大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・105「―昼休みに体育館集合 敷島―」

2017-10-31 14:09:33 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
105『―昼休みに体育館集合 敷島―』
              




 ――昼休みに体育館集合 敷島――

 敷島? あ、ああ。

 一瞬誰だか分からなかったが、敷島というのは八重桜のリアルネームだと思い至る。

 ようは八重桜のメールで演劇部全員が体育館に集められた。

 体育館に行ってみると、演劇部の他に生徒会執行部と、文化祭で『夕鶴』のアシスタントをしてくれるボランティアの面々が集まっていた。
「何事なの?」
 うっかり素の自分で聞いてしまった。
 演劇部と執行部の瀬戸内さんを除いて目線を避けられる。
 登下校は素の自分を出さないように心掛けているが、校内では気を付けていないとこうなる。
 なんたって二十三歳の三年生。あたりまえの三年生よりも五歳も年上。自分では意識してないけど面構えも目つきも尋常ではない……らしい。
「詳細は分からないけど、どうもマスコミの取材があるらしいですよ」
 美晴が自然体で答えてくれる。演劇部に答えさせたら、なんだか演劇部自身がわたし色に見えてしまうし、生徒会の会長なんかにオズオズ答えられたら、わたしはもう空堀高校に巣くう化け物のように思われてしまう。
 そのへんの機微を心得ているのか、しぜんな美晴の言い方は、ちょっと垣根を低くしてくれた。

 先生来ましたよーー!

 体育館のギャラリーから声がする。
 どうやらギャラリーの窓から本館を見張る斥候を出していたようだ。
 パタパタパタと斥候が下りてきて、男子の何人かが外出しのシャツをズボンの中にしまい込む。ふだんだらしのない子たちなんで、かえって取って付けたみたい。
「ほら、シャツがよれてる。あーー分かんないかなあ、こうだよ!」
 一瞬でベルトを外してズボンをくつろげ、きちんとシャツを収めてやる。
「え、あ、先輩(#´ω`#)」
「ナヨってすんじゃないよ」
「そ、そやかて(#´0`#)」
「あーーーそういうのヤメ! それから、わたしのこと先輩なんて呼んじゃダメ!」
 ダメ押しして、登下校モードに切り替える。

 なんとかカッコが付いたところでA新聞と思しきクルーを従えて八重桜がやってきた。

「やあみんな、A新聞の人たちが、今度の『夕鶴』の取り組みの取材に見えたわよ。硬くならずに自然にね」
 演劇部は程よいよそ行きの表情、ほかは、ま、それなりに。
「A新聞文化部の望月です、すてきな取り組みだそうで、お話を伺いにきました」
 そのまんまリベラル政党のマスコットになれそうな女性記者が選挙ポスターのような笑みを振りまく。
「あ、そちらのお二人が交換留学生でキャストをやられる……」
 ビジュアル的に目立つミッキーとミリーのインタビューから始める。
 こういうときのアメリカ人というのはプレゼンテーション能力が高い。
 二人とも日本人の倍ほど表情筋を動かして、すばらしい機会に恵まれたことを英語と日本語で喋りまくった。
「お芝居も楽しみですけど、楽しそうにプレゼンするのは見ていても気持ちいいですね」
「ハハ、アメリカは他民族の国ですから、しっかり表現しないと伝わらないからです。気持ちはほかのメンバーもいっしょですよ」
 さすがミリーはソツがない。
「ヤー、イッツ、アメイジング!」
 ミッキーは厚切りジェイソンを彷彿とさせるものがある。
 それから、話題は千歳に及んだ。やっぱ、脚の不自由な千歳は広告塔になるようだ。ほんとうは、そういう注目のされ方は嫌なんだろうけど、もともと性格のいい千歳はニコニコと、少し恥じらいながら答える。
「ほー、じゃ、このステージだといろいろ大変なんですね」
「ええ、そうなんです」

 八重桜の指示で、一昨日のステージを再現する。

 千歳はミッキーのお姫様ダッコで舞台に上がり、鬼ごっこではヒヤヒヤの車いす。
「ほかにもあるんですよ」
 八重桜は舞台の照明と音響についてもひとくさり。
「前からの灯りが乏しいので表情が出ません、音響は(パーーンと手を打った)こういう具合に音が吸い込まれたり拡散してしまう構造なので、ピンマイクが無いと後ろ三分の二は届きません」
「なるほど……」
「かくも、教育の現場では視聴覚教育の、それこそメインステージの整備は遅れているんです」

 なるほど、わたしらの『夕鶴』のPRよりも、ハコものである施設の不備を訴えたかったのかと、ちょっと感心した。

 今日は、この秋一番の冷え込み。
 取材が終わると、みんなトイレに急行したのだった。

 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・29〔月曜はしょーもない〕

2017-10-31 06:29:25 | 小説・2

高安女子高生物語・29
〔月曜はしょーもない〕
        


 月曜はしょーもない。

 保育所で物心ついたころから、いつも思てた。
 しょーもないのは、学校がおもんないから。

 言わんでも分かってる?
 

 みんなもそうやねんね。うちは、このしょうーもない月曜を、大学を入れたら六年も辛抱せなあかん。
 え、働いたらもっと……ごもっとも。
 そのへん、うちの親は羨ましい。お父さんも、お母さんも早う退職して、このしょーもない月曜からは、とうに解放されてる。
 せやから、月曜の「いってきまーす」「いってらっしゃーい」は複雑な心境。お父さんなんか、自称作家やさかいに、時に曜日感覚が飛んでしもてる。今朝の「いってらっしゃーい」は、完全に愛娘が痛々しくも悲劇の月曜を迎えたいうシンパシーが無かった。

 お父さんが、仕事してたころはちごた。

 保育所の年長さんになったころには分かってた。

 お父さんは、うちを保育所に送ってから仕事場に行ってた。仕事場がたいがいやいうのも分かってた。府立高校でも有数のシンドイ学校。子供心にも大変やなあて思てた。
 小学校に行くようになってから、お父さんが先に出た。七時過ぎには家を出てた。仕事熱心やいうこともあったけど、半分は通勤途中に生徒と出会わせへんため。登校途中の生徒といっしょになるとろくな事がない。タバコ見つけたり、近所の人とトラブってるとこに出くわしたり。せやから、そのころのお父さんは可哀想やと思てた。
 それが、うちが中学に入ると同時に退職。可哀想は逆転した。
 お父さんは、早よから起きて「仕事」。で、うちは小学校よりもしょーもない中学校に登校。

 今日は、いつもより一分早よ出た。

 ほんで、近鉄が四分延着してて、いつもより一本早い準急に乗ってしもた。
 大阪人の悲しさ。たとえしょーもない学校行くんでも、一本早い電車に間に合いそうやと、走ってしまう。

 で、電車に飛び込んで気いついた。

「あ、先輩!」
「お、明日香!?」

 なんと、早朝の電車に関根先輩と美保先輩が私服で乗ってるのに出くわしてしもた。二人ともなんや落ち着きがない。ほんでから、あきらかに一泊二日程度の旅行の荷物と姿。

 卒業旅行? 

 せやけど学校は二人とも違う……こういうバージョンの卒業旅行は特別やろ……バッグの中味が妄想される。コンドーさん一ダースに勝負パンツ……うう、鼻血が出る!

 鶴橋で、先輩二人は環状線の内回り。学校行くんやったら外回りのはずや。
「どうぞ、楽しんできてください!」
 思わん言葉が口をついて出てくる。
「あ、ありがとう」
 美保先輩がうわずった声で返事を返してきた。こら、もう確実や……。

 桃谷の駅に着いたら、女子トイレから鈴木美咲先輩が出てくるのが見えた。なんや髪の毛いじって、右手で制服伸ばしてる……スカートが、真ん中へんで横に線が入ってる。今の今までたたんでましたいう感じ。
 で、紙袋から、私服らしきものが覗いてる。

「え……!」

 思わず声が出るとこやった。美咲先輩は、その紙袋をコインロッカーに入れた! 気ぃつかれんように直ぐ後ろに近寄る。明らかに朝シャンやった匂いがした。

 美咲先輩お泊まりか……また、頭の中で妄想劇場の幕が上がる。

 しょ しょ 処女じゃない 
 処女じゃない証拠には 
 つんつん 月のモノが三月も ないないない♪


 父親譲りの春歌が思わず口をついて出てくる。
「こら、アスカ!」
 後ろ歩いてた南風先生におこられた。

 なんで、今日はこんな人らに会うんやろ。これも近鉄のダイヤがくるたから。と、近鉄にあてこする。

 教室についたら、一番やった。で……違和感。

 直ぐに気いついた。金曜日まで花といっしょに置いたった佐渡君の机が無くなってた。

 朝からのしょうもないことが、いっぺんに吹き飛んで、心の閉じかけててた傷が開いて血が滲み出してきた……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・104「八重桜の教育的手腕・2」

2017-10-29 11:02:24 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
104『八重桜の教育的手腕・2』
              



 アイデアはよかった。

 ミリーとミッキーが舞台に立って、三輪車の須磨先輩と啓介先輩と助っ人の美晴先輩が二人の周囲をグルグル周る。
 うん、ちゃんと子どもに見える。

「じゃ、カゴメカゴメやってごらん」

 八重桜先生の指示でミリーを真ん中にカゴメカゴメを始める。

 かーごめかーごめ かーごの中のとーりーは いーついーつ出やーる……(^^♪

 あ、いい、これいい!

