大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『ポニーテール』

2017-07-30 19:41:39 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『ポニーテール』
                 


「いまごろ七五三の写真なんか持ってきて……!」

 エントランスのドアが閉まるやいなや、トコは写真帳をテーブルに投げ出した。
「まあ、可愛いじゃありませんか。ひ孫さんですか?」
 ヘルパーのミナミが拾い上げて、笑顔で聞いてきた。
「いいえ、孫ですよ。甥が晩婚だったもんで、やっと七歳……いや、八歳か?」
「え、だって七五三でしょ?」
「ミナミちゃんね、七五三てのは秋と決まったもんですよ。遅くても十一月。覚えとくといいわ」
 トコさんは、甥が半年以上ほったらかしで、孫本人も連れずに、時期はずれの七五三の写真を持ってきたことにむくれている。
「まあ、愛想良くしといてやったから、満足なんじゃない? これで遺産はオレのもんだって。七五三じゃなくてゴサンだわよね。葬式代残してパーッと使ってやるんだから!」
 そう言いながら、トコが涙ぐんでいるのは分かっていた。

「七五三か……わたしには意味が違うけど、このジンクスは乗り越えた」
 留美子は密やかに、そう思った。
 留美子は、トコの隣の部屋の住人で元高校の先生であった。先生というのは寿命が短く、退職後の余命が、校長三年、教頭五年、平で七年。それで隠語で七五三という。留美子は、ここの『ほのぼの園』という、いかにも安出来で、欺瞞に満ちた名前に惚れ込んで、この介護付き老人ホームに入所して十三年になる。新築で入居したんだけど、予想通り、施設はくたびれ、サービスは低下。職員は長続きしなかった。
「これくらいのストレスがあったほうが長生きできる!」
 そう人には言っているが、年金でなんとかやっていけるのは、ここぐらいが分相応だったからだ。

 留美子は、今年になって足にきた。

 去年の暮れに転倒して大腿骨折をやって、自慢の要介護一がニになった。なんとかリハビリで歩けるようにはなったが、電動車椅子で移動することが日に日に増えていく。毎朝手すりに掴まらず、腕の筋肉と腹筋で起きるようにしているが、この春からは息切れがするようになった。

 そして、計算違いというか、天の配剤というか、大腿骨折が治って『ほのぼの園』に戻ってみると、お気に入りのヘルパーが何人か辞めて、その中にマドカが含まれていたことだ。
 そして、そのかわりに担当になったのが、ミナミである。何が気に入らないといって、こんな気に入らないことはない。ミナミはかつての教え子であり、退学生である。入学当初から落ち着きが無く、喫煙であげられたのを皮切りに、ケンカ、深夜徘徊でも補導され、ホッタラカシの親に変わってガラ請け人になってやったこともある。トドメが援助交際で、あげられた後妊娠したと騒ぎ立て、どう立ち回ったのか、援交相手の中規模会社の専務を離婚させ、幼妻に収まった。で、めでたく退学に持ち込み、本人も左うちわだったが、リーマンショックで会社は倒産。亭主とはさっさと別れ、女の子を二人ばかり雇ってスナックをやるが、三月で潰れた。で、その後、職を転々とし、やっとヘルパーとして、この『ほのぼの園』に落ち着いたのである。
 留美子は、せいぜいもって三週間だと思ったが、半年を過ぎたいま、まるで『ほのぼの園』の主である。
 ここのいい加減さと、それなりに身に付いた人あしらい、それに射程距離の短い人生観がはまったようだ。

「ねえ、留美子先生、今度うちら、こんなことするねんけど見に来ない?」

 ある日、ミナミがチラシを持って現れた。チラシには『懐かしのオールディーズヴァケーション』の文字が文字通り躍っていた。
 留美子はチャンチャラおかしかった。オールディーズというのは、留美子が若い頃に流行ったアメリカンポップスの焼き直しが前世紀の八十年代に流行ったもので、今ミナミが見せているのは、いわば焼き直しの焼き直しである。
 ミナミにしてみれば、好きなことをやって、施設の年寄りの二三人でも送り込んでおけば、老人介護文化運動の一環として見られ、ホールの借り賃が安くなり、資金援助までしてもらえる。一石三鳥ぐらいのオイシイ話である。

「あら、いいわね~♪」

 留美子は、頭から声を出して喜んだ……フリをした。
 アメリカンポップスについては、留美子は草分けである。毎日ダンスホールに通いあげ日劇のロカビリーフェスティバルでは親衛隊を自認していた。親が厳格な教師でなければ、ミナミとおっつかっつの人生であったかも知れないが、本人にその自覚はない。あくまでアクタレ教え子の鼻をへし折ってやりたい気持ちから。もっと深層心理では、留美子こそ、青春を取り戻したいのである。

 留美子は久々に杖だけで、美容院へ行った。

 この春に開業したセイレンという店で、睡蓮さんという美容師さんがお気に入りであった。地肌が透けるほどに薄くなった頭だけど、睡蓮さんは見事にボリュ-ムアップしてくれて、瞬間若かった頃の自分を思い出させてくれる……といっても、元学校の先生ということがばれているので、睡蓮さんは、それに見合ったものにしてくれる。
 今日は、まだ決心はついていないが、大昔のギンガムチェックのノースリーブのワンピをせたらっている。もちろんフワフワのペチコートも、共布のリボンも。

「……というわけで、たとえ化け物と言われても、ここは一発勝負したいの!」
「分かりました。わたしも勝負させていただきます」
 睡蓮さんは、持ち込んだ衣装一式を見て、カリスマ……いや、神さま美容師として心に火が灯った。
「これなら、もうポニーテールしかないですね」
「え、この髪でできるの?」
「少しエクステ(付け毛)をします」
 そう言って睡蓮さんが持ってきたのは、一本のツヤツヤした黒いロングの毛だった。
「ちょっと、お呪いがしてありますから」
 それから、留美子は半分眠ったような気分だった。頭の中には、大好きだったコニーフランシスの歌声が響いていた。

 気がつくと、様変わりした自分の姿が、鏡に写っていた。これなら、ミナミの先輩ぐらいで通りそうだ。

 留美子は、久々に地下鉄に乗って、会場の貸しホールへ赴いた。途中みんなの視線があつまってくるようで、さすがに気恥ずかしかったが、胸を張って歩いた。チラッと反対側の歩道ににとてもイケテル女の子の姿が見えたが無視することにした。

『懐かしのオールディーズヴァケーション』は大成功だった。

 最初からポニーテールの女の子が栄えていた。ラストの『VACATION』は、もうポニーテールの独壇場だった。
「留美子先生来ないわね……」
 その日、ミナミがもらした唯一の留美子への言葉だった。ミナミもそのポニーテールに熱狂した。
「あんな本格的に歌って踊れる子が、今時いたんだ……」
 引退した大者プロディユーサーがため息をついた。
「きみ、名前はなんていうの?」
「はい、大浦ルリ子です!」
 思いがけない偽名が口をついて、本人自身驚いた。わたしよりイケテル子は他にいる。踊っている最中、その子の姿がチラチラ見えて、互いにライバル意識むき出しになった。

 そして、元プロディユーサーと二人になったとき分かった。
 イケテルその子は、鏡やガラスに映った自分自身であることを……。

「こんちは」
 ルリ子は、『ほのぼの園』に留美子の部屋の鍵を返しに来た。
「先生、大丈夫?」
「大丈夫です。ちょっとボケ始めてるけど、注意してれば、あたしたちでも看られますから」
「そう……じゃ、よろしくね」
「こちらこそ、おかげで、プロデビューできそうで、ミナミさんには感謝してます!」

 ルリ子は陽気にコニーフランシスを口ずさみながら帰っていった……。
 

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・57「そんなこと考えてたんだ」

2017-07-30 10:56:08 | 小説・2
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
57『そんなこと考えてたんだ』





 創立百年を超える府立高校は、われらが空堀高校だけではない。

 それら百年越えの高校の多くに戦前からの建物が残っている。
 百年前というと、日露戦争の勝利から十年を経過し、折からの欧州大戦の好景気に沸いた大正時代。
 日本は一等国という晴れがましい空気が横溢しており、今の時代からは想像がつかないだろうが、軍縮と教育投資への熱が高まった時代である。
 軍人が軍服のまま市中に出ると、極端な場合『税金泥棒』のような目で見られ、ついには軍人の定数も削減された。
 削減は召集される兵だけではなく、職業軍人にまで及び、失業軍人対策にため軍と文部省が話あい、中学校以上の学校に配属将校が派遣されるようになった。
 つまり、教育が軍事の風上に立った時代であった。

 大阪でも、元来高かった教育熱に拍車がかかり、新設の中学やら高等女学校に最先端の施設や校舎が建てられた。

 つまり、空堀高校の部室棟のような校舎は、他にも建てられていた。
 むろん百年の年月の中で手を加えられ、その文化財的な価値を損なったものがほとんどだが、いくつかの府立高校には空堀並みの状態の良さで残っていた。
 
 北浜高校のA号校舎、下寺町高校芸術棟などが、にわかに注目を浴びている……というのはマスコミ的表現。

 創立百年越えの学校は、いわゆるナンバースクールで、二十一世紀の今日でも進学校として名をはせているものが多い。
 それに、卒業生の中には大臣経験者の政治家や経済金融界での著名人も多く、新発見の文化財級校舎保存の声が上げやすい。
 
