大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・115『学校見学』

2020-01-19 11:58:08 | ノベル

せやさかい・115

『学校見学』 

 

 

 とっくにオープンキャンパスは終わってたけど、見学は快く承諾された。

 

 少子化のこの時代、ちょっとでもええ生徒を確保したいということやと思う。

 そんで頼子さんだけと違て、あたしと留美ちゃんも付いて行ってええということになった!

 えと、真理愛女学院(マリアじょがくいん)の見学。

 

 頼子さんは通学ルートも見ておきたいので電車で行くつもりやったけど、詩(ことは)ちゃんに聞いたら分かることなんで、例によってテイ兄ちゃんの車で向かう。

 テイ兄ちゃんは午後から檀家周りがあるんで坊主のコス。

「テイ兄さんお願いします」

 頼子さんが手渡したんは、頼子さんの親の委任状。

 つまり、見学に関しては保護者と同じ資格ということや。テイ兄ちゃんが喜ばんはずがない!

 坊主のコスでミッションスクールってどうよ? とも思うねんけどね。

 

 校門の前でテイ兄ちゃんは合掌、うちらも行儀よく頭を下げる。

「よくいらっしゃいました」

 グレーのシスター服のおばさん……いや、校長先生(詩ちゃんに教えてもろてた)がお出迎え!

「他の先生方は授業中なもので、わたくしがご案内させていただきます」

 他に、副校長とか教頭先生とか居てるやろに……頼子さんがヤマセンブルグの王女様(正式やないけど)やいう情報が伝わってのことやと思う。

 テイ兄ちゃんは、保護者の代理ということを委任状を渡しながら説明し、もう一度ピロティー脇にあるマリア像に合掌。あたしらも頭を下げる。

 応接室に通されて、学校の概要と入試のあれこれについて説明を受ける。

 頼子さんは、パンフレット半分、校長先生の顔半分いう感じで、時折美しく微笑んで頷いてる。さすがは王女様の気品。でもって、二度ほど軽く質問。いくら上品でもコミニケーションは双方向でないと礼を失するいう、行き届いた気配りやねんわ!

 そやけど、後半になってオーラを感じたんは留美ちゃんや!

 コクコク頷いてはメモをとったり、パンフにアンダーラインを引いたり、頼子さんよりも入る気満々いう感じ。

 校長先生がモニターに学校案内を流して、校歌が流れるとこになったら涙まで流してる。

「榊原さんね、しっかり聞いてくださってありがとう」

 校長先生は、付き添いの名前まで憶えてくれてはったよ!

「正直に申しますが、学年途中でエディンバラの高校に編入する可能性があります……」

 いちばん大事なことを頼子さんは包み隠さへんかった。

「はい、それは、その時にお考えになったらよいことだと思います」

 間接的表現やけど、学校としては気にしませんという意思表示やと思う。これからは自分の事も自分の意思だけでは決められんようになる頼子さんには嬉しいことやと思う。

「ありがとうございます(#^―^#)」

 お礼を言う頼子さんの言葉にも歳相応の嬉しさが滲んでた。

 

 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 

 ちょうど終業のチャイム。うちの中学と違てチャラ~ンポラ~ン チャラ~ンポラ~ンとは聞こえへん。

「では、校内案内を……」

 校長先生が言いだすと同時に、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 校長先生の言葉に「失礼します」と入って来たのは……なんと詩ちゃん!

「二年A組の酒井詩です、見学の方のご案内を申し付かってまいりました」

「ピッタリね、じゃ、ここからは酒井さん。よろしくね」

「はい、では、みなさん、こちらにお進みください」

 家でもしっかりした詩ちゃんやけど、なんかもうすっかり総理大臣の秘書でも務まるんちゃうかいう大人びた感じ!

 

 次の時間は『校内奉仕』とかいう時間で、ようは大掃除。

 

 頼子さんが注目されてるのがよう分かる。

 なんせ、ブロンドのセーラー服。先月は来日したヤマセンブルグ女王陛下に付き添ってマスコミへの露出も多かった。高校生とは言え、そのへんの事情を知ってる人も居てる。

 せやけど露骨にジロジロ見たりはせえへん。キャーキャー言うこともない。

 視界に入る生徒さんたちは、みんな、それぞれに校内奉仕のお掃除に勤しんでる。一人だけ、窓ふきの雑巾を落とした子がおったけど。

 高校生になったら落ち着くんか、学校の躾が行き届いてるんやろか……たぶん、その両方。

 で、あきらかにうちらは刺し身のツマというか空気ですわ、空気。

 廊下ですれ違た女生徒。

 きちんと会釈するんはさすがやけどね……そのまま、頼子さんに目を奪われてしまいよった。

 ごつん! 

 後ろ歩いてたあたしにぶつかって、もろ大阪弁で「アイタア!!」とカマシテくれはりました。

 でや、空気でもぶつかったら痛いねんぞ。

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不思議の国のアリス・6『OH MY POOR 千代子!』

2020-01-19 06:17:37 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・6
『OH MY POOR 千代子!』      
 
 

 日本で、笑っちゃうもの(アリスの日記より抜粋)
 
 NHKのアナウンサーの顔(証明写真の動画版みたい。民放でもたまにいる)
 キンタローのAKBのモノマネ(彼女六頭身はあるのに、どうして四頭身と言うのかな。立派なダンサーだ)
 選挙の演説(ムツカシイ日本語で、半分は意味分からないけど、きっと分かっても分からないだろう)
 選挙演説を聴いてる人(エキストラかと思った。大人に聞いたらサクラがいるとか。サクラって何?)
 大阪の整列乗車(電車が来たとたんに列が崩れる。千代子は「なんちゃって整列」と言ってた)
 ママチャリの3人乗り(ほとんどアクロバット。でも、ホンワカして笑っちゃうんだよね)
 ケイオンというポップスのクラブ(なんで、演奏中に観客見ないでノレるのかなあ?)
 赤ん坊の笑顔(世界共通。でも、赤ん坊みたいな大人は、別の意味笑える)
 テレビのコメンテーター(言ってることが、わたしが聞いても小学生レベル)
 地球温暖化を信じてる人が多い(アメリカ人は「どうでもいい」と思ってる。大きな声じゃ言えないけど)
 アメリカが日本を守ってくれると思ってる(自分の国をヤバクしてまで、外国のこと守ると思う?)
 コメディアン志望多すぎ(みんな笑わす側のコメディアンになったら、だれが笑うの?)
 核とロケット技術あるのに、なんで核兵器持たないのか(一発で、日本のポテンシャル上がるのに)
 パチンコへのハンパじゃない熱中(あの小さな箱、ほとんどエンタテイメント!)
 学校の面接練習(プレゼンテーション能力ない先生に教えてもらってもねえ)
 わたしの無責任な感想にうなづく人(しょせんは、わたしの思いつきだからね)
 
 日本で、笑えないもの(アリスの日記より抜粋)
 
 コメディアンのギャグ(日本語にだいぶ慣れてきたけど、やっぱ笑えない。千代子の婆ちゃんも笑わない)
 コメディアンみたいな政治家(最初はギャグで真似してんのかと思ったら、本物の政治家だった)
 いくら勉強できても、飛び級させない(これって、若者のモチベーション下げてると思う)
 日本の地震(一度、震度3を経験。地球最後の日かと思った。わたしのリアクションにみんな笑った)
 イジメの認識(bullyingとviolenceは、全然違う。アメリカのイジメもたいがいだけど)
 授業で、反対意見ってか、質問できない(社会科でちょっと質問したら、怖い顔で黙殺された)
 世界最高齢のオジイチャンがミイラだった(親の年金が欲しいためだとか)
 アイドルの子が坊主頭になった(なんかルール違反らしいけど、最初はテロで拉致されたのかと思った)
 証明写真撮るとき(なんで、証明写真に自分のブスっとした顔? あ、ブスじゃないから。念のため)
 わたしの英語のギャグが通じない(シカゴじゃ、3歳の子でも笑う。6年も英語習ってんのになんで!?)
 千代子ママの高校時代の体育祭の写真(スカート穿くの忘れてんのかと思った。ブルマというらしい)
 わたしの日記を公表するやつ(作者だからって、なんでもありは無し。登場人物のプライバシーを守れ!)
 

