大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・改 005:御釈迦さんといっしょ 2019年4月

2025-04-02 16:03:56 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
005:御釈迦さんといっしょ 




 昨日は二三年生との対面式や。


 二三年生はあたしらよりも先に体育館に集まって整列してる。

 始業式をやってたらしい。

 生徒会長のナントカさんが歓迎の挨拶。続いて新入生代表のカントカさんが書いたものを見ながら入学の挨拶。

 二人とも女子。

 たまたまなんか、伝統的に女子のできがええのんかは未知数。しかし、従姉のコトハちゃんも卒業生。

 せやさかいに、やっぱり女子のグレードが高いのんかもしれへん。

 会長のナントカさんは、メモとかは持たんと挨拶してた。アクセントは大阪弁やけど、きちんとした標準語。マイクの高さが合わへんのでマイクの高さを調整してから喋るとこなんか余裕やなあ。前髪と眼鏡でよう分からへんけど民放の女子アナみたいに存在感があった。

 ナントカさんカントカさん言うてるのんは司会の先生の発音が悪いこともあるねんけども、うちも緊張しまくってるから(^_^;)。それに、もともとものごとを一発で覚えられるほど頭ええことないし。

 それに、ちょっと他の事に気ぃとられてるせいでもある。

 あたしは、横で俯いてしもてる榊原さんに神経を遣ぅて余裕がない。

 榊原さんは、クラスで一人だけ遅刻してきた。入学早々いうこともあるんやろけど、菅井先生がめっちゃ怒った。

 入学早々やから、他の生徒の手前もあってカマしとかならあかんと思てんやろね。

「なんで、入学早々遅刻したんや!?」

「あ、あ、えと……桜が満開になってて見惚れてしまいました」

「はぁ、桜が満開? アホか!!」

 この一喝で、榊原さんは蒼白になった。

 真っ青通り越して、真っ白……

 ほんで、席に戻ってからはずっと、机に突っ伏してる。すぐ前の席なんで、榊原さんが嗚咽を噛み殺してるのがよう分かる。

「気にせんとき、榊原さん……」

 それから、対面式のいまに至るまで、うちは榊原さんに付きっ切り。

 あたしは思う。

 菅井先生は、あんなふうに怒鳴ることが似合わん先生や。入学式の事やら家庭訪問のときの先生見てたら、ほんまは人に強うなんか当たられへん人やと分かってる。

 人間似合わんことはせんほうがええ。


 半日で学校は終わり。


 帰り道は公園とかは通らへんねんけど、あちこちの家の庭とかで桜が満開。そやけど、うっかり見惚れて遅刻するほどの桜ではない……榊原さんは、どこの桜に見惚れてたんやろ?

 家の前まで来てハッとした!

 山門脇の築地塀から伸びてる植物が満開の桜や!!

 越してきてから十日にもなろうというのに、ぜんぜん気ぃつけへんかった。

 たしかに子どものころから大きな木ぃがあるのんは知ってたけど、桜やったとは知らんかった。

 新学年の始まりいうのもあって、これまで四月にお祖父ちゃんとこ来ることはなかった。まして四月八日はね……山門の脇には『灌仏会 お花まつり』の張り紙。

 そうや、今日はお釈迦さんの誕生日で、日本中のお寺で、なにかしらお祭りをやってる。

 山門を潜るとオバチャンやお婆ちゃんらのご陽気なさんざめきに溢れる。

 檀家の婦人会のみなさんが集まってバザーをやったり、お釈迦さんに甘茶をかけたりお喋りしたり。

「やあ、さくらちゃん、お帰りぃ(^▽^)」

 米屋のお婆ちゃんが若やいだ声で挨拶をしてくれる。詩ちゃんに紹介された町内の人たちも。

「こ、こんにちは(;'∀')!」

 声が上ずってしまう。なさけない。

「おかえり、さくらちゃん。このあと、さくらちゃんのお誕生会もするからね、早く着替えて出てらっしゃい」 

 おばちゃんがにこやかに宣告する。

 そうなんです! 

 四月八日はうちの誕生日でもあるんです!

 ごく小さいころは別として、誕生日は家でお祝いしてもろてた。七年前まではお父さんもおったし、お父さんがおらんようになってからはお母さんが、忙しいなかでも必ず時間をやりくりしてお祝いしてくれてた。

 その後、米屋のお婆ちゃんの発案で、本堂でお釈迦さんと並んでのお誕生会になってしもた。何十人もの檀家さんやら町内の人やらが一斉に「さくらちゃん、お誕生日おめでとう!」言うて乾杯。

「あ、ありがとう(#*´▭`*#)!」

 きちんとお礼の言葉は言えんねんけど、自分でも分かるくらい顔が赤い。正直、こんな顔は見られたない。

 嬉しいねんけど、まさか、毎年はやれへんやろねえ?



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原留美     さくらの同級生
菅井先生     さくらの担任
春日先生     学年主任
米屋のお婆ちゃん


 

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せやさかい・改 004:突然の家庭訪問とご近所巡り 2019年4月

2025-03-26 10:25:39 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
004:突然の家庭訪問とご近所巡り  




 先生来はるて!

 キッチンで朝ごはんの片づけしてたら廊下の電話が鳴って、出勤直前のお母さんが出る。

『はいタナヵ、酒井です……はい……』

 それから、ほんの10秒ほど話すとキッチンまで引き返してきた。

「なんや、先日のお詫びと新学期のお話とかで先生きはるてぇ……しゃあない! 午前中休みとるわ。さくらもおらんとあかんで!」

 そう言うと、スプリングコートを脱いでピアスも外して、スマホで電話を掛けた。会社に半休の電話やろ。

 いっしょに食器洗てた詩(ことは)ちゃんが美しく眉を寄せる。

「午後はクラブあるから、町内見学は、また今度やね」

 今日は、午前中は近所のあれこれを詩ちゃんに教えてもらうことになってた。


「あ、せやね。また今度、よろしく」

「うん、それはいいけど、先生がお詫びて、なにかあったん?」

「ああ……大したことやないねんけど、ちょっと、うちが大きな声出したから、先生、気にしてはるんやと思う」

「担任、菅井先生だったね……悪い先生じゃないけど、三つ聞いたら一つ忘れる人だからねえ」

 おお……( ゚Д゚)

 具体的なことは話してへんのに、大事なとこは見抜いてる。美人やいう以外に、頭の回転がええんで、ちょっとビックリして尊敬の針が10ポイントほど上がる。


 おっちゃん(コトハちゃんのお父さんで、お母さんのお兄さん)の勧めで、本堂の外陣で会うことにする。

 で。

 菅井先生一人かと思たら、学年主任の春日先生も付いてきたんでビックリ!

 春日先生は定年に近いオッチャンの先生。本堂に上がると、正座して須弥壇の阿弥陀さんに手を合わせはる。菅井先生は、お母さんにペコペコするばっかりで、阿弥陀さんには気ぃもつかんいう感じ。

「先日は、さくらさんの苗字とお名前を読み違えると言うミスをしてしまいまして、まことに申し訳ありませんでした」

 春日先生がきちんとお詫びをされて、菅井先生は頭を下げながらゴニョゴニョ。

 わが担任ながら頼りない。

 お母さんは、春日先生の態度と言葉で恐縮してる。あの件は、菅井先生のポカやけど「せやさかい言うたやないですか!」と大きな声出したわたしにも非がある。あるから、お母さんには言うてへん。成り行き次第では、お母さんにポコンとかまされるかもしれへん。

「いえいえ、うちの子ぉも、いらんこと言いですから。オホホホ(^○^;)」

 いらんこと言いはないと思うねんけど。まあ、これで丸く収まるやろ。

「明日は灌仏会ですねえ」

 外陣の隅っこに置いてあるあれこれを見て、春日先生は水を向ける。

 灌仏会とはお釈迦さんの誕生日。お寺ではいろいろ行事があるし、外陣の長押には昔の灌仏会の写真があって、その写真の中に若いころのお母さんの姿もあったりして、そういうところを見てるんやとしたら、なかなかの先生やと思う。菅井先生は、正直に「へ?」いう顔してる。

「花まつりのことです、お釈迦さんの誕生日です」

 勤めてニコヤカに言う。この、いわば手打ち式は、わたしがニッコリすることで大団円。

「お差支えなかったら、苗字が御変わりになったご事情など……これからのさくらさんの指導上、心得ていた方が良いのではと、あ、お差支えなければなのですが」

 あ、これが本命か。

 たしかに、三月ギリギリに苗字が変わって、菅井先生が混乱したのも無理のない話なんや。

「はい……実は、主人が七年前に行方不明になりまして。このたび、やっと失踪宣告の運びになりまして、実家に娘共々戻ってまいった次第です……」

 お母さんは最後の言葉を濁す。わたしの手前もあって、これ以上は聞いて欲しないという意思表示。

「そうでしたか、いえ、承知いたしました。いや、これから三年間のお付き合いになります、入学式でも申しましたが、学校に出来ることがありましたら、なんなりとご相談ください。微力ですがお力になれれば幸いです。菅井先生からも……」

 水を向けられた先生やけど「は、明日から元気にがんばりましょう」と短くご挨拶――春日先生にばっかり言わしてそれだけかあ――と思うけど、お母さんがうちにだけ分かる『黙っとれオーラ』を発散してるんで、笑顔にチェンジ!