 北浜高校の声が大きくなってきた。

 卒業生の中には五人の大臣経験者始め百人を超える現役国会議員や地方議員を擁し、それも与野党の枠を超えた広がりを持っている。
 それらが、A号校舎の保存運動に乗り出したのである。
 
 空堀高校は別名『大阪府立庶民高校』である。

 驚くほど卒業生の中に政治的経済的な著名人が居ない。
 伝統的校舎保存の先鞭をつけた空堀高校であったが、北浜高校などの後発組に押され追い越されてしまった。
 
 あおりを食った北浜高校の工事は中断のやむなきに至ってしまった。

「ま、中止いうわけやないから見守ってならしゃーないなあ」
 ミリーの二度目のご注進にため息をつく啓介である。
 ミリーは中止になると思い、この二日余り走り回っていた。
「しかし、ミリーの行動力ってすごいわね」
 須磨も寝っ転がらないで話を聞いている。
「アメリカ領事館までいくんだもんね」
 千歳はミリーが領事館でもらってきた新茶を淹れながらホワホワと感心している。
「でも、ちょっと複雑なのよね……」
 頭の後ろで手を組んで上半身をそらせる。
「ミリーさんの胸カッコいいですね……」
「え、あ、そっかな……」
「どーして、あたしの胸と見比べるんかね」
 須磨は、胸をつぼめてしまう。
「あ、そういうんじゃなくて、気に触ったらごめんなさい」
「思いふける時に、しょぼくれへんいうのはええことちゃうか」
「へへ、そっかな」
「乗せられちゃだめよ。啓介はそうやってミリーのオッパイ鑑賞しようって腹だから」
「ち、ちゃいますよ!」
「見物料とろっかなー」
「ゲホゲホ」
「複雑ってなんですか?」
「んーーー、部室棟の工事が終わったらどーしよーかなーって思ってた自分がいたわけですよ。工事終わったらここにいる意味なくなるでしょ」
「そんなこと考えてたんだ」

 意外に先を考えているミリーに感心する三人であった。

 そう言えば、夏休みが目前に迫っている夏の盛りであった……。

 
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『黒髪のロング』

2017-07-29 18:37:20 | ライトノベルセレクト
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『黒髪のロング』
          


 イテ!! 

見かけによらないボクの声と、男のような言いように車内の視線が集まった。


 ボクのポニテールの先が、無意識だろうと思うんだけど、出口の手すりパイプにいっしょに握っちゃった大学生風がいた。
 乃木坂の駅で降りようとしたら、引っ張られてしまって、五六本髪の毛が抜けたような痛みを感じてしまい、つい、家に居るときのような男言葉風に「イテ!!」になっちゃった。
 学生さんは「あ、ごめん。気がつかなくて。ほんとごめん」とてもすまなさそうにボクの顔を見て謝った。
「気いつけてよね、髪の毛も身のうちなんだから!」
 そういうと、大学生風が握ったままの髪の毛をふんだくって、ホームに降りた。
 
 坂を登って、校門をくぐり、朝礼が終わって、一限の柚木先生に注意されるまで、ボクはブスっとしていた。
「あら、尾形さんなにむくれてんの。美人が台無しよ」
「あ、どうもすみません。考え事してたもので。気を付けます」
 ボクは、やっと、この乃木坂学院の女生徒として恥ずかしくない言葉で喋ることができた。

 言っとくけど、ボクは男でもなければ、ブスでもない。この春に憧れの乃木坂学院高校に入った十六歳の女子高生だ。

 ボクの兄弟は上三人がみんな男で、ボク一人が女だ。あ、それとお母さんとネコのショコラ。兄貴たちはボクがチッコイころから女扱いはしなかった。キャッチボールもサッカーも兄貴たちといっしょだった。小学校二年までは平気で上半身裸で走り回っていた。当時は髪も短く、世間の人もボクが女の子だとは思ってはくれなかった。

 三年になりかけのころ、女子トイレに男子がいると評判になり、気がつけば自分のことだった。
 で、一人称も兄貴たちに影響されて「オレ」になりかけていた。で、「オレ」だったボクは、クラスでいつもメソメソして、なにかというと「美香できないもん」とべそをかく羽室美香がかったるくて、跳び箱の前で泣いている美香を「後がつかえてんだ、メソメソすんじゃねえよ!」「だって……」そのナヨナヨぶりに思わず手が出てしまった。運悪く、その日は爪の検査があったので、ざっくりとした切り方しかしていなかったボクは美香のホッペに三本の赤いスジを付けてしまった。
 親が菓子折持ってボクを引っ張って、謝りに行った。

 そして、その日からリカちゃん改造計画が始まった。リカちゃんといってもお人形ではない。ボク尾形里香のことだ。一人称も「わたし」にかえられそうになったが、三回も舌を噛んで口を血だらけにしたので、「ボク」という線で落ち着いた。スカートを穿かされそうになって逃げ回り、初めてスカートを穿いたのは中学に入った時が最初だった。
「こんな気持ちの悪いもの穿いて、よく平気だな!?」
 あの事件以来、仲のよくなった美香に言うと、ボクの影響で少したくましくなった美香に言われた。
「あんたの方が、変態なのよ!」

 で、リカちゃん改造計画の柱が、長髪化だった。小三の事件からこっち、前髪以外は切らせてもらえなくなった。ボクは、母親似の素直な黒髪で、顔立ちも整っているのだ(そうで) 美香のお節介もあって、中一の二学期には、TPOを使い分け、大人や目上の人には「わたし」と舌を噛まずに言えるまでに成長した。

 夕べ、短パンで座卓の上のパソコンで遊んでいたら、テレビゲームしていた下の兄貴の視線を股間に感じた。
「あの、里香さ、短パンのときは又開いて、膝立てるのやめとけよ」
「なんでさ!?」
「そりゃあ……」
「ナマパン見えて、祐三には目の毒なんだよ」
 中にいちゃんが言った。
「だって、風呂上がり、パンツ一丁で歩いていてもなんとも言わないじゃん」
「あれとこれとは違うんだよ」
 中にいちゃんまで同じ目つきでボクの股間を見つめた。なんだかきまりが悪くなって、そろりと正座すると中小二人の兄貴が爆笑した。ボクは腹立たしかった、そして、なにか胸の中の得体の知れない物が体をカッカさせた。そのときの不快さが朝まで残り、気がついたら、地下鉄の中で大学生風に罵声を浴びせることになった。

 美香は、クラスは違うけど、中学以来のテニス部で頑張っていた。マニッシュな新入生だと評判だから、世の中は皮肉なもんだ。放課後、図書館でぼんやり美香のテニスを見ていてウラヤマになった。ボクは、なんの因果か演劇部。顧問の柚木先生のすがりつくような目に負けた……。

 そんな想いや、美香の姿で吹っ切れる物があった。

 というわけで、ボクは美容院セイレンのシートに収まっている。

「どうしても切ろうって言うのね……」
「はい、ボ……わたし決心したんです。自分のスガタカタチは自分で決めます」
 美容師の睡蓮さんは、まだ踏ん切りがつかない。
「せめて、セミロングでワンカールミックスパーマにするとか……」
「いいんです!」
「で、電車の中で抜けた毛は?」
「あ、なんだかもったいないんで、袋に入れてあります」
「これ、わたしが預かっていい?」
「サンプルにでも?」
「いいえ、お祀りしとくのよ。髪には、里香ちゃんとかかわりなく髪の神さまが憑いていらっしゃるんだから」
「プ、ギャグですね」
「バカ!」

 そう言って、睡蓮さんは涙目で、ザックリとハサミを入れた。

 正直すっきりした。家族にはあきれられたが、十六にもなれば髪ぐらい自由にさせてもらいたい。その気持ちが伝わったのか、中にいちゃんも短パンで立て膝していても何も言わなくなった。やっぱ、ボブにして正解だった。
 学校での評判も上々。でも調子にのって体育の時間に木登りをしたら、さすがに叱られた。

 秋になった。

 その日は、演劇コンクールの練習のために、稽古が遅れて、自宅近くの駅に着いたら十時をまわっていた。一応スマホで、帰りが遅くなることは伝えてあるがボク少女を心配するような家族ではなかった。

 いつもの道を通ろうかと思ったけど、近道を通ることにした。ちょっとした工場街には人影は無かった。角を曲がると、アパートがあって、公園一つ隔てていつもの道になる。
「あれ?」
 こないだまで……って、夏休みのころだけど、通ったころは、まだ人が住んでいた。建て替えるんだろうか、アパートのどの部屋にも人の気配がなかった。よく見ると、軒並みガスを閉栓したタグがついていた。
 ガラっと音がして、一軒の部屋から三人の男が飛び出してきた。あっと言う間に口を塞がれ後ろ手に縛られ、部屋の中に連れ込まれた。ひとりの手が口から首に回った。一人を思いきりけ飛ばした。それが男たちの欲望に火を点けた。首に回った手は本気で締めてきた。ブラウスの前が引きちぎられ、スカートの中に手が伸びてくる。意識が遠のき一瞬頭が真っ暗になる。
 死んだと思った。
 すると、ドタンバタンと音がして、急に楽になった。気づくと四人のわたしが立っていた……。

「さあ、里香、あとはわたしたちに任せて、早く家にかえりなさい!」
「さあ」
「早く」
「帰って!」
 わたしは、後ずさるように、玄関に向かった。薄暗がりの中、男三人が伸びているのが分かった、そうして……もう一人倒れているような気がした。
「玄関閉めて!」
 リーダー格のボクが叫んだ。そして、家に帰って驚いた……髪が元の長さにもどっていた。

 コンクールは、予選で優勝、中央大会では落ちた。

 その日は落ち込んだが、やっぱり若さだろう。明くる日は元気に後始末をし、明くる日の休日には、久々にセイレンに行ってトリートメントをしてもらった。
「ね、この髪不思議でしょ。一晩で元の長さに戻ったの」
「そう、不思議ね。でも、里香は黒髪のロングが似合う。それが分かれば、ただの不思議でいいじゃない」

 その帰り道、わたしは何かを確かめたくて、また、あのアパートの前に行った。むろん人通りのある時間帯。

 そこは、とうに更地になって、何も確かめることは出来なかった。

 え……いま自分のこと、わたしって言った……?

