大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・まどか乃木坂学院高校演劇部物語・14『第三章・3』

2017-10-31 17:13:08 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・14   

 
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。


『第三章 痛恨のコンチクショウ・3』


「やられたな……」

 フェリペ坂を下りながら、峰岸先輩が言った。


「え!?」
「声がでかい」
「すみません」
「まどか、いま考え事してただろう?」
「いいえ、べつに……」
「彼氏のこととか……」
「ほんと!?」
 夏鈴、おまえは入ってくんなよな!
「いま、目が逃げただろう。図星の証拠」

 そう、わたしはヤツのことを考えていた。ここは、リハの日、ちょうどコスモスをアクシデントとは言え、手折ったところ。
 で、幕間交流のとき見かけた姿……昼間なら赤く染まった頬を見られたところだろ。
 ダメダメ、表情に出ちゃう。わたしはサリゲに話題をもどした。

「で、なにをやられたんですか?」
「サリゲに話題替えたな」
「そんなことないです!」
「ハハ……あの高橋って審査員は食わせ物だよ」
「え?」
 柚木先生はじめ、周りにいたものが声をあげた。
「あの審査基準も、お茶でムセたのも、あの人の手さ」
「どういうこと、峰岸くん?」
 柚木先生が聞いた。
「審査基準は、一見論理的な目くらましです。講評も……」
「熱心で丁寧だったじゃない」
「演技ですよ。アドリブだったから、ときどき目が逃げてました」
「そっかな……審査基準のとこなんか、わたしたちのことしっかり見てましたよ。わたし目があっちゃったもん」
 夏鈴が口をとがらせた。
「そこが役者、見せ場はちゃんと心得ているよ。あの、お茶でムセたのも演出。あれでいっぺんに空気が和んじゃった」
「そうなの……あ、マリ先生に結果伝えてない」
 柚木先生が携帯を出した。
「あ、まだだったんですか!?」
「ええ、ついフェリペの先生と話し込んじゃって」
「じゃ、ぼくが伝えます。今の話聞いちゃったら話に色がついちゃいますから」
「そうね……わたし怒っちゃってるもんね」
「じゃ、先に行ってください。みんなの声入らない方がいいですから」
「お願いね、改札の前で待ってるわね」
 わたしたちは先輩を残して坂を下り始めた。街灯に照らされて、わたしたちの影が長く伸びていく。夏鈴がつまらなさそうに賞状の入った筒を放り上げた。
「夏鈴、賞状で遊ぶんじゃないわよ!」
 聞こえないふりをして、夏鈴がさらに高く筒を放り上げた。
 賞状の筒は、三日月の欠けたところを補うようにくるりと夜空に回転した。そんなことをしたら三日月が満月になっちゃって、まどかはオオカミ女になっちゃうぞ。

 嗚呼(ああ)痛恨の……コンチクショウ!

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・105「―昼休みに体育館集合 敷島―」

2017-10-31 14:09:33 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
105『―昼休みに体育館集合 敷島―』
              




 ――昼休みに体育館集合 敷島――

 敷島? あ、ああ。

 一瞬誰だか分からなかったが、敷島というのは八重桜のリアルネームだと思い至る。

 ようは八重桜のメールで演劇部全員が体育館に集められた。

 体育館に行ってみると、演劇部の他に生徒会執行部と、文化祭で『夕鶴』のアシスタントをしてくれるボランティアの面々が集まっていた。
「何事なの?」
 うっかり素の自分で聞いてしまった。
 演劇部と執行部の瀬戸内さんを除いて目線を避けられる。
 登下校は素の自分を出さないように心掛けているが、校内では気を付けていないとこうなる。
 なんたって二十三歳の三年生。あたりまえの三年生よりも五歳も年上。自分では意識してないけど面構えも目つきも尋常ではない……らしい。
「詳細は分からないけど、どうもマスコミの取材があるらしいですよ」
 美晴が自然体で答えてくれる。演劇部に答えさせたら、なんだか演劇部自身がわたし色に見えてしまうし、生徒会の会長なんかにオズオズ答えられたら、わたしはもう空堀高校に巣くう化け物のように思われてしまう。
 そのへんの機微を心得ているのか、しぜんな美晴の言い方は、ちょっと垣根を低くしてくれた。

 先生来ましたよーー!

 体育館のギャラリーから声がする。
 どうやらギャラリーの窓から本館を見張る斥候を出していたようだ。
 パタパタパタと斥候が下りてきて、男子の何人かが外出しのシャツをズボンの中にしまい込む。ふだんだらしのない子たちなんで、かえって取って付けたみたい。
「ほら、シャツがよれてる。あーー分かんないかなあ、こうだよ!」
 一瞬でベルトを外してズボンをくつろげ、きちんとシャツを収めてやる。
「え、あ、先輩(#´ω`#)」
「ナヨってすんじゃないよ」
「そ、そやかて(#´0`#)」
「あーーーそういうのヤメ! それから、わたしのこと先輩なんて呼んじゃダメ!」
 ダメ押しして、登下校モードに切り替える。

 なんとかカッコが付いたところでA新聞と思しきクルーを従えて八重桜がやってきた。

「やあみんな、A新聞の人たちが、今度の『夕鶴』の取り組みの取材に見えたわよ。硬くならずに自然にね」
 演劇部は程よいよそ行きの表情、ほかは、ま、それなりに。
「A新聞文化部の望月です、すてきな取り組みだそうで、お話を伺いにきました」
 そのまんまリベラル政党のマスコットになれそうな女性記者が選挙ポスターのような笑みを振りまく。
「あ、そちらのお二人が交換留学生でキャストをやられる……」
 ビジュアル的に目立つミッキーとミリーのインタビューから始める。
 こういうときのアメリカ人というのはプレゼンテーション能力が高い。
 二人とも日本人の倍ほど表情筋を動かして、すばらしい機会に恵まれたことを英語と日本語で喋りまくった。
「お芝居も楽しみですけど、楽しそうにプレゼンするのは見ていても気持ちいいですね」
「ハハ、アメリカは他民族の国ですから、しっかり表現しないと伝わらないからです。気持ちはほかのメンバーもいっしょですよ」
 さすがミリーはソツがない。
「ヤー、イッツ、アメイジング!」
 ミッキーは厚切りジェイソンを彷彿とさせるものがある。
 それから、話題は千歳に及んだ。やっぱ、脚の不自由な千歳は広告塔になるようだ。ほんとうは、そういう注目のされ方は嫌なんだろうけど、もともと性格のいい千歳はニコニコと、少し恥じらいながら答える。
「ほー、じゃ、このステージだといろいろ大変なんですね」
「ええ、そうなんです」

 八重桜の指示で、一昨日のステージを再現する。

 千歳はミッキーのお姫様ダッコで舞台に上がり、鬼ごっこではヒヤヒヤの車いす。
「ほかにもあるんですよ」
 八重桜は舞台の照明と音響についてもひとくさり。
「前からの灯りが乏しいので表情が出ません、音響は(パーーンと手を打った)こういう具合に音が吸い込まれたり拡散してしまう構造なので、ピンマイクが無いと後ろ三分の二は届きません」
「なるほど……」
「かくも、教育の現場では視聴覚教育の、それこそメインステージの整備は遅れているんです」