 みんな、そんな感じ。
 面白くなって、鬼を交代してみんなでやり始める。
 最初は、三輪車なんてどうだろう? 『夕鶴』の世界に馴染まないんじゃないだろうかと思った。
 でも、三輪車というアイテムは高校生に子どもの心を思い出させてくれるようで、みんな喜々としてやっている。
「そうよ、ここで大事なのは子供らしいハズミなの。三輪車って、みんな子どものころに乗ったじゃない、背丈も子どもの背丈に戻るじゃない、するとね、なんの演出もしなくても子どもを演じられるのよ🎵」
 先生はガキ大将になったような楽しさで解説してくれる。
「じゃ、沢村さん入ってみようか」
「え、わたしですか!?」
「あれなら、混ざれるでしょ」
「あ、え……」
「千歳、やってみようや!」
 啓介先輩が賛同して舞台に……。

 それが簡単ではなかった。

 さすがバリアフリーモデル校である空堀高校もステージまではできていない。
 車いすではいかんともしがたく、一瞬みんな固まってしまうが「ダッコしたらいける!」啓介先輩が叫んで、一番体格があるミッキーがお姫様ダッコで舞台に上がった。で、生まれて初めてのお姫様ダッコでもあったのです!
「ディズニーアニメにこんなシーンあったな~」
 ミッキーは優しい男の子だけど、なんたってアメリカ人、体格もタッパもあってルックスはもろ欧米系のナイスガイ。
 ほんの三十秒ほどだったけど、ドッキンドッキン!
 それでカゴメカゴメをやってみる……なんとか出来た。

 なんとかというのは、車いすでミリーの周りをまわると、舞台の前に出ると、ちょっと怖い。

 府立高校の舞台というのは、奥行きが3・6メートルしかない。
 それもカタログデータで、実際は幕とかホリゾントライトが置かれるので、実際は3メートル。
 中ほどにミリーが居て、その周りを車いすで回ると……ちょっと狭い。
 舞台の高さは1・3メートルだから、目の高さは2メートルを超える。タイヤと舞台の端っことは30センチほど。
 でも、雰囲気がアゲアゲになっているので怖いとは言えない。

「じゃ、鬼ごっこしてみよっか」

 先生の一言、みんな「おーー!」って感じでノッテいる。
 わたしもおっかなびっくりで参加。でも、ものの数秒でみんなは停まる。
「先生、鬼ごっこは勢い付いて怖いってか、危険です」
 さすが生徒会副会長、美晴先輩が異議申し立て。

「やっぱりね、こうやってやってみると実感するのよね」

 先生は演説を始めた。

「府立高校の舞台は床下にパイプ椅子を収納するために標準より40センチも高いの。それにフロアの床面積とるために奥行きが無くって、じっさいやってみると、もう身の危険を感じるくらうなのよ。ね、これが大阪府、いえ、日本の文教政策の現実! 見た目だけに気を取られて、本当には現実に目が向いてないのよ! この現実に、わたしは断固抗議するものです!」

 思わず拍手してしまった。

 最初に、この演説を聞かされたら、正直腰が引ける。
 でも、じっさいに自分たちがやってみて危険や不便さを感じると肯けるし、正直な拍手になる。

 わたしは八重桜先生を見直した。
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・315『あしの名はあし!』

2017-10-28 06:59:16 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・315
『あしの名前はあし!』



 あしは一人称が「あし」 自分では「あたし」て言うてるつもりやったけど、正月に啓介に指摘されて愕然。

 で、気いつけて「あたし」て言うねんけど、すぐに「あし」に戻ってしまう。
 啓介はバカにするつもりで言うたんやない。ちょっとあしの……あたしの面白いクセとして喜んでるだけ……やと思う。
 そやかて、受験で忙しい時に映画に誘うてくれた。

『幕が上がる』を見に行った。

 知ってる人おおいと思うねんけど、ももクロが本気になって演技に取り組んだ初めての映画。あしは、あれを見て、高校行ったら演劇部に入ろと決心した。
 あとで分かったことやけど、啓介は大のももクロファン。よう思うたらダシにされただけかも……せやけどええねん。ダシにするんやったら、他にもいてる。他にもいてるその中からあしを選んでくれたんやから、中三としては、それでよかった……。

 あしはO高校に入った。偶然やったけど、O高校は大阪でもトップクラスの演劇部。あしは一も二も無く演劇部の門をたたいた。

 凛々しい発声練習、気合いの入ったストレッチ、外からでも聞こえる稽古場の声。あしも、その一員になれた!

 五月に総会と兼ねた講習会がK高校であった。これにも感激! なんちゅうことやろ、いつもやったら五百人くらいのとこに七百人も集まった!

 九十分ほどのワークショップはあっと言う間に終わってしもた。脱力と集中、発声方にエチュードの大事さと、コツを教えてもろた。

 クラブの基礎練習も良かったけど、講習会で習うたことも試したかった。
「うちは、うちのやり方やさかいにね」
 先輩は、そない言うて、相変わらずの発声練習。気いついたら、先輩ら、みんな同じ声や。すごいねんけど個性が無い……思うてても口には出されへん。「あのう……」て言いかけただけでシカトされてしもた。あしの幕は、なかなか上がれへん。

 夏休みにOHPに出るための稽古。既成の本やけど、言うたら、学校やらあしのこと分かってしまうんで堪忍してください。

 期末テストを境に1/3ほどが辞めていった。あしとこは親が寛容ちゅうか無関心言うか、欠点二三個とっても、家に帰るのが十一時になっても何にも言わへん。
 馬力にまかせて、まるで突貫工事でビル建てるような勢いで稽古した。

 OHPは大盛況やった。観客席も舞台も一体になって、ごっつい熱気やった!

 せやけど「幕が上がる」とは微妙に違う。違う思いながら季節は巡って、コンクールが近くなってきた。新入部員は半分にまで減った。
 コンクールは顧問のY先生が……あ、一応生徒が書いたことになってるをする。あしのクラブは創作脚本賞をようさんとってる……わりには、よそでやってくれたことがないのに気いついた。

 同期のチイちゃんが辞めたときはショックやったけど、先生はすぐに本を書き直して、チイちゃんの役を無くしてしもた。
 このころ、ちょっと疑問が湧いた。うちの顧問はもう四十代の後半や。そやけど独身。
「オレは高校演劇と結婚したんや!」と先生は言う。

 そやけど、先輩からこっそり教えてもろた。

 実は、先生は昔の部員と恋仲になったらしいけど、実らへんかったらしい。こういう話には耳がダンボになる。なるけど、先輩はそれ以上は教えてくれへんかった。先輩らは尊敬してるらしいて、一定以上の先生の話はしてくれへん。

 コンクールになった。

 びっくり……がっかりした、ちょっとだけ。客席が寂しい……。ももクロの映画やったら、家族やら友だちやら一杯来てくれて、ハラハラドキドキ。ほんで幕が上がる。
 不思議とあがれへんかった。自然に役の中に入っていけて、クライマックスでは、ほんまに役として泣くこともできた。

 映画ほどやなかったけど、達成感はあった。

 正直先輩らみたいなステレオタイプの役者にはなりたなかったから、こっそり『メソード演技』の本買うて練習してた。稽古が進んでいくにしたがって、台本やら台詞の無理やら飛躍に気いついたけど、なんにも言わへんっかった。舞台ではすんなり渡す道具があったけど、本番ではあしは渡さへんかった。相手役は先輩やったけど、切実に「渡して欲しい」気持ちになってへんかったから、渡さへん。
 先輩はマジで「渡して!」と叫んで渡したげた。客席からまばらな笑いが起こった。

