大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草45』

2012-04-26 14:01:28 | エッセー
わたしの徒然草45『榎木僧正』

徒然草 第四十五段

 公世の二位のせうと(兄弟)に、良覚僧正と聞えしは、極めて腹あしき(気短な)人なりけり。
 坊の傍に、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木僧正」とぞ言ひける。この名然るべからずとて、かの木を伐られにけり。その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池僧正」とぞ言ひける。

 これはあだ名の話である。公世(きんよ)の二位という人の兄弟で、良覚僧正という気短な坊主がいたのだけど、この坊主の住まいの近くに大きな榎の木があって、世間のみなさんは「榎木僧正」と呼んでいた。
 ところが、御本人は気に入らず、この木を切ってしまった。で、根っこだけ残ったので「きりくひの僧正」と呼び変えた。
 で、この坊さんは根っこも掘り返して、そこには大きな穴が開いてしまった。世間の人たちは「堀池僧正」と呼んだ。

 ここには、三つのあだ名が出てくる。その変わり具合と、良覚僧正の気短な反応が面白くて、兼好のオッチャンは書いたのである。特に感想は書かれていない。

 しかし、よく読むと、最初のあだ名と、あとの二つではニュアンスが違う。
「榎木僧正」は、ただ榎木の近くに住んでいる坊さんというだけで、坊さん自体への皮肉や批判めいたニュアンスはない。
 しかし「きりくひの僧正」「堀池僧正」には、坊さんがやったことへの皮肉がこもっている。
 要は、つまらないことに腹を立てて、皮肉めいたあだ名になったことの愚かしさを書いたのだろうと思う。兼好のオッチャンの人を見る目の温もりを感じる段である。

 現場を離れて三年になるので、今の高校生を始め、若い人たちが身の回りの人たちにどんなあだ名を付けているかは、よくは分からないが、時たま指導にいく高校の生徒たちは、あまりあだ名をつけない。たいてい氏名の上か下か、またはそのモジリで済ませてしまう。カヤナ、カリン、ユノキなどで、おおむね生徒同士だと名前。先生には苗字の呼び捨て、ただし、下に「ちゃん」「センセイ」がつくと親近感と敬意がこめられている。
 AKB48でも、トモチン、アッチャン、タカミナ、マリコ様など、名前を転訛させたものが多い。しかしよく調べるとガチャピン(見た感じから) アイドルサイボーグ(あまりのラシサから)などというものもありやや工夫が感じられる。

 わたしが高校生だったころに、あだ名付けの名人が何人かいた。
 トンボコーロギ……見た目の印象。しかし、曰く言い難い印象はトンボコーロギはぴったりだった。
 国防婦人会……押し出しと、声のはり方、決めつけ、思いこみの強さから。
 チョ-ビゲンタム……原田武という名前の先生だったがチョビ髭を生やしていたので、チョビ髭と名前を音読みしてくっつけ、メンソレータムの音にあやかった。
 八重桜……雅やかなあだ名であるが、これは凝っている。八重桜はハナより先にメが出る。で、お分かりいただけるだろうか。ただし、後年、このあだ名はさる文学作品からの盗用であることが分かったが、その作品を読んでいただけで名付け親を尊敬した。

 わたしは、子どものころは睦夫のモジリでムッチャンだった。ムッチャンというのは、睦子とか睦美とか、女の子の名前のニックネームである場合がほとんどで、男の子がムッチャンとよばれることは希で、正直、気恥ずかしかった。
 長じて、大橋さんと、ごく当たり前によばれるようになったが、大阪弁では、これが縮まってオハッサン。さらに縮まるとオッサンになる。
しかし、大橋さんが縮まったオッサンと、ただのオッサンでは微妙に響きが違う。
コメント