 なるほど、わたしらの『夕鶴』のPRよりも、ハコものである施設の不備を訴えたかったのかと、ちょっと感心した。

 今日は、この秋一番の冷え込み。
 取材が終わると、みんなトイレに急行したのだった。

 
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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3〈泉希着々と〉

2017-10-31 06:45:51 | 小説6
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・3
〈泉希着々と〉
        


「泉希ちゃん、このお金……」佐江が、やっと口を開いた。

「はい、お父さんの遺産です」
 この言葉に我に返った亮太が続けた。
「こ、こんなにあるのなら、もう一度遺産分けの話しなきゃならないだろ、母さん!」
「あ、ああ、そうだよ。遺産は妻と子で折半。子供は人数で頭割りのはずだわよ」

 5000万円の現金を目の前に、泉をあっさり亮の実子であることを認めてしまうハメになってしまった。

「残念ですけど、これは全てあたしのお金です」
「だって、法律じゃ……」
「お父さんは、宝くじでこれをくれたんです。これが当選証書です。当選の日付は8月30日。お父さんが亡くなって二週間後です。だから、あたしのです。嘘だと思ったらネットで調べても、弁護士さんに聞いてもらってもいいです。

 亮太がパソコンで調べてみたが、当選番号にも間違いはなく、法的にも、それは泉希のものであった。

 この子を大卒まで面倒をみても半分以上は手元に残る。今日子は瞬間で計算をして、あっさり呑み込んでしまった。
 泉希は、亮太が結婚するまで使っていた三階の6畳を使うことにした。机やベッドは亮太のが残っていたのでそのまま使うことにした。足りないものは三日ほどで、泉希が自分で揃えた。
「お母さん。あたし学校に行かなきゃ」
「今まで行っていた学校は?」
「遠いので辞めました。編入試験受けて別の学校にいかなきゃ!」

「申し分ありません。泉希さんは、これまでの編入試験で最高の点数でした。明後日で中間テストも終わるから、来週からでも来てください」

 都立谷町高校の教務主任はニコニコ顔で言ってくれ、担任の御手洗先生に引き渡した。
「御手洗先生って、ひょっとして、元子爵家の御手洗さんじゃありませんか?」
 御手洗素子先生は驚いた。初対面で「みたらい」と正確に読めるものもめったにいないのに、元子爵家であることなど、自分でも忘れかけていた。
「よく、そんなこと知ってたわね!?」
「先生の歳で「子」のつく名前は珍しいです。元皇族や華族の方は、今でも「子」を付けられることが多いですから。それに、曾祖母が御手洗子爵家で女中をしていました。」
「まあ、そうだったの、奇遇ね!」
 付き添いの今日子は、自分でも知らない義祖母のことを知っているだけでも驚いたが、物おじせずに、すぐに人間関係をつくってしまう泉希に驚いた。

 泉希は一週間ほどで町内の大人たちの大半と親しくなった。6人ほどいる子供たちとは、少し時間がかかった。今の子は、たとえ隣同士でも高校生になって越してきた者を容易には受け入れない。で、6人の子供たちも、それぞれに孤立していた。

 町内で一番年かさで問題児だったのは、4件となりの稲田瑞穂だった。泉希は、平仮名にしたら一字違いで、歳も同じ瑞穂に親近感を持ったが、越してきたあくる朝にぶつかっていた。
 早朝の4時半ぐらいに、原チャの爆音で目が覚め、玄関の前に出てみると、この瑞穂と目が合った。
「なんだ、てめえは?」
「あたし、雫石泉希。ここの娘よ」
「ん、そんなのいたっけ?」
「別居してた。昨日ここに越してきた」
「じゃ、あの玉無し亮太の妹か。あんたに玉がないのはあたりまえだけどね」
「もうちょっと期待したんだけどな、名前も似てるし。原チャにフルフェイスのメットてダサくね?」
「なんだと!?」
「大声ださないの、ご近所は、まだ寝てらっしゃるんだから」
「るせえんだよ!」
 出したパンチは虚しく空を打ち、瑞穂はたたらを踏んで跪くようにしゃがみこんでしまった。
「初対面でその挨拶はないでしょ。それに今の格好って、瑞穂があたしに土下座してるみたいに見えるわよ」
 瑞穂は、気づいて立ち上がった。完全に手玉に取られている。
「てめえ……」
「女の子らしくしようよ。ても瑞穂は口で分かる相手じゃないみたいだから、腕でカタつけようよ。準備期間あげるわ。十日後、そこの三角公園で。玉無し同士だけどタイマンね、小細工はなし」
「なんで十日も先なのさ!?」
「だって、学校あるでしょ。それに、今のパンチじゃ、あたしには届かない。少しは稽古しとくことね」

 そこに新聞配達のオジサンが来た「おはようございます」と言ってるうちに瑞穂の姿は消えてしまった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・29〔月曜はしょーもない〕

2017-10-31 06:29:25 | 小説・2

高安女子高生物語・29
〔月曜はしょーもない〕
        


 月曜はしょーもない。

 保育所で物心ついたころから、いつも思てた。
 しょーもないのは、学校がおもんないから。

 言わんでも分かってる?
 

 みんなもそうやねんね。うちは、このしょうーもない月曜を、大学を入れたら六年も辛抱せなあかん。
 え、働いたらもっと……ごもっとも。
 そのへん、うちの親は羨ましい。お父さんも、お母さんも早う退職して、このしょーもない月曜からは、とうに解放されてる。
 せやから、月曜の「いってきまーす」「いってらっしゃーい」は複雑な心境。お父さんなんか、自称作家やさかいに、時に曜日感覚が飛んでしもてる。今朝の「いってらっしゃーい」は、完全に愛娘が痛々しくも悲劇の月曜を迎えたいうシンパシーが無かった。

 お父さんが、仕事してたころはちごた。

 保育所の年長さんになったころには分かってた。

 お父さんは、うちを保育所に送ってから仕事場に行ってた。仕事場がたいがいやいうのも分かってた。府立高校でも有数のシンドイ学校。子供心にも大変やなあて思てた。
 小学校に行くようになってから、お父さんが先に出た。七時過ぎには家を出てた。仕事熱心やいうこともあったけど、半分は通勤途中に生徒と出会わせへんため。登校途中の生徒といっしょになるとろくな事がない。タバコ見つけたり、近所の人とトラブってるとこに出くわしたり。せやから、そのころのお父さんは可哀想やと思てた。
 それが、うちが中学に入ると同時に退職。可哀想は逆転した。
 お父さんは、早よから起きて「仕事」。で、うちは小学校よりもしょーもない中学校に登校。

 今日は、いつもより一分早よ出た。

 ほんで、近鉄が四分延着してて、いつもより一本早い準急に乗ってしもた。
 大阪人の悲しさ。たとえしょーもない学校行くんでも、一本早い電車に間に合いそうやと、走ってしまう。

 で、電車に飛び込んで気いついた。

「あ、先輩!」
「お、明日香!?」

 なんと、早朝の電車に関根先輩と美保先輩が私服で乗ってるのに出くわしてしもた。二人ともなんや落ち着きがない。ほんでから、あきらかに一泊二日程度の旅行の荷物と姿。

 卒業旅行? 

