ライトノベルセレクト・270
〔演劇部に入らなくって8カ月〕
「御手毬高校やったら、演劇部入れよ!」
合格を伝えに卒業母校になりたての中学に行ったら、ミッチーが、そう言うた。
ミッチーいうのは、担任の吉田美智雄先生。進路担当で、生徒の面倒見もええし、授業も面白い。ミッチーのクラスになってよかったと思うてる。
「卒業したら、演劇やりたいんです!」
三者懇談で言うたら、私学の御手毬高校を勧めてくれた。大阪の高校演劇では一番の高校らしい。
そもそも演劇やりたい思うたんは、京橋学院の演劇部出身の里中るり子いう若い女優さんが、金狼映画祭いう国際的な映画のフェスティバルで、金狼賞とって「かっこええ!」と思うたから。高校時代は目立たへん普通の女の子やったけど、演劇部では光ってたらしい。
「いまのわたしがあるのは、田山監督と演劇部の近藤先生のお蔭です」
と、インタビューで謙虚に言うてたのがかっこええ。けして明るくパッと目立つような美人やないけど、ひかえ目で、謙虚な美人やった。素人のあたしが見ても、このるり子さんは、人生に自信とやりがいもったから、美人になったんやろと思うた。
で、親を説得して、京橋学院高校に入ろと決めた。
せやけど、ミッチーは、こない言うた。
「里中るり子いうのは、確かに京橋の演劇部やけど、この子が芽が出たんは大学行ってからで、田山監督と出会うたからや。大阪の高校演劇で一番言うたら、御手毬高校やで」
ミッチーは、資料を見せてくれた。
「中学で演劇部あったら顧問したい!」言うくらい、実は演劇が好きらしい。高校演劇のコンクールのパンフレットやった。
なんと、御手毬高校は毎年本選に出てる。近畿大会へも京橋学院よりも出場回数が多い。なんでも顧問の先生が、W大学の演劇科出身で、付属の大学で、コミニケーションの出張講義にも行ってる。
「優衣、芝居したいんなら、演劇部はよしとけ」
一円玉が、横からいらんことを言う。
一円玉言うのは、生活指導の玉井先生。どういうわけか、東京から大阪の中学校の先生しにきてる変わり者……いうか、生徒からも先生らからも嫌がられてる。これ以上崩しようがないくらいのダメ教師で、陰では「一円玉」で通ってる。
「芝居がしたいんだったら、直に劇団にいけ。高校演劇では力がつかないぜ」
「どうしてですか?」
やめといたらええのに、合格に水差されたみたいで、ついつっかかってしもた。
「これ、見てみろよ」
一円玉は、大阪の高校演劇連盟でパソコンを検索した。
「で、映像を観てみる……どうだ?」
あたしはビックリした。連盟の映像に高校演劇が一つもなかった。
「分かるか、大阪の高校演劇は内側に閉じてしまって、好きと言いながら、こんなもんだ。ミッチー先生、パンフ見せてもらえますか」
ミッチーは、快くではないけど、断る理由もないので、コンクールのパンフを一円玉に渡した。
「創作劇の数数えてみろよ」
あたしは、こういう具体的な指示には弱い。通知表の所見にも「指導に素直に従う」と書かれてる。で、数えてみた。
なんと90%以上が創作劇。本選に至っては、100%。
「こんなの大阪だけだぜ。御手毬の創作劇、どれでもいいから入力して検索してみな」
あたしは、近畿大会までいった御手毬の作品名を入れた。
「……なんにも出てきません」
「そこの顧問名で検索」
「……野球選手が出てきます」
「学校名といっしょに入れてみな」
「……出てきました」
60件ほど出てきた。
「その先生の作品が、よそで演られてる実績は?」
「……ありません」
「これ、御手毬の校外公演のチケットだ。自分の目で見てこい」
ちょうど、三日後やったんで観にいった。きれいやけど小さい劇場やったんで、ミッチーといっしょになった。
「どうや、たいしたもんやったやろ!」
ミッチーは、大いに笑い、大いに拍手して、幕が下りたら、興奮して、そう言うた。
――こんなもんか――
正直、それが、あたしの感想。
あたしは、一円玉の紹介で、劇団到来の研究生になった。学校のクラブには入らへんかった。
あれから8カ月。ほんの端役やけど、台詞のある役をもろた。もうじき幕が上がる。キャパ800の会場は満席。
「映画監督の田山さんが来てる」
演出と舞台監督が、そんな話……聞かんほうがよかった。緊張する~!
演劇部に入らんで8カ月。
あたしは思う。べつにクラブに入らんでも、高校生が芝居したら、それでも高校演劇やと思う。現に研究生にも5人高校生が居てる。
一円玉は、なんでか、うちが一年で御手毬に入ったら、新転任の先生の中に入ってた。
これについては、面白い話がありますけど、また、別の機会に……。
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青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
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「優衣、芝居したいんなら、演劇部はよしとけ」
一円玉が、横からいらんことを言う。
一円玉言うのは、生活指導の玉井先生。どういうわけか、東京から大阪の中学校の先生しにきてる変わり者……いうか、生徒からも先生らからも嫌がられてる。これ以上崩しようがないくらいのダメ教師で、陰では「一円玉」で通ってる。
「芝居がしたいんだったら、直に劇団にいけ。高校演劇では力がつかないぜ」
「どうしてですか?」
やめといたらええのに、合格に水差されたみたいで、ついつっかかってしもた。
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「で、映像を観てみる……どうだ?」
あたしはビックリした。連盟の映像に高校演劇が一つもなかった。
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あたしは思う。べつにクラブに入らんでも、高校生が芝居したら、それでも高校演劇やと思う。現に研究生にも5人高校生が居てる。
一円玉は、なんでか、うちが一年で御手毬に入ったら、新転任の先生の中に入ってた。
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『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説と戯曲集!
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ラノベとして読んでアハハと笑い、ホロリと泣いて、気が付けば演劇部のマネジメントが身に付く! 著者、大橋むつおの高校演劇45年の経験からうまれた、分類不可能な新型高校演劇入門ノベルシリーズと戯曲!
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