大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・080『M資金・14 こ、これは……?』

2019-09-30 14:04:43 | 小説

魔法少女マヂカ・080  

『M資金・14 こ、これは……?』語り手:マヂカ 

 

 

 ギュィーーーーン!!

 

 口を開けたかと思うと、チェシャネコは猛烈な勢いで空気を吸い始め、オレたちの非力な機動車は吸い込まれ始めた!

 ムギューーーー!

 T型フォードはキャビンが密閉されていないので、シートに座っていても吸引力の影響を受ける。オレは握ったハンドルで突っ張っているので、かろうじて持ちこたえているが、マヂカはベッチョリとフロントガラスに張り付いてしまっている。

 回り込んだ風圧は、マヂカの顔を押しつぶして、数倍の大きさに押し広げてしまっている。魔法少女というのは頑丈というか柔軟な体をしているので、不思議アリスのように、チョー高いところから落とされない限り潰れることは無いのだ。

「顔広がり過ぎだろ! フロントガラスの半分が貴様の顔で埋まって、うまく前が見えないぞ!」

「しょ、しょなころ……ゆっらっれええええええええ」

「あ、あああああ」

『あーーーーーー!』

「イッテーーーー!」

 今度はルームミラーがルーフから外れて、オレのオデコに突き刺さってしまう! ルームミラーの中でアリスが絶叫するので、頑丈なオレも、ほとんど気絶寸前になる!

 ギュィーーーーン!!

 非力なT型フォードの機動車は、木の葉のように旋回しながらチェシャネコの口に吸い込まれていく。眼前にチェシャネコのノドチンコが迫ってくる! 慌ててハンドルを切るが……。

 バチコーーーン!

 ノドチンコに斜め上方向にはじかれた!

 

 ウーーーーーーーーーーン

 

 お互いの唸り声がうるさくて、ほぼ同時に目が覚めた。

 こ、これは……?

 平べったく伸びきったマヂカを貼りつかせたままフロントガラスは外れてしまい、視界の上半分をアリスが映ったままのルームミラーがオデコに突き刺さったままのオレ。機動車は、フロントガラスとハンドルとルームミラーを失って、斜め後ろに転がっている。

 で……ハンドルが手から離れない!?

 風圧に負けまいと、必死でハンドルを握っていたもので、握ったままの手がハンドルに圧着してしまったのだ!

『呑み込まれてしまったわね……ここがカオスの世界よ』

「おーい、マヂカああ?」

「フグググ……」

『顔が下敷きみたく伸びきっちゃって、喋れないみたいよ』

「それにしても、そのかっこうなあ……」

 マヂカは、手足がツッパラかって、上から見ると漢字の『出』みたくなっている。なんだか自動車のフレームのようだ。

『あ、そういう想像はしない方が……』

 アリスの忠告は遅かった。

 マヂカの手足の先にはタイヤが出現し、肩甲骨のあたりにハンドルを突っ込むとちょうどいいくらいの穴が出現した。

「ノワッ!」

 カチャ。

 穴にハンドルが収まると、マヂカの体はアイドリングをかけたように振動し始めた。

「なんだか、スタート直前のF1レースみたい……」

『ダメダアアアアアアアアアアアアア!』

 アリスの叫びも空しく、周囲に同じような魔法少女F1カーが、エンジンをふかしながら数十台出現してしまった!

 

 

 

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真夏ダイアリー・25『代役の年末特番』

2019-09-30 06:49:01 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・25
『代役の年末特番』      



 その夜、夢の中にエリカが現れた。そっと手を開くと、鉢植え用の栄養剤が載っていた……。

「もう、これも効かないの」

 エリカが、こんなにまとまった言葉を話すのは初めてだ。
「わたし、真夏と、お母さんが仲良くなれるようにがんばった……」
「知ってる……何度も夢に出てきて励ましてくれたものね」
「最初は自信があったの。あなたたち母子の仲は必ずわたしが取り戻してあげられるって。夕べは、最後の大勝負をかけてみた。二人ともグッスリ眠れたでしょ」
「うん……あれ、エリカのおかげ?」
「大浴場で、お母さんのスキンシップ、すごかったでしょう……」
「うん、背中流してくれたり、オッパイつかまれたり、ちょっとヘンタイみたいだったけど」
「あれ、お母さんの愛情なんだよ」
「分かってる……でも、どう絡んだら、どう受け止めたらいいか分からなくて……」
「真夏には、なんだか他の力が働きかけているみたい。その力が強くて、わたしの力が及ばない」
「他の力……?」
「うん。わたしにも分からない力……その力が無くなったら、また、わたしが力になれるかもしれないわ」
「……エリカ」
「わたしは、もうダメ。でも、わたしと同じDNAを持った妹たちがいるわ。わたし達は株分けで増やされたクロ-ンだから。これから、真夏に何が待ち受けているか分からないけど、くじけずにね……」



 そこで、夢の意識が切れてしまった。

 その朝、エリカは花を全て落として枯れていた。

「やっぱ、長続きしないね……ようし、今日は、お母さんが買ってくるね」
「エリカは……しばらくやめてね」
「もち、お正月に相応しいの見つくろってくるわよ」
 語尾のところでは、もう、お母さんはキッチンに向かい、吸った息を鼻歌にして朝ご飯の用意にかかった。

 わたしは、さっさと朝ご飯を済ますと、出かけることにした。

「あら、早いのね」
「うん、ちょっと寄っていきたいとこもあるし」
 
 事務所に行く前に渋谷に寄ってみた。むろん例のハチ公前。
 予想はしていたけど、なにも起こらなかった。ポケットの中のラピスラズリのサイコロにお願いしても、変化はなかった。


――やっぱ、気まぐれなんだな。


 そう思いながら、道玄坂まで行ってみたけど、なにも変わらない年末の賑わいだった。Ⅳ号戦車なんか影も形もない、当たり前だけど。わたしは、そうやっているうちにウィンドウショッピングをしている自分に気が付いた。
 わたしってば、この三週間あまり起こった身の回りの変化に、なんだか超常現象めいたことを思いこんでいただけなんだ。潤とそっくりなのは、娘は父親に似るってことで説明が付くし、美容師の大谷さんが、それに気づいて、いたずら心で潤そっくりな髪型にしたことで、吉岡さんが見間違え、あとは、知らず知らずのうちに自分にかけた自己暗示。エリカと話ができたのも夢の中だけ。ラピスラズリのサイコロは路上販売のオジサンに乗せられただけ、あとのいくつかの不思議も、わたしの思いこみ。

「おはようございま~す!」

 おきまりの挨拶を何度かして、わたしはスタジオに入った。
「神楽坂24の子達が移動中に事故ってしまって、急遽うちにお鉢が回ってきたんだ。テレビ東都には義理があるんでね、三つ葉クロ-バーにお願いなんだ」
 吉岡さんが手を合わせた。AKR47は年末のスケジュールはいっぱいいっぱいだった。選抜メンバーでもある、三つ葉が抜けるのは痛いようだけど、神楽坂とは共存共栄。会長の一声で決まったようだ。
 他の選抜の子たちが出かけたあと、スタジオいっぱいに使って、知井子、萌、潤、わたしの四人で、その日の振りと、立ち位置を確認し、台本は移動の車の中で目を通した。
 さすがに、年末のやっつけ番組、簡単な打ち合わせの後、カメリハ。お弁当の休憩を挟んで、すぐに本番になった。お弁当を食べながら必死で進行台本に目を通したけど、本番はADさんたちがQをくれるし、カンペだらけだし、歌と振りだけミスらなければOKというものだった。神楽坂の持ちネタである『居残りグミ』の歌と振りでは、ちょっとキンチョーしたけど、自分たちの『ハッピークローバー』はリラックスしてやれた。

 ……それは歌のサビの部分でおこった。

 ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー♪

 そこで、バーチャルアイドルの拓美が現れる寸前、頭の上がムズムズすると思ったら……なんとライトが落ちてきた!

