大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 35『二手に分かれる』

2021-09-30 17:57:19 | ノベル2

ら 信長転生記

35『二手に分かれる』  

 

 

 鎧の切れはしや刀の折れが転がっている。

 

「雑だな」

 信玄が手に取った肩鎧は、小札(こざね)が分厚いだけで大きさに一ミリほどのバラつきがあって美しくない。

「冠の板に金箔が施してある、一応は侍大将級のものね」

 謙信は分析するが手に取ろうとはしない。

 俺は無言で刀の折れを拾う。反りの具合から真ん中で折れたものと知れるが、半分に折れたものでも日本の太刀一本分ほどの重さがある。

「こんなものもあるぞ」

 武蔵が手にしたものは、柄元から折れた刀だ。

「両刃の直刀か」

「幅が謙信の太刀の倍ほどもあるぞ」

「太ければいいというのは、動物的だわよ、信玄」

「儂のは太くて切れ味も抜群だぞ」

「太刀や甲冑が不揃いだというのは、連合部隊ということだな」

「そうだ、西遼や韃靼の部隊も混じっている。三国志の支配地は広いからな……どうだ、こちらから偵察に出てみるか?」

 三白眼の目を真っ直ぐ向けて武蔵が訊ねる。JK風に言うとジト目のガン見だ、俺たち三人でなければ適当な理由を見つけて逃げ出すだろう。

「三国志に抜ける道はあるのかい?」

 謙信が気にせずに聞く。

「任せろ」

 抜ける道というのは袁紹が来たルートではないはずだ。敵もバカではない、そのルートは警戒が厳重になってるはずだ。

「スカートは脱いだ方がいいんじゃない?」

 道の険しさを思って謙信が提案する。みんな、こういう時の為に下にはスパッツを穿き、カバンには肘と膝のプロテクターを用意している。

「いや、いざという時は『道に迷った』と誤魔化す、装備を整えては不自然だ」

「そうだね」

 納得して、道を進む。

「戦死者も回収、装備もまともなものは残していない、やつらは、かなり余裕がある」

「でも、武蔵、袁紹は仕留めたんだよね?」

「ああ」

「自分を過信しすぎたのと、出くわした相手が武蔵だったのが袁紹の不運だったんだろう」

「袁紹の進入路は避けて、二手に分かれよう。わたしと信玄は西、信長と武蔵は東に周るというのはどうだろう」

「それでいい」

「わたしなら一人でいい」

「ここはチームワークだ、武蔵」

「特に落ち合うことはしない、明日学校で情報を突き合わすことにしよう。いいわね」

 やはり、こういうところで話をまとめるのは謙信だ。俺と信玄は「「承知」」と返事をし、武蔵は沈黙を持って応えた。

 東の獣道に踏み込むとき、晩飯はどうしようかと思った。西日が傾き始めているのだ。

 いつも俺が作るわけにもいかないだろう。少しは市にも料理を教えてやらねばな。

 いや、こういう段取りめいたことは敦子にこそ任せるべきか。

 敦子の奴、近ごろ神さまらしいことはやっていないからな。

 気づくと、武蔵は、もう三十メートルほど先を進んでいる。

 並の奴なら、振り返るか立ち止まるかして仲間を待つだろう。

 もっとも、振り返ってジト目の三白眼で睨まれるのもかなわんがな。

 こいつと行動するときは、僅かでも他の事は考えない方がいいと思ったぞ。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

 

 

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ライトノベルベスト『夏のおわり・5』

2021-09-30 05:40:06 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・5』  




 

 あー、親友二人の反応がコワイよー!

「あ、わたし、小学校のころ、歯の矯正してたんです。それまでは、ちょっと出っ歯で(#^.~#)」
 雅美が、機嫌よく自分の秘密を答えている。
「普通だったらさ、まんま出っ歯とか、さんまとか言うジャン。そこを八重桜って、小学生が言うのってすごいと思うの! だれ、それ言ったの?」
「あ、加藤君です。そこの……」
「あ、ああ、あ、どうも。でも読んだ本からのパクリだから」
 加藤は、顔を赤くして、でもマンザラでもない風に答えた。
「うん、君たちってすごいよね。十代ってさ、バンバン変わっていっちゃうのよね。あたしなんか、十代は加藤君みたいな優男だったけど、十代の終わりには女の子のかっこしててさ、二十歳になったとたんにちょん切っちゃったもんね」
 教室が一瞬笑いに満ちた。さっきまでのヤナ空気は、どこかに行った。

 それから、コイトは、お気に入りのAKB48の『大声ダイアモンド』を、BG付きで唄って踊った。こんな風にしていると、コイトはほんとうに女の子のアイドルに見える。
「この歌はね、自分の衝動に素直になろうってとこがミソなんだよね」
 生活指導の先生が聞いたら目を回すようなことを平気で言う。渋谷までがニコニコ聞いている。単にタレントってことだけでなく、人間的に魅力があるんだなあと思った。
「でもさ、昨日の満員電車の中でさ、たとえ二日酔いだったとしてもさ、夏は、どうして、あたしのことがオネエって、気が付いたのかなあ?」
 いきなり振られた。口が勝手に動く。
「最初、体が密着したときは、あ、若い女の人って感じでえ。でもって、次のカーブでグッとまた曲がっちゃったじゃないですか。そん時に、ガシって窓枠押さえた手に……なんてのかな、男性的な『守ってやらなきゃ!』って気持ち感じて、そのアンバランスから、あの、そっちの人じゃないかなって感じたんですよね」
「う~ん、複雑。これって誉め言葉なのか、オネエとして、まだ不完全てことなのか……」

 とたんに、教室は割れんばかりの拍手になり、なんだか丸く収まってしまった。

 このコイトの学校訪問のオンエアーは、予定を早めて、その晩のバラエティーで行われた。
「ハハハ、バラエティーもなかなか面白いじゃない!」
 お婆ちゃんは、さっそく宗旨替えして、入れ歯を外しそうになって喜んでいた。
「あ~あ、あたし見損ねたじゃない……」
 バスタオルで頭拭きながら、あたしはボヤく。
「ごめんね、ラジオだったら録音できるんだけど、テレビの録画は、どうもわからなくってさ」

 そこに、またコイトから電話。

「なんだ、見てなかったの。ネットで検索してみなよ。誰かが録画してアップロードしてると思うから」
 なるほど、その手があったか。
「でさ、徹子さんが見ててくださっててさ」
「徹子?」
「そう、猫柳徹子さん。あたし、明後日『徹子の小部屋』にでるんだけどね、徹子さんからナッチャンご指名」
「えー!」
「OKしといたけど、いいよね?」
「あ」
「それから、明日、『笑ってモトモト』11時半に局入りすればいいからさ。これもよろしく。学校の方には、うちの事務所から電話入れとくから、よろしくよろしく!」

 で、あたしの目の前で、タムリが机を叩いて笑っている。当然スタジオ中爆笑。

 あたしは、お婆ちゃんから聞いた話しをしただけなのだけど。
「信じらんねえ。だってさ、四月に転勤してきた先生がさ、それも隣同士に机並べてだよ、高校時代の同級生だったってことが、二学期になって分かっちゃうなんてさ。ありえないよ。あ~、おっかしい!」
「なんか、昔は、そんなこともあったらしいですよ。あー、それから、離任式のときに従兄弟同士って分かったり」
「なんか、牧歌的だね、昔の先生って」
「いえ、いまのは先生と生徒」
 で、また大爆笑。
「コイト、いいキャラ見つけてきたね。なんてのか、若い頃の桃井香里と秋吉玖美子足して二で割ったような子だね」
「でしょ。もう、昔からの親友みたくでさ」
「でも、コイトはナッチャンとは10個は離れてるでしょ?」
「そんなの戸籍謄本見なきゃ分かんないでしょ」
 あたしは、コイトが、そんなに年上だとは思っていなかった。
「あ、呼び捨てにしてきちゃった。コイトさん……かな?」
 で、また爆笑になる。

 あたしは、四時間目を公欠にしてもらうために、学校のPRを命じられていたけど、すっかり忘れてしまった。

 ま、いいか。ディレクターの人はVで、学校のアレコレ挟み込んで流してくれたし。

 で、明日は、いよいよ猫柳さんの『徹子の小部屋』である!

