銀河太平記・302
『ヤクザに頼まれ大連へ・1』 ツナカン 
北京の生活になじみ過ぎたのかも知れねえっス(-_-;)。
中南海の広場で殿下を見かけ、とっさに素に戻って追いかけたら、とたんにセキュリティーに気づかれ、危うくドンパチに成りかけちまって、劉宏大統領はソッコー殿下の居場所を変えたっス。
てっきり乾鎮の公邸に戻ったのかと向かったら、戻ったのは空のオート車で、公邸には三分しか停車していなくて、また走り去ったっス。
車は他にも四台が中南海の瀛台から走り去っていて、あちこちに散っていったっス。これは、追跡者を撒くための常とう手段。それを乾鎮の公邸を見るまで気づかなかった……天下の宇宙海賊アルルカンの名を辱める間抜けっぷりっス。船長に合わせる顔が無いっス。
ビシバシ!
自分で自分に往復ビンタを食らわせたっス。
シャキッとヒンメル副長の脳みそに戻して事態を分析、それからセオリー通りに可能性の高いところを二か所回ったっス。
どこを周ったかは内緒っス。
周ったところや、その順序で自分の能力が知れてしまうっスからね。
二カ所とも不発だったっスけど、大事なことが分かったっス。
この三日、日貨排斥運動は勢いを増して反日運動に拡大してきたっス。武漢の武昌で狼煙が上がったのが『?』っス。武昌蜂起は300年前の辛亥革命の導火線になった歴史的事件で、それに当て込んだようなのに作為を感じたっス。
起きるなら上海・南京・香港・寧波あたりの日系企業や日本人が多くいるところっス。むろん、そういうところでもドンパチは起こってるっス。だけども武漢の武昌というのは作為を感じる……って、これは余計なことっス。ま、じっさい、武昌のあくる日には上海以下の街でも反日暴動は大きくなってるっス。
日本人居住地域が封鎖されているのを尻目に空港に向かっているっス。
シマイルカンパニーにはお世話になったっスけど、ツナカンの任務は殿下の捜索と救出っス。
「ネーチャン、いや、アネサン、ほとうに腕の方は大丈夫なんでしょうねぇ」
夕べぶちのめしてやったオッサンが胡乱な目で聞くっス。
こいつは、上海のヤクザで、上海からヤバイブツを運び出すパイロットを探していたっす。
ブツの中身が相当なものだということは、飲み屋の裏で半殺しにされかけていたモグリのパイロットを助けたことで分かったっス。
このところの暴動で、空港は軍関係の機体以外は飛行禁止。それで、契約の成立したブツを運び出そうにも動きが取れねえ。それで、パルスレーダーに引っかからねえ超低空で運ぶパイロットが急きょ必要になりやがったんすけど、パイロットがビビっちまって尻込みしやがって、ヤクザが焼きをいれたってわけっス。
それを、たまたま見かけたツナカンがヤクザをぶちのめして、ナシを聞いたら自分にとっても渡りに船で、そのヤクザは泣いて喜んでツナカンに任せたわけっス。
「相手は日本の同業者です、約束通りにいかなかったら、こっちの身がヤバイんですから( ノД`#)」
腫れた頬っぺたを押え、尻込みしながらヤクザは頼んできたっス。
「おう、任しとけ」
「頼むよぉ。これ、しくじったら、うちの幇(パン)はおしまいなんだからよ」
やる前からヘタレテやがんのは親分の息子。オッサンは、この息子の守り役で、こんどの仕事でボンボンに花を持たせてやりたいから。むろん殊勝な忠義心からじゃねえっス、ボンボンを利用して幇の実権を握りたいからっス。
「それなら、付いてこなくてもいいんじゃねえのか」
だから、意地悪を言ってやるっス。
「んなわけにいかないだろが、腕があるとはいえ、一見(いちげん)の女ヤクザパイロットに全部任せられっかぁ!」
「ビビりながら言うと、男の値打ち下がるぞぉ」
「ビビッてなんかねえ!」
「そうか。じゃあ、行くぞ。時間も押してるんだからな」
「お、おう」
パシン!
「な、なにすんだヽ(`Д´)ノ!?」
「ここからは、このツナカンがボスだ。口の利き方に注意しやがれ」
「ム!」
「若、ここはご辛抱を。じゃ、アネサン頼みましたぜ」
「ウム、任しとけ」
目的地は大連。
そう、三つの候補地は外しちまったっスけど、四つ目の大連は当たりに違いねえと思うツナカンっス。
飛行機は超低空を大連に飛んだっす!
☆彡主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 少将 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