大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠50[そして再びの始まり]

2023-03-14 08:49:50 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

50[そして再びの始まり] 修一  

 

 


「キャ!」「イテ!」

 ぶつかったことと二人で悲鳴を上げたことだけが確かな現実だった……あとは唐突に切り替わった夢のよう。


 さっきまでいたピレウスも、たった今ぶつかって二人そろって尻餅をついている横須賀国際高校の校門の前も夢かリアルかよく分からなかった。

 街の喧騒と例年になく早い木枯らしが頬をなぶっていく感覚で、少しずつ現実感が蘇ってきた。


「なんか、唐突な帰還……帰還ですよね……?」

「いつまでひっくり返ってんだ。みんな見てるぞ」

 天音に言われて、トシは意外な素早さで立ち上がった。

―― やっぱ、旅立ち前のトシとは変わってる。あの時は電柱の陰に隠れて、目が合うと逃げ出したもんな ――

 天音は、そう思ったが、もうひとつのことが気になった。

「修一と樟葉はやっぱり、ピレウスに残ったんだ……」

 取り出したスマホで、今が20××年11月29日であることと、スマホに二人が出ないことを確認した。

「天音先輩、三笠に行ってみましょう!」

「もう閉艦時間過ぎてるぞ」

「外側だけでも。オレたち20年以上、あの艦に乗っていたんすよ。行けばなにか分かる……感じられるかもしれない」

 二人は学校に置きっぱにしている自転車に乗って三笠を目指した。

 街への坂を下ると、木枯らしに雪がチラホラと混じってきた。

 まだ十一月だぞ……。

「……先輩、まだ開いてますよ」

「ほんとだ……でも人気(ひとけ)がないな」


 三笠は、いつも通り三笠公園の海側に喫水線から下をコンクリートで埋められた姿だったけど、舷灯が点いていて、なんだか、たった今帰港してきたという風情だった。

「先輩、雪がひどくなってきました」

「ちょ、洒落にならないなあ」

 雪は吹雪めいてきて、三笠の向こうの横須賀の街が鈍色に霞んできた。


 タラップを登って艦内へ急ぐ。


 明かりは点いているけど人影は無かった。

 ブリッジに上がる。

 雪はいっそう繁くなって、白い宇宙にいるような錯覚にとらわれる。

「宇宙が白いんですか?」

「ネガに焼いたら、こんな感じだろう」

「ああ、そう言えば、ワープした瞬間は、こんな感じですよね」

「ワープの予感か……」

「懐かしいけど、本当にオレたちピレウスに行ったんでしょうか……」

「行ったさ。だってトシ全然変わっちゃったじゃん。あの引きこもりが、あたしをここまで引っ張ってきた。行く前のトシは、電柱の陰からあたしたちを見て、見つかるとコソコソ逃げ出したんだぞ……それに、樟葉と修一がいないし……ピレウスに残ったんだ」

「……お蔭で、地球の寒冷化は止まるんですよね」

「どうだろ、木枯らしでさえ早いのに、この雪だぞ」

「吹雪よぉぉぉ止れっ!」

「何年前の変身ヒーローだ(〃△〃)」

「変身ヒーローじゃないっす『ふしぎな少年』ってマンガの主人公が時間を止める時のっす! ブンケンの資料にあるっす!」

「そうだな……もう部室は無いけど、またブンケンやるか」

「おっす!」

 やれやれと思う天音だったが、みるみる吹雪は止んで穏やかな雪景色になった。

「先輩……」

「ひょっとして……」

「チュートリアル的な?」

「なんのチュートリアルだ?」

「えと……新宇宙戦艦三笠的な、みたいな?」

「勘弁してくれ、いま帰ってきたとこだぞ(-o-;)」

「ホールに行ってみましょう!」

「ちょ……あ、そうか」

 ミカさんはピレウスに残った。だけど、それは、いわば分祀。別にお祀りしただけだ。ミカさんは船霊だ。艦がある限りは三笠に居るだろう。

 ホールに向かおうとして、タラップを降りた刹那、艦首の方に人影が見えた。

「あ……」

「どうした?」

「ああ……錨甲板に樟葉先輩と修一先輩! ネコメイドたちも!」

「シロメにゃ!」「クロメにゃ!」「チャメにゃ!」

「「「ニャニャニャニャ((´∀`))!」」」

「ああ、どうして!?」


 二人はベテランの乗組員のように、素早くタラップを降りると錨甲板に走った。


「どうして、あんたたち……!?」

「おまえらが、ピレウスを出てから二十五年がたった」

「でも、どうして……?」

「オレたちピレウスじゃ歳を取らないんだ。だから、あの時のままさ」

「ワケ分かんない、ピレウスはどうなったのよ?」

 修一が目配せして、樟葉が少し大人びた口調で言った。

「子供たちも、上は、もう24歳。あれからジェーンがテキサスで連れてきた子たちも合わせて18人。もうあの子たちだけで、ピレウスはやっていけるわ。で、銀婚式を機に、子供たちもレイマ姫も『地球に戻りなさい』って」

「見かけは18歳の高校生だけど、中身は43のオッサンとオバハン」

「でも、明日からは元の高校生やるからね!」

「地球の寒冷化防止がきちんと進むように、オレたちも居た方が……とも思ってな」

「理屈だか郷愁だか分からないんだけどね」

「ま、そのなんだ……やっぱ卒業ぐらいはしておかなくっちゃな。まだ二年生なんだし」

「そうか、そうだな。卒業は三人揃ってでなきゃな!」

「なんだ、天音、泣いてんのか?」

「ち、ちげーよ! 雪が目に入ったんだ!」

「「「鬼の目に雪ニャ!」」」

「うるさい!」

「あれ、ミケメはいないのか?」

 トシがネコメイドの欠員に気付くと、ネコメイドたちは東郷さんの銅像の方をうながした。

 銅像の傍で俺に似た青年がお供のミケメといっしょに手を振ったかと思うと、すぐに消えてしまった。

「次男だ。オレたちを、ここまで送ってきてくれた」


 そして、11月29日は何事もなく30日になった。


 なにもかももとのまま。

 でも、ただ一つ前の日と違ったことがあった。トシのクラスは41人だったが、42人になっていた。

 野中クレアという女の子が居て、なにくれとなく久々に登校してきたトシの面倒を見てくれた。半日不思議に思っていたトシだったが、午後には慣れてしまった。

 そうして、一週間後には誰も29日と30日の間に起こったことは言わなくなった。

 図書室の掲示板に貼ってあるニュースに、記念艦テキサスが久々にドッグ入りして二年間の修理に入ったことが出ていた。

 世界は、相変わらず温暖化が問題になっているが、21世紀半ばになっても温暖化がすすまず。想定外という日本語がスシと並んで国際的な言葉になった。むろん寒冷化も起こらなかった……。

 

 宇宙戦艦三笠(改訂版)……完

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠49[そして、トシとみんなの決意]

2023-03-13 08:20:07 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

49[そして、トシとみんなの決意] 修一  

 

 


 三笠を飛び出したトシは地理的にも心理的にも自分の居場所を見失っていた。


 人類が滅亡してから数百年。惑星ピレウスは密林状態になっている。みんなからはぐれてしまうと、もう元の場所が分からない。

 ―― 自分が残る! ――そう宣言して、クローンだから能力が無いと言われて、今まで人間だと思っていたロボットが「おまえはただの機械なんだぞ」と言われたように滑稽で惨めだ。

 生体反応を示すモジュールは、駆けだすと同時にオフになった。これは、仲間同士位置を見失わないための測位システムで、身に危険が迫ると自動でオフになる。敵に位置を知られないためのセキュリティーでもあるのだ。

―― スイッチオン ――と思いさえすれば、いつでもモジュールはトシの居場所を発信する。が、トシはその気にはならなかった。

 そのくせ、心のどこかで発見されたい気持ちもある。引きこもりの弱っちいアンビバレンツ。トシはますます自分が嫌になる。

 自分としては、誤解される恐れがありながら勇気を出して言ったつもりだ「オ、オレも残ってもいいです……」

 樟葉さんのことは密かな憧れだった。だから樟葉さんが「残る」と言った時、ドキッとした。でも樟葉さんだから自分も残るのではない。天音さんが言っても同じだったろう。いや、だれも言いださなくても自分は申し出た。その自信はある。

 だが「トシはクローンだ」とレイマ姫に言われてパニックになった。たった今の決心も、自分の存在さえコピーのイミテーションのように思われた。まるで自分はピエロだ……そう思う気持ちさえ、イミテーションの夢のようにおぼろで寄る辺ないものに感じられた。

 ふと血の味がした。

 木の枝か鋭い葉っぱで切ったのだろう、頬が切れ、そこから流れた血が口の中に入ってきたようだ。手で頬を拭うと、鮮やかな赤が手のひらに残った。


 妹が車に跳ねられた直後のことを思い出した。


 お兄ちゃーん!


 ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車をもてあまし、幼い妹は信号を渡り損ねた。それでも通行量が少ないので、自転車を押しながら、点滅しかけた信号を強引に渡ってきた。そして、前方不注意のトラックに人形のように跳ね上げられた。目立つ怪我は無いように見えたが、耳から血が流れていた。

 クローンと言われ、自分の存在がひどくバーチャルなような気がしたが、この鉄のような確かな血の感覚だけは本物だった。

「そう、本物なのよ」

 エッ!?

 びっくりして顔を上げると、船霊(ふなだま)のミカさんがいた。

「どうして……」

「いちおう神さまだからね。モジュールを切っても分かる……ごめんね、トシ君がクローンだというみんなの記憶は、わたしが消したのよ。トシ君はね、オリジナルトシ君のDNAから生まれたから紛い物じゃない。その……子供をつくる能力だけはないけど、あとは全て本物のトシ君だよ。今の血の味の確かさ……本物でしょ。妹のユミちゃんの記憶も」

「うん……」

「トシ君は、ユミちゃんを死なせたのは自分の責任だと思っている。だから、その償いとしてこのピレウスでアダムになろうと手を挙げたのよね」

「う、うん(灬ꈍ ꈍ灬)……」

 トシは涙が止まらなかった、トシは恥ずかしくて回れ右した。

 ミカさんは、そんなトシを後ろから静かにハグしてやった。

「この大遠征に来たことだけで、トシ君は十分に償っているのよ、もう十分なのよ……みんなそう思ってる。だからレイマ姫も、はっきり言ったのよ。トシ君に最後のハードルを越えてもらうためにも……」

 みかさんは、トシを掴まえに行く前にみんなに告げた。トシは自分が連れ戻すって。


「意見はまとまったぞ」


 トシが戻ると、俺は静かに宣言した。

「ピレウスには、あたしと修一が残る。寒冷化防止装置は、みんなで持って帰って……」

 樟葉が、今度は落ち着いて続ける。

「分かりました」

 トシも冷静に返事した。

「寒冷化防止装置は、ソフトのような気がします。わたしのPCの容量で間に合うのなら、わたしを初期化してダウンロードしましょう」

 クレアが当たり前のように言う。

「わりばって、そえでも足らね。っていうが、PCにダウンロードでぎるようなもんでねんだ。トス君ど天音さんの心ど体さ埋め込むんだ。並の人間ではまいね。この大遠征成す遂げで経験値マックスになったはんででぎるごどだ」

「あたしと、トシが……」

 天音が、いつになく真剣な面持ちで顔をあげる。

「そうだよ。で、こぃには膨大なエネルギーど制御が必要なんだ。エネルギーは三笠どテキサスさ、制御はクレアさんに……けっぱってね」

 みんなは静かに頷いた。

「グリンヘルドとシュトルハーヘンの脅威は」

 俺は、もう一つの大切なことを聞いた。

「グリンハーヘンのミネア司令……あのふとがなんとかするびょん。あった風にほいどつけだばって、ミネア司令の艦隊最強なのはグリンヘルドもシュトルハーヘンもおべでら。この上三笠敵さ回すては割さ合わねごどば。なんどどのごどで、たげ学習すたす、二づの星も三笠どの戦いで戦力喪失同然。地球さ行ってら余裕はねど思う」

 そう言うと、クレアはレイマ姫の背中にまわりツボを探るように手を動かす。何度目かに一度はボタンを押すようにグイッと力を入れて、そのたびにレイマ姫は輝きを増していく。
 そんなことを十数回繰り返したところで、俺たちは眩しさに目を開けられなくなり、そして体が熱くなって意識を失った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠48[小惑星ピレウスの秘密]

2023-03-12 08:19:35 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

48[小惑星ピレウスの秘密] 修一  

 

 

 三笠のクルーはみんな同じ思いだった。

「ピレウスに来て三日たつけど、オレたちなんともない……」

「スキャンしても、みなさん健康そのものです」

 クレアがトシの言葉を裏付けた。三笠のクルーはレイマ姫とジェーンの顔を交互に見た。

「んだんず。地球人は、このピレウスでも影響受げねんだ……」

「レイマ姫、君の狙いは……」

「寒冷化防止装置、なんど(あなたたち)に渡すて、地球救うごどだ」

「それだけかい……?」

「…………」


 修一の問いかけに、レイマ姫は黙ってしまった。


「あたしが代わりに言ってやろう」

「……なんで、ジェーンが」

「これは、レイマ姫のお願いであって、交換条件じゃない。ただ、自分から言いだすと、気のいいあんたたちに強制するようで言えなかったのさ」

「……言えないことって?」

「ジェーン、もうい。三笠のふとたぢに、寒冷化防止装置ば……」

「言うだけ言ってみようよ。あとは……みんなで考えればいいさ」

 いつも陽気なジェーンが真剣な顔になった。

「あんたたちの中で、男女一組がピレウスに残ること……意味は分かるわね?」

 

「え?」

 

「……ひょっとして、オレたちにピレウスのアダムとイブになれって……ことか?」

「あ、もういんだ! 忘れでけ、けすて交換条件ずわげでねはんで(#^△^#)!」

 レイマ姫は、両手でイラナイイラナイをした。

 重い沈黙が三笠の長官室を支配する。

 カタカタ……

 かそけき音に顔をあげると、ネコメイドたちがワゴンにお茶の用意を載せてやってきた。

「失礼しますニャ」

 ネコメイドたちが、紅茶とスコーンを給仕してくれる間も言葉を発する者はいなかった。

「艦長、ひとこと申し上げてもよろしいですかニャ?」
 
 ミケメが笑顔で指を立てた。

「うん、なにかな?」

「もし、どなたかがお残りのなるのなら、わたしたちもピレウスに残るニャ」

「え、きみたちが?」

「お世話する者がいるニャ」

「家を建てたり、畑を作ったり、水を汲みに行ったりニャ」

「ごはんを作ったりニャ」

「そんなの、ちょっと機材があれば、俺たちでできるぞ」

「でもニャ」

「いざ出産ということになったらニャ」

「たいへんニャ(^_^;)」

「猫の手も借りたいになるのニャ!」

 

 出産(# ゜Д゜#)!?

 

 口にこそ出さなかったけど、みんな異口同音に、でも口には出さずに驚いた。

 なんか、モロそのままの話なので、俺は話題を変えたぞ。

「聞きそびれていたんだけどさ!」

「なにかニャ?」

「ダルで二十年休眠して目覚めた時さ、ミケメたちは、そのまんまだったじゃないか、おまえたちもクローンかなにかなのか?」

 ああ……みんなもそんな顔になった。とりあえず緊急避難(^_^;)

「ネコはニャ、100万回生まれかわるニャ」

「宇宙に飛び立つにあたってニャ」

「100万回分を一人の中に取り入れたからニャ」

「100万匹分の寿命があるニャ」

「「「「ニャー(^▽^)!」」」」

 後ろでミカさんが笑ってる、どうやらミカさんの仕業。 

「あたし……なってあげてもいい。助けられるだけじゃ地球人として恥ずかしいことだと思う」

 樟葉が真っ直ぐに顔をあげた。顔は真っ赤っかだったけどな(#^o^#)。

「このピレウスへの遠征で、いろんなことを経験して仲間をかけがえのないものだと思えるようになった。それって、広げて考えたら、人類みんなを大切な仲間と思うことと同じ。だから、あたしは残ってもいい」

「オ、オレも残ってもいいです(#'∀'#)。地球じゃ何の役にもたたない引きこもりだけど、こんなことで役に立つんなら、オレは喜んで残ります!」

「トシ、お前が残ったら宇宙規模の引きこもりになっちまわないか(^_^;)」

「艦長!」

「……すまん、茶化す話じゃないな(-_-;)」

「でもさ、アダムとイブになるってことは、その……夫婦になって、子供を作るってことなんだよ。一時の感情で決めていいことじゃないよ」

「ジェーン、焚きつけてんだか、思いとどまらせてんだか……」

 樟葉に先を越された天音がジェーンを睨む。

「も、もちろん他の意見も聞かなきゃならないけど」

「あたしは……」

「待っで!」

 レイマ姫が遮った。

「トス君は使えね」

「こ、答えるのは、まず樟葉さんでしょ!!」

 トシは珍しく色を成した。

「トス君は……クローンなんだ。クローンには生殖能力がねんだ……」

「エ……オ、オレ、クローン!?」

「ダルの虚無宇宙域で三笠のエネルギー無ぐなったどぎ、なんどは救命カプセルで20年冬眠すでいだんだ。で、トス君のカプセルは具合わりぐで、トス君は死んでまったんだ。で、三笠の船霊のミカさんが、残ってあったDNAで再生すたのが今のトス君なんだ。こぃについでの記憶はアクアリンドのクリスタルの力で封印すてあったのだす」