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宇宙戦艦三笠・16[ボイジャーが仲間に]

2019-09-30 06:35:45 | 小説6
宇宙戦艦三笠・16
[ボイジャーが仲間に] 


 

 ボイジャーを回収すると、すぐに医務室に運んだ。

 不思議だった。光子レーダーで確認した時は、明らかに古いタイプの人工衛星だった。
 それがモニターで女の子の姿になっていることは確認していたが、こうやって生で見ると、とても不思議だ。頬はほのかなバラ色で、胸は呼吸に合わせてゆっくり上下している。そして、まるで夢を見ているように瞼の下で目が動いているのが分かる。とても人工衛星の擬態とは思えない。
「可愛い子ね……」
「うん、初めて見るのに、なんだか懐かしい」
 顔かたちに敏感なのは、やはり女子だ。美奈穂と樟葉が最初に反応した。男子は、こういう時は驚きが直ぐには顔に出ない。ただ、目を丸くして見つめるだけだった。

「これ、ヘラクレアの娘さんの姿だよ……」
 みかさんが、しみじみと言った。
「どうして、あのオッサンの娘さんの姿に……ってか、あのオッサンの娘が、こんなに可愛いわけ?」
 引きこもりが長かった分、トシの反応は、すごく遠慮がない。
「ヘラクレアさんは、娘さんのことは、ほとんど口にしなかったけど、それだけ印象としては強くわたしの心に残ったの。だから、こんなに似ちゃったのよ。なんとなく懐かしく感じるのは、みんなも無意識にヘラクレアさんの影響を受けていたからよ」
 みかさんは、暖かい口調のまま続けた。
「人の心って、こんなに共鳴するものなのよ。ボイジャーも40年あまりの宇宙旅行で、いろんな宇宙人に空間や次元を超えて書き込みをされている。まだ未整理だけど」
「40年前のCPにそんなに記録容量はないんじゃない?」
「それは、君たちの概念よ。その気になれば、何もない空間にでも記録は残せるわ。わたしみたいな船霊も、いろんな人の思いの結晶だとも言える。さ、ボイジャーが目を覚ますのには少し時間がかかるわ。あなたたちのむき出しの好奇心に、いきなりご対面しちゃ、この子混乱するわ」
 4人のクルーは、ブリッジに追いやられた。

 分からないということは、想像力を刺激する。
 
 ブリッジで待っている間に、100通りぐらいのボイジャーのイメージが4人の頭に喚起された。美奈穂は中東で死んだ父への反発から、母親の少女時代のイメージを。トシは、亡くした妹や、自分をストーカー扱いした美紀のイメージに。樟葉と修一は、自分でも覚えのない少女たちのイメージが浮かんだ。みかさんの言葉が思い出された。
「二人の心には、もっと奥があるわ」
 改めてみかさんの言葉が思い出された。

 ボイジャーは三日目に目覚めた。

「みんな医務室に来て」
 みかさんの声で、4人は心弾ませて医務室に向かった。
「みなさんよろしく。あたしがボイジャーです」
 ボイジャーは、まるで売り出したばかりのアイドルのようにフレッシュではあるが硬い笑顔で挨拶した。ワンピースが黒の花柄から淡いグリーンの花柄に変わっていた。まるでボイジャーの心理が変化したように。
「まだ、この子の心は整理がすんでいないの。だからちょっとぎこちないけど、少しずつ慣れていって。ボイジャー、あなたの呼び方、どうしようか?」
「……できたら、クレアって呼んでください。いろんな意味で、これが一番しっくりくるんです」
「じゃあ、ようこそクレア。君が三笠の最初のゲストだ」
「いえ、あたしはクルーです。役割はアナライザーです」

 みんな戸惑った顔になった。アナライズ機能は、すでに三笠には付いている。

「三笠については、補助的なアナライズをやります。本務は、あなたたちの心のアナライズです。修一さん、トシくん、美奈穂さん、樟葉さん、よろしく」
「これからは、クレアさんが、わたしの代わりだと思って。わたしは本来の船霊の役割に戻ります」

 みかさんは、そう言うと、姿が朧になり、一瞬光ったかと思うと光の玉になってホールの神棚の方に消えていった。修一は、なんとなく、これがみかさんの筋書通りのような気がした……。
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音に聞く高師浜のあだ波は・9『声だけで分かる美人の怖さ』

2019-09-30 06:26:23 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・9
『声だけで分かる美人の怖さ』
     高師浜駅


 悪気はないから許してあげてね

 ミス高師浜は、コマッタ眉になって話してくれた。

 立花さんの話によると、こうだ。
 立花さんのクラスの男子たちが、中庭を歩いていてベンチのファイルに気づいた。ファイルの表紙を見ると『阿田波姫乃』『天生美保』とある。
「これ、高師浜駅の写真の女の子らとちゃうか!?」
 そう気づいて、返してあげようと話がまとまるが、だれが返しに行くのかということでもめてしまった。
 あわよくば、返しに行くことでお近づきになれればという気持ちがある。ファイルは二つなので、チャンスは二回あると言うことなのだ。
 それならば、二回のチャンスを平等にするために、男どもはジャンケンをした。
 で、姫乃の担当が決まったところでチャイムが鳴った。次の授業は遅刻にやかましい先生なので、男どもは慌てて教室に戻った。
 慌てていたので、ベンチの上にあったあたしのファイルをテイクアウトするのを忘れてしまった。ということらしい。

「あんたたちが相手にされるわけないでしょ、それに、なんで直ぐに返しに行かないのよ!」

 それで、立花さんが持ってきてくれたということらしい。
「でも、それだったら、ほんとに悪気ないんだし、お礼が言いたいです」
 姫乃は純な子だ。
「いいっていいって、お礼なんか言ったら、バカがつけあがるから。じゃね」
 立花さんは、ヒラヒラと手を振って行ってしまった。

 あたしは気が付いていた。

 立花さんの後ろ、廊下の曲がり角、さり気にあたしらを見てた三人組。
 中学の一個上の先輩たち、足立・鈴木・滝川の三人や。
 滝川のニイチャンは、小学校から一緒、ヤンチャなことでは定評があった。

 で、ほとんどオチョクル感じで、あたし一人お礼を言いに行った。

「ちょっとすみませ~ん」

 声を掛けたのは、放課後の下足室前。
 狙い通り、薄っぺらい通学カバンを肩に掛けたりぶら下げたりして、三人が出てきた。
「「「あ」」」
「先輩らが拾てくれはったんでしょ?」
「え」「あ」「まあ」
 とりあえず、気まずそうな返事。青春とは気まずいもんや。
「あたしのんは取り忘れみたいですけど、姫乃の分と合わせてお礼言うときます。ありがとうございました」
 中学の時に面接練習で習うた通りのお辞儀をかましとく。
「いや、どういたしまして、なんやかえって迷惑かけたみたいで、こっちこそ」
 滝川のニイチャンが汗をかいてる。
「じゃ、これで」
 あたしは、よそ行きの歩き方で校門を出て行った。