 ハーーーーーーーー
 
「元気ないやんか、どないしたん?」
「どないもせえへん……」
 学校に着くまでに、千代子はもう十回以上ため息をついている。
「そんな顔されてたら、うちまで切のうなるわ」
「ごめん、アリス」
 あまりにも心配してくれるアリスに、千代子も黙っているのは悪い気がして、教室に着くと、サッとメモをして見せてくれた。
「読んだら、すぐに破って……」
 そう言うと、千代子は机に突っ伏してしまった。
 
――バレンタイン、ちよこのわたしかた――
 
 メモには、そう書いてあった。
 最初のバレンタインが、わたしのファミリーネームでないことは分かった。でも、その後が問題だ。
 千代子の渡し方というのは、ただ事ではない。アリスは自分の手をシュレッダーにしながら考えた。日本には卒業式の後のプロム(パーティーみたいな)がない。アメリカじゃ、プロムを大事にしているところがかなりある。いわば大人への第一歩で、アルコールもありだし、なんとなくのボーイフレンドが正式な恋人になるチャンスでもあり……つまり、身も心もくっつくということ。
 バレンタインデーは、シカゴではお気楽な遊びみたいなもの。でも、日本では意味が大きい。本命とか義理とかの区別もあるらしい。
 そこまで、考えて、アリスは千代子の気持ちを大きく、重く考えた。
――バレンタインで、千代子は愛する彼に、女の子の大事な○○を捧げようとしてるんだ。
 バレンタインまで、あと一週間あまり。
 親友として、アリスは千代子の力になろうと決心した。
 
 窓の外は、早春の曇り空が広がっていた……。
 
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巷説志忠屋繁盛記・11『写真集・1 大和川の海水浴』

2020-01-19 06:06:34 | 志忠屋繁盛記
  
巷説志忠屋繁盛記・11
 
『写真集・1 大和川の海水浴』    
 
 
 
 大和川の海水浴や! 
 
 タキさんは写真集を見て感動した。
 川で海水浴というのは変なのだが、タキさんのガキ時代はプールと風呂屋以外での水泳は全て海水浴と呼んでいた。
 
 海外旅行には一度も行ったことのないタキさんだが、ガキ時代の行動半径は広かった。
 並の子どもなら町内か、せいぜい校区内がテリトリーなのだが、河内の朝吉をヒーローとするタキさんは八尾柏原が行動半径の内だ。
 そんなタキさんは、市民プールなんぞというナマッチロイところには、あまり行かず、自転車をかっ飛ばして大和川まで泳ぎに行ったものだ。
 子分のガキたちが「コウちゃん、連れてってやー」というのをホッタラカシにして海パンを穿いたまま自転車に跨った。
 子分を連れて行かないのには理由があった。
 小学校で、国鉄の線路内に入って遊ぶことと、市内の川で遊ぶことを禁じられていたからだ。
 自分の危険はハナクソほども気にしないが、子分たちが危険な目に遭うことは極力避けた。
 大和川は八尾ではないが、ガキのタキさんにとっては自分のテリトリーは全て八尾であった。
 
 堤防の上、無造作に自転車を放り出すと「うりゃーーーー!!」と奇声を発して駆け下り、一気に川に飛び込む。
 奇声は一種の掛け声なのだが、地元のガキどもをビビらすためでもある。
「また。あのガタロ(かっぱ)や」
 おおかたの地元のガキは、そう言ってタキさんとの無用ないさかいを避けた。
 もっとも大和川の河川敷は広々としていて、タキさん一人ぐらいのがたろを気にすることもなく遊ぶことが出来た。
 しかし、そんなタキさんを快く思わないガキは当然いるわけで、一度タキさんは自転車を川に放り込まれたことがある。
 すぐに気づいたタキさんは「おんどりゃーー!」と追い掛け回し首謀者のガキ大将を組み伏せた。
 一発どついてから「オラ、子分といっしょにとってこいやあ!」と締め上げた。
 五人ほどいた子分で親分の窮地を救うべく戻って来たのは十円禿げのガキ一人だけだった。
 で、親分子分の二人に自転車を回収させると十円禿げを「おまえは偉い!」と褒めたたえた。
 「みんな逃げよったけど、おまえだけが戻って来た。なあおまえ(ガキ大将)これからは、こいつ可愛がったれよ」
 と、ガキ大将に説諭した。
 縁あって十円禿げは八尾に引っ越して、タキさんと同じ学校になったので無二の子分になり、前出の写真のようにタキさんのカバン持ちになった。
 
 この日も雄たけびあげて川に飛び込もうとしたら悲鳴が聞こえた。
 
――だれか助けてーーーー!――
 
 上流の方で、スク水を着た女の子たちが川面を指さして泣き叫んでいる。
 川面に目をやると、女の子がアップアップしながら浮き沈みしている。
 
 溺れてるんや!
 
 これが男の子なら、タキさんはなんの躊躇もなく川に飛び込んだ。
 だが女の子だ。
 ガキの頃のタキさんは、女はめんどくさいものと思って、なるべく関わらないでいるというのが信条だった。
 放っておいてもどこかの大人が助けるだろうと思った。
 その時、河原で助けを呼んでいる子と目が合ってしまった。
 ここで逃げたらカイショナシと思われる。
 
「まかしとけーーーー!」
 
 一声叫んで、タキさんは川に飛び込んだ。
 日ごろから「浩一は昔やったら甲種合格やな!」と祖父さんに言われてるほど体格と運動能力に秀でていた。
 あっという間に女の子のところまで泳ぎ着いた。
「あ、抱きついたらあかん!」
 恐怖のあまり女の子はしがみ付いてくる。このままでは二人とも溺れてしまう。
 立ち泳ぎしながらタキさんは、女の子を裏がえした。
 裏がえすと、頭の下から手を回して呼吸が出来るようにしてやって、結論を言うと無事に救助に成功した。
 
 女いうのは、こんなにやらかいもんか!?
 
