大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・274『送辞と声優と』

2022-01-31 15:23:39 | ノベル

・274

『送辞と声優と』頼子     

 

 

 声優というのは化け物だと思う。

 

 オタクというほどではないけど、けっこうアニメは観るほう。

 ハマったのは、寝付けないまま深夜に観るようになったからなんだけど。寝られるようになってからも、そのグレードの高さから観続けるようになった。

 え、この声も○○さん!?

 そういう騙されたのが分かった瞬間の『してやられた感』が好き。してやるのが好きなわたしは、こういう時のゾクゾク感がたまらない。わたしも、こういうの出来たらいいなアと思いつつ、意外な『同じ声優』を発見して喜んでいた。

 古いところじゃ、ミッキーマウスの声がウォルトディズニー、その人だったとか。

『けいおん』のあずにゃんが『オレイモ』の桐乃と同じ声優さん。

「そんなの、いっぱつで分かるでしょ!?」

 と、お友だちモードの時のソフィアにはバカにされたけどね。

「でもさ、エヴァのミサトとのび太のお母さんいっしょなのはビックリでしょ?」

「え、あれも分からなかったんですか?」

「あ、すぐに分かったけどね(^_^;)。ケロロ軍曹と『あたしンち』のお母さんとか」

「国民的常識」

「ピカチュウと光彦!」

「あたりまえ」

「碇シンジとレイアーズ!」

「フン」

「しょくぱんまんとナウシカ!」

「ハアーー」

 ことごとく知ってて、友だちモードのソフィアにはバカにされてたけど、そのソフィアでさえ気が付かなかったのが『恋するマネキン』の百武真鈴(ももたけまりん)。

 主役のけなげな妹系のマネキと敵役のネキンが同じ声優だという噂がネットで流れ、「そんなバカな(;'∀')!?」と思ったソフィアは、諜報部の声紋判別機を使って、噂通りだということを確認して、あやうく諜報部員としてのアイデンテティーを喪失するところだった。

 それだけではない。

 ヤマセンブルクの諜報部員として、王室魔法使いとして魂に火のついたソフィアは、より高次元の『声優の正体』を突き詰めるべく、日夜調査(わたしは気が付かなかったけど)して、その意外な実態を明らかにした。

 なんと、クラスメートにして生徒会執行部の田中真央が百武真鈴だったのを突き止めた!

 謎の覆面声優は大阪の現役女子高生!

 この事実を突き止めたソフィアはすごいんだけど。

 その田中真央が、生徒会役員として、下校途中のわたしを呼び止めることまでは分からなかった。

 

「夕陽丘さーん、待ってえ、話があるのん!」

 

 正門を出たところで追いついた田中さんは息を整えて、用件を切り出そうとする。

 正門を出てお友だちモードからガードモードになったソフィアは、少し警戒して、わたしの前に半身を割り込ませようとした。

「えと、何かしら田中さん?」

「夕陽丘さんに卒業式の送辞を読んでもらいたいの」

「「ええ!?」」

「生徒会で、いろいろリサーチとかやってね、夕陽丘さんにお願いしたいってことになった」

「え、わたしが……?」

 

 戸惑いと気後れ。

 人前で喋ることは気にならない。

 ただね、なんで、こんなに目立つ自分が選ばれたのかという不思議と、送辞と言えば公的なスピーチ同然なので、王女としては軽々と引き受けられないことが問題なのよ。

「ちょっと考えさせてもらっていいかしら(^_^;)」

 田中さんの正体に触れる余裕もなく、そう答えたのがこないだ。

 

 領事館に戻って、スカイプでお祖母ちゃんと相談。

 

『あら、いいことじゃない。引き受けたら』

「でも、お祖母ちゃん……」

『手続きを踏んで選ばれたのなら引き受けるべき。ただし、条件が一つ』

「なにかしら?」

『事前に原稿を見せてちょうだい。ヨリコの立場上不適当だと思える箇所に手を入れることを認めてもらって』

「え、あ、そうね……って、いいの?」

 ここ一年、ヨーロッパの王室や日本の皇族でも、発言や行動について問題になることが多かった。

 だから、ちょっと引けていたんだ。

『こんな時だからこそ、しっかりやって、王室の弥栄に貢献してくれると嬉しいわ』

「うん、分かった!」

 お祖母ちゃんのポジティブさには、いつもながら脱帽。

 

 で、今度は教室前の廊下、二日ぶりに田中さんに返答をする。

 

「お待たせしてごめんなさい」

「どうかなあ、夕陽丘さん?」

「うん、いろいろ考えて、引き受けることにしたわ」

「え、ほんま、よかったあ!」

「ただし」

 え、ソフィアが割り込んできた。

「なにかしら?」

「ヨリッチを『恋するマネキン』に出してもらえないかしら?」

「え…………ええ!」

「ちょ、ソフィア!」

 わたしも、田中さんも絶句してしまった。

 

 眼下のピロティーには、ちょうど入学願書提出にやってきたさくらと留美ちゃんが居たらしいけど、むろん気づくことも無いわたしだった。

 

 

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明神男坂のぼりたい・58〔二日遅れのお誕生会〕

2022-01-31 09:12:54 | 小説6

58〔二日遅れのお誕生会〕 

     


 今日は、あたしのの17歳のお誕生会。

 ほんとうの誕生日は二日前だったけど、平日だったので、今日やることになった。

 伯母ちゃんとおいちゃんも来てくれる毎年恒例の行事。

 なんせ、あたしは鈴木家にとっても、お母さんの実家である北山家にとっても、たった一人の孫。それも、お父さん43、お母さん41のときの子で両家のジジババの喜びもひとしおだったとか。

 なんせ、一歳のころからの行事だから、当たり前に思ってるけど、これにはあたしへの大きな期待がある。それも無意識だから、心に重い。

 分かる?

 あたしは、四人。場合によっては五人の年寄りの面倒をみる、又は後始末をしなくちゃならない。

 お祖母ちゃん、お父さん、お母さん、伯母ちゃん、おいちゃんの五人。

 お父さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは三年前と去年に片づいて……逝ってしまった。あたしが四十前になったら、両親伯父伯母ともに、平均寿命の危ない年頃。石神井のお祖母ちゃんもヘタしたら……いえいえ、幸いにしてギネスものの長生きしたら生きてる可能性がある。

 介護認定してもらって、ヘルパーさんの世話になって、場合によってはデイサービスの送り迎えは当たり前。施設に入れたとしても、ホッタラカシにはできない。着替え持っていったり、入院したら付き添い。そして、最後は四人の(場合によっては五人の)葬式、財産の(そんなに無いけど)処分。年忌法要……なんか気が重い。

 だからお誕生会は、それに向けての人生の一里塚。

 

「明日香、おまえ、えらいよなあ」

 気がついたらさつきが、抜け出して横を歩いてる。考え事してるうちに外堀通りの歩道を歩いてる。

「実体化するの久しぶりだね」
「明日香にくっついて、この時代の子どもが大変なのも、少しずつ分かってきた。年寄り多いもんなあ」
「それでも、ホッタラカシにされるお年寄り多いよ」
「ホッタラカシにしててもな、心の中から平気っていうやつはめったにいないよ。この時代に来てよく分かった。それに、明日香は、ホッタラカシにはできない性格だしなあ」
「さつきこそどうなの?」

「え、わたしか?」

「将門さまが亡くなったあとは、滝夜叉姫とかおっかないのになって、相当暴れまわったっていうじゃないの」

「ああ、それなあ……最後は光圀にやられちゃったけどな」

「あ、それ。光圀って、水戸黄門かと思ってた」

「大宅中将光圀。光圀って、今で言えば『学』くらいにありふれた名前だからな」

「あ、なんで先輩の名前に例えんのよ」

「おまえの中にいたら、真っ先に出てくる男の名前だもんな」

「う(;'∀')」

「親父は派手な死に方したからなあ、なんかやらないと、つり合いがとれない」

「それが、滝夜叉姫になること?」

「ああ、爆誕滝夜叉姫! かっこいいだろ?」

「でも、最後はやっつけられてるし」

「ああ、前非を悔いて昇天したってんだろ?」

「なんか、あっけない」

「それ、嘘だから」

「え、ウソ?」

「光圀ごときにやられるタマじゃないよ」

「え、じゃあ?」

「バカバカしくなってやめたんだ。親父と同じ道走っても仕方ないだろ。で、わたしが鳴りを潜めたら、これ幸いに退治したってことにして、光圀は都に帰っちまった。まあ、丑の刻参りの発案者ってことにはなったけどな」

「でも、明神さまのお世話にはなってたんでしょ?」

「それは違う」

「だって……」

「御旅所に間借りはしてたけど、わたしは神さまじゃない。神田明神には祀られてないしな」

 そう言えば、明神さまの境内に居る時に、さつきを感じたことが無い。

「明日香はさあ」

「うん?」

「いずれ、人の嫁さんになって、鈴木の家は終わりになる。親も伯母さん夫婦も子供いないしな。まあ、令和の時代に家なんてどうでもいいのかもしれないけどな。あ……いや……」

「なによ?」

「まんま、一生独身で孤独死ってこともありうる」

「ちょ、ちょっと!」

「お、意外に、そういうの堪えたりするのか?」

「ムー」

「ハハ、そう言う顔、学にも見せて見ろ」

「できるか!」

「意外に可愛いぞ」

「からかうなあ!」

「怒るな怒るな」

「さつきだって」

「同じだって言いたいのか?」

「うん」

「試してみよう」

 パチン

「おお!?」

 指を鳴らすと、さつきはわたしと同じ服と髪型になった。

 前の方から視線を感じる。

 大学生(外堀沿いには大学が多い)たちが、みんなこっち見てる。

 近づくと分かる。

 視線は、みんなさつきの方を向いている。

「な、同じなりをしていても違うだろ」

「す、すごい」

「だろう?」

 なんかにくたらしい。

 

 パチン

 

「え、ええ?」

 さつきが、もう一度指を鳴らすと、川の上だ。川の上、一メートルくらいの高さを歩いている。

「雰囲気はいいが、外堀通りは川面が見えんからな」

「ちょっと怖いかも」

「このあたりの神田川は谷底だからな」

 ポチャン!