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・56「初めて聞くミリーの英語」

2017-07-29 12:12:48 | 小説・2

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
56『初めて聞くミリーの英語』




 ラーソンばっかりね。

 忘れ物を取りに来たミリーに言われる。
「え?」
 一瞬何のことか分からない。
「冷やし中華よ」
 そう言われて、食っている冷やし中華がラーソンのだと気づく。
「いろいろ食べ比べたんだけど、酸味・喉ごし・麺の触感で、ラーソンが一番だな」
「へー、けっこうこだわりがあるんだ」
 本当はこだわりなんかじゃない、ラーソンの冷やし中華は460円で、他のコンビニより20円安い。
 しょっちゅう食べているので20円の差は大きい。
「わたしはシャーペン」
 そう言うと、テーブルの菓子箱の中から一本のシャーペンを取り出した。
 忘れ物はシャーペンのようだ。
 菓子箱はクッキーの入れ物で、千歳が中身入りで持ってきたお茶うけ用で、空になってからは共用の筆箱になっている。
 しかし、二三十本は入ってるシャーペンやらボールペンの中から、スッと見つけられるもんだ。
「グリップの形が独特でね、握り具合が全然ちがうんだよ。沢山あっても微妙な違いは直ぐに分かるよ、ほら」
 目の前に、ズイっとシャーペンが刺し出される(差し出すの間違いじゃない)。
 中学の頃から、この調子なんで、いまさら驚かない。下手に驚くと、さらに間合いを詰められてチキンレースになってしまう。
「ほー、グリップがちょっとくびれてるんや」
「これが生産中止でね、手持ちは三本しか残ってない。失くしたら確実に成績落ちてしまうよ。分かってたらまとめ買いしたのにね~」
 そう言うと、大事そうにペンケースに仕舞うミリー。
「シャーペン収納よーし!」
「指さし確認かい」
「車掌さんとかやってるでしょ、こうやっとくと忘れない」

 そう言うと、ミリーは窓から見える部室棟のあちこちを指さし始めた。

「やっぱ、工事停まってるよ、チェックポイントが全然変化してない」
「そうなんか?」
 確かに作業員の数は減っているけど、毎日人が動いているのはボンヤリしていても分かる。
 人が動いていれば作業しているもんだと思うんだけど、ミリーのように気合い入れて観察していると違うのかもしれない。
「あの窓枠、昨日は外しかけてたのに、また戻ってる」
「そうなんか?」
 やっぱりひいひい祖父ちゃんの設計とあって思い入れが違うようだ。
「気になるなあ……」
 工事現場の方を向いて腕組みし始めた。
「ちょっと調べてみよか……」
 スマホを出して検索してみる。
 最初に『空堀高校部室棟・マシュー・オーエン』と打ち込む。出てくるのは解体修理が決まったときの内容と変わらない。
 次に『作業中止』を足してみる……やっぱ変わらない。
「わたしもやってみたけど、特には出てこないよね」
「うん……せやなあ……」

「よし!」

 そう言うと、ミリーは気合いを入れてタコ部屋を出て行った。
 遠のく足音で中庭への連絡通路に向かったと見当がつく。

 直ぐに工事現場でミリーの声がした。
 今まで聞いたことのないミリーだ。
 ミリーが英語で現場監督らしいオッサンに話しかけている。
――そういや、あいつはアメリカ人やってんなあ――
 知り合ってこのかた、ミリーの英語を聞くのは初めてだ。青い目の金髪だけど、俺たちの中ではとっくに気のいい友だちにカテゴライズされている。俺たちの友だちってのは例外なく英語は喋れない。だから、とっても新鮮な感じがする。

 映画で外人がよくやる「わっかりませーーん」のポーズをして戻って来た。

「一大事だよーーーーー!」

 ミリーの眉間には見たこともない縦ジワが刻まれていた。
「工事は無期限停止だって!!」
「え、どういうこっちゃ!?」

 日本語が分からないフリして訊ねていると、現場監督と府の役人らしい人とのやり取りの中で分かってしまったようだ。
 夏休みを目前にして、なんだか得体のしれないものが動き始めているような気がしてきた。
 
 
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『ワンカールミックスパーマ』

2017-07-28 18:07:37 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『ワンカールミックスパーマ』
              


 とにかく、先週はさんざんだった。

 なめてかかった訳でもないのに、中間テストはさんざん。
終わってから考えると、大半の先生が二年になって入れ替わった。半分は新転任の先生で「こんなのありかよ!」って問題。怒るってか笑っちゃうのは、日本史Bのリョウ君先生だ。飛鳥、白鳳、天平の仏像ずらっと並べて、背の高い順に並べなさい。東大寺の大仏が一番なのは分かるけど、弥勒菩薩半跏思惟像なんて、広隆寺、と中宮寺のも区別つかないのに、まして高さ。それもリョウ君先生は「背の高さ」って書いてた。あんな座りっぱなしの仏さんの背の高さ、どうやって分かれってのさ!

 弟とはつまんないことでケンカして泣かしてやったら、仕返しに椅子に花瓶の剣山置かれ、日本史でむかついてドカっと座ったもんだから、マジでお尻に刺さちゃって、お母さんに涙目で薬を塗ってもらった。痛さもともかく、雑菌なんか入っちゃって跡が残ったら修学旅行で、みんなとお風呂にも入れない。「美保、そのお尻の点々、なにかのタタリ!?」とか、オカルトフェチの七菜なんかに言われそう。将来カレと(今は、まだいないけど)Hするときにそんなの見られるのゼッタイやだもん。そんなサゲサゲ気分の時に、弟は襖ガラリと開けちゃうし、悪気ないのは分かってる。姉弟三人で八畳使ってるんだから、弟にすれば、ただ自分の部屋に入るだけの感覚。一瞬みんなが凍り付いて、あたしの悲鳴、弟のさすがの「ごめんなさい!」
 でも、これを許すほど寛容ではないあたしは、タオルで腰を巻いて、レシーブみたくして弟をひっつかまえ、仕返しにオケツむき出しにしてペンペンしてやった。ペンペンしたオケツの蒙古斑に気づいて「こいつも、まだガキなんだ……」 しみじみしたところを、妹の桃花にシャメられていたとは気づかなかった。あたしのバスタオルはレシーブキャッチのときに外れていた。
 やっと身繕いして冷静になったら、桃花が、さっきの動画をYOUTUBEに流してニマニマ。
「桃花あっ!!!」
 削除するまえにアクセス数を見たら、五十九件の数字! あたしは再び凍り付いた。
 画像は、あたしの美尻は映っているけど顔は出ていない。そこに一抹の期待を抱きながら眠りについた。これで眠れるんだから、あたしの神経もかなりのもんだと思った。

 とどめは昨日の雨だった。ハーパンにTシャツだったから、まだ助かったけど、コンビニ帰りに、セダンに思い切り水たまりの泥水をかけられる。香しい匂いに気づいて胸元を見るとTシャツのハートマークに!マークを付けたような3Dのシミ……水たまりの水をよく見ると、泥水にふやけながら粉砕された、犬の糞! 臭いからして、胸の!マークはその一部。家に帰ると「髪にもついてるよ」と、この少子化の時代に三人も子どもを生んだ母親が表彰状物のすまし顔で言う。犬のようなうなり声あげて(あとで桃花が言っていた)お風呂に突撃。シャンプー三回やって、お気にのTシャツは、ちょうど明日が生ゴミのゴミ箱に突っこむ。