「「はい、よろしくお願いいたします(^_^;)」」

 母子揃って頭を下げてめでたしめでたし!

 時間にして三十分。お母さんは、その足でご出勤。うちも「せやさかい」をかまさんでホッとする。



「早く済んだじゃない!」

 コトハちゃんは制服に着替えてたけど、学校にいくついでにご近所巡りに連れていってくれる。

 町内で会う人が、みんな挨拶してくれはる。そのたんびに「こんど、いっしょに住むようになりました。従妹のさくらです」と紹介してくれる。正直ハズイけど、こういうことは最初が肝心「どんくさいから、いっぺんには覚えられませんけど、よろしくお願いします」と頭を下げておく。

「ああ、歌ちゃんの子ぉやな(^▽^)」

 米屋のお婆ちゃんなんかは、しっかり知ってくれてた。まあ、ええねんけどね。みなさん、瞬間わたしとコトハちゃんを見比べてる。コトハちゃんはベッピンさんで、とくに真理愛女学院の制服姿やし、もう反則やいうくらいのベッピンさん。これに対抗できるのは広瀬すずくらいしかおらへんし。

 凹みそうになる気持ちを笑顔に隠す。そう、笑顔は七難を隠すいうやおまへんか!

 ケケケ……ケ( ̄⊿ ̄;)


 コトハちゃんを見送って家に帰ったら、頬っぺたが引きつっておりました。



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
菅井先生     さくらの担任
春日先生     学年主任


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せやさかい・改 003:よそよそしい清けつ感 2019年4月 

2025-03-18 17:24:40 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
003:よそよそしい清けつ感  




 入学式いうのは肌感覚。


 身に着けてるもんが、なにからなにまで新品の下ろしたて。

 制服が新品なんはもちろんのこと、靴、ソックス、カバン、ハンカチ……ぐらいまではええとしいや。

 シャツにブラ、パンツまで新品や。

 色が白という以外はババシャツと同じ造りのシャツ。ほんまは軽やかにキャミで行きたかったんやけど。入学式の朝から文句言うのは縁起が悪い。毛糸のパンツ穿かされへんだけましや思て辛抱。

 鏡の前で、前かがみになってみる。

 セーラー服の襟の隙間から白ババシャツが見えへんかチェック。おニューの制服は今後の成長を考えて大き目。かがんだ姿勢で横を向くと、上からやと見えてしまう。ま、できるだけ前かがみにならんように気ぃつけよ。

 新品の衣類は肌に接する感覚がちがう。セーラーの襟も袖口もスカートの裾も肌に接するとこは新品特有のびみょうな固さ。からだ動かすと新品特有のせいけつな匂い。シャツもなじんだもんとは柔らかさがちがう。つねの下着は何十回も洗濯してくたびれた柔らかさ。新品はシャツの袖口やパンツの又ぐりのとこが10パーセントほどきついような気ぃがする。

 なんちゅうか…………よそよそしい清けつ感。

 将来この日の事を思い出すのは、うちの名前と同じ名前の花とちごて、このよそよそしい清けつ感やと思う。


「あ、ちょっと」


 準備ばんたん整えて玄関に向かうと、お母さんに呼び止められる。

「髪の毛髪の毛」

「え? え?」

 ついさっき、まとめたばっかりのポニーテールを玄関の鏡に映す。

 シュ!

 お母さんの手ぇが伸びてきて、まとめてたゴムを紺のリボンごと抜かれてしまう。

「ちょ、なにすんのんよぉ」

「ポニテの位置が高すぎる」

 ポニーテールはアゴと耳を結んだ延長線上にゴールデンスポットがある。ハツラツとしてて一番かっこええ。

 ちょっとチビでガリボチョのうちは、これくらいキリリとしたほうがええ。

「今日は、これくらいにしときなさい」

 ゴールデンスポットより五センチも低ぅされてしもた。

「ええ……こんなん、ただのヒッツメやんかあ(*ー"ー) 」

「あんたのは目立ちすぎる、初めての学校やねんさかい、地味目にいきなさい」

「……はーい」

「それから、大丈夫やとは思うけど『せやさかい』は禁句やからね」

「う、うん、分かってる」

 改めて口グセの『せやさかい』を封いんされて、今日から母校になる市立安泰(あんたい)中学に向かった。


 体育館の外カベにクラス分けが貼ってある。


「……え、あれへん」

 六つあるクラス表のどこにも酒井さくらの名前が無い、たしかにこの中学校やったよな?

「あ、あった!」

 お母さんが見つけた一組に田中さくらと旧姓のまんま書いたった。

「お母さん、言わならあかんわ!」

「ちょっと、いこ!」

 お母さんと二人、受付の先生とこに行く。

「一組の酒井さくらなんですけど」

「はい」

 説明すると、係りの先生は担任の先生を呼んでくれた。

「月末に申し入れたと思うんですが、苗字が変わってますんで……」

「あ、申し訳ありませんでした。ただちに直します。酒井さくら子さんですね」

「ちゃいます、子はいりません、ただのさくらです!」

「姓は酒井、名はさくらです( 。•̀_•́。)!」

「くれぐれも」

 あ、ちょっとキツイ言い方やったかなあ、菅井て名札の担任の先生は頭を掻きながらバインダーの書類を書きなおした。

 絵文字にしたら、こんな感じ(;゜Д゜)の顔して。

「「よろしくお願いします!」」

 親子そろて念押しに頭を下げる。


 教室に入ったけど、知らん子ぉばっかり。


 当たりまえや、先月の末に、それまで居った大阪市から引っ越してきたばっかり。他の子ぉは……初日の遠慮か、うちと変わらん緊張のオモモチで座ってる。

――入学式は一時間ほどです、貴重品は持っていくこと、トイレを済ませておくこと――

 黒板の注意書きの下にトイレの所在地。

 ……行っとこ。

 うちが立つと四五人の子が続く。入学式から連れションかとおかししなるけどポーカーフェイス。

 用を足して廊下の鏡。

 ダッサイ女子中学生が映っとぉる……自分のことやけど。


 きのう二年ぶりで会うたコトハちゃんを思い出す。


 二年ぶりのコトハちゃんはマブシかった。

 聖真理愛(せいまりあ)女学院の制服にセミロングにした姿はラノベのヒロインみたいやった。

 シュッとしてる割にはメリハリの効いたボディーで、子どものころはいたずらっ子むき出しやった目ぇは、雨上がりに高気圧が張り出した夜空みたいに潤んでキラキラしてた。「コトハちゃ~ん!」「さくらちゃ~ん!」とハグした時は、同性のうちでもクラっとするくらいにええ匂いがした。

 それに比べて鏡に映ってるうちは……あかんあかん、頬っぺたをペシっとたたく。


 入学式もとどこおりなく終わって教室に戻る。


 さっきの菅井先生が入ってきて、あれこれの説明やら注意やら。

 そんな仰山言われても覚えられへん……と思たらプリントが配られて、見たら同じことが書いたある。きっと、プリント配ってから説明することになってたんやろけどね。

「それでは、一人一人名前を呼ぶんで、返事をして下さい」

 ああ、これも、最初にやった方がよかったと思う……けど、ポーカーフェイス。

「田中さくらさん」

 呼ばれてムカッと来た。

「酒井さくらです!」

「えぇ、さくら子は直したけど……」

「ウウ……せやさかい言うたでしょ! くれぐれもって(#⊙▢⊙#) !」

 教室の空気が凍る……ああ、やってしもた……。



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母


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せやさかい・改 002:意気込んで二年ぶり! 2019年3月

2025-03-12 16:43:42 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
002:意気込んで二年ぶり!   





 わたしは意気込んでた!


 なんちゅうても、今日からはここの家の子になる。

 むろん戸籍は別やけど、おなじ酒井の苗字で暮らしていくんや。いとこのテイ兄ちゃんもコトハちゃんとも兄妹姉妹同然で暮らしていくんや。自慢の笑顔で「よろしく!」とかまさならあかん。

 玄関わきの鏡をチラ見して笑顔のチェック。

 申し分のない笑顔、と、思たら、目尻に緊張感。頬っぺたも微妙に強張ってるし。

 目をゴシゴシ、頬っぺたをペシペシ。

「ただいま~」

 実家だけあって、お母さんは気楽にズンズン入っていく。

「ちょ、待っ……」

 急いで上がろうとして……あかんあかん、靴! 行儀よう靴先を外に向けて揃えて、お母さんの靴よりも壁際に置く。「よろしく!」とかますにしても、この辺のお行儀と遠慮は気にかけとかならあかん。

――いやあ、歌ちゃん、ごめんなさい、お迎えにも行かなくってえ!――
――いえいえ、そんな――

 奥の方では、おばちゃんとお母さんのご挨拶が始まってる。後れを取ったらあかん!

 オワ!!