「キャ!」

 メッチャ大きい魚が跳ねた。

「草魚だな」

「ソウギョ?」

「外来種、もとは中国の魚だ。この何十年かで日本にも住み着いたんだ」

「神田川の主?」

「主は別にいる。草魚は手下だ」

「どんなの?」

「見たら死ぬぞ」

「死ぬんだ……」

「川面を歩くのは久しぶりだからな、草魚を偵察に出したんだろう」

「えと、もう上がらない?」

「もう少し待て、水道橋の方から森プロのスカウトが歩いてくる」

「え、スカウトされんの?」

「明日香じゃない、わたしがだ」

「なっちゃえば、アイドルとか!」

「興味ない、だんご屋のバイトならしてもいいがな」

「ハハ、毎日お団子食べられるもんね」

「よし、帰りに買え」

「え、お財布持ってないよ」

「クレジットカードとかは?」

「持ってないよ、高校生だし」

「チ、使えんやつだ」

 

 なんだか、妙な絡まれ方して家に戻った。

 

 家に帰ってすぐに伯母さんたちもやってきた。

 伯母さんは、いつもケーキを買ってきてくれるんだけど、今日は箱一杯の『明神団子』だった。

「うん、鳥居の前まで来たら、無性にお団子食べたくなってね」

「みたらし団子まである!」

「アハハ、こっちも美味しそうだったから」

 おいちゃんが頭を掻く。

 さつきのやつが、なにかやったんだ。

 

 思い出した。

 ウィキペディアで滝夜叉姫を引くと『妖術使い』というのが真っ先に出てくることを。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

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銀河太平記・091『パチパチ大改修』

2022-01-30 13:44:46 | 小説4

・091

『パチパチ大改修』 加藤 恵    

 

 

 パチパチたちのボディーは1・5倍のサイズになった。

 

 身長140センチの中学生程度。

 元のオートマ体のサイズでは、銀行のさまざまな機器を扱うには小さすぎるのだ。

 機器の方をパチパチに合わせることもできないではないが、それでは、一般の汎用品が使えず不経済な上に、将来の機能拡張を考えると、パチパチの方をスケールアップしたほうが合理的だ。

 それに、窓口業務をやらせると、元のオートマ体では、カウンターの上に頭が出てこず、なんとも頼りない。

 完全な新造体を作るのが一番なんだけど、社長が、こう言う。

「できるだけ、元のパーツを活かしてやってくれるかなあ……そう、子どもが成長するみたいに、パーツが成長するように、太く大きくなるみたいな感じで」

「分かったわ」

 多少は面白いと思って取り組んでみた。

 子どもが成長するようにって感覚が素敵だと思ったしね。

 骨格は、継ぎ足して、その上で太くしてやるという手間のかけよう。

 特にヘッドには気を遣った。

 フェイスは40個、その他の頭骨は30個に分割、その上で、大きくなった分をくっつけてやった。

 ラボは食堂の隣なので、昼や夕飯のあとでは、見学者がやってくる。

 遠慮のない者たちが、半ば素通しの窓から覗き込む。

 元々は配給所だったラボは、半ば素通しのようなものなので、遠慮のないオッサン・オバハン・ロボットたちが、中にまで入って来る。

「ほお、パルス溶接でやるのか」

 シゲさんが覗き込む。

「髭焼けてしまうわよ」

「こんな小せえの、大丈夫か?」

 心配はもっともだ。パルス溶接は船(宇宙船)や戦車に使う溶接方法で、オートマ体などに使うものではない。

 昔の感覚で言えば、時計の修理を電気溶接でするようなものだ。

「俺のご先祖は、パワーショベルでワインを注いだってって言うけど、それ以上だなア」

「うちのひいひい爺さんは、遺跡から戦車掘り出して復元してたけど、こんなだったぜ」

「こんなに愛情かけてもらって、ちょっとウラヤマだなあ」

 ある時は、内側の骨格パーツの溶接に苦労していた。

 汗が目に入って、しばしば中断。

「汗拭きます」

 お岩さんが雇った給仕ロボットが汗を拭いてくれる。

「以前は、病院でオペ助手もやってましたから」

 西ノ島は、人にしろロボットにしろ、様々な過去を持った者が多い。

 病院勤務のロボットが西ノ島の社員食堂で給仕をするまでには、様々なドラマがあったんだろう。以前ほど秘密にすることはないけど、進んで喋ることもない。

「……ち、また失敗!」

「あ、ごめんなさい」

「あなたのせいじゃないわ。汗拭いてもらわなかったら、三十分前にはキレてた」

「あ、そうですか(^_^;)」

「なあ、グミ」

「なに!?」

 わたしをグミと呼ぶのはシゲさんのお友だちの隠居。

 ナバホ村で、腕のいい技師だったけど、事故で半身の自由を失って隠居暮らし。

 義体に換えれば元のように動けるんだけど、あえて、それをやらないでいる。村長も「お前は隠居」と真面目腐った顔で宣言したとか。まあ、他所では許されない、あるいはあり得ないことも通ったりしている。

「そこはよお、治具そのものに角度つけるとやり易いぜ」

「治具を?」

「ああ、ピンセットとかでも、用途によって形や角度が違うだろ」

「あ!?」

「思い至ったかい?」

「それもあるけど、ご隠居、ひょっとして、むかし戦艦カワチの船体工事で……」

「え、知ってんのかい?」

「うん、天狗党にも技術畑の年寄りが居てて、話を聞いたよ」

「そうなのか、ご隠居?」

「やだぜ、むかしの事さ」

 宇宙戦艦カワチの建造は難工事で、特に装甲板の取り付けが難しく、そのために工期が二度にわたって延長された。

 それを、若い技師が『治具そのものに角度をつければ』と提案し、三度目の工期延長がなくなったという。

「いや、ま、参考になりゃな、アハハハ」

 頭を掻いてご隠居は行ってしまった。

 

 まあ、そんなこんなで、島のみんなも楽しみにしてくれて、三か月後。

 

「それでは、西ノ島の三つの銀行を担う。新生パチパチのお披露目でーす!」

 今や助手になった給仕ロボットがマイクを握って、ラボ前に作られた特設ステージの幕を切って落とした。

 ドーーーン パチパチパチ

 予期せぬ花火まで上がって、いよいよ除幕!

 不肖、加藤恵が除幕のボタンを押すと、いよいよ銀行窓口の制服を着たパチパチたちが姿を現わした。

 

 オオオオオオオオオオオ!

 

 食堂前広場にどよめきが起こった。

 作った自分も感動した。

 まるで、妖精のようだ……。

「メグミ、紹介を」

 社長に促されて我に返る。

「では、パチパチたち、改めて自己紹介!」

 三人のパチパチがゆっくりと目を開ける。

 

 オオオオオオオオオオオ!

 再びの歓声。

 

「えと、本店担当のニッパチです」

「ナバホ村支店のサンパチでござる」

「フートン担当のイッパチアルよ」

 

 姿形は変わったが、声と言い回しは以前のままで、感動してしまっている観衆は、どう反応していいか分からない様子。

 

 アハハハハハ  パチパチパチ

 

 社長が笑って手を叩くと、みんな、それに倣って手を叩き、パチパチたちが頬を染めると、広場は、割れんばかりの歓声に包まれた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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明神男坂のぼりたい・57〔フラレてしまった!!〕

2022-01-30 07:02:24 | 小説6

57〔フラレてしまった!!〕 

      


 フラレてしまった!!

