やくもあやかし物語・101
ゾワゾワ!
それを取り出すと部屋中のあれこれが一斉に身を引いた。
それというのは、一見ふつうの孫の手。
ほら、50センチくらいの棒の先にこけしの頭みたいなのが付いていて、自分で肩がたたけるやつ。もう一方の端は小さな手になっていて、こけしの頭の方を握って背中が掻ける。便利グッズのご先祖みたいなの。
「幸運を掻き寄せるっていうから、持って帰るといいよ」
俊徳丸が勧めるので、持って帰った。
実は、鬼の手。
わたしの狙いは正確だった……というか、大魔神みたいに大きな鬼だったから、反動の大きいガバメントでも外しようが無かったんだけどね。
でも、微妙に左にズレていたんだと思う。
だって、右手だけが残ってしまったんだからね。
「このままじゃ、気持ち悪いか……」
そう言うと、JK姿の俊徳丸は制服の胸ボタンを外した。ちょっと嫉妬するくらい形のいい胸が露わになって、胸の谷間に貼ってあるシールみたいなのを剥がして、鬼の手に貼ってくれる。
シュボン
アニメのエフェクトみたいなのがして、鬼の手は、ころあいの孫の手になった。
シールは、玉祖神社のお札だった。
でも、妖の気配いっぱいだったので、部屋のアレコレたちはビビってしまったんだ。
アノマロカリスは縮こまってLサイズの海老くらいになって天井に張り付いて、カメラはレンズだけ出して机にめり込むし、黒電話はひっくり返るし、フィギュアたちは本棚や引き出しの中にガチャガチャと避難してしまうし、ようく見ると、部屋自身も嫌がって、外側に膨らんで、微妙に広くなってしまった。
「あ、大丈夫だから。これからは、福を呼び込むラッキーアイテムになるから(^_^;)」
………………………………………………………………
「チカコもなんか言いなさいよ」
モソモソ
ポケットから鼻から上だけ出した。
「持って帰ったのはやくもだからね……あたしは関係ないし」
「こ、こら、チカコ!」
めちゃくちゃ言うやつだ……と思ったら、部屋中のあれこれが「ホーー」っとため息ついて、もとに戻った。
チカコが無事なのだから、大して害にはならないと納得した様子。
でも、ラッキーアイテムかと言われると、ついさっきまでは狂暴な青鬼の右手だったのを見てるしなあ……。
「試してみたら?」
ポケットの中からチカコの声
「えと……ピザが食べたい!」
すると、リビングの方で玄関チャイムが鳴る音。お婆ちゃんがバタバタ走って行って、なんだか宅配がきた様子。
『やくもぉ~ ピザが届いたわよぉ』
え、すごい!
「今日は中秋の名月だから、ピザを頼んでおいたの(^▽^)/」
お婆ちゃんが、あらかじめ注文していたやつだった。
でも、中秋の名月でピザ?
不思議に思ったら「やくもなら、お団子よりもピザとかでしょ?」とお母さん。
今日は、用事で出かけるはずだったお祖父ちゃんも「用事が無くなった」という。
中秋の名月を眺めながら、家族三人、おいしくピザを頂きました(^_^;)
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手