 気がせいてしもて、こけてしもた(^_^;)!

 人類の先祖はお猿さんいうことを思い知らされる。ジワ~っと尾てい骨から痛みが上ってきてジンワリと涙が滲む。

 ササッと尾てい骨を労わって、廊下の先のリビングへ。

「なんか音がしたけど、さくらちゃん大丈夫?」

「アハハ、だいじょうぶだいじょうぶ(o´罒`o) 」

 挨拶もぶっとんで、ヘラヘラと照れ笑い。緊張はほぐれたけど、不細工なことこの上ない。

「今日は、おばちゃん一人なのよねぇ」

 すまなさそうに、お茶を淹れるおばちゃん。

「専念寺さんのご住職が入院されて、旦那は(伯父さんのこと)手助けに出てるし、お父さん(お祖父ちゃん)と諦一は檀家参りに出ちゃって、詩(ことは)は部活だし、ごめんなさいね」

「いいですいいです、なんかお手伝いしましょか?」

「いいわよ、ゆっくりして。荷物とかは、それぞれ二人の部屋に運んであるから、あとで見てちょうだい」

「すいません、お姉さんの手を煩わせて」

「いえいえ、男たちがやってくれたから。三人とも、歌ちゃんが帰って来るんで、ちょっとハイなんですよ」

「ああ、アハハ、期待されたら辛いなあ~」

「あ、お腹空いてたら、これでも食べて。今朝焼いたばかりだから、まだ焼き立て」

「おお……」

 さっき介護喫茶からしてきたパンと同じ匂い。家やったらすぐに手ぇ出すねんけど「ありがとう」か「おいしそう」とかのお愛想がいる。それでワンテンポ遅れたとこにおばちゃんがかぶせてくる。

「あ、部屋先に見とく!? そうよ、足りないものがあったら、買って来るって旦那言ってたから、そうしよ! 帰ってくる前に電話したらホームセンター寄ってきてくれるから。さ、いこっ(`•︵•´) !」

 おばちゃんはサザエさんみたいに思い立ったらスグの人みたいなんで、ツバを飲み込んで付いていく。

「ほら、こっちがさくらちゃんの部屋だよ」

「ええ、こっち?」

 おばちゃんは、予想していたコトハちゃんの部屋ではなく、向かいの部屋を開けた。

「使ってもらった方がいいの、閉め切ってると陰気臭くなるでしょ」

 そこは、二階の客間ということになっていたはずや。

「二階の客間って客間につかうことってないしね、コトハもさくらちゃんも年頃だしね」

 コトハちゃんと同室と言うのは、かすかな楽しみやったんで、ちょっと寂しいんやけど、おばちゃんの好意なんや。

 せやさかい「あ、ありがとう、とっても嬉しい!」。よそ行きの喜び方をしてしまう。

 お母さんは、むかしの自分の部屋を使うらしい。

 足りないものなんか思いつかへんかったんで、リビングに戻ってお茶にする。おばちゃんが途中までやっていたお茶の用意はお母さんがやって、おばちゃんは恐縮している。まだ、ちょっとよそ行きやけど、大人同士、なんとかやっていくやろう。そんで、パンをいただこうと手を伸ばしかけたら……。


「おお、さくらあ、来たかあ!」


 玄関の靴で分かったんやろう、お祖父ちゃんは、ドシドシとリビングに入ってくると、いきなりハグしたかと思うと、頬っぺたを合わせてスリスリする。

「あ、ちょ、あ……(>‐<)」

 嫌やとも言えず、為されるままになっておく。お爺ちゃんにとっては、いつまでも可愛いくて可哀そうな外孫のまま。

 やっと解放されて、ソファーに座ると尾てい骨に響いてパンどころやなくなる。

「なんやぁ、涙ぐんでからに……そうかそうか、さくらも中学生や、困ったことがあったら、なんでもお祖父ちゃんに言うんやで」

 今度は、髪の毛をワシャワシャされる。

 お祖父ちゃんが衣(ころも)を脱いで寛いだころに、伯父さんとテイ兄ちゃんが帰って来る。

 おお……

 テイ兄ちゃん見てビックリした。衣姿のテイ兄ちゃんは、二年前のグータラな大学生と違て、立派な坊主になってた。

「お、おう、さくら、今日からやってんな(''◇'')」

 ドギマギするとこは昔のまんま。

 そんで、もっとビックリしたんは、部活から帰って来たコトハちゃんを見た時やった……。



☆・・主な登場人物・・☆
  • 酒井 さくら    安泰中学一年 この物語の主人公
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛高校二年生
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せやさかい・改 001:今日からやさかいに 2019年3月

2025-03-06 15:26:32 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
001:今日からやさかいに   
 
『せやさかい』は年号がまだ平成であった2019年3月から2025年2月まで6年に渡って連載してきた愛着のある作品です。手を加えたいところが随所にあるのですが完結するまではと控えておりました。練り直して良くなるとは限りませんが、3年ほどかけて改定することにいたしました。初稿を読まれた方、本稿から読まれる方、拙い作品ですがお付き合いいただければ幸いです。


 
 2019年3月

 ここで降りるん?

 財布を出したお母さんは「そこで停めてください」と運転手さんに言う。

 お祖父ちゃんの家は、ここからやと、まだ五百メートルはある。いつもは、お祖父ちゃんの家の前で降りるんやけど……ひょっとしてタクシー代にまで困ってるんやろか……(-_-;)?

「今日から住むとこや、どんな街か知っとかならあかんやろ。ほら、こっちが堺東の駅の方角や」

 タクシーでやってきた四車線の北を指さすお母さん。駅に着いた時に降ってた雨は上がってお日さんが顔を出してる。せやけど、道路は、まだまだ水浸し。おニューの靴で歩いて行くのは気が進まへん。

「そんで、そのファミマの横を西に入っていくんや」

 運転手さんがトランクから荷物を出してくれる間にザックリと説明。「そんなん分かってるわ」と言うてみるけど、ファミマが目印やったのは初めて気ぃついた。お母さんに素直になられへんのは、この四月で中学生になる思春期のせいばっかりやない。

 ないけど、胸に仕舞い込む。

「信号青」

 スマホに気ぃとられてるお母さんに言う。「分かってる」と返すお母さんもツッケンドン。お母さんは、ええ歳して、どこか思春期を引きずってるようなとこがある。言わへんけど。

 信号を渡ると住宅街。

「角を二つ曲がるよって、よう覚えときや」

 いままでは堺東の駅からタクシーで来るばっかりやったから、しょうじき道は分からへん……大人しい付いていく。

 三階建てのマンションが見えたとこで、お母さんがクイっとうちの首を捻る。

 ウグ(;'∀')

 左手にキャリーバッグ、右手にスーツケース持ってるからしゃあないねんけど、せめて「右に曲がる」くらい言うてほしい。

 チラ見したら、ちょっと目尻に力が入ってるしぃ。

「今のが、介護喫茶の『ひらり』覚えたか?」

「うん『ひらり』」

 次の曲がり角は駐車場やったけど、今度は言わへん。

『ひらり』からパンのええ匂い。けど食べたいとは思わへん。

 道を覚えならあかんし。

 お母さんの胸にも、いろいろ迫ってくるもんがあるんやろと思て、駐車場の『コトブキパーキング』の看板をしっかり覚える。

「『コトブキパーキング』!」

 ビシ

「指さし確認はせんでよろしい」

「「ハーーーー」」

 親子そろてため息、ちょっと気まずいけど互いに知らん顔しとく。


 わたし、田中さくらは今日から酒井さくらと名前を変えて堺の街で生きていきます。


 ちょっと振り返った道の向こうには小高い山が見える。

 それがニントクテンノウリョウやと思いだしたころにお祖父ちゃんの家の前に着く。

 お祖父ちゃんの家には大きな屋根付きの門がある。門には『安泰山如来寺』の看板がかかってる。

「いくで」

 実家に入るのに「いくで」はちゃうやろと思うねんけど「うん」と返事して足を踏み入れる。

 そのとたん。

「ヒヤ( ゚Д゚)!」

「なにぃ……いや(;¬_¬) ?」

「ちゃうちゃう、屋根の水が落ちてきて背中に入ってん」

 ほんまに水が落ちてきたんやけど、うろんな顔のお母さん。

「……そうなんだ」

 口グセの東京弁を言うと、ズンズンと庫裏に向かって歩いて行く。

「ハーーー」

 ギロ

 無意識にため息が出て、またお母さんに睨まれる。

 見上げた空は完全に回復して青空が覗いてる。

 せやけど。

 わたしの心はお天気ほどには切り替わってわいてません。


 せやさかい。


 顔は、まだこわばったままです。


 
☆・・主な登場人物・・☆
  • 酒井 さくら   安泰中学一年 この物語の主人公
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
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宇宙戦艦三笠50[そして再びの始まり]

2023-03-14 08:49:50 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

50[そして再びの始まり] 修一  

 

 


