大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・237『テムジン・1』

2024-07-31 11:25:30 | 小説4
・237

『テムジン・1』孫大人 




 北京秋天を思うと、それよりも壮絶な、いわば北京蒼天とでも言うべき壮絶な青空が見えてきたアル。

 北京の半分、奉天の四半分ほどしか水蒸気を感じさせない空は、まるで仰ぎ見る者を染めてしまいそうなほどに蒼いアル。

 緩い坂道を上っているので、このまま筋斗雲を進めていくと、そのまま空に上ってしまいそうな気持するアル。

「いっそ、空を飛ぶ? 短時間ならステルスレベルマックスにできるけど」

 気持ちを察した春鈴が気を効かすアル。

「このままがいいアル、飛んだら空に呑み込まれそうアル」

「惜しいわねぇ、小さな雲が一つだけ残ってる」

「惜しいか……かえって空の蒼さを荘厳(しょうごん)してる思うアルよ」

「荘厳ねえ……なんだか、そのまま解脱とかして新興宗教でも開きそうね」

 宗教開いて世界が救われるなら、それもアリ思うアルよ。

 しかし、この蒼天の下では間もなく満州戦争並みの戦闘が行われるアル。

 ここいらは昔からの変わらぬ遊牧やってるアル。今ごろは羊たちも避難させ、人間もゲルを畳んで避難準備の真っ最中思たアル。

 
 峠を越えると、蒼天のぼっち雲を映したように白いゲルが残ってるアル。ゲルの傍らにはポールが立っていてデザインされた狼の旗。

 
 テムジン!?


 児玉元帥以上に古い友人の名前思い出したアル!

「ちょ、なにすんのよ!」

 手を伸ばして筋斗雲の緊急停止を押したアル。

「テムジンは、こういうの嫌うアル。ここからは歩くアル」

「テムジン……知り合いなの? まだ一キロはありそうだけど?」

「ああ、老婆婆(ラオパアパア)の髪がまだ真っ黒だったころからの付き合いアル」

「あたしは?」

「ああ……ついて来てくれ。どのみち紹介しなくちゃならない、いっぺんに済ますいいアル」

「テムジンて本名? 古い鍛冶屋でなければモンゴルの古い英雄の名前だと思うんだけど」

「世襲名アル、父親死ぬとテムジンの名を受け継ぐアル」

「ちょっとぉ……すごい殺気なんだけどぉ」

「だいじょうぶ、ほんとうに殺そう思う、殺気ないアル」

「そう……言われてなきゃ、ソッコー首の骨へし折りに行ってるところよ」

「春鈴、物騒アル」

「え……向こうの方から近づいてきた」

「どうやら敵ではないと認識したアル」

 ゴヘーーイ!

 テムジーン!

 儂もテムジンも同時に駆けだして草原の真ん中で、ガシっとぶつかるようにしてハグし合った。

 同時に、どこでどう隠れていたのか、50騎余りの騎兵が湧いて出て、儂とテムジンを取り巻いたアル。

 春鈴も10騎ほどに取り巻かれている。そいつらはみんな弓に矢をつがえて春鈴に狙いを定めていたアルよ(^_^;)。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)106・再びの真田山高校

2024-07-31 07:29:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
106・再びの真田山高校  






 今日は『夕鶴』の稽古が無い。


 明後日から始まる第六地区のコンクール予選、その打ち合わせがあるので、部員全員で会場の真田山高校に向かう。

 地区総会に来たのは暑い盛りの七月だった。

 車いすというのは姿勢が低い。

 座っているんだから当たり前なんだけど、頭の位置は地上から一メートルも無くて、幼稚園児が歩いている頭の高さぐらいしかない。

 わずか四五十センチの違いなんだけど、アスファルトの照り返しが尋常じゃなく、健常者よりもうんと暑い。

 背もたれやシートが邪魔で、すっごい熱がこもるんだよ。背中もお尻も汗びちゃになった。


 それが懐かしく思えるくらいに、今日は寒い!


 健常者は歩いているから、ホコホコと温かい。

 でも、わたしって座りっぱなしだから歩行によって温まるということが無いので本当に寒い!

 寒いとトイレが近くなるので、昼ご飯のあと水分を摂っていない。

 内緒だけど五分丈のスパッツを穿いている。うっかりすると見えてしまうので、今日のわたしは大変お行儀がいい。

「ホットのお茶あるけど、少しだけ飲む?」

 介助をしてくれているミリー先輩が保温水筒を差し出してくれる。

「あ、かわいい」

 水筒はトトロの形をしていて、首を外すとコップになる。

「はい、どうぞ」

 トトロの形をしていなかったら、しなくていい遠慮をしてしまっただろう。

「かわいい」と反応することで先輩は「でしょ」とお茶を注いでくれる。普通の水筒だったら「あ、いいです」と返してしまう。

 元々の性格なのか、小六で車いすになってからかは分からないけど、人が勧めてくれたことには一歩引いてしまう臆病なところがある。

 むろん、こんな体なので、いざという時には見ず知らずの人にもお願いしたり頼りにしたりしなくちゃならないので、差し迫った時でなければ、つい遠慮してしまうのだ。

 ミリー先輩は、ついこないだまでは車いすだった。

 捻挫をこじらせての短期間だったけど、いっしょにゴロゴロと車いすを転がして、ずいぶん距離が縮まった。

 七月は、須磨先輩が解除してくれていたけど、今日の須磨先輩は自然な流れで付き添いの朝倉先生と喋りながら、わたしたちの最後尾を歩いている。その声が聞こえてくるんだけど、なんだか友だち同士みたいなノリだ。噂では、二人は同級生同士だったらしいんだけど、どうなんだろ?


 真田山の会議室。


 みんな「こんにちわ!」と明るく挨拶してくれる。こちらも「こんにちわ!」と返すんだけど、七月の時のようにキャーキャー言われることは無い。

 七月は部室棟のことで演劇部は有名になった。SNSだけじゃなくテレビのニュースなんかにも出たので、なんだかアイドルの握手会みたくなってしまった。

 まあ、一種のノリだったんだろうなと納得。

 でも、ミッキーは新顔のアメリカ人、でもって、演劇部というのはどこの学校も女ばっかなので、チラチラとチラ見されている。

「『日本の学校って、みんなきれいだね……校舎も生徒も』って言ってる」

 ミッキーの独り言をミリー先輩が同時通訳。

「how about SOUHORI?」

 惣堀高校はどうよ? とミリー先輩が聞き返す。この程度の英語は分かる。

「オフコース!」

 分かりやすいカタカナ英語で答えるミッキー。日本語はまだまだだけど、分かりやすい言葉で意思を伝えようとするのはグッドだと思う。

 こないだA新聞の取材で、舞台で稽古の一部を披露するのに舞台に上がるのに間近にいたミッキーがピクリと動いた。
 瞬間で分かったよ、わたしを介助してくれようとしたんだけど――これは啓介先輩の役目――だと思ったんだ。

 啓介先輩だって、成り行きで一回やってくれただけだから、特別な気持ちとかがあってのことじゃないんだよ。あんまり気を回されるのは好きじゃないけど、こういう思いやりは悪くないと思う(^_^;)。


 会議の終わりに受付業務の説明を受ける。


 惣堀は出場はしないけど、受付の仕事をすることになっている。

「これをPRして売って欲しいねん」

 役員校の先生が、ドサリと紙包みを置いた。

 中身は週刊誌大の立派なパンフレットだった。ざっと百部ほど、これを五百円で売る。売り上げはコンクールの運営費用の一部にあてられるそうだ。

 バカにできない売り上げになるそうで、頑張らなくっちゃと思った。

「で、空堀高校の部員は何人?」

「五人です」

「じゃ五冊、どうぞ。代金は今日でなくてもいいけど2500円ね」

 え、わたしたちからも取るの?