 で、髪を乾かしたら、ボサボサカサカサに跳ねて、ちっともまとまらない。

 というわけで、あたしは近頃近所にできた「セイレン」という美容院の椅子に収まっている。
「もう、夏用にバッサリやってください!」
 と、これから自衛隊にでも入隊するような元気さで宣言した。
「でも、もったいないな。元々の髪質はいいから、長さはこのままで、トリートメントとワンカールミックスパーマにしませんか。ほら、仕上がりはこんな感じ」
 睡蓮さんというマニッシュな美容師さんがタブレットにあたしの顔を取り込んで、説明してくれた。
「あなた、うなじがキレイだからショートも似合うんだけど、ちょっと首の後ろのホクロ気にしてるでしょ」
 言われてみればそうだ。小学校のころショートにしてて、友だちから「虫が留まってる」と、何度か言われたことがある。
「暑かったら、ポニーテールにしても、これくらいの長さならごまかせる」
 一瞬、生指のタコヤマの顔が浮かんだが、染髪するわけじゃない。これくらいのカールならお目こぼし。なんたって、そのへんは緩い都立高校。一息吸って「お願いします!」

 この髪は楽だった、

 風呂上がり乾かすだけで、元のワンカールミックスが戻ってくる。朝の起きたてでも、軽く髪を揺すって、手櫛で元に戻る。それに、このワンカールミックスは風通しもよく、初夏のいまでも、首に絡む髪が気にならない。

 そして、もう一つの驚きは、いろんな問題が、ワンカールでスルーしていくことだった。苦手な日本史も(今度はヨロイを時代順に並べろ。あたしは時代考証家になりたいわけじゃない!)ギリギリ五十点で評定三をキープ。
 水たまりのそばを歩いていても、タッチの差でタイミングがワンカールして助かっちゃう。

 あれ……ってのもあった。

 三年生のSさんにコクラレタ! 気分はアゲアゲだったけど、すぐに返事しては女がスタル。
「ちょっと、考えさせてください……」
 と、もったいをつけた。友だちは「もったいない!」とオヤジギャグをかましていたけど、正解だった。
 Sさんは、同学年にMさんという彼女がいた。それが、近頃冷たいので、その反発で無意識ってか、悪気なく、あたしにコクッタわけ。だからMさんが進路のことなんかで忙しかっただけと分かったら、すんなり元の鞘に収まった。あそこで、うっかり即OKなんて言っていたら。そのあとは、とんだ愁嘆場だっただろう。けっきょくワンカールで、事が済む。

 秋になって、またセイレンに行き睡蓮さんにやってもらった。今度はトリートメントなしでカットしてワンカールミックスパーマだけ。
「おや、首筋のホクロ、なくなりましたね」
 睡蓮さんが言った。

 あれは、あたしの悪運のサインだったのかもしれない。それが消えたのも……まさかね。

 セイレンがどこにあるか? それはナイショ……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・55「夏の部活は図書室で(*^-^*)」

2017-07-28 10:51:28 | 小説・2

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
55『夏の部活は図書室で(*^-^*)』




 部活動を図書室でやるようになった。

 文芸部でもないのに、なんで図書室かというと、二つ理由がある。

 一つは、部室に使っているタコ部屋にエアコンが無いから。

 以前使っていた部室棟は戦前からの木造建築で、大阪の酷暑にも耐えられる……とまではいかないけど、暑気払いの工夫があちこちにしてあったらしい。さすがは、ひいひい祖父ちゃんであるマシュー・オーエンの設計ではある。
「ぜんぜんちゃうでーー」
 唯一、部室棟での夏を知っている啓介が言う。なんせ、演劇部は、この春までは啓介一人っきりの演劇部だったんだもんね。
 それで、放課後も冷房が効いている部屋で、なおかつ生徒が自由に使える場所ということで図書室が選ばれた。

 二つ目は、演劇部が静かな部活だから。

 うちの演劇部は、演劇部とは看板だけで、放課後をユッタリとかグータラ過ごしたいというのがコンセプト。人には言えないけどね。
 だから、図書室に居ても他人様に迷惑をかけるようなことはない。

 須磨先輩は、四回目の三年生の貫録、ひたすらエアコンの冷気を浴びて居ねむっている。
 器用なことに目を開けて居ねむっている。
「すごいね、須磨先輩」
 千歳に言うと、クスっと笑う。
「傍によって見てみるといいです」
 お言葉に従って、隣の席に移動して様子を見る。
「あ…………」
 声を押えて驚いた。
 なんと、目蓋の上に目が開いた状態のシールが貼ってある。
 多分、自分の目を写真に撮ってプリントアウトしたやつ。一メートルも離れると見分けがつかない。
 でも、こんなことをやるんなら、サッサと家に帰って寝ればいいと思うんだけど、こうまでしても人の中に居たいという気持ちは天晴だと思う。
「いつもという訳じゃないんですよ」
 千歳の解説が続く。
「司書室にいるでしょ」
 手鏡を出して司書室を映して見せる。直接見ては差し障りがあるみたい……

「あ、八重桜……!」

 国語の先生で、たしか図書部長をやってるオバサン先生。
 敷島という苗字があるのに『八重桜』と呼ばれているのには理由がある。
 明石家さんまみたいな反っ歯で、鼻よりも歯の方が前に出ているので『八重桜』。
 分かるわよね、八重桜っていうのは花が咲く前に葉が先に芽吹くのよね。それで、いつのころからか『八重桜』というニックネームが付いている。八重桜先生は、図書室で喋ったり居ねむったりということにやかましい先生であるようなのね。

「あ、え?」

 気づくと机に伏せて本格的に寝ている。
 そっと司書室を見ると八重桜の姿が無い。須磨先輩は居ねむりながらもレーダー波を発しているのか、人知れずGPSを仕掛けたのか、八重桜の出入りを把握しているらしい。
 須磨先輩は、三年生を四回もやっているというツワモノ。なにか八重桜に含むところがあるんだろうなあ。

 千歳は機嫌よく本を読んだり、器用に車いすを操作してパソコンに向かったりして知的好奇心を充足させている。

「千歳って、学校辞めるためのアリバイ入部だったんだよね?」
「だったんですけどね」
 イタズラっぽく笑う。
「このマッタリ感が捨てがたくって……」
 呟きながらラノベを読んでいる。
 タイトルを覗くと『エロまんが先生』とある。机の上には『冴えない彼女の育て方』『中古でも恋がしたい』なんかも積んである。
 この三つのラノベの共通項は『エロゲ』だったよね?

 エロゲと言えば啓介。

 さすがにノーパソ持ち込んでエロゲをやるわけにはいかないので、一人部室に残ってやっている。
 区切りがいいところまでやっては図書室にやってきて涼んでいる。
 こいつも家で心置きなくやればいいと思うんだけど、この環境でやることが、やっぱり醍醐味のようなんだ。
「いやいや、もう一つ醍醐味があるねんで」
 こっそり理由を聞くとニンマリして言う。
「暑さにバテかけのときにコンビニの冷やし中華を食べる、この美味さは、この環境でないと味わわれへん!」
 そうなのよね、こいつは冷やし中華フェチだった。
「でもね、わたしの髪の毛見ながらヨダレ垂らすのは止めてくんない?」
 こいつは、わたしのブロンドの髪を見て食欲がわくという変態さんでもある。
 髪をブラウンとかに染めたら焼きそばフェチに転向するかなあとか思ってしまう。

 わたしは……というと、部室棟が解体修理されるのを観察している。
 入部したのも、ひいひいお祖父さんが設計した部室棟が生まれ変わるのを、一番のロケーションで見ていたいから。
 図書室からだと、部室ほどにはよく見えないんだけど、冷房の恩恵を考えるとやむなし。

 その部室棟の作業が、この一週間停まったままのような気がした……。
 
 
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6[もうこのへんで……]

2017-07-27 17:11:08 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6
[もうこのへんで……]



 秋分の日を前に、今年は10月下旬の涼しさになっている。

 それを承知で、神野は特盛のアイスクリームを2つ持ち、一つを麗に渡した。
「立花さんの脳みそと心は原子炉並だ。少し冷やした方がいい」
「そうかもね……」
 二人は、並の人ならアイスクリーム頭痛をおこしながら10分はかかるであろう、新宿GURAMのジャンボアイスを1分余りで食べつくした。
「神野さんも、相当熱い」
「いや、冷たいことに慣れすぎているのかもしれない……」
 東京の都心まで出てきたデートの最後の会話がこれだった。

 麗の人気は、ちょっとしたアイドル並になってしまった。それほど文化祭の成功は大きかった。野外ステージの反響も大きくYouTubeでのアクセスも、スポンサーが付くほどの数になった。また、校長先生と回ったご近所へのお詫びも大変好評で、これはSNSで、みんなが取り上げ、礼節、貞淑などとカビの生えたような賞賛まで飛び交った。麗は世代を超えて地域的な有名人になってしまった。
 で、神野とのデートも、わざわざ県外の東京にまで出てきたのだが、新宿GURAMの前で、テレビ局に掴まってしまった。

 麗自身はブログなどやっていなかったが、学校の生徒が、自分のブログに麗のことを載せ、そのアクセスがはねあがるという状態であった。

 そんな中、演劇部の『すみれの花さくころ』は予選を無事に最優秀で飾ったが、連盟が熱心に情宣をやらないので、会場は、なんとか万席程度で済ませることができた。
 問題は、県の中央大会(本選)であった。会場の県民文化ホールは、キャパが1200あまりしかない。そこに1万人を超える麗のファンが押し寄せた。連盟の実行委員の先生たちは頭を悩ませたが、地元の新聞社が救いの手を差し伸べた。
「本選終了後、私どものホールを提供いたします。2日にわたる無料公演を行いますので、整理券を……」
 そうネットで流した10分後には、ネットでの入場整理券は配布終了となり、その5分後に整理券は法外なプレミアが付いて、最高で1万円の値がついた。