「キャ!」「イテ!」

 ぶつかったことと二人で悲鳴を上げたことだけが確かな現実だった……あとは唐突に切り替わった夢のよう。


 さっきまでいたピレウスも、たった今ぶつかって二人そろって尻餅をついている横須賀国際高校の校門の前も夢かリアルかよく分からなかった。

 街の喧騒と例年になく早い木枯らしが頬をなぶっていく感覚で、少しずつ現実感が蘇ってきた。


「なんか、唐突な帰還……帰還ですよね……?」

「いつまでひっくり返ってんだ。みんな見てるぞ」

 天音に言われて、トシは意外な素早さで立ち上がった。

―― やっぱ、旅立ち前のトシとは変わってる。あの時は電柱の陰に隠れて、目が合うと逃げ出したもんな ――

 天音は、そう思ったが、もうひとつのことが気になった。

「修一と樟葉はやっぱり、ピレウスに残ったんだ……」

 取り出したスマホで、今が20××年11月29日であることと、スマホに二人が出ないことを確認した。

「天音先輩、三笠に行ってみましょう!」

「もう閉艦時間過ぎてるぞ」

「外側だけでも。オレたち20年以上、あの艦に乗っていたんすよ。行けばなにか分かる……感じられるかもしれない」

 二人は学校に置きっぱにしている自転車に乗って三笠を目指した。

 街への坂を下ると、木枯らしに雪がチラホラと混じってきた。

 まだ十一月だぞ……。

「……先輩、まだ開いてますよ」

「ほんとだ……でも人気(ひとけ)がないな」


 三笠は、いつも通り三笠公園の海側に喫水線から下をコンクリートで埋められた姿だったけど、舷灯が点いていて、なんだか、たった今帰港してきたという風情だった。

「先輩、雪がひどくなってきました」

「ちょ、洒落にならないなあ」

 雪は吹雪めいてきて、三笠の向こうの横須賀の街が鈍色に霞んできた。


 タラップを登って艦内へ急ぐ。


 明かりは点いているけど人影は無かった。

 ブリッジに上がる。

 雪はいっそう繁くなって、白い宇宙にいるような錯覚にとらわれる。

「宇宙が白いんですか?」

「ネガに焼いたら、こんな感じだろう」

「ああ、そう言えば、ワープした瞬間は、こんな感じですよね」

「ワープの予感か……」

「懐かしいけど、本当にオレたちピレウスに行ったんでしょうか……」

「行ったさ。だってトシ全然変わっちゃったじゃん。あの引きこもりが、あたしをここまで引っ張ってきた。行く前のトシは、電柱の陰からあたしたちを見て、見つかるとコソコソ逃げ出したんだぞ……それに、樟葉と修一がいないし……ピレウスに残ったんだ」

「……お蔭で、地球の寒冷化は止まるんですよね」

「どうだろ、木枯らしでさえ早いのに、この雪だぞ」

「吹雪よぉぉぉ止れっ!」

「何年前の変身ヒーローだ(〃△〃)」

「変身ヒーローじゃないっす『ふしぎな少年』ってマンガの主人公が時間を止める時のっす! ブンケンの資料にあるっす!」

「そうだな……もう部室は無いけど、またブンケンやるか」

「おっす!」

 やれやれと思う天音だったが、みるみる吹雪は止んで穏やかな雪景色になった。

「先輩……」

「ひょっとして……」

「チュートリアル的な?」

「なんのチュートリアルだ?」

「えと……新宇宙戦艦三笠的な、みたいな?」

「勘弁してくれ、いま帰ってきたとこだぞ(-o-;)」

「ホールに行ってみましょう!」

「ちょ……あ、そうか」

 ミカさんはピレウスに残った。だけど、それは、いわば分祀。別にお祀りしただけだ。ミカさんは船霊だ。艦がある限りは三笠に居るだろう。

 ホールに向かおうとして、タラップを降りた刹那、艦首の方に人影が見えた。

「あ……」

「どうした?」

「ああ……錨甲板に樟葉先輩と修一先輩! ネコメイドたちも!」

「シロメにゃ!」「クロメにゃ!」「チャメにゃ!」

「「「ニャニャニャニャ((´∀`))!」」」

「ああ、どうして!?」


 二人はベテランの乗組員のように、素早くタラップを降りると錨甲板に走った。


「どうして、あんたたち……!?」

「おまえらが、ピレウスを出てから二十五年がたった」

「でも、どうして……?」

「オレたちピレウスじゃ歳を取らないんだ。だから、あの時のままさ」

「ワケ分かんない、ピレウスはどうなったのよ?」

 修一が目配せして、樟葉が少し大人びた口調で言った。

「子供たちも、上は、もう24歳。あれからジェーンがテキサスで連れてきた子たちも合わせて18人。もうあの子たちだけで、ピレウスはやっていけるわ。で、銀婚式を機に、子供たちもレイマ姫も『地球に戻りなさい』って」

「見かけは18歳の高校生だけど、中身は43のオッサンとオバハン」

「でも、明日からは元の高校生やるからね!」

「地球の寒冷化防止がきちんと進むように、オレたちも居た方が……とも思ってな」

「理屈だか郷愁だか分からないんだけどね」

「ま、そのなんだ……やっぱ卒業ぐらいはしておかなくっちゃな。まだ二年生なんだし」

「そうか、そうだな。卒業は三人揃ってでなきゃな!」

「なんだ、天音、泣いてんのか?」

「ち、ちげーよ! 雪が目に入ったんだ!」

「「「鬼の目に雪ニャ!」」」

「うるさい!」

「あれ、ミケメはいないのか?」

 トシがネコメイドの欠員に気付くと、ネコメイドたちは東郷さんの銅像の方をうながした。

 銅像の傍で俺に似た青年がお供のミケメといっしょに手を振ったかと思うと、すぐに消えてしまった。

「次男だ。オレたちを、ここまで送ってきてくれた」


 そして、11月29日は何事もなく30日になった。


 なにもかももとのまま。

 でも、ただ一つ前の日と違ったことがあった。トシのクラスは41人だったが、42人になっていた。

 野中クレアという女の子が居て、なにくれとなく久々に登校してきたトシの面倒を見てくれた。半日不思議に思っていたトシだったが、午後には慣れてしまった。

 そうして、一週間後には誰も29日と30日の間に起こったことは言わなくなった。

 図書室の掲示板に貼ってあるニュースに、記念艦テキサスが久々にドッグ入りして二年間の修理に入ったことが出ていた。

 世界は、相変わらず温暖化が問題になっているが、21世紀半ばになっても温暖化がすすまず。想定外という日本語がスシと並んで国際的な言葉になった。むろん寒冷化も起こらなかった……。

 

 宇宙戦艦三笠(改訂版)……完

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠49[そして、トシとみんなの決意]

2023-03-13 08:20:07 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

49[そして、トシとみんなの決意] 修一  

 

 


 三笠を飛び出したトシは地理的にも心理的にも自分の居場所を見失っていた。


 人類が滅亡してから数百年。惑星ピレウスは密林状態になっている。みんなからはぐれてしまうと、もう元の場所が分からない。

 ―― 自分が残る! ――そう宣言して、クローンだから能力が無いと言われて、今まで人間だと思っていたロボットが「おまえはただの機械なんだぞ」と言われたように滑稽で惨めだ。

 生体反応を示すモジュールは、駆けだすと同時にオフになった。これは、仲間同士位置を見失わないための測位システムで、身に危険が迫ると自動でオフになる。敵に位置を知られないためのセキュリティーでもあるのだ。

―― スイッチオン ――と思いさえすれば、いつでもモジュールはトシの居場所を発信する。が、トシはその気にはならなかった。

 そのくせ、心のどこかで発見されたい気持ちもある。引きこもりの弱っちいアンビバレンツ。トシはますます自分が嫌になる。

 自分としては、誤解される恐れがありながら勇気を出して言ったつもりだ「オ、オレも残ってもいいです……」

 樟葉さんのことは密かな憧れだった。だから樟葉さんが「残る」と言った時、ドキッとした。でも樟葉さんだから自分も残るのではない。天音さんが言っても同じだったろう。いや、だれも言いださなくても自分は申し出た。その自信はある。

 だが「トシはクローンだ」とレイマ姫に言われてパニックになった。たった今の決心も、自分の存在さえコピーのイミテーションのように思われた。まるで自分はピエロだ……そう思う気持ちさえ、イミテーションの夢のようにおぼろで寄る辺ないものに感じられた。

 ふと血の味がした。

 木の枝か鋭い葉っぱで切ったのだろう、頬が切れ、そこから流れた血が口の中に入ってきたようだ。手で頬を拭うと、鮮やかな赤が手のひらに残った。


 妹が車に跳ねられた直後のことを思い出した。


 お兄ちゃーん!


 ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車をもてあまし、幼い妹は信号を渡り損ねた。それでも通行量が少ないので、自転車を押しながら、点滅しかけた信号を強引に渡ってきた。そして、前方不注意のトラックに人形のように跳ね上げられた。目立つ怪我は無いように見えたが、耳から血が流れていた。

 クローンと言われ、自分の存在がひどくバーチャルなような気がしたが、この鉄のような確かな血の感覚だけは本物だった。

「そう、本物なのよ」

 エッ!?