 で、気が付いた。アホなことにカバンを持って帰るのを忘れてた。

 回れ右して、出てきたばっかりの校門に向かう。
 
 アハハハ

 楽し気やけど、なんか含みのある笑い声に立ち止まる。
 笑い声は、あたしからは死角になってる塀の向こう側。
「あいつアホやなあ」
「ほんまほんま」
「俺らが相手してるのは姫乃ちゃんだけやのにな」
「だれが天生のことなんかなあ」
「あいつのファイルは、わざと置いといたのになあ」
 
 自分のアホさ加減もあるけど、めっちゃムカついてきた。こういうシュチエーションで俯いて泣くようなあたしやない。
 文句の一つも、と、足が出たところで停まった。立花さんの声が聞こえてきたから。

「あんたたち、ちょっと酷いじゃないの!」

 声だけで分かる美人の怖さや……。
  
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高安女子高生物語・103〔The Summer Vacation・6〕

2019-09-30 06:12:39 | ノベル2
高安女子高生物語・103
〔The Summer Vacation・6〕
                 


 
『MNB47 佐藤明日香の24時間』

 このありがたくも、あんたら、そこまでヒマなんかいな言うテレビ取材の話は、昨日ユニオシの事務所から。実質業務命令で依頼がきたもの。
 お母さんは嫌がったけども、お父さんは喜んでた。仕事柄、家に引きこもりみたいな毎日を送ってるお父さんにはええ刺激と宣伝の機会。
 いそいそと座卓の上に10冊ほどの自分の本を並べだす。低血圧のお母さんは、夕べは眠剤を飲んで早起きに努力の姿勢。
 うちは、夏休みは早起きの習慣がついてる(一時間でも早よ起きて、休みを満喫しよいう根性)ので、朝の6時にクルーが来た時には、すでに起きてた。
 クルーは寝起きのブチャムクレ明日香を撮りたかったらしいけど、残念でした。ハーパンにカットソーに、セミロングをポニーテールにして、お目目パッチリの迎撃態勢。さすがにお母さんも起きたけど、こっちは完全なブチャムクレ。三階で身づくろいと化粧にかかる。
「アスカちゃんは、いつも、こんなの?」
「はい。時間もったいないよって、夏休みとかは早いんです」
「あ、朝ごはん自分で作るんだ」
「はい。うちは家族三人やけど、起きる時間も朝ごはんの好みもバラバラ……え、お父さんも一緒に食べるて?」
 いつもは別々に食べてる朝ごはんをいっしょに食べる。ト-スト焼くとこまではいっしょやけど、お父さんはハム乗せてコーヒー。うちはトーストの上にスクランブルエッグにインスタントのコーンポタージュ。食後の麦茶は常温のにしといた。こないだみたいにお腹の夏祭り撮られたらかないません。
「もう30分早かったら、朝シャワー撮れましたよ」
 そう言うてから、メールのチェック。麻友だけが「お早うメール」で、美枝とゆかりは「おやすみなさい」のまんま。
「学校の友達とは、ずっとメールのやりとり?」
「はい、夏休みになってからは仕事ばっかりで、クラスの友達とは会われへんさかい、お早うとお休みだけはやってます」
 それからFBのチェック。「お早うございます♪」と、取材クルーの写真付けて送信。
「ラジオ体操行きます?」
「アスカちゃん、ラジオ体操やってるの?」
「まさか、小学校までですけどね。たまにはええんちゃいます?」

 9時にカヨさんとこに行く約束したあるので、それまでの時間稼ぎ。

 ラジオ体操は近所の公園。
 
 テレビのクルーといっしょに行ったら、みんながびっくりしてた。高学年の子らは、昔いっしょにやった顔見知り。自分で言うのもなんやけど、高安が出した初めてのアイドル。自然な形でどこに行ったら、いい絵が撮れるかは承知してます。
 五年ぶりに子供らとラジオ体操。終わったらスタッフが用意してたカードにサインしたげる。ここで40分も尺とったけど流れるのは、せいぜい一分やろなあ。
 家に戻ると、お母さんがいつもの倍くらい身ぎれいにして、掃除と洗濯。「あら、やだ、いつの間に!」しらこいこと言いながらスタッフにお愛想。時間つぶしに両親のインタビュー。これもあらかたカットされるんやろなあ……親の努力がけなげに思えたころに時間。高安駅までスタッフの半分が付いてくる。
 日本橋(ニホンバシとちゃいます、ニッポンバシ)で堺筋線に乗り換えて一駅の恵美須町へ、カヨさんの家は初めてなんで、迎えに来てくれてることになってる。

 で、恵美須町の地上に出たらえらいことになってた……!
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小悪魔マユの魔法日記・49『フェアリーテール・23』

2019-09-30 06:03:37 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・49
『フェアリーテール・23』
     




 声の主は、新聞配達の少年ジョルジュだった。
「どうしたの、ジョルジュ?」
「大変なものに出くわしてしまった……あ、こっちへ」
 そういうと、ジョルジュはミファとマユを道路脇の大きな岩陰に連れて行った。
「いったいなによ、なにがあったのよ!?」
「驚くなよ……」
「シッ……!」
 息を整えながら話を続けようとしたジョルジュを、マユは静止した。

 岩の向こうの道を町長が歩いていく。道は、岩のところで曲がっているので、後ろから来た町長は気がついていなかった。いつもなら、目の前を歩いていた二人の女の子の姿が見えなくなれば「おかしい」ぐらいは思うのだけれど、この時は気づきもしなかった。
 それほどサンチャゴのライオンのショックが大きかったのだ。

 町長の気配が完全に無くなっても息をひそめ、さらに三つ数えてからジョルジュは話し出した。
「さっき、ライオンに遭ってしまった……」

「「え!?」」

 ジョルジュは、二人を案内しながら説明した。
「新聞を配達し終えて、家に……帰ろうとしたんだ、そして北……の、町はずれのイガイガ林の……ところまで来た……ら……オレの上……上を、大きな影がよぎった……んだ……」
「あの(……)のとこは、人目を気にしてるんだろうけど、分かりにくいから」
「とりあえず、イガイガ林まで行って話してくれる。ただでもお喋りなあたしたちが、人前で黙り込んじゃ、かえって怪しまれるわよ」
「それもそうだ」

 ということで、イガイガ林に着くまで、三人はバカ話ばかりした。おかげで、マユのこともジョルジュは自然に理解した。年頃の少年や少女は改まった話は苦手だ、バカ話の中で話したほうが、お互いに通じやすい。
 ジョルジュは、マユが小悪魔であることもミファと友だちであることも自然に理解……信じた。むろんサンチャゴじいちゃんのライオンのことは言わなかった。