 六十点ぐらいの出来やったけど、よその学校がひどい出来やったから最優秀間違いなしやと思うた。

 それが、信じられへんことにS高校が最優秀持っていきよった。
――伝わらないもどかしさが、よく現代社会をあらわしてました!――
 なにそれ? みんな思うた。S高校は、ただヘタクソなだけやのに。
――O高校は安心して観てられました。破綻もありませんでした。ただ作品に血が通ってない。思考回路、行動原理が高校生と違います――
 ワケ分からへん。先生も同じ気持ちらしい、血管が浮いてた。
「あいつ、むかしT高校落としたときと同じこと言うとる!」
 そやけど、審査は絶対。

 なんで映画みたいにいかへんねやろ。

 アホくそなって、うちは演劇部を辞めた。

「な、あし、ちゃんと『あたし』て言うてるやろ?」
 明くる年の初詣で啓介に聞いた。
「ハハ、やっぱり『あし』やな。半年演劇部におってなにしててん」
「そやかて、ちゃんと!」
「あしはあしでええ。無理して変えたら自分らしないわ」

 気持ちが籠ってた。演劇部……無駄やったんか、成果に繋がったんか、まだ整理はできてません。

 せやけど、もうええ……そんな気持ちのこのごろです。あしの名前は……あしです。


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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・103「八重桜の教育的手腕・1」

2017-10-27 11:44:46 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
103『八重桜の教育的手腕・1』
              




 無い知恵を絞った。

『夕鶴』の登場人物は以下の通り。

 与ひょう(傷ついた鶴を助けてやるお百姓) つう(与ひょうに助けられた鶴の化身のヒロイン)
 そうど(与ひょうをそそのかし、つうに千羽織を織らせる) うんず(そうどの仲間の小悪党)
 こどもたち

 字面で見ると、こどもたちというのはモブキャラで、ほんの添え物。

 だから、うっかりどうとでもなる。と、軽く考える。

 軽く考えて、そこいらの知り合いに声をかけて本番だけ舞台に立ってもらおうと思った。

 ところが八重桜に言われ、1/20の舞台図を書いて、1/20の役者を配置してみると……暑苦しい。
 与ひょうやつうと変わらない体格の子どもたちが四人も五人も舞台に出ると、もう、なんちゅうか言葉が無い。

 俺のソウルフードである冷やし中華に例えると、主役である中華麺よりもゆで卵とかキュウリとかが幅を利かせすぎの感じ。
 冷やし中華の上に、丸まるのゆで卵とキュウリ、トマトも焼き豚もマルッポ入ってたら……これは完全にアウト。

 う~ん

 演劇部に入って、こんなに芝居の事を考えたことは無い。
 
 長年歩いた通学路、目をつぶってても歩ける道やのに、事故に遭いかけた。

 わっ!!

 目の前に三輪車に乗ったガキが横の道から飛び出してきよった。
「ビックリするやないか!」
 怒ると、三人のガキはケタケタ笑いながら行ってしまいよった。
 三輪車やと背丈が半分になってしもて、とっさには視野に入れへんのや。
 まあ、近所のガキなんで怒っても効き目は薄い。追いかけてカマシタロとも思たけど、その時思いついた。

 せや、三輪車や!

 子ども役を三輪車で登場させたら背丈は半分、ペダル漕いで動くから、小回りきくしチマチマとした動きは子どもらしいやんけ!
 それに千歳も出せるんちゃうやろか?
 車いすの方が三輪車よりもかさ高いけど、ちょっと大きめのオネエチャンいう感じでええことないやろか!?

「先生、アイデアです!」

 あくる日、さっそく八重桜に提案した。
 ちなみに、八重桜の事を――先生――と呼ぶのは、めっちゃ久しぶり。いつもは――あのう――で済ましてる。
「うん、それはいいアイデアね」
 まず誉めてくれた。八重桜でも褒められると嬉しいもんや。でも、これは教師としての教育的配慮やった。
「ダンス部が小道具の三輪車持ってるから、ちょっと借りてためしてみよう」

 演劇部一同で三輪車三台を持って体育館の舞台を目指した……。
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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・180『ガルパン女子高生・2』

2017-10-27 06:45:24 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・180
『ガルパン女子高生・2』
        
  初出:2014-04-15 15:56:16


 女子高生と思しき少女は、じっと耐えていた。

 そして、やにわに道路を渡ったかと思うと、堪えた声で、こう言った。
「あなたたち、どこの人? なんで、大勢で邪魔すんの?」
 大勢の中の一人が諭すように言った。
「ぼくたちは、善意の市民団体なんだ。日本の安全と民主主義を守るために、こうして集まったんだよ」
「じゃ、地元の人じゃないんだね?」
「そう、はるばる全国各地から……」
「邪魔せんとって、とっとと帰って!」
「キミなあ、自衛隊は憲法違反なんだ、日本の平和のためには、あっちゃいけないんだよ。そもそも憲法9条……」
「ここの人らはな、あの震災の時に、歩いて助けにきてくれたんや。家が潰れてお母ちゃんと妹が下敷きになって、近所の人らも手伝うてくれたけど、いのかされへん。隣町の火事が、だんだん近こうなってくる。消防車もパトカーも素通りや。わかるか、あんたらに、この悔しさ。その中に、ここの部隊の人らが、歩いてきてくれはった。『ぼくたちで良かったら手伝います』そない言うて、『お願いします!』言うたら、ここの人らは隊長さんの『かかれ!』の一言で、人海戦術で瓦礫をどけて、どけて……火事が、すぐそこまで来てるのに、妹とお母ちゃん出してくれはった。二人とも、もう息してへんかった。ほんなら……ほんなら『ごめんな、かんにんな』『ぼくらが、もうちょっと早く来れてたら。申し訳ない!』言うて妹とお母ちゃんに謝ってくれはった。あとで知った。ここの部隊の人らは地震のすぐあとから出動の準備してたけど、出動命令が出えへんから夕方まで動かれへんかった。それから、ここの部隊の人らは、食事の配給やら、お風呂湧かしてくれたり、夜中は素手で見回りもしてくれはった。そんな部隊の人らの創立記念のお祝いのどこがあかんのや! うちは、だれもけえへんでも、一人でもお祝いするんや!」

 最後のほうは、少女の声は嗚咽になっていた。百人ほどの市民団体の人たちは一言もなく、横断幕をたたんで帰った。
 少女は、肩を震わせて、市民団体が引き上げるのを見届けると衛門に向かった。
 衛門の衛守をしていた隊員は、けして社交辞令ではない、心からの敬礼で少女を迎えた。

 USBメモリーには、You Tubeから移した、そんな映像が入っていた。

「こんなことが、あったんやね……」

 アッチャンがしみじみと言った。
「これ、阪神大震災のときのことやね……」
 ほかにも、東日本大震災の記録や、自衛隊の記録が残っていた。
 自衛隊の機甲科(戦車隊)についての意見書もあった。
「90式は感心しない。50トンの重さに耐えられる橋梁が、我が国にどれだけあるのか。また、長距離移動では、特別なトランスポーターに砲塔を外しての輸送しかできない。砂漠や、原野ならともかく、日本の地理的条件には合っていない」
「ようやく、10式採用。44トン。3・24メートルの全幅は鉄道輸送も可能。我が国に合った戦車が、ようやくできた。慶祝なことである」
 そんな文章もあった。あたしは、ヒイジイチャンから、こんな話を聞いたことは一度も無かった。いつも無邪気にラジコンの戦車で遊んでいる、子どものような姿しか覚えていない。
 しかし、ただの遊びでは無かった。座布団で土手を作って、いかに効率の良い稜線射撃ができるか。M4シャーマンの76ミリ砲で、いかにタイガー戦車に勝てるか。そんなことがノートにこと細かく書かれていた。

 ガルパンの最終戦で、ドイツの100トン戦車マウスを撃破したのを賞賛していたが、89式戦車をマウスの車体に載せて砲塔旋回を不能にするような高度な操縦が可能であろうか? と、専門家らしい意見と「自分がやれば、50%の確率で可能である」と締めくくっているところなど、ご愛敬。

 あたしは、意地を張ってスマホを止めることはよした。使用を再開したが、必要最小限のことにしか使わなくなった。アッチャンもそれに付き合ってくれて、逆に直接会って話をする機会が増えた。
 だから三年になったとき、進路のことなんか、二人で真剣に話すことができた。

 アッチャンは特推で大学に。あたしは自衛隊に入った。で、三か月の基礎訓練が終わって気が付いた。

 自衛隊では、唯一機甲科に女の子が入れないことに、ああ、美保のバカたれ!