 もう、夏はキンチョー……(蚊が落ちてきそう)

 つづく

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銀河太平記・070『今夜も酒盛り』

2021-09-29 13:31:14 | 小説4

・070

『今夜も酒盛り』 加藤 恵  

 

 

 氷室カンパニーは単純な者が多い。

 B鉱区のパルスガ鉱石に見込みがないと分かっても、一瞬がっかりするだけだ。

「今度採れた分だけでも、とうぶん酒代には困らない、好きなだけやってくれ!」

 がっかりした社員たちに氷室がメガホンで言うと、瞬間で笑顔が戻ってきて「それなら今夜も!」と上機嫌の歓声があがる。

 ウオーーーーーーー!(^▽^)/!

 歓声が鎮まる間もなく、あちこちで酒盛りが始まった。

「二年分とは言わないのね?」

 後ろに立ってこっそり言うと、回れ右して顔を近づけてくる。

「そんなこと言ったら、これから二年間はろくに働かなくなる」

「なるほど……」

「『とうぶん』というのは人によって受け止め方がちがう。ほとんど永久だと思う者、まあ、一週間ぐらいだと思う者。一週間ぐらいだと思う者でも、一週間丸々飲んでいようという者もいれば、一週間後の作業再開の準備を心がける者といろいろだよ、ほら……」

 氷室の示した先には、とりあえず手近の酒瓶をラッパ飲みするやつ、倉庫に酒を取りに行くやつ、みんなで飲もうとテーブルや椅子を用意する者、酒の肴を作りにキッチンの火を起こす者、機械に油を差しておく者、二日酔いの薬をチェックする医療係り、いろいろだ。

「あ、ハナがゲートから出ていく」

「ハナは、近所に挨拶に行くんだ」

「あいさつ?」

「ああ『今夜もお騒がせします』ってね、ああ見えて、あかなか気配りのできる子なんだ」

「なんだか過去を感じさせる子ね」

「ここに居る者は、みんな世間の標準よりは重い過去を持っているよ。それを尊重しあうというのが、わが社の数少ないルール。ここでは、本人が言わない限り人の過去には触れない、メグミのこともね」

「社長のことも?」

「お、初めて社長って呼んでくれたね。それが一番しっくりくるかな」

「あ、じゃあ、そうするわ」

 なんだかはぐらかされた、ま、いいか。

「よし、ボクは酒の肴でもつくるか!」

「社長が?」

「ああ、アセトアルデヒドを分解しにくい体質なんでね」

「……もう、キッチンは一杯みたい」

「大丈夫、おーい、ニッパチ!」

 人の輪の外で突っ立ていたニッパチの首が、こっちを向いた。

「酒の肴作るから、手伝え!」

『がってん!』

 氷室……いや、社長はニッパチを引き連れると、資材の中からコンパネの切れを取り出してまな板にして、手当たり次第に余りものの食材で調理にかかる。

 一度ニッパチに見本をやって見せ、少し説明を加えると、次はニッパチにさせて、うまくいくと褒めてやる。

 ニッパチも、わたしが付けてやったリアルハンドのスキルが上がるのが嬉しいようで、ボディーをガチャガチャ言わせながら、宴たけなわになっても嬉々として調理をしていた。

 ルーズなようで、微妙にバランスの取れている氷室カンパニーではあった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ)

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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せやさかい・247『ハイベーが出なくて……』

2021-09-29 10:14:31 | ノベル

・247

『ハイベーが出なくて……』詩(ことは)      

 

 

 プピーー

 

 やっぱりハイベーで崩れてしまう。

 大和川の河川敷、聞いてる人もいないだろうからいいんだけどね……と思ったら、草叢でカサリと音がして犬が顔を上げた。こいつ、笑ってる……犬に笑われた。

 ペス!

 名前を呼ばれて犬は回れ右して駆け去っていく。堤防の下の所に中年のおばさんが犬に怖い顔をしている。

 自分でリードを放しといて怖い顔はないと思う。

 あ、いま『中年のおばさん』て思ったよね、わたし。

 おばさんは中年に決まってるはずなのにね……いや、若くても中年みたいなのは居るよ。

 いまのわたしみたいにね。

 プピラピラピラ……プヒーー

 やっぱり、ハイベー。

 まあ、サックスやめて一年。仕方ないか。

 

「今年度は無理ですね」

 

 ただでも隔たりを感じる学務課、コロナ対策のアクリルの衝立も空々しく、ますます隔たりを感じさせて主幹のIDぶら下げたおばさんに言われた。

 大学に幻滅したわたしは、ほとんど三蔵法師の気分になって留学を考えた。

 三蔵法師っていうのは孫悟空の親分というだけでは無くて、基本は求道者なんだ。

 中国の仏教に飽き足らず、天竺まで勉強しに行こうって発奮したえらいお坊さん。

「あれなに?」

 幼いころに、お祖父ちゃんに付いて行って、改築したばかりのよそのお寺に行った。

 お祖父ちゃんは、布教師の資格なんか持っていて、時々よそのお寺に講師で出かけるんだ。

 そこの本堂のマス目になった天井に駱駝やら砂漠やらインドらしき景色の絵がはめ込まれていた。うちの本堂の天井も同じように絵が描いてあるんだけど、昔ながらの花とか天人の姿なので、すごく珍しかった。

「あれは、三蔵法師が天竺まで行ってお経の本を頂いてくる様子を描いたもんや」

「へえ……」

 それから、十数年。わたしは三蔵法師になってみようと思った。

 と言っても、仏教の勉強じゃないよ(^_^;)、うちは兄貴が坊主になったから跡継ぎは十分。お寺に嫁入りするつもりもないしね。実は、坊主の奥さんてけっこう大変。坊守(ぼうもり)って言ってね、お母さん大変なの見てるしね。

 大学じゃ児童文学とかやってるから、そっちの勉強をね。

 一昨年、さくらがエディンバラとヤマセンブルグに行ってきた。エディンバラがハリポタの故郷だってことは知ってたけど、帰ってきたさくらの目はキラキラしてた。癪に障るから、さくらとそう言う話はしたことないけど、父親の失踪で歌おばさんとうちに来て、苗字も酒井に変わって、傍で見ていても痛々しいくらいいい子にしていた。

 それが、帰ってきてからは、とっても生き生きと自然になってきた。

 なにがなんでもという感じで選んだ学部じゃないけど、やるんなら今のうちだ。

 基礎ゼミの先生も学務課のおばさんも「中国にしたら」って言った。大学には中国の留学生も多くて、日中双方にパイプができているらしいけど、丁重に断った。先生に相談した三日後には、それまで口をきいたこともないゼミの劉さんが電話して来てビックリした。

 行くんならイギリス。

 その矢先にコロナだからね、まいっちゃう。ずいぶん粘ったんだけど、学務課で「今年度は無理ですね」と宣告されてしまった。

 あの内親王さまもエディンバラに留学されていた。庶民の娘には、道は険しい。

 久々にサックス担いで大和川の河川敷。

 思っていた以上に錆びついていて、ハイベーが苦しい(;'∀')。

 あ、サックスはピカピカだよ。わたし、モノは大事にする人だからね。

 もう二三日あったら勘も唇も戻ってくるかもしれない。でも、もうやらない。

 最後に一曲、ぜったい失敗しないやつ……

『蛍の光』を決めて自転車に跨って家路につく。

 帰路は抜けるような青空。ま、これで良しとしよう。

 

 

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ライトノベルベスト『夏のおわり・4』

2021-09-29 05:32:16 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・4』  




 直接的な表現じゃないけど、結果的に「うんこ」を五回も連発した!