 びっくりして顔を上げると、船霊(ふなだま)のミカさんがいた。

「どうして……」

「いちおう神さまだからね。モジュールを切っても分かる……ごめんね、トシ君がクローンだというみんなの記憶は、わたしが消したのよ。トシ君はね、オリジナルトシ君のDNAから生まれたから紛い物じゃない。その……子供をつくる能力だけはないけど、あとは全て本物のトシ君だよ。今の血の味の確かさ……本物でしょ。妹のユミちゃんの記憶も」

「うん……」

「トシ君は、ユミちゃんを死なせたのは自分の責任だと思っている。だから、その償いとしてこのピレウスでアダムになろうと手を挙げたのよね」

「う、うん(灬ꈍ ꈍ灬)……」

 トシは涙が止まらなかった、トシは恥ずかしくて回れ右した。

 ミカさんは、そんなトシを後ろから静かにハグしてやった。

「この大遠征に来たことだけで、トシ君は十分に償っているのよ、もう十分なのよ……みんなそう思ってる。だからレイマ姫も、はっきり言ったのよ。トシ君に最後のハードルを越えてもらうためにも……」

 みかさんは、トシを掴まえに行く前にみんなに告げた。トシは自分が連れ戻すって。


「意見はまとまったぞ」


 トシが戻ると、俺は静かに宣言した。

「ピレウスには、あたしと修一が残る。寒冷化防止装置は、みんなで持って帰って……」

 樟葉が、今度は落ち着いて続ける。

「分かりました」

 トシも冷静に返事した。

「寒冷化防止装置は、ソフトのような気がします。わたしのPCの容量で間に合うのなら、わたしを初期化してダウンロードしましょう」

 クレアが当たり前のように言う。

「わりばって、そえでも足らね。っていうが、PCにダウンロードでぎるようなもんでねんだ。トス君ど天音さんの心ど体さ埋め込むんだ。並の人間ではまいね。この大遠征成す遂げで経験値マックスになったはんででぎるごどだ」

「あたしと、トシが……」

 天音が、いつになく真剣な面持ちで顔をあげる。

「そうだよ。で、こぃには膨大なエネルギーど制御が必要なんだ。エネルギーは三笠どテキサスさ、制御はクレアさんに……けっぱってね」

 みんなは静かに頷いた。

「グリンヘルドとシュトルハーヘンの脅威は」

 俺は、もう一つの大切なことを聞いた。

「グリンハーヘンのミネア司令……あのふとがなんとかするびょん。あった風にほいどつけだばって、ミネア司令の艦隊最強なのはグリンヘルドもシュトルハーヘンもおべでら。この上三笠敵さ回すては割さ合わねごどば。なんどどのごどで、たげ学習すたす、二づの星も三笠どの戦いで戦力喪失同然。地球さ行ってら余裕はねど思う」

 そう言うと、クレアはレイマ姫の背中にまわりツボを探るように手を動かす。何度目かに一度はボタンを押すようにグイッと力を入れて、そのたびにレイマ姫は輝きを増していく。
 そんなことを十数回繰り返したところで、俺たちは眩しさに目を開けられなくなり、そして体が熱くなって意識を失った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠48[小惑星ピレウスの秘密]

2023-03-12 08:19:35 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

48[小惑星ピレウスの秘密] 修一  

 

 

 三笠のクルーはみんな同じ思いだった。

「ピレウスに来て三日たつけど、オレたちなんともない……」

「スキャンしても、みなさん健康そのものです」

 クレアがトシの言葉を裏付けた。三笠のクルーはレイマ姫とジェーンの顔を交互に見た。

「んだんず。地球人は、このピレウスでも影響受げねんだ……」

「レイマ姫、君の狙いは……」

「寒冷化防止装置、なんど(あなたたち)に渡すて、地球救うごどだ」

「それだけかい……?」

「…………」


 修一の問いかけに、レイマ姫は黙ってしまった。


「あたしが代わりに言ってやろう」

「……なんで、ジェーンが」

「これは、レイマ姫のお願いであって、交換条件じゃない。ただ、自分から言いだすと、気のいいあんたたちに強制するようで言えなかったのさ」

「……言えないことって?」

「ジェーン、もうい。三笠のふとたぢに、寒冷化防止装置ば……」

「言うだけ言ってみようよ。あとは……みんなで考えればいいさ」

 いつも陽気なジェーンが真剣な顔になった。

「あんたたちの中で、男女一組がピレウスに残ること……意味は分かるわね?」

 

「え?」

 

「……ひょっとして、オレたちにピレウスのアダムとイブになれって……ことか?」

「あ、もういんだ! 忘れでけ、けすて交換条件ずわげでねはんで(#^△^#)!」

 レイマ姫は、両手でイラナイイラナイをした。

 重い沈黙が三笠の長官室を支配する。

 カタカタ……

 かそけき音に顔をあげると、ネコメイドたちがワゴンにお茶の用意を載せてやってきた。

「失礼しますニャ」

 ネコメイドたちが、紅茶とスコーンを給仕してくれる間も言葉を発する者はいなかった。

「艦長、ひとこと申し上げてもよろしいですかニャ?」
 
 ミケメが笑顔で指を立てた。

「うん、なにかな?」

「もし、どなたかがお残りのなるのなら、わたしたちもピレウスに残るニャ」

「え、きみたちが?」

「お世話する者がいるニャ」

「家を建てたり、畑を作ったり、水を汲みに行ったりニャ」

「ごはんを作ったりニャ」

「そんなの、ちょっと機材があれば、俺たちでできるぞ」

「でもニャ」

「いざ出産ということになったらニャ」

「たいへんニャ(^_^;)」

「猫の手も借りたいになるのニャ!」

 

 出産(# ゜Д゜#)!?

 

 口にこそ出さなかったけど、みんな異口同音に、でも口には出さずに驚いた。

 なんか、モロそのままの話なので、俺は話題を変えたぞ。

「聞きそびれていたんだけどさ!」

「なにかニャ?」

「ダルで二十年休眠して目覚めた時さ、ミケメたちは、そのまんまだったじゃないか、おまえたちもクローンかなにかなのか?」

 ああ……みんなもそんな顔になった。とりあえず緊急避難(^_^;)

「ネコはニャ、100万回生まれかわるニャ」

「宇宙に飛び立つにあたってニャ」

「100万回分を一人の中に取り入れたからニャ」

「100万匹分の寿命があるニャ」

「「「「ニャー(^▽^)!」」」」

 後ろでミカさんが笑ってる、どうやらミカさんの仕業。 

「あたし……なってあげてもいい。助けられるだけじゃ地球人として恥ずかしいことだと思う」

 樟葉が真っ直ぐに顔をあげた。顔は真っ赤っかだったけどな(#^o^#)。

「このピレウスへの遠征で、いろんなことを経験して仲間をかけがえのないものだと思えるようになった。それって、広げて考えたら、人類みんなを大切な仲間と思うことと同じ。だから、あたしは残ってもいい」

「オ、オレも残ってもいいです(#'∀'#)。地球じゃ何の役にもたたない引きこもりだけど、こんなことで役に立つんなら、オレは喜んで残ります!」

「トシ、お前が残ったら宇宙規模の引きこもりになっちまわないか(^_^;)」

「艦長!」

「……すまん、茶化す話じゃないな(-_-;)」

「でもさ、アダムとイブになるってことは、その……夫婦になって、子供を作るってことなんだよ。一時の感情で決めていいことじゃないよ」

「ジェーン、焚きつけてんだか、思いとどまらせてんだか……」

 樟葉に先を越された天音がジェーンを睨む。

「も、もちろん他の意見も聞かなきゃならないけど」

「あたしは……」

「待っで!」

 レイマ姫が遮った。

「トス君は使えね」

「こ、答えるのは、まず樟葉さんでしょ!!」

 トシは珍しく色を成した。

「トス君は……クローンなんだ。クローンには生殖能力がねんだ……」

「エ……オ、オレ、クローン!?」

「ダルの虚無宇宙域で三笠のエネルギー無ぐなったどぎ、なんどは救命カプセルで20年冬眠すでいだんだ。で、トス君のカプセルは具合わりぐで、トス君は死んでまったんだ。で、三笠の船霊のミカさんが、残ってあったDNAで再生すたのが今のトス君なんだ。こぃについでの記憶はアクアリンドのクリスタルの力で封印すてあったのだす」

「そ、そんな……オレがクローン……そんなバカな! そんなの信じられねえ!」

 普段は大人しいトシだが、そう叫んだあと、トシは三笠を飛び出してしまった。

「トシ、待て!」

 いつもならトシに後れを取るような俺じゃなかったが、トシを見つけることはできなかった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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宇宙戦艦三笠47[小惑星ピレウス・4]

2023-03-11 08:16:29 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

47[小惑星ピレウス・4] 修一  

 

 

 ジャングルのいくらも離れていないところにテキサスは着陸していた。

 

