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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6[もうこのへんで……]

2017-07-27 17:11:08 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6
[もうこのへんで……]



 秋分の日を前に、今年は10月下旬の涼しさになっている。

 それを承知で、神野は特盛のアイスクリームを2つ持ち、一つを麗に渡した。
「立花さんの脳みそと心は原子炉並だ。少し冷やした方がいい」
「そうかもね……」
 二人は、並の人ならアイスクリーム頭痛をおこしながら10分はかかるであろう、新宿GURAMのジャンボアイスを1分余りで食べつくした。
「神野さんも、相当熱い」
「いや、冷たいことに慣れすぎているのかもしれない……」
 東京の都心まで出てきたデートの最後の会話がこれだった。

 麗の人気は、ちょっとしたアイドル並になってしまった。それほど文化祭の成功は大きかった。野外ステージの反響も大きくYouTubeでのアクセスも、スポンサーが付くほどの数になった。また、校長先生と回ったご近所へのお詫びも大変好評で、これはSNSで、みんなが取り上げ、礼節、貞淑などとカビの生えたような賞賛まで飛び交った。麗は世代を超えて地域的な有名人になってしまった。
 で、神野とのデートも、わざわざ県外の東京にまで出てきたのだが、新宿GURAMの前で、テレビ局に掴まってしまった。

 麗自身はブログなどやっていなかったが、学校の生徒が、自分のブログに麗のことを載せ、そのアクセスがはねあがるという状態であった。

 そんな中、演劇部の『すみれの花さくころ』は予選を無事に最優秀で飾ったが、連盟が熱心に情宣をやらないので、会場は、なんとか万席程度で済ませることができた。
 問題は、県の中央大会(本選)であった。会場の県民文化ホールは、キャパが1200あまりしかない。そこに1万人を超える麗のファンが押し寄せた。連盟の実行委員の先生たちは頭を悩ませたが、地元の新聞社が救いの手を差し伸べた。
「本選終了後、私どものホールを提供いたします。2日にわたる無料公演を行いますので、整理券を……」
 そうネットで流した10分後には、ネットでの入場整理券は配布終了となり、その5分後に整理券は法外なプレミアが付いて、最高で1万円の値がついた。

 本番は、麗の学校の一つ前の御手毬高校の上演中から、観客席は麗目当ての一般観客が押し寄せ、御手毬高校は手前の審査員席でさえ台詞が聞こえない状態になった。
「ほんとうにごめんなさい」
 麗は心から御手毬高校に誤ったが、女子高生のツンツンは一度へそが曲がると容易には戻らない。そこには嫉妬の二文字がくっきり浮かんでいた。「感じわる~!」部長の宮里はむくれたが、麗はただ頭を下げるのみであった。

 演奏やダンスは、文化祭後仲良くなった茶道部・ダンス部・軽音楽部が参加してくれて、本編は、ほとんど宮里と麗の二人だった芝居が歌とダンスのシーンになると、まるでAKBの武道館のコンサートのようになり、緩急と迫力のある舞台になった。

 だが、審査結果は意外にも選外であった……。

 一見すごくて安心して観ていられるが、作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない。それに数と技巧に頼りすぎている。

 観客席は一般客の大ブーイングになった。宮里も山崎も、美奈穂も悔し泣きに泣いたが、麗は氷のように冷静。マイクを借りて、こう言った。
「言語明瞭意味不明な審査ですが、甘んじてお受けいたします。もうS会館で、あたしたちの芝居を待ってくれている人たちが1万人待ってくださっています。それでは会場のみなさん、S会館の前でお待ちのみなさん、40分後に再演いたします。どうぞ、そちらにお移りください」
 そう言って、麗たちが、席を立つと一般客も雪崩を打ったように会場を出てしまい、後の講評と審査はお通夜のようなってしまった。

 麗たちは、都合二日にわたり、4ステージをこなした。ネットでもライブで流された。麗は期せずして、どこのプロダクションにも所属しない日本一のアイドルになってしまった。

「ちょっと風にあたってきます」

 麗は、そう言って楽屋を出でバルコニーに出た。常夜灯がほんのり点いたバルコニーに人影……予想はしていたが神野が立っていた。
「ちょっと、やりすぎてしまったね」
 神野は優しく寂しそうに言った。
「そうね、この一か月で十年分……いえ、それ以上に走っちゃった。楽しかったわ」
「じゃ、少し早いけど、次に行こうか……」
 麗としては全てが理解できたわけではなかったが、麗の中のべつのものが納得していた。
「じゃ、いくよ」
「ええ、いつでも」

 神野が指を鳴らすと、麗の姿はゆっくりと夕闇の中で、その実体を失っていった。宮里が探しに来た時は気の早い木枯らしが吹いているだけだった。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 エタニティー症候群 完

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5[われ奇襲に成功せり!]

