大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 35『二手に分かれる』

2021-09-30 17:57:19 | ノベル2

ら 信長転生記

35『二手に分かれる』  

 

 

 鎧の切れはしや刀の折れが転がっている。

 

「雑だな」

 信玄が手に取った肩鎧は、小札(こざね)が分厚いだけで大きさに一ミリほどのバラつきがあって美しくない。

「冠の板に金箔が施してある、一応は侍大将級のものね」

 謙信は分析するが手に取ろうとはしない。

 俺は無言で刀の折れを拾う。反りの具合から真ん中で折れたものと知れるが、半分に折れたものでも日本の太刀一本分ほどの重さがある。

「こんなものもあるぞ」

 武蔵が手にしたものは、柄元から折れた刀だ。

「両刃の直刀か」

「幅が謙信の太刀の倍ほどもあるぞ」

「太ければいいというのは、動物的だわよ、信玄」

「儂のは太くて切れ味も抜群だぞ」

「太刀や甲冑が不揃いだというのは、連合部隊ということだな」

「そうだ、西遼や韃靼の部隊も混じっている。三国志の支配地は広いからな……どうだ、こちらから偵察に出てみるか?」

 三白眼の目を真っ直ぐ向けて武蔵が訊ねる。JK風に言うとジト目のガン見だ、俺たち三人でなければ適当な理由を見つけて逃げ出すだろう。

「三国志に抜ける道はあるのかい?」

 謙信が気にせずに聞く。

「任せろ」

 抜ける道というのは袁紹が来たルートではないはずだ。敵もバカではない、そのルートは警戒が厳重になってるはずだ。

「スカートは脱いだ方がいいんじゃない?」

 道の険しさを思って謙信が提案する。みんな、こういう時の為に下にはスパッツを穿き、カバンには肘と膝のプロテクターを用意している。

「いや、いざという時は『道に迷った』と誤魔化す、装備を整えては不自然だ」

「そうだね」

 納得して、道を進む。

「戦死者も回収、装備もまともなものは残していない、やつらは、かなり余裕がある」

「でも、武蔵、袁紹は仕留めたんだよね?」

「ああ」

「自分を過信しすぎたのと、出くわした相手が武蔵だったのが袁紹の不運だったんだろう」

「袁紹の進入路は避けて、二手に分かれよう。わたしと信玄は西、信長と武蔵は東に周るというのはどうだろう」

「それでいい」

「わたしなら一人でいい」

「ここはチームワークだ、武蔵」

「特に落ち合うことはしない、明日学校で情報を突き合わすことにしよう。いいわね」

 やはり、こういうところで話をまとめるのは謙信だ。俺と信玄は「「承知」」と返事をし、武蔵は沈黙を持って応えた。

 東の獣道に踏み込むとき、晩飯はどうしようかと思った。西日が傾き始めているのだ。

 いつも俺が作るわけにもいかないだろう。少しは市にも料理を教えてやらねばな。

 いや、こういう段取りめいたことは敦子にこそ任せるべきか。

 敦子の奴、近ごろ神さまらしいことはやっていないからな。

 気づくと、武蔵は、もう三十メートルほど先を進んでいる。

 並の奴なら、振り返るか立ち止まるかして仲間を待つだろう。

 もっとも、振り返ってジト目の三白眼で睨まれるのもかなわんがな。

 こいつと行動するときは、僅かでも他の事は考えない方がいいと思ったぞ。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

 

 

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ライトノベルベスト『夏のおわり・5』

2021-09-30 05:40:06 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・5』  




 

 あー、親友二人の反応がコワイよー!

「あ、わたし、小学校のころ、歯の矯正してたんです。それまでは、ちょっと出っ歯で(#^.~#)」
 雅美が、機嫌よく自分の秘密を答えている。
「普通だったらさ、まんま出っ歯とか、さんまとか言うジャン。そこを八重桜って、小学生が言うのってすごいと思うの! だれ、それ言ったの?」
「あ、加藤君です。そこの……」
「あ、ああ、あ、どうも。でも読んだ本からのパクリだから」
 加藤は、顔を赤くして、でもマンザラでもない風に答えた。
「うん、君たちってすごいよね。十代ってさ、バンバン変わっていっちゃうのよね。あたしなんか、十代は加藤君みたいな優男だったけど、十代の終わりには女の子のかっこしててさ、二十歳になったとたんにちょん切っちゃったもんね」
 教室が一瞬笑いに満ちた。さっきまでのヤナ空気は、どこかに行った。