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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・179『ガルパン女子高生・1』

2017-10-26 06:50:06 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・179
『ガルパン女子高生・1』
        
初出:2014-04-14 16:59:55


 ガルパンと聞いてあなたは何を想像しますか?

 ミセパン、ハミパン、ガールズパンツなどを連想する方は期待はずれです。
 ガルパンとは、『ガールズ&パンツァー』のことで、大洗の町おこしにも大いに役立ったっていう、スグレモノのアニメです。で、パンツァーとは、ドイツ語でPanzer Kampf Wagenで、戦闘車両=戦車を現します。
 可憐な女子高生が、戦車道にいそしむアニメで、その戦車や戦闘の描写などには定評があり、今でもコアなファンが全国各地に生息していて、この冬にはシリーズ最終映画が封切られます。

 あたしがガルパン女子高生になったのは、二つのきっかけ。

 一つは、スマホの煩わしさ。
 
 ラインなんかやってると、もうヤギさんのお手紙状態。「今なにしてる?」「電車乗ってる」「今は?」「テレビ見てる」「なんのテレビ?」「なまり歌コンテスト!」「なにそれ?」「鉛で歌うたってるの(変換ミス)」「ってか、わけわからん」「アッチャンは?」「前田 敦子かあたしのことか?」「あんたのことに決まってとろうが!」「これからお風呂」「じゃ、しばらくバイバイだね」「うちの、耐水仕様!」「あ、そう」「今から、体洗う」「おお、洗いますか?」「今、どこを洗ってるでしょう?」「え、え、え、どこどこ!?」「ラインじゃ言えません」「この変態オンナ!」などとつまらないこと、この上なし。

 で、止めた。てか、ちょうどヒイジイチャンが亡くなったんで、三日ほど止めざるを得なかったのです。

 家族葬だったけど、親友のアッチャンは来てくれた。

 で、お通夜の晩、シミジミとしてしまった。ヒイジイチャンは94歳だったけど、亡くなる直前まで元気で、あたしのこともよく可愛がってくれた。スマホを買ってくれたのもヒイジイチャン。中学の時、スマホが欲しくて、お母さんにオネダリしたら拒絶された。
「あんなのにハマってどうすんのよ。自腹で払えるようになるまではダメ!」
 と、今時の母親としては珍しいことを言った。うちは、お母さんがダメだと言ったらダメなのだ。

 で、ヒイジイチャンにグチったら、一発で買ってくれたし、毎月の支払いまでやってくれた。

「人間、やって失敗する後悔よりも、やらなかった時の後悔の方が大きい」
 この一言で、お母さん以下家族全員が黙った。

 そのヒイジイチャンが、スマホのお礼を言いに行ったとき(なんせ、本人はスマホもケータイも持っていない)ガルパンを教えてくれた。
「人が死ななければ、戦車ほど面白いものは無い。美保も見てみい」

 で、あたしはガルパンにはまった。

 ヒイジイチャンは、戦時中戦車隊の小隊長をやっていて、戦争がもう一カ月も続いていれば、九州で死んでいたらしい。
 戦後は、陸自で戦車に乗っていた。射撃は特一級で、コンピューターの無かった時代に、30キロでスラロームしながら1000メートル先の的をぶち抜いた腕を持っていた。

 遺品には、ラジコンの戦車が10台ほど出てきた。ヒイジイチャンは、よくこれで、BB弾を発射して遊んでいた。

 子どもみたいなジイサンだと思っていたけど、やってみると案外ってか、すごく難しい。まっすぐに走ることさえ、あたしには出来なかった。

 ラジコンはオモチャだと思っていたけど、ヒイジイチャンはこまめに改造して、相対速度、砲塔の旋回、弾の発射の間隔など実物通りにしていた。

「61式が、世界で一番」と、よく言っていた。

 ネットやらで検索するとアメリカのM47の縮尺コピーみたいな戦車。ちょっと詳しくなると、車高が高いことや、変速機のカバーを車体前面のネジ留めにしたことで、前面装甲に問題があること。変速のタイミングが難しく、世界でも操縦の難しい戦車であることなどが分かった。

 でも、日記に、こう書いてあった。

 2000年3月30日、61式全車退役。一度も実戦に出ずに退役した世界で唯一の戦車になった。こんなに目出度いことはない。

 軍隊ってのは、戦わないためにあるんだ。ヒイジイチャンの言葉を思い出した。でも、ヒイジイチャンの理解は、まだ浅かった。

 それは、ラジコンの戦車のメンテをやっているとき、M4戦車の車体の中から出てきたUSBメモリーがきっかけだった……。



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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・102「アイデア出してちょうだい!」

2017-10-25 11:43:28 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
102『アイデア出してちょうだい!』
              


 こんな人だとは思わなかった。

 と言っても悪い意味とちがう。


 ゴリゴリの左翼のオバハンやと思てた。誰のかて?
 八重桜でんがな、図書館の主にして、選挙前には階段からわざとらしく選挙のチラシばら撒いて選挙権の有る三年生にアピールとかしてた。脳みそお花畑のパヨパヨチン。
『夕鶴』を演るについて千歳を主役に付けようとした。車いすの千歳がけなげに演じたら、世間の注目が得られるという下心見え見えやった。千歳も「感動ポルノ」みたいなことはやりたない言うてた。
 でも、千歳の気持ちを伝えると、あっさり撤回した。

 おや? という感じ。

 次のアイデアで、ミリーとミッキーを主役にすると言いだした。

 ああ、これも異文化交流とかグローバリズムとかの美辞麗句キャプションが付くねんやと思た。
 どこまで行っても左翼は左翼、パヨクはパヨク、ブサヨはブサヨやと思てた。

 あーーこんなに痩せてしまって……

 ミリーは、このセリフを口にしたら絶対観客に笑われる! と悩んでた。

 ちなみにミリーはデブではない。
 近ごろは女性の容姿を誉めるのもセクハラとか女性差別とかとられかねないんで、言うたことないけど、ミリーはナイスバディーや。「こんなに痩せてしまって……」をかましても笑うやつは居らへんと思う。
 そやけど、一回言うてしもたら、話の流れでセクハラとられそうやから、言わへんかった。

 じゃ、その台詞カットしよ。

 八重桜は、これもあっさりと呑み込んだ……。

「とにかくさ、やるんなら楽しくやろうよ」
 稽古場として確保した空き教室。
 机や椅子を取っ払った真ん中、丸く並べた椅子に落ち着くと第一声をあげた。
 これも意外。
 パヨパヨチンなら教条主義的なテーマとかスローガンめいたものが出てくると思ったからだ。

 与ひょうがつうに家事を押し付けたり、千羽織を強要するのは女性差別。
 物欲や金銭欲は人の心を蝕んでいく。
 ほんとうに大切なものは失ってみなければ分からない。

 演劇に疎い俺でも、これくらいのスローガンめいたことは浮かんでくる。
 浮かんでくるし、こんなものを頭に入れてやったら、ほんとに左翼のプロパガンダめいたものになってしまう。
 女性差別⇒言い返すこともできないジェンダーフリーへの無条件降伏!
 物欲金銭欲=資本主義の悪!
 大切なものは失ってみなければ分からない⇒このフレーズは直ぐに表現の自由とか思想信条の自由とかに転嫁されてしまう。

「アハハ、芝居って、そんない詰まらないもんじゃないわよ」

 俺の顔色を察した八重桜は、古臭い迷信話を笑い飛ばすように両手を顔の前でヒラヒラさせた。
「ね、わたしの最大の興味は子どもたちなのよ」
 意外なことを言う。
 確かに『夕鶴』には子どもたちが出てくる。与ひょうやつうに「遊んでけれ」「歌うとうてけれ」と迫ってきて、実際舞台でカゴメカゴメをやったりする。

 子どもたちは声だけの出演だと思っていた俺はとまどった。

 高校生がツルンツルンの着物着て、台詞だけ子ども言葉……ありえない。
 じっさい上演記録を見ても声だけにしていることが多い。じっさいに出すんだったら子役を使っている。
 おれたちの稽古だけでいっぱいいっぱいなんだ、子役を調達している暇なんてない。

「子どもは出さなきゃだめよ、はい、アイデア出してちょうだい!」

 ポケットに入れたキャンディーのように気楽に言われた……。
 
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『ライトノベル・4』

2017-10-24 06:53:21 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『ライトノベル・4』
                    



 ケイは佐藤先輩と杉野さんカップルの共通のカワイイ後輩という、妙な位置に落ち着いた。

 杉野さんも、生徒会の会計をやっているので、ケイの働きぶりや、人柄をよく知っていた。だから人間としてケイのことが嫌いなわけではない。むしろ目端の利く働き者のかわいい子という認識では、一致していた。
 ただ、自分の恋敵としてのケイの存在が許せないのである。