「連盟も金ないさかいなあ」

 啓介先輩が忖度すると朝倉先生が茶封筒からお金を出して払う。パンフのことは分かってたんだね。あらかじめ用意していたんだ。

「どうもすみません(^_^;)」

 お礼を言いながら領収書をくれる役員校。

 あとでググってみると、大阪の倍以上の加盟校のある東京以外は苦しいみたい。
 
 会議というか打合せの内容は一年のわたしには難しいのでニコニコ座っているだけ。まあ、空気に馴染んでおくのも大事だからね。

 て……あれ、演劇部は学校辞めるための方便だたんだけどね。

 演劇部に潰れる気配はない。

 え、あ、いやいや、いいんだけどね(#^_^#)。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)105・ただちに体育館集合 敷島

2024-07-30 07:10:19 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
105・ただちに体育館集合 敷島 





 ――ただちに体育館集合 敷島――


 敷島?…………あ、ああ。

 一瞬誰だか分からなかったけど、敷島というのは八重桜のリアルネームだと思い至る。

 そうか、四時間目が終了した時――機器点検のため一時まで校内放送はできません――と放送があった。

 ようは放課後の部活も待ちきれずに八重桜がメールで演劇部全員を体育館に集めたということだ。いったいなんだ?

 ちょっと物憂い。

 教師の突然の思い付きというのはろくなことが無いことは八年の高校生活で身に染みているからね。

 体育館に行ってみると、演劇部の他に生徒会執行部と、文化祭で『夕鶴』のアシスタントをしてくれるボランティアの面々が集まっていた。

「何事(;¬¬)?」

 うっかり素の自分で聞いてしまった。

 演劇部と執行部の瀬戸内美晴を除いて目線を避けられる。

 登下校は素の自分を出さないように心掛けているけど、校内では気を付けていないとこうなる。

 なんたって二十四歳の三年生。あたりまえの三年生よりも六歳も年上。自分では意識してないけど面構えも目つきも尋常ではない……らしい。

「どうもマスコミの取材があるらしいわよ」

 美晴が自然体で答えてくれる。

 演劇部に答えさせたら、なんだか演劇部自身がわたし色に見えてしまうし、生徒会の会長なんかにオズオズ答えられたら、わたしはもう惣堀高校に巣くう化け物のように思われてしまう。

 そのへんの機微を心得ているのか、美晴の自然な言い方は垣根を低くしてくれた。


 先生来ましたよーー!


 体育館のギャラリーから声がする。

 どうやらギャラリーの窓から本館を見張る斥候を出していたようだ。

 パタパタパタと斥候が下りてきて、男子の何人かが外出しのシャツをズボンの中にしまい込む。ふだんだらしのない子たちなんで、かえって取って付けたみたいだ。

「ほら、シャツがよれてる。あーー分かんないかなあ、こうだよ!」

 一瞬でベルトを外してズボンをくつろげ、きちんとシャツを収めてやる。

「え、あ、先輩(#´ω`#)」

「ナヨってすんじゃないわよ」

「そ、そやかて(#´0`#)」

「あーーーそういうのヤメ! それから、わたしのこと先輩なんて呼んじゃダメ!」

 ダメ押しして、登下校モードに切り替える。


 なんとかカッコが付いたところでA新聞と思しきクルーを従えて八重桜がやってきた。


「やあみんな、A新聞の人たちが、今度の『夕鶴』の取り組みの取材に見えたわよ。硬くならずに自然にね」

 演劇部はほどよいよそ行きの、ほかは、ま、それなりの表情。

「A新聞文化部の望月です、すてきな取り組みだそうで、お話を伺いにきました」

 そのまんまリベラル政党のマスコットになれそうな女性記者が選挙ポスターのような笑みを振りまく。

「あ、そちらのお二人が交換留学生でキャストをやられる……」

 ビジュアル的に目立つミッキーとミリーのインタビューから始める。

 こういうときのアメリカ人というのはプレゼンテーション能力が高い。

 二人とも日本人の倍ほど表情筋を動かして、すばらしい機会に恵まれたことを英語と日本語で喋りまくった。

「お芝居も楽しみですけど、楽しそうにプレゼンするのは見ていても気持ちいいですね」

「ハハ、アメリカは多民の国ですから、しっかり表現しないと伝わらないからです。気持ちはほかのメンバーもいっしょですよ」

 さすがミリーはソツがない。

「ヤー、イッツ、アメイジング!」

 ミッキーは厚切りジェイソンを彷彿とさせる圧のある笑顔。

 それから、話題は千歳に及んだ。やっぱ、脚の不自由な千歳は広告塔になるようだ。ほんとうは、そういう注目のされ方は嫌なんだろうけど、もともと性格のいい千歳は少し恥じらいながら、でもニコニコと応える。

「ほー、じゃ、このステージだといろいろ大変なんですね」

「ええ、そうなんです」


 八重桜の指示で、一昨日のステージを再現する。


 千歳は啓介のお姫様ダッコで舞台に上がり、鬼ごっこでは新しく調達した木製の車いす。

「ほかにもあるんですよ」

 八重桜は舞台の照明と音響についてもひとくさり。

「前からの灯りが乏しいので表情が出ません、音響は(パンと手を打った)こういう具合に音が吸い込まれたり拡散してしまう構造なので、ピンマイクが無いと後ろ三分の二は届きません」

「なるほど……」

「かくも、教育の現場では視聴覚教育の、それこそメインステージの整備は遅れているんです」

 なるほど、わたしらの『夕鶴』のPRよりも、ハコものである施設の不備を訴えたかったのかと、ちょっと感心した。

 千歳の車いすといい、新聞社の取材といい、着実に準備が整っていく。

 フフフ……

 ちょっと癪だけども、この松井須磨、高校八年目にして少し時めいているのかもしれない。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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せやさかい 番外・002『相野先輩と海老のシッポ』

2024-07-29 10:54:41 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
002『相野先輩と海老のシッポ』さくら 




 秋アニメのアフレコの後、ラジオの生放送まで時間があったんで放送局の社食で早めの晩ご飯(遅めの昼ご飯とも言える(^_^;))をいただく。

 ちかごろは、テレビもラジオも斜陽産業やけども、放送局の食堂はけっこう繁盛してる。ぜんぶで100人は入れるというフロアーは八分の入り。
 教室が八分の入りやったら「今日は欠席が多いなあ」やけども、食堂は四人掛けに二人とか三人とかで座って、入り口には順番待ちの人らも並んでて、満席の印象。

「やっぱ……不景気なんだねえ」

 ご一緒してくれてはる相野千春さんが声を潜めて言う。相野さんは去年の春アニメ『やくも あやかし物語』でブレイクしたベテラン声優さん。なんでか気が合って、仕事の合間なんかにご飯とかごいっしょしてくれはる。

「そうですかぁ、けっこう入ってるように思いますけど」

「景気がよかったら外に食べに行ってるわよ……って、わたしたちも社食だけどね」

「う~ん、東京の人てぇ……雰囲気大事にしはりますよね」

「うん、見栄っ張り。ここの社食だってけっこう美味しいのにねえ」

 そう言いながらエビフライのシッポを口に放り込む相野さん。口の中でポリポリっと小気味のええ音がする。ウチも海老のシッポをポリポリ。

 相野さんと仲良くなったのは、声優仲間でご飯食べに行って、二人とも海老のシッポを食べるのが分かった時やしねえ。

「やっぱり、開会式の噂してる人が多いねえ……」

「あ、ああ……」

 ちょっと恥ずかしい……開会式をライブで観てて、ウチは感心ばっかりしてた。オリンピック旗が逆さに掲揚されたのはさすがに笑ったけど、ウチ的には「ポカやりよった!」と笑っておしまい。

 合間のパフォーマンスもお祖父ちゃんが言うてたアバンギャルドとかいう前衛芸術やと思て感心してた。

 真ん中にデブのネエチャンが居って、その両側に変なコスとメイクの人らが並んでフニャフニャしてるのは、わけも分からんとアバンギャルドォ!と感心してた。
 せやけど、あれはキリスト教の『最後の晩餐』をパロったものやと聞いてびっくりした。