 それから、コイトは、お気に入りのAKB48の『大声ダイアモンド』を、BG付きで唄って踊った。こんな風にしていると、コイトはほんとうに女の子のアイドルに見える。
「この歌はね、自分の衝動に素直になろうってとこがミソなんだよね」
 生活指導の先生が聞いたら目を回すようなことを平気で言う。渋谷までがニコニコ聞いている。単にタレントってことだけでなく、人間的に魅力があるんだなあと思った。
「でもさ、昨日の満員電車の中でさ、たとえ二日酔いだったとしてもさ、夏は、どうして、あたしのことがオネエって、気が付いたのかなあ?」
 いきなり振られた。口が勝手に動く。
「最初、体が密着したときは、あ、若い女の人って感じでえ。でもって、次のカーブでグッとまた曲がっちゃったじゃないですか。そん時に、ガシって窓枠押さえた手に……なんてのかな、男性的な『守ってやらなきゃ!』って気持ち感じて、そのアンバランスから、あの、そっちの人じゃないかなって感じたんですよね」
「う~ん、複雑。これって誉め言葉なのか、オネエとして、まだ不完全てことなのか……」

 とたんに、教室は割れんばかりの拍手になり、なんだか丸く収まってしまった。

 このコイトの学校訪問のオンエアーは、予定を早めて、その晩のバラエティーで行われた。
「ハハハ、バラエティーもなかなか面白いじゃない!」
 お婆ちゃんは、さっそく宗旨替えして、入れ歯を外しそうになって喜んでいた。
「あ~あ、あたし見損ねたじゃない……」
 バスタオルで頭拭きながら、あたしはボヤく。
「ごめんね、ラジオだったら録音できるんだけど、テレビの録画は、どうもわからなくってさ」

 そこに、またコイトから電話。

「なんだ、見てなかったの。ネットで検索してみなよ。誰かが録画してアップロードしてると思うから」
 なるほど、その手があったか。
「でさ、徹子さんが見ててくださっててさ」
「徹子?」
「そう、猫柳徹子さん。あたし、明後日『徹子の小部屋』にでるんだけどね、徹子さんからナッチャンご指名」
「えー!」
「OKしといたけど、いいよね?」
「あ」
「それから、明日、『笑ってモトモト』11時半に局入りすればいいからさ。これもよろしく。学校の方には、うちの事務所から電話入れとくから、よろしくよろしく!」

 で、あたしの目の前で、タムリが机を叩いて笑っている。当然スタジオ中爆笑。

 あたしは、お婆ちゃんから聞いた話しをしただけなのだけど。
「信じらんねえ。だってさ、四月に転勤してきた先生がさ、それも隣同士に机並べてだよ、高校時代の同級生だったってことが、二学期になって分かっちゃうなんてさ。ありえないよ。あ~、おっかしい!」
「なんか、昔は、そんなこともあったらしいですよ。あー、それから、離任式のときに従兄弟同士って分かったり」
「なんか、牧歌的だね、昔の先生って」
「いえ、いまのは先生と生徒」
 で、また大爆笑。
「コイト、いいキャラ見つけてきたね。なんてのか、若い頃の桃井香里と秋吉玖美子足して二で割ったような子だね」
「でしょ。もう、昔からの親友みたくでさ」
「でも、コイトはナッチャンとは10個は離れてるでしょ?」
「そんなの戸籍謄本見なきゃ分かんないでしょ」
 あたしは、コイトが、そんなに年上だとは思っていなかった。
「あ、呼び捨てにしてきちゃった。コイトさん……かな?」
 で、また爆笑になる。

 あたしは、四時間目を公欠にしてもらうために、学校のPRを命じられていたけど、すっかり忘れてしまった。

 ま、いいか。ディレクターの人はVで、学校のアレコレ挟み込んで流してくれたし。

 で、明日は、いよいよ猫柳さんの『徹子の小部屋』である!

 もう、夏はキンチョー……(蚊が落ちてきそう)

 つづく

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