 お婆ちゃんが、今時珍しいカセットテープに放送の半分ほどを録音していた。他に電車の中で英単語覚えたことも、その理由と共にしゃべっていた。で、学校名こそ伏せられていたけど(学校の名前のとこは、ピーって音になってた)学校のあれこれ喋りまくり。こりゃ、明日からひきこもりと落ち込んで、晩ご飯にも出られなかった。

「いいじゃないの、あれは聞く人に力を与える話だったわよ」

 お風呂から上がると、やっぱりお腹が空くので、晩ご飯の残り食べていたら、お婆ちゃんが、テレビ見ながら言った。

「こんなに、無理に笑ってるバラエティー番組より、よっぽどよかったじゃない。あの話……話しもそうだけど、夏のしゃべり方って、人の心を和ませるよ。うん、素質かもしれないわね!?」
「ゲホゲホ、ゲホッ! あれが!?」

 あたしは冷や奴にむせながら、お婆ちゃんの誉め言葉を聞いた。お婆ちゃんは、うそは言わない。感情を顕わにすることなんかないけども、いつも落ち着いて、本当の話をしてくれる。
 お母さんは悪い母じゃないけど、その場の感情でしゃべったり、グチったり、文句言ったり。で、当然そこには、誇張やら、軽いウソが混じることがある。小さい頃は引っ込み思案で、言いたいことの半分も言えない子だったので、喋ったときには大いに喜んでやるようにして、お婆ちゃんはお母さんを育てたのだそうである。
 お母さんは、そうやって、それなりにイッッパシの婦人(お婆ちゃんが好きな言葉)になったのだそうだ。

 ただ、世の中は完ぺきに行くことは少なく、イッパシの女子高生、イッパシの女子大生、イッパシの作家になって、あたしを育ててくれて、ありがたいんだけど、あたしにはお父さんがいない。

 最初っからいない。

 いわゆるシングルマザー。

 お父さんが居ないことで特に寂しいと感じたことはない。友だちの中にも何人かそういうのがいる。
「そういうのもアリ!」
 たまに、そう言う話になると、たいていお婆ちゃんが、そう締めくくる。

『ごめんね、今日は騙したみたいで~』
「みたいじゃなく、騙したのコイトは!」
 いつ教えたのか、コイトは、あたしのアドレス知ってて、スマホをかけてきた。
『レギュラーが、急にアウトになっちゃって、ダメモトでディレクターに言ったら、イザってときはあたしが責任取るってことでOKくれたのよ』
「でも、騙した!」
『だから、それはゴメン。でもさ、ナッチャン、スゴイ反響だよ。放送局にいっぱいメールやら、お便りきてるから、あとで転送しとくね。で、またお座敷かかったら、よろしく!』
「もう掛けてこないで!」

 切った後、直ぐにコイトのメールが来た。添付で、リスナーのメールがコピーされて転送されてきた。

 で、不覚にも、そのいくつかにホロッとしてしまった。

――ナッチャンありがとう。こんな女子高生もあり! 二学期は学校行く気になりました――
――あたしも、ワケありで父なるものがいませんが、勇気もらいました!――
――ナッチャンのおかげで、リスカ用のカッターナイフ捨てちゃった!――
――ナッチャンみたいな子が、友だちにいたらなあ! ハミーゴより――

 バスタオルで、涙拭いていたら、お婆ちゃんが横にやってきた。
「ね、やっぱり夏は、いいことやったのよ。これは、まだ収まらないね……」
 そう言って、自分の昔話をし始めた……。

 で、明くる日、学校に行くと、加藤と雅美が、怖い顔していた。

「今さら、昔のあだ名の話なんかするなよな!」
「夏が、あんなに口の軽い子だとは思わなかったわ!」
「え、なんのこと?」

 あたしは、八重桜の昔話(第一話)もしてしまったようだった……。

「で、だーれ、八重桜の二人組は!?」

 コイトが、教壇で聞いた。
 4時間目のホ-ムルームに、渋谷が珍しくニコニコ顔で入ってきたかと思うと、その後からスタッフを引き連れてコイトが、フワフワのモテカワ系のコスであらわれた。で、トーゼン教室は歓声に包まれた。

 で、さっきの質問になったわけ。

 あー、親友二人の反応がコワイよー!

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やくもあやかし物語・103『メイドの体を借りた二丁目地蔵』

2021-09-28 12:53:45 | ライトノベルセレクト

やく物語・103

『メイドの体を借りた二丁目地蔵』   

 

 

 あ……?

 

 そこを曲がったら二丁目地蔵という辻に立っていたのは久しぶりのメイドお化け。

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 このまんまアキバに連れて行ったらメイドクイーンの称号が取れるんじゃないかってくらいの笑顔が気持ち悪い。

「えと……二丁目地蔵さんのところへ行くんだけど」

「はい、まあ、お久しぶりなんですから、まずはうちにお寄りになってくださいませ(^▽^)」

 メイドスマイルで後ろの家に誘おうとする。

 え?

 ここは、五十坪ほどの普通の家があったはずなのに、メイドカフェになっている。

 看板は『メイドカフェ』とあるだけなんだけど、店の造りは、レンガの本格的英国風。

「え、あ、でも、お地蔵さんの所へ……」

「ノープロブレム、どうぞどうぞ!」

 顔は笑ってるんだけど、すっごい力で引っ張られる、ワチャワチャと他のメイドたちも出てきて「どうぞどうぞ!」とか「お嬢さま!」とか囃し立てて、お店の奥に連れ込まれた!

「キャ! ちょっと、なに……」

 おたついてワタワタしてると、みるみるうちにメイドお化けの表情が冷たくなった。

 

「そこ、座んな!」

 

「痛いよ」

 突き飛ばされるようにして座ったのは、お店の真ん中の皮張りの椅子。

「そんな不浄なもの持って来られたらかなわないから、ちょっとメイドお化けの体借りてるの」

「え? え、じゃあ、中身はお地蔵さん?」

「そうだよ、メイド地蔵。みんな、警備はちゃんとやっておくれよ」

 はい、お地蔵さま!

 可愛くも凛々しい声が店のあちこちからしたと思うと、手に手にこん棒やら斧やら持ったメイドたちが現れて、ドアとか窓とかのところに警備に立った。

「そいつはね、茨木童子の片腕なのよ」

「イバラギドージ?」

「ああ、渡辺綱というのがやっつけたんだけどね、平安時代の事だから、戒めも解けて、この二百年くらいは時々現れては悪さをするんだ」

「あ、うん、だから、俊徳丸も自分をおとりにして退治したのよ。その記念に残った片腕もらってきたんだから」

「それが災いのもとなのよ」

「願い事叶えてくれるよ。ついこないだも『ピザが食べたい』と思ったらピザが食べられたもん」

「たしかに、そういう効能はあるんだけどね」

「だったら……」

「効能があるっていうことは、鬼も取り返したいわけよ。箱根山を越えてしまったら貼ってあるお札の効き目も薄くなってしまうの」

「そういうものなの?」

「うん、お蕎麦の出汁だって西と東じゃ違うでしょ? 卵焼きだって、ここいらはお砂糖いれた甘い奴だけど、西は塩とお出汁の味だし、電気の周波数も西が60ヘルツだけど東は50ヘルツ」

「あ、理科で習った気がする……」

「ま、そういうことで、お札とかの力も弱くなるんで、鬼も取り返しやすくなる」

「え、え……でも……」

「よく聞いてね」

「うん、はい」

「これを見て」

 メイドお化け、いや、二丁目地蔵はポケットからコロコロを取り出した。ほら、ガムテのでんぐり返しみたくなってて、コロコロ転がして、埃やらゴミやらとるやつ。

「メイドの必需品。ちょっとでも暇があったら、こいつで、あちこちコロコロ転がして、お家やご主人様の清潔を保つの」

「なかなかの心がけですね」

「千年前の鬼は、新品のコロコロみたいだった。それが、千年の間にゴミや汚れを一身に付けまくって……」

「キャ」

 メイド地蔵は、わたしの服から始めて、そこらへんの椅子やらソファーやら、あげくにはカーペットまでコロコロやり出した。

「ほら、いろいろくっ付いて、なんだか妖怪じみてきた」

「うん、妖怪コロコロお化け」

「やくもも協力して、鬼の本体と、ほとんどのゴミをやっつけた……」

 ホワ

 コロコロが消えて、ゴミだけがコロコロの筒の状態で残った。

「この残されたゴミのリングが、いまの状態」

「なるほど……」

「放っておくと、消えたはずのコロコロお化けが蘇る」

「かならず?」

「うん、かならず」

「どうしたらいいの?」

「それが、やくもの仕事」

「わたし?」

「残ったのが、どんなゴミかは分からないけど、やくもは霊感とか強いから、じきに向こうから働きかけてくる。がんばって解決してあげてね。そうすれば、そのとき、ほんとうにやくもにとってのラッキーアイテムになるからね」

「俊徳丸に相談するってのはどう?」

「ダメよ、俊徳丸は善意と感謝の気持ちでくれたんだからね、ガッカリさせちゃダメだよ」

「え、あ……そうなのか」

「まあ、どうしてもって時は相談して」

「今は?」

「ダメ、まだ、その時期じゃないから。ね、がんばってね」

「う、うん……」

「みんな、お嬢様のお出かけですよ!」

 ザワザワザワ

 警備に付いていたメイドたちが、あっという間に出口までのメイド道を作ってしまう。

 

 行ってらっしゃいませ、お嬢様!

