大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・064『孫大人の飛躍』

2021-09-04 12:59:34 | 小説4

・064

『孫大人の飛躍』 越萌マイ(児玉元帥  

 

 

 OS基地跡の調査から、メンバーにお行儀のいい人間が加わっていたことが類推できた。

 ゴミの始末やトイレの使い方からの想像で、ひょっとしたら皇室か、その系譜に近い人間。

 それ以外は不明だ。

 

 OS基地時代なら、自家用パルス船を作りたいというベンチャーに。天狗党に乗っ取られてからであるならば、天狗党のメンバーに、そういう者が関わっているということになる。

 そうだとしたら……まだ、わたしが表立って動く段階ではない。

 カサギに残っているヨイチを呼び寄せたいところだが、森ノ宮さまをおひとりにしておくことも憚られるので思いとどまった。

「いつの間に……」

 取り扱うグッズを閲覧していた月城さんの手が停まった。

「どうかした?」

「孫会長がレアアースの買い付けに入りました」

「レアアース?」

 隣のデスクで仕事をしていたメイも手を停めて、月城さんのデスクトップを覗き込む。

 モニターには、候補になるグッズデータの右端にネットニュースが出ている。

「ちょっと、大きくしてくれる」

「はい」

 グッズデータが萎んで、ネットニュースが大きくなる。

「『北大街グループ、西ノ島のレアアース独占買い付け契約』……思いきりましたね」

 メイがため息をつきながら、自分のPCも切り替えて、情報を集め出した。

「当面は観光・芸能事業に専念するって言っておられたんですけどね……」

 北大街の社員でもある月城さんが知らなかったんだ、その業界の人間でも気づきようがないだろう。

「西ノ島って、大丈夫なんですかね……業界筋も驚いている様子ですけど、どこか、嘲笑めいた静観という感じです」

 たしかに、メイの開いた株式市況も業界の落ち着いた株価を示している。

「西ノ島の情報を出してくれる」

「はい」

 

 メイがクリックすると、三人の正面に100インチの仮想モニターが現れた。

 

 西ノ島は令和時代に海底噴火によって現れた小笠原諸島の中でも、一番若い島。

 10年に渡る令和噴火で、島の面積は20平方キロメートルほどに成長し、その後の調査で、島と周辺の海底に有数のレアアース鉱床があることが確認されているが、火山活動が活発なため手が出せないでいる。

 父島の沖に掘削基地を作って掘り進もうというのが、政府と業界の方針だが、西ノ島との間には130キロの海溝が横たわっており、まだほとんど計画の段階であると言っていい。

 島の火山は落ち着いているとはいえ、桜島ほどの火口からは絶えず噴煙が上がり、居住には向かない島である。

 度重なる噴火と地殻変動で、パルスが不安定で、大型のパルス機関、パルス動力は使用できない。

 その西ノ島には、日本、漢明、半島、満州、ロシアなど様々な国籍の人間が住み着き、海産物や、露頭している鉱物の採取で生計を立てている。

 住居表示こそ『東京都西ノ島』だが、本土ほどの生活環境は構築されてはいない。一方、日本最後のフロンティアとして、一部の冒険家たちには期待されている。

 

 要約すると、そういう内容が、次々に出てくる。

 

 日本最後のフロンティア……要は無法地帯ということだろう。

 大丈夫か、孫大人……

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 月城かける             北大街から派遣されたシマイルカンパニー社員

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト『思い出し橋』

2021-09-04 06:12:55 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『思い出し橋』   

 




 学校の途中に、ちょっとした川が流れていて五メートルほどの小さな橋が架かっていた。

 思い出し橋、と、みんなに親しまれていた。


 思い出橋と言えば語呂がいいんだけど、これは、ちょっと舌を噛みそうにオモイダシバシと発音するところがいい。

 朝寝坊をして、ろくに時間割も調べずに教科書をカバンに入れて、この橋までくると思い出す。

「あ、体操服入れるの忘れた!」

 で、慌てて取りに戻ることなどしょっちゅうだった。中には宿題をやるのを、ここで思い出すやつもいた。

「あ、オレ腹痛え、ちょっと家帰るわ」

「しかたねえ、だれそれに頭下げて写させてもらおう」

「どうしよう、先生に叱られる。あたし学校に行けない」

「ちぇ、またゴツンとやられるか」

 と、反応は、様々だが、思い出すのである。

 学校から戻る時にも、その効果はあった。

「しまった、あいつ、まだ廊下に立たせっぱなしだった!」

 と、先生が思い出すこともあった。

 あるときは事務員さんが、帰りが最後になって思い出した。

「あ、金庫閉めたけど、ロックしてなかった!」

 で、戻ったら、ちょうどドロボウが入っているところで、宿直の体育の先生といっしょに捕まえたこともあった。

 卒業式の時などは大変で、この橋まで来て、学校生活のあれこれを思いだしてしまう。

 学校にもう一度戻るやつ、その場に立ちすくんで思い出に耽る女生徒。そんなので一杯になるので、いつのころか、橋の後先は、ちょっとした広場のようになっていた。

 その学校も三十年前に統廃合されて無くなってしまった。

 