 せやけど学校は二人とも違う……こういうバージョンの卒業旅行は特別やろ……バッグの中味が妄想される。コンドーさん一ダースに勝負パンツ……うう、鼻血が出る!

 鶴橋で、先輩二人は環状線の内回り。学校行くんやったら外回りのはずや。
「どうぞ、楽しんできてください!」
 思わん言葉が口をついて出てくる。
「あ、ありがとう」
 美保先輩がうわずった声で返事を返してきた。こら、もう確実や……。

 桃谷の駅に着いたら、女子トイレから鈴木美咲先輩が出てくるのが見えた。なんや髪の毛いじって、右手で制服伸ばしてる……スカートが、真ん中へんで横に線が入ってる。今の今までたたんでましたいう感じ。
 で、紙袋から、私服らしきものが覗いてる。

「え……!」

 思わず声が出るとこやった。美咲先輩は、その紙袋をコインロッカーに入れた! 気ぃつかれんように直ぐ後ろに近寄る。明らかに朝シャンやった匂いがした。

 美咲先輩お泊まりか……また、頭の中で妄想劇場の幕が上がる。

 しょ しょ 処女じゃない 
 処女じゃない証拠には 
 つんつん 月のモノが三月も ないないない♪


 父親譲りの春歌が思わず口をついて出てくる。
「こら、アスカ!」
 後ろ歩いてた南風先生におこられた。

 なんで、今日はこんな人らに会うんやろ。これも近鉄のダイヤがくるたから。と、近鉄にあてこする。

 教室についたら、一番やった。で……違和感。

 直ぐに気いついた。金曜日まで花といっしょに置いたった佐渡君の机が無くなってた。

 朝からのしょうもないことが、いっぺんに吹き飛んで、心の閉じかけててた傷が開いて血が滲み出してきた……。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・28『アイドルは大変だ……』

2017-10-31 06:22:45 | 小説5
真夏ダイアリー・28
『アイドルは大変だ……』
    


「急性虫垂炎だと思う……」

 医務室のドクターが、クララさんを診察して、そう告げた。
「……なんとか……なりませんか?」
 クララさんは、苦しい息の中、やっと、その一言をつぶやいた。
「救急車を呼ぼう、残念だけど……」
 ドクターは、スタッフに指示した。
「クララ……」
「クララさん……」
 医務室に入りきれないメンバーが、気配に気づき、泣き始めた。
 サブの服部八重さんが、一人冷静なので、医務室に呼ばれた。
「クララに、大丈夫だって言ってやれ」
 黒羽さんがうながしたようだ。
「クララ、残念だろうけど、チームは大丈夫。みんなでがんばってたどり着いた念願の紅白、ちゃんと勤め上げるからね」
「頼むよ……ヤエ」
 そんなやりとりが成されているうちに救急隊の人たちがやってきて、クララさんはストレッチャーに乗せられて廊下に出てきた。メンバーのみんなは、口々に何か言っているが、クララさんには届かない。あまりの痛さに意識が無くなったよう。
 ストレッチャーが前を通るとき、わたしは、一瞬クララさんの手に触れた。

 クララさんの悔しさが、どっと伝わってきた。それが、自分の感情になってしまい、それまでの冷静さが吹っ飛んで、涙が溢れてきた。
 そして、反射的に、こう祈った。

――良くなれ!

 黒羽さんは吉岡さんをうながして、わたしたちを楽屋に集合させた。
「クララのセンターはヤエが代わりに入る。ヤエのポジションは、一人ずつ詰めて処理。いいね」
「……はい」
「しっかりしろ、クララのためにも、ここは乗り越えなきゃいけないんだ。いいな!」
「はい!」
 やっと、みんなの声が揃った。
 わたしは、賭けていた。わたしの力がほんものであることを……。

 そして、わたしは、自分の力を確信した。

 昼過ぎに、クララさんは、タクシーで、もどってきた!
「ご心配かけました。盲腸じゃなくて、神経性の腸炎だったみたいです!」
「そんな……いや、わたしの誤診だったようです。ご迷惑かけました」
 医務室の先生を、ちょっと自信喪失にしてしまったが、わたしの力は本物だ。
 急性の虫垂炎を、あっと言う間に治してしまった……。

 メンバーの感激はハンパじゃなかった。喜びのあまり泣き出す子が半分。あとの半分は、初めてサンタクロースを見た子どものようにはしゃぎ、ヤエさんなんかクララさんにヘッドロックをかましていた。
「心配かけんじゃねーよ、死ぬかと思ったじゃねーか!」

 本番は順調だった。

 自分たちの出番だけじゃなく、男性グル-プのバックに入ってバックダンサーも務めた。
 大ラスは、スマップのみなさんたちだ。朝の連ドラのテーマミュージックにもなった曲で大団円。終わりよければ全てよし。赤組はまけちゃったけど。

 帰りのバスの中で、省吾のお父さんの思念が入ってきた。
――「紅白歌合戦」「FNS歌謡祭」「ベストヒット歌謡祭」の年末3大歌謡祭が、今年は外国歌手の出場をこぞって見送った。これも歪みの現れか……真夏さんに、いつ、どのように飛んでもらうか研究中です。
 
 来年はえらい年になりそうな予感がした。

 元日は、昼まで寝てしまった。
「真夏、年賀状来てるわよ」
 お母さんの声で目が覚めた。
「なに、その段ボール?」
「だから、年賀状……どうすんのよ、こんなに来ちゃって」
 どう見ても、千通はありそうだった。

 アイドルは、たいへんだ……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・52『どうして……!?』

2017-10-31 06:17:27 | 小説5
里奈の物語・52
『どうして……!?』



 劇団北斗星の芝居はマチネーだったので、見終わっても日は高かった。

「半端な時間やけど、飯でも食おうか?」
「うん!」
 元気よく返事をしたところで、拓馬のスマホが鳴った。
「祖父ちゃん、なに?」
 電話は、拓馬の祖父からのようだった。拓馬の目が真剣になったので間合いを取った。
「……うん、うん、そらかめへんねん……今すぐ帰るから、気にしいな。ほんなら……ごめん里奈、用事ができてしもた」
「お祖父さん、具合が悪いんじゃないの?」
 思わず深入りした物言いになる。
「え、うん。電話できるぐらいやから、大したことはないと思うんやけど……じゃ、ごめん。またな」

 大したことだったんだろう、拓馬は、その場でタクシーを掴まえて行ってしまった。

 さよならも言えなかった。なにか言葉をかけようとして、その言葉を探しているうちに拓馬は行ってしまった。
「ハアーーーーーーーー」
 長いため息を一つついて、地下鉄の駅に向かう。
 ついさっきまでは空腹だったお腹が重い。もう真っ直ぐ帰ろう。