 これがタキさん最大の感想であった。
 期せずして、タキさんは最適な溺者救助をやったのだが、最大の関心事はそこであった。
 あとで分かったことであるが、女の子は小学6年生で、当時のタキさんにとってはじゅうぶん女であった。
 
 タキさんは人命救助で表彰された。
 同時に、学校からは禁止されている川での水泳をやったことで目いっぱいオコラレタ。
 
「マスター、ディナータイムだっせ」
 
 Kチーフに言われ、やっと写真集から目を上げたタキさんであった。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・14・「1つだけ影響があった」

2020-01-19 05:53:47 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)14
「1つだけ影響があった」                      


 
 予感はしていたが校長室に呼ばれた。

「沢村千歳さんのチャレンジ精神と、それを受け入れた小山内啓介君の前向きな心に拍手を送りたいと思います」
 校長のお祝いの言葉はテイク3でOKが出た。
 千歳と啓介は恭しく、校長の励ましの言葉が書かれた色紙を受け取った。

 すかさずフラッシュが光り、連写のシャッター音が続いた。

「なんとか夕刊に間に合います」
 A新聞の記者が――嬉しいでしょう!――と言わんばかりの笑顔で言った。
「3人並んだところの写真なんかいりませんかね?」
 理髪店の匂いをプンプンさせながら校長が言う。A新聞の取材を聞いて、校長は1時間の時間休をとって散髪に行ってきたばかりである。
「連写した中から選びます、自然な感じなのがいいですから。動画も撮っていますので、それはネットで流れますから」
 天下のA新聞だ、どうだ嬉しいだろう! というマスコミ笑顔で記者はとどめを刺した。

 千歳は身障者対応の自販機の前で撮った『乾杯の写メ』を付けてブログに載せると共に、主要四大紙に送った。

 予想通りA新聞が食いついてきた。完全バリアフリーモデル校である空堀高校の演劇部に車いすの女生徒が入部したのである。こういうことが大好きなA新聞の地方欄にはうってつけだった。
 こうして、千歳の演劇部への入部は空堀高校のエポックになった。
 エポックというのは、それ以上でもそれ以下でもない。
 だから、校長が予定よりも2週間早く散髪に行った以外には、世間も学校も、取り立てて何もしてはくれない。

 そんなこと、千歳は百も承知だった。千歳は「千歳は頑張っているんだ」という熱意の発信ができればいい。この発信のポテンシャルが高ければ高いほど学校を辞める時は「仕方が無かった」ということになる。
「大丈夫よ、新聞の地方欄なんてほとんど注目なんかされないから」
 隠れ家としての部室が欲しいだけの啓介は新聞社なんかが来て、少し不安になっていた。まっとうな演劇部活動をやろうという気持ちは毛ほどもない。ないから不安になる。しかし、千歳の見透かしたような物言いには、どこかカックンとなってしまう。

 だが、1つだけ影響があった。

「部員の充足、もう一週間待ってあげるわ」
 生徒会副会長の瀬戸内美晴がポーカーフェイスで伝えに来た。
「え、どういう風の吹き回しやねん?」
「校長の申し入れよ。あたしもうかつやった、校長が居てるのに気いつかんと生徒会顧問に確認したんよ『演劇部の部室明け渡し、今日確認します』て、ほんなら『もうちょっと待ってやってくれへんやろか』て言われた。むろん、校長とはいえ素直に聞く気はないけどね、クラブ部長会議やる視聴覚教室の許可願の不備を突かれてね。ま、それで一週間延期。一週間延ばしたいうてなんも変わらへんやろけど、フェアにやりたいからね。ほんなら……」

 千歳は、もう一工夫やってみる気になってきた……。
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乃木坂学院高校演劇部物語・101『本番はこんな具合』

2020-01-19 05:44:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・101   

 

『本番はこんな具合』


 ロケのだんどりは、こんなだった。

 クシャミを合図のようにして、役者の人たちが、笑いながらロケバスから出てきた。完全なティーンに化けたマリ……上野百合さんは、クシャミまでは化けきれず、そのギャップに大笑い。特に事情を知っている高橋さんと、はるかちゃんは笑い死に寸前。
 監督さんから、いろいろと指示が出されている様子。そして何度かのカメラテストとリハーサルに一時間ほどかけて本番。
 
 女の子はみんな女子高の制服。高橋さんは、いかにもありげな先生のかっこうで、自転車に乗って土手道をやってくる。土手の下では、堀西真希さんと、われらが上野百合さんが、三年生の設定で、ポテチをかじりながら、二年間の高校生活を嘆いている。
 つまり設定は四月で、新学年の始まり。あちこちに造花のスミレやレンゲが何百本。美術さんが忙しそう。お気楽に見てるテレビだけど、頭が下がります。
 そこを本を読みながら、はるかちゃんが土手道を歩いてくる。前から自転車でやってきた高橋さんの先生が、よけそこなって、自転車ごと土手を転げ落ちてしまう(もちろん、落ちるのは人形の吹き替え)。
「大丈夫ですか!?」
 と、大阪弁で、はるかちゃんが駆け寄る。
「アイテテ……」
 と、うなる先生。
「ごめんなさい、ついボンヤリしてしもて」
「きみは……転校生の春野……お?」
 先生は、春野さんのバッグからはみ出しているポテチに気づく。同時に春野さんは、先生の自転車の前かごから飛び出したポテチに気づく。見交わす目と目、吹き出す二人。そして、その親密さに気づいて、草むらから立ち上がる堀西真希と上野百合。その二人の手にも同じポテチが……。

 で、二回目のテストのとき、監督さんがわたしたちに目をつけた……。

 わたしたちは同じ制服を着て、はるかちゃんの後ろを歩いてくる、文字通り通行人。で、先生が転げ落ちたあとは、土手から心配げに見ている背景の女学生。
むろん顔なんかロングなんで分からないんだけど、思わぬテレビ初出演! でも、病み上がりとはいえ、やっぱ、潤香先輩って映える。また、カメラ回っている間平然としている根性もやっぱ、潤香先輩ではありました。
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魔法少女マヂカ・122『聖メイド服の秘密』

2020-01-18 12:43:20 | 小説

魔法少女マヂカ・122  

 
『聖メイド服の秘密』語り手:安倍晴美 

 

 

 あの頃は怖いものなしだった。

 

 窮屈だったミッションスクール系の女子高生時代が終わって、来春に成人式を控えた二十歳になったばかりの女子大生。類まれな(当時は思った)スタイルとルックスと才覚で、将来は在京大手の女子アナまっしぐらだと自他ともに認めていた。局アナを五年も務めたあとはフリーアナを経由して美貌のジャーナリスト兼ニュース番組のキャスターとかね!

 そのためには、経験と冒険よ!

 いろんなバイトをやったけど、全部将来への訓練! 勉強! 投資!

 それで、いちばん萌えたのが、ちが! 燃えたのが妻籠電気のメイド喫茶だ!

 アキバにキャンギャルの仕事で何度か行くうち、まだ中学一年だった妻籠電気店主の娘と知り合った。そのころのことが走馬灯のように頭を巡って心を貫く。その子とのあれこれは、それだけで一ぺんのドラマになりそう。

「ソフマップとかヨドバシとかに押されて、個人営業の電気店なんて先が見えてるしさ、一人娘だからってあと継ぎたくなんかないし……」

 中一ながら伸び悩んでる父と家業を呪いながらも心配していたのだ。じつに面白い女子中学生だった。

 で、キミは何をやりたいのさ?