 と、騒ぎ立てるのは早いかと思うけど。感覚的には、まさにフラレた(;゚Д゚)。

 ちなみに、あたしは今日で17歳になる。平成17年5月2日、金曜日、午後3:05に、あたしは石神井の病院で呱々の声(産声を格好良う言うと、こないなる)をあげた。

 なんで、こんなに詳しく生まれた曜日やら時間を知ってるかというと、頭がいいから……ではなく、折に触れてお父さんが言うから。

 この日は、6時間目体育館で学年集会をやっていて、それが3:05分に終わって、教室で終礼しなくちゃならないから、トロトロ歩いてる生徒に「早く出ろ、はやく出て教室戻れ!」て怒鳴っていたから。
 なんせ、終礼を早やくしないと掃除当番がフケてさっさと帰ってしまう。で……「早く出ろ!」と叫んでる時に、あたしはお母さんのお腹から出てきた。それが面白いのか、なにかにつけて、お父さんが言うので、覚えてしまった。

 ほんとうは、今日の放課後でも関根先輩が「マクドでも行こうか?」と言って、ささやかにマックシェ-クかなんかで「誕生日おめでとう」と言ってくれたら、あたしは、それ以上のことは望まない。
 誕生日は、こないだメールでさりげに教えてあるし。なんか言ってくるんだったら、夕べのうちだろうと日付がかわるまで、スマホ前に置いて待っていた。

 だけど、電話はおろかメールもこない。

 で、かねて用意のデートの申込みを送信した(#´艸`#)。

 コースは決めていた。悔しいけど、かねがねお父さんに教えてももろてたデートコース。いくつも教えてもらったけど、静かにゆっくりをコンセプトに選んだ。

 連休は、どこにいっても人いっぱい。それがめったに人がこない絶好のスポット……て、別に飛躍したやらしいことは考えてません。念のため。

 どんなコースなんだ?

 さつきが聞くけど教えません。ぜったい冷やかすもんね。

 そんなことはないぞ(* ´艸`)。

「ほら、もう笑ってるし!」

 コースの情報添付してメールを送った「もし良かったら、連休のいつでも」と、メッセ。遠慮してるようで、がっついてるかなあ……迷いはあったけど、エイっと送信ボタンを押す。

 で、1分で返事が返ってきた。

―― ごめん、部活と美保との約束があって、一日も空いてない ――

 これはないだろ。

 断られるのは半分覚悟してた。だけど、わざわざ「美保との約束」……ヤケドに辛子塗るような答えしなくてもいいじゃんか。

 鴨居に掛けといたデート用のスカートとカットソー(こないだアマゾンで買ったやつ)を仕舞って、布団被って寝た。どす黒い後悔が胸の中を蛇みたいにクネクネして、なかなか寝付けなかった。

 

「明日香、誕生日だな、おめでとう」

 

 学校で、担任のガンダムに言われた。

 嬉しいよりもキショクワルイ。

 なんで何人もいてる女生徒の中で、あたしの誕生日覚えてんの!? それが表情に出たんだろ、ガンダムは付け足した。

「クラス持つときに調査書見たら、俺と誕生日いっしょだったから覚えてしまった」
「ほとですか!? で、なんかパーティーとか、奥さんとデートとか?」
「この歳なって、そんなものしてもらえると思うか? もしやりやがったら、なんか下心あるんじゃねえかと疑ってしまうぞ」

 なんとも味気ない返事。

 一日凹んだままで、帰りの外堀通り。

 ポロンと音がしてメールが入った。

―― 誕生日おめでとう。学 ――

 え? ええ!?

 心臓が口から出そうだった。で、道の向かいに気配。

 !!?

 関根先輩が手を振ってくれてる!

 あたしはジャンプして、思い切り手を振った!

 すると――あっちあっち――と進行方向の横断歩道を指さす。

 え? え?

 急ぎ足で行くと、ちょうど青になって、先輩が渡って来る。

「地元のものでなんだけど、誕生祝」

 そう言って、見覚えのあるナメクジ巴の包み紙『名代 明神団子』のロゴ。

「じゃな、学校戻るわ」

 青信号が点滅して先輩は戻っていった。

 

 こんなに明神団子を愛しく思ったことはない。

 今度はさつきに食べられないように!

 固く決心!

 

 家に帰って開けてみると、明神さまの『開運』のお守りが入っていた。

 『恋愛成就』のお守りだったら、もっと良かったのにね。

 思ったら、さっそくお団子が一つ消えた。

 明神さまの娘は油断がならない。

 

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鳴かぬなら 信長転生記 56『女たちを送る・1』

2022-01-29 17:04:28 | ノベル2

ら 信長転生記

56『女たちを送る・1』信長  

 

 


 女に生まれてきてよかったと思うぞ。


 俺の事ではない、市のことだ。

 横を歩いていてさえ感じる殺気。

 視野の端で捉えると、一見力が抜けているように見えるが、これは、目についたものを切り殺すための準備姿勢だ。

「目に入った者は殺す」と触れているようなものだ。

 これでは数丁先の敵でも太刀を抜いて矢をつがえるぞ。

 戦国の武将が務まるキャラではない。

 信玄や謙信の顔が浮かぶ。あいつらは自己韜晦の化け物だがな……辛うじて生徒会の石田三成……いや、あいつもろくな死に方をせずに転生してきたぞ。

 思うと、憐れな妹ではある。

「シイ(市の偽名)、もう、ここらで女たちは解放しよう」

「なぜ?」

「見れば、関門は、まだ開いている様子。街に入れば、女たちも自分で戻るだろう」

「家まで送り届ける」

「え、あ……」

「わたしどもは」

 女たちも、市の危うさが分かるのだろう、うんとは言わない。

「遠慮はするな、見届けなければ、わたしも落ち着かない」

「「「は、はあ」」」

「待て、シイ」

「ん?」

 パシーーーン!!

 思い切り張り倒した。

 ヒ!

 女たちは身を縮めるが、市は数歩タタラを踏んだだけで錫杖を構えて睨み返してくる。

「何をする!」

「そんな剝き出しの殺気では、すぐに怪しまれる」

「え……あ、そうだね。ちょっと持ってて」

「は、はい」

 女たちに錫杖と太刀を預けると、市は、思いがけぬことをした。

「えいッ!」

 気合いを掛けると、その場で、きれいな倒立をする。

 器用に衣の裾を股で挟んで乱れを防いでいる。

「それでは、血が上りませんか……」

 女たちの方が気を遣う。

「勢いを付けるのよ……」

「お顔が真っ赤に……」

 セイ!

 気合いを入れて体をしならせると、見事なバク転を決めて、着地した。

 パチパチパチ

 思わず、女たちと拍手をしてしまう。

 こいつ、新体操に向いているかもと思ったぞ。

「よし、これで血を下げた。いくよ」

 確かに、人が変わったようにゆったりとした。

「……少し、ここで待て」

「え?」

 俺は返事もせずに林の向こうに回って様子を窺っていた先駆けの二等軍曹をぶちのめす。

 ドゲシ! ドガ!

 悲鳴も上げさせず、軍用の通行手形を召し上げて戻って来る。

「さすがあ!」

「「「おみごと、おみごと」」」

 パチパチパチ

 市が感心し、女たちが拍手する。

 こいつら、変わり身早すぎ(-_-;)。

「おまえたち、家はどこだ?」

「はい、西の指南街のほうです」

「指南街か、学者たちの街か」

 世間知らずの学者の娘たちが、荒くれの兵どもにたぶらかされたというところか。

 さっさと送り届け、うまくいけば、ぶっそうな外邑ではなく、女たちの家で、まともな寝床にありつけるかと再び関門を潜った。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

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明神男坂のぼりたい・56〔初めてのアマゾン!〕

2022-01-29 05:49:50 | 小説6

56〔初めてのアマゾン!〕 

        


 話は前後する。

 月曜は、横浜の異人館街の遠足だったけど、その前の日曜は、しゃくばあ(石神井のお祖母ちゃん)の全快祝いに行ってきた。

 以前、佐渡君のとこらへんで書いたけど、しゃくばあは左の腕を骨折して一カ月半も入院していた。


 単純な骨折だから、普通半月もあったら退院できるんだけど、しゃくばあは骨粗鬆症のうえに足腰弱ってるので、一カ月余分にかかちゃった。

 それが、やっと退院して快気祝い……といっても、家で盛大にやるわけではない。商店街のN寿司に行って、伯母ちゃん夫婦とうちの家族三人で、お寿司を食べるんだ。

 石神井の家から歩いても10分ほどなんだけど、お祖母ちゃんは家からおじさんの車に乗せてもらってやってくる。うちら神田組は、寿司屋の前で順番取り。11時45分開店なんだけど、もう10人ほどの列ができている。しゃくばあがおじさん・伯母ちゃんといっしょに来た頃は、列は店の角を曲がって30人ぐらいになっている。
 

 6人でたらふく食べた。

 あたしは定番のマグロから始めて、中トロ、鉄火、エビ、イカ、蛸、そしてもういっかい鉄火にもどって上がり。ちょっと少ないみたいだけど、ここのN寿司は1皿に3貫載って、ネタも大きいから、お馴染みの回転寿司の倍くらいはある。

 ビックリしたのが蛸。符丁は「ぼうず」 何がビックリしたか言うと、蛸が生だということ。お馴染みの回転寿司やら出前寿司のたこは茹で蛸。いつもの調子で食べたら吸盤が上顎にくっついてえらいことになった(^_^;)。

 あたしの味覚では、サビが足らないのでサビ入りのムラサキをハケで塗ったら死ぬかと思った(;'∀')。

 サビの効き過ぎ。上を向いて、しばらく口を開けている。わさびは揮発性なので、こうやっておくと刺激が抜けていく。だけど「バカな顔するんじゃないの!」と、お母さんに怒られた。伯母ちゃんが、その姿をシャメで撮ちゃって。こんな姿、関根先輩には見せられねえ。

 くっついてきたさつきが、しきりに「うまい!」を連発。「もっと食え」言ったけど、さつきの言う通りにしていたらブタになる。鉄火の追加で辛抱させた。どうもさつきの時代には寿司は無かったみたい。

 それから、しゃくばあの手を引いて喫茶店。

 正確にはしゃくばあが、あたしの腕に掴まっている。保健で習ったし、中学の職業体験で行った介護施設でも身に付いた「手のさしのべ方」の基本。

 だけど、しゃくばあは、嬉しかったみたいで、後でお小遣いむき出しで1万円もくれたよ!