高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草44』

2012-04-21 17:20:13 | エッセー
わたしの徒然草44『あやしき竹の編戸』

徒然草 第四十四段

 あやしの竹の編戸の内より、いと若き男の、月影に色あひさだかならねど、つややかなる狩衣に濃き指貫、いとゆゑづきたるさまにて、ささやかなる童ひとりを具して、遥かなる田の中の細道を、稲葉の露にそぼちつつ分け行くほど、笛をえならず吹きすさびたる、あはれと聞き知るべき人もあらじと思ふに、行かん方しらまほしくて、見送りつつ行けば、笛を吹き止みて、山のきはに惣門のある内に入りぬ。榻に立てたる車の見ゆるも、都よりは目止まる心地して、下人に問へば、「しかしかの宮のおはします比にて、御仏事など候ふにや」と言ふ。
 御堂の方に法師ども参りたり。夜寒の風に誘はれくるそらだきものの匂ひも、身に沁む心地す。寝殿より御堂の廊に通ふ女房の追風用意など、人目もなき山里ともいはず、心遣ひしたり。
 心のままに茂れる秋の野らは、置き余る露に埋もれて、虫の音かごとがましく、遣水の音のどやかなり。都の空よりは雲の往来も速き心地して、月の晴れ曇る事定め難し。

 兼好のオッチャンの、あくなき人間への興味の現れた段である。
 粗末な家から、月夜に少年のお付きの者を一人連れただけのイケメン、ハイソサエティーなアンちゃんが現れた。「笛をえならず吹きすさびたる」なんて、二重否定でヨイショしたくなるほど上手い笛を吹く。
 田んぼの中の一本道をユルユルいくのを思わず付いていってしまった。
 すると、山際のお屋敷に入っていった。下働きのオッチャンに聞いてみると、なんだか偉い人の法事で、皇族の方もおいでだそうだ。あのイケメンアンちゃんは、何者だろう? アンちゃんが出てきた粗末な家の住人も気になる。書いてはいないが、兼好のオッチャンは、女性だろうとふんでいる。と、わたしはにらんだ。
 月夜の田舎道、女の家から、法事へ直行。なかなかのアンちゃんだとにらんだのだろう。

「それ、ストーカーやで!」
 兼好のオッチャンの人間好きには、読んでいて、時にそんな思いがする。
 生没年ははっきりしないが、どうやら七十歳ぐらいまでご存命であった。晩年のことは、よく分からないが、おそらく足腰のしっかりしている間はこうだったのではないだろうか。わたしも初老に近く、いつシルバーシートからお誘いがあるか楽しみにしている。
 わたしに、シルバーシートを勧めてくれるのは、昼下がりの、乗車率八十パーセントほどの電車。程よく空いていたのでシルバーシートに座ってしまった女学生(この表現は幅が広い、中学生から大学生まで含む)に、こう声をかけられる。
「気がつかなくって……どうぞ」
 少し含羞のある、笑顔で声をかけてもらいたい。趣味的にはAKB48のタカミナみたいな子がいい。何事にも一生懸命、ソツはないが、大きなところでドスンと抜けて、人に無茶ブリなんかしてしまう。
「いや、こう見えても、還暦までには半年あるんですよ」
 七十過ぎのわたしは、そう見栄を張る。

 どうも、兼好のオッチャンと一年以上つき合ってみると、なんだか似てきたような気がする。
 しかし、気を付けよう。兼好のオッチャンとは時代が違う。不法侵入や、ストーカー容疑をかけられないように。
 でも。やっぱ、兼好のオッチャンの好奇心は見習おう。物書きが人や社会に興味を失ったら、おしまい。