 メイド喫茶がやりたい!

 そう答えた時の彼女は目をキラキラ輝かせてさ、老舗だけど先細りの電気店がメイド喫茶に変身するのに手を貸すのも面白いって思ったわけさ。

 それで、彼女の親父を説き伏せて、店の後ろ半分をメイド喫茶に改築。

 たった一年でアキバのメイド喫茶のヒエラルキーを書き換えてやったさ。

 その一年間、アキバのメイドたちから『セントメイド』の二つ名で呼ばれ、わたしのコスは『聖メイド服』として、アキバでは聖遺物として聖杯と同列に扱われたものさ。

 

 その聖メイド服をミケニャンが、市井に隠遁した姫騎士に聖騎士の衣を捧げるようにして復活を懇請しているのだ。

 

「それだけでは無いのニャ、バジーナ・ミカエル・フォン・グルゼンシュタイン一世である貴女には封印された記憶があるニャ、それを呼び覚まし、いま再びアキバの為に力を貸してほしいというのがバジーナ・ミカエル・フォン・グルゼンシュタイン三世陛下の思し召しニャ。可及的速やかに着替えて王国に行くニャ!」

「ちょ、ちょっと待て、今帰って来たばかりなのだ。風呂に入って晩御飯くらい食べさせてほしいぞ」

「なにをまどろっこしいことを! では、ミケニャンが失礼するニャ!」

 ニャニャニャニャニャ~~~~~~~ン!

 ミケニャンがネコ語で詠唱すると、わたしは、瞬間で聖メイド服姿になってしまった!

 

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不思議の国のアリス・5『アリスの好きな日本』

2020-01-18 06:52:53 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・5
『アリスの好きな日本』        
 
 
 
 

 日本で、わけの分からないもの(アリスの日記より抜粋)
 
 プレゼントをもらっても、その場では開けないこと(ただ、一部のテレビドラマでは別)
 プレゼントをあげるときに「つまらないものですが」(つまらないものなら持ってくるな!)
 トーストをくわえながら駅まで走っている高校生(ドラマやコミック見てたらいると思った)
 マッキー・デイズのことを、マックと略すこと(アメリカで習ったフランス語ではとんでもない意味)
 証明写真を笑顔で撮っちゃいけないこと(もっとも、日本人の無理な笑顔は歯痛をガマンしてるみたい)
 授業で先生が、教えようという気持ちがないこと(アメリカだったら、即クビ!)
 授業で黙っていてもなにも言われないこと(シカゴなら「アリス、具合悪いのか?」と聞かれる)
 70年間も憲法を変えていないことを、先生が自慢する(70年前のご先祖の遺言みたいなのに)
 なんで、軍人さんに敬意を払わないのか(小林イッサ=カーネル小林で実感)
 SEXコードはきついのに、バイオレンスコードが緩いのか(ゲームは、おかげで楽しいけど)
 なんで、結婚式専用の教会があるのか(宗教への冒涜……考えすぎ?)
 エスカレーターを駆け上がるオッサン(脚鍛えたいなら、ジムへいくか、階段でやって!)
 カフェで、話もしないでコミック読んでる人たち(向かい同士、携帯でチャットしてんのもいた!)
 写真でピースサインをする(裏表逆にしてアゴにもってくるの、中指たてるぐらいにヤバイんだけど)
 卒業式のあとプロムがないこと(本気で恋人つくる絶好のチャンスなのに!)
 なんで、高校生が車の運転ができないのか(できないのに、免許は取れる。矛盾!?)
 あとは、話の中で読み取って(書いたら忍者に殺されそう!)
 日本で、いいと思うもの(アリスの日記より抜粋)
 
 どこの学校にもプールがある(アメリカじゃ、よっぽどのセレブ学校にもない。水泳が全米レベルの大学とかね)
 電車とかの時間が正確なとこ(2分遅れただけで、ゴメンナサイアナウンスやってる)
 ママチャリで子ども乗っけてるママ(これって、スキンシップだと思う)
 マッキー・デイズのことをマクドという(かなり、ウチの個人感情。でもマックよりは絶対いい)
 ティッシュをタダで配ってること(密かにコレクションしている。でも、かさばってきた!)
 タクシーのドアが自動で開閉(でも、その分、料金下げてくれたほうがいい)
 学校に掃除当番があること(TANAKAさんのオバアチャンが言うほどテイネイにはしないけど)
 自動車のバックブザー(自動車に人間的な感情があるのかと、感激。ディズニーの『カーズ』思い出す)
 自動車が喋る(「バックします」最初は親切な女性ドライバーだと思った。オッサンなんでびっくり!)
 スモウレスラーがフェアなこと(リング(土俵)から出たら、相手が怪我しないように、かばう)
 アイドルグル-プ(これはマジック、一人一人はフツーなのに、集合するとかわいい)
 AKBのタカミナ(148センチ、かわいいんだけど、時々キリリ。でもソーカントクってなに?)
 ゴミのパッカー車のかわいい歌(これは、シカゴに帰ったら市役所に提案してみよう)
 ツバや、タンを吐く人がほとんどいない(TANAKAさんのオバアチャンは多いって言ってたのでビックリ)
 レストランで、お茶やオシボリがタダなこと(でも、やっぱ、麺類すする音には慣れない)
 宗教に関係なくクリスマスができること(アメリカじゃ、宗教の違いで案外ムツカシイのよね)
 つまらないものです。と言って、ステキなものをくれる(その場で、開けた。結果的には喜んでもらえた)
 テレビゲームがクール!(ファイナルファンタジーが日本製なの、初めて知った)
 授業中静かにしていたら叱られないこと(だから、こんなこと書けてる)
 
「ワオ!」
 
 思わず、アリスは声をあげた。別にハートのクイーンと出くわしたわけではない。ただバスを見つけただけである。
 バスのボディーには、Abeno Swiming School……で、イニシャルのASSがでっかく書いてあった。思わずスマホを出して、シャメった。
「なんで、あんなんがおもしろいのん?」
 千代子が、笑いの止まらないアリスに聞いた。
「そやかて、ASSて、オイドのことやねんもん」
「オイド……?」
「え、大阪の子やのに『オイド』分からへんのん?」
「分からへん」
 千代子は、ポニーテールを振った。ときどき、TANAKAさんのオバアチャンが教えてくれた日本語は、かなり古いのではないかと思うことがある。一人称である「ウチ」は通じたが、二人称である「オウチ」は通じなかった。
 帰ってから、千代子は、お婆ちゃんに聞いた。アリスが意地悪で「オバアチャンに聞いてみいや」と言ったから。オバアチャンは、いつになく上品に笑って答えた。
「そら、千代子。お尻のことや。いやあ、久しぶりに懐かしい言葉聞いたなあ」
「オバアチャン、オイド冷えませんか?」
 アリスが、うまいタイミングで聞いてきた。
「アリスちゃん、千代子も、ちょっと寄ってきて」
「え?」
 不思議に思いながら、アリスは、お婆ちゃんに近づいた。
「ああ、あんたら春の香りがするで」
 そう言って、お婆ちゃんは、障子を開けて庭を見た。
「おやまあ、梅が一輪……」
 庭の早咲きの梅が一輪咲いていた。英語で言えば、ただのワンブロッサムだけど、日本語で言うとなんだか、春の前触れのチャイムのように聞こえる。
 
 アリスの「日本でいいと思うもの」が一つ増えた……。
 
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巷説志忠屋繁盛記・10『写真集を出窓に』

2020-01-18 06:42:15 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・10
『写真集を出窓に』    
 
 
 
 面白いことはみんなで楽しもう!
 