 

 いつも通り前説が長い。

 

 あたしは、この1万円で、始めてネットショッピングをやった! それもお洋服!

 カード決済だと、大人じゃないとできないけど代引きだったらできる。そう知恵をつけてくれたのは、おじさん。

 

 制服以外ではパンツルックが多いあたしは、家の中では、たいがいジャージ。だけどジャージばっかり着ていたらジャージ女になってしまう。

 ジャージ→くつろぎ→だらしないの三段論法は正解だと思う。

 人間は着るもので立ち居振る舞いが決まってくるんだよ。

 美保先輩に勝つためにも、ちょっとは女の子らしいくしなくっちゃね。

 女の子の夏のファッションを検索。正直目の毒(^_^;)。

 2時間ほどかけて、二つ選んだ。七分袖のカットソーと、大きな花柄のスカート(細いブラウンのベルト付き)

 カットソーとTシャツの違いがよく分からんので検索。

 カットソーというのは、生地が編み物で伸縮性がある。Tシャツはただの(主に)木綿の生地。体のフィット感がちがう。で、3回ほどクリックして、アドレスと住所打ち込んだらおしまい。お届けは2日後てなってたけど、遠足から帰ったらもうきていた。

 惜しい、もうちょっと早かったら遠足着ていけたのに!

 で、部屋に籠もって一人ファッションショーをやった!

 我ながら「馬子にも衣装」。スカートがミニだけど、フレアーがかかっててフワっとしてる。カットソーは体に緩やかにフィット。ジャージやら制服とは全然ちゃうシルエットが、そこにあった。

―― あたしって、こんなに女の子らしかったんだ! ――

 感動してしまった。

―― かわいいのは認めるけど、いきなり、これ着て学に会うのはやめろよ ――

 さつきが、いらんことを言う。

―― 坂東の女は心意気だ。都の女みたいにナヨっとするな。まず、ドーンととびこんでいけ。そして相手に通じてからきれいにしたらいい ――

 さつきの言うことも分かる。だけど、こないだみたいに、いきなり夜這いかけるのは違うと思うよ。

 もどかしいなあ、青春いうのは……。

―― なにもむつかしくない、行動あるのみ! ――

「うっさい、黙ってて!」

「このごろ独り言多いねえ……」

 洗濯物干しに上がってきたお母さんに聞かれてしまった……。

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魔法少女マヂカ・256『トキワ荘』

2022-01-28 14:34:54 | 小説

魔法少女マヂカ・256

『トキワ荘語り手:マヂカ  

 

 

 やっぱりトキワ荘や。

 え? トキワ荘? どこに? ええ?

 

 ノンコの呟きには戸惑うような声しか返ってこない。

「霞がかかったようで、よく見えませんね」

 用心のために、パッカードもフォードもブレーキがかかった。

「松本、前照灯を点けてみろー!」

 フォードの窓を開けて高坂侯爵が声をあげる。

 ピカ!

 ライトを点けて音がするわけはないんだけど、なんとか状況を把握したいという気持ちが、そう感じさせる。

「屋並みが見えます」

 ハンドルにもたれかかる様にして松本運転手。パッカードでもフォードでも息を飲む気配がする。

 靄の中に屋並みのシルエットが浮かぶんだけど、影絵のように重なって、個々の家を判別することができない。

「あれ、ほら、あの屋根の重なり具合はトキワ荘やし!」

 誰も分からないのに業を煮やして、ノンコが車を降りる。

「ほら、あそこやし!」

「典子さん、危ないです!」

 松本運転手が運転席を下りると、みなも、ノンコと松本運転手に倣うように車を降りる。

「ほら、右側の、こっち向いて出っ張ってるんが玄関で、ちょっとバルコニー風になってて、二階と一階に二つずつ窓が……あそこが手塚治虫の部屋で、隣が石ノ森章太郎、藤子不二雄……」

 ノンコが描写するにしたがって、トキワ荘のデテールがはっきりしてくる。

「簡素なアパートだな」

 侯爵が感想を言うと、デテールの進行が止まってしまう。

「ノンコのお父さんも、ここに住んでらっしゃったの?」

「取り壊しになる前、ほんのちょっとね。ほら、二階の左端、共用の台所でね、窓のすぐ下が流しになってて、夏になったら流しに水溜めて、お風呂代わりの行水とかやっててんて」

「まあ」

 霧子が感心すると、二階の窓から水道の水音と嬌声が聞こえてくる。

「今風ではないが、質素ながら勢いを感じるなあ……」

 聞こえるはずもないのに、ペンを走らせる音やラーメンをすする音、原稿の仕上がりを待って編集者が切らす痺れの音、アイデアを出すために叩かれたり絞られたりする頭の音まで聞こえてくるような気がする。

「梁山泊のような気迫だ」

「モンマルトルの丘のような」

「湯気が立つような熱気」

 みんなが感想を言う度に、トキワ荘は実態を増していき、周囲の家並や風景は霞んで、完全に背景になってしまう。

「ここに居た人たちは、みんな立派な漫画家になったの?」

「ほんの一握り、お父さんも、ずっと神主と兼業やったし……たくさんの実らへんかった努力と作品が、このアパートの下には眠ってる……」

 ノンコの父も、その一人だったのだろう、ノンコの目には光るものがある。

 

 しかし、待て。

 

 トキワ荘は、戦後、昭和も二十年代に建ったものだぞ。西暦で言えば1950年代……

 それが、なぜ、大震災直後の東京に? 関東大震災直後の大正12年は1923年だぞ。

 ゴゴ ゴゴゴゴゴゴ

「キャーー!」

「ウワ!」

「地震か!?」

 つい何十日か前に大震災を経験したばかりなので、みんなの恐怖が共鳴し増幅されて、強直な侯爵でさえ、地面に伏し、松本運転手も腰を抜かしてしまい、箕作巡査は無意味にサーベルを抜き放つ。

「見て、あれを!」

「トキワ荘が……!」

 ドドド! ゴゴゴゴ! ゴオオオオオオ!

 なんと、木造二階建てのトキワ荘が地響きを立てて、上に伸び、横に広がって、あれよあれよという間に、暗黒の城塞のように変貌してしまった! 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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明神男坂のぼりたい・55〔ガンダム式遠足〕

2022-01-28 07:13:36 | 小説6

55〔ガンダム式遠足〕 

 


 学校の連休はカレンダー通り。

 だから、今日みたいな日曜と昭和の日の間の月曜も学校がある。

 こんなのテンション下がって勉強にならない。学年の始めは思ったけど。今日は遠足……もとい、校外学習。

 一年の時はバスを連ねて奥多摩で飯ごう炊さんだった。あれはダルイ。240人でやってもおもしろくない。ああいうのは気の合ったもの同士で個人的にやるから面白い。

 しかし、たいていの学校は集団行動訓練ということで、昔の軍隊みたいなことを平気でやらせる。

 民主教育はどこに行ったんだ! ちょっと屁理屈。

 屁理屈言ってみたくなるくらいにつまらない。作るものは、最初からカレーライスと決まっていて、材料も炊飯用具もみんな貸してもらえる。これって手間かからないようで邪魔くさい。今はレトルトでいいのが、いくらでもある。ご飯用意して、かけたらしまいなんだけど、タマネギ刻んで炒めるとこからやらくちゃならない。目にはしみるし、手についたタマネギの臭いは抜けないし、鍋と飯盒の後始末大変だったし。

 ところが二年になると、クラス毎に好きなところに行ける!

