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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・300『大連へ』

2025-05-02 10:56:55 | 小説4
・300
『大連へ』 胡盛媛中尉 




 乾鎮に向かっているのかと思ったら、日差しの向きが違う。


 乾鎮は北京の西北だから、日差しは左から。それが背中の方から差してくるので車内は微妙に薄暗い。
 前方を見ても、バックミラーに映る後方を見ても僚車の姿は見えない……いつのまにか、このパルス車一台だけで東に向かっているんだ。

『大連に向かっているのよ』

 ヘッドセットから大統領の声。

「大連ですか?」

『うん、乾鎮でも大丈夫なんだろうけど、念のためにね』

「随伴の僚車は?」

『あちこちに分散させたわ。行方を掴ませないためにね。専用車は乾鎮に向かわせた。いちばん順当だし』

「あ、そうですね」


 中南海で騒ぎがあった。


 広場に買い物に出かけた殿下に鋭い視線を向けて接近する美少女。一見露天の売り子だけど、発するオーラが違う。
 広場に忍んでいたセキュリティーたちも一斉に反応。直後、その美少女はあやふやな笑顔で頭を掻きながらゴミ集積場にごみを捨てに行った。

 ひょっとしたら、なにかの勘違いかもしれないけど、大統領は大事をとって、殿下を避難させた。

 いまは、その車中。

 わたしと殿下は瀛台(えんだい)のバンで、たった今告げられた大連に向かっているらしい。

「大連に向かってるんですか?」

 バックミラーの殿下と目が合ってしまう。

「え、ああ、えと……」

「あ、口の動きが大連……あ、申しわけない唇を読んだりして(^_^;)」

「いえいえ、秘密と言うわけじゃないですし、大統領もお忙しい方ですから(^○^;)」

「そうですね……大連はいいところです。遼東半島の先っぽで、いろんな国の文化が混ざって蒸留された街です。満州への玄関口でもあるし、上海と並んで漢明の海の玄関口でもあります」

「あ、そうですね。旅順港や203高地は史跡で、観光開発も進んでいますしね」

「アカシアの並木道とか風光明媚だし、ちょっと楽しみですね(^_^)」

 ご人徳なんだ、何事も好意に捉えて泰然自若。

 まだ、ご自分のことも思い出されない殿下だけれど、身に着いた気配り、お気遣いはとてもゆかしい。

「大統領はごいっしょじゃないんですね」

「お忙しいお方ですから……」

「そうですね、うん……そうですね……」

 笑顔のまま口をつぐまれる殿下。

 振り返った車窓、背後の空は茜に燃え、山々が朱に染まっている。

「火焔山みたいだ……なんだか佳境に入ってきた西遊記だなあ」

「向かっているのは東ですよ」

「じゃあ、ここからは東遊記だ」

 そう宣言すると、耳からなにか取り出す仕草。

「あら、如意棒でも出てくるんですか?」

「こうやると……」

 左胸を撫でるようにして手を開かれるとほんとうに如意棒!?

「え?」

「そして、こうやると……」

 如意棒を載せたまま手を叩かれると、孫悟空のマスコットになった。

「ま、広場で?」

「ええ、騒ぎになる前、これ一つだけ買えました」

 それは変形文具シリーズの一つで、如意棒の状態ではボールペンになる仕掛けになっている。

「フフ、自分が如意棒になってしまうなんて、変な悟空ですね」

「でも、これで戦えば人の痛みが分かりますよ」

 そう言って手をパンパン。その度に悟空になったり如意棒に戻ったり。

「あれ(;'∀')?」

「あ、戻らなくなりました?」

「アハハ、悟空の状態だと字が書けませんからねぇ(^_^;)」

「ちょっと見せてください」

「うん、直るかなあ」

「いちおう情報部の軍人ですからね、こういうガジェットは……」

 引き受けたものの意外に時間がかかって、直ったころには遼東湾の向こうに大連の街が見えてきた。



☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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