ここ暫く作家辻邦生の経歴を、特に国分寺に住んでいた時代について取材を重ねている。するとちょっとした「大発見」をすることがある。それが国分寺での村上春樹との点と線だ。
作家辻邦生と妻佐保子。国分寺の地にすこぶる深い愛着を持ち続けた夫妻である。結婚後の昭和28年から20年近く、国分寺市東元町に住む。
「中央線国分寺駅の南口を出て、右手の方にしばらくゆくと、両側を石垣に囲まれた切り通しの坂道に出る。今ではすっかり昔の面影は失われ、坂を横切って低地をレンゲの咲く野原に囲まれていた野川は、無愛想なコンクリート製の排水路に変わってしまった。ここから小金井の貫井あたりまでは、大岡昇平の『武蔵野夫人』に登場する土地であり、坂を上って少し先を左手に下ると、国分寺の遺跡に出る。私たちが国分寺町二四八五番地(後に東元町となる)に住み始めた昭和28年ころには、近くの農家の周りにキラキラ光る湧き水が流れていた」(『辻邦生のために』辻佐保子)。
先般、この地を探しに訪れた私は、辻邦生の家が何と野川をはさんで村上春樹の暮らしたマンションと目と鼻の先であったことに驚かされた。辻が高輪に引っ越したのが昭和46年。その年に村上は国分寺に引っ越し(当初は中央線沿いにすむが騒音に耐え切れずすぐ多喜窪通りに転居)、翌年に伝説のジャズ喫茶「ピーターキャッツ」を開店しているのだ。
作風も生き様も全く異なる辻邦生と村上春樹。この二人が同時期に、同じ通り沿いに並ぶように住んでいたというのである。奇遇という外ない。いやそれだけのことである。が、しかし文学ファンにとって、これを「大発見」といわずして何というのだ。
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