 やったー(^▽^)/

 だけど、うちのクラスはガンダムが勝手に決めちまった。

 一応決はとるけど、こんな感じ。

「……ということで、異議のある者は居ないな。では、これで決定!」

 で、あたしらは、桜木町の駅で降りて山手を目指す。隣の二組は港を目指して山下公園。

「あんなものは中学生までだ。高校生らしいコースでいこう!」

 ガンダムの指揮で、あたしは横浜異人館街を目指す。山下公園とどないちゃうねん……そう思ったけど、ガンダムの目論見は違った。

「ホー」
「イヤー」
「すごいね!」

 と呟きながら、あたしらは途中の道でヒソヒソと歓声をあげた。

 歓声いうのは、大きな声で言うもんだけど、ここではヒソヒソになる。

 なぜって、周りは……ラブホで一杯!

 ガンダムは、黙々と先頭を歩いている。

「これは、実地教育だね」

 中尾美枝が言う。

「できたら、中も見学したいね」

 顔に似合わん伊藤ゆかりが大胆なことを言う。

 異人館街に着いたら、ガンダムが短く注意。

「おまえら三年もしたら大人だ。だから大人のデートコースを選んだ。特に何を見ろとは言わん。これから各館共通のチケットと昼食代渡す。好きなところを回って好きなもん食べてこい。じゃあな、せいぜい勉強してこい!」

 副担任の福井先生と二人で手際よく配る。これから二時まで自由行動。

 あたしらイチビリ三人娘は、さっきのラブホ街に行って、社会見学。美枝は休憩とお泊まりの値段をチェック。

「やっぱり、横浜のラブホはオシャレだねえ」
「わ、ここお泊まりで二万円もするよ!」
「きっとスゥイートなんだろうねえ」

 そこにクラスの男子が四人やって来た。

「惜しいなあ、三人だったら、ちょうど人数合ったのに!」

 美枝が大きな声で言うと、男子はきまり悪そうに行ってしまった。

 外観をみてるだけやから二十分ほどでおしまい。あたしらも異人館に入った。

 異人館には、それぞれエピソードがある。

 ある異人館は、ドイツのお医者さんが住んでいて、戦争中も留まって、空襲で怪我をした人らの手当をしてた。だけど、二十年の五月にドイツが降伏すると、日本は、このドイツ人のお医者さんを家族ぐるみ軟禁した。ちょっと日本人の嫌なとこを見た気がした。

「あ、この話って『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で、はるかのお母さんがエッセーにした内容だと思うわ」

 ゆかりが、そう言ってアマゾンの書籍をチェック。

「840円……中古だと1円」

 お昼食べて集合したら、みんなで港の見える丘公園に行った。   

 螺旋階段付きの歩道橋がある。ここに来るのはちょっとしたハイキングだったけど、着いたらロケーションはバッチリやった。

「ここは、夜景がすばらしい」

 ガンダムが短い解説。

「ちょっと前までは、ここの手すりに愛のあかしに鍵かけるのが流行った。今は、向こうに専用の鍵かけがあるからな。マナーは守らなくっちゃならない」

「先生、なにか思い出あるんじゃないですか?」

 美枝が言う前に、あたしが聞いてやった。

「ああ、カミサン口説いたんがここだ」

「ウワー!」と、三人娘。

 いつか関根先輩と来てみたいと思ったぞ。

 

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明神男坂のぼりたい・54〔ミスドの誓い団子の迷い〕

2022-01-27 08:39:05 | 小説6

54〔ミスドの誓い団子の迷い〕 

       


 連休初日、図書館に行った。

 千代田区の図書館は三つあるんだけども、それとは別にまちかど図書館というのがある。学校の図書館と併設になっていて、規模は小さいんだけど利用しやすい。蔵書になくっても、他の大きい図書館から取り寄せてもらえるので、子どものころから利用している。

 この連休は、特別に出かける予定もなかったから、図書館で本を借りることにしたんだ。ま、タダで借りられるし、なんか飛び込みで予定入ったら、それはそれ。

 で、思いもしなかったものに遭遇してしまった。

 本ではなくて。

 田辺美保……あたしの恋敵。気がついたのは向こうの方から。


「あ、明日香じゃん」

 新刊書のコーナー見ていたら、声がかかった。

 美保先輩は、美人でスタイルもよくってファッションの感覚も良くって、セミロングの髪をフワーっとさせて、ナニゲニ掻き上げると、いい匂いがして、同性のあたしでも、クラっとくる。

「本借りにきたの?」
「う、うん。久々に」
「いっしょね。この連休特に予定ないから」

 同じようなことを言う。

「この本面白いよ。ちょうど返すとこ、あんた借りてみない?」

 差し出された本のタイトルは『ループ少女』

「ちょっとホラーなんだけど、始業式に教室から講堂に行く途中で、気を失って、気がついたら石で囲まれた部屋で寝かされてて、ドアに張り紙。数式が書いてあって。それが謎でね、それができたら……アハハ、解説したらネタバレしちゃうよね。ま、よかったら借りてみて」

 美保先輩のお勧めが面白いこともあったけど、あたしは、どこかで美保先輩とは決着つけなくっちゃと思ってたから『ループ少女』と、あと二冊借りた。

「ちょっと話そうか」

 カウンターで手続き終わったら、意外なほどの近さで美保先輩が言う。なんのテライも敵愾心もない顔だったので付いてて行く。

「あ、こんなところに神社」

 もうちょっとで本郷通というところで小さな神社に出くわす。

「知らなかった?」

「あ、うん。ここいらは図書館の他には来ないから」

 なんせ、神田明神の足元に住んでる。神社というと、もう神田明神と同義で、他の神社に寄ることってめったにない。

 それに、生活圏からも微妙に外れてるしね。

 ガラガラ振って手を合わせる。

「……なんの、お願いしたの?」
「なるようになりますように……」
「アハ、へんなお願いね(^o^)」

 ちょっとバカにされたような気がした。だけど美保先輩の顔には、相変わらずクッタクがない。

「あたしがフラレても、先輩が……その」
「フラレても?」
「ええ、まあ……だれも傷つきませんように」
「……ちょっと虫がよすぎるなあ」
「あ、すんません」
「さっきの本ね。扉は無数にあってね。生徒も無数に居てるの。で、数式はA-B=1……つまり、みんなで殺し合いやって、最後の一人になれたら助かるいう話」
「なんか、バトルロワイヤルですね」
「結末は意外だけど、言わないね。ただ、だれも傷つかないのは、無理だと思う。明日香、自分が学にフラレて平気でおれる?」
「分からないけど……だけど、美保先輩だったら負けても納得はいくと思います」
「ありがと。だけど、それは明日香の『負けてもともと』と言う弱気からだと思うよ。傷つくの覚悟でかかっておいで」
「うん……お神籤ひきませんか?」
「ようし、いいお神籤引いたほうが、マクドかミスド奢る。これでどう!?」
「セットメニュー除外言うことで!」

 で、引いてみたら、二人仲良く中吉。ワリカンでミスドに行った。

「学に夜這いかけたんだって?」
「え、知ってるんですか!?」
「学は、言ってないよ。あのときたまたまチャリで近く通ったから。正直、あの状況だけでは確信もてなかったけど、今の返事でビンゴ」
「あ、あれは(さつきのせいとは言えない)……」
「あれは未遂だった?」
「う、うん……」
「だよね。だけど、いいライバルだと思った。あたしも諦めたわけやないから、まあ、せいぜいがんばろっか」
「うん!」
「いい返事。ついでに言っとくけど、この連休は学との予定は無し。あいつも悩んでる。この連休はそっとしとこ。抜け駆けなしね。ほれ、指切り」

「ハ、ハイ」

 明るく指切り。

 どんな結果になっても、美保先輩とは、いい友達でいたいと思った。

 

 ちょっと美保先輩のペースに流された? いい友だちでいたいなんて?

 

 帰り道、一人で歩いていると、微妙に『してやられた感』に攻め苛まれる。

 感覚的には二三歩リードした感じでいたのに、なんだか五分五分に引き戻された感じ。

 ううん、美保先輩の方が、勢いとしてリードしてる。

 それに、よその神社でお願いなんかして。なんだか、神田明神さまにも浮気したみたいな。

 久々に、お団子を買って帰る。

「あら、元気ないわねえ」

 おばちゃんに顔色よまれて「ううん、なんでも(^_^;)」と、両手をワイパーにしたら三個入りのをオマケしてくれた。

 バイト募集の張り紙に気を引かれるけど、こんな時の決心は後悔するかもと、ため息ついて店を後にする。

 ゲン直しに鳥居を潜って、二礼二拍手一礼。

 お団子を寄進。そんな衝動が湧いてきたけど、大きい方でも六個入り。

 それに、時々、お賽銭は入れてるけど、寄進なんて大仰なことはしたことがない。

 

 すると、巫女さんが目に留まった。

 

 ちょうど、掃き掃除が終わって、社務所に戻るところ。

「あら、明日香ちゃん」

「あの、よかったら食べてください。おまけにもらったからおすそ分け」

「あら、いいの?」

「はい、いつも笑顔もらってますから」

 あ、なんか、気障な言い回し。

「ありがとう、ちょうど当番三人だから、みんなでいただくわね(^▽^)」

「ありがとうございます」

「ううん、こちらこそ」

 巫女さんは、社務所に入る時に、もう一度笑顔を向けてくれる。

 その、自然な心遣いが嬉しくって、ちょっと涙ぐんでしまった。

 

「お、団子ではないか!?」

 

 巫女さんよりずっと偉いはずのさつきは、団子を見るなり、断りもなくパクつく。

「明日香も食べろよ。神さまといっしょに食べるって、目出度いことなんだぞ」

「う、うん」

 こいつは将門さまの娘ではあるけど、神さまという感じは丸でない。

「だんご屋でバイト募集してるんだな」

「なんで、知ってんの?」

「明日香の顔に書いてある」

「え?」

「いま消えた……いろいろ悩ましい年ごろだよなあ」

「あ、ちょ、それ四つ目!」

「グズグズしてると、全部食っちゃうぞ」

 食われてたまるか!