 

 振り返ると、いつもの五十坪の家があるきりだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手

 

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ライトノベルベスト・『夏のおわり・3』

2021-09-28 06:15:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・3』  



 

 さんざん絞られてカスカスのレモンのカケラみたくなって駅への坂道を歩いていた。

 プップー

 と、前から来た車にクラクションを鳴らされた!

「あ……」

 運転席でニヤニヤと手を振っているのは、今朝、ホームで「失礼な子ね!」と、あたしを罵倒したニューハーフのコイトだった。あたしは、招き猫に寄せられるように、車のドアに寄った。

「あんた、ほんとは……トイレ……行きたかったったのよね?」

 で、気が付いたら、コイトの車に乗って、コイト御用達のファミレスに向かっていた。誤解で怒鳴ったことへのお詫びで、お昼をご馳走になることになってしまった。
 途中、交差点なんかで停まると、何人も人が振り返り、写真まで撮られた。やっぱ、売れっ子のタレントは違うと思った。

「分かるなあ、夏休みが終わったばかりで、体がついてこないのよね」
「ええ……」
「で、必死で気持ちをそらそうとして、覚えたエクスプレスとかがテストに出たんだ」
「でも、そこだけだったから……」
「で、先生に絞られて、フリーズドライにされたレモンみたいになって歩いてたんだ」
 コイトは、実に聞き上手で、これも気づいたら、みんな喋らされた。
「そりゃそうよ、あたしもマスコミでチョイ売れするまでは、お店に出てたんだから、ノセ上手の聞き上手。ね、よかったら、これからラジオの収録やるの。夏、放送局って行ったことないでしょ?」

 で、今度は放送局へ行くことになった。

 地下の駐車場で、初めて乗っていた車に気が付いた。

「ゲ、この車って、お尻ないんですね!?」
「やっと気づいた? これ、ホンダN360Zっていってね、通称水中メガネ。40年前の超レアな車よ。お尻がカワイイから、みんな注目してくれるしね」
 みんなが注目してくれていたのは、コイトが注目されていたからじゃないんだ。
「失礼ね。五人に一人ぐらいは、あたしに注目してるからよ」
「あ、あたし、何にも言ってませんけど……」
「夏はね、あたしとの相性がいいの。思ってることの半分は、黙ってても分かるわ」
「でも、今朝は誤解でしたけど」
「あれはね、二日酔いで朝帰りだったから。あれから十分寝たから、シャッキリよ。おはようございまーす(受付のおじさんに挨拶)こっちよナッチャン。あ、ちょっと待っててね」
 
 コイトは、先に部屋に入って、エラソーな人とちょっと話してすぐに出てきた。

「おいで、ナッチャン。せっかくだから、ラジオの収録経験しとこ」
「え、あ、うん……失礼しまーす」

 エライサン含め、ゴッツイ機械の前に二人のスタッフとおぼしき人がいた。みんなニコニコ迎えてくれて、「よろしくね」なんて言われて、嬉しくなって、そのままゴッツイドアをあけて、八畳ほどの部屋に入った。
 コイトと向かい合わせの席に座らされた。目の前にマイクがぶら下げられていて、さらにその前に金魚すくいの親玉を黒くしたようなのがある。
「自分が喋るときは、この電車のアクセルみたいなの前に倒すの。ここ肝心ってか、ここだけ覚えときゃいいから。で、このヘッドホンみたいなのしといてね。挿入曲とか、ブースからの指示とかは、ここからくるから」
『本番、三十秒前です』
 ヘッドホンから聞こえてきて、急に緊張してきた。コイトがそっと手を重ねてくる。目が「大丈夫」と言っている……。

「ただいまあ」

 いつものように、家に帰ると、お母さんが鬼みたいな顔して、リビングから飛び出してきた。
「夏、なんで、あんたがラジオの生番組出てんのよ!」
「え……?」

 アハハハハハハハハハ(≧▽≦)

 奥のソファーでは、お婆ちゃんが、死にそうになって笑っていた……。

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鳴かぬなら 信長転生記 34『トランペット吹きの休日』

2021-09-27 14:55:48 | ノベル2

ら 信長転生記

34『トランペット吹きの休日』  

 

 

 今日は吹部にしよう。

 

 笑みの下に決然とした意志を籠めて利休が囁いた。

 前世から、静かなやつだったが、茶道の元締めだからかと思っていた。

 むろん茶道が、利休の人間形成に大きく働いたことは確かなのだろうが、いやはや、茶道の効能と言うのは大したものだと再認識した。

 考えてもみろ、利休は元々は堺の魚問屋だ。小さな声で務まる稼業ではないぞ。おまけに、飛ぶ鳥を落とす勢いの堺商人の中で頭角を現して会合衆(えごうしゅう)の幹部にまでなった奴だ。茶道も、利休の自己教育力もなかなかのものだと思ったぞ。

 俺たちも、ちょっと気合いを入れ過ぎてしまった。

 剣術の相手は宮本武蔵で、こちらは俺(信長)と信信(信玄・謙信)コンビだ。熱くならない方がおかしい。

 先日の試合は中庭に始まり、旧校舎の裏からグラウンドに広がって、花壇や植え込み、藤棚などをメチャクチャにし、朝礼台までぶち壊してしまった。

 途中、信玄が旧校舎の廊下をショートカットに使ったので、窓ガラスやサッシもけっこう壊してしまった。

「生徒会の予備費がぜんぶ修繕代に消えてしまいました」

 生徒会会計の石田三成がボヤいていたらしい。

 それで、俺たちに体育会系の部活はやらせてはいけないということになって、利休は吹部を選んだようだ。

 

「空いている楽器なら、どれでも使ってください」

 

 部長の高山右近が音楽準備室に連れていってくれる。

 右近なら、グリ―クラブや宗教研究会とかをやっているかと思ったので、ちょっと意外だ。

「わたしはユーホニアムをやってみよう」

 謙信は、過たずユーホを手に取った。

 謙信ならフルートが似合うと思ったのだが、ひょっとして京アニの『響け!ユーホニアム』のファンなのかもしれない。

「儂はスーザホンをやってみたい」

 うん、信玄の体格ならそうだろう。

「あ、今日は室内でしかやりませんからあ」

「そうか、カッコいいと思ったんだが」

「スーザホンてド・ソ・ドの三音階しかないぞ」

「そうなのか、ピストンは、ちゃんと三つついているぞ」

「そういうものなんだ、メロディーが吹きたいなら……トロンボーンなんかどうだ。わたしのユーホとの相性もいいわよ」

「よし、謙信がそういうなら」

 信玄はトロンボーンに決まった。

「では、織田さんは?」

 右近が小首をかしげる。なんだか、自然な流れのようだが、カマされているように感じるのは考えすぎか?

 右近は清楚系に見えていても、荒木村重と連携が組めるほどの胆力や如才のなさも持っている。

「俺は、トランペットでいこう」

 金管楽器でもトランペットはメロディーの最前列という感じがして、ちょっと信長的だ。

「ちょうどよかった、今日のレパは『トランペット吹きの休日』だわ(^▽^)」

 なんだと?

 せっかく選んで休日とはなんだ!?

 文句を言おうと思ったら、みんな、いそいそと音楽室へ向かうのでタイミングを失う。

 それに、いちど選んでおきながら「いやだ」というのは信長的美学ではない。

 

 で、やってみてビックリした!

 

 トランペットは、2分50秒の演奏時間の間、吹きっぱなしなのだ! それも、めちゃくちゃテンポが速い。

 む、むつかしい……。

 しかし、弱みは見せられない。

 転生した信長のすごさを見せてやらなければ、いや、魅せてやらねばなあ!

 パチパチパチパチ(#^▽^#)!!

