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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・101『鬼の手』

2021-09-21 09:07:11 | ライトノベルセレクト

やく物語・101

『鬼の手』   

 

 

 ゾワゾワ!

 

 それを取り出すと部屋中のあれこれが一斉に身を引いた。

 それというのは、一見ふつうの孫の手。

 ほら、50センチくらいの棒の先にこけしの頭みたいなのが付いていて、自分で肩がたたけるやつ。もう一方の端は小さな手になっていて、こけしの頭の方を握って背中が掻ける。便利グッズのご先祖みたいなの。

「幸運を掻き寄せるっていうから、持って帰るといいよ」

 俊徳丸が勧めるので、持って帰った。

 実は、鬼の手。

 わたしの狙いは正確だった……というか、大魔神みたいに大きな鬼だったから、反動の大きいガバメントでも外しようが無かったんだけどね。

 でも、微妙に左にズレていたんだと思う。

 だって、右手だけが残ってしまったんだからね。

「このままじゃ、気持ち悪いか……」

 そう言うと、JK姿の俊徳丸は制服の胸ボタンを外した。ちょっと嫉妬するくらい形のいい胸が露わになって、胸の谷間に貼ってあるシールみたいなのを剥がして、鬼の手に貼ってくれる。

 シュボン

 アニメのエフェクトみたいなのがして、鬼の手は、ころあいの孫の手になった。

 シールは、玉祖神社のお札だった。

 

 でも、妖の気配いっぱいだったので、部屋のアレコレたちはビビってしまったんだ。

 

 アノマロカリスは縮こまってLサイズの海老くらいになって天井に張り付いて、カメラはレンズだけ出して机にめり込むし、黒電話はひっくり返るし、フィギュアたちは本棚や引き出しの中にガチャガチャと避難してしまうし、ようく見ると、部屋自身も嫌がって、外側に膨らんで、微妙に広くなってしまった。

「あ、大丈夫だから。これからは、福を呼び込むラッキーアイテムになるから(^_^;)」

 ………………………………………………………………

「チカコもなんか言いなさいよ」

 モソモソ

 ポケットから鼻から上だけ出した。

「持って帰ったのはやくもだからね……あたしは関係ないし」

「こ、こら、チカコ!」

 めちゃくちゃ言うやつだ……と思ったら、部屋中のあれこれが「ホーー」っとため息ついて、もとに戻った。

 チカコが無事なのだから、大して害にはならないと納得した様子。

 

 でも、ラッキーアイテムかと言われると、ついさっきまでは狂暴な青鬼の右手だったのを見てるしなあ……。

 

「試してみたら?」

 ポケットの中からチカコの声

「えと……ピザが食べたい!」

 すると、リビングの方で玄関チャイムが鳴る音。お婆ちゃんがバタバタ走って行って、なんだか宅配がきた様子。

『やくもぉ~ ピザが届いたわよぉ』

 え、すごい!

 

「今日は中秋の名月だから、ピザを頼んでおいたの(^▽^)/」

 お婆ちゃんが、あらかじめ注文していたやつだった。

 でも、中秋の名月でピザ?

 不思議に思ったら「やくもなら、お団子よりもピザとかでしょ?」とお母さん。

 今日は、用事で出かけるはずだったお祖父ちゃんも「用事が無くなった」という。

 中秋の名月を眺めながら、家族三人、おいしくピザを頂きました(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手

 

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ライトノベルベスト『The Exchange Vacation』

2021-09-21 06:21:52 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『The Exchange Vacation』  




 三つある「休み」で春休みが一番好きだ。それも一二年生のそれに限る!

 夏休み・冬休み、それに対する春休みは全然違う。そうは思わない?

 だってさ、夏休みと冬休みっていうのは、うんざりする宿題はともかく、単なる休み。
 休みが終わると、また同じ教室で、同じクラスメートで、時間割とか先生とか完全にいっしょで変化がない。せいぜい席替えがあるくらい。基本的に同じ事が始まるだけ。でしょ?

 だけど、春休みは違う。

 だってそうでしょ。

 学年が一個上がって、クラスも教室も先生もクラスメートも変わっちゃう。教科書だって、最初手にしたときは、なんだか新鮮。

「今年こそ、がんばるぞ!」ってな気持ちになる。

 もっともこの気持ちは連休ごろには無くなってしまうけど。年に一度の発育測定なんかもあって、背が伸びた、体重がどうなったとか、なんかウキウキじゃん。それでいて、学校はいっしょ。勝手知ったる校舎、四時間目のチャイムのどの瞬間までにいけば食堂は並ばずに済むかとか、合点承知之助!

 三年生は事情が違う。

 だって、完全に環境が変わってしまう。

 でしょ?

 中学にいく前の春休みは、それほどじゃなかった。だって公立の中学だから、半分は同じ学校の仲間。学校そのものも、ガキンチョのころから、よく側を通っていたし、お姉ちゃんが三年生でいたから心強くもあった。

 高校にいく前の春休みは、最初は開放感。

 でもって、入学式が近づくにしたがって、つのる緊張感。二年生になろうとしている今、思い返せば、良い思い出になっている。

 だけど、高三になったら、きっと緊張はハンパじゃないんだろうなあ。だって大学だよ、大学。でもって十八歳。アルコール以外は大人といっしょ。そのアルコールだって、十八を超えてしまえば飲酒運転でもしないかぎり、大目に見てくれる。車の免許だって取れちゃう! 恋の免許も、なんちゃって……これは、こないだお姉ちゃんに言ったら、怖い顔して睨まれた。