 しけた顔で帰るのがやなんで、鶴橋で降りて歩く。

 自販機の前、腰に左手を当てて、グビグビと缶コーヒーを飲んでいる法被姿のオッサンが目に入る。
 どうして男というのは腰に手を当てて飲むんだろう……おっかしい……心が、少しだけほぐれる。
「お、アンティーク葛城の里奈ちゃん!」
 オッサンが振り返り、気安く言葉を掛けてきた。
「あ……」
 法被の襟に『デトロイト靴店』のロゴ。あの万年閉店セールの靴屋さんだ。
「おおきに、うちのハイカットスニーカー履いてくれてるんやね」
 目ざとく、オッサンは靴に目を停める。
「憶えていてくれたんですか?」
「忘れるかいな。こんなにハイカットスニーカーが似合うベッピンさんは、めったに居てへんからね」
「ハハハ、うまいんだ。お世辞でも嬉しい」
「ちゃうちゃう、お世辞やないで。街猫まもり隊のオバチャンらも言うてる」
「え、小母さんたちが?」
「せや、猫田さんなんか、あんな子が孫やったらええにになあて、ため息ついてたよ」
「またまたあ」
「いや、ほんま。またお似合いのパンプスとかあるから、店の方にも来てね。ほな、仕事やから、またね!」
 オジサンは四車線の道路を軽々と渡って店に戻っていった。翻った法被の下に名札が見え、オジサンが福田さんであることが知れる。
「憶えておこう。あたしの名前覚えていてくれたんだから」

 福田さんのお蔭で軽くなった心は、電柱一本分向こうに見えてきたアンティーク葛城、その店先に出てきた男の姿に重くなった。
 まるで、いきなり鉄の塊を落とされたようなショック!
 反射的に、すぐ横の路地に入り、男が通るのをやり過ごす。

――どうして……!?――

「……ただいま」
「あ……おかえり」
「おかえり……」
 伯父さんも、おばさんもよそよそしい……思い切って聞いた。

「来てなかった?…………お父さん?」

 伯父さんもおばさんも固まってしまった。 
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高校ライトノベル・まどか乃木坂学院高校演劇部物語・13『第三章・2』

2017-10-30 16:07:15 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・13   


『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。


『第三章 痛恨のコンチクショウ・2』


 あやうく握手会、サイン会になりそうになったところ三人の審査員の先生が入ってきた。

――ただ今より、講評と審査結果の発表を行います。みなさん、お席にお着きください。


 みんな慌ただしく席に戻った。
「審査員、表情が固い……」
 峰岸先輩がつぶやいた。
 三人の審査員の先生が、交代で講評していく。さすがに審査員、言葉も優しく、内容も必ず長所と短所が同じくらいに述べられる。配慮が行き届いていると感じた。単細胞の夏鈴はともかく柚木先生まで、「ほー、ほー」と感心していた。
 ただ、峰岸先輩だけが、乃木高の講評をやった高橋という専門家審査員の先生が「……と感じたしだいです」と締めくくったとき、再びつぶやいた。
「講評が……」
「なんですか?」
 思わず聞き返した。
「シ、これから審査発表だ」

 舞台美術賞、創作脚本賞から始まったが、乃木坂は入っていない。そして個人演技賞の発表。
「個人演技賞、乃木坂学院高校『イカス 嵐のかなたより』で、神崎真由役を演った仲まどかさん」
――え、わたし?
 みんなの拍手に押されて、わたしは舞台に上がった。
「おめでとう、よくがんばったね。大したアンダースタディーでした」
 と、高橋先生。
「どうも、ありがとうございます」
 カチコチのわたし。
 そして優秀賞、つまり二等賞の発表。最優秀を確信していたわたし達はリラックスしていた。
「優秀賞、乃木坂学院高校演劇部『イカス 嵐のかなたより』」
 一瞬、会場の空気がズッコケた。乃木坂のメンバーが集まった一角は……凍り付いた。少し間があって、ポーカーフェイスで峰岸先輩が賞状をもらいにいった。峰岸先輩が席に戻ってもざわめきは続いた。
「最優秀賞……」
 そのざわめきを静めるように、高橋先生が静かに、しかし凛とした声で言った。

「フェリペ学院高校演劇部『なよたけ』」

 一瞬間があって、フェリペの子たちの歓声があがった。フェリペの部長が、うれし涙に顔をクシャクシャにして賞状をもらった。
 高橋先生は、皆を静めるような仕草の後、静かに語りはじめた。
「今回の審査は、少し紛糾しました。みなさんご承知のとおり、高校演劇には審査基準がありません。この地区もそうです。勢い、審査は審査員の趣味や傾向に左右されます。われわれ三名は極力それを排するために、暫定的に審査基準を持ちました。①ドラマとして成立しているか。ドラマとは人間の行動や考えが人に影響を与え葛藤……イザコザですね。それを起こし人間が変化している物語を指します。②そして、それが観客の共感を得られたか。つまり感動させることができたか。③そのために的確な表現努力がなされたか。つまり、道具や照明、音響が作品にふさわしいかどうか。以上三点を十点満点で計算し、同点のものを話し合いました。ここまでよろしいですね」
 他の審査員の先生がうなづいた。
「結果的に、乃木坂とフェリペが同点になり、そこで話し合いになりました……」
 高橋先生は、ここでペットボトルのお茶を飲み……お茶が、横っちょに入って激しく咳き込んだ。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ……!」
 マイクがモロにそれを拾って鳴り響いた。女の審査員の先生が背中をさすった。それが、なんかカイガイシく、緊張した会場は笑いにつつまれた。夏鈴なんか大爆笑。どうやら、苦しんでいる高橋先生とモロ目が合っちゃったみたい。
「失礼しました。えーと……どこまで話したっけ?」
 前列にいたK高校のポニーテールが答えた(この子、二章で出てきた子)
「同点になったとこです」
「で、話し合いになったんです」
 カチュ-シャが付け足した。
「ありがとう。で、論点はドラマ性です。乃木坂は迫力はありましたが、台詞が一人称で、役が絡んでこない。わたしの喉は……ゲホン。からんでしまいましたが」
 また、会場に笑いが満ちた。
「まどかさんはじめ、みなさん熱演でしたが……」

 という具合に、なごやかに審査発表の本編は終わった……。
 でも、わが城中地区の審査には別冊があるのよね。生徒の実行委員が独自に投票して決める賞があるの。
 その名も「地区賞」 これ、仮名で書いた方が感じ出るのよね。だって「チクショウ」
 その名のとおり、チクショウで、中央発表会(本選)には出られない。名誉だけの賞で、金、銀、銅に分かれてんの。
 で、一等賞が金地区賞。通称「コンチクショウ」と笑っちゃう。そう、このコンチクショウを、わが乃木坂は頂いたわけなのよね。

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・046『トラクタービーム アンカービーム』

2017-10-30 13:34:02 | 小説

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・046
『トラクタービーム アンカービーム』




 牽引されています!

 土星軌道を離脱直後、ブリッジのドアを開けると同時に航海長のツバキが飛んだ!


