先週末、竹橋の国立近代美術館へ安田靫彦展を見に行ってきました。圧倒され
ましたね、何でしょう、あの画の線の細さ、あの彩の柔和さなのに、あの迫力は!
画伯が追及した日本人の「品格」が滲むのでしょうか。黄瀬川の陣の構図、山本
五十六の表情など、どの作品にも「凛」という言葉が浮かばれたものです。
安田靫彦といえば、実は私は父親からよく画伯に関わる話を聞かされておりま
した。戦前、陸軍の軍人として中国に赴任していたおり、部下に安田という男
が配属されていることを知ります。父はある日、彼にこう聞いたといいます。
「貴様の父親は絵を描くと聞いたが本当か」
「はい中尉殿、靫彦といって日本画を描いております」
いやあ小耳にはさんでいた噂が本当でびっくりした。一枚、私にくれてはどう
かと笑いながら言うと、「ハイ、それはあの、自分は…」と緊張していたな。お
となしい男だったが、しかしよくやってくれていた。暫くして何と父親の安田
画伯から手紙が来た。せがれがお世話になっていますと。この直筆の手紙は我
が家の宝物だよ。
・・・小さい頃からよく聞かされてきた、今は亡き父の自慢話の一つなのです。