 でも、この思い出し橋にくると、木の間がくれに無いはずの校舎がオボロに思い出されたりする。

 僕が、最初にここに戻ってきたのは、会社をリストラされて仕事に困っているときだった。

 僕は、自分自身を前向きな人間だと思い、この思い出し橋の世話になったのは、時間割を間違えた時と、土曜が休日になったとき、ぼんやり土曜にここまで来て、あ、今日から土曜は休みだと思い出したときぐらいである。

 何もかもが懐かしかった。

 校舎、グラウンド、油引きの教室の匂い、校長先生のアデランス……そして、ふいに思い出した。朝礼のときふと前から香ってきたリンスの効いた髪の香り。

 ……そして、気づいた。その同じ香りが、すぐそこから香っていることを。

 

 振り返ると千穂がいた。

 

 千穂は、早い見合い結婚が破綻して、数年ぶりに故郷に戻ってきて、つい、この思い出し橋に来たそうだ。

「廃校になってるとは思わなかった。だって山田君が言うまでは校舎とか見えてたんだもん」

「ほんとかい?」

 僕も、そこまで、この橋の神通力は信じていなかった。なんとなく、学校と外界の境になっていて、橋を渡るという行為そのものが、思い出させる効果がある……ぐらいにしか思っていなかった。

「あたし免許もってるから、学校の講師でもなろうかって思ってたんだけどね……」

 で、互いの「それから」を話し、互いを意識していたことを笑いながら語った。

 そんなバツイチと、リストラが接近するのは早かった。

 幸い、千穂は近くの高校の常勤講師の口が見つかり、僕も地元の企業に契約社員として雇われた。

「割れ鍋に綴じ蓋」

 それを冗談のように、言い訳のようにして二人の距離は縮まった。

 そして、互いの両親に挨拶するだけという簡単さで結婚した。

 千穂は、二年目には東京の教員採用試験に通り、僕も取引先の引きで東京の会社に移った。契約社員の気楽さである。

 それから十五年の歳月がたち、順調だった千穂との生活にヒビが入った。

 結婚して、間もなく生まれた千明が亡くなったのだ。

 風邪だと油断したのが間違いだった。救急車で運んだときは、もう重篤で、三日目には、あっけなく、ちょうど十五歳の誕生日に千明は逝った。

 もともと口数の多くない夫婦が、互いにカミソリのようになって互いを傷つけるようになった。

 千明の死を互いのせいにした。ケンカ慣れしていない夫婦のそれは、簡単に飛躍した。

 千穂が包丁を持ち出し、僕は千穂の首を絞めていた。

 その時、飾り棚の上にあった思い出し橋で二人が撮った写真が落ちてきた。

 そして、僕たちはしばらくぶりで思い出し橋にやってきた。

「……なんにも思い出せない。あなたは?」

「オレも、校舎がどこにあったのかも、どんなだったのかも思い出さない」

「……ちょっと、橋変わってるわよ!」

「ほんとだ、似てるけど、これはコンクリートだ」
 
 思い出し橋は木造の橋だった。

 嘘か誠か、思い出し橋は、江戸時代、この小さな城下町の町はずれに藩校があったころから、修理をしたり手を加えられたりしながらずっと続いてきたものらしい。

 で、橋は、川や山がずっとそこにあるように、当たり前に有り続けているものだと思っていた。

「お、ベッピンの千穂とゴンタクレの山田の倅じゃないか」

 振り返ると、町の貧乏寺の和尚が似合わぬゲンチャに跨って、声をかけてきた。

「そうか、二人も人並みには苦労したんじゃな……」

 一通りの話しをすると和尚は、大事な物を置くように二人の肩を叩いた。

「この橋の架け替えも反対はしたんじゃけどな。耐震基準がどうとかこうとかぬかして、この有り様よ。もう、これを見ても、何も思い出さんじゃろ」

「ええ、カタチはそのままだけど、テーマパークのセットみたいです」

 和尚は、衣の袖をまさぐって、なにやら取りだした。

「これをやろう。前の橋の残骸じゃ。産廃にすると言うんで、わしがもらいうけた。大きな廃材は仏さんに彫り直したがな。木っ端は乾かして、お前さんたちのように不景気な顔してるやつらに配っている……まあ、お守りぐらいにはなるだろう……じゃ、そろそろ鐘を突く時間じゃ。二人とも元気でな!」

 和尚は、制限速度を軽く十キロはオーバーしていってしまった。

「さ、帰ろうか、オレたちも……」

「あ、あなた、見て……」

 車の後部座席に千明が居た……。

 中学の制服姿で、手を振っている……ほんの十秒ほどだったろうか、もっと短かったかも知れない。
 
 僕たちは、千明の気配を感じながら、幸せな気持ちで東京への道をめざした……。

 

 

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