「牽引!? どこからだ!?」
「ケンタウルス座の方角ですが絞り込めません」
「舵がききません!」
「機関停止、後進に切り替え!」
「すでに後進強速いっぱいです」
「強力なトラクタービームです!」
「直近の惑星! いや、衛星でいい、アンカービームを打ち込め!」
「タイタンが近いです、打ち込みますか!」
「打ち込め!」
「了解!」

 返事をすると、航海長は館内放送のスイッチを入れた。

「タイタンにアンカーを打ち込む! 総員衝撃に備えよ、総員衝撃にそなえよ!」
 ブリッジのスタッフもシートに着きシートベルトをした。
 艦内各科から縛着完了のサインがあがってくる。
「アンカービーム発射5秒前 4 3 2 1 発射!」
 一瞬艦尾が振動してマックスのアンカービームが発射されたことが知れた。
 直後艦内の総員が艦首方向にもっていかれそうになる、タイタンにアンカーが撃ち込まれた衝撃だ。
 カワチは相当程度の衝撃を吸収して乗員や艦体に影響が出ないようにスタビライザーが組み込まれているが、ツクヨミとの激突同様に、その限度を超える衝撃であったのだ。
 ただ、ツクヨミの時とは違って予報がされていたので人的被害はゼロである。
「……総員、縛着のまま、縛着のままとせよ!」
「どういうことだい、航海長?」
「艦が完全には停止しません、まだ10キロの速度で引っ張られています」
「タイタンの公転速度が落ちています」
「とてつもない牽引力です」
「カワチは丈夫な艦だがタイタンをぶら下げたまま飛べるほどじゃないぞ」

 艦長の言葉がスイッチであったかのように、カワチの艦体がギシギシと軋み始めた。

「このままでは艦がもちません!」
「タイタンの表層が千切れ始めています!」
「艦長、どうしますか」
 
 ギギギーーー

 艦体が悲鳴を上げる。
「艦を捨てましょう! このままではアンカーを切っても、その衝撃で艦内はグチャグチャになります!」
「……アンカーを切ろう」
「しかし」
 それ以上は言わなかった。艦長の命令は絶対であるのだが、それ以上に艦長の判断に信頼があるのだ。
 地球を出発して三月ほどになるが、その間に築いた信頼は大きいものがあるのだ。
「アンカーを切る! 総員艦尾方向への衝撃に備えよ! 艦尾方向への衝撃に備えよ! 5 4 3 2 切断!」

 とてつもない衝撃が来ると思われたが、衝撃は車の急発進程度であった。

「これは……」
「牽引ビームには意思がありますね、こちらを観察していてライブで操作しているようです」
「乗っかっていくしかないか」
「ビームの発生源がわかりました、プロキシマ・ケンタウリの惑星プロキシマbからです」
「プロキシマb?」

 プロキシマb、 それは地球に最も近いと言われる水のある惑星であった。

 カワチは光速の10倍の速度でプロキシマbに牽引されて行くのであった……。
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高校ライトノベル・泉希 ラプソディー・イン・ブルー・2〈泉希って……!?〉

2017-10-30 06:42:12 | 小説6
泉希 ラプソディー・イン・ブルー・2
〈泉希って……!?〉
       


 泉希(みずき)は、よく似合ったボブカットで微笑みながら、とんでもないものを座卓の上に出した。

「戸籍謄本……なに、これ?」
 今日子は当惑げに、それを見るだけで手に取ろうとはしなかった。
「どうか、見てください」
 泉希は軽くそれを今日子の方に進めた。今日子は仕方なく、それを開いてみた。
「なに、これ!?」
 今日子は、同じ言葉を二度吐いたが、二度目の言葉は心臓が口から出てきそうだった。

 婚外子 雫石泉希

 亮の僅かな遺産を整理するときに戸籍謄本は取り寄せたが、子の欄は「子 雫石亮太」とだけあって、婚姻により除籍と斜線がひかれていただけだった。ところが、泉希の持ってきたそれには「婚外子 雫石泉希」とあるのである。
「これは、偽物よ!」
 今日子は、慌てて葬儀や相続に関わる書類をひっかきまわした。
「見てよ。あなたのことなんか、どこにも書いてないわ!」
 泉希は覗きこむように見て、うららかに言った。
「日付が違います、わたしのは昨日の日付です。備考も見ていただけます?」
 備考には、本人申し立てにより10月11日入籍。とあった。
「こんなの、あたし知らないわよ!」
「でも事実なんだから仕方ありません。これ家庭裁判所の裁定と、担当弁護士の添え状です」

 今日子は、家裁と弁護士に電話したが、電話では相手にしてもらえず、身分を証明できる免許証とパスポートを持って出かけた。

 泉希は、白のワンピースに着替えて、向こう三軒両隣に挨拶しにまわった。

「わけあって、今日から雫石のお家のご厄介になる泉希と申します。不束者ですが、よろしくお付き合いくださいませ」
 お向かいの巽さんのオバチャンなど、泉希の面差しに亮に似たものを見て了解してくれた。
「うんうん。その顔見たら事情は分かるわよ。なんでも困ったことがあったら、オバチャンに相談しな!」
 そう言って、手を握ってくれた。その暖かさに、泉希は思わず涙ぐんでしまった。

 今日子が夕方戻ってみると、亮が死んでからほったらかしになっていた玄関の庇のトユが直されていた。庇の下の自転車もピカピカになっている……だけじゃなく、カーポートの隅にはびこっていたゴミや雑草もきれいになくなっていた。
「奥さん、事情はいろいろあるんだろうけど、泉希ちゃん大事にしてあげてね」
 と、巽のオバチャンに小声で言われた。

「お兄さん、お初にお目にかかります。妹の泉希です。そちらがお義姉さんの佐江さんですね、どうぞよろしくお願いいたします」
 夜になってからやってきた亮太夫婦にも、緊張しながらも精一杯の親しみを込めて挨拶した。なんといっても父である亮がいない今、唯一血のつながった肉親である。亮太夫婦は不得要領な笑顔を返しただけである。
 母から急に腹違いの妹が現れたと言われて、内心は母の今日子以上に不安である。僅かとはいえ父の遺産の半分をもらって、それは、とうにマンションの早期返済いにあてて一銭も残っていないのである。ここで半分よこせと言われても困る。
「あたしは、ここしか身寄りがないんです。お願いします、ここに置いてください。お金ならあります。お父さんが生前に残してくれました。とりあえず当座にお世話になる分……お母さん……そう呼んでいいですか?」
 今日子は無言で、泉希が差し出した通帳を見た。たまげた。

 通帳には5の下に0が7つも付いていた。5千万であることが分かるのに一分近くかかった。

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・28〔そんなんちゃいます〕

2017-10-30 06:22:30 | 小説・2

高安女子高生物語・28
〔そんなんちゃいます〕
        


「そんなんちゃいます」

 思わず言うてしもた。
 国語の時間、中山先生が思わんことを言うた。

「佐藤さん、あんた黒木華に似てるね!」

 クラスのみんなが、うちのことを振り返った。中には「黒木華て、だれ?」言う子もおったけど、たいがいの子ぉは知ってる。
 銀熊賞を取って大河ドラマとか出てる大阪出身の女優さんや。『小さいおうち』で主演して、ほんで賞を取った。中山先生は、さっそく、その映画を観てきたらしい。授業の話が途中から映画の話に脱線して……脱線しても、この先生の話はショ-モナイ。だいたい日本の先生は、教職課程の中にディベートやらプレゼンテーションの単位がない。つまり、人に話や思いを伝えるテクニック無しで教師になってる。なんも中山先生だけが下手くそなわけやない。
 うちは、授業中は板書の要点だけ書いたら、虚空を見つめてる。それが時に控えめいう黒木さんと同じ属性で見られてしまう。中山先生は、その一点だけに共通点を見いだして、映画観た感動のまんま、うちのことを、そない言うただけや。