 トモちゃんのモットーだ。
 お客さんにも楽しんでもらおうと、写真集を志忠屋の出窓にオキッパにした。   
「こんなとこ置いたら陽に焼けるで……」
 大の読書家であるタキさんは山賊の親玉みたいな顔をしているが、本の扱いは女学生のように丁寧で優しい。
 去年、南森町の交番にゴブラン織りのブックカバーが付いた新刊本が落とし物として届けられた。
 ゴブラン織りは花柄にムーミンのキャラが散りばめてあり、新刊本は少女漫画の表紙や挿絵の豪華本であった。
「これは、三十代くらいの女性の落とし物やなあ」
 交番の大滝巡査部長は頷いた。
「自分は女学生……ひょっとしたら女子高生だと思量します」
 秋元巡査は真面目な顔で異を唱える。
「こんなに豪華な本ではありませんが、妹が同じようなものを持っておりました。それに……クンカクンカ……そこはかとなく良い匂いがいたします」
 数時間後、青い顔をして「本の落とし物……」とやってきたのがタキさんであった。
「え、マスターの落とし物でしたんか!?」
「え、クンカクンカしてしまった……」
 タキさんは、表紙に指紋が付くのを嫌って、あらかじめ文具売り場で見つけた特製ブックカバーを購入直後に付けたのだ。
 南森町の改札を出たところで、常連客のモデルの女の子たちに出くわした。一人の女の子タキさんの本に目を留めて「かっわいいーー、ちょっと見せてもらえます?」
 改札を出たところで十分ほど愉快に立ち話、そこへ列車がやって来たので慌てて別れた。
 別れ間際の数秒間でも山賊ギャグをかまし、メアドを交換したり……しているうちに、定期券売り場のライティングテーブルの上に置かれた豪華本を置き忘れてしまった。
「ほんなら、この香りは……?」
「モデルの子ぉが読んでたからなあ」
「あ、そ、そでありますか」
 
 タキさんはアイドルタイムの間、伝票整理も忘れて写真本に見入った。
 八尾・柏原の昭和を記録した写真ばかりである、八尾のネイティブとしては懐かしいに違いない。
 そんなマスターを微笑ましく見ていたKチーフだが、ぽつり零したタキさんの一言にむせ返った。
 
「どこも殺し合いしたとこばっかりやなあ……」
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・13・「かんぱーい!」

2020-01-18 06:32:42 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)13
「かんぱーい!」                     


 
 
 忌々しくはあったが入部を認めざるを得なかった。

 なんせ今週中に部員を5人にしなくては部室を取り上げられる。
「せやけど、なんでそこまで正直やねん!?」
 お互いのいろいろを言い合っているうちに、啓介の声は大きくなってしまった。
「きれいな嘘をついて、あとでグチャグチャになりたくないもん」
「もっぺん聞くけど、学校辞めたいんやったら退学届け書いて学校に出したらしまいやろがな」

「だ~か~らあ、入学して1か月で辞めたら親とか心配するでしょ? 心配されるってウットーシイものなのよ。ただでもこの年頃ってさ『多感な年ごろだからそっとしておこう』なんて思われちゃうの。高校生の自殺って9月の第一週と春の連休明けが多いの。ため息一つついただけで『あ、自殺考えてる!?』とかになっちゃって腫れ物に触るような目で見られるのよ。学校だって放っておかないわ。カウンセリングだ事情聴取だとかで家まで押しかけてくるわよ」

「ええやんか、心配させといたら」

「あのね、あたしは足が不自由なの、車いすなのよ、そんな子が『辞めたい』って言ったら普通の子の10倍くらいネチネチ干渉されるのよ。この学校ってバリアフリーのモデル校だけど、それってハードだけだからね。実の有る関わり方って誰もしないわ。そんな人間オンチに口先だけの言葉かけてもらいたくない」
 啓介はイラついていたが「口先だけの」という言葉には共感してしまった。
「それにね、あたしの足がこうなったのは事故のせいなんだけど、その事故の責任は自分たちにあるって、お父さんもお母さんも思ってる。そんな親に思いっきり心配されるのって絶対やだ!」
「しかしなあ、演劇部つぶれるのを確信して入部するて、オチョクッてへんか?」
「だってそうなるわよ。あなただって隠れ家としての部室が欲しいだけじゃない。放っておいたら、今週の金曜日に演劇部は無くなるわ。でも、あたしが入ったらもうちょっと持つわよ。車いすの子が入ったクラブを簡単には潰せない。そうね~、まあ今学期いっぱいぐらいは持つんじゃないかなあ。金曜日に潰れるのと、夏まで持つのとどっちがいい?」
「ムムム……………」
 どこか釈然としない啓介だったが、利害関係という点では了解していることなので沈黙せざるを得なかった。
「よし、じゃ新生演劇部の出発! 乾杯でもしよう!」
「乾杯って……ここなんにもないで」
「なきゃ、買いに行けばいいじゃないの」
「わざわざ……」
 そう言ったときには、千歳は廊下に出ていた。車いすとは思えない素早さだ。

「これって、うちの学校の象徴だと思わない?」
「え?」

 空堀高校はバリアフリーが徹底していて、ジュースの自販機もバリアフリー仕様。お金の投入口も商品の取り出し口も車いすで買える高さになっている。
「いくら手が届いても、物言わぬ自販機じゃねえ……」
「そやけど自販機がしゃべってもなあ」
「あなたもいっしょなんだ」
「え、なにが?」
「ううん、なんでも……じゃ、あそこで」
「え、部室に戻らへんのんか?」
「いいから……」

 千歳は啓介をリードして中庭の真ん中に来た。

「え、こんなとこで?」
「うん、みんなが見てる……あ、すみません、今から乾杯するんで写真撮ってもらえません?」
 通りがかりの女生徒に声を掛け、スマホを預けた。
「じゃ、新生演劇部に……かんぱーい!」
 女生徒は、乾杯の瞬間を写してくれた。

 ホログラムの発声練習では見向きもされなかったが、この乾杯の瞬間は、ほんの一瞬だけど数十人の生徒と数人の先生が見ていた。

 五月晴れの中庭で、やっとインチキ演劇部が動き始めた。
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乃木坂学院高校演劇部物語・100『その日がやってきた!』

2020-01-18 06:18:06 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・100   

 