 本番は、麗の学校の一つ前の御手毬高校の上演中から、観客席は麗目当ての一般観客が押し寄せ、御手毬高校は手前の審査員席でさえ台詞が聞こえない状態になった。
「ほんとうにごめんなさい」
 麗は心から御手毬高校に誤ったが、女子高生のツンツンは一度へそが曲がると容易には戻らない。そこには嫉妬の二文字がくっきり浮かんでいた。「感じわる~!」部長の宮里はむくれたが、麗はただ頭を下げるのみであった。

 演奏やダンスは、文化祭後仲良くなった茶道部・ダンス部・軽音楽部が参加してくれて、本編は、ほとんど宮里と麗の二人だった芝居が歌とダンスのシーンになると、まるでAKBの武道館のコンサートのようになり、緩急と迫力のある舞台になった。

 だが、審査結果は意外にも選外であった……。

 一見すごくて安心して観ていられるが、作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない。それに数と技巧に頼りすぎている。

 観客席は一般客の大ブーイングになった。宮里も山崎も、美奈穂も悔し泣きに泣いたが、麗は氷のように冷静。マイクを借りて、こう言った。
「言語明瞭意味不明な審査ですが、甘んじてお受けいたします。もうS会館で、あたしたちの芝居を待ってくれている人たちが1万人待ってくださっています。それでは会場のみなさん、S会館の前でお待ちのみなさん、40分後に再演いたします。どうぞ、そちらにお移りください」
 そう言って、麗たちが、席を立つと一般客も雪崩を打ったように会場を出てしまい、後の講評と審査はお通夜のようなってしまった。

 麗たちは、都合二日にわたり、4ステージをこなした。ネットでもライブで流された。麗は期せずして、どこのプロダクションにも所属しない日本一のアイドルになってしまった。

「ちょっと風にあたってきます」

 麗は、そう言って楽屋を出でバルコニーに出た。常夜灯がほんのり点いたバルコニーに人影……予想はしていたが神野が立っていた。
「ちょっと、やりすぎてしまったね」
 神野は優しく寂しそうに言った。
「そうね、この一か月で十年分……いえ、それ以上に走っちゃった。楽しかったわ」
「じゃ、少し早いけど、次に行こうか……」
 麗としては全てが理解できたわけではなかったが、麗の中のべつのものが納得していた。
「じゃ、いくよ」
「ええ、いつでも」

 神野が指を鳴らすと、麗の姿はゆっくりと夕闇の中で、その実体を失っていった。宮里が探しに来た時は気の早い木枯らしが吹いているだけだった。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 エタニティー症候群 完

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『フェミニンボブ』

2017-07-27 14:45:26 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『フェミニンボブ』
       



 また言われるかな……そう思って、玄関のドアを開けた。

「ただいま!」

 ちょっとだけ元気よく帰宅を告げる。
「おかえんなさい……あら、またフェミニンボブが似合うこと」
 ほらきた。お母さんは、あたしの顔だけ見ると、そう言ってキッチンに戻った。
「今夜は、鶏の唐揚げと筑前煮、オプションが冷や奴と玉子豆腐。どっち?」
「玉子豆腐」
「洗濯物は、カゴの中にね。ついでにシャワー浴びて……」
「お風呂掃除」
「よろしくね」
 そう言うと、お母さんが大量の鶏肉を中華鍋に入れる景気の良い音がした。大量と言っても加減は知っている。多すぎると鍋に火が移って火事のもとになると、最初のころに教えてくれた。

 最初にフェミニンボブと言われた時は面食らった。そんな言葉は初めて聞いたからだ。
 前のお母さんは、こう言った。
「また、ボサボサにして。いつまでも子どもじゃないんだから、少しは構いなさいよ」
 で、中三のときに来た、今のお母さんは「フェミニンボブ」という。
 ネットで検索したら、フワッとしたショ-トヘアーで、ちょっと大人のオシャレという感じで、ニンマリしたのを覚えている。

 風呂場でシャワーを浴びながら、鏡に写る自分の体に大人が住み始めたみたいで、うろたえた。
 たった五日間。それも軽くキスしただけなのに……。

 シャワーを中断して、風呂掃除に移る。

 素っ裸のままスポンジでこするのがわたし流……いや、妹と二人の、いつのまにか付いた習慣だった。小学校のころ、妹といっしょにこれをやっていて、よく浣腸をされた。
「隙アリ、浣腸!」
 と、やってくる。わたしも負けずに浣腸をしてやると、妹はケラケラ笑って喜んだ。
「女の子が、そんなことするもんじゃありません!」
 お母さん(前の)の一喝で、姉妹のコミュニケーションは、ただの風呂掃除になってしまった。
 子ども以来の大股開きで、湯船を洗っていると、ついさっきの鏡に写った自分が思い出されて、顔が赤くなる。もう素っ裸で風呂掃除するのは、これでおしまいにしよう。

 前のお母さんと妹のことを思い出すのも、しばらくは止め。
 わたしには考えなければならないことが一杯あるんだから。

 お母さんの唐揚げは徹底していて、食べる寸前に二度揚げする。カリっとして、これはいける。

「合宿、なにか楽しいことあった……?」
 お父さんにビールを注ぎながら、さりげに聞いてきた。一瞬くちびるの感覚が蘇ってきた。
「お母さん、高校生の合宿でファーストキスしたのよ」
 お父さんは笑いだし、わたしの心臓はドッキンした。
「あれだろ。食事の後かたづけで洗い物してたら、振り返った拍子に顧問の景子先生とキスしちゃったって、あれだろう?」
「ええ、お父さんに言ったかしら!?」
「もう三回目だよ。あ、千尋は、この話し初めてか?」
「う、うん。びっくりした」
「この人は、面白いこと言おうとすると鼻が膨らむんだ。だから最初から、オチのある話だとは思ったけどね」
「なんだ、あなたったら、もう……」

 あんなことになるとは思わなかった。

 わたしは、演劇部で、来週に迫った夏の高校演劇祭のため、『贋作・リア王』の稽古に余念がなかった。
 わたしは、三女コーデリアの役だった。素直な従順さと、固い意思、それが不器用な父への愛情表現になる。演出を実質的にやっている中本先生に何度も言われた。
「千尋、おまえが、この芝居の軸なんだ。おまえに魅力がなきゃ、リア王は、ただの不細工なジイサンの話になっちまう!」
 何度もやり直しをさせられ、正直落ち込んだ。そんなあたしを中本先生は、就寝前に呼び出した。その前にリア王をやる鈴木君も呼ばれていたので、予感はしていた。わたしにとって中本先生は神さまだった。茂田英樹と劇団珍幹線が大好きで、DVDで良く見せられ、自分でも好きだと錯覚していた。

「だから、最後の瞬間。父への想いが噴き出すんだ! お前のは気持ちの説明だ。噴き出すんだよ愛情というやつは」
「はい」
「こんな風に……!」
 そこで抱きしめられた。
 最初は稽古だと思っていた。でも、胸の膨らみで先生の鼓動を感じ、くちびるが触れたとき、違うと感じた。そして、先生はあたしを。あたしは先生を愛していると確信した。
 先生は、フェミニンボブのあたしの髪をもっとフェミニンにして、謝った。
「ごめん……こんなつもりじゃなかったんだ」
「い、今のは稽古です。先生が稽古をつけてくださっったんです」
 お芝居のような、よそ行きの言葉が口をついて出てきた。
 あの夜満月でなくて良かった。満月だったら先生はオオカミになってしまっていただろう……。

 なんて冗談が言えるのは、もう、あたしの気持ちにケリがついたからだ。

 あれから先生は、お芝居をDVDではなく、生で見せてくれるようになった。もちろん二人きりで。
 わたしは、先生のお嫁さんになって、いっしょに芝居ができたら、どんなにいいだろうと幼く時めいていた。

 そんなわたしは大学に行って変わった。頭はあいかわらずフェミニンボブだけど、その中身で感じる世界は大きく変わった。茂田英樹と珍幹線が同じ感覚で感動できるなんて、今のあたしには考えられなかった。

 劇的ということの意味も、あたしの中では、はっきりしてきた。芝居を見るのではなく観るようになった。
 皮肉だけど、リア王をやった鈴木君と、おおよそのところで芝居を観る目が一致してきた。
 役者とは、演ずることよりも感じることが大事なんだとも思い始めた。

 そして、先生とはキチンと恩師と教え子の関係にもどった。詳しくは言えないけど、水先案内をしてくれたのはお母さんだ。
「学校の先生って、こどもだから、きちんと……」
「話した方がいいんだよね」
「それは残酷よ。自然に距離とって……それで分からないようなら、手紙でも書いとくことね」

 振り返ると、お母さんは、あたしが思春期のころから、大事な曲がり角には、いつもお地蔵さんのように立っていた。アドバイスは唐揚げのように二度揚げだった。半分言って、それでもしょぼくれているようなら、もう一回揚げ直してくれた。

 そして鈴木君との結婚が決まったとき、お母さんは式の日取りをしっかり言った。
「どうして、その日にこだわるの?」
「だって、幸せに成れる日だから」
「え、なんで……?」
「わたしとお父さんの結婚記念日だから」
 お母さんは、あっけらかんと、そう言った。そして、あたしはマジでほんとに気が付いた。

 お母さんの頭もフェミニンボブだったことに……。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5[われ奇襲に成功せり!]

