【アルハンブラ宮殿】
世界遺産アルハンブラ宮殿。花のこの季節になると私は、30年近く前の初夏に訪れたこの宮殿の美しい庭園での衝撃を思い出さずにはおれません。
グラナダのこの古城は、イスラム建築の最高傑作とも名高く、天井のダイヤモンドを何千と埋めたようなアラベスク文様には息をのまされます。しかし訪れた私が受けた一番の衝撃は、その庭園の咲き乱れる花々から漂ってくるえも言われぬ香りだったのです。
アルハンブラ宮殿は小高い山の頂きに建築されています。それだけに庭園を維持するためにサイフォンの技術できめ細かに水を吸い上げなくてはなりません。そうした工夫の上で花園が維持できるのです。
私が驚いたのは、その庭園の花々が咲き乱れるだけでなく、さらにその一体に香ばしい匂いが漂よっていることでした。ひょっとしてこの古城の建築者たちは、訪れる人たちの視覚(花々)だけでなく、触覚(噴水)、そして嗅覚(香り)をも同時に堪能させてこそ庭園と考えていたのではないだろうか。そうだとしたらなんと素晴らしいことではないか。
ところでわが日本の稀有な政治家、橋下徹大阪市長が辞任するとのこと。大阪都構想の敗北によるものですが、地方自治の発信のためには残念でなりません。府と市との二重行政の弊害解消は、大都市行政に関わってきた者にとっては当然の課題です。しかし負けました。理念が正しくても、その理解を住民に丁寧に、しかも多面的に展開していかないと進まないということでしょうか。
アルハンブラ宮殿の花々は、彩だけでなく香りや噴水まで多様に演出してこそ、訪れる人を感服させていました。そうした複層的な展開が橋下市長には結果的に十分でなかったのかも知れません。そんなことに関連づけられては、さすがのアルハンブラ宮殿の花園も迷惑というものでしょうが、ふと私にはそう思われるのです。