 うちの家業的に言うと『阿弥陀来迎図』を茶化すようなもんで「そらアカンやろ!」という性格のもんや。

「国の名前を間違ってアナウンスしちゃうし、ほら、あのセーヌ川を馬に乗ってぇ……」

「ああ、ジャンヌダルクかFateのセイバーかっちゅう」

「あれは、オリンピックの旗を持ってなきゃ黒死病を運んでくる悪魔の姿」

「え、そうなんですか!?」

「うん、モノクロ的な演出だったし、フードで頭を隠してたでしょ。あれで大きな鎌とか持ってたら、そのものなんじゃないかなあ、ゴヤの黒い絵とか思い出す」

「は、はあ(^_^;)」

「トドメはマリーアントワネットの生首ね」

「え?」

「え、観てたんでしょ? 」

「アハハハハ(^_^;)」

「あそこさコンシエルジュリー って云って、リアルにマリー・アントワネットが幽閉されてた館だしね、ちょっとシャレにならないよ」

 ああ、たしかに見たけど、あそこは留美ちゃんといっしょにおばちゃんのパンの仕込手伝いながらやったから、なんやヘビメタがすごいなあて思ってた。坊主三人は喜んでたしぃ……。

「こんどのハローウィンじゃ真似するのが出てくるだろうねえ」

 あの晩、夢にマリーアントワネットが現われてダミアを連れて行った。

 そもそも、五年前子猫のダミアを拾った時にパリオリンピックの年に迎えに来ると夢の中で言うてたし……マリーアントワネットには分かってたんかも。

「せやけど、相野さん、よう知ってはりますねえ」

「アハハ、さくらがオムツしてたころから声優やってるからね」

 やっぱりこの業界を生き抜いてる人はちゃうと感心した。


 仕事を終えて家に帰ると、阿弥陀さんの前に新しい小さな骨壺。

 ウチのすぐ後に帰ってきた留美ちゃんといっしょに静かに手を合わせた。

 
 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)104・八重桜の教育的手腕・2

2024-07-29 06:52:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
104・八重桜の教育的手腕・2 




 アイデアはよかった。

 ミリー先輩とミッキーが舞台に立って、三輪車の須磨先輩と啓介先輩と助っ人の美晴先輩が二人の周囲をグルグル周る。ちょっと工夫して三輪車のハンドルの前に子どもの上半身のイラストを付けてある。それを大の高校生がチマチマチョコチョコと漕ぐものだから、ちょっと可愛い(^_^;)

 うん、ちゃんと子どもに見えてる!

「じゃ、カゴメカゴメやってごらん」

 八重桜先生の指示でミリー先輩を真ん中にカゴメカゴメを始める。

 かーごめかーごめ かーごの中のとーりーは いーついーつ出やーる……(^^


 あ、いい、これいい!


 みんな、そんな感じ。

 面白くなって、鬼を交代してみんなでやり始める。

 最初は、三輪車なんてどうだろう? 『夕鶴』の世界に馴染まないんじゃないだろうかと思った。

 でも、三輪車というアイテムは高校生に子どもの心を思い出させてくれるようで、みんな喜々としてやっている。

「そうよ、ここで大事なのは子供らしいハズミなの。三輪車って、みんな子どものころに乗ったじゃない、背丈も子どもの背丈に戻るじゃない、動きもチマチマしてて、なんの演出もしなくても子どもを演じられるのよ(^▽^)/」

 先生はガキ大将になったような楽しさで解説してくれる。

「じゃ、沢村さん入ってみようか」

「え、わたしですか!?」

「あれなら、混ざれるでしょ」

「あ、え……」

「千歳、やってみようや!」

「キャ!」

 啓介先輩がいきなりお姫様ダッコで舞台に上げてくれる。

「ディズニーアニメ、コンナシーンアッタネ!」

 車いすを舞台に上げながらミッキーが片言の日本語で、そんなつもりはないんだろうけど冷やかして、みんなが笑う(#^_^#)。

 でも、それからは簡単じゃなかった。

 さすがバリアフリーモデル校である空堀高校もステージまではできていない。

 それでカゴメカゴメをやってみる……ちょっと怖い。

 車いすでミリーの周りをまわって、舞台の前に出るともうギリギリ。介添え無しでホームドアの付いていない駅のホームに居るみたい。

 府立高校の舞台というのは、奥行きが3・6メートルしかない。

 それもカタログデータで、実際は幕とかホリゾントライトが置かれるので、実際は3メートル。

 中ほどにミリー先輩が居て、その周りを車いすで回ると……ちょっと狭い。

 舞台の高さは1・3メートルだから、目の高さは2メートルを超える。タイヤと舞台の端っことは30センチほど。

 でも、雰囲気がアゲアゲになっているので怖いとは言えない。

「じゃ、鬼ごっこしてみよっか」

 先生の一言、みんな「おーー!」って感じでノッテいる。

 わたしもおっかなびっくりで参加。でも、ものの数秒でみんなは停まる。

「先生、鬼ごっこは勢い付いて怖いってか、危険です」

 さすが生徒会副会長、美晴先輩が異議申し立て。

「やっぱりね、こうやってやってみると実感するのよね」

 先生は演説を始めた。

「府立高校の舞台は床下にパイプ椅子を収納するために標準より40センチも高いの。それにフロアの床面積とるために奥行きが無くって、じっさいやってみると、もう身の危険を感じるくらい。体育館に講堂の機能を併せ持たせたつもりが、文化施設としての舞台機構の無理解、意識の低さが舞台を高く狭くして、ひどく使いづらいものにしてしまったのよ。ね、これが大阪府、いえ、日本の文教政策の現実! 見た目だけに気を取られて、本当には現実に目が向いてないのよ! この現実に、わたしは断固抗議するものです!」

 パチパチパチパチパチパチ

 思わず拍手してしまった(^_^;)。

 最初に、この演説を聞かされたら、正直腰が引ける。

 でも、じっさいに自分たちがやってみて危険や不便さを感じると肯けるし、正直な拍手になる。

 わたしは八重桜先生をちょっとだけ見直した。


 迎えに来てくれたお姉ちゃんに話すと喜んでくれた。

「そっか、舞台はどうにもならないだろうけど、車いすを小型のに……」

 呟きながら松屋町(まっちゃまち)のおもちゃ屋さんの店先を偵察。

「おもちゃ屋さんに車いすは無いと思うよ、それに、運転中……キャ!」

 急停車したお店には木製の三輪車。

「あれだ!」

「三輪車は乗れないよ」

「コンセプトよコンセプト、この線でググったら…………あった!」

 それはタイヤ以外は全部木製という車いすで、タイヤも二回りも小さい室内用で、これなら狭い舞台でもいけるかもしれない!

 行動派のお姉ちゃんは、五分ほどでレンタルを決めてしまった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・115『妖退治・1 まずは説明』

2024-07-28 09:50:07 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
115『妖退治・1 まずは説明』   




 会社でいうと社長と課長ぐらいの差と一級呪物『言いくるめ絣』の着物のために、安倍晴天に言われるまま、建設途上の大阪万国博の会場に来ている。

 冷静になったら――無理に決まってる!――という気持ちしかないよ。

 わたしの魔法って、雨の日に薄い妖気の幕を張って濡れなくするとか、せいぜい壁一つ向こうの様子が探れる程度。バイトの結婚式場でやったら、とたんに巫女に化けていたスセリヒメにバレてしまったしね。

