あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

國防の本義と其強化の提唱 3 『 現下の國際情勢と我が國防 』

2016年11月13日 05時33分31秒 | 其の他

 
國防の本義と其強化の提唱
陸軍省新聞班

本篇は 「 躍進の日本と列強の重圧 」 の姉妹篇として、
國防の本義を明かにし其強化を提唱し、
以て非常局に對する覺悟を促さんが爲配布するものである。

目次
一、國防観念の再檢討
二、國防力構成の要素
 其一  人的要素
 其二  自然要素
 其三  混合要素
三、現下の國際情勢と我が國防
四、國防國策強化の提唱
 其一  國防の組織
 其二  國防と國内問題
 其三  國防と思想
 其四  國防と武力
 其五  國防と經濟
五、國民の覺悟
  ( 附表省略 )

二、國防力構成の要素 の 續き
三、現下の國際情勢と我が國防
 世界的不安と日本
世界大戰における經濟的浪費の決濟難と、ヴエルサイユ條約の非合理的処理とに起因して、
未曾有の政治、經濟的の不均衡、不安定を招來した。
大戰に參加せし國も爲らざる國も、等しく直接間接に此の影響を蒙り、
今や世界を擧げて、不況不安に呻吟するに至つた。
此の世界的の苦難より免れんと焦慮する列國は、競うて理想主義的国際協調を棄て、
現實に即する國家主義に趨り、爲めに大戰後暫く世界を支配せし平和機構の破綻となり、
世界を擧げて政治及び經濟的の泥仕合を現出し、
主要列強を中心として利害を同じうする國々を以て結成するブロックの樹立とはなつたのである。
此間皇國亦其の渦中に巻込まれたのであるが、却つて之によつて不良なる企業を清算し、
産業の合理化を行ふ等、將來への飛躍を準備しつゝあつたのである。
偶々極東の風雲急を告げ、満洲事變突發し、支那の排日貨の爲め、
新市場獲得の必要に迫られたのと、圓価暴落に起因し、
皇國商品は支那を除く全世界の市場に怒濤の如く流出するに至り、
皇國未曾有の貿易時代を現出した。
一方満洲國の出現と共に、皇國の東亜に於ける地位確立し、
日満提携の結果は両國の前途に洋々たる希望を輝かしむることゝなつたのである。
これが爲め經濟不況に呻吟し、國際政局不安に懊悩する列強は、
等しく皇國貿易の進展を嫉視し、その政治的勢力の檯頭に不安を抱くに至り、
各種の手段により我が政治的經濟的の躍進に對し壓迫を加へ來つたのである。
現在の情勢を以て推移せんか、經濟的には遂に皇國の商品は到る処の市場より駆逐せられ、
皇國移民は到る処 締め出しを喰ひ、政治的には遂に孤立無援となり、
第二の獨國運命に陥るの虞無しといひ得ざるに情勢に在る。

 一九三五--六年の危機
皇國は更に上述の危機の前哨戦とも稱すべき 所謂一九三五--六年の危機に直面しつゝある。
 海軍會議と米國
明年開催せらる可き海軍會議に於ては、皇國は如何なる犠牲を拂ふとも絶對に國防自主權を獲得するを要し、
斷じて從來の如き比率主義の條約を甘受することは出來ない。
既に述べたる如く、國防は國家生成發展の基本的活力作用であり、
從つて絶對的のものであつて、斷じて他國の干渉を許すものでない。
比率を鞏要せらるゝ如きは獨立國の面目上よりするも斷じて許容し得べからざるものである。
更に我が海軍力の消長は、所謂太平洋問題の解決 及 對支政策の成敗を意味する。
其理由は玆に縷説るせつするの遑いとまを有しないが、約言すれば、
米國が皇國に對し絶對優勢の海軍を保持せんとするは、
皇國海軍を撃滅し得べき可能性ある實力を備へ、
之によつて米國の對支政策を支援し鞏行せんが爲めである。
右は臆説でも何でもない。
エベリー提督は左の如く公言して居るのである。
「 モンロー主義擁護の爲めには、防勢海軍で足りるが、
 支那の門戸開放主義遂行の爲めには攻勢的海軍を必要とす 」

 支那の態度
支那亦傳統的以夷制夷の策を棄てず、又皇國の極東平和に貢献せんとする眞意を解せず、
常に列強の力を借り 皇國を排撃せんとするの政策をとり來つている。
其最なるものは聯盟に哀訴して満洲事變を解決せんとしたことである。
今や聯盟の無力は全世界の定評であり、支那亦其頼むに足らぬことを自覺し、
列強の利用は結局に於て支那分割又は國際管理への道程に外ならぬと云ふことが、
漸く一部に了解せられ、眞に日支提携を希望するの識者も現はれつゝある。
誠に極東平和の爲め慶賀すべきことである。
が、然し、一方依然所謂欧米派なるものありて、
皇國の所謂一九三五--六年の危機に乗じ、
満洲の奪回を企圖し、
或は皇國の東亜に於ける政治的地位の轉落を策謀すると傳へられて居る。
此の如き策動は
究局に於て支那の前途を誤り、極東を混亂に導くものであつて、
皇國の斷じて容認せざる処、
而して右の如き策動は、皇國の海軍力が米海軍力に壓倒せらるゝか否かによつて、
或は鞏く主張せられ、或は然らざることは、過去の海軍軍縮會議に於て、
皇國が英米の威壓を蒙れる都度、支那に排日運動起り、
其都度出兵を餘儀なくせられあるに鑑みるも明瞭である。
從つて今回の海軍會議に於ける皇國の主張が貫徹するか否かは、
延て支那今後の對日動向決定の爲の指針となるべく、
極東平和の確立するか否かは一に懸つて會議の成果如何に在りと謂ふべきである