 そういうオトモダチ的な話をしているうちに、三人はイガイガ林の前までやってきた。
 あたりをうかがい、イガイガ林の中に入ると、ジョルジュは一気にまくしたてた。
「でよ、大きな影がよぎったかと思うと、そいつはオレの目の前に降りてきて、オレをめがけて駆けてきたんだ。オレは、足がすくんで、動くことも声を出すこともできなかった。だって、そいつは……ライオンなんだ!」
「で、ライオンはどうしたの? どこにいるの?」
「林の、あるところに閉じこめてある……」
「ジョルジュが、閉じこめたの!?」
「あ、ああ、町に出られちゃ大騒ぎだからさ。オレだってやるときゃやるよ!」
「えらいんだ、ジョルジュって!」
 マユは、一応カワユゲな女の子らしく驚いてやった。なにかありそうな気はしたが、まあ若者同士の礼儀として……。
「で、ライオンは?」

「……ここ」

 ジョルジュは、体をカチコチにして、目の前の薮を指差した。
 一見薮に見えたが、それは木の枝を切り積み重ねたカモフラージュであることが分かった。三人でカモフラージュの薮をどけると、そこは岩肌で、人がやっと通れる割れ目が開いていた。

 割れ目の奥から気配がした……たぶんライオンの気配……でも、サンチャゴじいちゃんのライオンの気配とは違っていた。薄暗いので、マユは魔法で明るくしてみた。
 割れ目の中は意外と広く、奥の方で「く」の字に曲がっているようで、気配は曲がった「く」の字の奥の方からしてくる。
 マユを先頭に、ゆっくりと奥に進んでいくと、後ろの方で、ガラガラガラと大きな音がした。
 崩れてきた岩で、入り口がほとんどふさがれてしまった。
 ミファとジョルジュは思わず抱き合ってしまった。
「あなたたち、友だち以上なのね……」
「あ……思わずよ、思わず。手近にいたから」
「そ、そうだよ」
「ま、どうでもいいけど……フレンチキスまですることないと思うよ」
 マユは、今のが(二人が抱き合ったことじゃなく、岩が崩れたこと)ライオンの仕業であることに気づいていた。

 気配はいきなり「く」の字の角を曲がって現れた。
 それは身の丈二メートルは超えるライオンであった……身の丈?

 そう、ライオンは二本の足で立っていたのだ!

「やあ、わざわざすまないね」

 ライオンが口をきいた……!!?



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せやさかい・072『ニャンコの正体・3・せやけどええねん!』

2019-09-29 13:53:29 | ノベル
せやさかい・072
『ニャンコの正体・3・せやけどええねん!』 

 

 

 ネットで地球の裏側のことまで分かる時代、あんがい近くの事は分からへん。

 あたしと留美ちゃんが、あやうく巻き込まれそうになった、ほら、ネコちゃんを救助した直後にトラックが突っ込んできた事故。学校に突っ込んできたいうのが珍しいから、テレビでも新聞でもやってた。

 運ちゃん以外に怪我人も出えへんかったんで、近所の人でも知らん人がいてるらしい。

 テイ兄ちゃんが檀家周りして「あの事故知ってはりますか?」と粉を振る。「ああ、知ってますぅ」いう人と「へえ、そんな事故がおましたんかいな!?」いう人に分かれる。勝手知ったる檀家とお寺やさかいに、ここから話が広がる。

「実は、ぼくの従妹が危うく巻き込まれるとこやったんですわ」

 お茶をすすりながらテイ兄ちゃん。

「いやあ、怖いわあ」

 檀家さんは眉を顰める。中には「さすが、お寺さん、阿弥陀さんが守ってくれはっやんやねえ」と感心する人も居てる。

「やっぱり、信心があるいうことは、ありがたいことですねえ」

 と、テイ兄ちゃんはかます。

 ここが坊主のやらしいとこ。阿弥陀さんのお蔭で助かったとは言わへん。

 浄土真宗では、阿弥陀さんは極楽往生を請け負うだけで、日常生活の安全を保証したりはせえへん。親鸞聖人に「交通安全にご利益おますやろか?」と聞いたら「それは、自分で気ぃつけなはれ」と返事する。

 それではつまらないので、こういう世間話をしたときに、やっぱり阿弥陀さんのお蔭やなあ……というとこへ話を持っていく。

 けして自分からは「阿弥陀さんのお蔭」とは言わへん。

 

 逆に、知らん話を聞いてくることもある。

 

「じつは、ごえんさん(浄土真宗では住職の事を『ごえんさん』とよぶ。テイ兄ちゃんは住職やないけど、二人称としては、こう呼ばれる)二丁目でお婆さんが刺されはりましてなあ」

 二丁目と言うと学校の近所……。

「身内のもめ事で、なんや刺されたて。まあ、その時は、怪我しはっただけやったんで、新聞には載りましたんでっけどね、中学校にトラックが突っ込んだ事故に隠れてしもて。お婆さん、相手が刃物出してくると、自分の事よりも飼い猫を逃がしてやりたいと、四匹飼うてたんを逃がしてやって……はあ、いや、お婆さん、軽傷やったんが、お歳ですやろなあ……夕べ亡くなってしもたんですわ」

 テイ兄ちゃんは、ピンときた。

「それでなあ、ネコちゃんの写真を見せたんや……」

 すまなさそうというか、覚悟せえよいう目ぇで、あたしの顔を覗き込むようにしよる。

「ええ、そんなあ……」

 思わずネコちゃんを抱きしめる。コトハちゃんも真剣な顔で「それでぇ……」と兄の膝に詰め寄る。

「こ、こわいなあ、二人とも」

「「それでえ!?」」

「檀家さんも分からへんから、お婆さんの家まで行ってな。娘さんらが居てはったから聞いたんや……ほんなら『……この猫とちゃいます』という返事やった」

「「よかったあ!」」

 コトハちゃんと胸をなでおろした。

 

 けど、思うねん。

 ほんまはお婆ちゃんが飼うてたネコやけど、娘さんらは、いまさら雑種のネコを返してもろてもしゃあないんで、ろくに確かめんともせんと「ちゃいます」言うたんちゃうやろか……?

 せやけどええねん!

 これで、めでたく、ネコちゃんはうちのネコになったんやから!

 

 せや、名前を決めならあかん。

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真夏ダイアリー・24『大洗母子旅行・2』

2019-09-29 06:34:00 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・24
『大洗母子旅行・2』       


 
 
「なぜ、結婚しようと思ったの?」
「したいと思ったから」
「じゃ、なぜ離婚しようと思ったの?」
「別れたいと思ったから」
「もう……!」

 案の定コンニャク問答になった。

「とりあえず、食べようよ。グズグズになったお鍋って、おいしくないから」
 で、ひとしきり食べた。
「親の結婚と離婚の理由なんか聞いても、なんの足しにもならないわよ……」
「そうやってごまかす」
「じゃ、聞くけどさ。真夏は、どうして、そんなこと聞きたいのよ?」
「納得いかなからよ」
「ハハハハ……」
「なにが可笑しいのよ。ひとが真剣に聞いてるのに!」
「ごめんごめん。お母さんの答えも同じだからよ」
「結婚して、離婚したことに納得してないってこと?」
「逆だなあ。納得できないから、結婚して。納得できないから離婚したの……まあ、その結果として真夏が生まれて、その真夏に迷惑かけちゃったけどね。ゴメンで済めば簡単なんだろうけど、真夏の心の中は、そんなに簡単じゃないでしょ」
「そういう分かったような物言いでごまかさないでよね」
「分かってなんかいないわよ。言ったでしょ、納得できないからだって……すごく無責任に聞こえるかもしれないけど、もう、離婚してしまったわたしがいて、その娘の真夏がいる。で、いま心臓マヒにでもならないかぎり、お互いに、まだ人生の先がある。そっちのを考える方が生産的だと思う。真夏が芸名を鈴木にしたのは、いいことだと思うわよ。冬野でもなく小野寺でもなく……ね、いっしょにお風呂入ろうか!?」
「さっき入ったわよ」
「いいじゃん、もっかい暖まって寝ることにしようよ」