『その日がやってきた!』


 いよいよロケの日がやってきた。

 ロケ先の荒川の土手に朝の九時ごろから、タヨリナ三人組で行ったら、もうロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。
 梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。
 はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。
 そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがウロウロ。わたしたちに気づいても、軽く手を振るだけ。
 やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。
「あ、あの運転手さん、西田さんだよ!」
 夏鈴が手を振ると『オッス』って感じで、西田さんが手を振った。
 手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席から若い男の人が出てきて、それぞれ後部座席のドアを開けた。
 左のドアからは、高橋誠司……さん。
 右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。
「初めまして、まどかに夏鈴に里沙!」
「あ……ども」
 だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。
「NOZOMIプロの上野百合で~す。よろしくね!」
「上野百合って……?」
「まどかが言ってた新人さん……だよね?」
 里沙が首をひねった。男の人は、荷物を抱えて追いかけていった。
「おはよう、乃木坂の諸君。あの子の正体は分かっても内緒にね」
 高橋さんがすれ違いに、そう言って行った。
「……あ、マリ先生!?」
「うそ……!?」
「もう芸名変えたんだ……」
 体験入隊の時よりもさらに化けっぷりには磨きがかかっていた。赤いミッキーのチュニックにチェックのカボチャパンツにムートンのブーツ。髪はかる-くフェミニンボブ……で、あのキャピキャピ。どうかすると、わたし達より年下に見える。

 そうして、驚くことがもう一つ。

「あ、潤香先輩!」
 潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。
「マリ先生から連絡もらって」
「上野百合さんだよ」
 さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。
「ありがとう和子さん」
 それは、西田さんのお孫さんだった。
「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢……上野百合さんの発案なんです」
「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」
「大丈夫、潤香?」
「うん。この宣言は立ってやっときたいの」
 潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず寄り添ってしまった。
「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」
「それって……」
「出席日数が足りなくて……つまり落第」
「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」
「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」
「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」
「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」
「先輩……」
 わたしも胸がつまってきた。
「ほらほら、まどかまで。わたしはラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。ね、それもこれも、まどかや先生のお陰……なんだよ」

 ハーーックション!

 ロケバスの方で、聞き慣れた大きなクシャミがした。
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ジジ・ラモローゾ:007『ジージ最初の赴任校』

2020-01-17 12:17:08 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:007

『ジージ最初の赴任校』  

 

 

 設定を25度にしても24度にしかならないエアコンを点けて、ファイルを開く。

 ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 エアコンの起動音なのに、回転座椅子で眠っていたジージが、ウーーーンと伸びをして、こっちを向いてくれたような気になる。

 回転座椅子のジージが身を乗り出した。

 

 

 最初の赴任校の話をしようか。

 通算で五回目の採用試験で初めてG判定(合格)をもらって、もう採用されたような気になっていた。

 ところがね、採用試験と言うのは『合格者名簿』に名前が載るだけのことなんだ。

 県内の校長先生が、合格者名簿を閲覧してね、これはという合格者を引っ張って来るというのが実際なんだ。

 むろん、単に閲覧するだけじゃなくて、教育委員会の意見や、校長同士の調整とかもあるんだけど、ずっと平教師だったジージは詳しくは分からない。

 

 それまで落ち続けていたジージは、ちょっとひがんでた。

 

 ハーフだからとか、出身大学のレベルが低いから、合格はしたけど、あんまりいい成績じゃなかったから、どこの校長も二の足を踏んだとかね。

 あれは、春の甲子園が始まって三日目くらいだった。

『S高校の校長で嵯峨と言いますが、どうでしょう屯倉先生、うちの学校で務めていただけませんか?』

 これを断ったら後がない。合格は一年間だけ有効。実際には年度途中の採用なんて、ほとんどありえないから、本当に最初で最後のチャンスなんだ。

「はい、お受けいたします!」

 そう返事して、二日後に指定された時間にS高校の校長先生に会いに行った。まあ、最後の面接だね。

 

 見た目はほとんど外人だから、最後の電車に乗り継いでからは乗客や、道行く人の視線がささる。

 自宅とか職場の周囲は、ただの通行人にしても顔見知りだから、特に視線は気にならないんだけど。やっぱり初めてのところじゃね。

 まあ、いま思うと、異様に緊張して怖い顔していたということもあるんだと思う。

 で、ジージはニ十分も遅刻してしまったんだ。

 ちゃんと地図で確かめて、二時間と見込んでいたんだけどね。家から三回も乗り換えがあって、最後のS線なんか一時間に四本しか電車が無い。駅からは上着を脱いで走ったよ。

「いやあ、初めて来られる人は、たいてい遅れられるんですよ」

 校長先生は、咎めることもなくニコニコと出迎えてくれた。

 

「実は、屯倉先生の前に女の新採の先生が決まっていたんですけどね、社会科に打診したところ『女の先生じゃもたないから、男、それも現場経験のある人に替えて欲しい』と言われましてね……」

 ちょっとビビった(^_^;)。

 S高校は、県内有数の困難校だったんだよ。

 困難校というのは、まあ、生徒が荒れていて、教師にとっては非常に厳しい学校だということだ。

「いやあ、うちで務まったら、県内どこの学校でも務まりますよ。アハハハ」

 校長は笑ったけど、ジージは笑えなかった。それを察してか、校長先生は言い足してくれた。

「まあ、三年辛抱してください。次は考えさせてもらいますから」

 

 あくる日、非常勤講師で務めていた職場にいくと、もうみんなジージの赴任校を知っていてね。みんな元気づけてくれた。

「S高校は、組合が強いところだから!」

「教師の平均年齢は三十歳くらいで、若い先生多いから!」

「いや、そんなに偏差値は悪くないよ!」

「生徒との距離は近いから!」

 いろいろ慰めてくれたさ。

 でもね、三年も非常勤講師やってたら分かるんだよ。

 組合が強いのも教師の平均年齢が若いのも生徒との距離が近いのも、みんな困難校の特徴だからね。

 あ、それと、困難校なのに偏差値が高いのは、悪さをするにも考えが行き届いる。指導の難しい生徒が多いと言うことなんだ。

 で、最後に挨拶に行った校長の一言がとどめだったね。

「いやあ、若いうちに苦労しておくのが一番だよ。いやあ、よかったよかった、よかったよ屯倉先生!」

 この校長、G判定が出るまでは「屯倉君は、うちの卒業生だから、G判定出たらうちで勤務してもらうよ(^▽^)/とか言ってた。

 ジージが通ることなんか無いと思ってのリップサービスだったんだね。

 まあ、こんな具合にジージの正式な教師生活が始まったわけさ。

 

 非常勤講師の時代もおもしろかったけど、それは、またどこかでね。

 

 

 あっけらかんだけど……なんか重い話だよ。

 ……ジージ、とりあえず朝ごはんにしよう。

 仏壇のジージにご飯とお水をあげて、リンを一発鳴らす。

 チーーーーーン

 そしてお祖母ちゃんと朝ごはん。

 わたしの一日が始まる。

 

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不思議の国のアリス・4『回覧板と犬の糞』

2020-01-17 06:29:42 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・4
『回覧板と犬の糞』  
 
 
 
 アリスは、日本のことは、わりあい知っている。となりのTANAKAさんのオバアチャンから聞いたし、ネットでも事前にかなり調べていた。伯父さんが東京のアメリカ大使館に勤めているので、そこからの情報もあった。
 