「こんな近くで、どうして探知できなかったんだろう?」

 クレアが、半ば不服そうに腕を組む。

「三笠の倍の航路をとって、惑星直列になるのを待ってピレウスに来たんだ。三笠程じゃないけど、レイマ姫が時間をかけてステルスにしてくれたから」

「他のアメリカ艦隊は?」

 俺が艦長として聞くと、ジェーンは微妙に視線を外した。

「大規模な戦闘になることが避けられないので戦略的に撤退。で、テキサスだけが大回りしてピレウスに着陸したんだ、三笠と連携して作戦行動をとるためにね。日本とは集団的自衛権を互いに認め合っているから、合理的な判断だよ」

「……アメリカ人が自信満々で言う時は、どこかに嘘か無理があるんだよな。要はアメリカが全面撤退した中で、ジェーンはオレたちとの義理のために単独行動しているってことじゃないのか?」

「違う! 義理じゃなくて友情。友情的作戦、作戦計画も正式なものだし(`Δ´)!」

 アメリカにとっては正式かもしれないが、日本代表たる三笠には何も知らされていない。しかし、ジェーンの友情には変わりのないことだろうと、それ以上触れるのはよした。なによりも、寒冷化防止装置を独り占めにしないで三笠を待っていてくれたのだからな。

「一つ分かんないことがあるんだけど(^_^;)」

 樟葉が儀礼的な微笑みのまま指をたてた。

「ピレウスは、グリンヘルドとシュトルハーヘンと同じ恒星系にあるのに、どうしてグリンヘルドもシュトルハーヘンも、この星への移住を考えないのかなあ。地球に行く何百倍もお手軽なのに」

 ジェーンは沈黙し、レイマ姫は静かに息を吸ってから、こう言った。

「話するよりも、実物見でもらったほうがいびょん。こっちさぎでけ」

 テキサスを出ると、すぐ近くになんの変哲もない岩が苔むしていた。

「この岩が?」

「こごが入口だよ」


 一瞬目の前が白くなったかと思うと、目の前に長い廊下が現れた。


 歩くにしたがって、様々な大きさのクリスタルが廊下の両側に並んでいるのが分かった。

 クリスタルの中身は、すぐそばまで行かなければ見えない仕掛けになっていて、好奇心の強い天音が先頭を歩いていたが、見た順に美奈穂は悲鳴を上げ、他の面々も怖気をふるった。

「……これは人工生命の失敗作ですね」

 クレア一人が冷静に見抜いた。

「そう……ピレウス人の遺体がら採取すたDNA操作すて、いろいろ作ったんだげども、みんな魔物みだぐなってまって……納得すたっきゃ、あんます見ね方がいいよ」

「人間らしいものもあるけど……?」

 気丈な天音は、その先のクリスタルを指さした。

「それは、ピレウスの調査さ来だグリンヘルドどシュトルハーヘンのふとたぢだよ。ピレウスさ来るど、三日ど命がもだねじゃ」

「それで、あいつらはピレウスには手を出さないのか(-゛-;)!」

「ピレウス人の最終戦争で使わぃだのが、この結果よ。みんなDNAに異常きたすて死ぬが魔物になっですまうんだ」

 グリンヘルド、シュトルハーヘン、ピレウスの秘密に愕然とする三笠のクルーたちだった。

「あ……ということは!?」


 トシが声をあげた。

 同じ思いはみんなの心の中で湧きあがった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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宇宙戦艦三笠46[小惑星ピレウス・3]

2023-03-10 08:37:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

46[小惑星ピレウス・3] 修一  

 

 

 その人は、ゆっくりと近づいてきた。

 近づくにつれて知っている人だという気がしてきた。だが、分かるのは知っているという気持ちだけで、肝心のどこの誰であるかは分からない。

 まるで、夢の中で出会った者のように、その人に関する記憶はおぼろの中だった。

「みなの衆、お元気であっただがぁ?」

 その訛言葉で思い出した。暗黒星団のレイマ姫だ( ゚Д゚)!。


 レイマ姫、どうして……


 クルーの誰もが混乱した。ナンノ・ヨーダから姫の事を託され、アクアリンドを発つまでは姫の記憶は有った。そして、虚無宇宙域ダル……いや、アクアリンドの海を離水した時には、姫の存在はきれいに忘れてしまっていた。それが今、その姿を、訛った声を聞いて忘れた夢を思い出したようにレイマ姫のあれこれが思い出された。

「もうすわげね。アクアリンドのあど三笠にどって致命的な戦闘になるごどが予想されで、みんなの記憶がらわーば消すたの。アクアリンドの海水の力も使ってさぁ」

 俺たちには分からないことだらけだった。予見したのなら、なぜ言ってくれなかったのか、なぜ、みんなの記憶を消して消えてしまったのか。そして20年の冬眠状態の間、どこで何をしていたのか。どうして歳をとっていないのか……?

「分がってもらえるが分がねばって、聞いでもらえるべがな?」

 みんなは、黙ってうなづいた。

「わっきゃ、ほんとはピレウスの星のソウルなんだ。クレアのアナライズでも分がねほど人間そっくりだども、わさだっきゃ実態は無ぇんだ。三笠のみがさんやテキサスのジェーンがバージョンアップすたもんだど思ってもらえば、分がるべがな?」

「うーーん、言葉悪いけど、レイマ姫は、三笠が必死の戦いをやることを予見して逃げたんじゃないの?」

 トシが、不服そうに言った。

「んだね。三笠のみんながらは、そう思わぃでも仕方ねわね……ハア~~~(-o-;)」

 レイマ姫は大きなため息をついて、空を見上げた。

「あたしたちを助けすぎないため……?」

 樟葉が探るように聞いた。

「んだな……わー危ぐなってまるど、後先考えねぐなって、けっきょぐみんなまねぐすてまるがら……ばって、かにな。大変な思いさせでまって……」

 レイマにはレイマの苦労があるんだ……この三笠での航海でいろんな目に遭って、その全てが理解できたわけじゃない。幸運と乗員みんなの働きがあったからこそ乗り越えてこられた。そのことだけは分かっている。

 だから、レイマ姫の言葉にできない気持ちも分かるんだ。

 見渡したみんなの顔も同じ想いのようだ、俯いたり目を三角にしている者は居ない。

 

 オオオオオオオオ(⊙ꇴ⊙)! 居た居た居たあああ(≧∇≦)!

 

 その時、ジャングルから陽気なオーラをまき散らしながら現れた者がいた。

「まどろっこしい話は止しにして、あたしの船においでよ。三笠の諸君!」

 ああ《゜Д゜》!?

 三笠のクルーは驚嘆の声をあげた。

 その陽気オーラの塊こそは、戦艦テキサスのジェーンだった……!

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠45[小惑星ピレウス・2]

2023-03-08 06:30:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

45[小惑星ピレウス・2] 修一  

 

 

「間もなく完全惑星直列。一時間でピレウスに着けば、見つかる可能性はないわ」

 舵輪を握りなおして樟葉が呟く。

 俺たちは、完全に惑星が直列になるのを待っていた。それが今、グリンヘルド、ピレウス、シュトルハーヘンの三ツ星が串刺し団子のように一列になりかけている。惑星直列に成れば、三つの惑星の磁場が影響して直列の垂直方向に盲点ができるらしい。一番発見されにくい瞬間だ。


「最大戦速10分。あとは慣性速度でピレウスに到達」

「周回軌道に入ったら発見されてしまうわ」

「周回軌道は1/6周で、ピレウス火山風上の森の中に着陸」

「針の穴に馬を通すようなものね」

「樟葉の腕を信じてるよ……」

「横須賀に帰ったら、ホテルのスィーツバイキングおごりね……クレア、目的地までアナログでいくから」

 アナログ……さすがに息を呑んだが口にはしない。

 言われたクレアだけが小さく聞き返した。

「大丈夫……?」

「デジタルのオートだと、0・005秒惑星直列から外れる。発見される恐れがあるわ。トシ、出力は最大戦速9分45秒。それ以上だと、エネルギー残滓を検知される。いいわね」

「分かりました。タイミングだけはきっちり教えてください」

 トシは、死んだ妹を思った。自分が気づいてやるのが、もう少し早ければ、妹は死なずにすんだ……。

「発進まで10秒……」

 ブリッジの全員がデジタルカウンターを見つめた。5秒でトシは目をつぶり、カウンターではなく樟葉の呼吸に集中した。これに成功すれば、妹が生き返る……そんな妄想が頭を占めた。

 

「5……4……3……2……今!」

 

 三笠のクルーの心が一つになった。完全なタイミングで三笠は発進した。

「…………うまくいきました! 三笠の発進エネルギーの残滓は探知レベル以下、着地点は目標から30メートルずれただけです。デジタルでも、ここまで正確にはいきません!」

 クレアが感動の声で賞賛した。

 偶然だけど、目標地点は地面の傾斜角が30度もあり、そこに着地していれば三笠は転覆していたかもしれないことが分かった。ブリッジの窓から見える風景は、地球で言うカンブリア紀のようで、周囲の木々の高さは十分に三笠を隠していた。