 半ば、強引に大浴場に連れて行かれた。

 連れて行かれながら思った。お母さんといっしょにお風呂に入るなんて十年ぶりぐらいだ。
 わが母親ながら、驚くほど体の線は崩れていなかった。知らない人がみたら姉妹に見えたかもしれない。この人は人生の納得いかない苦悩をどこにしまい込んでいるのか不思議なくらい若やいでいる。



「背中流してあげよう」
「いいよ、さっき洗ったから」
「いいから、いいから」
 そう言って、お母さんは、わたしの背中にまわって洗い始めた。
「……い、痛いよ」
「ちゃんと洗ったの、こんなに垢が出る」
「垢じゃないわよ。それ、皮膚を削ってんのよ……痛いよう!」
 お湯を流されると、背中がヒリヒリした。そして、あろうことか……。
「ん……!」
 お母さんは、後ろから手を回し、わたしのオッパイをムンズと掴んだ。
「カタチはイッチョマエだけど、まだまだ固いわね」
「お母さん、ちょっとヘンタイだよ……」
 そのあと、湯船に漬かったとき逆襲してやろうとしたけど、ヘンタイ母は少女のような嬌声をあげてかわしてしまう。

 部屋にもどって、布団にもぐると、削られた背中がホコホコと暖かかった。
「お母さん……」
 ヘンタイ母は、歯ぎしりもイビキもかくことなく、静かな寝息をたてていた。

 朝は、久々にパチッと目が覚めた。いつもなら、泥沼の底から浮き上がるように、夢のカケラや昨日やり残したことなんかの思いがまとわりついて、まるでゴキブリホイホイにへばりついた体を寝床から引きはがすようにして起きる。こんな目覚めは久しぶりだった。

 昼からは、本格的にお天気が崩れる予報だったので、水族館だけ見て家に帰ることにした。夕べ、あれだけ寝たのに、帰りの電車の中ではウツラウツラだった。時折意識が戻ると、向かいの席で、お母さんはスマホで記事をまとめ、ビデオを編集していた。やっぱ、ダテにシングルマザーをやっていない。やるときゃ、きちんと仕事に集中しているのはアッパレと感心しつつ、ウツラウツラ……。

 家に帰って、ショックだった。昨日まで満開だったエリカが花を散らして萎びかけていた。あらかじめ用意しておいた鉢植え用の栄養剤を、グサリと注入。なんとか生き延びて欲しい。
 スマホをチェック。
 事務所から、明日のテレビ番組の打ち合わせと練習をしたいので、すぐに来いとメールが入っていた……。
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宇宙戦艦三笠・15[ボイジャーとの遭遇]

2019-09-29 06:26:01 | 小説6
宇宙戦艦三笠・15
[ボイジャーとの遭遇]   

 
 
 修一が三回目のアクビをしたら、いっしょにオナラが出てしまった。

 最初トシがクスっと笑い、ややあって美奈穂、樟葉へと伝染するころには爆笑になってしまった。ただ船霊のみかさんはニコっとしただけである。
 ヘラクレアを出てから一週間がたっていた。その間、三笠は、ただ星たちがきらめく宇宙を走っているだけだ。
 要するに退屈なのである。
 三笠は21世紀の概念では、そんなに大きな船ではないが、たった四人(みかさんを入れて五人)の乗組員には広すぎた。各自自分のキャビンは持っているが、ブリッジに集まることが多くなった。ほとんど真っ暗な星空とはいえ、やっぱり外の景色が見えることは、単調な宇宙旅行の慰めであるようだ。

「……東郷先輩のオナラ、初めて聞きました」
 やっと笑いの収まったトシが言った。
「そうね、あたしも小学校以来だな。保育所の頃はしょっちゅうだったけど」
「みんな退屈そうだから、一発かましたんだ!」
「ハハハ、でもオナラ一つで、ここまで笑えるんだ!」
 美奈穂が、収まらない笑い声のままで言った。
「みかさん、ヘラクレアを出てから亜光速でしか走ってないけど、みんなに先越されないないかなあ」
「早いだけが取り柄じゃないの。ゲームで言えばRPG、経験値を積んでおかないと、ゲームはクリアーできないわ」
「例えば、ヘラクレアみたいな?」
「そう、あそこでテキサスに出会えて、ヘラクレアさんに会えたことは大きいわ」
「どんな意味で?」

 みかさんは、しばらく考えた。みかさんは神さまだから、考えている姿もさまになる。こういうことでは自信のある樟葉でも見とれた。

「……悲しい思い出も、大事に守っていれば、美しいものになって、その人の精神を高めてくれる」
「え、あのヘラクレアのオッサンが?」
「娘さんの魂を悲しませずに記憶し続けるのには、あんなオッサンの姿がいいのよ。辛い思い出も大事にしていれば、良い光になるわ」
「みかさんが言うと、なんだかとても良いことのように思えるわ」
「修一君のようにはいかないけどね」
 みんなが笑った。
「どうせ、オレは屁をかますぐらいしか能がないよ!」
 みんなが、いっそう笑う。みかさんは、いいクルーだと思った。少し何かを足せば……みかさんも、そこまでは分からない。

 光子レーダーが、なにか発見したアラームを発した。ブリッジが活気づいた。

「焦点を合わせて、解像度をあげて」
 修一が言うと、樟葉がレーダーを操作した。ボンヤリした画面がくっきりしてきた。
「あ、ボイジャー……!」
 みかさんが感動の声を上げた。
「ボイジャーって?」
 美奈穂が素朴な質問をした。
「1977年に打ち上げられた人工衛星です。太陽系を飛び出した、たった二つの人工物の一つです」
 トシが、意外な知識を披歴した。
 ボイジャーは、三本のアンテナとテレビの衛星放送用のアンテナのようなものでできていた。
「あれは、一号ね。二号は……近くにはいないようね……」
「あ、解像度が落ちてきた」
 樟葉が慌ててレーダーを操作しはじめた。
「……違うわ、変態し始めてる」
「変態!?」
「メタモルフォーゼ……変身することよ」

 ボイジャーは5分ほどかけて変態した……その姿は、栗色のショ-トヘアーの女の子だった。
「ちょっと男子は向こう向いてて」
 みかさんが優しく言った。トシと修一は、すぐに理解した。女の子は裸だった。
「……いいわよ」
 男子二人が振り返ると女の子は、黒字に赤い花柄のワンピに黒のスパッツ姿になっていた。意識はないようだ。
「面舵二十度、ボイジャーの回収に向かう」
 修一が、そう言うと、樟葉はレーダーを睨みながら、ゆっくりと舵を切った。
 
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音に聞く高師浜のあだ波は・8『誉も高き』

2019-09-29 06:16:57 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・8
『誉も高き』     高師浜駅


 渡り廊下の四階部分には屋根が無い。

 建築費節減のために一階は素通し、四階は手摺だけの青天井。
 午前中に雨が上がって、青空が見えてきたんで、教室移動に四階の渡り廊下を三人で歩いてた。
「やっぱり晴れてんのがいいね!」
「やっぱ、お日様浴びてセロトニン増やさなきゃね!」
「ほんまやね!」
 スミレヒメノホッチの三人は、スキップでもしそうな勢い。

 そこに、木枯らしの予告編のような突風が吹きあがって来た。

 キャーーー!