「そ、そんな……オレがクローン……そんなバカな! そんなの信じられねえ!」

 普段は大人しいトシだが、そう叫んだあと、トシは三笠を飛び出してしまった。

「トシ、待て!」

 いつもならトシに後れを取るような俺じゃなかったが、トシを見つけることはできなかった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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宇宙戦艦三笠47[小惑星ピレウス・4]

2023-03-11 08:16:29 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

47[小惑星ピレウス・4] 修一  

 

 

 ジャングルのいくらも離れていないところにテキサスは着陸していた。

 

「こんな近くで、どうして探知できなかったんだろう?」

 クレアが、半ば不服そうに腕を組む。

「三笠の倍の航路をとって、惑星直列になるのを待ってピレウスに来たんだ。三笠程じゃないけど、レイマ姫が時間をかけてステルスにしてくれたから」

「他のアメリカ艦隊は?」

 俺が艦長として聞くと、ジェーンは微妙に視線を外した。

「大規模な戦闘になることが避けられないので戦略的に撤退。で、テキサスだけが大回りしてピレウスに着陸したんだ、三笠と連携して作戦行動をとるためにね。日本とは集団的自衛権を互いに認め合っているから、合理的な判断だよ」

「……アメリカ人が自信満々で言う時は、どこかに嘘か無理があるんだよな。要はアメリカが全面撤退した中で、ジェーンはオレたちとの義理のために単独行動しているってことじゃないのか?」

「違う! 義理じゃなくて友情。友情的作戦、作戦計画も正式なものだし(`Δ´)!」

 アメリカにとっては正式かもしれないが、日本代表たる三笠には何も知らされていない。しかし、ジェーンの友情には変わりのないことだろうと、それ以上触れるのはよした。なによりも、寒冷化防止装置を独り占めにしないで三笠を待っていてくれたのだからな。

「一つ分かんないことがあるんだけど(^_^;)」

 樟葉が儀礼的な微笑みのまま指をたてた。

「ピレウスは、グリンヘルドとシュトルハーヘンと同じ恒星系にあるのに、どうしてグリンヘルドもシュトルハーヘンも、この星への移住を考えないのかなあ。地球に行く何百倍もお手軽なのに」

 ジェーンは沈黙し、レイマ姫は静かに息を吸ってから、こう言った。

「話するよりも、実物見でもらったほうがいびょん。こっちさぎでけ」

 テキサスを出ると、すぐ近くになんの変哲もない岩が苔むしていた。

「この岩が?」

「こごが入口だよ」


 一瞬目の前が白くなったかと思うと、目の前に長い廊下が現れた。


 歩くにしたがって、様々な大きさのクリスタルが廊下の両側に並んでいるのが分かった。

 クリスタルの中身は、すぐそばまで行かなければ見えない仕掛けになっていて、好奇心の強い天音が先頭を歩いていたが、見た順に美奈穂は悲鳴を上げ、他の面々も怖気をふるった。

「……これは人工生命の失敗作ですね」

 クレア一人が冷静に見抜いた。

「そう……ピレウス人の遺体がら採取すたDNA操作すて、いろいろ作ったんだげども、みんな魔物みだぐなってまって……納得すたっきゃ、あんます見ね方がいいよ」

「人間らしいものもあるけど……?」

 気丈な天音は、その先のクリスタルを指さした。

「それは、ピレウスの調査さ来だグリンヘルドどシュトルハーヘンのふとたぢだよ。ピレウスさ来るど、三日ど命がもだねじゃ」

「それで、あいつらはピレウスには手を出さないのか(-゛-;)!」

「ピレウス人の最終戦争で使わぃだのが、この結果よ。みんなDNAに異常きたすて死ぬが魔物になっですまうんだ」

 グリンヘルド、シュトルハーヘン、ピレウスの秘密に愕然とする三笠のクルーたちだった。

「あ……ということは!?」


 トシが声をあげた。

 同じ思いはみんなの心の中で湧きあがった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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宇宙戦艦三笠46[小惑星ピレウス・3]

2023-03-10 08:37:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

46[小惑星ピレウス・3] 修一  

 

 

 その人は、ゆっくりと近づいてきた。

 近づくにつれて知っている人だという気がしてきた。だが、分かるのは知っているという気持ちだけで、肝心のどこの誰であるかは分からない。

 まるで、夢の中で出会った者のように、その人に関する記憶はおぼろの中だった。

「みなの衆、お元気であっただがぁ?」

 その訛言葉で思い出した。暗黒星団のレイマ姫だ( ゚Д゚)!。


 レイマ姫、どうして……


 クルーの誰もが混乱した。ナンノ・ヨーダから姫の事を託され、アクアリンドを発つまでは姫の記憶は有った。そして、虚無宇宙域ダル……いや、アクアリンドの海を離水した時には、姫の存在はきれいに忘れてしまっていた。それが今、その姿を、訛った声を聞いて忘れた夢を思い出したようにレイマ姫のあれこれが思い出された。

「もうすわげね。アクアリンドのあど三笠にどって致命的な戦闘になるごどが予想されで、みんなの記憶がらわーば消すたの。アクアリンドの海水の力も使ってさぁ」

 俺たちには分からないことだらけだった。予見したのなら、なぜ言ってくれなかったのか、なぜ、みんなの記憶を消して消えてしまったのか。そして20年の冬眠状態の間、どこで何をしていたのか。どうして歳をとっていないのか……?

「分がってもらえるが分がねばって、聞いでもらえるべがな?」

 みんなは、黙ってうなづいた。

「わっきゃ、ほんとはピレウスの星のソウルなんだ。クレアのアナライズでも分がねほど人間そっくりだども、わさだっきゃ実態は無ぇんだ。三笠のみがさんやテキサスのジェーンがバージョンアップすたもんだど思ってもらえば、分がるべがな?」

「うーーん、言葉悪いけど、レイマ姫は、三笠が必死の戦いをやることを予見して逃げたんじゃないの?」

 トシが、不服そうに言った。

「んだね。三笠のみんながらは、そう思わぃでも仕方ねわね……ハア~~~(-o-;)」

 レイマ姫は大きなため息をついて、空を見上げた。

「あたしたちを助けすぎないため……?」

 樟葉が探るように聞いた。

「んだな……わー危ぐなってまるど、後先考えねぐなって、けっきょぐみんなまねぐすてまるがら……ばって、かにな。大変な思いさせでまって……」

 レイマにはレイマの苦労があるんだ……この三笠での航海でいろんな目に遭って、その全てが理解できたわけじゃない。幸運と乗員みんなの働きがあったからこそ乗り越えてこられた。そのことだけは分かっている。

 だから、レイマ姫の言葉にできない気持ちも分かるんだ。

 見渡したみんなの顔も同じ想いのようだ、俯いたり目を三角にしている者は居ない。

 

 オオオオオオオオ(⊙ꇴ⊙)! 居た居た居たあああ(≧∇≦)!

 

 その時、ジャングルから陽気なオーラをまき散らしながら現れた者がいた。

「まどろっこしい話は止しにして、あたしの船においでよ。三笠の諸君!」

 ああ《゜Д゜》!?

 三笠のクルーは驚嘆の声をあげた。

 その陽気オーラの塊こそは、戦艦テキサスのジェーンだった……!

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠45[小惑星ピレウス・2]

2023-03-08 06:30:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

45[小惑星ピレウス・2] 修一  

 

 

「間もなく完全惑星直列。一時間でピレウスに着けば、見つかる可能性はないわ」

 舵輪を握りなおして樟葉が呟く。

 俺たちは、完全に惑星が直列になるのを待っていた。それが今、グリンヘルド、ピレウス、シュトルハーヘンの三ツ星が串刺し団子のように一列になりかけている。惑星直列に成れば、三つの惑星の磁場が影響して直列の垂直方向に盲点ができるらしい。一番発見されにくい瞬間だ。


「最大戦速10分。あとは慣性速度でピレウスに到達」

「周回軌道に入ったら発見されてしまうわ」

「周回軌道は1/6周で、ピレウス火山風上の森の中に着陸」

「針の穴に馬を通すようなものね」

「樟葉の腕を信じてるよ……」

「横須賀に帰ったら、ホテルのスィーツバイキングおごりね……クレア、目的地までアナログでいくから」

 アナログ……さすがに息を呑んだが口にはしない。

 言われたクレアだけが小さく聞き返した。

「大丈夫……?」

「デジタルのオートだと、0・005秒惑星直列から外れる。発見される恐れがあるわ。トシ、出力は最大戦速9分45秒。それ以上だと、エネルギー残滓を検知される。いいわね」

「分かりました。タイミングだけはきっちり教えてください」

 トシは、死んだ妹を思った。自分が気づいてやるのが、もう少し早ければ、妹は死なずにすんだ……。

「発進まで10秒……」

 ブリッジの全員がデジタルカウンターを見つめた。5秒でトシは目をつぶり、カウンターではなく樟葉の呼吸に集中した。これに成功すれば、妹が生き返る……そんな妄想が頭を占めた。

