大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・11

2015-08-08 07:51:18 | 戯曲
連載戯曲・ノラ バーチャルからの旅立ち・11
ノラ バーチャルからの旅立ち・10 
        
      


時      百年後
所      関西州と名を改めた大阪

登場人物
好子     十七歳くらい
ロボット   うだつの上がらない青年風
まり子    好子の友人
所長     ロボットアーカイブスの女性所長
里香子    アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ    アシスタントディレクター



 木を切り倒す音が遠くに響く。

ノラ: やっと、音響、復旧したみたいですね。
里香子: やめてよ、ヤマちゃん。わたしをラネーフスカヤにしたいの? 
 だったら、あんたはフィールスのじいさんよ! 「ええ、この……できそこねえめが……!」ってぼやいて、
 だれもいない屋敷に閉じこめられんのよ……。
ノラ: ラネーフスカヤでもいいから、ここから出て行けって、ヤマさんの謎かけですね。
里香子: ラネーフスカヤは、没落貴族で未来はないのよ。
ノラ: それは暗示です。チェーホフもそこまでは書いていません。
里香子: それって慰め? わたしってこれでも文学部の演劇科なのよ。
ノラ: でも、書かれていないというこは、可能性があるということです。

 チャコが駆けこんでくる。

チャコ: 雨降ってきちゃった。里香子先輩。ドラマ局長が搬入口でお待ちです。
里香子: 島田さんが、雨の中を?
チャコ: なんでも、緊急に次ぎの企画、相談したいって。
ノラ: ね、結末は最後までわかりません。
里香子: うまいわね、乗せるのが。じゃ、あなたもいっしょにいかない。
 チャコちゃん、車、正面に回ってもらうようにいってもらえない?
チャコ: ドラマ局長をタクシーがわり! さすが里香子先輩! この音なんですか?
里香子: ヤマちゃんがわたしのハートにクサビを打ち込んでいる音。
チャコ: それって……。 
ノラ: アハハハ……。 
里香子: バカ、変な想像するんじゃありません。まだまだ修行がたりないわよ。
チャコ: ヘヘ、わたしまだまだガキンチョだから。じゃ(上手に去る) 
里香子: じゃ、着替えましょうか。いつまでも高校生のなりじゃね。
ノラ: ええ、でも着替えたら、わたしは他のとこへいきます。
里香子: なにか、あてでもあるの?
ノラ: いいえ……。
里香子: この雨の中を?
ノラ: やまない雨はありません。この雨は明け方にはやみます。
 そのあと東の方に虹が出ます。とりあえず、そっちのほうに行ってみます。
里香子: そうなんだ……じゃ、これ持って行って。濡れるといけないから(ボールペンのような 傘をわたす)
ノラ: まあ、ハナソニックのバーチャルアンブレラ。
里香子: 駆けだしのころから使ってたお古だけど。これだと両手が空くから。
ノラ: あ、これ、パーソナリティーモジュール兼ねてる……オーナーは……里香子さん!?
里香子: 脱走したアンドロイドに間違われたら困るでしょ。一応名義だけね。
ノラ: ありがとうございます……パッ!(本体は胸ポケットにしまい、開いた傘を見上げる)
里香子: 擬音いり?
ノラ: だって、開いたって実感がないでしょ……うん、なかなかいいですね(本体を取り出し)
 パシュッ(傘を閉じ、胸ポケットに)じゃ、着替えに行きましょうか。 
里香子: うん。

 里香子、しばらく名残惜しそうにメモリアルタウンを見まわす。

里香子: わたしは、なんのためにバーチャルにこだわってきたんだろう……。
ノラ: それは……何のために生きているのかと同じ問いかけですね……人は人でいられるかって……。
里香子: それがわかったら、それがわかったらね……。
ノラ: 里香子さん……。
里香子: ……ワーッ!!(叫ぶ)
ノラ: …………。
里香子: さっぱりした!
ノラ: ほんとうに? 
里香子: ……行きましょうか。
ノラ: ……ええ。