 もし、新幹線とか飛行機で大阪に行くんだったら、どこかで魔法が解けて隙を見て逃げ出したと思う。

 だけど、安倍晴天は名前の通り明るい性格で落ち込む隙を与えないし、うちの家から万博の建設現場まで一瞬で飛んでしまったしね。


「で、なにをすればいいんですか?」


 建設中の大屋根の上でボヤく。ちなみに、わたしの姿は晴天さんの魔法で人には見えないようになってるらしい。

「ここに居るだけでいいよ(^_^;)」

「え……」

 言葉にならなかったのは――このクソ暑い大屋根の上に居続けたら絶対熱中症で死んでしまう!――という絶望と――そんなことでいいのか!?――という呆れるほどの簡単さ。

「グッチは耐水魔法が使えるでしょ」

「雨に濡れない程度には」

「それを少しグレードアップ。ちちんぷ~いぷい(^▽^)」

「え、これって……あ、涼しくなってきた!」

「お昼ご飯とかは式神に持って来させるから、なにか足りないものや要望があったら言ってくれるといいよ」

「あの」

「うん?」

「どうして、ここに居るだけでいいんですか?」

「グッチ自身が結界になるからさ」

「わたしが結界!?」

「うん、時間がないから詳しい説明は後にする。とにかく夕方までは、この大屋根の上に居て。退屈したら大屋根の上を散歩するといい。一周2.2キロもあるからね、ゆっくり歩けば一時間は楽しめる。じゃあね」

 そう言うと晴天は大きくジャンプした。

 姿は地上に着くまでに消えてしまったけど、着地したあたりの空間が歪んだ。

 たぶん、待ち受けていた妖をやっつけたんだ。

 歪は建設現場のあちこちに移って、歪んでは消え、消えては、また別のところに歪みが現れる。

 いくつかの歪みは大屋根の際まで逃げてくるんだけど、結界に阻まれて弾かれていく。弾かれる瞬間に「チェ!」とか「クソ!」とかの声が聞こえる。ちょっとうるさいなあと思ったら聞こえなくなる。どうやらボリューム調整もできるみたいだ。

 まあ、これなら、なんとかやれるか。

 去年は昭和の万博、今年は令和の万博。

 令和は建設途中の妖退治だけど、これで間に合うなら、まあいいかと思う。

「でも、これってバイト料とか出るのかなあ……」

 呑気なことを思いながら、とりあえず大屋根を一周してみようかと歩き出す。

 もう少し涼しくしたいなあと思ったら目の前に26度と出て、すぐに24度に変わった。

 この魔法、この仕事が終わっても使えるといいのにと思った。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)103・八重桜の教育的手腕・1

2024-07-28 07:03:52 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
103・八重桜の教育的手腕・1 





 無い知恵を絞った。


『夕鶴』の登場人物は以下の通りや。


 与ひょう(傷ついた鶴を助けてやるお百姓) 
 つう(与ひょうに助けられた鶴の化身)
 そうど(与ひょうをそそのかし、つうに千羽織を織らせる) 
 うんず(そうどの仲間の小悪党)
 こどもたち


 字面で見ると、こどもたちというのはモブキャラで、ほんの添え物。


 せやから、どうとでもなると軽く考える。


 軽く考えて、そこいらの知り合いに声をかけて本番だけ舞台に立ってもらおうと思った。

 ところが八重桜に言われて1/20の舞台図を書いて1/20の役者を配置してみると……暑苦しい。

 与ひょうやつうと変わらん体格の子どもたちが四人も五人も舞台に出ると、もう、なんちゅうか言葉が無い。

 俺のソウルフードである冷やし中華に例えると、主役である中華麺よりもゆで卵とかキュウリとかが幅を利かせてる感じ。

 冷やし中華の上に、まるまる一個のゆで卵とキュウリ、トマトも焼き豚もマルッポ入ってたら……これは完全にアウト。


 う~ん(-_-;)


 演劇部に入って、こんなに芝居の事を考えたことは無い。

 う~~ん(-_-;)
 
 長年歩いた通学路、目をつぶってても歩ける道やのに、事故に遭いかけた。

 わっ( ゚Д゚)!!

 目の前に三輪車に乗ったガキが横の道から飛び出してきよった。

「ビックリするやろがー!」

 怒ると、三人のガキはケタケタ笑いながら行ってしまいよった。

 三輪車やと背丈が半分になってしもて、とっさには視野に入れへんのや。

 まあ、近所のガキなんで怒っても効き目は薄い。追いかけてカマシたろとも思たけど、その時思いついた。


 せや、三輪車や!


 子ども役を三輪車で登場させたら背丈は半分、ペダル漕いで動くから、小回りきくしチマチマとした動きは子どもらしいやんけ!

 それに千歳も出せるんちゃうやろか?

 車いすの方が三輪車よりもかさ高いけど、ちょっと大きめのオネエチャンいう感じでええことないやろか!?


「先生、アイデアです!」


 あくる日、さっそく八重桜に提案した。

 ちなみに、八重桜の事を――先生――と呼ぶのは、めっちゃ久しぶり。いつもは――あのう――で済ましてる。

「うん、それはいいアイデアね」

 まず誉めてくれた。八重桜でも褒められると嬉しいもんや。でも、これは教師としての教育的配慮やった。

「ダンス部が小道具の三輪車持ってるから、ちょっと借りてためしてみよう」

 演劇部一同で三輪車三台を持って体育館の舞台を目指した……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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せやさかい 番外・001 『パリオリンピックの朝』

2024-07-27 12:34:10 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
001『パリオリンピックの朝』さくら   





「船乗り込みとは粋やなあ(^▢^)」


 おとつい入れたばっかりの入れ歯を宣伝するみたいに大口開けて感激するお祖父ちゃん。

 おっちゃんも急な仮通夜から戻って来て衣のまんま、ビール飲みながら中継を観てる。

 テイ兄ちゃんは、半パンにTシャツで『副住職』いう名札でも掛けてんと僧侶には見えへんナリとアホ面で、とうに空になったグラス持って画面にくぎ付け。

 おばちゃんはヒラリに納めるパンの仕込のために、キッチンから時おり顔を出してはリビングのテレビを観てる。

 留美ちゃんはウチと並んで床に座って画面に食いつき、うちらがさっきまで座ってたソファーではブタネコのダミアが大あくびしとおる。油断してると、ウチの膝の上に載りたがるねんけど、重たいし暑いし『メ!』を十回ぐらいカマしてどかすことに成功。

おっちゃん:「加藤さんもオリンピック楽しみにしてはったなあ……」

 加藤さんは、おっちゃんが仮通夜務めてきた檀家さん。夕べ亡くならはって、急きょおっちゃんが仮通夜から骨上げまでお世話することになった。

テイ兄ちゃん:「船乗り込みてなにぃ?」

留美ちゃん:「プフ(* ´艸`)」

 周回遅れの質問に留美ちゃんが笑いをこらえる。

お祖父ちゃん:「子どもの頃に連れてってやったやろが、松竹座とかで歌舞伎興行の前に、役者さんやらが船で道頓堀を上って来る景気づけのイベントや」

テイ兄ちゃん:「ああ、帰りに食い倒れでお子様ランチ食べた、あれ?」

おっちゃん:「しかし、オリンピックの規模でやるとメチャクチャドラマチックやなあ……」

 たしかに、船乗り込みの後、陽が沈みかけると、一騎の騎士がオリンピックの旗をマントみたいにしてセーヌ川を駆けてきて、CGかと思たら、ロボットみたいで、それがそのままエッフェル塔のてっぺんに掲げられる!

留美ちゃん:「え、あの騎士、人だよ女の人!」

テイ兄ちゃん:「え!?」

 女の人いうだけで目の色変える生臭坊主。

 確かに陸に上がるとほんまの馬に乗り換えて(設定は、馬のまま陸に上がったことになってるみたい)各国の旗を従えて橋を渡ってエッフェル塔へ向かう姿はオルレアンのジャンヌダルクか!? Fateのセイバーか!?