 目立たんことをモットーにしてるうちには、ちょっと迷惑なフリや。

「そない言うたら、明日香ちゃんて、演劇部やな」
 加奈子がいらんことを言う。
「ほんま!? うちの演劇部言うたら、毎年本選に出てる実力クラブやんか!」
「去年は落ちました……」
 こないだの地区総会のことが頭をよぎる。あれがうちの本性や。
「せやけど、評判は評判。佐藤さんもがんばってね」

 で、終わりかと思たら……。

「せや、いっちょう、その演劇部の実力で読んでもらおか。167ページ、読んでみて」
「は、はい……隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃たのむところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔よしとしなかった……」
 
 よりにもよって『山月記』や。自意識過剰な主人公が、その才能と境遇のギャップから、虎になってしまうという、青年期のプライドの高さと、脆さを書いた中島敦の短編。
 うちは、読め言われたらヘタクソには読まれへん。まして、クラスで教科書読まされるのんは初めて。で、黒木華の話題のついで。

「お~」と、静かな歓声。

「やっぱり上手いもんやないの。OGH高校の黒木華やな!」
 クラスのアホが調子に乗って拍手しよる。ガチショーモナイ!

「明日香、やっぱりあんたは演劇部の子ぉやで」
 授業が終わって廊下に出ると、南風先生に会うなり言われてしもた。
 しもた、先生は隣のクラスで授業してたんや。
「一昨日の地区総会のことも聞いたで。大演説やってんてな。アハハ、先楽しみにしてるよって」

 トイレに行って、鏡を見る。なんや、うちの知らん自分が映ってた。

 うちは、女の子の割には鏡見いひん。家出るときに髪の毛の具合を見るときぐらい。こんな顔した明日香を見るのは初めてや……ちゅうことは、自分でもちゃう自分しか見せてなかったいうこと……。

 そんなんちゃいます!

 そない言うて、トイレを出た。個室に入ってた子ぉがびっくりして、小さな悲鳴をあげた……。

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高校ライトノベル・真夏ダイアリー・27『紅白歌合戦』

2017-10-30 06:15:32 | 小説5
真夏ダイアリー・27
『紅白歌合戦』
   


 夕べは東都放送のスタジオで大変な体験をしてしまった。

 時間を止めてしまったのだ。


 おかげで、ライトが落下して大事故になることを止めることができた。しかし、それは、これから、わたし(真夏)の運命が変わっていく、ほんの入り口にすぎない。
 省吾のお父さんは、わたしに一杯の情報をダウンロードしていった。わたしは、まず根本的なことから解凍していった。いや、解凍の順番もプログラムされているようだ。

 省吾のお父さんは、300年ほど先の未来からやってきた。どうも未来はうまくいっていないようで、過去の世界を変えることで克服しようとしている。
 歴史というのは、例えば、一本の大きな木のようなもので、枝の数だけ違う歴史があるパラレルワールドのようなものらしい。だから、一つの枝がだめなら、その枝を切って別の枝が生えるようにしてする。その枝の分岐点に働きかけ、新しい芽を出させることが、省吾のお父さんの任務。
 ところが、省吾のお父さんは300年遡ることが限界で、それ以上前の歴史を変えないと、正しい歴史としての枝は芽を出さないようだ。
 そのために、タイムリープの力が優れた省吾に300年以上の過去にリープさせて歴史を変えようとしたが、省吾一人の力では限界に達し、同様な能力を持ったわたしに白羽の矢を立てたようだ。
 わたしの力を伸ばすアイテムが、ハチ公前でもらったラピスラズリのサイコロ……ここまでが、解凍できた答え。

 夕べは、ぐったり疲れて、家に帰るとすぐに眠ってしまった。

 夢の中で、わたしはラピスラズリのサイコロを振ってみた、五六回やると思い通りの数字が出せるようになった。ま、夢の中なんだからと、開き直っている自分がおかしかった。
 十回やって納得すると気配を感じた。
 梅と葉ボタンの気配……お母さんが買ってきたんだろう。しかし気配はするけど、エリカのように強いオーラは感じられず、人の姿になって現れることもなかった。

「やっぱ、力が付いたんだ……」

 朝起きて、机の上でサイコロを転がした。全部思った数字が出た。

 今日は、紅白歌合戦だ。去年までは観る側だったけど、今年は、なんと出演者。AKRとしても初出場なので、一度事務所に集まって気合いを入れてから行くことになっている。
「昨日のレコード大賞は、AKBに持って行かれたけど、わたしたちもやるだけやって、『コスモストルネード』で優秀作品賞をいただけました。三つ葉の潤ちゃんたちは、東都放送ご苦労様でした。で、今日は、全員で紅白がんばります。みんなよろしく!」
 リーダーの大石クララさんが檄を飛ばした。
 そして、バス二台に分乗して、会場のNHKホールに向かった。

 なんせ、初出場。

 プロディユーサーの黒羽さん、吉岡さん、リーダーのクララさんたちが、あちこちの楽屋に挨拶回り。それだけで、一時間近くかかってしまった。わたしたちは、服部八重さんが中心になって、振りと立ち位置の最終チェック。
 挨拶回りから帰ってきたメンバーは、もう、それだけで疲れた様子だったけど、クララさんの顔色が一番悪いような気がした。
「さあ、三十分後に、わたしたちのリハ。立ち位置大丈夫ね。知井子、先週の歌謡フェスみたいに間違えないでね」
「は、はい~」
「じゃ、いくぞ!」
 クララさんは、直ぐ元気な顔になって、円陣を組んで、最後の気合いを入れた。

 そして、それはリハの最後の決めポーズの直後に起こった。

「ウウ……」
 と、うなり声をあげて、クララさんが倒れた。お腹を押さえて、エビのように丸くなって脂汗を流していた。
「クララ!」
「クララさん!」
 みんなが、集まった。クララさんは苦悶の表情で、気を失いかけていた……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・51『今日は店番ええから』

2017-10-30 06:09:57 | 小説5
里奈の物語・51
『今日は店番ええから』



「今日は店番ええから」

 びっくりした。
 伯父さんは、けして気配りの行き届いた人じゃない。
 だけど、トイレの前で待ち構えて、いきなり用件だけ切り出すような無神経なことはしない。
 恥ずかしさがやってくる前に、ビックリと戸惑いがやてきた。

「おっちゃんら行けんようになったから、里奈ちゃん行っといで」
 ズイっと二枚のチケットが差し出された。
「え……」
「劇団北斗星の大阪公演や。前から楽しみにしてたんやけど、ちょっと不祝儀ができてしもて、行かれんようになったんや」
「ブシュウギ……?」
「え、あ、いや……知り合いの落語家さんが亡くなってな、そっちの方行かなあかんようになったんや。あ、大事なお得意さんやったんでな」
 あたしはブシュウギの意味が分からなくて疑問形になったんだけど、伯父さんは不祝儀の中身について畳みかけた。
「あ、ども……観たかったんだけど、チケ高いからあきらめてたんです。ありがとう伯父さん」
 洗ったばかりの手は、まだ湿っているので、サロペットの太ももで拭って、チケットを受け取る。