 お姉ちゃんは、この四月から大学生だ。最初は地方の大学を受け独立するとか言ってたけど、お父さんもお母さんも大反対。で、結局、地元の四大で、自宅通学。ここんとこの緊張したお姉ちゃんをみていると、正解だったと思う。

「ねえ、お姉ちゃん、ま~だ!?」

 あまりの長風呂にわたしはシビレを切らし、脱衣所のカーテンをハラリと開けた。

「なにすんのよ!」

「痛い~!」

 乱暴にカーテンを閉め直した拍子に、カーテン越しに右のコメカミをぶん殴られた。
 お姉ちゃんの裸を見たのは、スキー旅行で、いっしょに温泉に入って以来だ。湯上がりに、肌が桜色。出るところは出て、引っ込むところはキチンと引っ込んで、同性のわたしが見てもどっきりだ。

「高校最後の、お風呂だからね、いろいろ考え事してたの」
「卒業式、とうに終わってんのに……案外……」
「案外、なによ!?」
「いやはや、大人に近づくというのは、大変なもんだなあって。同情よ、同情」
「余計なお世話。さっさと入っといで」

 そんなに長風呂した訳じゃないのに、お風呂から上がって、少しグラリときて、脱衣場でへたり込んでしまった。一瞬頭の線が切れたのかと思った。
 時間にすれば、ほんの二三秒なんだろうけど、わたしの頭の中で十七年間の人生が流れていった。そして小学校の終わり頃に、なにかスパークするような思い出があったんだけど、言葉では表現できない。

「どうかした?」
「ううん、ちょっと立ちくらみ」

 お母さんの心配を軽くいなして、リビングへ行った。
 テレビが、どこかの春スキー帰りに高速で事故が起こったニュースを流していた。

「あ~あ、二人亡くなったって……」

 お姉ちゃんが、ドライヤーで髪を乾かしながら言った。

 お父さんは、仕事の都合で、会社のワゴン車で帰ってきた。かわりに自分の車は会社の駐車場。
 代わりに残業がお流れになったので、夜食用のフライドチキンを一杯持って帰ってきてくれた。

「また歯の磨き直しだ」

 そう言いながら、わたしも、お姉ちゃんもたらふく頂いた。

「わたしね、春休みは『 Exchange Vacation』だと思ってるの」
「なに、ヴアケーション交換て?」

 お姉ちゃんが、紙ナプキンで、口を拭きながら聞いてきた。

「なんか、全てが新しくなるようで、夏休みとか冬休みとかじゃない、特別な印象」
「それなら、Vacation for Exchangeでしょうが」
「イメージよ、イメージ!」
「ハハ、美保、英語はしっかりやらないと、大学はきびしいぞ」
「もう、うるさいなあ」

 
 その夜、わたしは寝付けなかった……正確に言えば意識は冴えているのに、体が動かない。金縛り……いや、それ以上。目も動かせなければ、呼吸さえしていない。でも意識だけは、どんどん冴えてくる。

 お父さんが、何かをしょって部屋に入ってきた。お母さんが、大容量のハードディスクみたいなのを持って続いてくる。
 お父さんは、しょっていた物を横のベッドで寝ているお姉ちゃんの横に寝かした。

 ……それは、もう一人のお姉ちゃんだった。

「いつも辛いわね、この作業……」
「真保は、これで終わりだ。あとは義体の調整でなんとかなる」

 お母さんは、ハードディスクみたいなのを中継にして、二人のお姉ちゃんの右耳の後ろをコードで繋いだ。古い方のお姉ちゃんの目が開いて、赤く光った。それは、しだいに黄色くなり、五分ほどで緑に変わると、光を失った。

「起動は五時間後ね」
「ああ、それで熟睡していたことになる。着替えさせるのは、お母さん、頼むよ」
「年頃の女の子ですもんね」

 お母さんは、古いお姉ちゃんを裸にして、新しいお姉ちゃんに着替えさせた。

「じゃ、美保の番だな……」
「真保、きれいに体を洗ってますよ。分かってたんじゃないかしら?」
「まさか、そんなことは……」
「そうですよね。ただ、三月の末日と重なっただけ……明日は入学式ですもんね」

 お父さんは、右耳の後ろとハードディスクみたいなのをケーブルに繋いで、いろいろ数値を入力していった。

「右の記憶野に……」
「なにか、異常ですか!?」
「いや……単純なバグだ。回復したよ」
「来年は、美保の義体も交換ですねえ……あの事故さえ無ければ」
「それは、もう言うな。スキーに行こうと言ったのは、オレなんだから」
「せめて、母星のメカニックにでも来てもらっていたなら……」
「言うなって。もう、真保はシュラフに入れたか」
「はい……」

 お父さんが、シュラフに入った古いお姉ちゃんを担ぎ、お母さんが、跡を確認して出て行った。

 わたしは、全てを理解した……お姉ちゃんが、わたしの右のこめかみを叩いたのは、無意識の意思があった。それは、自分の境遇を知った上での感謝の気持ちだった。

 そして、目が覚めると、夕べの事は全て忘れていた。

「もう、どうして早く起きないかな。入学式でしょうが」

 歯ブラシを加えながら、お姉ちゃんが何か言った。

「訳分かんないよ!」
「美保は春休みなんだから、時間関係無いでしょうが!」
「あ、そか……」

 わたしは大事なものが頭に詰まっているようで、半分ぼけていた。でも、今の遣り取りで飛んでしまった。

 でも、このことは人生の大事な時に思い出しそうな予感もしていた……。
 

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