 

「5……4……3……2……今!」

 

 三笠のクルーの心が一つになった。完全なタイミングで三笠は発進した。

「…………うまくいきました! 三笠の発進エネルギーの残滓は探知レベル以下、着地点は目標から30メートルずれただけです。デジタルでも、ここまで正確にはいきません!」

 クレアが感動の声で賞賛した。

 偶然だけど、目標地点は地面の傾斜角が30度もあり、そこに着地していれば三笠は転覆していたかもしれないことが分かった。ブリッジの窓から見える風景は、地球で言うカンブリア紀のようで、周囲の木々の高さは十分に三笠を隠していた。


 そのまま三日が過ぎた……なんの変化もなかった。


 ピレウスの森は原始のジャングルのように鬱蒼としていたが、予想していた生物の反応は無かった。外からの観察では人類以外の生物の反応はあったのだ。そして、この三日、植物系以外の生命反応は無い。

「三笠にも、みんなにも劣化や老化の兆候がありません……」

 トシが、首を捻りながら呟いた。

「三笠にバリアーが張ってあるからじゃないの」

「この程度のバリアーなら、ピレウスの滅んだ文明にもあったと思います。このジャングルの下にはピレウス古代文明の軍事基地の残滓があります。ジャングルに覆われているので比較的劣化が遅いので、技術レベルが分かります」

 クレアが、三笠の下の軍事基地の残滓をモニターに写した。残滓からでもかなり進んだ文明の様子が読み取れた。

「火山の方角から生命反応。微弱だけれど……人間よ!」

 その人間は、ピレウス火山を背に、ゆっくりと三笠に近づいてきていた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠44[小惑星ピレウス・1]

2023-03-07 08:28:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

44[小惑星ピレウス・1] 修一  

 

 

 三笠は、用心しながらピレウスの衛星アウスの陰に回った。

 ピレウスは目的地だが、正体が分からない。

 それは覚悟の上だったが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの中間に位置し、両惑星から絶えず監視されているに違いない。ピレウスの大気圏内に入ってしまえば、どうやらピレウスが張っているバリアーで分からないようだが、そこにたどり着くまでの間に発見されてしまえば、元も子もない。

「ピレウスが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの間に入るのを待つ」


「そうするだろうと思って、惑星直列になる時間を狙ってワープしておいた」

 俺と樟葉は艦長と航海長としてツーカーであった。

「でも、ピレウスに敵が侵入していたらどうするんだ」

 天音が珍しく弱気なことを言う。

 普段は心の奥にしまい込んでいるが、父が中東で少女を救ってゲリラに殺されたことがトラウマになっている。もう大事な仲間を一人も失いたくない気持ちが、天音らしくない弱気にさせているんだ。

「その時は、その時。全てのリスクを排除しては何も行動できなくなる」

「天音の心配ももっともだから、できるだけピレウスと、その周辺をアナライズしておくわ。クレアよろしくね」

「はい、ピレウスの自転に合わせて表面と、地中10キロまではアナライズしておきました」

「結果が、これだな……」

 

 モニターにピレウスの3D画像が出た。

 

「地球に似てるけど、人類型の生命反応がありません。文明遺跡は各所で見られるんですけど」

「まるでFF10のザナルカンドみたいな廃墟ばかりね」

「何かの理由で、人類は破滅したんだな……」

 ネガティブな印象しか持てないほど、その人類廃墟は無残だった。

「この星には、負のエネルギーを感じます。アクアリンドよりももっと強い……これシュミレーションです」

 クレアが、モニターを操作すると、海に半分沈みかけた三笠が映った。

「三笠が沈みかけてる……」

「中を見てください」

 三笠の中には、4人の老人と4匹の老猫、一体の壊れかけたガイノイドの姿しかなかった。

「あれ……オレたちとクレア?」

「はい、一か月滞在していると、ピレウスでは、ああなります」

「いったいどうして……」

「推測ですが、ピレウス人の最終兵器が生きているんだと思います」

「滅んだピレウス人の……あれが?」

「はい、人類と人類が作ったものを急速に劣化させる……そんな装置があったんだと思います。装置そのものも風化して、どの遺物がそれか分からないけど、その影響だけが今でも残っているようです」

 クレアは、予断を与えないように、あえて無機質な言い方をした。

「これなら、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手の出しようがないわね」

「でも、それで何万光年も離れた地球に目を付けられてもかなわない」

「それよりも、あんな死の星から誰が地球に通信を……それも地球寒冷化防止装置をくれるなんて」

 ブリッジは沈黙に包まれた。

「あの……」

「なんだ、トシ?」

 トシの一言で沈黙は破られたが、事態を進展させるものではなかった。

「三笠のエネルギー消費が微妙に合わないんです」

「どのくらい?」

 樟葉が敏感に反応した。

「誤差の範囲と言ってもいいんですけど、1/253645帳尻が合わないんです」

「ハハ、トシもいっぱしの機関長だな。それはアクアリンドのクリスタルを積み込んだせいだろう。あれだって、人間一人分ぐらいの質量はあるから」

 修一の結論にみんなは納得した。

「…………」

 ただ、トシは、それが人間一人分にあたることが気にかかっていた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5]

2023-03-06 08:50:37 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5] 修一  

 


「ミネアさん、無理するのはよそうよ」

 ミカさんの言葉に、ミネア司令は微かにたじろいだが、それはミカさんにしか分からなかった。

 俺たちは、ミネアがミカさんの挑発に一歩前に出たようにしか見えなかった。

「そうやって、なにかあると、いつも一歩前に出てしまうのよね」

「なに……!?」

 ミカさんは、ミネアの厳しい視線と言葉をサラリと躱して言葉を続けた。

「グリンハーヘンというのは悲しい名前ね。グリンヘルドにもなれずシュトルハーヘンにもなれない人たちのアイデンティティー。両方の母星から疎外された人たち。二つの母星は、地球侵略については共同戦線を張っているけど、内心では信じあっていない。だから、二つの母星の間に生まれたあなたたちは疎外され、軍の中でも、遊撃隊でしかいられないんでしょ?」

「わたしたちは選ばれた真のエリート部隊だ。だから、本隊が暗黒星雲の両脇を固めているのに、ドンピシャ三笠の真正面に出てくることができた」

「でも、だれも応援にこない」

「ステルスの三笠を見抜けたのは、このミネアだけだ!」

「でも、グリンハーヘンが停船して、動きがおかしいことは、グリンヘルドもシュトルハーヘンの艦隊も分かっている。だのに助けにもこないし、この船も応援要請をしない」

「三笠捕獲の栄誉は、このグリンハーヘンだけにある。味方と云えど邪魔はさせない」

「今の状況は逆でしょ。いくら遊撃部隊でも、こんな状況なら、なんらかの連絡や、作戦行動があって当たり前じゃないかしら?」

 その時、グリンハーヘンの艦体が身震いするように揺れた。

 ワ!? ウワ! ニャ!?

 双方のクルーが仲良く驚いた。

 ミネア一人、足を踏ん張りなおすだけで顔色も変えない。

「三笠を修理しているの。資材が足りないから、グリンハーヘンから少しいただいてるの。今のは、その衝撃」

 ミネアの表情が微かに動いた。

「大丈夫、この船がダメになるほどには頂かないから。じゃあ、三笠の仲間は解放させてもらうわね。艦長、そこのタラップを上がって。三笠の第二デッキに出るわ。順番は、わたしが最後。いいわね」

 ミネアは、最後まで視線を外さないミカさんに対抗して身動き一つしなかった。三笠に閉じ込められていたミネアの兵士たちは、逆に通路が開いてグリンハーヘンに戻ってきた。

 

 ミカさんの帰艦は少し遅れた。

 

「ちょっと遅すぎない?」

 天音が腰を上げる。

 三十分過ぎても、我らが船霊さまは戻ってこず、開きっぱなしの通路からは三笠を修理するオートメカの音がくぐもって聞こえるだけだ。

 ニャンケンポン ニャンケンポン アイコデニャ!

 ネコメイドたちがジャンケンを始めた。

「なにしてんだ、おまえら?」

「ミカさんの様子を見に行くニャ!」「順番を決めてるニャ!」「「ニャニャ!」」

「順番て、そんなの、だれか一人行けばいい話だろ」

「そうだ、同じ乗組員だろ、僕たちもジャンケンに入れてよ」

 トシの申し出なんか無視して勝負がついた。

 ニャンパラリン!!

 四人のネコメイドが揃ってジャンプすると、一匹の半透明の猫に変わったぞ!