2017-07-27 06:20:15 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5
[われ奇襲に成功せり!]



 文化祭は大成功だった。

 麗の学校は、地域との連携を取るために、文化祭の参観は、ほぼ自由だった。
 なんと、たった一日の文化祭に一万人を超える参観者が来た。その半分近くが演劇部茶道部合同のパフォーマンス目当てだった。
 
 YouTubeで流した毎日のメイキング映像が、予想以上に人を集めたのだ。

 本番までのアクセスは一万件に達した。麗は裏方のことにも詳しく、特に照明と音響が命であることを承知していたので、衣装を貸してくれた大学に掛け合い、オペレーターの人員付きで機材を貸してもらった。学生たちは演劇科の舞台技術の学生たちで、いい練習になるということで、セッティングの企画からオペまで任せることを条件にロハでやってもらった。

 前日のリハで、手伝いにきていた演技コースの学生が「面白そうだからMCやらせて!」ということで急きょ、ほとんど専門家と言っていい学生たちが、ディレクターとMCを引き受けてくれることに。
 そして、勢いとは恐ろしいもので、軽音とダンス部が羨ましがり、三つの出し物が一つのイベントのようになった。そのリハの日のメイキング映像は、これも面白がって付いてきた放送学科の学生たちが、本格的なカメラで撮り、本格的に編集してその場でYouTubeにアップロードされ、一晩だけでアクセスが八千件ほどになり、通算二万件のアクセスになり、その半分近くが動員人数になった。
 他の生徒たちは、自分たちの準備に忙しく、YouTubeなど見ている間が無く、これだけ盛況になるとは思ってもみなかった。なんせ、麗は以外は、当の演劇部自身も予想していなかった。

 戦争なら、敵は一番弱いところを全力で叩きにくる。イベントなら新鮮な面白さが感じられるところの人は集まる。麗は戦争と同じだと思っていた。

「あたしたち朝一の出番でいいわよ」
「ええ、麗ちゃん、朝一なんてお客ほとんどいないわよ」
 麗の申し入れにスケジュールの調整に苦労していた生徒会は喜び、宮里部長は不服そうだった。
「大丈夫だって、その代りお客が多くて、アンコールとかかかったら、空いた時間にやらせてくれる?」
「ああ、いいよ」
 生徒会長は、あり得ない話だろうとタカをくくってOKを出した。

 で、結果的には、その麗の予想をさえ超える観客が、朝から集まった。

「申し訳ありません、昼休み前に、もう一度やりますので、それまで他の企画をお楽しみください」
 と、生徒会長は答えざるを得なかった。
「じゃ、それまで模擬店でも回るか」
 と、大半のお客はたこ焼きやら、ウインナーなどの模擬店回りをやった。そのために食材が無くなり、模擬店はどこも昼前には店じまいの状態。喜んだのは学校周辺のお店だった。コンビニやファミレス、蕎麦屋などにお客が流れ始め、地域経済の振興にも一役買った。
 そして、噂は噂を呼び、昼前の第二回公演では、立ち見も含めて900人、それでもあぶれる人たちが出た。

 餅屋は餅屋という言葉がある。

「いっそ、野外でやろう!」
 大学生が張りきった。昼休みのうちに、校舎とグラウンドの間の段差をステージにしてしまい、あっという間に照明とPAの機材のセッティングを終えた。お客は、そのセッティングさえ珍しく、かつ面白いので、20分押した準備も気にはならなかった。
 観客はグラウンドの半分を占め、軽音・ダンス部・演劇部茶道部の合同チームは、MCの進行も良く。
「どう、いっそみんな一緒にやっちゃわない!」
 その提案に観客も大喜び。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』は、最後は観客も交わり、大盛況のライブイベントになってしまった。

「奇襲大成功ってとこかな」

 麗は、そう呟いたが誰もきづかなかった。ただ急きょグランドでやったので、その騒音は近隣に鳴り響いたので、終了後、すぐにご近所にお詫びの戸別訪問をしなくちゃ。そう思った麗は道連れになる校長先生のバーコードが憐れに思えてくるのだった……。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4[麗の前哨戦]