 思いがけずフリーの一日とチケットが手に入った。

 美姫か拓馬かを誘おうと思う。
「あ……美姫は学校だ」
 スマホを操作する指は画面の上で止まってしまう。拓馬のアドレスにタッチすれば済む話なんだけど……。

 じゃ、拓馬だ……そう頭のスイッチを切り替えて、胸がドッキンしてうろたえる。
――数少ない友だちだから……しばらく会ってないから……だよね――

 そう納得してメールを打つ。友だちを恋しいと思うだけ、あたしは進歩したんだ。

 返事を待っている間に桃子で遊ぶ。

劇団北斗星で検索。チケットの高さによそよそしく感じた画面がフレンドリーになる。
 伯父さんが言っていた落語家さんだろう、サイトのニュースに名前が出ている。あたしでも知っている上方落語の重鎮だ。と言っても直接見たことはない。ユーチューブで検索。
 少し若いころの動画。出囃子で出てきた姿はカッコいい。しぶいイケメンの小父さんだ。シュッと一息で羽織を脱ぐのがクール。
 落語なんてほとんど聞いたことはないけども、芝居よりも面白いかも……と思う。
 枕が終わったところでメールがきた。

「よし!」

 鶴橋の内回りで拓馬と落ち合った。

「オレも諦めてた芝居や。ラッキーやなあ!」
「ハハ、どーよ!」
 拓馬の顔の前でチケットをヒラヒラさせる。こんなふうにじゃれ合うのは何カ月ぶりだろう……。
「ン……ちょっと見せて」
「どうかした? 本物だよ。座席指定も今日だし」
「そうなんだけど……里奈、伯父さん、前から楽しみにしてたって、言ってたよな?」
「うん、そうだよ。お得意の落語家さんが亡くなったんで……」
「チケットの購入日……今日やで」
「え……?」

 どういうことなんだろう……?

 深く考える前に内回りの電車がホームに滑り込んできた……。

 
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高校ライトノベル・まどか乃木坂学院高校演劇部物語・12『第三章・1』

2017-10-29 15:32:45 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語 初稿版・12   



『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。


『第三章 痛恨のコンチクショウ・1』

 幕間交流の間に、バラシも搬出も終わっていた。

 わたしは、スタンディングオベーションのきっかけになったアイツを探したかったけど、マリ先生の様子が気になって、搬出口に行ってみた。

 バタンと音がして、荷台のドアが閉められたところだった。

「まどか、大儀であった。じゃ、先に行ってる。柚木先生、あとはよろしく」
 柚木先生がうなづくと、トラックはブルンと身震いして動き始めた。助手席の窓から、お気楽そうに、マリ先生の手が振られた。二台目のトラックのバックミラーに、ほっとした山埼先輩の顔が一瞬映った。
 ため息一つつく間に、二台のトラックはフェリペの通用門を出て行った。実際にはもう少し時間があったんだろうけど、頭の中がスクランブルエッグみたくなってるわたしには、そう感じられた。

「じゃ、わたしたちは地下鉄で学校に行ってます」

 舞監助手の里沙がそう言って、あらかじめ決められていたメンバーを引き連れて歩き出した。学校で道具をトラックから降ろして、倉庫に片づけるためだ。
 残ったメンバーは、わたしも含め、誰も何も言わず、それを見送った。
「先生なにか言ってました?」
 柚木先生に聞いてみた。
「え……ああ、なにも。さ、わたしたちも交流会に行きましょ。そろそろ終わって審査結果の発表でしょうから」
「先輩。潤香先輩……」
 峰岸先輩に振ってみた。
「必要なことしか言わないからな、マリ先生は……大丈夫なんじゃないか」
 言葉のわりにはクッタクありげに歩き出した……ボンヤリついていくと叱れた。
「なゆた、そのナリで交流会はないだろう」
 わたしったら、衣装もメイクもそのまんまだった。
「すみません、着替えてきます」
 ひとり立ち止まると、訳もなく涙が頬を伝って落ちた。

 メイクを落として、制服に着替えた……気づくと、窓の外には夜空に三日月。秋の日はつるべ落としって言うけど……ヤバイ、もう八時前。審査発表が終わっちゃう!
 急いで会場に戻った。交流会はまだ続いていた。
「審査発表まだなの?」
 あくびをかみ殺している夏鈴に聞いてみた。
「遅れてるみたい……まどか、なにしてたのよ。さっきまでまどかの話で持ちきりだったのよ」
「うそ……!?」
「そりゃ、あれだけのアンダースタディーやっちゃったんだから」
「そうなの……でも、道具係の夏鈴がどうしてここにいるのよさ?」
「地下鉄の駅まで行ったら、お財布忘れたのに気づいて。そしたら、宮里先輩が『夏鈴はもういい』って」
「プ、夏鈴らしいわ」
「まどかこそ。楽屋で声かけたのに気づかなかったでしょ。お空は三日月だし狼男にでもなんのかと思っちゃったわよ」
「女が狼男になるわけないでしょうが」
「なるわよ。うちのお父さん、お母さんのことオオカミだって言ってるわよさ」
「だいいち、狼男が狼になんのは満月じゃんよ」
「うそ。わたし、ずっと三日月だと思ってた!」
「ハハ、でも、そういうズレ方って夏鈴らしくてカワユイぞ」
「どうせ、わたしはズレてますよ。まどかみたく物覚えよくないもん!」
「二人とも声が大きい……!」
 峰岸先輩が、低い声で注意した……でも手遅れ。夏鈴の声で面が割れてしまった。
――え、乃木高のまどか!――あの、まどかさん!――マドカァ!!
 
 ……と、取り囲まれてしまった。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・104「八重桜の教育的手腕・2」

2017-10-29 11:02:24 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
104『八重桜の教育的手腕・2』
              



 アイデアはよかった。

 ミリーとミッキーが舞台に立って、三輪車の須磨先輩と啓介先輩と助っ人の美晴先輩が二人の周囲をグルグル周る。
 うん、ちゃんと子どもに見える。

「じゃ、カゴメカゴメやってごらん」

 八重桜先生の指示でミリーを真ん中にカゴメカゴメを始める。

 かーごめかーごめ かーごの中のとーりーは いーついーつ出やーる……(^^♪

 あ、いい、これいい!

