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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

千早 零式勧請戦闘姫 2040・35『風の音にも驚かねぬる校外清掃』

2025-05-11 09:47:56 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
35『風の音にも驚かねぬる校外清掃』




 今日は学期に一回の校外清掃の日だ。


 今でこそ準進学校として地域からも愛される九尾高校だが、開校した60年前は評判が悪かった。
 かつて市内唯一の市立女子高だった九尾高校を移転させて県立高校になった時、男子の入学を認めて共学校にしたのだ。校名こそ女子高時代のそれを引き継いでいるが、実質は新設校。新設校にありがちな混乱と無秩序に陥り、地元からは顰蹙を買い、女子高時代からの同窓会からは「栄えある九尾高等女学校の面汚し、校名を変えて!」と三下り半を突きつけられたほどだ。

 そこで、当時の生活指導部長の提案で、学期の初めに全校生徒で校外清掃をすることにしたのだ。

 日ごろ顰蹙を買っていた九尾の生徒だが、回を重ねるごとに地域の評判を取り戻して2040年の現在に至っている。

 今朝も、全校生徒がゴミ袋と金バサミを持って、学校の周囲や通学路のゴミ拾いをやっている。

 担当区域は学年の縦割りで、千早の一組は一二年の一組といっしょに学校の南側、三本松の手前までだ。

「太陽光パネル無くなったんだねえ……」

 相棒の重森歌子が金バサミ持つ手を休めて感心する。

「うん、ギラギラしてて鬱陶しかったからね」

 ここの太陽光パネルは妖化して、三月の蔵書点検の朝は数百枚のパネルが千早を襲った。アメノウズメを勧請して激闘の末にやっつけたのだが、今は残りのパネルも撤去されて昔の田んぼに戻りつつある。

「田植えができるといいね」

「そうだねぇ……」

 千早も歌子も岐阜県少女らしく、濃尾平野には田んぼが似合うと圃場整備に入った野原を眺めるのだった。

「あ、二人だとボーっとしてしまうね(^○^;)」

「右と左に分かれてやろうか」

「うんうん(^_^;)」

「じゃ、わたし東側」

 道路を挟んで東西に分かれた。

 用水路沿いにゴミを拾っていると、向こうのあぜ道から視線を感じて顔を上げる……見覚えのある女生徒が千春を睨んでいる。

「あ、黒ウサギ!?」

「…………」

「なんで学校の外に出てんのよ!?」

 黒ウサギは結界のため学校の外には出てこないと思っていた千早だ。勢い言葉が強くなる

「学校の行事だからよ、文句ある?」

 それだけ言うと、金バサミをカチャカチャ言わせながらあぜ道の向こう側に消えてしまった。

 ピシ

「あれ……時間が停まった?」

 三月からこっち、度々時間が停まるのでそれほどには驚かなくなってはいる。しかし、時間が停まると妖や化物が現れるので反射的に警戒する千早だが、今の時間停止の音には害意が無い。

 カチャカチャカチャ……ズチャ

「ご報告に参りました」

 風を切り鎧の音をさせて現れたのは道三の家来の十兵衛だ。

「え、なにか異変でも?」

「お屋形様に命ぜられ、糺の……バブルの森に物見にまいっておりました」

「バブルの森、また化物!?」

「いえ、それが一匹の妖も見えませぬ」

「やっぱり……」

 先日、貞治を連れて調べに行った千早だが、その時はアカリン市長に出会っただけで、土壌が軟弱になっていること以外に森に異変は無かった。

「お屋形様のお言葉に寄りますと、妖共は地脈を通じて美濃の各地に散っておるとのことでございます」

「え、岐阜県の各地に?」

「はい、このあたりの妖の首魁は九尾の狐にございます」

「うん、それは知ってる。玉藻の前でしょ」

「いかにも、本性は九尾丘。その尾は九つ纏めて糺の森に収まっておりましたが、先日の天宇受賣命様との戦い以来、美濃の各地に飛んだとのことにございます」

「えぇ……なんだか面倒そう……」

「お案じなさいますな。戦闘姫さまにはお屋形様初め、ご家老の斎藤利光さま、加えて、我ら家臣の者共が付いております」

「そ、そうね、頼りにしてるわ十兵衛」

「身に余るお言葉、それでは、これにて」

 颯爽と馬にまたがると三本松の道を南にフェードアウトしていく道三子飼の若武者十兵衛であった。

――いま、誰かと会っていた?――

 黒ウサギの思念が飛び込んできた。

「あ、ううん。いや、風よ風」

――風?――

「『夏きぬと目にはさやかに見えねども、風の音にも驚かねぬる』って古文で習うでしょ……あ、あんたまだ一年だったっけ( ´艸`)」

「フン、それは『夏』ではなくて『秋』よ。神社の娘なら、もうちょっと勉強するのね」

「ウ(;'∀')」

「じゃあね、がんばってぇ先輩! アハハハハ……」

 憎々しい笑い声を残して学校に戻っていく黒ウサギ。

 気づくと重森歌子も戻って来て、大慌てでゴミ拾いにかかる千早であった。

 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
  • 妖たち           道三と家来(利光、十兵衛)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)

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