2017-07-26 06:28:41 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4
[麗の前哨戦]
          


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。


『すみれの花さくころ』の稽古は楽しかった。

 正確には演技することが楽しかった。麗は、自分でもこの頃、自分自身が変わってきたように感じていた。人ともよく喋るし、部活もするようになった。流行のアイドルの歌などにも関心を持つようになった。
 でも、麗は思った。本当の自分は別のところにある。あるんだけど思い出せない……で、思い出さない方が幸せなのかもしれない。

「文化祭で、この芝居は無理よ」

 麗は、三人の部員にズカッと言った。部長の宮里が不服そうに言う。
「だって、演劇部が文化祭で芝居やらなきゃ、存在意味がないじゃん」
「固定概念に囚われちゃいけないと思うの。芝居って、せんじ詰めれば自分以外の何者かにメタモルフォーゼ……あ、変身て意味。変身してエモーション……情念とか感動を観客と共有することだと思うの」
「……かな」
「だったら、歌っても踊っても同じことだと思う。文化祭って、いくつも模擬店とか出し物とかのイベントがあるじゃない。そんな中で50分も観客縛りつけておくのは無理だし、演劇部が、ますますオタクの部活だと思われてしまうんじゃない?」
「うん、立花さんの言うことにも一理あるよな」
 副部長(と言ってもたった二人の正規部員だけど)の山崎が応じる。
「それにさ、美奈穂さんがギター上手いのに、挿入曲の伴奏だけじゃもったいないわよ」
「あ、あたしは単なる助っ人だから」
「使えるものは先輩でも猫の手でも使います!」

 
 麗の勢いで決まってしまった。

 AKBのメドレーをやって、ラストに『すみれの花さくころ』のテーマ曲『お別れだけどさよならじゃない』で締めくくって、コンクールの観客動員にも結び付ける。

「でも、人数しょぼくない?」「衣装とかは?」宮里の疑問ももっともだ。でも、麗の答えは「任せてちょうだい」だった。

 人数は、もう一つの部活の茶道部に頼んだ。
「お茶には、わびさびの他にハレの感覚も必要だと思うの。お茶の家元さんなんか意外に若いころはロックとかやってたりするのよ。例えば……」
 これで、茶道部16人をその気にさせた。
 衣装はネットで当たってみた。過去にAKBのレパをやった大学のサークルやグループを探しては問い合わせてみた。三件目でヒットした。
3年前の学園祭でAKBのヘビロテをやった大学のサークルが衣装をそのまま残していたのだ。ちょっと一昔っぽいけど、一番AKBっぽい。

 レパは4つ。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』

 麗は、一晩でAKBの三曲のカンコピをやった。あたまに「率先垂範」というむつかしい4文字が浮かんだ。

 練習場は近所のダンス教室のスタジオを格安で借りた。借り賃は顧問を拝み倒し、また稽古風景をメイキングにしてYouTubeで流し、ダンス教室のPRもすることで折り合いがついた。
「やっぱ、ナリからだね!」
 みんなAKBもどきのコスを着てダンス教室の鏡の前に立つと、俄然テンションが上がってきた。その様子を山崎クンに撮らせてYouTubeに流した。AKB、女子高生、文化祭、本番までのメイキングというタグ付けで、初日のアクセスが300件を超えた。

 麗の前哨戦が始まった……。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3[麗の部活探し]

2017-07-25 17:01:53 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3
[麗の部活探し]


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。



 あの日から麗は人が変わった。


 クラスメートとも気軽に話すようになったし、冗談も言うようになった。
 授業中も以前なら先生が間違えたりごまかしたりすると、容赦なく責め立てた。特に社会科の授業で日本の批判をするような教師には「根拠を示してください」とか「現代の道徳観で過去の歴史を見れば、全ての時代が暗黒の時代になります。同時代の他国との比較の上に論じなければ意味がありません」などとやり、誤魔化そうとしようものなら高校生とは思えない知識と論理で徹底的に論破した。