 今日は久々に如来寺の全員が集まって(詩ちゃんはヤマセンブルグやけど)パリオリンピックの開会式を観てるんや。


 ウチも留美ちゃんも学校よりは声優と俳優の仕事がメインの生活になってる。

 学校に行けるのは週に三日ほど。それでも現住所は堺の如来寺。ちょっときついけど、新幹線やら飛行機を使って大阪と東京を行き来する毎日。

 こないだは、新幹線が一日止まってしもて、これだけで特別版の一本ぐらいの内容があるくらい。とにかく忙しい。

 ウチは、もう決めてるし、留美ちゃんも密かに決心してる。

 卒業したら、まだしばらくは声優、俳優の仕事を続けようと。

 来年の春アニメ『鳴かぬなら 信長転生記』の話が決まった。ウチが信長、留美ちゃんがお市。
 留美ちゃんは本業は俳優やけど、声優の仕事もやってる。貪欲というよりは謙虚な子ぉなんで、基本的に仕事のえり好みはせえへん。

 それに、ウチと留美ちゃんは姉妹みたいなもんやし、学校も住まいもいっしょやし、これは充実した稽古環境やと大人たちが考えたんやと思うけどね。

 あ、そうそう、先輩の百武真鈴さんが武田信玄の役で支えてくれはります。

 高校卒業と同時に始まる放送。ウチらも人生の区切やと思ってがんばります。


 明け方近くまで開会式を観て、床についたら夢を見た。


 夢の中にマリーアントワネットが現われて、ウチに、こんなことう言う。

マリー・アントワネット:「どうも5年間ありがとう」

さくら:「え、なんですかぁ?」

マリー・アントワネット:「わたしの猫に素敵な名前を付けてくださって、5年も世話をしてくださって」

さくら;「え、えと……ダミアのことですか?」

マリー・アントワネット:「はい、パリオリンピックでは迎えに行くと、あの子にも約束しましたからね。ほんとうにありがとう」

 思い出した……子猫のダミアを拾った時、マリー・アントワネットの夢を見たんや(084『前の廊下で話声がする』)!

さくら:「ええ、ちょっと待ってください、マリー・アントワネットぉ! ダミアぁ!」


 朝起きてみると、ダミアはベッドの下の定位置で冷たくなってた……。


 ゆうべ、ウチの膝の上に来たがったのを邪険に拒んだことが悔やまれる。

 
 おっちゃんもテイ兄ちゃんも檀家周り。お祖父ちゃんがお葬式をやってくれることになる。

 ウチも留美ちゃんも東京で仕事、帰りは週明けの火曜日。

 この暑い季節、いつまでも置いとかれへん。

 せやさかい、お祖父ちゃんが全てを引き受けてくれる。ダミアは二代目で、先代のダミアもお祖父ちゃんが見送ったらしい。

「そんなに泣きな、ダミアはお浄土に帰ったんや」

「う、うん……」

「それにな、ダミアは仏さんがさくらのこと心配して送ってきはったお使いやねんで」

「え?」

「ダミア……逆さに読んだらアミダやろが」

「あ…………」

 テイ兄ちゃんが言うたらシバイてたと思う。せやけど、お祖父ちゃんが言うと、なんや説得力がある。名付け親はお祖父ちゃんやし。

「さくらも留美ちゃんも、もう心配ない。そう思て阿弥陀さんはダミアをお迎えに来はった」

「けど、夢に出て来たんはマリー・アントワネットやねんけど」

「そらぁ、パリオリンピックやし」

「…………」

「うん、せやさかい、なんにも心配せんと仕事しに行き」

「う、うん」

「ほんなら、手ぇ合わせとこか」

「う、うん」

 ナマンダブナマンダブ ナマンダブ……

 留美ちゃんと二人、本堂に安置されたダミアに手を合わせて仕事に行く。

 迎えのタクシーに乗ろうと思たら、通りの向こうに世界遺産のごりょうさん(仁徳天皇陵)の緑が目に眩しい。

 
 せやさかい、時どきはウチと留美ちゃんと如来寺のお便りをしようかと思います。


 ほんなら、とりあえず蝉しぐれの堺から、酒井さくらでした。
 

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  




 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)102・アイデア出してちょうだい!

2024-07-27 07:16:59 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
102・アイデア出してちょうだい! 





 こんな人やとは思わんかった。


 と言っても悪い意味とちがう。

 ゴリゴリの左翼のオバハンやと思てた。誰のかて?

 八重桜でんがな、選挙前には階段からわざとらしく選挙のチラシばら撒いて選挙権の有る三年生にアピールとかしとった、脳みそお花畑のパヨパヨチン。

 八重桜は『夕鶴』の演出を引き受けるについて千歳を主役に付けようとした。

 車いすの千歳がけなげに演じたら、世間の注目が得られるという下心。千歳も「感動ポルノ」みたいなことはやりたない言うてた。

 でも、千歳の気持ちを伝えると、あっさり撤回した。

 おや? という感じ。

 で、代わりのアイデアで、ミリーとミッキーを主役にすると言いだした。

 ああ、これも異文化交流とかグローバリズムとかの美辞麗句キャプションが付くねんやと思た。

 どこまで行っても左翼は左翼、パヨクはパヨク、ブサヨはブサヨやと思てた。


 あーーこんなに痩せてしまって……


 ミリーは「このセリフを口にしたら絶対観客に笑われる!」と悩んでた。

 ちなみにミリーはデブとちゃう。

 近ごろは女性の容姿を誉めてもセクハラとか女性差別とかとられかねへんから、言うたことないけど、ミリーはルックスもええしナイスバディーでもある。着物着せたら、かなり体の線消えるし「こんなに痩せてしまって……」をかましても笑うやつは居らへんと思う。

 そやけど、一回言うてしもたら、話の流れでセクハラとられそうやから、言わへんかったけどな。


 じゃ、その台詞カットしよう。


 八重桜は、これもあっさりと呑み込んだ……。

「とにかくさ、やるんなら楽しくやろうよ(^皿^)」

 稽古場として確保した空き教室。

 机や椅子を取っ払った真ん中、丸く並べた椅子に落ち着くと第一声をあげた。

 これも意外。

 パヨパヨチンなら教条主義的なテーマとかスローガンめいたものが出てくると思った。

『与ひょうがつうに家事を押し付けたり、千羽織を強要するのは女性差別!』『与ひょうの物欲や金銭欲は人の心を蝕んでいく資本主義の象徴!』『ほんとうに大切なものは、つうと同じで失ってみなければ分からない!』

 演劇に疎い俺でも、これくらいのスローガンめいたことは浮かんでくる。

 浮かんでくるし、こんなものを頭に入れてやったら、ほんとに左翼のプロパガンダになってしまう。

「アハハ、芝居って、そんなに詰まらないもんじゃないわよ」

 俺の顔色を察した八重桜は、古臭い迷信話を笑い飛ばすように両手を顔の前でヒラヒラさせた。

「ね、わたしの最大の興味は子どもたちなのよ」

 意外なことを言う。

 確かに『夕鶴』には子どもたちが出てくる。与ひょうやつうに「遊んでけれ」「歌うとうてけれ」と迫ってきて、実際舞台では与ひょうを囲んでカゴメカゴメをやったりする。

 子どもたちは声だけの出演やと思っていた俺はとまどった。

 高校生がツルンツルンの着物着て、台詞だけ子ども言葉……ありえへん。

 よそのクラブや劇団の上演記録を見ても声だけにしていることが多い。じっさいに出す時はリアルの子どもを使ってる。

 おれらは稽古だけでいっぱいいっぱい、子役を調達している暇なんてない。

 無理くり頼むんやったら、セーヤンとかのクラスメートやけど、あいつらがツンツルテンの着物着てすね毛剥き出し……ミリーの「こんなに痩せてしまって」の百倍は無理がある。

「子どもは出さなきゃだめよ、はい、アイデア出してちょうだい!」

 ポケットに入れたハンカチのように気楽に言われた……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)