 でも、見ると聞くとじゃ大違いということがいろいろある。千代子のうちに来て三日目、回覧板というのを初めて見た。
 
「これが、あの伝説の回覧板か!」と感激した。
 トントントカラリンと隣組 まわしてちょうだい回覧板♪
 助けられたり 助けたり♪
 TANAKAさんのオバアチャンがよく歌っていた歌の中に出てくる回覧板! 仮名しか分からないアリスはまるで中味が分からなかったが、シャメに撮って保存した。
「千太、お隣に回しといて」
「ええ、またオレがあ……?」
 親子の会話を聞きつけて、立候補した。
「ほんなら、ウチがいきます!」
「そう、ごめんね。ほんなら、こっちがわのお隣の鈴木さんやさかいに」
 そう言って、千代子ママはハンコを押した。これがまた感動! アメリカにはハンコはない。よほどハイソで、トラディッシュな家なら、郵便の封緘(ふうかん)用のロウにペタンとその家のマークのスタンプを押すことがあるが、普通の人は持っていない。
 千代子ママは、象牙色のハンコを取りだし、ペタンと軽く押した。○の中に「渡辺」というファミリーネームが器用に彫り込まれていた。
「ちょっと見せてもらえます?」
「ああ、ハンコ。どうぞ、こんなもんが珍しいのん?」
「はい、ごっつい珍しいです……これが、渡辺家のシンボルなんですねえ……」
「こんな認め印でええんやったら、こんど作るったげるわ」
「ええですよ、こんな高価なもん……」
「たいしたことないよ、表通りの彰文堂行ったら、二千円ほどで作ってくれるさかい」
「ワオ、ほんまにええんですか!?」
「うん、留学記念にあげるわ。どんな字いにするか、千代子と相談して決めとき」
「ほんまに、おおきに、おおきに!」
 アリスは、思わず千代子ママにハグした。千代子ママはびっくりしたようだけど、不器用に、でも暖かくハグしてくれた。
 
 お隣の鈴木さんの家のドアホンを押した。
 
「あの、隣の渡辺さんのイソウローですけど、回覧板もってきました」
 いきなり外人が、英語訛りの大阪弁で「回覧板ですう」では、驚かれるだろうと思い、アリスは丁寧に言った。カメラ付きのドアホンなんだろう。「やあ、外人さんやわ……」と、いう声がした。
「……そう、交換留学生のホームステイやのん」
「はい、アリス・バレンタインて言います。どうぞよろしゅうに」
 それから、大阪弁が上手だと誉められ、また、TNAKAさんのオバアチャンの話になり、回覧板は緊急でない限り、郵便受けの上にでも置いておけばいいこと、でもアリスならいつでもOKなど話してくれた。
 
 日本で、驚いたこと。犬の糞がほとんど落ちていないこと。
 
 TANAKAさんのオバアチャンには「道歩くときは、犬のウンコに気いつけや」と言われていた。最初の日、関空から千代子の家に行くまで、そのウンコが気になって、下ばかり見ていると「なんか気になるのん?」と千代子に言われた。で、話をすると「ああ、昔は、よう落ちてたなあ」と千代子パパが言った。シカゴの公園などに行くと、役所が設置した「犬のウンコ袋」なんかがあるんだけど、日本には、そういうものがないのにウンコが始末されている。アリスは、やっぱり日本人はエライと思った。でも、やはり道路は気になる。「例外が、たまにある」と千太が言ったから。
 
 そしたら500円コインが落ちているのを見つけた。
 
「ワオ、500円コイン!」
「アリス、ウンがええなあ」
 千代子パパの言葉は、大阪人らしいギャグかと思ったら。
「もろといたらええねん、500円くらい」
 日本人の評価の針が、アリスの中で揺れた。
 こういうのを「ネコババ」というのだろうと、アリスは学習した……。
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巷説志忠屋繁盛記・9『タキさんゴジラ』

2020-01-17 06:17:46 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・9
『タキさんゴジラ』     




 ぜんぜん変わらへんなあ~!

 衝動買いした写真集を見て、Kチーフが感嘆の声を上げた。

 チーフが、こんな風に感嘆するのは数年前に三連単の馬券を当てて以来だ。
「ぜんぜんちゃうやろがーーー!」
 フライ返しをしながらタキさんは、チーフといっしょに買った馬券がハズレタ時のように不機嫌な声を揚げる。
「いまのワシは、もっと柔和なナイスガイじゃ、ど~~や(*^-^*)」

 振り返ったタキさんはカーネルサンダースがレンジにかけられ溶けかかったような顔だ。

「「「ア アハハハハ……💦」」」

 チーフとトモと、折悪しく客で着ていたトコが引きつりながらの愛想笑い。
「いや、しかし、この悪たれタキさんも可愛いですよ💦」
 トコが精一杯のフォロー。
「こういうガキは可愛いない、自分のことはよー分かってる。これかてカメラ目線で睨んどるしな、いまのワシやったら張り倒しとるわ」
「ね、タキさんをタイムリープとかさせて、この悪たれ時代のタキさんに対面させたら面白いだろーね」
 トモが面白がる。
「いまのワシが出て行ったら、この浩一は媚びよる」
「え、そうなん?」
「だれかれなしにこんな顔してたわけやない。とことん敵わん相手には媚びまくっとった」
「え、マスターてブレーキの効かんブルドーザーやと思てましたけど」
「ほんまの河内もんは、そのへんの機微はこころえとるもんじゃ」
「タキさんが媚びるて、どんな相手?」
「そら……んなもん言えるか。ほら、特製山賊スパじゃ」

 ドスンとカウンターに置いたのは、トコが無理矢理オーダーしたまかない料理。
 とても美味しそうに見えるので、全てのメニューを制覇している常連には提供している。食材は、その時その時の有り合わせなので、タキさんの気分次第で千差万別になっている。

「これは、なんの肉?」
 見かけない肉をフォークで刺し、グイッと突き出すトコ。
「ゴジラのモモ肉」
「モー、ええかげんなことを」
「ウソやない、パク!」
「あーー、わたしのお肉ゥゥゥーーーー!」
 トコの非難をよそに、肉を咀嚼するとシンゴジラのように口を開け、ガオーと火を噴いた!

「「「ウワーーー!」」」

「な、ゴジラじゃろーが」
 三人の頬がひきつる。
 とうぜんマジックのネタなんだけども、タキさんがやると、本当にゴジラの眷属のように思えてしまう。
「もっかいやってもらえます、動画に撮りますから」
「イヤ、失敗したらヒゲ焼いてしまう」
 なるほど、よく見るとタキさんのヒゲは先っぽのところが焦げて縮れてしまっている。
「トコも、それ食べたんやから不用意に大きい声出したら火ぃ噴くぞ~」
「えーーー、そんなんイヤや」
「ところで、この写真、なんで怖い顔してんの?」
「ああ、撮ったやつが気に入らんかったんや」
「だれが撮ったの?」
「学校のセンセ」
「なんでまた?」
「ゴジラの火ぃ噴き学校でやったらエライ怒られて、そのあくる日やったから」

 どこまで本当なのか、三人はあいまいに笑うしかなかった。

 志忠屋の帰り、トコは入れ違いに地下鉄の階段をあがってくる作者(大橋)に出会った。

「やあ、センセ!」

 思わず呼びかけたトコは三メートルほども火を噴いて大橋の顔を真っ黒にしてスプリンクラーを作動させてしまった。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・12・「え、あ、はい!」

2020-01-17 06:08:57 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)12
「え、あ、はい!」                     



 とにかく驚いた。

 生徒会副会長の瀬戸内美晴から「5人以上の部員がいなければ、同好会に格下げの上、部室を明け渡し!」と宣言されて2週間。
 部員募集のポスターを貼ったり、身近な生徒にしつこく声を掛けたり、せーやんに頼んで3Dホログラムで部員を多く見せて発声練習をしてみたり。そのことごとくが空振りで、今週の金曜日には演劇部のお取りつぶしは確定する運命なのだ。

 そこに、入部希望者がやってきたのだ!