 そのまま三日が過ぎた……なんの変化もなかった。


 ピレウスの森は原始のジャングルのように鬱蒼としていたが、予想していた生物の反応は無かった。外からの観察では人類以外の生物の反応はあったのだ。そして、この三日、植物系以外の生命反応は無い。

「三笠にも、みんなにも劣化や老化の兆候がありません……」

 トシが、首を捻りながら呟いた。

「三笠にバリアーが張ってあるからじゃないの」

「この程度のバリアーなら、ピレウスの滅んだ文明にもあったと思います。このジャングルの下にはピレウス古代文明の軍事基地の残滓があります。ジャングルに覆われているので比較的劣化が遅いので、技術レベルが分かります」

 クレアが、三笠の下の軍事基地の残滓をモニターに写した。残滓からでもかなり進んだ文明の様子が読み取れた。

「火山の方角から生命反応。微弱だけれど……人間よ!」

 その人間は、ピレウス火山を背に、ゆっくりと三笠に近づいてきていた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠44[小惑星ピレウス・1]

2023-03-07 08:28:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

44[小惑星ピレウス・1] 修一  

 

 

 三笠は、用心しながらピレウスの衛星アウスの陰に回った。

 ピレウスは目的地だが、正体が分からない。

 それは覚悟の上だったが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの中間に位置し、両惑星から絶えず監視されているに違いない。ピレウスの大気圏内に入ってしまえば、どうやらピレウスが張っているバリアーで分からないようだが、そこにたどり着くまでの間に発見されてしまえば、元も子もない。

「ピレウスが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの間に入るのを待つ」


「そうするだろうと思って、惑星直列になる時間を狙ってワープしておいた」

 俺と樟葉は艦長と航海長としてツーカーであった。

「でも、ピレウスに敵が侵入していたらどうするんだ」

 天音が珍しく弱気なことを言う。

 普段は心の奥にしまい込んでいるが、父が中東で少女を救ってゲリラに殺されたことがトラウマになっている。もう大事な仲間を一人も失いたくない気持ちが、天音らしくない弱気にさせているんだ。

「その時は、その時。全てのリスクを排除しては何も行動できなくなる」

「天音の心配ももっともだから、できるだけピレウスと、その周辺をアナライズしておくわ。クレアよろしくね」

「はい、ピレウスの自転に合わせて表面と、地中10キロまではアナライズしておきました」

「結果が、これだな……」

 

 モニターにピレウスの3D画像が出た。

 

「地球に似てるけど、人類型の生命反応がありません。文明遺跡は各所で見られるんですけど」

「まるでFF10のザナルカンドみたいな廃墟ばかりね」

「何かの理由で、人類は破滅したんだな……」

 ネガティブな印象しか持てないほど、その人類廃墟は無残だった。

「この星には、負のエネルギーを感じます。アクアリンドよりももっと強い……これシュミレーションです」

 クレアが、モニターを操作すると、海に半分沈みかけた三笠が映った。

「三笠が沈みかけてる……」

「中を見てください」

 三笠の中には、4人の老人と4匹の老猫、一体の壊れかけたガイノイドの姿しかなかった。

「あれ……オレたちとクレア?」

「はい、一か月滞在していると、ピレウスでは、ああなります」

「いったいどうして……」

「推測ですが、ピレウス人の最終兵器が生きているんだと思います」

「滅んだピレウス人の……あれが?」

「はい、人類と人類が作ったものを急速に劣化させる……そんな装置があったんだと思います。装置そのものも風化して、どの遺物がそれか分からないけど、その影響だけが今でも残っているようです」

 クレアは、予断を与えないように、あえて無機質な言い方をした。

「これなら、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手の出しようがないわね」

「でも、それで何万光年も離れた地球に目を付けられてもかなわない」

「それよりも、あんな死の星から誰が地球に通信を……それも地球寒冷化防止装置をくれるなんて」

 ブリッジは沈黙に包まれた。

「あの……」

「なんだ、トシ?」

 トシの一言で沈黙は破られたが、事態を進展させるものではなかった。

「三笠のエネルギー消費が微妙に合わないんです」

「どのくらい?」

 樟葉が敏感に反応した。

「誤差の範囲と言ってもいいんですけど、1/253645帳尻が合わないんです」

「ハハ、トシもいっぱしの機関長だな。それはアクアリンドのクリスタルを積み込んだせいだろう。あれだって、人間一人分ぐらいの質量はあるから」

 修一の結論にみんなは納得した。

「…………」

 ただ、トシは、それが人間一人分にあたることが気にかかっていた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5]

2023-03-06 08:50:37 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5] 修一  

 


「ミネアさん、無理するのはよそうよ」

 ミカさんの言葉に、ミネア司令は微かにたじろいだが、それはミカさんにしか分からなかった。

 俺たちは、ミネアがミカさんの挑発に一歩前に出たようにしか見えなかった。

「そうやって、なにかあると、いつも一歩前に出てしまうのよね」

「なに……!?」

 ミカさんは、ミネアの厳しい視線と言葉をサラリと躱して言葉を続けた。

「グリンハーヘンというのは悲しい名前ね。グリンヘルドにもなれずシュトルハーヘンにもなれない人たちのアイデンティティー。両方の母星から疎外された人たち。二つの母星は、地球侵略については共同戦線を張っているけど、内心では信じあっていない。だから、二つの母星の間に生まれたあなたたちは疎外され、軍の中でも、遊撃隊でしかいられないんでしょ?」

「わたしたちは選ばれた真のエリート部隊だ。だから、本隊が暗黒星雲の両脇を固めているのに、ドンピシャ三笠の真正面に出てくることができた」

「でも、だれも応援にこない」

「ステルスの三笠を見抜けたのは、このミネアだけだ!」

「でも、グリンハーヘンが停船して、動きがおかしいことは、グリンヘルドもシュトルハーヘンの艦隊も分かっている。だのに助けにもこないし、この船も応援要請をしない」

「三笠捕獲の栄誉は、このグリンハーヘンだけにある。味方と云えど邪魔はさせない」

「今の状況は逆でしょ。いくら遊撃部隊でも、こんな状況なら、なんらかの連絡や、作戦行動があって当たり前じゃないかしら?」

 その時、グリンハーヘンの艦体が身震いするように揺れた。

 ワ!? ウワ! ニャ!?

 双方のクルーが仲良く驚いた。

 ミネア一人、足を踏ん張りなおすだけで顔色も変えない。

「三笠を修理しているの。資材が足りないから、グリンハーヘンから少しいただいてるの。今のは、その衝撃」

 ミネアの表情が微かに動いた。

「大丈夫、この船がダメになるほどには頂かないから。じゃあ、三笠の仲間は解放させてもらうわね。艦長、そこのタラップを上がって。三笠の第二デッキに出るわ。順番は、わたしが最後。いいわね」

 ミネアは、最後まで視線を外さないミカさんに対抗して身動き一つしなかった。三笠に閉じ込められていたミネアの兵士たちは、逆に通路が開いてグリンハーヘンに戻ってきた。

 

 ミカさんの帰艦は少し遅れた。

 

「ちょっと遅すぎない?」

 天音が腰を上げる。

 三十分過ぎても、我らが船霊さまは戻ってこず、開きっぱなしの通路からは三笠を修理するオートメカの音がくぐもって聞こえるだけだ。

 ニャンケンポン ニャンケンポン アイコデニャ!

 ネコメイドたちがジャンケンを始めた。

「なにしてんだ、おまえら?」

「ミカさんの様子を見に行くニャ!」「順番を決めてるニャ!」「「ニャニャ!」」

「順番て、そんなの、だれか一人行けばいい話だろ」

「そうだ、同じ乗組員だろ、僕たちもジャンケンに入れてよ」

 トシの申し出なんか無視して勝負がついた。

 ニャンパラリン!!

 四人のネコメイドが揃ってジャンプすると、一匹の半透明の猫に変わったぞ!