「「「「ステルスネコにゃ! 頭と前脚と後ろ脚と尻尾を四人でやってるニャ!」」」」

 なるほど、その順番を決めてたってわけか(^_^;)

 ステルスネコが飛び込もうとしたら、その通路からミカさんが戻ってきた。

「「「「いまから行くところだったニャ!」」」」

「ごめんなさいね、帰ろうと思ったら、ラッタル上がらなきゃだめでしょ、ねえ東郷君」

「え、あ……(#^皿^#)」

「ミネア司令以下100人の目が見てるし、モジモジしてたら、ミネア司令が特急で、通路の高さを下げてくれて。その作業が終わるの待ってたから……アハハ」

 いつも、すっと現れてすっと消えてるじゃないか……思っていても言わない。

 
「追ってきませんね、グリンハーヘン」


「ミネアさんは分かっているのよ。地球侵略がいかに無謀なことかを……」

「だったら」

「ただね、地球の温暖化が常識で抗いがたいように、グリンヘルドもシュトルハーヘンでも地球侵略が侵しがたい目的になっている。でも、グリンハーヘンの力は弱いから……いろいろあるのよ」

 神さまがいろいろと言うんだ、それ以上の詮索はできない。

「しかし、どうして三笠にステルス機能が付いたんですかぁ。そんなもの無いはずなのに」

 クレアが不思議そうに聞いた。

「三笠もニャンパラリンなのかニャ?」

「アクアリンドのクリスタルのおかげよ」

「アクアリンドの?」

「アクアリンドがグリンヘルドにもシュトルハーヘンにも見つからないのは、暗黒星雲のためだけじゃない。このクリスタルが、外界から、あの星を隠す大きな力になっていたの。クリスタルも学習したと思う。隠れて引きこもっていることの危うさを……」

 そう言うと、ミカさんは微かに微笑んで神棚に戻って行った。

「あとは、オレたちでやれって目だったな……」

「ピレウスまで、8パーセク。二回のワープで到着。いいわね?」


 樟葉が決意を促すように宣言。

 それを受けて俺は小さく頷いた。

 三笠のクルーの結束は、いっそう強くなっていった。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4]

2023-03-05 06:52:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4] 修一  

 

 

「いったい、どんな仕掛けになってるのだ!?」

 前の壁が消えて、ミネアが怒りに震えている。

「仕掛けも何も、クルーは全員ここに居るし、三笠は大破したままだ」

「……なにか隠している。三笠と君たちの情報は全て取り込んだけど、こんな能力が隠されているなんて分からなかった。手荒なことはしたくなかったけど、もう容赦しない!」

 ミネアが手を挙げると、残りの三方の壁が消えて、バトルスーツに身を包んだグリンハーヘンの兵たちが100人ほど現れた。

「情報が得られれば、それでいい。本当のことを言うまでだ、一人ずつ死んでもらう……まずは、アナライザーのクレアから。クレアは本当の人間じゃない。ボイジャー1号が擬態化しただけのガイノイド。最初の見せしめにはちょうどいい……構え!」

 ガチャリ!

 100人の兵が一斉に光子銃をクレアに向けた。

「待て! クレアは人と同じだ、オレたちの仲間だ、手を出すことは許さん!」

 俺の抗議に、ミネアは冷笑をもって応えた。

「フフフ……人の中でさえ序列があるんだ。グリンハーヘンでは司令がトップ、次席が副司令でもある艦長。以下副長、船務長、航海長、機関長、砲雷長、各科先任曹長という具合にね。三笠でもそうだろ、艦長以下の職掌が決まっているのはそういうこと……」

「それは役割の序列だ、人として階級があるわけじゃない。だから司令の言う序列で犠牲者を決めるなんて認めない!」

「正義面して人の話をさえぎらないで。クレアは、その序列にさえ入らないガイノイド、つまりは機械。機械に仲間意識を持つなんて変態の戯言だよ。クレアを破壊しろ!」

「「「「待ってエ!」」」」

 ネコメイドたちがメイドの姿に戻ってこぶしを握っている。

「な、なんだお前たちは!? そこには回収した愛玩用の小動物がいたはずだが!?」

「愛玩用小動物言うニャア!」

「あたしたちは、ネコメイドニャ!」

「シロメニャ!」「クロメニャ!」「チャメニャ!」「代表のミケメニャ!」

「ニャーニャーうるさい奴らだ」

「うるさい言うニャ!」「言うニャ!」「ダメニャ!」「ニャニャ!」「「「「ニャーニャー!」」」」
 
 たしかにうるさいかも(^_^;)。

「もう、代表のミケメが言うニャ!」

「「「ニャー」」」

「ふふ、この猫化けどもにさえ序列があるんだ」

「わたしらは、横須賀の街で人といっしょに暮しているニャ。ノラネコ、カイネコ、マチネコ、いろいろだけど、ネコは人の心を慰めて、人は程よく面倒見てくれて助け合ってるニャ。ネコたちはネコだけの地球にしようなんて考えないし、人も人だけの地球にしようって思わないのニャ! だから、わたしたちは東郷君たちと一緒に銀河の果てまで来たニャ、みんな仲間ニャ!」

「わたしたちも共存しようと思っているぞ、地球の寒冷化を防いで、お前たちともいっしょに暮して行こうと思っている。ただな、そこには序列がある。序列の無いところに秩序も平安も無い。地球人類は三級市民としてのみ生存を許される。そうだろ、我々の寒冷化防止装置がなければ人類も愛玩動物も死に絶えるしかないのだからな」

「ど、どうしてもやると言うなら、ネコメイドからやればいいニャ!」

「「「そうニャそうニャ!」」」

「お、お前たち!!」

「心配いらないニャ、二十年の冬眠状態の中でも生き延びたニャ、殺されたぐらいじゃ死なないニャ!」

「「「ニャー!」」」

 その瞬間、再び三方の壁が現れて、100人の戦闘員たちは一瞬の驚愕を残して壁の向こう側になってしまった。

「え……何が起こった!? 壁を開け!」

 応える者はいなかった。そして、ミネアの死角になっている天井の一部が開いてタラップが降りてきた。

「こんな操作、わたしは命じていない。だれがやっている、返事をしろ!」

「冷静な話をしましょう……」

 そう言いながら、タラップを降りてきたのは、ミカさんだった。

 タラップは垂直なので、降りてくるみかさんの、スカートの中がチラリと見え……ない。

 無邪気な男性本能に、みかさんは微笑で答えた。みかさんにはCERO倫理規定のようなものがあるのかもしれない。

「誰だ、おまえは?」

「三笠の船霊です。みんなは親しみをこめて『ミカさん』と呼んでくれるわ」

「フナダマ、そんな情報は無い……」

「それは、あなたたちに信仰がないから。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、はるか昔に宗教を捨ててしまったものね。無いものは理解できない」

「そんなことが……そうか、お前が三笠の秘密なんだな。」

「三笠に乗り込んできた人たちは無事よ。ミネアさん、あなたとの話が終わったら解放します」

 ミカさんは、日ごろから微笑を絶やさない。

『微笑女』というダジャレが言いたくなるほどに人の心を和やかにしてくれる。しかし、この時のみかさんの微笑は、神さまらしく慈愛に満ちたものだった。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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宇宙戦艦三笠41[宇宙戦艦グリンハーヘン・3]

2023-03-04 09:02:43 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

41[宇宙戦艦グリンハーヘン・3] 修一  

 


「ええ! また偽物!?」

 樟葉が警戒心丸出しの表情で後ずさる。気づくと天音もトシも、クレアでさえ疑惑の目で俺を見て、ネコのままのネコメイドたちは「フーーーー!」って唸りながら毛を逆立てる。

「どうやら、おまえらもホログラムの偽物に会ったみたいだな……」

 そう言いながら壁を叩く。

 ドンという音がして、みんな安堵のため息をつく。ちょっと、手が痛かったけどな(^△^;)。

「こっちも体が触れ合うまでは、分からなかった」

「触れるって、どんな風に?」

「何気なく肩に手を掛けたら、素通しになった」

「修一が、あんまりグダグダ聞くんで、おかしいと思って……」

「オレといっしょだ。樟葉がくどかったから、おかしいと思った」

「いっしょだ。あたしは頭をはり倒したら、空振りになった。修一は?」

「キスしようとしたら、顔が重なってしまった」

「ええー、キスなんかしたの!?」

「だから怪しいと思ったからさ。ちょっと大きな声じゃ言えないって誘ったら、顔を寄せてきた。で、ホログラムの偽物だって分かった」

「本物だったら、どうするつもりだったのよ!?」

 樟葉がむくれた。

 他のやつらは呆れながらも笑ってる。

「しかし、なんだな……俺たちって、あんまりスキンシップしてなかったんだ」

「されてたまるか!」

「それは文化の差よ。ウレシコワさんやジェーンさんはよくボディータッチやハグしてくれてた。日本人はしないから」

 クレアがフォローした。

「しかし、なにもキスしなくてもさ!」

「とっさだよ、とっさ!」

「それより、本物の艦長かどうか確認しておきましょう!」

「そうだな、ホログラムの偽物に会ったって言うけど、油断させるための罠かもしれん」

 トシの提案に天音が同意して、四人と四匹で迫って来やがった。

「ちょ、おまえら目つきが怖い」

「いくぞ!」

「ちょ、やめ、いて! 痛い! ちょ、アハハ ギャハハ……」

 で、捻られたり、つねられたり、くすぐられたり。俺は、まるで罰ゲームのような目に遭った。

「艦内に動きがあります……三笠にかなりの人数が……」

 笑い死ぬかと思った時、クレアが警戒の顔つきになった。

「何をしに行ってるんでしょう」

「あたしたちの情報を総合して、まだ誰か残っている人間がいると思っているらしいです……」

 クレアも自分でバージョンアップしているようで、この秘匿性の高い敵艦の中でも、ある程度は読めるようだ。

「他に、人間て……」

 みんなの頭の中で、同時に一人の顔が浮かんだ……ミカさんだ。

「敵に動き。三笠から退去しようとしています!」

「……ミカさんは船霊、神さまだから、予見できない能力を恐れたんでしょう」

 クレアの分析は正しく、ミカさんの能力は、そのクレアの分析を超えていた。なんと三笠に乗り移った敵兵たちが、三笠の艦内に閉じ込められてしまったのだ。

 そして、ミカさんの力は、それだけでは無かった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2]