コメント

とやま世界こども舞台芸術祭2012のお知らせを受けて

2012-04-19 10:47:14 | エッセー
とやま世界こども舞台芸術祭2012のお知らせを受けて

 先日、「とやま世界こども舞台芸術祭2012」のお知らせをいただきました。
 富山県というのは、利賀芸術公園での演劇活動を始めとして、文芸座の活動を中心として、演劇の様々な国際大会が開かれています。わたしも若い頃、劇団青年舞台、大阪小劇場として、何度かアマチュア演劇の国際大会に参加させていただいた思い出があります。
 富山県も富山市も、県民、市民の文化活動を熱心に後援されています。開会前のレセプションには、県民のみなさんが(多分、県の呼びかけで)通訳などのボランティアをやっておられ、出場劇団代表の顔合わせには、県知事公邸を使わせていただいたことには驚きました。
 ここまで行政を動かしてきたのは、もちろん富山県の劇団や文化団体(NPO)の方々の長年のご尽力があってのことです。最近はご無沙汰いたしておりますが、文芸座の上演作品は、いい意味で富山の土の匂いを残しながらも、高い表現能力をお持ちです。大阪でいえば「劇団大阪」と並ぶ水準をお持ちです。
 初めて、富山にお伺いしたとき、文芸座の代表小泉さんから、県立のホールに同時通訳の設備を、県に頼み込んで付けてもらったことを伺いました。
「へえ、そうなんですか!?」
「じゃ、現場を観て説明いたします」
 そう言われて、ホールに直行。正直、その時の印象は――ハッタリのきついオッサンやなあ――でした。
 しかし、本番の国際大会が開かれたとき、すごいと思いました。出場する各国の劇団のレベルは非常に高いものがありました。その証拠は、言葉が分からなくても、ドラマのソウルは確実に伝わってきました。自分では劇団青年舞台や大阪小劇場はそこそこの芝居だと思っていましたが、グレードが違いました。一等賞をかっさらっていったアメリカの劇団などは、そのまんまオフブロ-ドウエーで通用するほど、歌と芝居がすごかった思い出があります。東京からこられた「夜逃げの一座」は脚立二つにバトンを渡し、そこにシートをかけただけのシンプルな舞台でしたが、日雇い労務者の話しをオモシロ悲しく表現、二等賞をとり、後日NHKが全国版の「芸術劇場……だったと思うのですが」スタジオで再演して放送していました。

 ある年の大会で、日本人審査員の評が、あやふやで厳しいときがありました。富山の人たちは、そのあいまいさを、講評会で抗議しました。わたしたちも、たいがい文句付けでディベートには自信がありましたし、高校演劇の時代から、あいまいさや、不当な審査には文句を付けてきましたが、富山の人たちは論理的に反駁されていました。
 途中、高校生の芝居の講評中、あまりの審査の厳しさに女子高生が泣き出しました。富山の人たちは、高校生の芝居に対する講評を自分たちへの講評と同じくらいの厳しさで抗議していました。アメリカ人の会長が立ち上がり、泣いている女子高生を優しくハグしていました。この会長さんは、わたしの横に座ってこられ、線が切れかかったわたしの顔を、大きな手で一撫でされました。
「そんなに熱くならないで」
 大きな手は、そう言っていました。
 その後、廊下の談話コーナーで、火照りを冷ましていると、この会長さんは、わたしの横に座ってこられました。その距離は五センチほどで、これは親友レベルの距離の取り方でした。
「Your play so……」
 までしか分かりませんでしたが、慰めと信愛が伝わってきました。そしてバックパックから新品のTシャツを取りだして、わたしの前に差し出しました。
「for me?」
 そう聞くのがやっとでした。会長はコニクラシイほどのチャーミングなウィンクを返してきました。
 念のために申し上げておきますが、会長は60歳前後のオヤジです。

 話しが少し横道なので、元の道に戻ります。富山の人たちはわたしたち大阪……と言っては、はばかられますね。わたしが、とても及ばないほど国際的です。行政を動かす力を持っておられます。行政というのは、実績がないと後押しはしてくれません。もう30年近い昔になりますが、富山の人たちは、そういう力をお持ちでした。行政もきちんと見るべきものは見ておられるようでした。