2017-07-27 06:20:15 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5
[われ奇襲に成功せり!]



 文化祭は大成功だった。

 麗の学校は、地域との連携を取るために、文化祭の参観は、ほぼ自由だった。
 なんと、たった一日の文化祭に一万人を超える参観者が来た。その半分近くが演劇部茶道部合同のパフォーマンス目当てだった。
 
 YouTubeで流した毎日のメイキング映像が、予想以上に人を集めたのだ。

 本番までのアクセスは一万件に達した。麗は裏方のことにも詳しく、特に照明と音響が命であることを承知していたので、衣装を貸してくれた大学に掛け合い、オペレーターの人員付きで機材を貸してもらった。学生たちは演劇科の舞台技術の学生たちで、いい練習になるということで、セッティングの企画からオペまで任せることを条件にロハでやってもらった。

 前日のリハで、手伝いにきていた演技コースの学生が「面白そうだからMCやらせて!」ということで急きょ、ほとんど専門家と言っていい学生たちが、ディレクターとMCを引き受けてくれることに。
 そして、勢いとは恐ろしいもので、軽音とダンス部が羨ましがり、三つの出し物が一つのイベントのようになった。そのリハの日のメイキング映像は、これも面白がって付いてきた放送学科の学生たちが、本格的なカメラで撮り、本格的に編集してその場でYouTubeにアップロードされ、一晩だけでアクセスが八千件ほどになり、通算二万件のアクセスになり、その半分近くが動員人数になった。
 他の生徒たちは、自分たちの準備に忙しく、YouTubeなど見ている間が無く、これだけ盛況になるとは思ってもみなかった。なんせ、麗は以外は、当の演劇部自身も予想していなかった。

 戦争なら、敵は一番弱いところを全力で叩きにくる。イベントなら新鮮な面白さが感じられるところの人は集まる。麗は戦争と同じだと思っていた。

「あたしたち朝一の出番でいいわよ」
「ええ、麗ちゃん、朝一なんてお客ほとんどいないわよ」
 麗の申し入れにスケジュールの調整に苦労していた生徒会は喜び、宮里部長は不服そうだった。
「大丈夫だって、その代りお客が多くて、アンコールとかかかったら、空いた時間にやらせてくれる?」
「ああ、いいよ」
 生徒会長は、あり得ない話だろうとタカをくくってOKを出した。

 で、結果的には、その麗の予想をさえ超える観客が、朝から集まった。

「申し訳ありません、昼休み前に、もう一度やりますので、それまで他の企画をお楽しみください」
 と、生徒会長は答えざるを得なかった。
「じゃ、それまで模擬店でも回るか」
 と、大半のお客はたこ焼きやら、ウインナーなどの模擬店回りをやった。そのために食材が無くなり、模擬店はどこも昼前には店じまいの状態。喜んだのは学校周辺のお店だった。コンビニやファミレス、蕎麦屋などにお客が流れ始め、地域経済の振興にも一役買った。
 そして、噂は噂を呼び、昼前の第二回公演では、立ち見も含めて900人、それでもあぶれる人たちが出た。

 餅屋は餅屋という言葉がある。

「いっそ、野外でやろう!」
 大学生が張りきった。昼休みのうちに、校舎とグラウンドの間の段差をステージにしてしまい、あっという間に照明とPAの機材のセッティングを終えた。お客は、そのセッティングさえ珍しく、かつ面白いので、20分押した準備も気にはならなかった。
 観客はグラウンドの半分を占め、軽音・ダンス部・演劇部茶道部の合同チームは、MCの進行も良く。
「どう、いっそみんな一緒にやっちゃわない!」
 その提案に観客も大喜び。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』は、最後は観客も交わり、大盛況のライブイベントになってしまった。

「奇襲大成功ってとこかな」

 麗は、そう呟いたが誰もきづかなかった。ただ急きょグランドでやったので、その騒音は近隣に鳴り響いたので、終了後、すぐにご近所にお詫びの戸別訪問をしなくちゃ。そう思った麗は道連れになる校長先生のバーコードが憐れに思えてくるのだった……。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・54「地区総会・6」

2017-07-26 10:49:45 | 小説・2

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
54『地区総会・6』



 立ち上がった啓介君の気配は彼に似ていた。

 六年前の地区総会で同じような気配の男子が居た。

 北浜高校のN君。

 コンクールに臨む各学校の抱負や近況を述べることになったんだ。
 硬い事務的な話ばかりになったので、I女学院の議長が気を利かしたのだ。
「北浜高校のNです、いい芝居を創りたいと思いますが、やっぱり『意あって言葉足らず』みたいな作品になることが多いと思います。高校生なんだからという言い訳はしたくないんですけど、言葉足らずの底にある『伝えたいもの』『表現したかったもの』に着目して、お互い前向きな気持ちで、お互いの芝居を観ていきましょう!」
 というようなことを言った。要は『お互い長い目で観ていこう』ということで、来るべきコンクールの詰まらなさを前もって言い訳したようなものだった。
 
 時に言葉は『何を言ったか』ではなくて『どんな風に言ったか』が大事な時がある。

 N君は歯磨きのコマーシャルのように爽やかだった。
 あまりに爽やかな言い回しで『この人は正しいんじゃないかしら』と思ってしまった。
 ルックスも、オタクっぽい男子が多い中で、程良い文武両道的なたくましさと歯磨きCM的な爽やかさ。

「空堀高校の松井さんですね」

 地区総会が終わってI女学院の校門を出て、環状線に乗る先輩たちと別れて、二つ目の角を曲がったところで声を掛けられた。
 後を付けてきたと言うんじゃなくて、一本向こうの道から来たら、たまたま出くわしたという感じ。
 そのまま地下鉄に乗って、堺筋本町で別れるまでに携帯番号の交換までやった。
 ま、意気投合した……。

 そんなN君と付き合いが始まって、よその地区コンクールや本選の芝居をいっしょに観に行ったりした。

 どの学校の芝居を観ても、例の『長い目で観て行こう』の精神で、わたしでは気づかないような見どころや長所を言ってくれる。
 優しい前向きな人だなあと、それを包容力のように思って、十六歳のわたしは時めいてしまった。

「合評会があるから観ていこう」

 本選のプログラムが終わると、彼は、わたしを誘った。予選でも合評会はあるんだけど、N君が誘ってきたのは初めてだ。
 正式には『生徒交流会』という合評会、審査結果が出るまでの時間つぶし的なものなんだけど、半分以上の観客や出場校が残っていて、高校生らしい熱気が溢れていた。
 興味深いってか、アレっと思ったのは、本番の芝居より合評会が面白いかったこと。
「お疲れさまでした」という挨拶で始まる評はどれも暖かかった。

 四校目で「あれ?」っと思った。

 正直箸にも棒にも掛からない芝居で、客席は真冬の朝のように冷え切っていた。
 でも、合評会は暖かいままだ。間延びした芝居を「緩やかなテンポ」、言葉足らずで伝わらない台詞を「無駄が無く含みのある台詞」、姿勢の悪い演技を「等身大のリアルさ」と称賛している。正直気持ちが悪い。

 雰囲気に乗れないまま審査終了の知らせが入って合評会は終わった。

「芝居というのは一期一会なんだということを頭に置いて作らなきゃいけない」
 審査員の一人が苦言を呈した。
 柔らかい苦言だったと思う。要は「詰まらない芝居ばかりだった」ということだ。
「創作劇ばっかりというのはどうなんだろ。戯曲というのは軽音やブラバンの演奏曲にあたるよね、軽音やブラバンが創作曲でコンクールに出るってことは有りえません。ちょっと考えていいんじゃないかな」
 同感と思ったら、N君が手を上げた。

 「北浜高校のNです、いい芝居を創りたいと思いますが、やっぱり『意あって言葉足らず』みたいな作品になることが多いと思います。高校生なんだからという言い訳はしたくないんですけど、言葉足らずの底にある『伝えたいもの』『表現したかったもの』に着目して、お互い前向きな気持ちで、お互いの芝居を観ることが大事なんじゃないでしょうか」

 歯磨きCMの中井貴一を思わせる喋り方に観客席の半分くらいから拍手が湧いた。

 地区総会での彼をグレードアップしたような感じに、わたしは思ってしまった。
 N君は、爽やかに発言して、暖かく受け入れられるのが嬉しいんだ。
 中井貴一君を残念に思った。

 それからいろいろ分かった。

 分かったから、その後の近畿大会のお誘いは断った。
 そして携帯を機種変するのに合わせて番号を変えた。
 それっきりN君とは会っていない。

 そのN君と啓介君が被った。なんで?