2023-03-03 08:41:04 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2] 修一  

 

 

 意識が戻ると独房に入れられていた。

 セラミックのような独房には、床も壁も継ぎ目も無かった。ただ、出入り口と思われるところだけが、薄い鉛筆で書いたように、それと分かる程度。独房内はベッドが一つあるだけで無機質この上ない。

―― お目覚めのようだね。体には異常はない。ドアを開けるから、通れる通路だけをたどって、わたしのところまで来てくれ ――

 司令のミネアの声がした。

 通路に出ると、さすがに船の通路らしく、パイプや電路が走り、いたるところの隔壁はロックされていた。通れる隔壁は、あらかじめ解放されていて、十数回行き止まりに出くわして、やがて小会議室のようなところにたどり着いた。


 樟葉が先に来ていて、背もたれのない椅子に座っていた。


「艦長のくせに、遅いのね」

「通路で、ちょっと迷った」

「ハハ、あんな簡単な迷路で迷っちゃうの」

「樟葉は、迷わなかったのか?」

「あたしは、探索のために全ての通路を見て回ったのよ。通路の左側に手をついて、ぐるりと回ったら、全部見られた。遊園地の迷路攻略の方法よ。通路は、いかにも船の中らしいけど、大半ダミーね。配管配線ともに脈絡がない。どの隔壁の通路も何種類かのパターンの組み合わせ。よほど船の構造を知られたくないのね。本気になったら、案外簡単に船の弱点がみつかるかもよ」

「ダミーなのは、オレにも分かった。こんな宇宙戦艦がアナログなわけないものな」

「で、これからどうするの?」

 それから、樟葉の話は質問が多くなった。仲間のこと、地球のこと。

「大きな声じゃ言えない。もっと顔を寄せて」

 樟葉は、興味津々で顔を寄せてきた。

 俺は、いきなり樟葉にキスをした。

 ……なんと、俺の顔は樟葉の顔にめり込んだ……というよりは、重なってしまった。CGバグのポリゴン抜けみたいだ。


―― やっぱり ――


 思った瞬間、樟葉の姿は消えてしまった。

「やっぱり、ホログラムだったんだな。下手な小細工すんなよ、ミネア司令」

 そう言うと前の壁が消えて、部屋が倍の大きさになった。目の前にミネアがいた。


「思ったよりも賢いんだ」

「賢くはないよ。樟葉にキスするいいチャンスだと思っただけ」

「お、針が振れた」

「なんの針だ?」

「東郷君は見えないだろうが、目の前にインタフェイスがあるんだ……ほら」

 ミネアの前に仮想画面が現れて消えた。

「え?」

 今度は俺の前にインタフェイスが現れた。俺をスキャニングした時のままで、心拍数の針が元気に振れている。

「画面をタッチすれば、こっちをスキャンできるぞ」

「これか……え!?」

 軽くタッチすると、ミネアが骸骨になった。

「不器用だなあ、そっとやれ、そっと」

 やり直すと、様々なレベルでミネアの様子が分かる。骨格、筋肉層、内臓配列、神経系、その一つ一つに項目があって――心拍数――と思うだけで、数値とモデル化された心臓の様子が浮かび上がる。試しに、皮膚層で止めようとすると……着衣状態にジャンプしてしまう。

「チ」

「皮膚層はキャンセルしてある、東郷君のスケベ属性は承知しているからな。露出部分ならスキャンできるぞ」

 たしかに、カーソルを胸から首に移すと画像も数値も現れる。

「ほおぉ、泣キボクロが拡大される。ちゃんとメラニンの構造まで分かる。おお……!」

「な、なにを興奮している!?」

「エ、エロイなあ、ミネアのホクロはぁ(^O^;)」

「地球の男は、ホクロで欲情するのか?」

「ホクロってのはな、体のアンナとこやコンナとこの反映なんだ、知識さえあれば分かってしまうんだぞぉ(#^0^#)」

「見るなア(#>0<#)!」

 手で顔の下半分を隠しやがる。

「DNAの塩基配列が妙な規則性があるな……」

「フフ……それは、わたしがグリンヘルドとシュトルハーヘンとのハーフだからだ。この船のクルーはみんなそうだ。ハーフだけで作った遊撃部隊なんだよ」

「でも、グリンハーヘンて船の名前は安直だね」

「分かりやすいだろ、名前なんて符丁みたいなものだから。直に会ったら、東郷君の考えやら思考パターンなんかが良く分かると思ったんだがな、どうやら時間の無駄のようだね。わたしの希望だけは、きちんとしておくぞ。わたしは地球人の絶滅までは考えていない。共存した方が、上手くいくと思っている。例えば、無菌で育った動物って耐性が低いだろ。多少のストレスは抱えながらやった方が、グリンヘルドにもシュトルハーヘンのためになると思っている。いまの東郷君の様子でも再確認できたからな。グリンヘルドもシュトルハーヘンも君たちの能力を高く評価している」

「評価してくれるのなら、寒冷化防止装置ってのを早く渡してくれないか。一刻も早く地球に戻りたいから」

「正直、君たちがたどり着けるとは思っていなかったんだよ、グリンヘルド、シュトルハーヘンの首脳たちもね。装置は、我々が運んで稼働させるつもりだった。しかし、君たちはやってきた」

「俺たちを呼んだのは、ミネア、君なのか?」

「ああ、地球で共存するためには君たちの力を知っておかなければと思ってね。知ったうえで対策を考えなければならない」

「なんだ、対策とは?」

「地球の定員は多めに見積もっても100億といったところだ」

「ちょっと、多すぎやしないか?」

「我々の力なら可能だ。だがね、こちらから移民させるのは50億」

「数が合わない、地球の人口だけで80億。130憶は無理だろう」

「だから、地球人類の半分は消えてもらう」

「なんだと?」

「地球を救うのは我々だ、それくらいの妥協はあってしかるべきだろう」

「勝手なこと言うな!」

「一律に減らしたりはしない。能力と適性を考えて判断する。君たち三笠の乗組員を調べさせてほしい。ここまでやってきた能力と胆力は驚嘆に値する。君たちと、君たちと同等の人類は残す。友好的であるという条件が付くがね」

「奴隷になるか滅ぶかの二択ってわけか」

「そんな目で見るなよ。君たちだって、野生動物たちを適正な数に調整したりするだろうが」

「俺たちは野生動物じゃねえぞ」

「首脳たちの中には地球人類など野生動物同然で殲滅しろと主張するものもいるんだ。こういう友好的なプランを持っているのは、グリンヘルド、シュトルハーヘン双方の血をひくグリンハーヘンの者だけだ。どうだ考えてくれないか」

「考えねえ」

「協力してくれたら、三笠の諸君たちを二級市民として受け入れよう」

「二級?」

「ああ、並みの恭順者には三級しか認められないがな。二級は破格なことだぞ」

「断る」

「どうしてだ? 二級は参政権以外は一級市民と変わらん。君一人だけなら名誉一級市民という道もあるぞ」

「俺たちは共存しようとは思ってない。それって共存とも呼べないけどな。地球は地球の人類と生物のためのものだ。けして隷属なんかしねえ」

「古臭い民族主義だね。もう少しファジーになってもいいんじゃないか」

「ならねえよ」

「そうか、仕方ない。じゃ、他の仲間といっしょに居てもらう。みんなで相談してみるんだね」


 そう言うと、ミネアの前の壁が再生し、左横の壁が消えた。五つのベッドに、樟葉、天音、トシ、クレア、猫の姿に戻ったネコメイドたちは一つのベッドにまとまって眠っていた。


「おい、みんな!」

 仲間に駆け寄ると、今までいた部屋との間の壁が再生し、雑居房になった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠39[宇宙戦艦グリンハーヘン・1]

2023-03-02 08:53:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

39宇宙戦艦グリンハーヘン・1] 修一  

 

 

 虚無宇宙域ダルの正面はガラ空き。

 ……の、つもりだった。

 ワープし終わってもしばらくは分からなかった。

 それとの距離が50万キロという、宇宙単位では目と鼻の先になって知れた。


「正面50万キロに大型宇宙戦艦。ロックオンされている!」

 念のためCICに入っていたクルーがホッとして出ようとした時に砲術長の天音が叫んだ。

「取り舵一杯。右舷シールド展開。砲雷戦ヨーイ!」

 ドゴーーーン!!