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やくもあやかし物語2・062『野分の果て』

2024-07-26 12:08:03 | カントリーロード
くもやかし物語 2
062『野分の果て』 




「これは野分じゃ!」

 織姫さんからもらった花を傘にして、ポケットから目だけを出した御息所が警告するよ。

「ノワキとはなんだあああああああああああ((((;゚Д゚))))」

 プルプルプルプルプルプル

 強い風に長い耳がはためき、その振動で語尾を振るわせながらネルが質問する。

 わたしも分かってないけど(^_^;)。

「た、台風とかストームのことじゃ! 風が野原の草を吹き分けるように吹きすさぶから野分と言うんじゃ!」

「な、な、なるほどなななななななな((((^△^;))))」

「ネル、耳を押えよ、声が震えて聞き取りにくいぞよ」

「ご、ごごごごめんんんん(耳を押える)……こんどは聞こえにくくなった(^_^;)」

「ねえ、風が道を隠してしまったよ」

 野分で倒された草が細い道を隠してしまい、別の道が風に吹き分けられて現れてきたよ。

「なにか妖に誘われているのかもしれぬ、心してまいれ」

「なんだか、古典的な喋り方になっていないか、御息所?」

「あ、この野原の妖気のせいかもしれぬ。しばらく寝るぞよ」

 ポケットの中に引っ込み、花でふたをしてしまったよ。

「わたしが前を行くから、やくもは飛ばされないようにして付いてこい」

「う、うん、ありがとう」

 ビョォーーービュゥーーーーーブゥォーーーーー

 めちゃめちゃに風が吹く中、その風の向きが変わる度に道も変わって、それでもネルが盾になってくれて、風が弱まるところまでたどり着けた。風が止んで定まった道は二股に分かれた三叉路だよ。

「うう、なんとかなったな……でも、道はこれでいいのか、風の吹くままに進んできただけだぞ」

「ど、どうだろ(;'∀')?」

「二股に分かれてる、どっちに行けばいいんだぁ?」

 野分が吹きすさんでいるうちは果敢に進んでたネルだけど、穏やかに道が定まってしまうと、わたしといっしょに立ちすくんでしまう。

 ネルのいいところは、逆境に陥っても果敢に進める勇気と力だけども、こういうAかBかという選択を迫られることには弱いみたい。

 いや、いっしょにビビってるわたしも人のことは言えないんだけどね。

 シャララ~~ン

 魔法少女が出現するようなエフェクトがしたかと思うと、三叉路の股のところに古代服の少女が現れた!

 額田王を少し若くして、ちょっぴりコケティッシュにした感じに、間人皇女(はしひとのひめみこ)に違いないと思ったよ!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫
 


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REオフステージ(惣堀高校演劇部)101・こんなに痩せてしまって……

2024-07-26 06:48:30 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
101・こんなに痩せてしまって…… 





 おもわずライザップをググってしもた。


 そやかて、今の体形で『夕鶴』のヒロインをやる自信が無かったから。

 交換留学生のわたしとミッキーを使おうやなんて、もうビビってしまう。そら、足かけ4年も日本に居ったら日常会話はペラペラ。元々子どものころからお隣りの日系バアチャンの大阪弁に馴染んでたんで、言葉についての苦労は無い。

 せやけどもね、舞台で、たとえ学校の文化祭と言うても、スポットライトを浴びることは別物なんよ。

 せやけどもね……。

 元来がミーハーのアメリカ人やから直観的にオモシロイ!と思ってしまうんよ!

 思ってしまうと、平均的日本人の倍は豊かな表情筋が喜びの表情を作ってしまうんよ。

 で、しっかり台本を読んでみた。


 で、あ~~~~~~~~~(-_-;)なんよ。


 鶴の化身であるヒロインのつうは、与ひょうに頼まれるままに『鶴の千羽織』を織る、自分の体の羽毛を抜いてね。

 で、やっと織り終って一言こう言うんや。

「お~こんなに痩せてしまって……」

 ここ絶対笑われる!


 お風呂に入って、すんごく久しぶりに自分の裸を鏡に映してみたんよ。

 けしてデブっていうほどやないけど、骨格的にガッチリしてる。肩の肉とか! オケツから太ももにかけての線とか! 二の腕のプヨプヨとか!


 で、風呂上りに思わずライザップをググってしまった(^_^;)。


 とても文化祭までの期間に痩せることはでけへん。

 こんなことなら、出し物を『三匹の子豚』かなんかにしてほしいって思ったわよ。

 え、あれなら最初からプヨプヨのブタやろて?

 最初からブタならええんよ、プヨプヨのプニプニでも人は笑わへんわよ。
 
 せやけどさ、プニプニの鶴ってありえへんでしょ!

 まして千羽織を織ったあとで「こんなに痩せてしまって」なんて、もうソッコー吉本の世界や!

 それに、元々の火付け役で、わたしをヒロインにしようって言いだして演出までやろうかっちゅう八重桜先生はゴリゴリのコミュニスト。反論でもしようもんなら、民主集中制やとか党の決定やとか言い出して梃子でも動かへん感じ。


 そんなチョーブルーな気持ちで最初の稽古に臨んだわけ。


「じゃ、今日から楽しく稽古しましょう。やってる者が楽しくなきゃ観てる人は絶対楽しくないからね、オッケー!?」

「「「「「「ハイ( ๑•̀o•́๑ ) !」」」」」

「……ハイ(-_-;)」

 みんな元気に返事する中、わたしだけが蚊の泣くような返事しかでけへん。

「あら、どうしたの?」

 さっそく聞きとがめられてしまう。

「え、あ、いや……『こんなに痩せてしまって……』に違和感ありまくりでぇ」

「ん?」

 するとみんなの視線が集中して、こころなしか――あ、そうだよね――と言われたような気がした。

 カマラ・ハリスの心臓を羨ましく思った。

「なんだ、そんなこと気にしてるの」

「せ、せやけど、重大事項なんです!」

「自意識過剰なんだと思うけど。そうね、気になるようなら……その台詞はカットしましょう」

「え?」

 十月革命のレーニンの演説写真からトリミングで消されたトロツキーを思い浮かべてしもた( ゚Д゚)。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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馬鹿に付ける薬 002・原級留置告知式・2

2024-07-25 17:16:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

002:原級留置告知式・2 





――こ、これが講堂?――

 
 入学式以来久々の講堂に入ると、その内部は入学式の時よりもさらに広くなっていて、一階席も二階席も星々のスピリットでいっぱいだ。よく見ると入学式には無かったはずの三階席もうっすらと見えて、そこにも鈍く光るスピリットたちがひしめいている。

 壁や天井には銀河をモチーフにした壁紙や装飾があったはずなのだが、それはVRの3D映像のように立体的になっている。
 あたかも、講堂の内部が銀河宇宙の中に放り出されたように幻想的な広がりを持っているのだが、留年の申し渡しに呼ばれたと思っているアルテミスは悪い冗談としか思えなかった。

 同じ留年生のベロナが入学式の時と同じようなアルカイックスマイルで表情が読めないこともアルテミスをいら立たせる。

 舞台の上には入学式と同じ演壇が置かれて、少し後ろには演壇を挟むようにして審査員席のような裁判官席のような壇が設えられている。

 舞台の下には、四人分の椅子が置かれていて、真ん中の二つには『留年生席』、両脇の二つには『付き添い者席』の文字が点滅している。

 講堂の内扉から留年生席までの通路は銀河鉄道のホームの端から端ほどもあって両側は物見高い星々の、つまりは学校の生徒や教職員やPTAのスピリットたち。十字架こそは背負っていないが、まるでゴルゴダの丘に登るキリスト、とんださらし者だとアルテミスはさらに不機嫌になる。

 威風堂々?

 ベロナの呟きで、静かに流れているのが入学式の時と同じエルガーの行進曲だと気づくが、機嫌の悪いアルテミスには入学式から今までの学校生活をチャラにされたような気がして面白くも有難くもない。

 え?