 最初は詰まりっぱなしだったが、信長の底力、下校時間の放送が掛かるころには、一度も詰まることなく、カッコよく吹き終わって、吹部のみんなが拍手をしてくれたぞ!

「き、きれいだ(;'∀')」

「え?」

 信玄が熱い眼差しで俺を見る。

「わたしも、そう思う。信長、こちらに来て、今の君は、いちばん美しいわ!」

「よ、よせ、信信コンビ!」

「ほんとだわ、鏡を見て、織田さん!」

 右近が音楽室の鏡を指さす。

 つられて鏡を見てビックリした。

 ずっとトランペットを吹き続けていたので、白い顔がポッと上気して、目も潤んでしまっている。

「なによりも、その唇だ!」

 信玄が鏡の中に割り込んでくる。

 信玄もポッチャリ系の美少女なのだが、鏡の俺は、唇が紅を引いたように赤く潤って、自分の顔でありながらドギマギしてしまう。

 パシャパシャ パシャパシャ

 謙信や吹部のみんながスマホで写真を撮りまくる。

「信長、ちょっとキスさせろ!」

「わたしも!」

「ちょ、信信コンビ! 冷静になれ!」

「よいではないか、よいではないか……」

「おい、よせ!」

「ああ、うちはそういう部活じゃないんですけど……」

 ヒューーヒューー

 右近が困った顔をして、部員どもが囃し立てる。

「もう、やめろーーー!」

 俺は、トランペットを持ったまま逃げ出した。

「待って、信長く~ん」

 信玄の気持ち悪い声が、すぐ後ろに迫ってきたのは、もうちょっとで校門を出るところだった。

 校門に見覚えのある生徒が夕陽に照らされて立っていた。

 吹部の熱気が吹き飛んでしまった。

「宮本武蔵じゃないか……」

「どうした武蔵?」

 さすがに信信コンビ、スイッチを切り替えたように冷静になって、武蔵の答えを待った。

「三国志が侵入してきたぞ」

「「「なに!?」」」

 

 武蔵の頬や足に返り血が飛んでいることに初めて気が付いた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

 

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ライトノベルベスト・『夏のおわり・2』

2021-09-27 06:28:45 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・2』 




 朝起きたら、リビングのエアコンが入っていなかった。いよいよ夏の終わりか!?

「今日二三日だけよ。週末は、また夏が戻ってくるわ」
 朝ご飯を用意しながら、お母さんが言う。
「そ、そうだよね。夏はまだまだだよね」
「そうよね、昔は、盆過ぎにはトンボが飛び始めて、朝晩は秋って感じがしたもんだけどね。今の夏はしぶといよ」
 婆ちゃんが、なんの気なしに「しぶとい」とこは、あたしを見て言った。

 婆ちゃんは、十年前まで高校で先生をやっていた。だけど、あたしの成績に文句を言ったことがない。

「成績が多少よくてもね、大人になっちまえば……アハハ、あたしもグチっぽくなってきたね。夏、五分遅れてるよ」
「うん、大丈夫。かっとびで行くから……」
 あたしは、急いで朝ご飯をかっ込み、カバンを持った。
「夏、朝のウンコは?」
 婆ちゃん、言葉にはデリカシーがない。
「タイムスケジュールを変えたの。そういうのは帰ってから!」
「肌荒れのもとだよ……」
 婆ちゃんの最後の言葉をドアといっしょに閉めきって、駅に急いだ。今なら当駅仕立ての準急に……間に合わなかった。

 電車の中は、東電の影響による節電、そして駅まで努力した結果による体温上昇で、蒸し風呂のよう。おまけに各駅停車。英語ではローカルって言うんだよな……なんで、都心でローカルだあ……なんて満員電車の中で押しくらまんじゅう。

 カーブのところで、みんなカーブの外側に寄ってしまう。で、後ろから思いっきり体を押しつけられた。一瞬「チカン!」と思った。でも、背中のあたりに膨らみを感じて、女の人なんだ、と安心。

 さらに急カーブになって圧力が増す。後ろの女の人は、思わず前の窓枠に手を着いた。着いたその手は小ぶりだけども、直感的に(女じゃない!?)と思わせるものがあった。
「ごめん。後ろの圧力がすごいもんだから……!」
 その声には聞き覚えがあった。あたしの勘に間違いがなければ、テレビで時々見るニューハーフのコイトだ。思わず振り返ると、紛れもないコイトちゃんの笑顔が間近にあった。

「ども……」

 あたしは、引きつった笑顔になった。

 あたしは、特段この手の人に偏見はない。と言って、こんなに密着するのも初めてだったけど……あたしは急にモヨオシテきた。きたって言ったら、アレよアレ、婆ちゃんが言ってた三文字!

 次の駅で降りたら、次の電車は15分後、完全に遅刻。おまけに一時間目は担任の渋谷の英語だ。学校最寄りの駅まで3駅。ダッシュでトイレに駆け込めば……間・に・合・う~!

 あと二駅というところで、手足に粟粒がたち、脂汗が流れてきた。なんとか気を紛らわさなきゃ。
 あたしは、追い越していく列車を見た。急行はエクスプレスという……特急は、リミテッドエクスプレス……回送はノット オン サービス。その時反対方向から準急。相対速度230キロですれ違ったが、ジュニアエクスプレスの字は、はっきり見えた。なかなかの動体視力だ。で、忍耐力だと自分でも感心した。

 やっと駅に着いた。あたしは人を押しのけて、リミテッドエクスプレスの勢いで、駅のトイレに向かった。
「失礼な子ね!」
 よく通るコイトちゃんの声が、後ろでしたが、かまってはいられない。

 運良く、トイレは一カ所空いていた……。

「吉田……吉田夏、吉田ア……!」

「は、はい!」
 後ろのドアからこそっと入ったあたしは、気を付けをして、返事をした。遅れたのは、あたし一人で、恥をかいた。
「いっそ、遅刻した方がすがすがしいな」
 加藤が、そう、あの加藤が、そう言って冷やかした。
「人には事情ってものがあるの!」

「今から、宿題テストをやる。ちゃんと宿題をやって来た者は楽勝。やらなかったものは……それなり」
 そう言って渋谷先生は、何人かの顔を見た。その中に、あたしが入っていたのは言うまでもない。

 ぜんぜん分からん……と、思ったら、いくつかの単語は分かった。

「夏もおわりだ……って、シャレじゃねえけど、夏、こんなんじゃ入れる大学ねえぞ」
「はい……」
「お婆ちゃんは立派な先生、お母さんは学校でも指折りの優等生、で、娘がこれか? ちっとは、しっかりしろ」
 放課後、職員室で絞られた。
「でも、夏。宿題も提出してない、つまり、やってないお前に、なんでこの単語だけ書けたんだ?」

 その単語は、特急、急行、準急、回送、そして普通の三つだった。

 つづく

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銀河太平記・069『B鉱区 辰巳海岸』

2021-09-26 11:20:34 | 小説4

・069

『B鉱区 辰巳海岸』 加藤 恵  

 

 

 24世紀の今日、動力の大半がパルス動力だ。

 

 小は医療用ナノマシンから惑星間宇宙船に至るまでパルスを動力にしていないものを見つける方がむつかしい。

 動力源はパルス鉱石だ。

 純度の順に並べると、こうなる。

 パルス鉱  パルスラ鉱  パルスダ鉱  パルスガ鉱

 パルスガ鉱は発するパルス波が安定しているのみならず単体でパルスダの十倍の出力があり、二つ直列すると倍の力を発揮する。三つにすると三倍、四つなら四倍の力を発揮し、出力調整は原理的には直列数の切り替えでできるというスグレモノだ。

 原理的には半永久的に振動波を出すパルス鉱だが、熱や動力に変換するときに微細な傷がつき、その傷が鉱石の全てに及ぶとパルスを発しなくなってお仕舞になる。

 その変換技術は日本が一番優れている。

 令和の昔、潜水艦のキャビテーションノイズを世界一小さくしたり、量子コンピューターの小型化に成功した流れと関係があるのかもしれない。

 しかし、有数のパルス技術を持ちながら、日本はパルス鉱石の産出量は知れていた。

 小笠原諸島と、その海底からパルス鉱石が採れてはいたが、大半がパルスラレベルまで。硫黄島の海底からパルスダ鉱石も採れてはいたが、世界有数の火山帯でもあり、採掘には世界標準の倍近い経費が掛かるので、商業ベースに乗るのには時間がかかると言われている。