 聯盟脱退と委任統治
明年三月を以て愈々皇國の聯盟脱退は効力を發生する。
満洲事變干与によつて鼎かなえの輕重を問はれたる聯盟は、今や本問題に深入りする事を欲せず、
從つて支那側が恒例によつて策動するとしても、大なる反響なからんと観察せられるが、
本件に關聯して、委任統治問題の上程を見ることがないとは保障されない。
抑々委任統治は平和會議の際 旧聯合國側大國會議に於て決定したものであつて、
聯盟から委任せられたものではない。
從つて脱退するとも皇國は之を永久に保有すべき法律的根拠があり、
萬一之が奪還を圖するものあるも實質、皇國に決意ある限り何等懸念の要なきものと考へられる。

 蘇聯邦と極東政策
次は蘇國との關係に就て一言する。
蘇國の近情と皇國との關係に就ては
既に 「 近代國防より見たる蘇聯邦 」 に詳述して置いたから玆には再説しない。
要するに一九三七年を以て其の第二次五年計畫が完成する。
又皇國及び支那を除く近隣諸邦とは悉く不侵略又は侵略國定義條約を締結し、
世界の視聽を集めた聯盟加入は遂に實現を見、又昨今東欧ロカルノ條約の締結を策して居る。
斯くして愈々西方に対する彼の不安は輕減し、
今や全力を擧げて、極東政策遂行に向つて邁進し來らんとしつゝあるのである。
既に世人周知の如く、彼は一億六千万の人口に對し、
七十六個師團百三十萬の兵力と三千機の飛行機を装備している。
我は満洲國を合し人口一億二千萬人なるに對し、
國防兵力は満洲國軍を合すめも僅か三十萬人、飛行機千機内外に過ぎない。
而して赤軍は更に一九三七年迄には如何なる陣容を整ふるか逆賭し難いものがある。
又極東には既に二十萬の兵員、五百機の飛行機、一千台の戰車 ( 装甲自動車を含む ) と
二十隻内外の潜水艦とを集中し、
國境には一聯の近代的永久築城を設備し鋭意戰備の充實を圖りつゝある。
最近頻々として蘇國國境に不法事件發生し、
更に我特務機關襲撃、鐵道破壊の陰謀を企圖する等傍若無人の態度に出で、
一方蘇國民に對しては皇軍の無力を宣傳し、必勝の信念の附与に努むる等、
彼等の眞意那辺に存するかを窮はしむるに足るものがある。
皇國は今にして、此の強大なる赤軍に對應するの兵力装備、就中空軍の力を充實するにあらずんば、
他日噬脺の悔を胎す虞なきを保し難い。
就中在満兵力の充實を必要とする事は論議の餘地なき所である。

 非常時克服の對策
皇國を繞る國際情勢は、一九三五年の海軍會議に於て、英米と正面衝突となる可能性あり、
或は會議の決裂となつて異常の緊張を示すかも知れないが、
此の難関こそ實に皇國將來の浮沈と極東平和の成否とを決定する分岐点なるを以て、
國防安全感を満足せしむ可き海軍側の自主的國防の要求に對しては、
如何なる犠牲を拂つても之を充實し、以て來らんとする國際危機に應ずべき決意を必要とする。

次に蘇國が全力を擧げ極東經營に邁進し來ることは、
我が對満政策に重大なる影響を及ぼすべく、
事態によつては何時自衛上必要なる手段を要する事態發生するやも知れない。
右は極力回避すべきであるが、
彼にして挑戰し來るに於ては、斷乎之を排撃するの用意が必要である。
之が爲め、陸軍装備の充實 竝に空軍の擴充は喫緊であり、
海軍問題と共に國防上絶對不可欠の要求である。

次は英國其他にたいする貿易戰である。
ブロック經濟政策は今後愈々深刻化すべく、
欧米に於ける經濟上の行詰りを極東に於て解決せんとして、
列強が支那市場に殺到し來る事も豫想せねばならぬ。
玆に於てか吾人は 全く個人の利害を超越し、
眞の擧国一致を以て經濟及貿易統制政策を斷行し、
併せて新市場の獲得、支那に於ける旧市場の回復を圖り
以て危機を突破する可き對策を講ぜねばならぬ。
之を要するに、現下の非常時局は、協調外交工作のみによつて解消せしめ得る如き、
派生的の事態ではなく、大戰後世界各國の絶大なる努力にも拘らず、
運命的に出現した世界的非常時であり、又満洲事變と聯盟脱退とを契機として、
皇國に向つて与へられた光榮ある試練の非常時である。
吾人は姑息偸案の回避解消策により一時を糊塗するが如き態度は須らく之を嚴戒し、
与へられた運命を甘受して、此機会に國家百年の大計を樹立するの決意と勇氣とがなくてはならぬ

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国防の本義と其強化の提唱 4 『 国防国策強化の提唱 』  に 続く
現代史資料5  国家主義運動2  から


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