しない。
要するに一九三七年を以て其の第二次五年計畫が完成する。
又皇國及び支那を除く近隣諸邦とは悉く不侵略又は侵略國定義條約を締結し、
世界の視聽を集めた聯盟加入は遂に實現を見、又昨今東欧ロカルノ條約の締結を策して居る。
斯くして愈々西方に対する彼の不安は輕減し、
今や全力を擧げて、極東政策遂行に向つて邁進し來らんとしつゝあるのである。
既に世人周知の如く、彼は一億六千万の人口に對し、
七十六個師團百三十萬の兵力と三千機の飛行機を装備している。
我は満洲國を合し人口一億二千萬人なるに對し、
國防兵力は満洲國軍を合すめも僅か三十萬人、飛行機千機内外に過ぎない。
而して赤軍は更に一九三七年迄には如何なる陣容を整ふるか逆賭し難いものがある。
又極東には既に二十萬の兵員、五百機の飛行機、一千台の戰車 ( 装甲自動車を含む ) と
二十隻内外の潜水艦とを集中し、
國境には一聯の近代的永久築城を設備し鋭意戰備の充實を圖りつゝある。
最近頻々として蘇國國境に不法事件發生し、
更に我特務機關襲撃、鐵道破壊の陰謀を企圖する等傍若無人の態度に出で、
一方蘇國民に對しては皇軍の無力を宣傳し、必勝の信念の附与に努むる等、
彼等の眞意那辺に存するかを窮はしむるに足るものがある。
皇國は今にして、此の強大なる赤軍に對應するの兵力装備、就中空軍の力を充實するにあらずんば、
他日噬脺の悔を胎す虞なきを保し難い。
就中在満兵力の充實を必要とする事は論議の餘地なき所である。

 非常時克服の對策
皇國を繞る國際情勢は、一九三五年の海軍會議に於て、英米と正面衝突となる可能性あり、
或は會議の決裂となつて異常の緊張を示すかも知れないが、
此の難関こそ實に皇國將來の浮沈と極東平和の成否とを決定する分岐点なるを以て、
國防安全感を満足せしむ可き海軍側の自主的國防の要求に對しては、
如何なる犠牲を拂つても之を充實し、以て來らんとする國際危機に應ずべき決意を必要とする。

次に蘇國が全力を擧げ極東經營に邁進し來ることは、
我が對満政策に重大なる影響を及ぼすべく、
事態によつては何時自衛上必要なる手段を要する事態發生するやも知れない。
右は極力回避すべきであるが、
彼にして挑戰し來るに於ては、斷乎之を排撃するの用意が必要である。
之が爲め、陸軍装備の充實 竝に空軍の擴充は喫緊であり、
海軍問題と共に國防上絶對不可欠の要求である。

次は英國其他にたいする貿易戰である。
ブロック經濟政策は今後愈々深刻化すべく、
欧米に於ける經濟上の行詰りを極東に於て解決せんとして、
列強が支那市場に殺到し來る事も豫想せねばならぬ。
玆に於てか吾人は 全く個人の利害を超越し、
眞の擧国一致を以て經濟及貿易統制政策を斷行し、
併せて新市場の獲得、支那に於ける旧市場の回復を圖り
以て危機を突破する可き對策を講ぜねばならぬ。
之を要するに、現下の非常時局は、協調外交工作のみによつて解消せしめ得る如き、
派生的の事態ではなく、大戰後世界各國の絶大なる努力にも拘らず、
運命的に出現した世界的非常時であり、又満洲事變と聯盟脱退とを契機として、
皇國に向つて与へられた光榮ある試練の非常時である。
吾人は姑息偸案の回避解消策により一時を糊塗するが如き態度は須らく之を嚴戒し、
与へられた運命を甘受して、此機会に國家百年の大計を樹立するの決意と勇氣とがなくてはならぬ

次頁 
国防の本義と其強化の提唱 4 『 国防国策強化の提唱 』  に 続く
現代史資料5  国家主義運動2  から