「じゃ、二人の妹ぐらいのところで手を打てよ」

 生徒会長の、なんとも玉虫色のような結論に落ち着いてしまった。
 しかし、生徒会をバックにつけたようなものなので、なにかと便利だった。クラブの稽古場は、今まで、普通教室の渡り鳥で、舞台の実寸通りの稽古ができず。始めに机を片づけ、終わったら机を元に戻すという厄介な作業に時間と労力をとられていた。
 それが、なんと同窓会館が使えるようになった。
 一度椅子やら机を片づけてしまえば、本番が終わるまで、そのまま使えた。エアコンの効きも良く。なんと言っても舞台と同じスケールで稽古できるのは嬉しかった。

 家に帰って、ライトノベルを読むと、そのことがオモシロおかしく書かれていて、ここんとこ毎日読んでいる。読み返してみると、ケイは、いつも誰かに助けられてというか、利用して、あるいはギブアンドテイクでやってきたことが分かる。

 で、これがヒントになった。

 いま稽古している『すみれの花さくころ』はネットで検索したら、名古屋の音楽大学がオペレッタにして上演したことが分かった。

「アタックしてみたら」

 シオリのオネエサンも、そうけしかけてきたので、佐藤先輩に頼んで、その音楽大学に電話をしてもらった。だって、音大の教授なんておっかなくって、まともに話なんか出来ない。
 で、さすがは文化部長。楽譜と上演のDVDまで仕入れてしまった。

「いいねえ~」
 と、沙也加。
「すてきねえ~」
 と、利恵。
「でもねえ……」
 と、三人。

 音大のオペレッタは素敵だったけど、グレードが違う。とても、この素敵さでは歌えない。
「そうだ、あたしたちが歌ってあげよう!」
 杉野さんの頭に電球が灯った!
 杉野さんは引退こそしたけど、元音楽部の部長だ。現役の中から演劇部三人の声に似た子に歌わせ、もちろんピアノのやらの伴奏付きで。
 それをバックでやってもらいながら、次第に自分たちの声を大きくするという手法をとった。

 大成功だった。地区大会は大反響だった。
「高校演劇に新風を吹き込んだ!」
 審査員の一人は激賞だった。
「でもね、音楽部の手を借りるのはルール違反じゃないかしら」
 常勝校ゴヒイキの女審査員は痛いところをついてきた。

「それは、ちがいます」

 佐藤先輩が手を挙げた。

「我が校は、演劇部、音楽部、軽音楽部、ダンス部をまとめて、舞台芸術部と称しております。つまり、逆さに言えば全員が演劇部というわけで、そういう点では、貴連盟の規約を尊重しました。部員数だけパンフレットを買わなければならないとされてもいますので、そのようにいたしました。ボクの勘違いかもしれませんが某校はうちの近所の中高一貫校の中学生がスタッフをやっていたやに見受けましたが……」

 これで、審査員は黙り込んだ。

 その日『ライトノベル』を読むと、佐藤先輩の爽やかな弁舌がイラスト入りで載っていた。最後の行が気になった。

――それからの主役は自分自身であると、ケイは、思い直すのであった――

 で、『ライトノベル』の残りのページは、もう十ページほどしかなかった。

 いよいよ、中央大会である。みんな張り切った。沙也加が主役のすみれ。わたしがもう一方の準主役・咲花かおる。で、おっとりの利恵は由香と予選に変わらぬ布陣であったが、ダンス部がのってきて、ダンスシーンはAKBか宝塚かという具合になってきた。
 ラストシーンの、かおるが幽霊として川の中に消えていくシーンでは、感涙にむせぶ観客まで居た。

 問題は、全てのプログラムが終わって、審査発表前の、講評で起こった。

「ええ、都立乃木坂高校ですが……問題点から言います」
 でっぷりした、審査委員長クラスのオッサンが、上から目線で言った。
「作品に血が通っていない……というか、行動原理、思考回路が、オホン。高校生のそれではありません」
 頭に血が上った。この審査員は、かねてから某常連校の顧問とも親しく、はなから、結論をもって審査に臨んでいる……という、噂だった。

――ケイ、あなたが主役よ!――

 シオリのオネエサンが、初めて口をきいた。
 ケイは、背中を押されたようにして立ち上がった。

「今の言葉、もう一回言ってみてください」

 一瞬シーンとしたあと、オッサンは、肩をそびやかせて、くり返した。
「作品に血が通っていない……というか、行動原理、思考回路が、オホン。高校生のそれではありません」
「あなたは、テープレコーダーですか!?」
「は……?」
「仮にも、中央大会の審査員。もう一回と言われて、そのままくり返すバ(カの字は飲み込んだ)アイがあるんですか。もう一度と言われたら、前の発言を補強するだけの論理性と整合性がなきゃ、イケマセン」

 そうだ、そうだの声が上がった。

「え……」

「つまりい! どこをもって血が通っていないというのか!? どこをもって、行動原理、思考回路のそれが、高校生のそれと違うっていえるのか、ようく分かるように言ってもらおうじゃありませんか!」
「それはね、キミ……」
「それから、その後に書いてある、主役の女子高生をババアの設定にすればいいかも? それ、いったいなんですか!?」
「な、なんで知ってんの?」
「ボクが後ろから、ずっと見てました。先生がこの舞台をご覧になっていたのは、十四分二十五秒しかありませんでした。残りの時間は、ずっと目をつぶっていらっしゃいました。だよね計時係り?」
「はい、そうです」
 佐藤・杉野コンビも冴えている。
「今は、講評で審査結果の発表ではありませんよね。どうぞ、審査員室で、審査の続きをなさってください」

 審査は事実上のやり直しになった。

 結果的には、ケイの乃木坂は二位で、関東大会に出ることになった。しかし、それから連盟のサイトは炎上することになった……。

――そして、ケイは自分の足で歩き始めた。もちろんケイ自身の道を――

 『ライトノベル』はそうしめくくられ、完、となっていた。

 ケイは無性にお礼が言いたくて、無駄と思いながら、あのショッピングモールに行ってみた。ショッピングモールは、クリスマス一色だったが、そこだけ、我関せずと店が開いていた。そしてレジにはシオリのオネエサンが居て、一瞬目が合った。お互いにニッコリした。ケイはお礼がいえると思ってカバンから『ライトノベル』を出した……すると、もう店は無くなっていた。

 あの軽かった『ライトノベル』はズッシリと重くなっていた……。

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・101「こんなに痩せてしまって……」

2017-10-23 12:36:06 | 小説
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
101『こんなに痩せてしまって……』
              




 おもわずライザップをググってしまった。

 だって、今のスタイルで『夕鶴』のヒロインをやる自信が無かったから。


 交換留学生のわたしとミッキーを使おうだなんて、もうビビってしまった。
 そりゃ、三年も日本に居れば日常会話はペラペラ、元々子どものころからお隣りの日系バアチャンの大阪弁に馴染んでいたので、言葉についての苦労は無い。

 でもね、舞台で、たとえ学校の文化祭と言ってもスポットライトを浴びることは別物なのよ。

 でもね、元来がミーハーのアメリカ人だから直観的にオモシロイ!と思ってしまう。
 思ってしまうと、平均的日本人の倍は豊かな表情筋が喜びの表情を作ってしまいのよね。

 で、しっかり台本を読んでみたの。

 で、あ~~~~~~~~~(;'∀')なの。

 鶴の化身であるヒロインのつうは、与ひょうに頼まれるままに『鶴の千羽織』を織っちゃうの、自分の体の羽毛を抜いてね。
 で、やっと織り終って一言こう言うの。

「お~こんなに痩せてしまって……」

 ここ絶対笑われる!

 けしてデブってほどじゃないけど、骨格的にガッチリしている。
 お風呂に入って、すんごく久しぶりに自分の裸を鏡に映してみたのよ。

 で、風呂上りに思わずライザップをググってしまった。

 とても文化祭までの期間に痩せることはできない。
 こんなことなら、出し物を『三匹の子豚』かなんかにしてほしいって思ったわよ。
 え、あれなら最初からプヨプヨのブタでしょって?