 みんな、そんな感じ。
 面白くなって、鬼を交代してみんなでやり始める。
 最初は、三輪車なんてどうだろう? 『夕鶴』の世界に馴染まないんじゃないだろうかと思った。
 でも、三輪車というアイテムは高校生に子どもの心を思い出させてくれるようで、みんな喜々としてやっている。
「そうよ、ここで大事なのは子供らしいハズミなの。三輪車って、みんな子どものころに乗ったじゃない、背丈も子どもの背丈に戻るじゃない、するとね、なんの演出もしなくても子どもを演じられるのよ🎵」
 先生はガキ大将になったような楽しさで解説してくれる。
「じゃ、沢村さん入ってみようか」
「え、わたしですか!?」
「あれなら、混ざれるでしょ」
「あ、え……」
「千歳、やってみようや!」
 啓介先輩が賛同して舞台に……。

 それが簡単ではなかった。

 さすがバリアフリーモデル校である空堀高校もステージまではできていない。
 車いすではいかんともしがたく、一瞬みんな固まってしまうが「ダッコしたらいける!」啓介先輩が叫んで、一番体格があるミッキーがお姫様ダッコで舞台に上がった。で、生まれて初めてのお姫様ダッコでもあったのです!
「ディズニーアニメにこんなシーンあったな~」
 ミッキーは優しい男の子だけど、なんたってアメリカ人、体格もタッパもあってルックスはもろ欧米系のナイスガイ。
 ほんの三十秒ほどだったけど、ドッキンドッキン!
 それでカゴメカゴメをやってみる……なんとか出来た。

 なんとかというのは、車いすでミリーの周りをまわると、舞台の前に出ると、ちょっと怖い。

 府立高校の舞台というのは、奥行きが3・6メートルしかない。
 それもカタログデータで、実際は幕とかホリゾントライトが置かれるので、実際は3メートル。
 中ほどにミリーが居て、その周りを車いすで回ると……ちょっと狭い。
 舞台の高さは1・3メートルだから、目の高さは2メートルを超える。タイヤと舞台の端っことは30センチほど。
 でも、雰囲気がアゲアゲになっているので怖いとは言えない。

「じゃ、鬼ごっこしてみよっか」

 先生の一言、みんな「おーー!」って感じでノッテいる。
 わたしもおっかなびっくりで参加。でも、ものの数秒でみんなは停まる。
「先生、鬼ごっこは勢い付いて怖いってか、危険です」
 さすが生徒会副会長、美晴先輩が異議申し立て。

「やっぱりね、こうやってやってみると実感するのよね」

 先生は演説を始めた。

「府立高校の舞台は床下にパイプ椅子を収納するために標準より40センチも高いの。それにフロアの床面積とるために奥行きが無くって、じっさいやってみると、もう身の危険を感じるくらうなのよ。ね、これが大阪府、いえ、日本の文教政策の現実! 見た目だけに気を取られて、本当には現実に目が向いてないのよ! この現実に、わたしは断固抗議するものです!」

 思わず拍手してしまった。

 最初に、この演説を聞かされたら、正直腰が引ける。
 でも、じっさいに自分たちがやってみて危険や不便さを感じると肯けるし、正直な拍手になる。

 わたしは八重桜先生を見直した。
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高校ライトノベル・泉希ラプソディー・イン・ブルー〈それが始まり〉

2017-10-29 06:38:32 | 小説6
泉希ラプソディー・イン・ブルー
〈それが始まり〉
        


 業者は123万円という分かりやすい値段でガラクタを引き取って行った。

「まあ、葬式代にはなったんじゃない」
 息子の亮太は気楽に言った。
「でも、なんだかガランとして寂しくもありますね……」
 嫁の佐江が、先回りして、取り持つように言った。

 亭主の亮は、終戦記念日の昼。一階の部屋でパソコンの前でこと切れていた。

 今日子は悔いていた。
「ご飯できましたよ」二階のリビングから呼んだとき「う~ん」という気のない返事が返ってきたような気がしていたから。
 一時半になって、伸び切った素麺に気づき、一階に降り、点けっぱなしのパソコンの前で突っ伏している亮に気づき救急車を呼んだが、救命隊員は死亡を確認。そのあと警察がやってきて、死亡推定時間を午前11時ぐらいであることを確認、今日子にいろいろと質問した。
 あまりにあっけない亮の死に感情が着いてこず、鑑識の質問に淡々と答えた。
「多分、心臓か、頭です。瞼の裏に鬱血点もありませんし、即死に近かったと思います。もし死因を確かめたいということでしたら病理解剖ということになりますが……」
「解剖するんですか?」
 亮太が言った。今日子の連絡で、嫁の佐江と飛んできたのだ。
「この上、お義父さんにメスをれるのは可愛そうな気がします。検死のお医者さんに診ていただくだけでいいんじゃないですか?」
 この佐江の一言で、亮は虚血性心不全ということで、その日のうちに葬儀会館に回された。葬儀は簡単な家族葬で行い、亮の意思は生前冗談半分に言っていた『蛍の光』で出棺することだけが叶えられた。

 そして、長い残暑も、ようやく収まった10月の頭に、亮の遺品を整理したのである。

 亮は三階建ての一階一部屋半を使っていた……今日子にすれば物置だった。ホコリまみれのプラモデルやフィギュア、レプリカのヨロイ、模擬刀や無可動実銃、未整理で変色した雑多な書籍、そして印税代わりに版元から送られてきていた300冊余りの亮の本。
 佐江は、初めてこの家に来た時、亮の部屋を見て「ワー、まるでハウルの部屋みたい!」と感激して見せた。同居する可能性などない他人だから、そんな能天気な乙女チックが言えるんだと、今日子は思った。
 そして、一人息子の亮太が佐江と結婚し家を出ていくと、亮と今日子は家庭内別居のようになった。

 亮は、元々は高校の教師であったが、うつ病で早期退職したあと、ほとんど部屋に籠りっきりであった。退職後、自称作家になった。実際本も3冊、それ以前に共著で出したものも含めて10冊ほどの著作があるが、どれも印税が取れるほどには売れず。もっぱら著作はブログの形でネットに流す小説が主流であった。

 パソコンに最後に残っていたのは、mizukiと半角で打たれた6文字。佐江の進言で、その6文字はファイルに残っていた作品といっしょにUSBにコピーされ、パソコン自体は初期化して売られてしまった。
「あ、お母さん、人形が一つ残ってるよ」
 亮が仏壇の陰からSDと呼ばれる50センチばかりの人形を見つけた。
「あら、いやだ。全部処分したと思ったのに……」

 亮は、亡くなる三か月ほど前から、人形を集め始めた。1/6から1/3の人形で、コツコツカスタマイズして10体ほどになっていた。今日子は亮のガラクタにはなんの関心もなかったが、この人形は気持ちが悪かった。
 人形そのものが、どうこうという前に還暦を過ぎたオッサンが、そういうものに夢中になることが生理的に受け付けなかった。
「人の趣味やから、どうこう……」
 そこまで言いかけた時の亮の寂しそうな顔に、それ以上は言わなかった。
 しかし、本人が亡くなってしまえばガラクタの一つに過ぎなかった。惜しげもなく捨て値で売った。

「佐江ちゃん。よかったら持ってってくれない?」
「いいえ、お義父さんの気持ちの籠った人形です。これくらい、置いてあげたほうがいいんじゃないですか」
 佐江は口がうまいと、今日子は思っていた。要は気持ちが悪いのだ。今度の複雑ゴミで出してやろうと思った。

 人形は清掃局の車が回収に来る前に無くなっていた。

「好きな人がいるもんだ」
 プランターの花に水をやりながら、今日子は思った。とにかく目の前から消えたんだから、結果オーライである。

 ピ~ンポ~ン

 そのあくる日である、インタホンに出てみると17・8の女の子がモニターに映っていた。
「こんにちは。泉希っていいます、いいですか?」

 それが始まりであった。

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