 慌てて、もう一個口に入れると喉が詰まって死にそうになった。

 

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やくもあやかし物語・121『アキバ子』

2022-01-26 15:04:21 | ライトノベルセレクト

やく物語・121

『アキバ子』 

 

 

 こっち こっちこっち

 

 メイド将軍に阻まれ、途方に暮れていると、どこからともなく呼ぶ声がする。

「やくもさま、足もとです」

 赤メイドが、口も動かさずに呟く。

「足もと?」

 わたしも、口を動かさずに聞いてみる。

「マンホールです」

「「足もとの」」

 アカ・アオの声が揃って、ソロっとマンホールを視野の端っこに捉える。

「あ、わたしみたいなのが居る!?」

 ポケットから首だけ出した御息所が小さく驚く。

 マンホールの蓋が少しズレていて、御息所と同じくらいの女の子が口の形で『こっちこっち』と言っている。

 え、マンホールの中?

—— はい、マンホールです ――

「これは、裏アキバからのお誘いのようです」

「ラッキーです。裏アキバは、まだお味方のようです」

 アカクロメイドは、そう決めつけると、カゴをマンホールの上に据えて「「お乗りください」」とカゴの簾を上げる。

「う、うん」

 言われるままに乗ろうとしたら、カゴの底が開いていて、その下のマンホールも開いている。

「カゴに乗るふりをして、マンホールに入ってこいってことよ」

 御息所が分析。

「よいしょっと」

 カゴの底経由でマンホールに入ると、ガシャリと音がして、マンホールの蓋がしめられる。

 

 あ、真っ暗!

 

 ちょっとビックリして、よろける。

「おっと」

 声が掛かったかと思うと、誰かが支えてくれる。

 あれ? 御息所もお迎えの子も、1/12くらいの大きさ。わたしを抱きとめるなんてできない。

「ちょっとだけ、お手伝い」

「え?」

 ちょうど非常灯のようなものが点いて、その姿が見える。

「「あ、メイドお化け」」

 御息所と声が揃う。

「説明は後よ、ついて来て」

 足元のお誘いに目配せすると、地下下水道……というにはキレイで、赤じゅうたんが敷かれた地下通路。

 壁や天井も、チェックや水玉や花柄や縦縞、横縞のパッチワーク。

「この柄って……」

「考えない方がいい」

「う、うん」

 地下通路を抜けると、アキバの駅前広場……なんだけど、アニメの背景画のように、よく言うときれい、あからさまに言うと実在感が無い。

「ここが裏アキバ」

「う、うん」

 メイドお化けの短い説明に頷くしかないんだけど、ちっとも釈然としない。

「二丁目でもね、やくもに任せっきりではあんまりだって声があがってね、ま、それで、わたしが、ちょびっとだけ手伝うことになったわけ」

「嬉しい、手伝ってくれるの!?」

 将門さまはあんなだし、アカアオメイドともマンホールで別れてしまうし、正直なところ、どうしようかって思ってたところ。

「手伝うと言っても、この裏アキバに渡りを付けるところまでよ。あ、その子がね……」

「わたし、裏アキバの妖精でアキバ子と言います」

「空き箱?」

「いえ、アキバの子どもで、アキバ子です」

「あ、えと……」

 正直、1/12サイズでは心もとない。

「そのまま業魔と戦っては分が悪いのです。地上では業魔どもに姿を見られっぱなしですし、戦うにしても、御息所さまは、お小さいまま……」

「あんたに言われたかない」

「アハハ、ですよね。でも非力なのは事実でして、万全の力を発揮していただくにはアキバの夢の力を纏っていただかなければなりません」

「アキバの夢?」

「説明していては時間がかかります。わたしの中にお入りください。エイ!」

 そう言うと、アキバ子はグルンとでんぐり返し。

 すると、アキバ子は本当の空き箱になってしまった。

 驚いていると、空き箱の蓋が開いて、中から小さなハートがホワホワ光りながら浮かび上がってきた。

「さあ、そのハートを見つめて!」

「う、うん」

 メイドお化けに言われて、ハートを見つめていると、猛烈な眠気に襲われる。

「じゃ、活躍のほどは二丁目のみんなで観てるから、がんばってねえ(^o^;)!」

 あ、なんだか無責任、なんか言ってやらなきゃ……思っているうちに意識が無くなって……いった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 メイド将軍 アキバ子

 

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明神男坂のぼりたい・53〔ラッキーAMY!〕

2022-01-26 07:10:47 | 小説6

53〔ラッキーAMY!〕 

      

 


 今日はガンダム(岩田武先生)の気まぐれで席替えをやった。

 四月もこの時期になると、年度初めのルーチンは、たいがい終わってしまってる。だけど、木曜は定例のロングホ-ムルーム。ただボサーっとしてるワケにはいかないんだ。


「本当は中間テストまでは出席番号順だけど、もう二年生だし、適当に慣れてきただろうから、席替えするか?」

 

 ウワアアアア(((^O^)))!

 みんなから歓声があがった。


 クラスというのは、それ自体あんまりおもしろいことはない。

 授業やら学校行事の便宜のために分けられてるのは、小中高と八年目になったら、よく分かる。

 お仲間の基本は、自然にできた仲良しグループだよ。

 だいたいクラスの中でできるけど、たまにクラスを超えてグループになることもある。そして、90%以上は男女別。いくら男女平等、機会均等だといっても、別々が自然だと思う。何年か前に小学校で男女混合名簿だったけど、なんにも変わらない。やっぱり男女に別れてしまう。先生の仕事も複雑になるだけで、二年ほどで廃止になった。

「目がわるいとか、勉強したいから前の方に来たいやつは、手をあげろ」

 これは先生の担任としての「配慮はした」いうアリバイ。

 ガンダムは、この三月までは生指部長だったから、そのへんにぬかりはない。

 好きこのんで前に行きたいヤツは……いた。近藤と芹沢という女子が手をあげた。単に目が悪いのか、なんか人間関係かは分からないけど、ガンダムは、この二人チェックしただろうなあ。

 席替えは、最初の十人まではクイズで決める。

「校長先生の名前は?」

 数人の手が上がって、まだ名前を憶えていない男子が答える。

「○○○○先生!」

 一瞬の間があって、みんなが笑う

 それは、不当人事やら恣意的な学校運営やって、三月でクビになった前校長の名前。

 ちょっと気まずい間が開く。

「ご近所問題、江戸の総鎮守と言われる神社は?」

「ハイ、神田明神です!」

 もちろん答えたのはあたし! 他にも二三人は分かってたようで、残念そう。

「じゃ、神田明神の御祭神は?」

 続いて答える。

「ハイ、大己貴(オオナムチ) 少彦名(スクナヒコナ) 平将門です!」

「え、あ、そうだな」

 ガンダムは大己貴命と少彦名命は知らなかったみたい。

―― うちの親父目立ちすぎ ――

 五月の声がしたような気がした。           

「今のAKBのセンターは?」

 くだけた質問もある。

「うちの担任はイケメンランク十段階評価で、何番目か?」

 これは、オッサンふざけすぎ。ガンダムはイケメンいうカテゴリーにもともと入らない。でも無理矢理一番と言わせて、クイズを締めくくった。あとは黒板にあみだくじ書いて決めた。


「じゃあ、自分の机と椅子持って移動、始め!」

 三十三人の生徒が、一斉に机と椅子を持って八メートル四方の教室を移動。これだけで五分は潰れる。そして机動かすときの積極性なんかをガンダムは見てる。単に時間消化だけじゃなくって、見るべきは見てる。やっぱり、元生指部長、やることに無駄はない。

 この席替えで、前が伊藤ゆかり、後ろが中尾美枝になった。

「よろしくね、明日香」

 美枝が気楽に声かけてきた。

 あんまり話したことはないけど、気楽なオネーチャン風。元気な子で、声も大きい。いつもニコニコしてるけど、言いたいことはハッキリ言う。前のクラスでイジメやってた男子を凹ました武勇伝のウワサ。

 前の伊藤さんは、落ち着いた優等生。で、この二人は一年の時同じクラスで、性格ぜんぜんちゃうのに仲がいい。
 積極的な美枝が、気遣って間に入ったあたしに声かけてくれたのが嬉しい。

「あたしたち、チームAMYいうことにしよっか?」

「AMY?」

「ほら、明日香、美枝、ゆかり」

「あ、頭文字?」

 美枝の提案で即決。

「あ、でも、あたしがトップ?」

「あ、他の並べ方だと発音できないし」

「YMA AYM MAY」

「MAYはメイって読めるかな?」

「でも、エイミイって元気っぽいじゃない?」

 ゆかりがフォローしてなるほどという気がする。

「神田明神も、将門さんがイチオシで有名だったりするし」

「あ、だったらわたし(ゆかり)がトップなの?」

「ハハ、ちゃっかりあたし(美枝)がセンターでもあるぞ(^_^;)」

 なんだか、調子よく決まってしまった。 

 

 放課後、食堂のジュースでエイミーの発足式。

 自販機のボタンを押すと、めったに出ない『当たり!』が出て、幸先がいい。

「「「ラッキー!」」」

 二個のジュースを食堂の湯呑に三等分。

「「「かんぱーーい!」」」

 湯呑をかたして、食堂を出る。

 初夏をを思わせる日差しが、ちょっぴり眩しかった!