 部室のドアがノックされた時は瀬戸内美晴の催促かと思い、ぞんざいに「開いてますよ」と顔も向けずに返事した。
 ガラガラとドアの開く音がしたが、開いたドアの所に人影はなかった。
 啓介の定位置である窓側の席からはドアの上半分しか見えない。机にうず高く積まれたガラクタが視界を狭めているからだ。でも見えないと言っても床から1メートルほどである。空堀は幼稚園でも保育所でもない、高校なんだから身長が1メートルに満たない人間など居るわけがない。

「なんや、気のせいか……」

 啓介が、そう思ったのも無理はないかもしれないが、きちんと確かめなかったのは、入部希望者など来るわけがないという思い込みであったのかもしれない。
「入部希望なんですけど!」
「イテ!」
 啓介はびっくりして立ち上がり、その拍子にパソコンに繋いでいたイヤホンがバシッっと外れて耳が痛んだ。

「あ、あの……入部希望者?」

「はい………………なにか?」
「あ、いや…………」
 
 入部希望者はルックスこそ可愛かったが車いすだった。車いすだから見えなかったんだと、啓介は納得した。
 次になんで車いすの子が、演劇部に入ろうとするんだ? という疑問が湧いた。
 そして車いすの子という戸惑いがきた。空堀高校はバリアフリーのモデル校ではあるけれど、友だちの中に身障者の生徒はいなかった。中学までは野球ばかりやっていたので、身近に関わったこともない。演劇部は看板だけだけれど一応は演劇部、車いすで演劇はあり得ないだろう……などなどが一ぺんに頭に浮かんだ。
「車いすじゃダメなんて、ポスターには書いてなかったけど」
 見透かしたように車いすの少女は言う。
「もっとも、仮に書いてあったとしたら、それって差別だし」
「え、ああ、そうだよ、そうだよね。障害があるとかないとか、そんなのは全然関係あれへんし」
「それじゃあ……」
「あ、ああ、ごめんなあ。もう入部希望者なんかけえへん思うてたから、びっくりしたんや。まあ、こっちの方に、まずはお話し聞こうか」
 少女は器用に車いすを操って、啓介が指し示したテーブルの向こう側ではなく、啓介の横に来た。
「1年2組の沢村千歳です。これが入部届」
 保護者印と担任印のそろった書類をパソコンの横に置いた。

 その間、啓介は計算していた――足の不自由な子が入部したら、学校もムゲに演劇部を潰すこともでけへんやろ。ひょっとしたら、この子一人入っただけで存続確定かもしれへんなあ!――

「あたし、演劇部潰れるの前提で入るんだから。そこんとこよろしくね」
「え、ええ!?」
「この部室グチャグチャじゃん。棚の本は色あせてホコリまみれだし、ゴミ屋敷寸前の散らかりよう。とてもまともに部活やってるようには見えないわ」
「いや、これはやなあ……」
「それに、なによ、これ?」
 千歳の視線はパソコンの画面に移った。
「あ、ああ!」
 
 パソコンの画面では、ボカシの入った男女が絡み合ってあえいでいた。千歳が入ってきたときに驚いてクリックしてしまったようだ。

「四の五の言わずに入れてちょうだい。さもないと部室でエロゲやっているって触れ回っちゃうわよ」
「え、あ、はい!」

 演劇部の新しいページがめくられた瞬間であった。
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乃木坂学院高校演劇部物語・99『よ! 乃木坂屋! 日本一!』

2020-01-17 05:56:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・99   



『よ! 乃木坂屋! 日本一!』


 
 稽古は順調に進んでいった。なんたって、乃木坂さんが堂々と手伝ってくれる。

 それまでは、里沙や夏鈴の目を気にしたり、古文みたいなメモを読解しなくちゃならなくって、とっても不便だったんだもん。
 平台は一日一個作ることに決めた。なぜかというと、ちょうど最後の一個を作った明くる日が、はるかちゃんのロケになる。

 そう、みんなで見に行くことに決めたんだ!

 乃木坂さんは、浅草の軽演劇や歌舞伎なんかにくわしくって、型をつけてくれる。幕開きの口上のところなんか、大向こうから、かけ声をかけてもらうことになった。
 最初は顧問の柚木先生に頼んだだけど、乃木坂さんがイマイチな顔をしている。
 そして、なんと、なんと、理事長先生の耳におよんで、理事長先生がやってくださることになった!
 
 よ、乃木坂屋! 日本一!
 
 二日に一度くらいのわりで来てくださって、声をかけていかれる。
 
「高山先生もあいかわらずだなあ」
 理事長先生が機嫌よく出て行ったドアに向かって、乃木坂さんがつぶやいた。
「乃木坂さん、理事長先生知ってんの?」
「うん、国史の先生。敗戦の前の年に出征されたんだ」
「あの、乃木坂さん。コクシとシュッセイってなんのこと?」
 夏鈴がソボクな質問をする。
「えと、国史は日本史、出征は兵隊に行くこと。高山先生は沖縄戦の生き残りなんだよ」
「へえ、戦争にいってたんだ、理事長先生……」
「沖縄じゃ、ほとんどの兵隊が戦死した。で、より安全な銃後にいた僕たちも死んだ。その中で生き延びてきたことを重荷に感じていらっしゃるんだ」
「ジュウゴって……?」
「銃の後ろって書くんだ。それくらい辞書ひきなよ。さ、一本通すぞ!」
「……なるほど」
 スマホで「銃後」を検索して、納得してから稽古にかかるわたし達に、苦笑いの乃木坂さんでした。

 この『I WANT YOU』というお芝居は、歌舞伎、狂言、新派、新劇、今時のコメディー、それに、はやりの女性ユニットのポップな歌と踊りまで入っている。
 
 最初は楽しそうだと思って、次には、読むのと演るのは大違いということに気づいたころに、自衛隊の体験入隊。がんばろうとリセットができて乃木坂さんの姿が見えるようになって、乃木坂さんの指導よろしく、平台が十枚できたころにはようやくカタチにはなってきた。
 がんばろうとすると、ただ台詞を張って声が大きくなるだけで、芝居そのものは硬くつまらないものになっていく。
 乃木坂さんは、型になるところは見本までやってくれて、らしく見えるようにはしてくれた。
 そこから、あとは台詞を忘れて自然に反応できるようにしろって言うんだ。
 はるかちゃんも、チャットで同じようなことを言う。芝居の中で、見るもの聞くものを探し、それに集中しなさいって。でも、それをやると芝居のテンションが下がってくる。
「どうすりゃいいのよ!?」
 と、ヤケにになりかけたころに平台は、十六枚全部できてしまった。
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