 ああ、喋る前に髪をかきあげる癖がいっしょなんだ。
 ただ、啓介君は緊張のあまりからで、N君のはポーズなんだと、六年後の、この一瞬で理解した。
 なんだか小さな可笑しみが沸き上がってくる。
 同じ仕草のあと、啓介君は言った。

「たぶんコンクールには上演校としては参加できませんけど、分担された仕事はやらせてもらいますので、よろしくお願いします」

 正直な発言に、我知らずコクコク」と頷いてしまった。
 
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4[麗の前哨戦]

2017-07-26 06:28:41 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・4
[麗の前哨戦]
          


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。


『すみれの花さくころ』の稽古は楽しかった。

 正確には演技することが楽しかった。麗は、自分でもこの頃、自分自身が変わってきたように感じていた。人ともよく喋るし、部活もするようになった。流行のアイドルの歌などにも関心を持つようになった。
 でも、麗は思った。本当の自分は別のところにある。あるんだけど思い出せない……で、思い出さない方が幸せなのかもしれない。

「文化祭で、この芝居は無理よ」

 麗は、三人の部員にズカッと言った。部長の宮里が不服そうに言う。
「だって、演劇部が文化祭で芝居やらなきゃ、存在意味がないじゃん」
「固定概念に囚われちゃいけないと思うの。芝居って、せんじ詰めれば自分以外の何者かにメタモルフォーゼ……あ、変身て意味。変身してエモーション……情念とか感動を観客と共有することだと思うの」
「……かな」
「だったら、歌っても踊っても同じことだと思う。文化祭って、いくつも模擬店とか出し物とかのイベントがあるじゃない。そんな中で50分も観客縛りつけておくのは無理だし、演劇部が、ますますオタクの部活だと思われてしまうんじゃない?」
「うん、立花さんの言うことにも一理あるよな」
 副部長(と言ってもたった二人の正規部員だけど)の山崎が応じる。
「それにさ、美奈穂さんがギター上手いのに、挿入曲の伴奏だけじゃもったいないわよ」
「あ、あたしは単なる助っ人だから」
「使えるものは先輩でも猫の手でも使います!」

 
 麗の勢いで決まってしまった。

 AKBのメドレーをやって、ラストに『すみれの花さくころ』のテーマ曲『お別れだけどさよならじゃない』で締めくくって、コンクールの観客動員にも結び付ける。

「でも、人数しょぼくない?」「衣装とかは?」宮里の疑問ももっともだ。でも、麗の答えは「任せてちょうだい」だった。

 人数は、もう一つの部活の茶道部に頼んだ。
「お茶には、わびさびの他にハレの感覚も必要だと思うの。お茶の家元さんなんか意外に若いころはロックとかやってたりするのよ。例えば……」
 これで、茶道部16人をその気にさせた。
 衣装はネットで当たってみた。過去にAKBのレパをやった大学のサークルやグループを探しては問い合わせてみた。三件目でヒットした。
3年前の学園祭でAKBのヘビロテをやった大学のサークルが衣装をそのまま残していたのだ。ちょっと一昔っぽいけど、一番AKBっぽい。

 レパは4つ。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』

 麗は、一晩でAKBの三曲のカンコピをやった。あたまに「率先垂範」というむつかしい4文字が浮かんだ。

 練習場は近所のダンス教室のスタジオを格安で借りた。借り賃は顧問を拝み倒し、また稽古風景をメイキングにしてYouTubeで流し、ダンス教室のPRもすることで折り合いがついた。
「やっぱ、ナリからだね!」
 みんなAKBもどきのコスを着てダンス教室の鏡の前に立つと、俄然テンションが上がってきた。その様子を山崎クンに撮らせてYouTubeに流した。AKB、女子高生、文化祭、本番までのメイキングというタグ付けで、初日のアクセスが300件を超えた。

 麗の前哨戦が始まった……。

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3[麗の部活探し]

2017-07-25 17:01:53 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3
[麗の部活探し]


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。



 あの日から麗は人が変わった。


 クラスメートとも気軽に話すようになったし、冗談も言うようになった。
 授業中も以前なら先生が間違えたりごまかしたりすると、容赦なく責め立てた。特に社会科の授業で日本の批判をするような教師には「根拠を示してください」とか「現代の道徳観で過去の歴史を見れば、全ての時代が暗黒の時代になります。同時代の他国との比較の上に論じなければ意味がありません」などとやり、誤魔化そうとしようものなら高校生とは思えない知識と論理で徹底的に論破した。

 それが、このごろは、そういうことをしなくなった。今日の二時間目などはAKBの『心のプラカード』を口ずさんで叱られ、赤い顔をして俯いたりした。

 麗は入学以来クラブに入ったことは無かったが、なんと二年の二学期になって、クラブの見学に行くようになった。
「すみません、見学させてください」
 二年の見学などめったにいないのだが、学年でも飛び切りの美人(けして可愛いという範疇ではない)が来るのだから男子部員はホクホクと鼻の下を延ばした。
「あたしもやっていいですか?」
 と、剣道部で言った。
「じゃ、防具つけて。美奈穂手伝ってやれ」
 と、部長が言い終わったころには、身支度を済ませて竹刀を構え蹲踞していた。
「早いな……じゃ、美奈穂。素振りから胴と面うちを……」
「試合させてください」
「え……じゃ、美奈穂、怪我させないように」
 と、四人いる女子部員で、引退前の三年生の美奈穂に指示した。
「じゃ、立花さん、正眼に構え……」
 麗は、すでに隙のない正眼に構えていた。
 一発で胴を決めた。むろん麗の勝ちである。

 しつこく勧誘されたが、剣道部で自分より強い者はいないと見きって、断った。柔道部もチラリと覗いたが、剣道部以上に下手なので、見学もしないで、スルーした。
 一応茶道部に入ってみた。ただ月に数回の部活なので、まだまだ余裕である。
「あなたの手って、表千家ね」
 と、お茶の先生に言われたのが動機だ。自分がお茶の作法を知っていたのも驚きだったが、なんだか心が落ち着くので、月に何度かお茶をたしなむのもいいかと思ったのだ。

 そんなある日、グラウンドと校舎の間の段差に座って意気消沈している二人の女生徒と一人の男子生徒に気づいた。そのうちの一人は剣道部の美奈穂であった。

「どうかしたんですか、美奈穂さん?」
「あ、あなた立花さん!?」

 意気消沈しているのは、演劇部だった。正規の部員はたったの二人で、美奈穂はギターの腕を見込まれて、この秋にやる芝居の生演奏で協力していたのである。
「へえ、美奈穂さんて多才なんだ!」
 麗は素直に感心した。
「ありがとう、でもね……主役の子が入院しちゃって、本番間に合わないのよ。で、どうしようかって考えてるとこ」
「コンクールの申し込み24日、もう一週間しかない……」
 部長らしい女生徒が盛大なため息をついた。
「どんな台本?」
「これ……」
 渡された台本は『すみれの花さくころ』とあった。戯曲集から直接コピーされたもので余白が少なく書き込みに不便そうだが、活字そのままなので読みやすかった。
「どの役が入院したのかしら?」
「あ、その咲花かおるって役」

 斜め読みだが、麗は五分で読んだ。そして信じられないことを口走った。

「あたしで良けりゃ、やらせてもらえないかしら」

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2[もう少し楽になろうよ]

2017-07-25 06:03:54 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・2
[もう少し楽になろうよ]



 苛烈などというものではなかった。

 東鶏冠山北堡塁は旅順要塞の東に位置し、旅順攻撃の初期のから終結時まで激戦地になった。堡塁はM字型の断面をしており、Mの左肩から突撃した日本軍はMの底に落ちる。するとMの両側の肩の堡塁の銃眼から機関銃や小銃、手榴弾などで屠殺された。この甲子園球場ほどの堡塁を抜くために、日本軍は8000人の戦死者を出した。
乃木軍隷下の第11師団の大隊長である立花中佐が戦死したのは11月の第二回総攻撃のときであった。吶喊と悲鳴が交錯する堡塁の壕を目の前にして立花は身を挺さざるべからずの心境であった。8月の第一次攻撃の時は、罠にはまったと瞬時に理解し部下に撤退を命じ、大隊の損害は百余名で済んだ。
 だが、今回は重砲隊による念入りな砲撃。工兵隊により掘られた坑道からの爆砕をやった上での突撃である。先に飛び込んだ部下のためにも立花は突っ込まなければ、軍人として、人間として自分が許せなかった。M字の底から右肩の堡塁にとりついたところ、立花は6インチ砲の発射音を間近に聞いた。死ぬと感じた。感じたとおり、その0・2秒後に彼の肉体は四散した。その0・2秒の間、彼の頭を支配したのは、内地で結核療養している一人娘の麗子のことである。

「よくもって、この秋まででしょう」

 どの医者の見立ても同じであった。そして麗子は立花の戦死の二日前に十七年の短い生涯を終えていた。
 そして、麗子は父の戦死の時間に荼毘に付されていた。三時間後、叔父を筆頭に親類縁者が骨拾いに火葬場に行ったとき。釜の前に麗子が立っていた……。

 立花は弟が腰を抜かすのを見て戸惑った。

「浩二郎!」
 そう言って駆け寄ったときの自分の声と指先を見て愕然とした。そして弟の嫁が差し出した鏡を見て、言葉を失った。
 自分は、娘の麗子そのものになってしまっていた……。
 それ以来、立花は麗子として十年を過ごした。三年目ぐらいから自分の体に変化がおこらないことに不審を持った。友達は次々に嫁ぎ子を成し、相応に歳を重ねていたが、自分一人がそのままなのだ。人に相談することもできず、自分で文献を調べ、五年目に異変の正体に行きあたった。それは、アメリカのオーソン・カニンガムという学者の説であった。