 ここにきて二年生は、おもしろくなりそう。

 

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明神男坂のぼりたい・52〔喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ〕

2022-01-25 07:23:52 | 小説6

52〔喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ〕 

    


―― 僕も、明日香のことは好きだ ――

 ドッキン!

 それが、まず目に飛び込んできて、思わずお手玉になってスマホを落っことす。

 パサ

 ベッドの上なので、スマホは無事なんだけど、明日香の心は無事じゃない。

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ

 あたしの中に勝手に住み込んだ、山川の詳説日本史でもたった一回しか出てこない将門さまの娘が、あたしの関根先輩への煮え切らない思いに業を煮やした。

 そして、こないだ神田川のテラスで、あたしに「好き」って告白させた。

 それでも、それ以上なにもできないあたしにに苛立ったのか、意地悪か、善意か、よく分からないけど、あたしが寝ているうちに先輩の番号調べて、あたしの声で電話した。

 で、その返事がメールで返ってきた。

 心を落ち着けて続きを読んだ。

―― 保育所のころから好きだったけど、明日香は他にも男の友達がいて、俺のことは眼中に無いと思ってた。こないだのことも、あとのシラっとした態度でイチビリかと思った。夕べのことで、明日香の気持ちは分かったよ。正直、今は美保もいる。煮え切らん男ですまん。でも、夕べみたいなことはダメだと思うぞ。学 ――

 心臓がバックンバックン言うてる……ん……ちょっとひっかかる?

 夕べみたいなこと……電話以外になにかしたか? 

 電話の履歴を調べた。

 美保先輩と二人の電話の履歴はあったけど、関根先輩のは無かった。で、メールの送信履歴を見る。

―― 今から、実行に移します。明日香 ――

 え……な、なにを実行に移したんだ!?

 そう思うと、ジャージ姿の自分が浮かんできた。どうやら夕べの記憶(あたしの知らない)の再現みたい……。


 時間は夜の十二時を回ってる。


 素足にサンダル。自転車漕いで……行った先は、関根先輩の家……自転車を降りた明日香は、風呂場から聞こえる関根先輩の気配を感じてる。先輩がお風呂! だけど、覗きにはいかなかった。方角は、関根先輩の部屋。その窓の下。

 明日香は、そーっと窓を開けると、先輩の部屋に忍び込んだ。で……。

 あろうことか、先輩のベッドに潜り込んでしまった!

 先輩が、鼻歌歌いながら部屋に戻ってきた。

「先輩……」
「え……!?」
「ここ、ここ」

 あたしは布団をめくって、姿を現した。

「あ、明日香。なにしてんだ、こんなとこで!?」
「実行に移したんです……あたしもお風呂あがったとこです」

 ゲ、ジャージの下は、何も身につけてないことに気が付いた! そして、おもむろにジャージの前を開けていく。先輩の目が、明日香の胸に釘付けになる!

 それから、明日香の手は、ジャージの下にかかった。

「明日香! おまえ、なに考えて!」
「言ったでしょ。明日香の最初にあげるのは、先輩だって」
「声が大きい……!」

 それから、先輩は、あたしのジャージの前を閉めると、お姫さまダッコ!

 ……で、窓から外に放り出されてしまった。

 なんちゅうことをしたんだ!

 

「好きだったら、あたりまえだろ。この時代の男はしんきくさいぞ。好きなくせに夜這いの一つもやらないでさ。だから明日香の方から仕掛けていったのよ」

「さつきの時代とはちがう!」

「だから、夕べは大人しく帰ってきたぞ。関根、ほんとうにビビってたからな。ほんとに、お前も関根も分からんわ。好きなら突撃だろ、好きな女が二人いてもいいだろ。付き合って、相性のいいほうといっしょになったらいいんだ。そうではないか!?」

「グヌヌ……」

「しかし、喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ(n*´ω`*n)」
「伝え過ぎ!」
「アハハ、まあ、そう、怒るな。お、そろそろ学校いく時間ではないのか?」
「あ、もう7時45分!」

 ぶったまげて、制服に着替えようと思って、パジャマ代わりのジャージを脱いだ……気がついた。夕べの朝だから、パンツも穿いてなかった……。

 

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せやさかい・273『出願』

2022-01-24 16:16:58 | ノベル

・273

『出願』さくら     

 

 

 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

 昨日までの寒さが、ちょびっとだけ緩んだ昼下がり、あたしは大和川を超えてるとこ。

 

 いつやったか、言うたよね。

 堺の中学生が大和川を超えるのは、ちょっとだけ特別なことやて。

 ミナミに遊びに行くか(ミナミは堺からは北やねんけど、こういう場合でも『ミナミに行く』という)、親類の用事とか、部活の遠征とか。まあ、年に数回しかないやろという特別なことのため。

 国語やったか社会やったかで習った『ハレの日のハレの行い』なんですわ。

 

 で、今日は、一生に何回もないハレ中のハレ!

 

 入学試験の願書を、留美ちゃんと二人、聖真理愛(せいまりあ)学院に持っていくとこデス!

「あ、それってソフィアの!?」

「あ、せやね。ソフィアが『デス』って付けるのんて、こんな感じやってんやろねえ(^▽^)」

「アハハ、頼子さんのガードって、気合い入れなきゃできないもんね」

「あ、頼子さんに会うたら、言うたろお」

「あ、いや、あくまでソフィアの受け止め方だから」

「アハハ、分かってるよ。とにかく、新鮮なドキドキ感やねえ」

「ドキドキはいいんだけども、子どもみたいに窓向いて座るのは……」

「ええやんか、お客さん少ないねんし!」

 子どもっぽいことは分かってる。

 せやけど、この、ハレの喜びをかみしめたいわけですよ。

「ねえ、真理愛受けるのん、うちらだけかなあ?」

「どうだろ……」

「せやかて、真理愛のセット(願書とか内申書とか)貰って、電車に乗ってるのん、うちらだけやし」

「噂だけど、当落線上にいる子は出願状況見て、ギリギリまで様子見するって言うよ」

「え、そうなん!?」

「あ、噂だから(^_^;)」

「いや、きっとそうやし。うん、そうや。せやさかい私学は出願期間が長いんや!」

 うちは、もう余裕のよっちゃんいう気になってきた!

「あ、あたしたち専願だしぃ」

「あ、そうか、専願や! うちらは真理愛命デス!」

「こ、声大きいよ(;'∀')!」

「あ、ごめん(^_^;)」

 

 さすがに駅に着いてからは大人しい……せやかて、他の学校から願書持ってきた子ぉらといっしょになってるさかいね。

「みんな賢そうに見えるねえ……」

「そりゃ、出願だもん。さくらだって、ブラウスの第一ボタンまで停まってるし」

「え、そら、出願……て、せやねえ」

 

 あっさり出願は終わって、正門に向かってると、留美ちゃんが袖を引く。

「ちょ、あれ、頼子さんだよ」

「え?」

 見上げると、三階の廊下で頼子さんが女生徒と話してる。頼子さんの後ろにはソフィアがポーカーフェイス。

 なにやら真剣に話してるご様子で、あたしは、うっかり上げかけた手ぇを下ろした。

「あ、あの人……」

 留美ちゃんは、頼子さんと喋っている女生徒に注目。

「どないかした?」

「あ、いや……」

 すると、ソフィアが半身の姿勢のままうちらを見た。

 見たんやけど――今は声を掛けないで――というオーラを感じた。

 口に出さんでも、そういう意思が伝わるのは、付き合いが長いから?