 それが、このごろは、そういうことをしなくなった。今日の二時間目などはAKBの『心のプラカード』を口ずさんで叱られ、赤い顔をして俯いたりした。

 麗は入学以来クラブに入ったことは無かったが、なんと二年の二学期になって、クラブの見学に行くようになった。
「すみません、見学させてください」
 二年の見学などめったにいないのだが、学年でも飛び切りの美人(けして可愛いという範疇ではない)が来るのだから男子部員はホクホクと鼻の下を延ばした。
「あたしもやっていいですか?」
 と、剣道部で言った。
「じゃ、防具つけて。美奈穂手伝ってやれ」
 と、部長が言い終わったころには、身支度を済ませて竹刀を構え蹲踞していた。
「早いな……じゃ、美奈穂。素振りから胴と面うちを……」
「試合させてください」
「え……じゃ、美奈穂、怪我させないように」
 と、四人いる女子部員で、引退前の三年生の美奈穂に指示した。
「じゃ、立花さん、正眼に構え……」
 麗は、すでに隙のない正眼に構えていた。
 一発で胴を決めた。むろん麗の勝ちである。

 しつこく勧誘されたが、剣道部で自分より強い者はいないと見きって、断った。柔道部もチラリと覗いたが、剣道部以上に下手なので、見学もしないで、スルーした。
 一応茶道部に入ってみた。ただ月に数回の部活なので、まだまだ余裕である。
「あなたの手って、表千家ね」
 と、お茶の先生に言われたのが動機だ。自分がお茶の作法を知っていたのも驚きだったが、なんだか心が落ち着くので、月に何度かお茶をたしなむのもいいかと思ったのだ。

 そんなある日、グラウンドと校舎の間の段差に座って意気消沈している二人の女生徒と一人の男子生徒に気づいた。そのうちの一人は剣道部の美奈穂であった。

「どうかしたんですか、美奈穂さん?」
「あ、あなた立花さん!?」

 意気消沈しているのは、演劇部だった。正規の部員はたったの二人で、美奈穂はギターの腕を見込まれて、この秋にやる芝居の生演奏で協力していたのである。
「へえ、美奈穂さんて多才なんだ!」
 麗は素直に感心した。
「ありがとう、でもね……主役の子が入院しちゃって、本番間に合わないのよ。で、どうしようかって考えてるとこ」
「コンクールの申し込み24日、もう一週間しかない……」
 部長らしい女生徒が盛大なため息をついた。
「どんな台本?」
「これ……」
 渡された台本は『すみれの花さくころ』とあった。戯曲集から直接コピーされたもので余白が少なく書き込みに不便そうだが、活字そのままなので読みやすかった。
「どの役が入院したのかしら?」
「あ、その咲花かおるって役」

 斜め読みだが、麗は五分で読んだ。そして信じられないことを口走った。

「あたしで良けりゃ、やらせてもらえないかしら」

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2[もう少し楽になろうよ]

2017-07-25 06:03:54 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2
[もう少し楽になろうよ]



 苛烈などというものではなかった。

 東鶏冠山北堡塁は旅順要塞の東に位置し、旅順攻撃の初期のから終結時まで激戦地になった。堡塁はM字型の断面をしており、Mの左肩から突撃した日本軍はMの底に落ちる。するとMの両側の肩の堡塁の銃眼から機関銃や小銃、手榴弾などでされた。この甲子園球場ほどの堡塁を抜くために、日本軍は8000人の戦死者を出した。
乃木軍隷下の第11師団の大隊長である立花中佐が戦死したのは11月の第二回総攻撃のときであった。吶喊と悲鳴が交錯する堡塁の壕を目の前にして立花は身を挺さざるべからずの心境であった。8月の第一次攻撃の時は、罠にはまったと瞬時に理解し部下に撤退を命じ、大隊の損害は百余名で済んだ。
 だが、今回は重砲隊による念入りな砲撃。工兵隊により掘られた坑道からの爆砕をやった上での突撃である。先に飛び込んだ部下のためにも立花は突っ込まなければ、軍人として、人間として自分が許せなかった。M字の底から右肩の堡塁にとりついたところ、立花は6インチ砲の発射音を間近に聞いた。死ぬと感じた。感じたとおり、その0・2秒後に彼の肉体は四散した。その0・2秒の間、彼の頭を支配したのは、内地で結核療養している一人娘の麗子のことである。

「よくもって、この秋まででしょう」

 どの医者の見立ても同じであった。そして麗子は立花の戦死の二日前に十七年の短い生涯を終えていた。
 そして、麗子は父の戦死の時間に荼毘に付されていた。三時間後、叔父を筆頭に親類縁者が骨拾いに火葬場に行ったとき。釜の前に麗子が立っていた……。