 最初からブタならいいのよ、プヨプヨのプニプニでも人は笑わないわよ。
 
 でもさ、プニプニの鶴ってありえないでしょ!
 まして千羽織を織ったあとで「こんなに痩せて」なんて、もうレッドカーペットかエンタの神様とかの世界よ!
 それに、元々の火付け役で、わたしをヒロインにしようって言いだして演出までやろうかって八重桜先生はゴリゴリのコミュニストで、反論でもしようもんなら、民主集中制だとか党の決定だとか言い出して梃子でも動かぬって感じよ。

 そんなチョーブルーな気持ちで最初の稽古に臨んだわけ。

「じゃ、今日から楽しく稽古しましょう。やってる者が楽しくなきゃ観てる人は絶対楽しくないからね、オッケー!?」

「「「「「「ハイ!」」」」」

「ハイ」

 みんな元気に返事する中、わたしだけが蚊の泣くような返事しかできない。
「あら、どうしたの?」
 さっそく聞きとがめられてしまう。
「え、あ、いや……『こんなに痩せてしまって……』に違和感ありまくりで」
「ん?」

 するとみんなの視線が集中して、こころなしか――あ、そうだよね――と言われたような気がした。
 トランプ大統領の心臓を羨ましく思った。
「なんだ、そんなこと気にしてるの」
「で、でも、重大事項なんです!」
「自意識過剰なんだと思うけど。そうね、気になるようなら……その台詞はカットしましょう」
「え?」

 十月革命のレーニンの演説写真からトリミングで消されたトロツキーを思い浮かべてしまった。
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『ライトノベル・3』

2017-10-23 07:02:08 | ライトノベルベスト
ライトノベルセレクト
『ライトノベル・3』
        


 全てが『ライトノベル』に書いてある通りになった。

 というか、読んでみると、その通り書いてある。ケイは思った。先の方を読めば未来のことが分かるかも!?
 ひょっとしたら、シオリのオネエサンが怖い顔をするかと思ったら、相変わらずのニコニコだ。
 ケイは、思い切って先のページを開けてみた!

 でも、読めなかった。

 だって、先のページはボンヤリして、字の輪郭も句読点もはっきりしない。目が悪くなったのかと、他のものを見るとハッキリ見えるし、今日以前のページはハッキリ読める。
「そんなバカな!?」
 ケイは、襖で半分仕切にしている結界から身を乗り出して姉の成子に聞いた。
「ねえ、お姉ちゃん。ここ何書いてあるか分かる?」
 姉は、スマホの手を休めずにチラ見して、こう言った。
「あんたにからかわれてるほどヒマじゃないの……」
「だってさあ……!」

「なんにも書いてない本、どうやって読めってのよ!」

「ええ、だってこれラノベだよ!」
 表紙を突きつけると、姉は、やっと本気で見てくれた。
「ハハ、『驚くほど、あなたのライトノベル!』 なるほどね」
「なによ。分かったんだったらおせーてよ!」
「これはね、ラノベのカタチしたメモ帳なんだよ。表紙なんか良くできてるけどね。なるほど、ただのメモ帳じゃ売れないもんね」
 お母さんにも聞いてみた。
「気の利いたメモ帳だね」 
 家族総出でかついでるのかと思って、国語のユタちゃん先生にも聞いてみた。
「かわいいメモ帳。あたしも欲しいな!」
「……これ、最後の一冊だったんです」

 だから言ったでしょ

 シオリのオネエサンは、そんな顔をしていた。で、当然、そこまでの分は読めるようになっていた。

 ケイは名前の通り軽……というわけではなかったが、移り気というか、八方美人というか、良く言えば忙しい女子高生である。クラスでは副委員長、クラブでは、たった三人の演劇部の部長。家では両親共働きのところへ、姉は卒論の準備と就活に忙しく、食事の準備……はできるときだけだけど、掃除やお使いなどは嫌がらずにやった。むろん勉強も欠点などは取った事が無く、成績優秀……というわけではないが、中のそこそこのところにいる。

 で、ライトノベルを無くしてしまった。

「おっかしいなあ……」
 その時は、姉の引き出しの中まで探して怒られたが、三日もしたら忘れてしまった。
 まあ、その程度に移り気というか、忙しい子である。

 やがて、季節は秋になり、文化祭の時期になった。

 クラスの文化委員がノリの悪い子で、結局はケイが率先してやらなければ、事が運ばない。ホームルームを開くとお気楽に《うどん屋さん!》などと決まりかけた。
 飲食店がシビアなのをケイはよく知っていた。

 食品を扱う者は全員検便なのである。

 忘れもしない、一年の時、焼きそば屋に決まり、ケイが責任者になった。検便の屈辱感をケイは忘れない。便器の中にトイレットペーパーを敷き、便器に前後逆さに座る。つまりおパンツ脱いで、大股開きで便器に跨り、自分の身から出たそれのヒトちぎり(これが、なかなかムツカシイ)トイレットペーパーの上に落とし、湯気の立っているそれに検査棒を突っこんで容器に戻す。この化学実験みたいなことを畳半畳もない空間で、やらねばならない。最悪なことにトイレのロックが甘く、うっかり当たったお尻がドアを勢いよく開けてしまって、事も有ろうに、お父さんが前の晩に酔っぱらって連れてきた峯岸さんという部下のオニイサンに見られてしまったことである。
 あの悪夢を思い出し、ケイは修正案を出し、占いとうどん屋のセットにして、自分は手相占いに専念した。

 演劇部も考えた。いくら本が良くても、芝居が良くても、五十分近いドラマを観てくれる暇人はいない。
 帰宅部でノリの良さそうな子を集めてAKBごっこをやった。最初はAKBが罰ゲームでやっていた、左右に等身大のお人形をくっつけて、制服で『フライングゲット』をやって面白がらせ、そのあと、九人ほどで気合いの入った『ヘビロテ』と『ポニシュ』で決めた。衣装はネットオークションで、前の年大学祭でやった奴を九千円で落札。若干日干しとファブリーズは必要だったが、十分の出し物としては大成功だった。

 そんなある日、ケイは、人生で初めてコクられた♪ 

 相手ははイッコ上の三年生の佐藤先輩。文化祭の舞台担当の責任者だった。互いに、文化祭の準備でチラ見はしていた。ケイは、自分たちのドジさや、時間管理のために睨まれているのかと思った。佐藤先輩は小柄ながらポニーテールのよく似合う、リーダーシップのある子だと思っていた。

 きっかけは、文化祭が終わっての帰りの電車。クラスとクラブを仕切ったケイはくたびれ果てて、精も根もなく、空いている座席に座っていた。
 電車が動き出したところまでは覚えているが、目が覚めたのは、自分の駅の一つ前。
「え……ああ、すみません!」
 ケイは、たまたま横に座っていた佐藤先輩の肩にしなだれかかり、口を半開きにして、ヨダレをたらしていた。そして、そのヨダレは佐藤先輩のハンカチで受け止められていた。それに気づいてケイは二度びっくり!
「すみません。洗って返します!」
 叫んだところが、自分の駅だった。
 電車が見えなくなるまで見送って、気が付くと、文化祭副委員長の杉野さんのサイドポニーテールが回れ右をするところだった……。

「なに、今の……」

 ついヘビロテを口ずさみながらアイロンをかけた。そして、きちんとたたんで、池袋のファンシーショップの袋にしまい。アイロンを押し入れにしまおうとすると出てきた、数か月ぶりでライトノベルが。

「なんで、ここに……」

 そう思って手に取ったライトノベルは、少し重くなったような気がした。

 笑いこけた。この数か月のことが、テンポ良く面白く書かれていた。もう不自然にも不思議にも思わなかった。そして、最後は面白がってライトノベルを読んでいるところで終わっていた。
 シオリのおねえさんは「慎重にね」と四文字で言っていた。

「あ、あの、その……少し考えさせて下さい」

 ハンカチを返したあと、コクられた。佐藤先輩のことは好きだったけど、ここは保留にした。シオリのオネエサンのアドバイスでなく、自分でそう思った。
 ペコリと頭を下げて部室に向かった。

 パシッって音がした。

 振り返る勇気無くって、ガラスに映ったそれを見た。

 佐藤先輩が杉野さんにひっぱたかれたあとだった……。

   つづく

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『ライトノベル・2』

2017-10-22 06:48:44 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『ライトノベル・2』
               



 めずらしく一番風呂をお父さんに譲った。

 それだけ早く『ライトノベル』が読みたかったのだ。

 読み始めて、はまりこんでしまった。

 やはり本は軽かった。特に軽い紙を使っていたり、装丁が甘いわけではなかった。だのに軽い。
 まあ、いいや。中身がおもしろければOKだ。

――主人公は、そのラノベの、あまりの軽さにのけ反った――

 本屋さんで読んだときそのものだ……いや違う。もう一度読んでみる。

――主人公ケイは、そのラノベの、あまりの軽さにのけ反った――

 主人公の名前が自分になっている……いや、本屋さんで読んだときも、つい今読んだときも、単に主人公だったような気がする。でも、流し読みだ。読み落としであったのかもしれない。
 次ぎに読み進んだ。