※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 立花は、その五年後に出奔した。もう年相応では通じないほどに若いままだったからである。

 それから、七人に入れ替わった……というより、実体化した。いずれも、ほとんど麗子のままで、そのたびに戸籍や家族が用意されていた。そして、並の人間では持てない力が備わっていることも分かってきた。だが、心はいつまでも立花浩太郎中佐のままであった。
 で、昨日も学校の平和学習の語り部としてやってきた、92歳のハナタレ小僧をへこませてしまった。

「とらわれすぎるんだよ立花さんは。昔のままの自分をひきずってちゃ仕方がないよ」

 いつの間にか、中庭のベンチの横に神野が腰かけていた。
「もう少し楽になろうよ」
 そう言って、神野は指を鳴らした。
「あ、神野君……!」
「つまらないこと聞くけど、君の名前は?」
「もう、ふざけないでよ」
「いいから、言ってごらんよ」
「立花麗……アハハ、照れるじゃん。幼稚園からいっしょだったのにさ。あ、生年月日とか言ったら、なにかプレゼントとか良さげなことあったりして?」
「考えとくよ。とりあえず、今日は、これで良し」

「へんなの……」

 お気楽にAKBの新曲を口ずさんで校舎に消えていく幼馴染に「イーダ!」をした麗であった。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・240〔2元1次連立方程式・2〕

2017-07-24 17:05:26 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・240
〔2元1次連立方程式・2〕



 でも、この日は違った。気づいたらシャコタンのローリング族みたいな車が二台歩道まで乗り上げて、ボクらの前後を塞いだ!

「よう、なかなかマブイねーちゃん連れてんじゃんかよ」
 二台のシャコタンから、スタジャンやらジージャンやら怪しげに羽織った四人の悪たれが下りてきた。
「な、オレの勘あたったろ。オスはしょぼいけどメスはいけてるって」
 一番ブ男の反っ歯が言った。
「こりゃ、走りは中止して、パーティーにするか……」
 ブタッパナが同調した。
「お前ら、それでもローリング族の看板しょってるつもりかよ」
 リーダーらしい細目がニンマリ笑いながら言う。
「そうさ、戦の前だ……」
「だって、兄貴、こんなマブイのに、もったいないっすよ」
「だから戦の前に、ネーチャンに精力つけさせてもらうのよ」
 男たちが、ジリっと前後から寄ってくる。細目が不二子の手をとろうとしたとき、不二子の回し蹴りが細目の顎に炸裂し、旋回し終えたところで、ブタッパナの鳩尾に拳をめり込ませていた。

「拓馬、逃げて!」

 ボクは動けなかった。不二子一人を置いて逃げられないという気持ちと、怖さがないまぜになって体が動かない。
「拓馬、早く逃げて、110番して!」
 ようやく意味を理解して、スマホを出し、前の車のボンネットに足をかけようとしたら……天地がひっくり返った。反っ歯に足払いをかけられたと気づいたときには、右手が捩じりあげられていた。
「味な真似してくれんじゃねーか」
「それ以上やると、このタクマの腕がへし折れるぜ」
「ウ……ッ!!」
 細目が、不二子の手を摑まえ、後ろ手に捻りあげた。
「だれかー!!」
 思いっきり叫んだが、産業道路の騒音にかき消される。そして腕が折れる寸前まで、捩じられる。
 ボクも不二子も猿ぐつわをかまされ、手足を縛られて、二台の車の後部座席の床に放りこまれた。

 車が急発進した。もう足かけ五年も通っていてこんなことは初めてだ。何かが狂ってる。

「おい、今のうちに薬打っちまいな。ラリっちまったら、なにしたって分んねえからな」
「あいよ」
 注射器を取り出す気配がする。

 何かが間違ってる。何かが今日違ったんだ。ボクは必死で考えた……そうだ、今日の塾は阿倍野先生が休みで代講の佐藤先生だった。そしていつもの2元1次連立方程式をやっていないことに気付いた。溺れる者は藁をつかんで沈んでいくのかもしれないけど、ボクはかけてみた。x+y=a 2x+4y=bのaとbに8と16という数字を代入してみた。塾に入った時に初めてやらされた2元1次連立方程式だ。

 答えはすぐに出た。x=3 y=5だ!

 すると不二子を乗せた前の車がバナナの皮を踏んだみたいにスリップし、ボクが乗せられた車が、追突して衝突した。

 二台とも、車はうんともすんとも動かなくなり、誰かが110番してくれたんだろう、パトカーまでやってきてボクと不二子は事なきを得た。
 解放されて気が付いた。2元1次連立方程式というのは鶴亀算なんだ。阿倍野先生の2元1次連立方程式は、そうだったんだ!

 帰りの無事を期するためのおまじないだったんだ。鶴亀、つるかめ、ツルカメ……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・53「地区総会・5」

2017-07-24 11:00:04 | 小説・2

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
53『地区総会・5』




 六年前の地区予選はI女学院で行われた。

 地下鉄I駅の階段を上がると四車線を挟んで緩やかな坂道、坂道の向こうにチャペルの尖塔が覗いている。
 坂を上りはじめると、ディンド~ンディンド~ンとタイミングよく鐘が鳴る。
 見え始めた学院は年季の入った緑の中に校舎が静もっていて、その校舎群を従えるようにチャペル。
「あのチャペルが会場なのよ」
 先輩がよそ行きの言葉遣いで教えてくれる。

 なんだか映画の中の登場人物になったような気がした。
 それだけで胸がときめく十六歳の女子高生だった。

 チャペルに行きつくまでに「お早うございます」の挨拶を十回はした。
 学院の生徒さんたちも、ジャージのロゴで分かる他校の部員さんたちもハキハキと挨拶を返してくれる。
「すみません、みなさんのお名前書いていただいたら嬉しいです。お友だちになりたいですから」
 受付の生徒さんに奉加帳みたいなノートを示される。

 空堀高校演劇部の下に、一年生 松井須磨。

「わ、素敵なお名前ですね」
「え、そですか?」
「下に子の字が付けば新劇の女王ですね」
 顧問と思しき先生がパンフを渡してくれながらニッコリ笑う。
 松井須磨子どころか新劇という言葉も知らなかったわたしは、でも、言葉とロケーションの雰囲気でポーっとしてしまった。

 チャペルに入ると一学年四百人くらいは優に入る大きさでビックリ。

 着くのが早かったのか、緞帳は開いたままで、一本目の学校の仕込みが行われていた。
 キビキビ働く部員さんたち、トントンと組み上がっていくシンプルな舞台装置。
 あーー、わたしは演劇の中にいるんだ!
 頬っぺたと目頭が熱くなってきて狼狽える。
 空堀高校も、ちゃんと加盟が間に合って参加できていたらどんなによかっただろーと悔しくなる。

 え、これで始めるの?

 開会を伝えるアナウンスがあって――あれ?――と思った。
 四百人は入ろうかという会場は……二十人ほどしかお客さんが居ない。
 地区代表の先生と生徒代表の挨拶、審査員の先生の紹介があって、最初の学校が始まった。

 え………………………………うそ?

 びっくりするほどつまらない。
 声は聞こえない、表情は見えない、ストーリーも見えない、観客の反応はない……。
 一週間前にあった文化祭のクラス劇の方がよっぽど面白かった。

 ま、こんな学校もあるわね。

 気を取り直して、残り五校も観たんだけど、ことごとくつまらない。
 比較しちゃいけないんだろうけど、ネットで観た高校ダンス部や軽音、ブラバンの方がパフォーマンスとして格段に面白い。
 オレンジ色のユニホームで有名な京都のブラバンを観たのは、ディズニーランドの動画を観ているところだった。
 行進しながらのステップがいかにもディズニーテイストで、最初はディズニーランドのパフォーマンスかと思った。
 それが、現役の高校ブラバンと分かってビックリしたのは中三の秋だった。
 それからダンス部や軽音なんかを見まくって、高校生の凄さを認識して憧れると同時に――わたしには無理――そう思っていた。
 
 だから、駅からここまでのロケーションと、高校の部活へのリスペクトで、期待値はマックスになっていた。
 だから、置いてけぼりになったようにショックは大きかった。

 もう一つ「あれ?」があった。

 出場校全てが創作劇だった。
 あああ、そいいう地区なんだと納得して、二週間後府大会を観にいった。
 ちゃんとした市民ホールだった。
 でも、キャパ八百余りの客席が埋まることはなかったし、出場校の作品に感動することもなかった。
 観客席は時々反応していたけど、着いていけない、この子たちはオタクなんだと思った。
 
 それからの五年間、演劇部に籍はあるけど、一回も部活には行ってない。

 地区総会は『今年度のコンクール』の話になって来た。
 議長は、一校ずつ指名して、今年の抱負を言わせている。
 昔のことに意識が飛んでいたわたしは、順番が回ってきて立ち上がった啓介の気配にビックリした。
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