あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

高橋是清 ・ 天誅の由

2016年11月02日 04時16分09秒 | 其の他

或る人から 高橋蔵相を殺害した理由を聞かれた。
人間的な魅力もあり国民から尊敬されて
一般のにんきもある あのような人を襲撃の対象にしたりするから、
二・二六事件は世間から見放されたのだと言われた。
私も
「 まことにそのように思うけれども 」
と 前置きして、
当時の理由を一言説明した。

高橋蔵相は、
かつて経済界の危機に際しては全力を挙げて、これに対処した。
しかし 不作の年の農民の救済に対しては冷淡であった。
これは当時の書物にもそのような事実が書いてあった。
当時、荒木陸軍大臣は 農村の窮状を見かねて大事な陸軍の予算の一部をさいて流用した程である。
また 高橋蔵相は、
当時増大してゆく軍事費に歯止めをかけて、これを抑制したが、
軍事費の削減は大陸の野に戦っている兵士の尊い血潮によって償つぐなわれている。
また 事件直前の蔵相の演説の如き、
これ以上軍備の為に増税すれば軍は国民の恨みを買う
と 放言した。
いま増税によって困るのは税金を収めることが出来る富裕階級である。
劣弱な軍備のために失わなくてもいい生命を落しているのは、
貧農の子弟達であるという事実をどう考えるのか。
この怒りが爆発した結果であると私は言った。
もとよりあのような立派な方を殺害して良かったなどとは思ってはいない。
私は他にもその原因はあったかと思うが、
直接の動機となった高橋蔵相の放言と、我々の激発を悲しむものだと話したところ、
大体納得したようであった。

池田俊彦 著  生きている二・二六 から

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世間のわけを知らぬ者共から見て、
高橋は問題になると思ふから、理由を記しておく。
高橋は
五 ・一五以來、維新反對勢力として上層財界人の人気を受けてゐた。
その上、彼は參謀本部廢止論なぞを唱へ、
昨冬豫算問題の時には、軍部に對して反對的言辭をさえ發している。
又、重臣、元老なき後の重臣でもある。

・・・ 磯部淺一 行動記  第十 「 戒厳令を布いて斬るのだなあ 」