 立花は弟が腰を抜かすのを見て戸惑った。

「浩二郎!」
 そう言って駆け寄ったときの自分の声と指先を見て愕然とした。そして弟の嫁が差し出した鏡を見て、言葉を失った。
 自分は、娘の麗子そのものになってしまっていた……。
 それ以来、立花は麗子として十年を過ごした。三年目ぐらいから自分の体に変化がおこらないことに不審を持った。友達は次々に嫁ぎ子を成し、相応に歳を重ねていたが、自分一人がそのままなのだ。人に相談することもできず、自分で文献を調べ、五年目に異変の正体に行きあたった。それは、アメリカのオーソン・カニンガムという学者の説であった。

※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 立花は、その五年後に出奔した。もう年相応では通じないほどに若いままだったからである。

 それから、七人に入れ替わった……というより、実体化した。いずれも、ほとんど麗子のままで、そのたびに戸籍や家族が用意されていた。そして、並の人間では持てない力が備わっていることも分かってきた。だが、心はいつまでも立花浩太郎中佐のままであった。
 で、昨日も学校の平和学習の語り部としてやってきた、92歳のハナタレ小僧をへこませてしまった。

「とらわれすぎるんだよ立花さんは。昔のままの自分をひきずってちゃ仕方がないよ」

 いつの間にか、中庭のベンチの横に神野が腰かけていた。
「もう少し楽になろうよ」
 そう言って、神野は指を鳴らした。
「あ、神野君……!」
「つまらないこと聞くけど、君の名前は?」
「もう、ふざけないでよ」
「いいから、言ってごらんよ」
「立花麗……アハハ、照れるじゃん。幼稚園からいっしょだったのにさ。あ、生年月日とか言ったら、なにかプレゼントとか良さげなことあったりして?」
「考えとくよ。とりあえず、今日は、これで良し」

「へんなの……」

 お気楽にAKBの新曲を口ずさんで校舎に消えていく幼馴染に「イーダ!」をした麗であった。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・1[92歳のハナタレ小僧]

2017-07-24 05:50:27 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・1
[92歳のハナタレ小僧]



 92歳のハナタレ小僧は、お供を引き連れ矍鑠(かくしゃく)と歩いてきた。

 車寄せに繋がる廊下の角に女生徒が一人佇んでいた。ハナタレ小僧の蟹田平蔵が近づくと、折り目正しく三十度の礼をした。
 蟹田は、こういう平和学習で時にいる子だと思った。蟹田の戦争体験に感激。その余熱のあまり見送りにきてくれた純粋で血の熱い女生徒とだと思ってしまった。

「蟹田兵曹、話がある」

 女生徒は、可愛い声でキッパリと言った。わずか17ぐらいの女生徒とは思えない重い威厳のある響きに蟹田は不覚にもたじろいでしまった。
 気づくと周囲のものが全て止まっていた。お供のNGOの世話役も、学校長も、新聞記者も、玄関のガラスの向こうを飛ぶ二羽の鳩も、そのはるか向こうの雲の流れも。

「貴様の面目をおもんばかって時間を止めた。着いて来い」

 女生徒は、蟹田の気持ちなど斟酌せずに歩き出した。蟹田は二年兵のとき大隊長の従卒に戻ったように後に続いた。
「ここでいいだろう。遠慮せんでいい、貴様も掛けろ」
 車寄せとは逆の中庭のベンチに並んで腰かけた。
「い、いったいどうなっているんだ? 君はいったい何者なんだ……?」
「こんなナリをしているが、東鶏冠山北堡塁を奪取した某中隊長だ」
「東鶏冠山北堡塁……そりゃ日露戦争の二百三高地の……?」
「部下をたくさん死なせた。官姓名は勘弁してもらう」
「お嬢ちゃん、あなたね……」
「信じろ。私は明治元年生まれの146歳、この女生徒の姿は仮のものだ。そう思って話を聞け」
 蟹田は、落ち着きなく、あたりを見まわした。
「しかし、これは……」
「時間を止めただけでは信用できんか。これを見ろ」

 目の前に、胸に弾を受け、今まさに倒れようとする兵士の姿が浮かんだ。

「浜本伍長!」
「そうだ、貴様の読み違いで弾除けになって死んでいった浜本伍長だ」
「この後、自分は村人の虐殺をやったんだ……!」
 蟹田はベンチに座ったまま頭を抱えた。時間が止まっているので、太陽は動くこともなく蟹田を咎めるように、同じ角度で禿げ頭を照らしている。
「あのとき中隊は、ほぼ壊滅状態になり、貴様は残存者の最上級者になってしまい緊張の極みにあった。これをよく見ろ」