 そのパルスダを超える、最高純度のパルスガ鉱石が見つかったというのだから、世界的、歴史的発見と言っていい。

 

「ザクザク採れるといいんだけどね」

 

 眩しそうな表情で頬を掻くハナ。

 採掘現場である辰巳の岩場。

 酒盛りのあくる日、酔っ払いたちは放っておいて、氷室とハナとニッパチとで出張ってきた。

 ニッパチは夕べのうちに完ぺきに修理してやって、見違えるほど逞しいロボット(作業機械?)にしてやった。

『辰巳は広いよ、懲りずに探したら、またきっと出てくる』

「ちょ、くすぐったい」

『そう、シリコンの手だから人と同じ感触だぞ』

「いや、そーじゃなくて……」

 見かけの割には優しい性格らしく、後の言葉は呑み込むハナ。

「アハハ、やっぱ、シュールだったかなあ」

『ニッパチは気に入ってる』

 土木工事に適したアームハンドの第二指に格納式の手首を付けてやったんだ。

 これなら、将棋やカードゲームもできるし、この図体を収める空間さえあれば事務仕事もこなせるし、今のように落ち込んだハナの頭をなでてやることもできる。

「うんうん、これは新しいメカの有り方かもしれない」

 鉱床を調べていた氷室も顔をあげて、写真を撮り始める。

 パシャ パシャパシャ

「ちょ、ヒムロ!」

「うん、照れたとこいいよ」

 パシャパシャ

「勝手に撮んな!」

「いや、すまんすまん。つい、可愛いもんだから」

「か、可愛い言うな(#'0'#)!」

「ハハ、じゃ、また今度な(^▽^)」

 ハンベをCPモードに戻して、モニターを展開させる氷室。

「令和の大噴火で深層の鉱床が部分的に吹き飛ばされてきたものだろうね……微細な粒子の他には見当たらないよ」

『10ナノメートル以上のものは50%採取しておきました』

 ニッパチがVサインする。トラックが直立して、フレームから人の手首が出ているようで、やっぱりシュールかな?

「うん、それだけでも二年分の酒盛り代にはなるだろ。シゲたちは喜ぶと思うよ」

「ちょっと見せて」

 諦めきれないようで、ハンベに食らいつくハナ。

「ねえ、粒子の流れが海岸に寄ってるような気がする……これは、鉱床が海の方に続いてるってことじゃないかなあ」

「メグミは、どう思う?」

「わたしが言っていいの?」

「うん、メグミはニッパチも直してくれたし」

「粒子に横方向の広がりが無いわ、これは氷室が言う通り、部分的に噴き出してきたものがドシャって感じで落ちてきたものでしょ。ひょっとしたらこの塊だけじゃなくて、南の海底には、他に噴き出したものがあるかもしれないけど、ちょっと待ってね……」

 自分のハンベで調べてみる。

「……一キロ沖まで見てもパルス鉱床らしきものは見えないわね……ん?」

『どうかしましたか?』

「沖の地形が、ちょっと人工的な……」

「ああ、令和のころに港を作ろうということで浚渫した跡だよ。その後の噴火で放棄されて、そのままになってる」

「あるとしたら、その浚渫した時の岩石に含まれていたかも……」

「それはあるかもしれない」

「ヒムロ、その時の岩石とかは!?」

「はるか沖の方に捨てただろうね、あのころはパルス鉱石なんて認識もされてなかったからね」

「ウウ……令和時代人のバカヤロー!」

 地団駄踏んで悔しがるハナも可愛いが、氷室がウインクするので、そっとしておくことにする

『あ、シゲさんたちが来ますよ』

 西の岩場からベースの男たちが手に手に掘削機を持って、ふらつきながらもやってくる。

「言ってやった方がよくない?」

「言っても無駄」

『シゲさんたち、自分でやらないと気のすまない人たちばかり』

 う~ん、今夜も酒盛りの予感……ただし、やけ酒の(^_^;)

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

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ライトノベルベスト『夏のおわり・1』

2021-09-26 06:14:54 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

のおわり・1』 



 

「今年の夏もおわりが近いでしょう」 

 この時期の天気予報の決まり文句に毎年うんざりしていた。

 だって、あたしは吉田夏。

 この言葉を聞くと、自分の人生の終わりが来たような気になる。

 あたりまえだけど、夏が終わると二学期がやってくる。小学校のころ、このオヤジギャグのような常套句で、あたしをいじろうとしたバカがいた。加藤というオチョケた男子で、つまらないことで、人をイジっては喜んでいた。

 雅美って、大人しめの女の子が6年のときいたんだけど、そのこのことを「八重桜」と呼んだときには、あたしも本人も含めてキョトンとしていた。
「わかんねえかなあ、おまえのことだよ長澤まさみ!」
 と言ったが、そのとき教室に居た誰もが分からなかったので、加藤はじれてきた。雅美は国語が良くできる子なんで(なんたって、高校三年の時にはラノベの新人賞を獲ったぐらい)どうやら気が付いたよう。
「あ~」と一言言ったところで先生が入ってきた。で、加藤のやつ「八重桜~」と、またやらかした。さすがに雅美はムッとした顔になった。
「加藤、おまえ意味が分かって、長澤に言ってんのか?」
 先生に言われて、加藤は真っ赤な顔をして立ちつくした。
「先生、わたしが答えます」
「いいのか?」
「はい。これで加藤君の国語能力が高いことを証明してあげます。本人も、それが狙いでしょうから」
「じゃ、長澤、言ってみろ」
「八重桜というのは、遅咲きで、花が咲くよりも先に葉っぱが出ちゃうんです。で、ハナより前にハが出るってことで、わたしが出っ歯だってことを冷やかしてるんです。たしか遠藤周作のエッセーかなんだかに出てるんだよね。で、それと久本雅美の出っ歯とひっかけたかな。同じ雅美だから」
「そうなのか、加藤!?」
「え、ま……」

 涼しい顔で認めたので、先生は、加藤の頭をゴツンとやった。

「イテ!」
 ほんとに痛かったようで、加藤は涙目になった。今みたいに「あ、体罰だ!」なんぞは言わない良き時代だった。
「でも、先生。長澤まさみって、東方シンデレラで選ばれたアイドルもいるよ。NHKの大河ドラマにも出てた」
 雅美も知っていたんだろう。今度は雅美が、赤い顔をしてうつむいてしまった。ちなみに、雅美は、そのころ歯の矯正をやっていて、中学に入った頃は矯正も終わり、けっこうカワイイ子になった。

 その加藤は、三年生の時から同じクラスで、あたしには、最初の頃「夏も終わりだな」と、二学期の最初には決まり文句のように言っていた。

 あたしは、一見大人しそうな優等生に見える。でも実は逆なのだ。

 けっして大人しくない劣等生なのだ。

「っるせえ! 売れない芸人みたく、ずっと同じイヤミなギャグとばすんじゃねえよ!」

 バチコーーン!

 と、五年生の二学期に張り倒してやったら、それ以来、あたしには言わなくなった。

 でも、

 高校三年の二学期には、本当に「夏のおわり」がやってきた……。

 

 つづく

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やくもあやかし物語・102『鬼の手・2』

2021-09-25 14:12:54 | ライトノベルセレクト

やく物語・102

『鬼の手・2』   

 

 

 鬼の手を前に考えている。

 

 願いが叶うラッキーアイテムなんだけど、ちょっと考えものなんだ。

 中秋の名月の夜、ピザが食べたいって思ったのよ。

 するとね、お婆ちゃんがピザを注文してくれていて、お願いが叶った……。

 ちょっとね、簡単すぎて気味が悪い。

 例えばよ、ネットニュースなんか見てて「こんな奴死ねばいいのに」って思うことあるじゃない。

 殺人とか、子どもの虐待だとか、女の人を騙したとか。

 そういう呟きを拾って実行されたら怖いじゃない。

 子どものころね「死ね」が口癖だった時期がある。

 今は言わない、いや、言ってないと思う……自信ない。独り言で言ってるかもしれないよ(;'∀')。

 そんな独り言で実行されたらかなわない。

「考えすぎだよ」

 チカコが言う。

 チカコの言うこともアテにならない。

 

 でも、集中力が続かなくって、お風呂に入るころには忘れてしまう。

 髪の毛を拭きながら部屋に戻ると、開け放ったドアの前にゴキブリが歩いている。

 死ね!