 上手に去る里香子とノラ。木を切り倒す音フェードアップするうちに幕。

※ ▼~▲の部分から●~●を引き、里香子とチャコの声による擬音を効果音に替えると、四人の短編劇『好子』としても上演できます。

※ この戯曲を通してお読みになられる時は下記の戯曲集をお求めいただければ幸いです。

※ この戯曲を上演されるときはご連絡ください。
  〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2  大橋むつお
  上演料は高校生のコンクールなどの無料上演で一回5000円です。


『ノラ バーチャルからの旅立ち』ノラ バーチャルからの旅立ちクララ ハイジを待ちながら星に願いをすみれの花さくころの4編入り(税込1080円)
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高校ライトノベル・Mのイレギュラーマガジン『一番手前の女学生』

2015-08-06 16:08:09 | イレギュラーマガジン
Mのイレギュラーマガジン
『一番手前の女学生』



 ぼくは終戦の七年九カ月後に生まれた

 ちょっと懐かしい言葉では「戦争を知らない子どもたち」の世代。
 今の若い人たちだって戦争を知らない。

 一見同じだけど、ちょっと違う。

 今の若い人たちは、歴史としてしか戦争を知らない。周囲にも戦争を体験した人はいないだろう。戦争の痕なんかないだろう。
 ぼくたちが若いころは、あたりまえのように戦争を体験した大人の人がいたし、戦争の名残があった。
 社宅のお父さんたちは、みんな兵隊にいってた。
 中学の担任は元海軍の下士官で乗っていた船が潜水艦にやられ、十数時間海を漂っていた。
 幼馴染のお父さんは陸軍の兵隊なのに、なぜか航空母艦に乗っていた。
 うどん屋のおっちゃんは陸軍で食事をつくる係り(烹炊)だった。
 高校演劇研究会世話役の先生は沖縄戦の生き残りの下士官。
 世界史の先生は第四師団司令部の兵隊で大阪大空襲を事前に知っていた。
 大学の社会科教育法の先生は特攻隊の生き残りだった。
 母は女子挺身隊で彦根で飛行機を作っていた。
 駅や商店街に行けば、白衣の傷痍軍人の人たちがいた。

 そんな人たちが当たり前にいた。

 空襲で焼けたまま赤さびた鉄骨だけになった工場。爆撃の穴、機銃掃射の痕。
 小学校の校舎は国民学校のままだった。
 街の建物の半分ほどが戦争で焼け残ったものだった。

 そんなものが、ごく普通に周りにあった。

 戦時中の記録や記憶は、まだセピア色にはなっていなかった。
 そんな記録や記憶の中で育ったので、DNAの中に戦争が刷り込まれている。

 下の写真を見ていただけるだろうか。

  

 原爆投下後一時間ほどしかたっていない広島の写真である。
 初めて見たのは小学校の頃。
「ここに写っているいる人たちは何日もたたないうちに、みんな死にました」と教えられた。
 いきなり大きく深い穴の縁に立たされたような恐怖、そいつが赤々と湧いてきたのを覚えている。
 生まれる前の写真だけども、若い人が阪神大震災の記録を観るくらいの距離にある。
 至近距離の記録と言っていい。

 二十代の終わりごろに「徹子の部屋」に、この写真と共に五十前後の女の人がでていて、こう言った。
「一番手前の女学生がわたしです」
「え、ほんとですか!」徹子さんが驚いた。

 周囲の建物と特徴のあるセーラー服の襟(後ろが三角になっている)で分かったのだそうだ。

 亡くなったと言われていた親戚の女学生が生きていたような嬉しさと、ここまで生きてこられた苦難が想像されて目が熱くなった。
 生きておられたら八十路の後半。

 ぼくの至近距離の記憶の一つ。
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