 座ってから小さく驚いた。

 席は『留年生席』『付き添い者席』とあるだけで区別が無かった。それが、戸惑うことも迷うことも無く、左からカグヤ・アルテミスとベロナ・マルスと並んで座った。

 些細なことだが、こういう自分の意志以外の何かに導かれているのは面白くないアルテミスだ。

 スルスル

 子供向きアニメのような音がして舞台の端にマイクがせり上がってきた。司会者が出てくるのかと思ったら、さっきまで前を歩いていた宮沢校長だ。

 入学式じゃ、教頭のジョバンニが立って司会をしていた――ということは、演壇にはもっとエライやつがくるのか?――とアルテミスは思ってキョロキョロ。

「始まるわよ(^_^)」

「分かってる(-"- ) 」

 ベロナの一言はやっぱりムカつく。

「ただ今より、本年度昴学院高校の原級留置告知式を挙行いたします。一同、起立」

 ザザ

 何万人いるんだろうというぐらいの音がして会場の全員が起立。さすがに緊張する。

 いつの間にか演壇後ろの席には二年生担当の先生たちが神妙な顔で立っている。

「礼」

 ザワ

「着席」

 ザザ

「本年度原級留置を申し渡される者、月のアルテミス、火星のベロナ、起立」

 ザ

「それでは……あ……」

 演壇に振ろうとしたら、誰も居ないことに気付いて焦る校長。

 シャララ~~ン

 するとメルヘンなエフェクトをさせながら天女のような人が客席の後ろの方からシズシズと舞い降りてきた。

 胸ポケットからハンカチを出して汗を拭く校長。

 ギリギリまで畑仕事をしているからだと思うアルテミスだが、さすがに口にはしない。

 捻った首を戻す時に上を向いたベロナの顔を美しいと思う。瞬間ベロナと目が合って反射的にムッとしてしまう。ベロナはニコッとして、もう一つムッとしてしまうアルテミス。

「アマテラス理事長より原級留置の申し渡しとお言葉をいただきます」

 校長が紹介すると、それまでのにこやかな笑みを引っ込めて、理事長は無慈悲に宣告した。

「月のアルテミス……火星のベロナ……両名に本年度原級留置を申し渡します」

「「ハ、ハイ」」

 さすがに緊張して上ずった返事になる二人。

「ここからは座ってもらってかまいません……本校数百年ぶりの原級留置、簡単に言えば留年、落第です。従来ならば、新二年生の中に入って新たに二年生をやってもらうのですが、校長先生や学年の先生方とも協議して、本年度はやり方を変えます」

 え?

 ええ?

 意外の声は二人の留年生だけではなく、講堂の全員から起こった。

「昴学院建学の理念は、よりよい銀河宇宙の発展に寄与するスピリットの養成にあります。明日の銀河世界のために二人には特別の使命を帯びてもらいます」

 特別の使命……?

「月のアルテミス、火星のベロナ、あなたたちは母星の運命を知っていますね……どうですか?」

「「はい」」

 これには頷かざるを得ない。めったに聞くことも口にすることもないのだが、月と火星には運命がある。星としての誕生した時からの抗しがたい運命が。

「あなたたちの留年は、その運命に果敢にも抗うための志があってのことと、このアマテラスは理解しています。だからこそ使命を与えます」

 アルテミスは後悔した。ベロナに誘われて「もう一年気ままな二年生ができるなら」と留年したのだが、特別な使命があるなどとは思ってもいなかったのだ。

 参列の星々やスピリットたちも何事かと息を潜めている。

「バカにつける薬を探す旅に出てもらいます!」

 え…………?

 あまりに意外の使命に式場のほとんどのものが言葉を失ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
 
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銀河太平記・236『西へ』

2024-07-25 11:55:39 | 小説4
・236

『西へ』孫大人 




「ん、なんで西に進むアルか?」


 山海関を出て奉天に戻る道を走るのかと思ったら、筋斗雲はそのまま西に向かって走っている。

「なに言ってんの、自分でも西が危ないって思ってるくせに」

「一度、奉天に戻ってからと思たアル」

「カルチェタランなら大丈夫、老婆婆と鈴麗が居る。あの二人の方が店と街に関しては悟兵よりも分かってる」

「そうアルな。とりあえず満洲里アル」

 満洲里とはハルピンの西方400キロ、モンゴルの東に位置する街で、モンゴルの街でありながら「満州」ではなく「満洲」とキチンと表記する由緒正しい街アル。たぶん、大昔は満州の勢力がこのあたりまであった名残りアル。

「了解」

「なんで、西が危ない思うアルか?」

「そりゃあ、さっきのミサイルはフェイント、あるいは観測気球。力技でぶつかりあったら、すぐに本格的なパルス兵器同士のぶつかり合いになるでしょ。本格的な世界大戦は両国とも避けたい、21世紀の大失敗も有ったことだし。両国ともモンゴルを挟んで通常兵器の密度が高いし、平原ばかりだし通常兵器でドンパチやるにはうってつけだし」

「フフフ……」

「なによ、気持ち悪い」

「東鈴、世界で最初の共産国はどこアルか?」

「え、ソ連でしょ、100年もたなかったけど」

「では、二番目はどこアルか?」

「モンゴル」

「なんでモンゴルアルか?」

「ソ連に隣接してるし、影響受けやすかったからでしょ」

「フフ……理解が浅いアル」

「なんかムカつく(^_^;)」

「モンゴルは中国から逃げたかったアル。歴史的にいじめられてばかりだったアルから、ソ連の親類になるのが手っ取り早かったアル」

「あ、でも、モンゴルの南半分は長いこと中国に入って自治区になってたでしょ。いま向かってる満洲里とかそうだし」

「逃げ遅れて中国に掴まったアル」

「そうなんだ……そうか、その記憶を刺激すれば、わりと簡単に自分の勢力圏に取り込めるとロシアは思うわけか」

「ちょっと高度をとって欲しいアル」

「え、飛んだら目立つよ」

「そこをうまくやって欲しいアルよ、飛んだ方が距離稼げるアルし」

「へいへい」

 東鈴は器用に高度10メートルほどを維持して飛んでくれるアル。

「少し落としてくれアル」

「気づいた?」

「ああ……これは……」

 木の間隠れに手入れの行き届いたAP機が見える。

「でも、あんな旧式機、役に立たないでしょ」

「いや、そうでもないアル」

 AP機とはアンチパルス波動機。つまり、パルス機関やパルス兵器を無効化する防衛兵器アル。

 モンゴルは豊かな国ではないので最新のAP機ないアル。漢明や先進国のパルス機器や兵器を無効化することは難しいアルが、それをピカピカに整備していることの意味は大きいアル。

 モンゴルはパルス機器は大嫌い! 使う奴も大嫌い!

 という意思表示にはなるアル。

 つまり、このモンゴルで事を起こそうとしたら、児玉元帥言うところの元亀天正の戦争をやるしかない。

 あの『北京秋天』の絵を思わせるマンチュリアの空の下で繰り広げられた満州戦争のことが思い起こされたアルよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 


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REオフステージ(惣堀高校演劇部)100・敷島先生と言うよりは八重桜

2024-07-25 07:00:37 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
100・敷島先生と言うよりは八重桜 





 敷島先生と言うよりは八重桜。

 図書室の主にして文芸部顧問で人権推進部部長で組合の文会長。教科は国語、わたしも一年で現国、三年の今は古文を習っている。

 年齢不詳だけど女の勘で五十代の半ばだと見ている。幾つに見える? 二度ほど聞かれたけど、先生への礼儀として五歳くらい若い年齢を言っておく。生徒会役員を二年も務めれば、それくらいの気は回せる。

 八重桜というニックネームは彼女の出っ歯に由来している。

 花(鼻)よりも前に葉(歯)が出る。という意味で、彼女が新任で来た時からのニックネーム。当時の生徒会長が付けたらしい。

 嘘か真か、ご本人はニックネームの意味を知らない。生徒会長が命名した時に彼女は中庭の八重桜の下に居た。ハラハラと散る花びらが彼女の肩やら頭やらに降り注ぐので、生徒会長は、こう申し上げた。

「これからは、八重桜の君と呼ばせていただきます」

 彼女は、授業で源氏物語を教えていたところだったので、イケメン生徒会長が雅やかにも源氏物語のノリで言ってくれたのだと合点した。だから『八重桜』と呼ばれても悪い気はしない。

 今年の大河ドラマは『光る君へ』なので密かに――自分の年が来た!――と験を担いでいるようなフシがある。常々NHKの解体民営化を標榜している女史だけど、今年は口にすることはないだろう。