 天音と樟葉が、操艦と砲雷戦の用意をし終えたころに、着弾があった。

「右舷装甲版、第四層まで破壊される。右舷舷側砲、全て損傷!」

「次の砲撃には耐えられない」

「そのまま旋回、左舷を敵に向けろ!」

 敵は、三笠が大破したことで一瞬の油断があった。旋回も舵の惰性だと思っている。

「光子砲、雷撃、テー!!」

「照準ができていない!」

「構わない、主砲、舷側砲、光子魚雷全て発射! 前進強速!」

 三笠の砲雷撃は、それでも半分が敵艦に命中したが、全て敵のシールドに阻まれた。機関もダメージを受けていて、10万キロ進んだところでダウンした。

―― 降伏を勧告する ――

 いきなりモニターに敵の艦長の姿が現れた。見かけは中一程度の女の子だったが、同時に送られてきた情報は、彼女がグリンヘルド、シュトルハーヘン両星連合タスクフォースの司令官であることを示していた。

―― 20年待った甲斐があったわ。狙い通り、ダル宇宙域に隠れていたんだ。わたしはタスクフォース司令のミネア。その船は破壊するが、あなたたちは助けます。ここまでやってきた努力はあなたたちの優秀さを示しています。地球支配の役に立ってもらいます。一分だけ待ちます。降伏か、戦死かを選びなさい ――


 トシが、メモをよこしてきた。


―― ワープ、敵艦に体当たり ――


 三笠の残存エネルギーは、さっきのワープと、今の攻撃を受け止めることに使われて完全にエンプティーのはずである。しかし、修一は、クローンのトシに賭けてみる気になった。ワープは通常機関を使わない。なにか目論見があっての事だろう。この三笠のクルーは、誰も地球支配のお先棒を担いでまで生き延びようとは思わない。その確信はあった。


「……分かった、降伏しよう。三笠の救命カプセルでは、そこまでたどりつけない。近くまで牽引してくれないか、ミネア司令」

―― 了解、賢明な選択ね。まず残っている主砲と舷側砲をロックして ――

「するまでもなく、あらかた破壊されてしまったけどね」

―― 余計なことは言わない。言われた通りにしなさい ――

「了解。美奈穂、オールウェポンロック」

 ガチャリ

 天音が、悔しそうな顔で、全装備をロックした。

 三笠は牽引ビームが来ると同時にワープした。修一とトシとの阿吽の呼吸である。

 牽引ビームとワープエネルギーの相乗効果で、三笠は、船そのものが巨大な弾丸になり、敵巨大戦艦の艦首にめり込んだ。

 半分消えかかった意識で、敵の艦首の銘板が読めた。

 グリンハーヘン……芸のない艦名だと思った。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠38[虚無宇宙域 ダル突破]

2023-03-01 08:52:43 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

38[虚無宇宙域 ダル突破] 修一  


 

「……遼寧が撃沈されたの」

 クレアから聞いてもあまり驚かなかった。まだ20年の仮死から覚めきっていないのかもしれない。
 

 遼寧……ウレシコワにとってはヴァリヤーグの撃沈は、その拠り所の喪失を意味する。つまり、ヴァリヤーグの船霊(ふなだま)としては存在できないことになるんだ。
 日本の船は実在する神社の御神体を分祀する。だから、船が無くなっても、それぞれの神社に帰れば済む話だが、ウレシコワは、ヴァリヤーグが出来上がるにしたがって現れた船霊なので、船が無くなると居場所が無い。

 一瞬三笠の艦首にメーテル姿のウレシコワが見えたような気がしたが。それは遼寧に成り果てたヴァリヤーグに居場所が無くなって三笠にやってきたときの彼女の残像。三笠に来てからは、ニコニコとサモワールを沸かして機嫌よくお茶を淹れてはみんなに振舞っていたけど、いろいろ無理をしていたんだ。自分の船を離れた船霊が楽しいわけがない。

 どうも、二十年の眠りから覚めて、スッキリするよりはセンチメンタルになっているのかもしれない。早く切り替えなきゃな。

 遼寧は、無謀にも虚無宇宙域ダルの外縁に展開していたグリンヘルドの大艦隊に飛び込んでいった。三分も持たなかったそうだ。

 戦艦大和の水上特攻のように思えて胸がふさがったが、ミカさんの話は違った。

「遼寧には、党の指導が入っていたみたい。党は三笠もアメリカの艦隊も足踏みしたのをチャンスだと判断したのね。ここで出し抜いて、グリンヘルドに突撃させ、一番槍の栄誉を獲ろうとね……乗っていた子たちは大半がカプセルで脱出。あらかたはグリンヘルドの捕虜になったみたい」

「あまり嬉しそうじゃないね、ミカさん。ウレシコワは残念だけど、人の命が助かったのなら、ミカさんの気性なら喜びそうなものなのに」

「そんなことないわ。少しでも生存者の可能性があることは喜ばしいことだわ」

 日本の神さまは正直だ。ミカさんの顔には当惑とも悲しみともつかない色が滲んでいた。俺には、それがウレシコワの消失によるものなのか、それとも、俺には言いにくい別のことによるものなのか区別がつかなかった。


 あくる日には、樟葉と天音が覚醒した。


 トシのことは伏せて、ウレシコワのことだけを伝えた。二人ともウレシコワのことを悲しんだが吹っ切るのは早かった。

「クレア、前よりきれいになったんじゃない?」

 天音も樟葉も、クレアの新しい生体組織に興味を持った。女の子は、居なくなった者よりも、生きて変化を遂げている者に興味のある薄情な生き物かと思った。

 が、違った。二人とも、すぐに三笠の状態をチェックし、発進の準備と周囲の警戒に没頭した。過ぎ去ったことよりも、これからのことに意識を集中しなければならないという決意の現われだったんだ。

「航海長、機関は万全です。エネルギーも充分で、ダルを脱出しても15%の余裕があります」

「了解。いよいよね!」

 樟葉は気づいていなかった。トシが今まで名前で呼んでいたのを航海長と呼んだことを。クレアの変化には気付いたのに……一瞬思ったが、これから先のことに軸足を置いているのなら、役職で呼称することが自然なんだろう。

 俺は、あらかじめ知っていたせいか、トシのクローンには違和感があった。

「ワープ到達域に障害物なし。一気にダルを抜けるわよ!」

「機関長、前進強速。一気にワープ!」

「ワープカウント、30秒前!」

「対ショック、閃光防御!」

 そう命じながらも、オリジナルトシとウレシコワの喪失感がせきあげてくる。ゴーグルを直すふりして涙を拭いた。

 ゴーグルの装着ぐらい一発で決めろ的に天音、いや砲術長の視線が飛んできた。

 その砲術長の後ろではネコメイドたちのVサイン。ドンマイの意味なんだろうけど、ゴーグルの下の口が強調されてチェシャ猫めいて見える。

 そして。

 ワ――プ!

 三笠は20年の眠りから覚めて、グリンヘルドもシュトルハーヘンも予測だにしなかったダルからの脱出を果たそうとしていた。
 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠37[20年の歳月]

2023-02-28 06:49:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

37[20年の歳月] 修一  

 

 

 体が鉛のように重い……手足も痺れたように動かない……視界もボケている。

 でも、どうやら20年の眠りから覚めたんだ……そう理解するのに30分ほどかかったんじゃないだろうか。

「オ! 艦長の目が覚めたニャー!」

 一瞬ネコミミの女の子の顔が覗いたかと思うと、パタパタと音が続いて、ネコミミが四つに増えた。

 ネコの惑星……いや、耳以外は人間だし?

「ウフフ、寝ぼけているニャ」「可愛いニャ」「おひさニャ!」

 あ……シロメ……クロメ……チャメ……ミケメ……?

「おーい、はやくはやく、艦長目覚めたニャ(^▽^)/」

 あ……

 パタパタパタ……ネコメイドたちだと認識できた瞬間、四人とも誰かを呼びに行く気配。

 プシュっと音がしてカプセルの蓋が開く、恐る恐る上体を起こし、首をひねって息を呑んだ。

 え……!?

「もう、大丈夫ですよ」

 優しい声が聞こえたが、誰の声であるのか思い出すのに数秒かかった。

 えっ……え?…………ええ!?