 女生徒が指差した方向に、あの時の村人たちの怯えた姿が浮かんだ。さっきの浜本伍長とは違って、ごく微速で動いていた。銃の発射光が、村人たちの背後のブッシュの中からいくつもした。
「……これは」
「貴様は、記憶からこれを消し去ったんだ。敵は村人たちを楯にして、ブッシュから、貴様らの掃射をやった」
 現地の言葉で叫ぶ声がした。
「あれは高野兵長が、村人たちに『伏せろ!』と叫んでいるんだ。そのために三名の村人は助かった。貴様の残存部隊は良く戦った。五名の犠牲者を出しながらも敵を撃破したんだ。貴様は村に入る時に偵察を十分にやっていなかった。浜本伍長は捜索を進言した。しかし蟹田、貴様はそれを聞き入れず村に入った。宣撫が行き届いていると安心してな。村人たちも恭順の意を示すため、一か所に集まっていた」
「……そんなことは、どうでもいいんだ。儂が村人を虐殺したんだ、その事実からは逃げられん。だから戦争はやっちゃいけない。我々戦争体験者は、その恐ろしさと、狂気を伝えなきゃいけないんだ!」
「自分の過失を日本全体に広げるな。貴様が知っている日本は、高々昭和の五年くらいからの十五年ほどだ。あの狂気の時代をもって、明治からの日本全体を貶めることは慎め。今日の貴様の話は、あまりに聞き苦しいんで、こうやって……」

「そのくらいにしてやんなよ。立花さん」

 止まっているはずの時間の中から声がした。中庭の対角線方向に人がいた。
「神野君……!?」
 気づくと蟹田は、涙したまま止まっていた。
「ボクも君と同じエタニティー症候群。ただし年季が違う。もう二千年は超えたかな……立花さんは同類かなって、今日尻尾を掴んだ。邪魔をしたかもしれない。どうするかは立花さん次第」
 そう言って、神野君が指を鳴らすと再び時間が動き出した。蟹田は泣き疲れたハナタレ小僧のようにしおたれて車に乗って行ってしまった。

※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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高校ライトノベル・エッセー・『劇作上の飛躍と省略』

2017-07-08 23:16:48 | 演劇作法
劇作上の飛躍省略   初出;2012-04-18 14:33:50

 晩年の手塚治虫さんが、こう言っておられました。

「このごろマルがかけないんですよね、さっと一筆で……」


 手塚さんのマンガの出発点にはディズニーがあり、ミッキーもアトムもマルからできています。
 思い切って、さっと書いたマルが基本の技術です。素人が見ると実に簡単に描いているように見えます。実際速いのですが、そこから絵としてのマンガのリズムと力が出てきます。素人がトレースすると、このリズムと力がでません。

 劇作の上で、これに当たるものが、台詞としての言葉。そして、作劇上の適度な飛躍と省略です。

『ロミオとジュリエット』 シェ-クスピアの特徴で、台詞はやたらと長いですが、ストーリー上の飛躍と省略は、すごいものがあります。二人は、たった一度の舞踏会で恋に落ちます。で、有名なバルコニーのシーンで二人の愛は確定的になります。この間に「愛してる」という直裁な言葉は出てこなかったと思います。そしてロレンス神父の前で、二人だけの結婚式。ティボルトを過って殺してしまったことで、ロミオはベロ-ナを追放され別れ別れに。ロレンス神父のはからいで42時間仮死状態になる薬を利用してジュリエットは墓場へと運ばれ、行き違いにロミオは、その墓場へ。で、ジュリエットが本当に死んだと思ったロミオは毒を飲んで死に、その死体を見つけたジュリエットは、ロミオの剣で胸を刺し息絶えます。
 で、この物語はたった3日間で終わります。舞台化すると3時間ほどで終わってしまいます。
 この間、沢山の飛躍と省略があります。下手な劇作家がこれを書くと、台詞は短く、話しは、もっと長いものになったでしょう。42時間の仮死状態になる薬なんか、アザトサと紙一重のように思えます。しかし、シェ-クスピアは軽々と飛躍させます。この飛躍により、観客は若い性急な二人の恋を自分のことのように感じます。手塚治虫でいうと軽々とマルを描いています。

 このオマージュとして『ウェストサイドストーリー』があります。よくできたミュージカルですが、この物語から歌と踊りを取ってしまったら、『ロミジュリ』の単なる二番煎じにしかなりません。逆に言えば、数百年後に翻案させるだけの力を持っているのです。