 悲鳴の代わりに言ってしまった。

 ポテ

 一瞬で、ゴキブリは動かなくなってしまった。

 すぐに、机の上の鬼の手に目が行く。

 ゴキブリの死骸を始末して、わたしは鬼の手を机の奥にしまい込んだ。

 

 そのあくる日、鬼の手をどうしてやろうかと思いながら学校から帰る。

 

 引き出しに仕舞いっぱなしというのは、なんだか負けたような気がする。

 そうだ、あいつは見かけは孫の手なんだ。

 だったら、孫の手として扱ってやれば『自分の本来の仕事は孫の手なんだ』と自覚するかもしれない。

 思ったら実行。

 孫の手の鬼の手を出して、襟首から突っ込んで背中を掻いてみる。

 ゾク(#゚Д゚#)

 痒くもないのに、孫の手が触れるとゾクっとする。

 プツン

 抜こうとしたら、ブラの後ろに引っかかってホックが外れてしまった(#^_^#)。

 クソ、やっぱりおちょくられてる。

 こういう時は、一人で思い悩んでもろくなことがない。

「ちょっと出かけてくる、お風呂掃除までには帰るから」

 リビングに声を掛けて、玄関にいそいだ。

『なんだ、やくも……』

『孫の手握ってましたねえ……』

 お爺ちゃんお婆ちゃんの声を背中で聞いて、わたしは二丁目地蔵のところに急いだ……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手
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魔法少女マヂカ・235『本命は野次馬の中に』

2021-09-25 09:17:27 | 小説

魔法少女マヂカ・235

『本命は野次馬の中に語り手:マヂカ  

 

 

 なんちゃら勇士!  怪力なんとか!  無双闘士なになに!  剛力なにがし!  なんとか烈女!  ブゥオイナ~  デストロイヤーなんとか!

 勇ましくも怪しげなリングネームがひしめいていたが、公園でデモンストレーションをやっている連中は浅草の見世物小屋の看板みたいな奴ばかりだ。昭和のプロレスのヒール役めいたコスやメイクは威嚇のためというよりは人目を引いて客を引き付けようという感じだ。

「こいつらは、ただのニギヤカシだな」

 ブリンダの言う通り、猛々しい出で立ちや掛け声のわりに、観衆はにこやかで面白がっている。

 トリャーー!

 犬の仮面をつけたやつが空中二回転、空中で決めポーズしたあとに蹴りの姿勢になる。

「試合でやったら、飛び上がった瞬間に蹴り倒されておしまいだ」

 旋風鬼女という女闘士は広げた腕を丸く抱えたかと思うと、コマのように旋回し始めた。

 勢いがあるので、落ち葉や埃を舞いあげて、竜巻のように勇ましい。

「コスの端を掴まれただけで転倒して一巻の終わりだね」

「あいつは、たぶん火を噴くぞ」

 ブリンダが嬉しそうに指さした男は、連続バク転のあと、見栄を切ってゴジラのように火を噴いた。

「すごい、あっちは、ゴリラそっくりだ!」

 大北京原人と名札をぶら下げた奴は、ウホウホと胸を叩くと、ゴリラそっくりに「ガオーー!」と吠えた。

「いや、あれは本物のゴリラだろ(^_^;)」

 公園の管理官のような男が出てきて、付き添いに注意している。

「公園に動物は入れるなと言ってるね」

「試合というよりは見世物という感じか……」

「こいつらは、ほとんど前座のパフォーマーでしょ……本気のやつらは野次馬の人垣の中にいる」

「だな……」

 

 ピーーーーーン

 

 意識を野次馬に向けたとたん、あちこちから殺気が返ってきた。

 五人……それ以上いるかもしれない。

 あるものは物売りのハゲチャビン、あるものは眼鏡の書生風、またある者はチャイナツインに髪を結った少女、船員風、中には一瞬のうちに殺気と姿を消した奴もいる。

「キャア、こわいい~」

 ブリンダがブリッコをかますが、ちょっと遅かった。

 同じ女学校の制服を着たアジア系とゲルマン系の少女が近づいてきた。

「あなたたち、魔法少女ね」

「「…………」」

 どストライクに突っ込まれて言葉が出ない。

「それも、21世紀からやってきた」

「でしょ?」

 逃げようと思ったが、ブリンダが前に出てしまった。

「だったら、どーよ?」

「フン」

「やっぱり」

「!」

「相手になっちゃダメ!」

「その声は……日本特務のマヂカだね」

 

 ゾワゾワア!

 

 四人の真ん中に旋風が巻き上がる。

 実力の伯仲した魔法少女が対峙すると、空間が張り詰めて局所的な竜巻や嵐を起こしてしまうのだ。

「おまえたちは!?」

 ブリンダの髪が逆立つ。

「プロイセン魔法少女のメルケルよ!」

「満州魔法少女の剣旋嬢!」

 くそ、こんなところで戦うわけにはいかないんだけど……。

 周囲の野次馬たちも、あまりの殺気に注目し始めている。

 仕方ない、公園の外にダッシュして、なるべく短時間で勝負をつけるか……

 

 ちょっと、あんたたち!

 

 人垣の向こうから声がした。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

  

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ライトノベルベスト・『男子高校生とポケティッシュ』

2021-09-25 05:54:14 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

 『男子高校生とポケティッシュ』 

 




 ボクは街頭で配っているポケティッシュを必ず受け取る。

 正確に言うと、無視ができない。

 ポケティッシュを配っているのは駅の入り口(出口でもある)商店街の入り口や、交差点。それも人の流れを掴んだ絶妙な場所に立っている。受け取らないようにしようとすると、かなり意図的にコースを外れなければならない。なんだか、それって露骨に避けているようで「あ、避けられた」と思われるのではないかと、つい前を流れのままに通って受け取ってしまう。友達なんかは、すごく自然にスルーする。まるで、そこにティッシュを配っている人間が居ないかのように。それも、とても非人間的な行為に思えてできない。

 子どもの頃は、ポケティッシュをもらっても家に帰ってお婆ちゃんにあげると喜んでくれた。お婆ちゃんは、家のあちこちに小箱に入れたポケティッシュを置いていて、みんなが使うものだから自然に無くなり、ボクがもらってくるのと、無くなるのが同じペースだった。

 だから、なんの問題もなかった。

 二年前にお婆ちゃんが亡くなってからは、そのサイクルが狂いだした。お婆ちゃんが亡くなってからは、ボクはポケティッシュを誰にも渡さなくなった。正確には忘れてしまう。お婆ちゃんのニコニコ顔が、ボクの脳みそに「ポケティッシュを渡せ」という信号を送っていたようだ。

 ボクがもらったポケティッシュは、カバンやポケットの中でグシャグシャになり、使い物にならなくなってしまう。

「もういい加減、この習慣やめたら」
 と、お母さんは言う。
「だって……」
「だって、あんた、時々ガールズバーとかのもらってくるんだもん」
「しかたないよ、渋谷通ってりゃ、必ずいるもん」
 お婆ちゃんは、こういうことは言わなかった。

 で、この治らない習慣のために『男子高校生とポケティッシュ』なんてモッサリしたショートラノベを書かれるハメになってしまった。
 ラノベと言えば、タイトルの頭に来るのは女子高生という普通名詞か、可愛い固有名詞に決まっている。「ボク」とか「俺の」とかはあるが、むき出しの「男子高校生」というのはあり得ない。

 そんなボクが、いつものように渋谷の駅前でポケティッシュをもらったところから話が始まる。

「おまえ、またそんなものもらってんのかよ」
「なんだか、オバハンみたいでかわいいな」
「てか、それガールズバーじゃんか」
「アハハ」

 そうからかって、友達三人は、ボクの先を歩き出した。ボクは、一瞬ポケティッシュをくれた女の子に困惑した顔を向けてしまった。コンマ何秒か、その子と目があってニコッと彼女が笑った……ような気がした。