 後ろでニコニコ笑顔で並んでいるネコメイドたちと、あまりにかけ離れた姿に言葉が出ない。

 目の前にいるのは、スケルトンだった。

 くたびれたユニホームと声からなんとか本人だと想像する。

「クレアなのか?、その姿は……?」

「生体組織のメンテナンスに使うエネルギーも三笠の蘇生に使いました。三笠がダルを抜けたら、元に戻します。しばらく見苦しいでしょうが辛抱してください」

「ごめん、他の乗員は?」

「こちらです」

 クレアが案内してくれたのは浴室だ。浴室は戦闘時には戦死者の安置室になる、血が流れてもシャワーで洗い流せるためで、日露戦争の時は数十名の戦死者が安置された。余計な知識が悪い予感をさせる。

「換気と密閉性に優れた施設だからです。艦長も一昨日まではここに収容していたんですよ」

「そ、そうか……」
 
 よかった、とりあえずは生きているようだ(^_^;)

 
 救命カプセルは、船内で使う場合、状態を視認できるように半面が透明になっている。樟葉と天音のカプセルを見てドキリとした。

「なんで裸?」

「服は、体を締め付けます。そこから皮膚や内臓に負担をかけてしまうので、みなさんが眠りについたあと、裸にしました」

「オレは、服を着てるけど」

「蘇生の兆候が見えたので、昨日服を着せました」

「え、クレアが着せてくれたの(#^_^#)?」

「はい、ちゃんと着せたつもりなんですけど、不具合があったら、ご自分で直してください」

「クレアこそ、そのスケルトン、なんとかしろよ。他の三人が目を覚ましたら、オレよりビックリするぜ」

「ダルを抜けるまで気が抜けません」

「そうか……トシのカプセルは?」

「トシさんのカプセルは、こちらです」

 トシのカプセルは、隣のキャビンに移されていた。


「お早う。東郷君が一番だったわね」


 みかさんがカプセルに寄り添ってくれていた。悪い予感がした。トシのカプセルには白い布がかけられているのだ。

「トシは……?」

「カプセルとの相性が悪くて五年しかもたなかった。ごめんなさいね……」

「そんな!」

 白布を剥ぎ取った。

 透明なカプセルの中にいたのは、ミイラ化したトシの変わり果てた姿だった。

「どうにもならなかったの……?」

「秋山君を助けようと思ったら、その分三笠の復旧が遅れる。カプセルは20年しかもたないのよ」

「機関長を助けようとしたら、全員助からなかったです」

「そうなんだ……」

「そこで相談があるの。三笠の復旧も終わったし、秋山君のクローンを作ろうかと思うの。これからの航海に機関長は欠かせないわ」

「どうしてオレに聞くんだよ。オレに黙ってやってくれたら、こんなショック受けずにすんだのに!」

「だって、あなたは艦長だもの、全てのことを知っておく必要があるわ」

「じゃ、クローンでもいいから再生してやってくれよ。トシは、やっと立ち直ったところなんだから」

「その前に、秋山……トシくんの最後をしっかり見ておいてあげて」

「う、うん……」

 トシのカプセルの蓋が開けられた。

 賞味期限が過ぎたスルメのような臭いがした。トシが胸に抱いているスマホを手に取った。

 皮肉なことに、スマホの電池は残っていた。日本の電池技術はすごいぜ。

 マチウケは、亡くなった妹の写真だった。

 ホームセンターで自転車を買ってもらったばかりの写真。

 嬉しくてたまらない顔でピースサインをしている。あまりにいい顔なので思わず撮ったのだろう。その数分後にバイクに跳ねられて死んでしまうとも知らずに。

「じゃ、カプセルを閉じて。再生するわ」

 ミカさんは、ミイラ化したトシの皮膚のかけらに息を吹きかけた。目の前のベッドが人型に光った。

 光が収まると、そこには寝息を立てているトシがいた。そして、みかさんが指を一振りすると、カプセルの中のミイラは、煙になって消えてしまった。

「ミイラがいたんじゃ、話のつじつまがあわないから。あくまで、トシくんは東郷君と同じように目覚めた……忘れないでちょうだいね。それからクレアさんも、それじゃあんまり。生体組織再生しときましょうね」

 クレアが、元に戻ると同時にクローンのトシが、ベッドで目覚めて伸びをした。

「ああ……よく寝たあ。やっぱ先輩の方が目覚めるの早かったっすね。樟葉さんと天音さんは?」

「隣の部屋、あ、おい……」

「せんぱーい!」

 お気楽に、トシは隣の浴室に行った。数秒後真っ赤な顔をしてトシが戻って来た。

「な、なにも着てないんですね(# ゚Д゚#)……で、ウレシコワさんは?」

「あ?」

 虚を突かれたような気がした。ウレシコワのことは、今の今まで忘れていた。

 ネコメイドたちが揃って目をそらせた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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宇宙戦艦三笠36[虚無宇宙域 ダル・2]

2023-02-27 09:20:55 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

36[虚無宇宙域 ダル・2] 修一  

 

 

 20パーセクワープしたつもりが、わずかに0・7パーセクで停まってしまった。

 つまり、直径1・5パーセクある虚無宇宙域のど真ん中で立ち往生してしまったわけだ。

 

―― 20パーセク行ける出力で、たった0・7パーセクしか進めないのか!? ――

 

 さすがに言葉もなかった。

「非常電源で、艦内機能を維持するのが背一杯です。もう三笠は一ミリも動きません」

 機関長のトシが肩を落とした。

 他のクルーたちも元気は無かったが、俺の決定を責めるような空気は無かった。

 ダルを抜けなければ迂回する以外に手立てがないが、迂回すれば、待ち構えているグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いは避けられない。20万の敵を相手にしても顎が出ていた。推定100万の敵艦隊に抗する術は無いのをみんな知っているんだ。

「もう20パーセクワープするエネルギーを溜めこむのに、どれくらいかかる?」

「楽観的に見て20年です……」

 トシが力なく答えた。

 

 三笠は虚無宇宙域のど真ん中で孤立してしまった。

 

「アクアリンドのクリスタルは使えないの?」

 航海長の樟葉が聞いた。

「エネルギーコアがあるにはあるんですが、エネルギーに変換されるのは80年後です。それに、三笠の光子機関との接続方法もわかりません」

「トシって、ダメな結果を言う時の方が答えがはっきりしてるな」

 天音が毒を吐くが、トシを含め、だれも反論する元気は無かった。

 そんな乗組員の前で頭を抱えるわけにもいかず、船霊のミカさんに聞きにいった。

「アメノミナカヌシは、虚無から世界をお創りになりました」

 ニコニコと、古事記の創世記を聞かせてくれた。

「みんなで決心してやったことだもの、誰も責められないわ。自然の流れに乗っていくしかないでしょう」

 そこまで言うと、影が薄くなって神棚に隠れてしまった。


 二日がたった。


「なんだ、この非常食は!?」

 食卓に、非常用の乾パンが載っているのを見て、天音が悲鳴をあげた。

「生命維持に必要なエネルギーを優先的に残すためです」

 クレアが事務的な声で言った。

「アクアリンドで補給しただろ?」

「さっき調べだっきゃ、補給品はなもかも消えであった。水さ流れでまったが、ダルの影響が……申す訳ね」

「レイアのせいじゃないさ」

「すたばって、わっきゃ、この宇宙域の人間だよ、暗黒星団のレイマ姫だよ……」

「いいさ、どこにだって未知なことはあるもんさ。だから、宇宙は面白い!」

「艦長……」

「ネコメイドたちは?」

「チャペの姿さ戻って丸ぐなっちゃーよ」

「チャペ?」

「あ、津軽弁で猫のことだす」

 ネコメイドの変身も艦のエネルギーを使うんだろう。

「チャペ、なんか可愛いな」

 樟葉がフォローしてくれて、少しだけ和んだ。

「よし、とにかく考えよう」

 ガリ……イテ。

 俺は乾パンを齧った。舌を噛んでしまって、みんなが笑う。


 四日がたった。


「重大な提案があります」

 トシが憔悴しきった顔で言った。食卓の乾パンは、さらに半分に減っていた。

「クレアさんと相談したんです。救命カプセルに入って冬眠状態になろうと思います」

「わたしとウレシコワさんは残ります。二人は人間じゃないから、入る必要がありません」

「でも、クレアの義体の表面は生体組織だ。それにメンテナンスもしなきゃ、持たないよ」

「生存の可能性は、みなさんの何倍もあります。ウレシコワさんは船霊だから、このままで残れると思います」

『賭けてみましょう』

 ミカさんの声だけがした。

 薄情なのかと思ったら、実体化するだけで船のエネエルギーを使ってしまうらしかった。

 気になって見に行くと、ネコメイドたちはガンルームの隅で猫の姿で丸まって、置物のように硬くなっていた。

―― 一足先に冬眠したか ――

 こうして、俺、トシ、樟葉、天音、レイマ姫の四人は救命カプセルで冬眠することになった。

 そして、20年の歳月がたった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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