「ソフィアのテレパシーだよ、いくよ」

「あ、ちょ、なんか面白そうやのにい」

 留美ちゃんは、そんなうちの野次馬根性無視して、ズンズンと歩いて行った。

 

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明神男坂のぼりたい・51〔てーへんだ!〕

2022-01-24 06:00:19 | 小説6

51〔てーへんだ!〕 

        

 

 好きなフレーズに『てーへんだ!』がある。

 しゃくばあ(石神井のお祖母ちゃん)が時代劇が好きで、行くと、たいてい『銭形平次』とか『暴れん坊将軍』とかを観ていた。『銭形平次』だったと思うんだけど、手下の岡っ引きが「てーへんだ親分!」とやってくる。あれが好きだった。真似すると、みんな「明日香はひょうきんだねえ(^▽^)」と喜んでくれたしね。


 今日は、公式と非公式の「てーへんだ!」があった。

 高校二年にもなると、世間の手前「てーへんだ!」と言わなくちゃならないことと、心では、そう思っていも口に出して「てーへんだ!」と言ってはいけないことの区別ぐらいはつく。

 それが、一日に二つとも起こってしまった。珍しい一日だ。

 世間の手前は、新しい校長先生が来たこと。

 世間には、一回聞いたら忘れられない名前がある。例えば剛力 彩芽。苗字と名前のギャップが大きいんで、この人はテレビで一発で覚えた。これが、特別であるのは、たいていの人の名前は一発では覚えられないという常識的な話。

 新しい校長先生は、都教委の指導主事やってた人。

 指導主事と言うだけで、うちはガックリ。何度か触れたけど、うちの両親は元学校の先生。だから、よその子よりは、学校のことに詳しい。

 指導主事というのは、学校現場では使いもんにはならない先生がなるもんらしい。で、校長先生の半分は、教師として生徒やら保護者と協調できない人がなってる。新しい校長先生は、その両方が被ってる。だから、着任の挨拶もろくに聞いていない。もっとも、本人が前の校長さん以上に話し下手いうこともあるけど。

「どうですか、新しい校長先生がこられて?」

 学校の帰りに、テレビ局のオネエチャンに掴まってしまった。

「(溜め息)……今度のことは、生徒には大変ショックです。だから新しい校長先生に指導力を発揮してもらって、一日も早く学校を正常化してもらいたいと期待してます」

 と、毒にも薬にもならない、いいかげんな答をしておいた。なんせ、その時には、新校長の名前も忘れて、顔の印象もおぼろ。だから、最初の溜め息は――どうしよう(;'∀')?――というだけの間。

 それが、テレビ局には「傷ついた女子高生の苦悩」みたいに写ったみたいで、他の生徒にもインタビューしてたけど、ニュースで流れたのはあたしへのインタビュー。なんと云っても、こないだまでは演劇部だったから、悩める女子高生一般なんかチョロイ。

『学校の主人公であるべき生徒たちは、このように傷つき混乱しています。民間人校長のありようが問われ、なによりも一日も早い正常な学校生活の復活が望まれます』

 と、レポーターのオネエチャンは締めくくってた。

 どーでもいいニュースだったけど、学校の主人公が生徒だというのには引っかかった。主人公だなんて感じたことないしね。

 学校いうところは上意下達。下々の生徒風情が主人公だなんて、日本の平和は憲法9条のおかげだというくらいに非現実的。マスとしての『生徒』は主人公なのかもしれないけど、一人一人の生徒は主人公としては扱われない。演劇日時代のあたしとか、ほら……佐渡くんとかね。

 

 もう一個の「てーへんだ!」は、関根先輩からメールがきたことーーーー(# ゚Д゚#)!!

 

 だって、あたし、先輩の番号知らないし、先輩もあたしの番号は知らないはず……それが、どうして!?

 犯人は……さつきらしい。

 こないだ、さつきのタクラミで、関根先輩に告白させられてしまった。だけど、さつきは、スマホなんちゃらいうもんは知らないから、番号の交換はしなかった。しかし、あたしに覚えがないいうことは、あたしの中に居るさつきしか考えられない。

「やっぱり、さつき?」
「ああ、日々学習してるからな。明日香が寝てる間に、チョイチョイとやっといた。三人ほど電話したら、すぐに番号分かったぞ」
「さ、三人て、だれ!? なに言ったの!?」
「人の名前って、すぐ忘れからね。最後の一人だけ覚えてるかな」
「だ、誰やのん!!?」
「田辺美保。こいつは明日香の恋敵でもあるみたいだから。牽制の意味もこめて電話しといたぞ」
「で、なに喋ったの……いや、なに喋らせたのよ、あたしに!?」
「忘れてしまったあ。まあ、いいではないか。これで二三歩は関根君に近づいたぞ。アハハハ……」

 豪快な笑いだけ残してさつきは、あたしの奥に潜ってしまいやがった。

 そして。

 怖いから、なかなか関根先輩のメールは開けなかった……。

 

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銀河太平記・090『西ノ島銀行ですか?』

2022-01-23 11:07:06 | 小説4

・090

『西ノ島銀行ですか?』 加藤 恵    

 

 

『『『買った方が早い』』』

 人が言うのならともかく、本人たちが言うのは困った。

 

 パチパチたちのオーバーホールをやっているんだけども、あちこちガタが来ていて、本格的な修理をするとなると、けっこうな出費になる。

『西ノ島は豊かになったんだから、新型のを買って、作業効率をあげるべきだよ』

『さよう、オマツの新型は作業速度も積載量も五割り増しでござる』

『ニツビシの新型は、五体までに分裂して局所的な作業でもロスが無いアルよ。パチパチは、どう変態しても、一つの作業機械にしか変態でき無いアル』

『来月のバージョンアップでは、作業体同士の結合も可能になって、より大きな作業機械にもなれるようだし』

『『『ここは買い替えるべきだ』』』

 またも声が揃った。

「でも、買い換えたら、あんたたち廃棄だよ」

『うん』

『当たり前でござる』

『わたしも同志も道具ある。道具はダメになったら廃棄ある』

『『『廃棄、廃棄』』』

「もーーー」

 

 トントン

 

 言い返そうと思ったらラボのドカがノックされる。

 モニターで確かめるまでもない、この穏やかなノックは社長だ。

「どうぞ、ロックはしてませんから」

「どうですか、パチパチたちの仕上がり具合は?」

「それが……」

 いきさつを説明すると、社長は穏やかに耳を傾けてくれる。

 聞いている間も「なるほど……」「そうですねえ……」と相槌を打って、時々、時代劇でしか見られないような手帳を出してメモっている。

「あ、気になるかなあ、メモを取るの?」

「あ、いえ、手書きのメモって、とてもゆかしくて」

「むかし、東大阪OS基地で世話になっていたことがあって、そのとき身に着いた習慣なんです」

「東大阪OS基地……金剛山にあったやつですね……あ、たしか天狗党が」

「ハハハ、昔の話ですよ。気にしないで、この時代に、なにかを成し遂げようとしたら、そういうこともあります」

「は、はい」

『東大阪OS基地?』

『なにアルか?』

『検索しても出てこぬでござる』

「さあ、どうしてだろうねえ」

 社長は、分かっていてとぼけてる。

 天狗党と関りを疑われるものは、普通のやり方では検索できない。わたしに気を遣ってくれているんだ。

「それで、話なんだけど」

「はい」

「パチパチたちも聞いておくれ」

『『『ラジャー』』』

「自動作業機械を買い替えようと思うんだ」

「え!?」

『『『それがいい!』』』

「あ、ちょっと社長」

「それについて、パチパチたちには資金管理をしてもらってはと思うんだけど」

「あ……!」

「さすがは、加藤恵、呑み込みが早いね」

 

 そうだ、そうなんだ。

 パチパチは、あまりに旧式なため、メーカーはネットサービスをとっくに終えている。

 つまり、オンラインでの繋がりは、大昔のキッズスマホ程度でしかない。

 つまり、オフライン同様で、並列化も、この西ノ島程度のローカルでしかできない。

 つまり、外部からの侵入に強く、資金と、その情報の管理にはもってこいなのだ。

「このラボに隣接して銀行を建ててみようと思うんだ。村とフートンにもね」

「西ノ島銀行ですか?」

「あ、それいいね。おとぎ話めいて、僕の好みだ! うん、村とフートンにも支店を作ってもらおう!」

「それをパチパチたちに?」

「そうだ、いっそパチパチのベースをオートマ体にしてはどうだろ? 作業体は、銀行と周辺の警備係り兼営繕係りにすればいい。ねえ、どうだろ?」

 ガチャガチャガチャ ドスンドスン

「もお、作業体で興奮するんじゃない、ラボの床が抜ける!」

「じゃあ、銀行設立準備の一つということで、オートマ体を大幅に改良することにして、作業体はモスボール……うん、その方向でやろう! さっそく、村長と主席にも話をしよう!」

 社長は、そのままラボを飛び出していった。

 わたしもパチパチも考えをまとめるダシに使われたようだ(^_^;)

 

 ちょっと忙しくなりそう。

 そして、それ以上に面白くなりそうな予感がしてきた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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