 三人仲良く悲鳴を上げて、ガードしたのはスカート。
 勉強道具を抱えていたけれど、女子の一大事。派手に捲れ上がることだけは防いだ。
 そやけど、弛んだ両腕の間から、授業で使うコクヨのファイルが吹き飛ばされてしまった!
「危なかったーー」
 さすがは弓道部。すみれ一人だけは吹き飛ばされずに済んだ。
「どないしょ、次の授業でいるで!」
 次の現代社会はプリント授業で、ファイルがないと話になれへん。万一無くなってしもたら、来るべき期末テストの勉強もでけへん!

「あ、拾ってくれたみたいよ!」

「あー、それ、あたしの!」
 
 叫んだ声に振り仰いだのはマッタイラ。あたしらに気が付いた感じやけど、なんか(しもた!)いう顔してるのが、四階からでも分かった。

「ここに置いとくから、取りに来い!」

 それだけ言うと、ファイルをベンチの上にオキッパにして行ってしまいよった。
「なんのイケズや!」
 そない吠えながらも、三人で地上の中庭にまで下りる。

 あ、あれや!

 ベンチの上にファイルを見つけて……あれぇ!?

 あたしのんはあったけど、姫乃のファイルが見当たらへん。
「おかしいなあ……」
 すみれが率先して探してくれた。
 ベンチの下から植え込みの中まで探したけど見つからへん。
「マッタイラは、二人分置いてたわよね?」
「そう見えたんやけど、やっぱりイケズかなあ……」
「どうしよう……」

「俺は、二冊とも置いた!」

 マッタイラに確認すると、マッタイラには珍しく、胸を張って言い張った。
「そやかて」
「もう授業始まるわ。姫乃はあたしのん見せたげるから」
 現社の移動教室では、すみれと姫乃は隣り合わせなんで、机を引っ付けて一時間をしのいだ。
 六列ある席で、二人だけが席を引っ付けてるので、姫乃は居心地悪そうにしてた。
 横目でマッタイラをジト目で見てみる。

 パチコーン!

 木村に、頭をシバカレて、立場なさげなマッタイラ。
 イタズラやったら、こっち見てニヤニヤしてるか、不自然に無関心を装うか。
 あの感じでは、マッタイラはほんまに知らんような感じや。

「阿田波さん」

 落ち込んでる姫乃を真ん中にして教室に戻る途中、後ろから声を掛けられた。
「これ、阿田波さんのでしょ?」
 振り返ると、ミス高師浜と誉も高き、二年生の立花優花先輩が、ファイルを差し出しながら立っていたのだった。

 
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高安女子高生物語・102〔The Summer Vacation・5〕

2019-09-29 06:07:55 | ノベル2
高安女子高生物語・102
〔The Summer Vacation・5〕            


 
 サブイボが立ってしもた!

 長崎県のS市で、友達殺して、その死体の手首と首を切った女子高生のニュース!
「ゲー……!」
 こういうときには、かいらしい「キャー」は出てけえへん。我ながらオバハンのリアクションやと思う。
 そやけど、反応してる心は17歳。殺した子も殺された子も15歳の高校一年生。うちと一学年しか変わらへん。

「またか……」

 沸きたての麦茶に氷入れながらお父さんがポツンと言うた。それほどショックやないみたい。テレビのコメンテーターは、なんでかスマホのせいにしてしたり顔。
――やっぱ、コミニケーションの取り方が、この年齢では未熟なところにもってきて、今は、みんなスマホでしょ。分からないんでしょうね、距離の取り方。やっぱ、スマホというのは……――
「オレが高校生やったころもあった……」
 何十年前や?
「友達と喋ってたら、知らんオッサンが来て因縁つけよるんで怖なって一人で逃げた。心配になって戻ってみたら、友達は殺されてて首を切り落とされてたいうのがあったけど、結局殺して首落としたんは、そいつやった……」
 うちも、スマホに罪は無いと思う。サブイボ立ったんは、心のどこかで同じような鬼が住んでる気がしたから。

――鬼て、わいのことか?――

 正成のオッサンが言う。正成のオッサンは、ちゃう意味で鬼や。
 人を殺して首まで落とすいうのは、ある意味心理的エネルギーの爆発やと思う。みんな、このエネルギーは持ってるけど、適度に火ぃ点けて燃やしてる。それが、ちょっと火の点き方の違いで爆発してしまう。持ってるエネルギーはいっしょや。せやからサブイボが立つ。エネルギーは鬼にもなるし、神業をおこすこともある。

 神業に成れ! 

 そない思うて、お母さんがUSJのハリポタで買うてきたバタービールのジョッキに氷をしこたま入れた麦茶を一気飲み。そのままお風呂に行ってシャワー浴びてたら、お腹が夏祭りになってしもた!
 急いで体拭いて、タオルを頭に巻き付けて、パンツ穿くのももどかしくトイレに駆け込む。日本三大祭り(祇園祭、天神祭、神田祭)に岸和田のダンジリいっしょにしたみたいな夏祭り。
「エアコン点けっぱなしで、お腹出して寝てるからよ」
 トイレ出たとこでお母さんに怒られた。

 陀羅尼助を二人前飲んで、スタジオへ。難波からスタジオまで歩いて汗流したら、お腹も治ってきた。

「今日は、ちちんぷいぷいに選抜が出て顔売りにいきます。暫定的にリーダーは明日香。他のゲストはベテランの人ばっかりやから心配いらんけど、生やから気いつけて放送事故なんかにならんように。他のメンバーは勉強のために見学。終わったら戻ってレッスンと夜のステージ。よろしく!」
 市川ディレクターの説明で行動開始。

 番組では、やっぱり長崎の殺人事件が話題になってた。
 フッてこられたんで、朝思た心の鬼説を語る。メンバーも出演者も感心して聞いてくれた……とこまではよかった。
 調子に乗って、お腹の夏祭りの話までしてしまう。

「ほんなら、明日香さん、パンツも穿かんとトイレに……!?」

 スタジオ大爆笑。この時、うちはMNBの『お祭り女王』という称号をいただく、その原因の半分はこれですわ。
 
 アハハハハ(*´∀`)
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小悪魔マユの魔法日記・48『フェアリーテール・22』

2019-09-29 05:57:17 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・48
『フェアリーテール・22』    


 
 
「そこまでだ……!」

 合体した二人の後ろで声がした……。

 立っていたのは町長だった。

「気になってサンチャゴの家を覗いたら、ベアが倒れていた。君たち二人の姿はないし、サンチャゴは夢を見続けていた。サンチャゴの瞳の中に、君たちの気配を感じてね、心配になってここまで来たんだ」
「町長さん、夢の中に入ってこれるんだ」
「めったに使わんが、この程度の魔法はね……しかし、二人合体してZ指定の結界をこえるとは……マユちゃん、なかなかの魔法使いだ」
「いいえ、わたしは、そんなアマチュアじゃないわ。こう見えても悪魔のハシクレ、魔法では、わたしには勝てないわよ」
「……そうだったのかい」
 町長は、ため息一つついて、岩の上に腰を下ろした。