 ドスン

 後ろで、衝撃音がした。

 振り返ると、友達三人が、バイクに跳ねられて転がっていた。ボクはスマホを取りだして、救急車を呼んだ。もしポケティッシュをもらわずに、三人といっしょに歩いていたら、運動神経の鈍いボクは、真っ先に跳ねられていただろう。

 警察の事情聴取も終わり、病院の廊下で、ボクは友達が治療され、家の人が来るのを待っていた。

 気づくと、ズボンに血が付いていた。「あ」と思って手を見ると、左手の甲から血が流れている。事故の時、小石かバイクの小さな部品が飛んできて当たったのに気が付かなかったみたいだ。リュックからポケティッシュを出して傷を拭おうとした。慌てていたんだろう、ティッシュの袋の反対側を開けてしまい、数枚のティッシュが、中の広告といっしょに出てしまった。我ながらドンクサイ。

 取りあえず血を拭って、廊下に散らばったティッシュと広告を拾った。

――当たり――

 と、広告の裏には書いてあった。

 三人とも入院だったけど、家族の人が来たので、ボクは家に帰ることにした。
 帰ると、お母さんが事情を聞くので、疲れていたけど、細かく説明した。ぞんざいな説明だと、必ずあとで山ほど繰り返し説明しなければならないので、お父さんや妹、ご近所に吹聴するには十分な情報を伝えておいた。ボクは、何事も、物事が穏やかに済む方向に気を遣う。

 部屋に入ってビックリした。

 女の子が一人ベッドに腰掛けていた。
「お帰りなさい」
 百年の付き合いのような気楽さで、その子が言った。
「ただいま……て、君は?」
「当たりって、書いてあったでしょ?」
「え、ああ、うん……」
「あたし、当たりの賞品」
「え……」
「長年ポケティッシュを大事にしていただいてありがとう。ささやかなお礼です」
 そう言うと、彼女は服を脱ぎだした。
「ちょ、ちょっと」
「大丈夫、部屋の外にには聞こえないようになってるわ。時間も止まってるし、気にしなくていいのよ」
 そう言いながら、その子は裸になって、ベッドに潜り込んだ。
「あ……そういうの」
「ダメなの……?」
「あ、ごめん……」
「フフ、君ってかわいい……いい人なんだね」
「どうも……」
「じゃ、三択にしましょう。①・一晩限りの恋人。当然Hつき。②・一年限定のオトモダチ。ときどきいっしょに遊びにいくの。➂・取りあえず、一生の知り合い。さあ、選んで」

 こういうときは、ボクは、一番消極的なものを選ぶ。

「じゃ、取りあえず知り合いってことで……」
「わかったわ」
 そういうと、脱いだ服をベッドの中で器用に着て、部屋を出て行った。

「じゃ、またね」
 それが最後の言葉だった。

 明くる日、電車の中で気分の悪くなった女子高生を助けた……というか、気分が良くなるまで付き合った。
 それがきっかけで、ボクは彼女と付き合い始め、五年後には結婚することになった。

 誓いの言葉を交わし、エンゲージリングをはめてやって気が付いた。

「ね、一生の知り合いよ。なにもかも知り尽くそうね」と、彼女が言った……。

 

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せやさかい・246『二日遅れの名月』

2021-09-24 11:03:07 | ノベル

・246

『二日遅れの名月』頼子      

 

 

 不覚にも笑みがこぼれてしまった。

 

 サッチャー女史が来られなくなったのだ。

 憶えてるわよね?

 ヤマセンブルグでの、わたしの教育係り。

 本職は女王のメイド長。実質秘書と言ってもいいんだけど、本人はプライドを持ってメイド長と称している。

 一昨年ヤマセンブルグに行った時から、その肩書に『プリンセス教育係り』というのが付け加わった。

 わたしは日本との二重国籍なので、正式にプリンセスになってからなんだけどね。まあ、一つには、そういう風に外堀を埋めていって、わたしが日本国籍を選んだりしないようにって布石。

 宮廷内でも、サッチャー女史を教育係りにすれば、ひょっとして彼女が日本に行ってしまうんじゃないかという期待もあったみたい。

 彼女が傍にいないとお祖母ちゃん(女王)は、なにかと不便なので、実際に付いてきたのは、ご存知のソフィー。

 で、まあ、コロナの影響で領事館住まいを余儀なくされてるんだけど、楽しい高校生活を送らせていただいています。

 でも、無駄に責任感が強いサッチャー女史は「鉄は熱いうちに打て」とばかりに、この夏から大阪に来て、わたしをイジメる気満々だった。

 それが、直近のPCR検査で陽性になってしまった!

 本人もお祖母ちゃんもワクチン接種は終わっているので、大事になることはないんだろうけど。二週間の隔離のうえ、日本行は流れてしまった。

「残念なことに、イザベラ(彼女の本名)さんは来られなくなってしまいました」

 そう告げた総領事の頬は緩んでいて、わたしに伝染してしまった。そうよ、伝染よ! 私が最初に笑ったわけじゃないからね!

「国内的にもいろいろありますので、とりあえず、イザベラさんの来日は白紙ということになりました」

「まあ、白紙なの、それはそれは……」

「まことに残念です」

 お互い顔を伏せて残念がる。だって、顔を見たらお互い笑い出すの分かってるからね。

 

「殿下」

 

 部屋に戻る廊下でソフィーが呼び止める。

「なに?」

 振り返ると、ポーカーフェイスのまま、胸元にカードを掲げている。

「ん?」

 名刺大のそれに顔を寄せると、ソフィーもズイッと突き出す。

「え、免許とったの!?」

 それは、日本の免許証とは、ちょっと異なる国際免許だ。

 コクンと一回だけ頷く、わがガーディアン。

「ソフィアって(思わずキチンと呼んでしまう。普段は相性のソフィーなのにね)18歳だったの!?」

 学校では同じクラスなので、てっきり同い年かと思っていた。

「女性に年齢を聞いてはいけません」

「アハハ、そうなんだけど、わたしの周囲って謎の人物多すぎ」

 いつのまに取ったんだろう? たぶん、こないだまでの学年閉鎖の間に違いない。

「二日遅れですが、中秋の名月見に行きましょう!」

 

 ソフィーもサッチャー女史の来日が流れてアグレッシブになっているようだ(^_^;)

 

 たとえ中秋の名月でも、月は月でどこから見ても同じなんだろうけど、やっぱ、領事館の庭よりは、日本建築のほうがいい。

「やあ、いらっしゃい!」

 墨染めの衣で出迎えてくれるテイ兄さん。

 本堂の縁側におしるしのお団子のほか、女子会には欠かせないスイーツのアレコレを並べて、微妙に欠けている満月を愛でる。

「キチンとお月見するなんて初めてです!」

 一番感激しているのは、文芸部の最年少の夏目銀之助少年。

「これで、マスクかけなくていいんなら、文句なしなんですけどね」

 情緒を大事にする留美ちゃんは、ちょっとだけ残念そう。

「せやけど、お寺やから、ソーシャルディスタンスはバッチリでしょ!」

「そうだね」

 一般家庭だったら、まだ正式には緊急事態宣言も解除されていないので無理だったろうね。

「行楽地も、あちこち人出でいっぱいだったらしいから、こういうのっていいんじゃないかなあ」

 詩さんも縁に後ろ手突いてしみじみしている。この、中学と高校の先輩である詩さんは、年ごとに綺麗になっていく。

 月を見上げる横顔の顎から喉元にかけての線が、とってもいい。

 さくらは、さくらなりの……えと……魅力があるんだけど、この従姉女史の美しさは格別だ。

「なに見とれてるんですか?」

 う、さくらは目ざとい。

「月よ、月」

「ほんとうに月がきれいですねえ……!」

 感極まった感じで、横に座った銀之助が呟く。

 ちょっと返事に困る。

「ぎ、銀之助少年、それは、口説き文句やぞ!」

 テイ兄さんが、言わずもがなを叫ぶ。

「え、え、あ、あ、そんなんじゃないんです(;゚Д゚#)!」

 純情な中坊が、空気をかき回すように手を振ってアタフタ。

 初めて運転を許されたソフィーも明るく笑っている。

 あのサッチャー女史がいたら目を剥いて怒っていただろうね。

 

 鬱々とした毎日だけど、今年は、いいお月見ができた。

 めでたしめでたし(^▽^)

 

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