写真:「グランドゼロに立ち始めた高層ビル」本人撮影
ワールドトレードセンター。私の勤めていたNY市役所からわずか2ブロック、300mしか離れていませんでした。それだけに東京から来客があれば、その最上階のトップ・オブ・ザワールドに案内し、しばしば食事を楽しんでいたものでした。
しかし言うまでもなく、2001年の9月11日、アルカイダによる飛行機テロでともに崩壊し、3000人余の命が奪われます。
忘れもしません、あの翌日。東京にいた私のところへ、NYの知人の女性から泣きながらの電話が入りました。「ロッシーさんが死んだよ。奥さんも亡くなったよ。嶋津さん、あの部署にいたトムもその同僚もみな姿が無くなったの」。
後日、ビル倒壊の直前に、ドス、ドスという音が辺り一帯で聞こえたという話を聞きました。それは高層の窓を割って飛び降りた人たちが、地上にたたきつけられた際の音だったというのです。その音の幾つかが、私の友人たちであったかも知れない。そんないたたまれない想像に苦しんだものでした。
それだけにNYにはできるだけ早く来たい。なるべく早く亡くなった友人に会わなくてはいけない。そう思い続けていたものです。一昨日、その痛々しくも懐かしいビル跡に、やっと訪れる機会を得たのです。
しかし凛としてそびえていたあの美しいビルは消え去って、代わりに馴染まないビルが姿を現していました。工事現場ではトラックがあわただしく出入りし、その無機質な風景に、とても哀悼を祈る状況にはありませんでした。
もっとも有機質な世界であるはずの宗教世界が、もっとも無機質な世界を生んでいる。イスラムとユダヤ・キリスト。その対立の現実に、慄然とするばかりのグランドゼロの風景でした。