――気が付いたら、レジのオネエサンに500円玉といっしょに渡していた。
「この本、これが最後の本なんですよ。ラッキーですね」
 オネエサンは、我がことのように嬉しそうな顔になった――

 自分の行動そのものだった。そのあと、シオリをもらったら、レジのオネエサンそっくりだったことや、モールの入り口で振り返ったら、本屋さんそのものが無くなっていたこと。駅の改札機が鈍くて、定期を当てても通せんぼされたこと、お腹の大きい女の人に席を譲ったこと。そして家に帰るまでの描写など、ケイのこれまでの行動がそのまま軽妙な文体で書かれていた。

――そして、ケイは、ふと頬杖ついてクラブのことを考えた――

 その言葉に触発されたんだろうか、ケイは、今日のクラブのことを考えていた。
「やっぱ、コンクールは創作劇だよ。創作だってことだけで持ち点高くなるって」
 沙也加が言った。
「でもさ、本書くどころか、脚本だって、ろくに読んだことないのに、創作なんてできる?」
 ケイは反対した。
「だってさ、部員三人きゃいないんだよ。予算も技術もそんなに無くって、ホイホイ都合の良い既成脚本なんかできると思う?」
「そりゃ、探してみなきゃ分かんないよ」
「じゃ、ちゃっちゃと探して読ませてちょうだいよ!」
「分かったわよ、明日は持ってくるから!」
 啖呵を切って、今日の部活は物別れだった。おっとりした利恵は、「まあまあ」と言っておしまい。

 ま、あとで考えよう。そう思い直して続きを読んだら、こう書いてあった。

――「ケイ、お風呂!」――

 同じタイミングで、お母さんに言われたんで、びっくりしてお風呂に入った。

 だいたい今日は、図書館にその脚本を探しにいったのだ。うまい具合に、登場人物で書き分けられた『いちご脚本集』というのがあった。でも、版が古いせいか、しっくりこない。他に何冊かあったが、いずれも古い本で、読む前に気が萎えてしまった。
 まあ、帰ってからパソコンで検索しよう……と、思っていたんだ!

 ふと、あの本屋に入ったときも、ひょっとしてぐらいの気持ちはあったんだけど、ラノベの書架を見たとたんに、ふっとんでしまった。
 で、そのことを思い出し、ケイは思わず湯船に沈んでしまうところだった!

 風呂からあがると、さすがにラノベのことは忘れてパソコンに熱中した。
「小規模演劇部用脚本」と正直に入力した。

 ビンゴ!

 八本あまりの脚本が並んでおり、人物や道具で絞り込んでいくと、一本残った『すみれの花さくころ』で、ピッタシ女子三人。三人分コピーし、ホッチキスで閉じたら、もう午前零時だった。
 そこでラノベのことを思い出したが、さすがに眠く、学校で読もうと、本を手に取ると、シオリが落ちてきた。あの本屋のオネエサンがニッコリ笑っている。裏を返すと、「窓ぎわの席は、どうもね……」とあった。

 明くる日のホームル-ムは、男子は野球、女子はバレーボールしようって、あらかじめ使用許可もとっていたんだけど、あいにく台風崩れの低気圧の接近で中止。急遽席替えに替わった。
 で、くじ引きで、ケイは窓ぎわの席……そこで、あのシオリの言葉が蘇った。
 野球部の健太が、前の席になったんでフテっていた。
「健太、よかったら、席替わろうか……」
 密談成立。二人は密かにクジを交換して、ケイは窓ぎわを免れた。あとは自由時間になった。
「そうだ、続き読もう」
 ケイは、昼休み、部室に沙也加と利恵を呼んで脚本のコピーを渡し、三人で読んだ。沙也加は、道具無しに、利恵は中身が気に入ってくれたようだ。そんなこんなで、例のラノベは読み損ねていた。

 ガッシャーン!

 本を開いたところで、大きな音がした。
 風で飛ばされてきた植木鉢が窓ガラスに当たって、さらに健太の頭に当たって粉々になった。
 みんなの悲鳴があがったが、当の健太はケロリとしていた。タオルの上からバッターのヘルメットを被って昼寝を決め込んでいたので、怪我一つせずに済んだ。ケイが、あの席にいたら、今頃は血みどろの重傷だっただろう。

 無意識に落としたラノベからは、シオリのオネエサンが「よかったね」という笑顔ではみ出していた。 

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・100「敷島先生と言うよりは八重桜」

2017-10-21 12:21:14 | 小説

高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
100『敷島先生と言うよりは八重桜』
       



 敷島先生と言うよりは八重桜

 図書室の主にして文芸部顧問で人権推進部部長で組合の文会長。教科は国語、わたしも一年で現国、三年の今は古文を習っている。
 年齢不詳だけど女の勘で五十代の半ばだと見ている。幾つに見える? 二度ほど聞かれたが、先生への礼儀として五歳くらい若い年齢を言っておく。生徒会役員を二年も務めれば、それくらいの気は回せる。
 八重桜というニックネームは彼女の出っ歯に由来している。
 花(鼻)よりも前に葉(歯)が出る。という意味で、彼女が新任で来た時からのニックネーム。当時の生徒会長が付けたらしい。
 嘘か真か、ご本人はニックネームの意味を知らない。生徒会長が命名した時に彼女は中庭の八重桜の下に居た。ハラハラと散る花びらが彼女の肩やら頭やらに降り注ぐので、生徒会長は、こう進言した。

「これからは、八重桜の君と呼ばせていただきます」

 彼女は、授業で源氏物語を教えていたところだったので、イケメン生徒会長が雅やかにも源氏物語のノリで言ってくれたのだと合点した。だから『八重桜』と呼ばれても悪い気はしない。
 どっちかというと苦手な先生なので、必要が無ければこちらからは話しかけない。

 その八重桜女史が四階へに階段を上りきったところで紙束を落としてしまった。

 紙束は階段の上昇気流に一瞬舞い上げられ、フワフワと舞い落ちた。
 三百枚はあろう紙が一階までの階段を花びらのように散り下った。
 生徒会室から職員室へ向かっていた私は、他の役員と一緒に舞い散った紙を拾い集めた。
 最初の一枚を拾って、それがK党の選挙ビラであることが分かった。
 街で渡されたら速攻ゴミ箱かポケットにしまい込まれるしろもの。
 直観的に学校でまき散らして良いものではないと思う。
 だから、みんなでせっせと拾って四階から下りてきた女史に手渡した。
「窓から飛んでったのもありますけど、一階まではこれだけだと思います」
「どうもありがとう、あ、そういや明日は投票日だったわね。あなたたち三年生でしょ?」
「ぼくは期日前投票をすませてきました」
 会長が言うと、女子は露骨にわたしを見た。いっしょの会計は二年生で選挙権が無い。
「明日は投票日、お天気悪そうだけど、きちんと投票にいきましょうね!」
 そう言うと、もう一度チラシを広げてから立ち去った。

「あれ、偶然を装った選挙運動やな」

 会長はニヤニヤして顎を撫でた。
「ほんとに期日前投票したの?」
「ああ言うとかんと、八重桜に選挙違反させるからなあ」
 そう言いながら、姑息な八重桜女史を面白がっている。
 もともと左翼は大嫌いなんだけど、学校の廊下で話題にするのはもっとイヤダ。

 職員室へ向かうと、出てきたばかりの八重桜とすれ違う。

 今度は、なにやらざら紙の冊子を持っている。
「八重桜さん、演劇部の演出かって出たらしいで」
 不快な感じがした。
 基本的に天敵の演劇部だけど、女史が演出家なんだか演劇部に働きかけるのはイヤダ。
 演劇部の三年は松井須磨だけだけど、立場を利用して明日の選挙の話とかは許されないと思う。
「なんや、留学生二人をメインに据えて、気合入ってるみたいやで」
「あ、そ」
「なあ、いっかい見に行けへんか、国際交流と文化部の視察。意義深いで」
 この会長が「面白い」という意義以外で行動することなどありえないんだけど、他の役員も乗り気になったので付き合うことにした。

 で、わたしは八重桜への認識を大きく修正することになった。
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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『ライトノベル・1』

2017-10-21 06:36:27 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
『ライトノベル・1』
                    