『プリィティープリンセス』というディズニーの映画があります。原作はメグ・キャボットの『プリンセスダイアリー』で、全十巻の長編です。映画では、ジェノビアの皇太子である主人公ミアの父が急死して、急遽ミアがプリンセスにさせられる。ラストはミア自身の決意でプリンセスになることを決意してハッピーエンドになります。
 原作では、ミアの父親は健在で、睾丸にできたガンのため子どもを作れない体になってしまい、プリンセスに指名されます。原作は原作で面白く、長編小説としては大成功。アメリカでは『ハリーポッター』に次ぐ人気と売り上げがありました。
 しかし映画化にあたっては、バッサリと父親を死なせています。すごい省略です。映画のライターの腕のスゴサを感じます。


『坂の上の雲』という司馬遼太郎さんの長編小説があります、先年NHKが3年の歳月と莫大な制作費を使ってテレビドラマ化しました。当然飛躍と省略がありました。そして余計な付け加え、改編がありました。結果的には、私感ではありますが、原作が持っていたダイナミズムと日本という国へのシンパシーを損ないました。
 

 今『男はつらいよ』を全巻観ているところです。今2/3を見終わったところです。印象は偉大なマンネリズムです。
 寅さんの夢落ちから始まり、恋や家族のことで、あるいは生き方に悩んだ、たいてい若くてきれいな女性がでてきます。お決まりなので「マドンナ役」と言われます。そのマドンナの苦しみ、悲しみを寅さんは意識的に、あるいは無意識、偶然によって解決し、ラストではマドンナとの決別があります。そして傷心の寅さんは再び旅に出て、旅先から寅さんのヘタクソな手紙が虎屋に来て、寅さんの元気な様子で大団円になります。たいがいの作品が1時間40分ほどです。映画としては短い部類に入ると思います。この中に寅さんとマドンナ以外の人や家庭の話しが出てきます。詳しくは出てきません。すごい飛躍や省略があります。
 何回目かの作品に森重久弥が出てきます。冒頭とラストに合計で10分ほどの登場です。しかし、この間に、父親としての娘への愛情、愛情ゆえの突き放し、一人暮らしになった父の寂しさと、そこに到までの父の葛藤を、ほとんど台詞なしで背中の演技で見せています。作者であり監督である山田洋次と森重久弥という役者が、演技や映像として省略はしていますが、キチンとイメージとして持っている。ひょっとしたら、レジーする前の本には、あったのではないかと思います。

 
 作家ではありませんが、俳優の宇野重吉さんが、こんなことを言っていました。
「役者は十の演技をやってみて、九つは捨てるんですよ。時によっちゃ十全部捨てるんだ」

 わたしは、高校演劇や若い人の劇団がやれる芝居を30本ほど世の中に残せたらいいと思っています。自分で言うのもなんですが、わたしの本に出てくる人物は饒舌なわりに存在感が希薄です。適度な飛躍と省略をやるためには、飛躍、省略するだけのものが書けなければなりません。
 ここ大事です。表現しきれない中身があって、初めて飛躍、省略ができるんです。

 黒澤明やスタニフラフスキーは、机があったとしたら、引き出しの中の手紙まで用意させました。ちゃんと本編のツジツマが合うように書かれた手紙です。でも、本番中、その引き出しは開けられません。むろん手紙が読まれることもありません。こういうことが飛躍と省略を分かっていただく手がかりになるのかと思います。
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト[OSAKA FANTASY SEKAI NO! OWARI]

2017-07-01 06:11:43 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
[OSAKA FANTASY SEKAI NO! OWARI]



 八戸ノ里は、八戸の農家から発展した。

 どうしようもない湿地帯であったところに、江戸時代七戸の農家が移住してきて、最後まで残っていた一戸の農家を中心に開発をすすめ、豊かな農地にした。

 田島精機の社長は、この話が大好きだ。

 八戸ノ里(ヤエノサト)などと言っても、メジャーではない。東大阪の東の外れ、近鉄奈良線が通るが各停しか止まらない。昔は町工場が多く、小なりと言えど工業地帯であったが高層団地が増え、昔ながらの工場は、ほんの一握り。東京で言えば荒川区の南千住あたりに似ている。
 田島精機は、そんな零細企業の一つである。ほとんど手作りと言っていい測定器の製造……の下請けを細々とやって生き延びてきた。
 社長の勲(いさお)は、似たような生き残りの会社七社と手を組み『チームYAE』を作り、その技術を持ち寄って「世界をアッと言わせるようなモノを作ろうといきごんでいた。
 人工衛星のマイド一号には後れを取ったが、このたび目出度く世界的防犯設備『セワヤキ』を開発。自主実験を百回近く繰り返し、今日、大阪府知事、各市町らが集まり、公開実験を行った。