 どっちかというと苦手な先生なので、必要が無ければわたしから話しかけることは無い。

 バサ

 その八重桜女史が四階への階段を上りきったところで紙束を落としてしまった。

 紙束は階段の上昇気流に一瞬舞い上げられ、フワフワと舞い落ちた。

 三百枚はあろう紙が一階までの階段を花びらのように散り下った。

 生徒会室から職員室へ向かっていた私は、他の役員と一緒に舞い散った紙を拾い集めた。

 最初の一枚を拾って、それがK党の選挙ビラであることが分かった。正確にはK党が全力で推している、ついこないだまではR党だった無所属候補のR女史のだが。

 街で渡されたら速攻ゴミ箱かポケットにしまい込まれるしろもの。

 直観的に学校でまき散らして良いものではないと思った。

 だから、みんなでせっせと拾って四階から下りてきた女史に手渡した。

「窓から飛んでったのもありますけど、一階まではこれだけだと思います」

「どうもありがとう、あ、そういや明日は投票日だったわね。あなたたち三年生でしょ?」

「自分は期日前投票をすませてきました」

 会長が言うと、女子は露骨にわたしを見た。いっしょの会計は二年生で選挙権が無い。

「明日は投票日、お天気悪そうだけど、きちんと投票にいきましょうね!」

 そう言うと、もう一度チラシを広げてから立ち去った。


「あれ、偶然を装った選挙運動やな」


 会長はニヤニヤして顎を撫でた。

「ほんとに期日前投票したの?」

「ああ言うとかんと、八重桜に選挙違反させるからなあ」

 そう言いながら、姑息な八重桜女史を面白がっている。

 もともと左翼は大嫌いなんだけど、学校の廊下で話題にするのはもっとイヤダ。


 職員室へ向かうと、出てきたばかりの八重桜とすれ違う。


 今度は、なにやらざら紙の冊子を持っている。

「八重桜さん、演劇部の演出かって出たらしいで」

 不快な感じがした。

 基本的に天敵の演劇部だけど、女史が演出かなんだか演劇部に働きかけるのはイヤダ。

 演劇部の三年は松井須磨だけだけど、立場を利用して明日の選挙の話とかは許されないと思う。

「なんや、留学生二人をメインに据えて、気合入ってるみたいやで」

「あ、そ」

「なあ、いっかい見に行けへんか、国際交流と文化部の視察。意義深いで」

 この会長が「面白い」という意義以外で行動することなどありえないんだけど、他の役員も乗り気になったので付き合うことにした。

 で、わたしは八重桜への認識を大きく修正することになった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・114『安倍晴天』

2024-07-24 11:18:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
114『安倍晴天』   




「それで、返事をしたのかい?」


 いつになく怖い顔で訊ねるお祖母ちゃんにビビった(;'∀')。

 終業式のあった20日の午後、みんなで新宿のホコ天に行ってマクド一号店でハンバーガーを食べた。みんなで記念写真を撮ったり楽しい半日だった。うっかり、あの時代にはまだ発売されてない使い捨てカメラを使ってロコに不審がられたりして、時を跨ぐのは注意の上に注意をしなくっちゃ。と、思い知る。

 そして、戻り橋を渡って令和に戻った時、後ろから声がかかった。

『ねえ、グッチ』

 完全に友だちのノリの声だった。それも橋からじゃなくて、川沿いの道からだったから、つい返事をしてしまった。

「え、わたし?」

 振り返ると、目の高さにハンバーガーが浮いている。

 ハンバーガーは、切れ込みのところがパカパカ開いて、それが喋っているように見える。

『あした、グッチの家に行くからうちに居てね。三時ごろ行くから』

「え、えと……」

『怪しい者じゃないよ、応(こたえ)さんの友だち、名刺わたしとくね』

 切れ込みが大きく開いたかと思うと、レタスとパテの間から名刺が飛び出してきて、受け取った瞬間にハンバーガーは消えてしまった。

 こいつは式だ、式神だ。それもメッセンジャーとか飛脚とか呼ばれるレベルの低い奴で、こちらが返事をしなかったら用件を伝えることさえできない。迷惑メールと同じ。返事するのはクリックするのと同じ。だから「それで、返事をしたのかい?」と、お祖母ちゃんは聞いたわけ。

 マクド一号店に行った後だったから油断していたんだね。

「安倍晴天……なんだかパチものくさいけど」

「めったなことを言うんじゃないよ。安倍晴明の五十代目、陰陽寮の司だよ」

「よく分からないんだけど」

「うちの時司家は、代々朝廷の陰陽寮に所属して時間の管理をしていたんだ」

「うちも司だし、偉くないの?」

「課長と社長ぐらいにちがう」

「あ、そうなんだ……」

「お祖母ちゃんが相手しとくから、部屋から出ちゃいけないよ」

 そう言われて、朝ごはんの後は自分の部屋に籠ったよ。

 お祖母ちゃんは、めずらしく久留米絣の装いで安倍晴天さんを待ち受ける。

 わたしは、パソコンにつないであるモニターで動画を観て時間をつぶす。麦茶とお煎餅なんかも持ち込んで、まあ、半日は退屈せずにすむだろうね。

 ドローンで世界や日本のあちこちを見せてくれるのをボーっと見ている。

 4Kの40インチ。六畳の部屋で観ているとけっこう臨場感がある。

 もうじきオリンピックのフランスから始めて、スペイン、イタリア、ポーランドの古城を空からゆっくり見てるのは雰囲気。

 エッフェル塔が出て来たからフランスかと思ったら、中国のお金持ちが作った2/3スケールのレプリカ。周囲もフランスの町っぽく作られていて、しばらく気づかない。スフィンクスとピラミッドでエジプトかと思ったらラスベガス。
 クリックすると、五重塔の向こうにおあつらえ向きの富士山。外国の人の動画で、日本人とは視点が違うから面白い。
 カメラが切り替わると見覚えのある山……ああ、宮之森の城山だ!
 去年は、みんなで花火を観に行った。おたふくでパンとか買ってプチ遠足にも行ったっけ。
 城山を巡ったカメラは、川沿いを進んで見覚えのある家並。どこだろうと思っていると……うちの家だ。
 近づいていくと、二階の窓が開いて……え、モニターを見てる後姿はわたしだ!

 振り返ると、めちゃくちゃイケメン、和服姿のオニイサンが笑顔で座っている。

「どうもぉ、安倍晴天ですぅ(^▽^)/」

 あ、やられた(;'∀')。

「応さんに会うと、言いくるめられそうで、直接おじゃましましたぁ」

「あ……え、えと……」

「応さん、久留米絣を着てるでしょう」

「あ、めったに着ないんですけどね……」

「あれはね『言いくるめ絣』と云ってね、なにを頼みに行ってもうまく言いくるめられて退散させられるという呪物なんだよ」

「え、そうなんですか!」

「応さんのは年期が入ってるからね、ボクでも太刀打ちできない」

「あ、え……それで、なんの御用なんでしょうか?」

「大阪の万博会場でガス爆発があったのを知ってる?」

 大阪万博と言われて思い浮かぶのは去年行った70年の万博。

「あ、そっちじゃなくて、いま建設中の」

「あ、ああ」

 思い出した。会場敷地の地下にメタンガスが溜まっていて、それに引火して爆発したってニュースでやっていた。

「メタンガスの仕業になってるけど、実は妖とかの仕業なんだ」

「そうなんですか!?」

「うん、それをやっつけたいんだけどね、ぜひグッチ、きみの力を借りたいんだ」

「わたしがですか!?」

「うん、というのがね……」

 晴天さんは膝を進めて、でも、穏やかに説明してくれて……けっきょくは引き受けてしまった。

「じゃ、今から大阪に飛ぶよ」

 そう言われても、戸惑いも抵抗も感じない。

 意識がボンヤリする中で気が付いた。

 晴天さんの和服も久留米絣だった……。



 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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