「もう、こうなったら、お願いするしかないね……ライオンが目覚める前に、この夢から出て行ってくれないかい。ミファ、マユ……」
「どうして、起きているライオンを見ちゃいけないの」
「……手に負えないんだよ、ライオンは。昔は……といっても、わたしなんかが生まれる前だけどね。ライオンのことは小学校でも教えていた。みんなライオンを信じていた……そして、そのために大きな戦争までやってしまった……大勢の人が死んで、島は、さびれてしまった。だから、わしたちは、もうライオンを見ないことにした、考えることもやめた。いま、島でライオンを見続けているのはサンチャゴただ一人。だから起こすわけにはいかない。君たちに、起きているライオンを見せるわけにもいかないんだ」
「……でもね町長さん。そんなこと言ってたら、あたし達の島は、いつまでたっても今のままよ。あたし達、まだ子どもだけど、任せてくれないかな。ライオンをどう受け止めるか……それは見てみなくちゃ分からないから、感じてみなくちゃわからないから」

 その時、ライオンが目を覚ました……。
 うわああああああああ!!!
 気がつくと、サンチャゴじいちゃんの小屋にもどっていた。
 ライオンが目覚めたとき、それは気配で分かった。空気が強い力でみなぎったから。サンチャゴ軍曹は、少し遅れて歓声をあげた。そして、ゆっくりとライオンといっしょにこちらを向いた。

 サンチャゴの目も、ライオンの目も……暗い井戸の底のように真っ暗だった。ただ深い闇の広がりが予感されるだけだった。町長も合体したマユとミファもその底知れない闇に悲鳴をあげることしかできなかった。
 そして、気がつくと三人は、この小屋にもどってきてしまっていた。

「わしが、もどしたわけじゃない」
 町長が、震えの残った声で言った。
「わかってるよ、町長さん。わたし、ただ怖ろしかった」
 合体が解けて、本来の姿に戻ったミファが言った。
 
 ガタンと音がして、町長とミファが驚いて音のした方を向いた。

「ごめん、おどかして……たぶん、もどしたのは、わたし」
 音がしたのは、マユが立ち上がろうとして、ふらついたからだった。
「ライオンの目を見るのには、町長さんは歳をとりすぎていた。ミファは、まだ幼すぎる。そして……二人を守るには、わたしの魔力は弱すぎた。だから……たぶん、わたしが反射的に二人を連れて夢から飛び出したんだと思う」
「サンチャゴじいちゃんは!?」
 ミファの声で三人は、サンチャゴのロッキングチェアーに寄った。サンチャゴは安らかな寝息を立てて眠っている。
「こんな安らかな寝顔を見たのは、初めてだな」
「うん……サンチャゴじいちゃんは、ライオンを見ることができたんだもんね」

 そうじゃない……二人には言わなかったけれど、マユには見えた。

 ライオンとサンチャゴの目の底にあるものを。ミファは怖さのあまり記憶からとんでしまっているけど、もう少し大人になれば無意識にでも思い出すだろう。マユは、そう思って言わなかった。
 その思いは、サンチャゴじいちゃんの小屋を出て坂道を町へもどるころには確信になっていた。ミファの肩から力みが消えていたから。

「ミ、ミファ……!」

 ミファを呼ぶ声が坂道を駆け上がってきた……。

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魔法少女マヂカ・079『M資金・13 カオス』

2019-09-28 13:48:20 | 小説

 魔法少女マヂカ・079  

 
『M資金・13 カオス』語り手:マヂカ 

 

 

 

 振り向くと、後部座席には誰も居ない。

 

「どうかした?」

「ブリンダ、ちょっとバックミラーを見て」

「バックミラー?」

 ブリンダは、運転席側のバックミラーを覗くが、見えるのは遠ざかる東京の街並みだけだ。

「こっちのバックミラーを見て」

 首を伸ばして助手席側のバックミラーを見るが、やはり遠ざかる東京の街並みだ。

「あ、そっちに行った!」

「え、こっち?」

 移動しているのが見えるわけでは無いのだけど、アリスの目線が動くので、反対側のミラーに行ったと感じた。

『そうよ、ブリンダに見えるように移動してるのに、アマノジャクに動き回るから』

「これ、アリスの声?」

『そうだ、ルームミラーに移動すれば、どちらからでも見えるかも!』

 アリスの言葉で、ルームミラーを見る。

「「見えた!」」

『えと、アリスだよ。よろしくね』

「穴に墜落して死んだんじゃないのか?」

『死んだわよ。間抜けな方のアリス』

「じゃ、あんたは?」

『賢い方のアリスだよ』

 わたしのイメージの中のアリスと違って、なんだか人を喰った感じに見える。

「ルームミラー見ながらじゃ運転しずらくってさ、ちゃんと出てきてくれよ」

 たしかに、ブリンダと身を寄せ合わないと、ミラーの真ん中にアリスを捉えることができなくて煩わしい。

『わりいね、あたし『鏡の国のアリス』だから、鏡の外には出れなくってさ』

 ああ、そう言えば『不思議の国のアリス』には続編があって、たしかに『鏡の国のアリス』だ。

『うん、マヂカが思った通り、リアルの肉体では、そっちには行けないのよ。ま、話聞いてよ』

「手短にね」

『敵の名前は『カオス』って言うの。てか、あたしが付けた名前なんだけどね』

「カオス……」

「混沌って意味ね」

『そう、何が出てくるか分からないからね。今は、向こうの世界で大人しくしてるけど、主だった魔法少女をやっつけたら、こっちの世界にも姿を現すわ。あんたたちの任務は『カオス』が向こうに居る間にやっつけること』

「そうか……だったら、オレたち魔法少女が健在な限り、こっちには影響がない」

「だったら、そっとしておくのも手じゃないの?」

 艦隊司令がむちゃくちゃなので、つい嫌味な言い方をしてしまう。分かるわよね、姿がコロコロ変わって、こんなポンコツ機動車しかあてがってくれないんじゃ、モチベーションの上がりようがない。

『放っておいたら、いずれカオスの方からやってくる。その時は、世界中の魔法少女が束になっても勝てなくなるわよ』

「そうなのか?」

『うん、間抜けのアリスも、そこんとこは分かってたわよ』

「……それで、どうしたらいいって言うの? とりあえず出撃はしたけど、どこへ行くんだか見当もついてないんだから」

「そうだ。目標が見つからなきゃ、腕の振るいようもないだろ」

『カオスが現れないのは、あんたらが、戦う気になってないから。その気になったら、カオスは目の前に現れる』

「「ウーーーーーーーーン!!」」

『便秘じゃないんだから、力んだって出てこないわよ』

「じゃ、どうすれば?」

『じゃ、この情報でどう……』

 アリスが指を動かすと、ミラーの前に文字が浮かんだ。

 

――カオスを倒さなければM資金は回収できない――

 

 ウ…………仕方がない。

 

 そう思ったとたん、前方に巨大なニヤケた口が現れた。

 ゆっくりと目とヒゲと縞模様も現れて、巨大なチェシャネコの姿になっていった。

 

 

 

 

 

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真夏ダイアリー・23『大洗母子旅行・1』

2019-09-28 06:31:41 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・23
『大洗母子旅行・1』      
 
 
 