『セワヤキ』は監視カメラのように設置され、半径数百メートルの人々の良心を増幅させる機能があった。計測器と脳波測定器、それにゲーム開発の技術が結集されている。
「人間は犯罪を犯す前には、わずかではありますが良心の呵責があります。この呵責を眠らせるために『自分だけとちゃう』という言い訳催眠を自分の脳にかけます。それによって良心は委縮し、犯行にいたるわけであります。この『セワヤキ』は、呵責の気持ちを増幅させる機能があります。駅前で実験したところ、街頭犯罪が1/20に激減いたしました!」

 そのあとの実験が良くなかった。

 いや、最初は順調だった。ボランティアの人たちに「自転車を盗め」と告げておき、自転車100台の前に立たせたが、誰一人自転車を盗めなかった。
「たとえ実験とは言え、人のモノを取ってはいけないという気持ちがあります。それが増幅されたのです」
 それから、AV女優に頼んで盗撮の実験もやってみたが、誰一人、盗撮できたものはいなかった。
「また、これは機能を一点集中させたもので、逃走する犯人、犯行中の犯人に照射しますと良心をマックスにして、自ら逃走、犯行を中断させます」
 これは、人体実験が出来ないので、コンピューター相手に使われた。ウィルスを感染させようとしているパソコンに照射すると、なんと、パソコンは自分で、全てのデータを消去し、シャットダウンしてしまった。この機能はゲーム開発の社長のアイデアと技術が生きていた。

 が、最後が良くなかった。

 知事や、市長、公募校長などに無作為に悪いと思われる政策や政治方針を書かせて、テーブルに置いた。そして、百メートルの距離を置いて、それを取らせにいかせたが、全員が自分で書いた書類を手に取った。
「こ、こいつら人間とちゃう……!」
 勲たちは思ったが、実験は失敗と判断された。

 やけになった勲は娘の幸子が操縦する軽飛行機に乗って八尾空港を飛び立ち、大空で思い切り「アホ、バカ、マヌケ、ゼイキンドロボー!」などと憤懣のありったけを大空に向かって叫んだ。まさに獅子吼であった。
「お父ちゃん、その馬力で市長さんらにも文句言えたらよかったのにな」
「あんなに政治家どもが無神経やとは、思えへんかった!」
 同乗のゲーム会社の社長が歯ぎしりした。
「あ~あ、オッサンらは、権力には弱いねんからな」
「何ぬかしとる、幸子、もっと早う、もっと高う飛べ!」
「軽飛行機には限界の高さがあるんよ。ちょっとなにすんのん田部のオッチャン!」
 ゲーム屋の田部がコパイロットの操縦桿を優先にして操縦し始めた。こういう裏技はゲーム屋ならではである。

 そのとき、無線機から緊急放送が入った。

「近畿管区の上空を飛んでいる全ての航空機に伝達。KC国が発射した核ミサイルが大阪上空に接近中。自衛隊、米軍ともに迎撃に失敗。着弾まで、二分、至急退避! 至急退避!」
「なんやと……」
「田島はん、絶好のチャンスや!」
「くされミサイルにいかれてたまるか!」
 田部はGPSで着弾予定地を大阪城の真上と割り出し、方位、高度をとった。

「見えた、あれや!」

「ウワー、世界の終わりや!」
 幸子は泣き喚いたが、オッサンたちは冷静かつ、果敢であった。
「距離2000、エネルギーマックス! くらえ!!」
 田島は、ミサイルに照準を合わせ、渾身の一撃をミサイルにくらわした!

 ミサイルは空中で一回転したかと思うと、急にヒョロヒョロになり、そのまま大阪城の大手門前に落下し、グシャグシャになった。

 政府の発表では、ミサイルの故障で起爆しなかったと発表があり、だれも『チームYAE』の功績であるとは認めなかった。
「これで、ええんじゃ。世界 NO! 終わり! にでけたんやさかいな……」
 チームYAEのメンバーは、祝杯ともヤケ酒ともつかない酒盛りをやった。

 日本政府が気づいたのは、アメリカの軍事産業が八戸ノ里に通い始めてからだった。

 田島たち『チームYAE』がどう動いたかは、大阪のオッサンにしか分からない……。

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