 あまりの軽さに、ケイの腕は五センチほど上がってしまった。

 その文庫サイズの本を手に取ったのは、数あるライトノベルが並んでいる中で、タイトルが意表を突いたからだった。

『ライトノベル』

 それしか背表紙には書いていなかった。
 膝の高さには、売り出し中の『魔法学校』や『ぼくの妹』なんかのシリ-ズ物の新刊本が平積みになっていた。いずれもケイは途中でつまらなくなって、投げ出した物ばかりである。
 だいたい、ライトノベルというのは、表紙で騙される。体は大人、顔は小学生みたいなヒロインのアップと、ポップなタイトルとキャッチコピー。で、読むと、たいがい半分くらいで飽きてしまう。『二宮ハルカの憂鬱』なんか、そのムチャクチャなストーリーと、話の飛躍に憂鬱になったが、ケイはたとえ図書館でただで借りたものでも「なにかの縁」と思って読んでしまう。
 それに、ごくタマにだけど、飯室冴子や大橋むつおのような当たりがある。そこでケイは、面白げなものがあれば、書名、出版社を記憶しておいて図書館に希望図書として登録する。で、まあ、八割の確率で読むことが出来る。むろん時間はかかるが、ケイのラノベへの興味は、その程度のものである。たとえ十七歳の女子高生であっても、やることは他に一杯ある。

 何かって? それは、この話を読み始めたばかりの貴方にはナイショ。

 で、その『ライトノベル』はあまりに軽すぎた。350ページはあろうかという、その本は、普通200グラムぐらいはある。だから、それだけの覚悟で書架から抜き出すと、100グラムあるかないかで、思わず手が上がってしまったのである。
 表紙を見て、ケイは、また驚いた。タイトルは背表紙のまま『ライトノベル』 で、表紙の絵に驚いた。ケイと同じような制服を着た女の子が、書架からラノベを取りだして、あまりの軽さにのけ反っている絵だった。
 キャッチコピーは、「驚くほど、あなたのライトノベル!」であった。

――主人公は、そのラノベの、あまりの軽さにのけ反った――

 最初の一行に書いてあった。

ハハ、まるであたしのことだ
 小さい声で、呟いてしまった。そのときレジのオネエサンと目が合ってしまった。ニッコリ微笑まれたので、おもわず頬笑み返ししてしまった。
 裏をひっくり返すと、値段は480円。なんと心憎い値段ではないか。ワンコインより、たった20円安いだけなんだけど、とってもお得な気にさせてくれる。

「これください」

 気が付いたら、レジのオネエサンに500円玉といっしょに渡していた。
「この本、これが最後の本なんですよ。ラッキーですね」
 オネエサンは、我がことののように嬉しそうな顔になった。
「これ、オマケのシオリです」
「あ……」
 ケイは、またまた驚いた。
「あ、あなたも、そう思う?」
「このシオリの女の人オネエサンにソックリ!」
「そうなの、まあ、わたしって、どこにでも居そうな顔だけどね」
「そんなことないです。とってもステキ!」
 セミロングの髪が、鎖骨のあたりでワンカールしていて、程よくオネエサンだった。
「カバーも専用のにしときますね」
 そのカバーはプラスティックで出来ていて、ほとんど透明。人物のところだけ、表紙と同じように人型があるのが裏からでも分かった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
 ケイは思わずニンマリしてしまった。
 ショッピングモールの通路に出て気づいた。カバーがかけられた表紙の女の子は、似たようなではなく、ケイ自身をイラストにしたようにそっくりだった。
 表情だけじゃない。制服も校章までいっしょだった。髪も、カバーをかけるまではボブだったけど、プラスティックのカバーを掛けたそれは、ケイと同じポニーテールで、シュシュの柄までいっしょだった。

 ケイは、思わず振り返った。

 レジには、服装はいっしょだったが、ショ-トヘアで丸ぽちゃの別の女の人がいた。
「あの、いままでこのレジに立っていたオネエサンは?」
「え……一時間前からずっと、わたしが立っていたけど」
「あ……そうですか」
 ケイは、なんだか気圧されたような気になって、モールの出入り口に向かった。

 そして、振り返ると……書店そのものが無くなっていた……。

  つづく

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・158《季節の扉・2》

2017-10-20 06:46:01 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・158
《季節の扉・2》
    初出:2014-03-17 13:24:51


 父は、言付けた品物に手紙を付けていた。

 なんと、ボクを伯父さんの養子にして、神主を継がせるという、とんでもない内容だった。
「しんちゃん、あんた知らんかったん!?」
 玄関でくじいた足にシップをしながら、マドネエが驚いた。
「手紙一本で、息子のやりとり。あんた、まるで犬か猫の子みたいやなあ」
 マドネエはニヤニヤしていた。

 で、結局は、伯父の養子になってしまった。

 大学の四回生になろうというのに、就職のアテもなかった。そう豊かな暮らしができるというわけではないが、神社は食いっぱぐれがない。
 誤解してもらっては困るんだけど、ボクがマドネエの婿さんに成るわけではない。なんせ、マドネエは、ボクより八つも年上だ。それにマドネエは、したいことがいっぱいある人だから。

 ボクは神主の資格を取るために、K大学の聴講生になった。一年通えば資格がとれる。

 で、このころから季節の扉が見えるようになった。

 なんだか詩的な言い回しだけど、現実的には、こんな感じだった。
 街中で人が二重に見え始める。そして二重の片割れが、何か扉を開ける仕草をして、元の体と重なる。最初は意味が分からなかった。

 やがて気づいた。

 季節の変わり目に多く見ること。人によって開ける扉の大きさが違うこと。

 そして、ごくたまに開けられない人がいること。

 それは、春と夏の境目あたりのころだった。

 神社の境内で休んでいたオジイチャンが二重になったかと思うと、開け損なって、ペタンと尻餅をついてしまった。三回ほどくり返すと、影が薄くなり消えてしまい、同時に本体のオジイチャンは、前のめりに倒れてしまった。救急車が来て病院に搬送されたが、途中で事切れてしまった。

 ああ、あれは季節毎の命の扉なんだな……と、思った。

 そんなある日、天下の一大事が起こった。

 なんと、マドネエが男を連れて帰ってきた。それもフランス人! ジョルジュというニイチャンはボクと同い年。で、なんと、すでに神主の資格を持っていた。大学生のころに日本にやってきて、神道に惚れ込んで、そのまま資格を取ってしまった。
「なんで、神道がええのん?」
 そう聞くと。
「神道には教義が無い。清々しいと思って、そこを清めれば、もう神さまがいる」
 まるで、メールの返事のように短く明確な答が返ってきた。ジョルジュは神道の本質を理解していた。そして、そのまま伯父の神社の神主に収まった。むろんマドネエの旦那としてである。

 ボクは、骨折り損のくたびれもうけなんだけど、素直に喜べた。ボクは首になることもなく、権禰宜(神主補佐)として神社に残った。
 ジョルジュは、フランス人の神主として有名になり、マスコミにも出るようになり、神社は、街の名所になり、いつのまにか縁結びのパワースポットのようになって繁盛するようになった。

 一年もすると、家族だけでは手が回らなくなり、バイトで巫女さんを雇った。坂東みなみという子で、ロングの髪を巫女さん風にまとめると、とても和風の美人で、マドネエより、よっぽど神社に似合う子になる。

 ボクは、密かに恋心を抱くようになった。

「しんちゃん。みなみちゃんのこと好きやろ?」
 マドネエにはばれてしまったが、積極的に味方することも、邪魔することもしなかった。

 その年の秋、伯父さんが季節の扉を開けるのに苦労しているところに出くわした。
「おっちゃん、あかん。もう一回失敗したらしまいやで!」
 そう言って、ボクは伯父さんが扉を開けるのを手伝った。伯父さんは無事に季節の扉を開けた。

 そして、その年の晩秋、マドネエとみなみちゃんが、いっしょに扉を開けるところを見てしまった。
 若いので、簡単に開くと思ったら、二人とも苦労をしていた。「これは危ない」そう思ったぼくは、拝殿から鳥居のところまで走った。

 で、とっさに気づいた。これは自動ドアだ。それもドアノブにタッチしなければ開かないタイプ。
 ボクは、ゆっくりとドアにタッチ、扉は素直に開いた。
「よかったね」
 そう言うと、二人の影は嬉しそうに頭を下げた。

 そして、振り返ると、自分のドアが立ちふさがっていることに気づいた。押しても引いても開かない。むろん自動ドアでもなかった。

 そのとき、前の道路を走ってきた自動車が、道を曲がりきれずに鳥居にぶつかった。

 ボクは、崩れた鳥居の下敷きになってしまい。それっきりになってしまった。



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