 
 大洗の駅前は『ガールズ&パンツァー』一色だった。
 
『ガルパン』は乃木坂学院の文芸部でも聞かされ、ネットでも検索していたので、かなり詳しく知っているつもりだったけど、こんなに賑わっているとは思わなかった。
 
「これが休暇を取れた理由よ」
「ああ、取材にかこつけて……」
 電車から降りると、たちまち変装用のメガネが曇ってしまい、外してハンカチで拭いた。
「早くしなさいよ。あんた、ほんとのアイドルになっちゃったんだから、目に付くわよ」
「大丈夫、ニット帽も被ってるし、眉を描いてきたから、ちょっと目には分からないわよ」
「プ……なに、その眉。ちょっと描きすぎじゃない?」
「でも、自然でしょ。『プリティープリンセス』のアン・ハサウェー参考にしてきたの」
 わたしは、メガネをかけ直して、エッヘンポーズをとった。
「それって嫌み?」
「どうして?」
「主人公のミアのお母さんて、ちょっと変わったアーティストで離婚歴あり。で、その離婚が原因でストーリーが始まるのよね」
「でも、お父さんは国王じゃないわ。さ、まずはお仕事」
 そう言うと、お母さんは、そこいらにいるガルパンファンにインタビューに行った。カバンが大きいと思ったら、小型のプロ用カメラが入っていた。
 
「真夏、カメラ頼むわ。わたしインタビューするから」
 
 臨時のカメラマンにされてしまった。でも、カメラを構えてると、顔のほとんどが隠れてしまい、わたしにとっても都合が良い。
 まずは、実物大のⅣ号戦車のパネルの前にいる大学生風の男の子たちから始めた。
 
「ガルパンのどういうとこがすきなんですか?」
「わ、放送局っすか!?」
「まあ、いちおう」
 お母さんは、適当に答える。
「で、どういうとこが?」
「一口で言うと……なんでもありってとこですよね」
「そうそう、戦車と萌えなんか普通考えないっすよ」
「そのわりに、戦車の細かいトコなんかすごくリアルだし、ロケーションを大洗に持ってきたトコなんか突いてるって感じです」
 わたしより年上なんだろうけど、言葉は高校生並み。でも、ガルパンの核心はついている。わたしも含めて、今の若者って、鋭いのか、大ざっぱなのかよく分からない。ただ心理的にちょっと複雑という点では自信がある。
 
 それから、会場であるマリンタワーが見える広場では、主に展示物や、それに群がるガルパンファンを撮影。
 
 そして、お昼を食べてからは、ファンたちには聖地と呼ばれる町の風景を撮りにいった。
 
 キャラたちが五両の戦車に乗ってカタキの学校の戦車を撃破したところだ。案の定ファンたちで一杯。取材のネタには事欠かなかった。
「わたし、渋谷で、Ⅳ号戦車見たんだよ」
「え?」
 キャラたちが、敵のイギリスのクロムウェルを撃破し、からくも勝利した「聖地」の取材中にお母さんに言った。
「うん、ハチ公前の路上販売のおじさんから、クリスマスパーティー用のグッズ買ったら、頭がクラっとして。そうしたら道玄坂の方から走ってきた……」
「渋谷怪談って映画ができたぐらいのとこだからね。そういう話の一つや二つはあるかもね。だいたいハチ公にしたって、なんか都市伝説の走りって感じじゃん」
「……お母さん」
「うん?」
 一見無防備でノリノリのお母さん。これはお母さんのバリアーだ。このまま話しても、のった振りしてかわされる。
「ううん、なんでもない」
「変なの……ちょっとそこのディープなファンの人!」
 お母さんは、ファンの一群に突撃していった。

 旅館の夕食のアンコウ鍋が、半分がとこお腹に収まったところで、聞いてみた。

「お母さん……」
「なあに?」
「お母さん、どうしてお父さんと結婚したの? で、どうして別れちゃったの?」
「ゲホゲホ……」
 予想通り、お母さんは虚を突かれたようにむせかえった。そしてむせかえりながらも用意していた母親の仮面を被り始めているのが分かった。
「シナリオ通りの答えなんかしないでね。そんな答え、お互いの距離を広げるだけだから」
 
 わたしの真顔に、お母さんは明らかに動揺していた。
 旅館の窓の外は、粉雪が降り始めていた。雪が全てを覆い尽くす前に聞き出さなくっちゃ……。
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宇宙戦艦三笠・14[ヘラクレアの信号旗]

2019-09-28 06:22:03 | 小説6
宇宙戦艦三笠・14
[ヘラクレアの信号旗] 



 

 テキサスも三笠も修理を終えて小惑星ヘラクレアを離れて行く。

 ヘラクレアは、テキサスの廃材と、代わりにテキサスに使った材料を整理するために、星全体がガチャガチャと音を立てて形を変えていた。小惑星とは言え、長径30キロ、短径10キロもある星である。テキサスの修理ぐらいで形が変わるはずはないのだけど、ヘラクレアのオッサンにはこだわりがあるようで、全てのスクラップをあるべき場所に収めなければ気が済まないようだ。テキサスという異質物を取り込んでそのままにせず、全体の調和の中に収めているんだとみかさんは言った。

「あんな面倒なこと、わたしにはできないわ」

 みかさんは天照大神の分身でありながら、言うことが、片付けが苦手な女子高生のようである。
 パッと見は全然変わらないんだけど、モニターにテキサスと三笠が来る前と、今のヘラクレアを重ねてみると微妙に細部が違う。星全体を覆っている外板と鋲の位置が違うし、デコボコした張り出しもセンチ単位で位置や形が異なっていた。
「まるで『ハウルの動く城』ね」
 美奈穂が言った。
「それならソフィーがいなくっちゃ。ヘラクレアのオッサン一人じゃね」
 と、樟葉がチャチャを入れる。
「いっそ、美奈穂さんが居てあげれば」
 みかさんも尻馬に乗る。
「あたしがいなきゃ、三笠の射撃ができません」
「及ばずながら、わたしが帰りに通りかかるまで代わってあげてもいいことよ」
「いいえ、三笠の砲術長はあたしですから!」
 美奈穂はムキになった。
「それなら、それでいいのよ。ただね、ヘラクレアのおじさん……」
「なんですか?」
「娘さんを亡くしてるの……」
「ほんと……!?」
「あなたと逆ね。娘さんは戦争で、仲間を庇って亡くなってるわ」
 トシも樟葉も修一もみかさんの言葉に驚いた。
「あんな風に、スクラップを集めているのは、あの星の中心に娘さんが載っていた船の残骸があるから……それが捨てられずにね、ああやってスクラップで囲んで思い出を守っているのよ」
「あ、信号旗が上がった」
「航海の無事を祈る……か」

 美奈穂は、ずっと信号旗を見ていた。

「どう、お父さんを見直す気になった?」
「あたし、お父さんんことなんか……」
 美奈穂の父は、美奈穂一人を残して中東で死んでいる。
「ヘラクレアのおじさん、美奈穂ちゃんのお父さんに似てる……直観でそう思ったでしょ?」
「……いいんです。おかげで横須賀に来られて、みんなに出会えたから。物事には裏と表があります。だから……」
 美奈穂が言い終わる前に7発の礼砲が鳴った。
「あ、それ、あたしの仕事!」

 慌ててCICに飛び込む美奈穂であった。
 
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