「「「「ステルスネコにゃ! 頭と前脚と後ろ脚と尻尾を四人でやってるニャ!」」」」

 なるほど、その順番を決めてたってわけか(^_^;)

 ステルスネコが飛び込もうとしたら、その通路からミカさんが戻ってきた。

「「「「いまから行くところだったニャ!」」」」

「ごめんなさいね、帰ろうと思ったら、ラッタル上がらなきゃだめでしょ、ねえ東郷君」

「え、あ……(#^皿^#)」

「ミネア司令以下100人の目が見てるし、モジモジしてたら、ミネア司令が特急で、通路の高さを下げてくれて。その作業が終わるの待ってたから……アハハ」

 いつも、すっと現れてすっと消えてるじゃないか……思っていても言わない。

 
「追ってきませんね、グリンハーヘン」


「ミネアさんは分かっているのよ。地球侵略がいかに無謀なことかを……」

「だったら」

「ただね、地球の温暖化が常識で抗いがたいように、グリンヘルドもシュトルハーヘンでも地球侵略が侵しがたい目的になっている。でも、グリンハーヘンの力は弱いから……いろいろあるのよ」

 神さまがいろいろと言うんだ、それ以上の詮索はできない。

「しかし、どうして三笠にステルス機能が付いたんですかぁ。そんなもの無いはずなのに」

 クレアが不思議そうに聞いた。

「三笠もニャンパラリンなのかニャ?」

「アクアリンドのクリスタルのおかげよ」

「アクアリンドの?」

「アクアリンドがグリンヘルドにもシュトルハーヘンにも見つからないのは、暗黒星雲のためだけじゃない。このクリスタルが、外界から、あの星を隠す大きな力になっていたの。クリスタルも学習したと思う。隠れて引きこもっていることの危うさを……」

 そう言うと、ミカさんは微かに微笑んで神棚に戻って行った。

「あとは、オレたちでやれって目だったな……」

「ピレウスまで、8パーセク。二回のワープで到着。いいわね?」


 樟葉が決意を促すように宣言。

 それを受けて俺は小さく頷いた。

 三笠のクルーの結束は、いっそう強くなっていった。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4]

2023-03-05 06:52:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4] 修一  

 

 

「いったい、どんな仕掛けになってるのだ!?」

 前の壁が消えて、ミネアが怒りに震えている。

「仕掛けも何も、クルーは全員ここに居るし、三笠は大破したままだ」

「……なにか隠している。三笠と君たちの情報は全て取り込んだけど、こんな能力が隠されているなんて分からなかった。手荒なことはしたくなかったけど、もう容赦しない!」

 ミネアが手を挙げると、残りの三方の壁が消えて、バトルスーツに身を包んだグリンハーヘンの兵たちが100人ほど現れた。

「情報が得られれば、それでいい。本当のことを言うまでだ、一人ずつ死んでもらう……まずは、アナライザーのクレアから。クレアは本当の人間じゃない。ボイジャー1号が擬態化しただけのガイノイド。最初の見せしめにはちょうどいい……構え!」

 ガチャリ!

 100人の兵が一斉に光子銃をクレアに向けた。

「待て! クレアは人と同じだ、オレたちの仲間だ、手を出すことは許さん!」

 俺の抗議に、ミネアは冷笑をもって応えた。

「フフフ……人の中でさえ序列があるんだ。グリンハーヘンでは司令がトップ、次席が副司令でもある艦長。以下副長、船務長、航海長、機関長、砲雷長、各科先任曹長という具合にね。三笠でもそうだろ、艦長以下の職掌が決まっているのはそういうこと……」

「それは役割の序列だ、人として階級があるわけじゃない。だから司令の言う序列で犠牲者を決めるなんて認めない!」

「正義面して人の話をさえぎらないで。クレアは、その序列にさえ入らないガイノイド、つまりは機械。機械に仲間意識を持つなんて変態の戯言だよ。クレアを破壊しろ!」

「「「「待ってエ!」」」」

 ネコメイドたちがメイドの姿に戻ってこぶしを握っている。

「な、なんだお前たちは!? そこには回収した愛玩用の小動物がいたはずだが!?」

「愛玩用小動物言うニャア!」

「あたしたちは、ネコメイドニャ!」

「シロメニャ!」「クロメニャ!」「チャメニャ!」「代表のミケメニャ!」

「ニャーニャーうるさい奴らだ」

「うるさい言うニャ!」「言うニャ!」「ダメニャ!」「ニャニャ!」「「「「ニャーニャー!」」」」
 
 たしかにうるさいかも(^_^;)。

「もう、代表のミケメが言うニャ!」

「「「ニャー」」」

「ふふ、この猫化けどもにさえ序列があるんだ」

「わたしらは、横須賀の街で人といっしょに暮しているニャ。ノラネコ、カイネコ、マチネコ、いろいろだけど、ネコは人の心を慰めて、人は程よく面倒見てくれて助け合ってるニャ。ネコたちはネコだけの地球にしようなんて考えないし、人も人だけの地球にしようって思わないのニャ! だから、わたしたちは東郷君たちと一緒に銀河の果てまで来たニャ、みんな仲間ニャ!」

「わたしたちも共存しようと思っているぞ、地球の寒冷化を防いで、お前たちともいっしょに暮して行こうと思っている。ただな、そこには序列がある。序列の無いところに秩序も平安も無い。地球人類は三級市民としてのみ生存を許される。そうだろ、我々の寒冷化防止装置がなければ人類も愛玩動物も死に絶えるしかないのだからな」

「ど、どうしてもやると言うなら、ネコメイドからやればいいニャ!」

「「「そうニャそうニャ!」」」

「お、お前たち!!」

「心配いらないニャ、二十年の冬眠状態の中でも生き延びたニャ、殺されたぐらいじゃ死なないニャ!」

「「「ニャー!」」」

 その瞬間、再び三方の壁が現れて、100人の戦闘員たちは一瞬の驚愕を残して壁の向こう側になってしまった。

「え……何が起こった!? 壁を開け!」

 応える者はいなかった。そして、ミネアの死角になっている天井の一部が開いてタラップが降りてきた。

「こんな操作、わたしは命じていない。だれがやっている、返事をしろ!」

「冷静な話をしましょう……」

 そう言いながら、タラップを降りてきたのは、ミカさんだった。

 タラップは垂直なので、降りてくるみかさんの、スカートの中がチラリと見え……ない。

 無邪気な男性本能に、みかさんは微笑で答えた。みかさんにはCERO倫理規定のようなものがあるのかもしれない。

「誰だ、おまえは?」

「三笠の船霊です。みんなは親しみをこめて『ミカさん』と呼んでくれるわ」

「フナダマ、そんな情報は無い……」

「それは、あなたたちに信仰がないから。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、はるか昔に宗教を捨ててしまったものね。無いものは理解できない」

「そんなことが……そうか、お前が三笠の秘密なんだな。」

「三笠に乗り込んできた人たちは無事よ。ミネアさん、あなたとの話が終わったら解放します」

 ミカさんは、日ごろから微笑を絶やさない。

『微笑女』というダジャレが言いたくなるほどに人の心を和やかにしてくれる。しかし、この時のみかさんの微笑は、神さまらしく慈愛に満ちたものだった。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠41[宇宙戦艦グリンハーヘン・3]

2023-03-04 09:02:43 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

41[宇宙戦艦グリンハーヘン・3] 修一  

 


「ええ! また偽物!?」

 樟葉が警戒心丸出しの表情で後ずさる。気づくと天音もトシも、クレアでさえ疑惑の目で俺を見て、ネコのままのネコメイドたちは「フーーーー!」って唸りながら毛を逆立てる。

「どうやら、おまえらもホログラムの偽物に会ったみたいだな……」

 そう言いながら壁を叩く。

 ドンという音がして、みんな安堵のため息をつく。ちょっと、手が痛かったけどな(^△^;)。

「こっちも体が触れ合うまでは、分からなかった」

「触れるって、どんな風に?」

「何気なく肩に手を掛けたら、素通しになった」

「修一が、あんまりグダグダ聞くんで、おかしいと思って……」

「オレといっしょだ。樟葉がくどかったから、おかしいと思った」

「いっしょだ。あたしは頭をはり倒したら、空振りになった。修一は?」

「キスしようとしたら、顔が重なってしまった」

「ええー、キスなんかしたの!?」

「だから怪しいと思ったからさ。ちょっと大きな声じゃ言えないって誘ったら、顔を寄せてきた。で、ホログラムの偽物だって分かった」

「本物だったら、どうするつもりだったのよ!?」

 樟葉がむくれた。

 他のやつらは呆れながらも笑ってる。

「しかし、なんだな……俺たちって、あんまりスキンシップしてなかったんだ」

「されてたまるか!」

「それは文化の差よ。ウレシコワさんやジェーンさんはよくボディータッチやハグしてくれてた。日本人はしないから」

 クレアがフォローした。

「しかし、なにもキスしなくてもさ!」

「とっさだよ、とっさ!」

「それより、本物の艦長かどうか確認しておきましょう!」

「そうだな、ホログラムの偽物に会ったって言うけど、油断させるための罠かもしれん」

 トシの提案に天音が同意して、四人と四匹で迫って来やがった。

「ちょ、おまえら目つきが怖い」

「いくぞ!」

「ちょ、やめ、いて! 痛い! ちょ、アハハ ギャハハ……」

 で、捻られたり、つねられたり、くすぐられたり。俺は、まるで罰ゲームのような目に遭った。

「艦内に動きがあります……三笠にかなりの人数が……」

 笑い死ぬかと思った時、クレアが警戒の顔つきになった。

「何をしに行ってるんでしょう」

「あたしたちの情報を総合して、まだ誰か残っている人間がいると思っているらしいです……」

 クレアも自分でバージョンアップしているようで、この秘匿性の高い敵艦の中でも、ある程度は読めるようだ。

「他に、人間て……」

 みんなの頭の中で、同時に一人の顔が浮かんだ……ミカさんだ。

「敵に動き。三笠から退去しようとしています!」

「……ミカさんは船霊、神さまだから、予見できない能力を恐れたんでしょう」

 クレアの分析は正しく、ミカさんの能力は、そのクレアの分析を超えていた。なんと三笠に乗り移った敵兵たちが、三笠の艦内に閉じ込められてしまったのだ。

 そして、ミカさんの力は、それだけでは無かった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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