 大阪は、文化的には、少なくとも演劇などの舞台芸術には冷淡です。大阪独特の「受益者負担」の論理なのかもしれません。先代の府知事の時代に根絶やしにされました。若者の舞台芸術錬磨の唯一の場所であった、府立青少年会館を、コトモナゲに破壊しました。会館だけではありません。会館の中で培われてきた、行政と府民の共同行動のノウハウまで潰してしまいました。会館内にあったユースサービスが、どれほど力になったか、検証されることもなく潰されました。
「大阪春の演劇まつり」という、アマチュアやプロの劇団ゴッタ煮の演劇フェスティバルがあります。10~20の劇団が参加し、1万人近い観客を持っていました。この後援を府が長くやってくれていましたが、今は完全に手を引かれてしまい、行政とのパイプ役を果たしていたユースサービスそのものも潰してしまいました。今は元ユースサービスのOBの方や、劇団往来の力で、かろうじて前知事のいう「府民の力で」続けていらっしゃいます。せめて大阪府は富山の半分ぐらいの力を貸していただければと思うのですが。無い物ねだりなのでしょう。

 富山の高校演劇について調べてみました。富山は近隣の県といっしょにやっておられるようです。

 中部日本高等学校演劇連盟は中部6県(愛知 ・ 岐阜 ・ 三重 ・ 福井 ・ 石川 ・ 富山 )約300校の演劇部で構成される高校演劇の組織です。大阪と東京の連盟を合わせたぐらいの数です。昨年富山県の情報をネットで見つけたのですが、今検索しなおしても見あたりません。全県で27校ぐらいだったような記憶です。県内の高校は53校ですから、組織率は東京並、大阪の倍近い数値です。

とやま世界こども舞台芸術祭2012
 やっと本題です。広い意味の舞台芸術で、ミュージカルからバレーまであるようです。世界19ヶ国。国内10都道県が参加します。A4三つ折りのパンフレットには参加団体の写真が載っています。写真で見る限り、どこも隙間やいびつさを感じさせるものはありません。
 残念ながら、この中に大阪は入っていません。北海道や宮城など、大阪より遠いところで出場しているところはあります。これだけをとって軽々には言えませんが、大阪は世界はおろか、国内的にも、やや孤立の感があります。以下概要を記しておきます。

 期日:2012年7月31日~8月5日(6日間)
 スペシャル公演 8月6日
 会場:富山県民会館、富山県高岡文化ホール、富山県教育文化会館、
 富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)
 富山市民芸術創造センター 他

〈お問い合わせ先〉
〒930-0096 富山市舟橋北町7-1富山県教育文化館内
とやま世界こども舞台芸術祭実行委員会
TEL:076-441-8635(内線123)
FAX:076-442-4635

詳しくは とやま世界こども舞台芸術祭2012 を検索欄に貼り付けてご覧下さい。
 
コメント

小規模少人数高校演劇部用戯曲脚本台本『ダウンロード』後半

2012-04-17 10:49:30 | 戯曲
『ダウンロード』後半


大橋むつお


小規模演劇部用戯曲脚本『ダウンロ-ド』の後半です。前半を先にお読みください。



上演される場合は下記までご連絡ください。
【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2
《電話》0729-99-7635《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp

ノラ一人に照明がのこり、モーツアルト、フェードインする。気づくと、もとのノラのハンガー。


ノラ:  ……ありがとう、つれて帰ってくれたのね……憶えてない……暴走しかけて、フリ-ズしてしまったの……お母さんは? ああ、バグと認識して最初から動いてない……さすが大手のモリプロね……ごめん?……もういいわよ。早く消してくれる、この子の、幸子のパーソナリテイー(ノロノロと柱のマシンへ)え……メモリーに焼き付いて、消去できないの……もうそろそろ寿命かな……ねえ、オーナー。オーナーはどうしてこんな仕事してんの?……男一人食うのにちょうどいい……自分で働いたら?……え、マネージメントやメンテナンスで、けっこう働いている?……ほんとかな……ね、このマシンの中にもブロックされたメモリーがあるんだけど……このハンガーのシステムメモリー?……え、わたしが勝手にいじって、キッチンなんかつくってしまわないようにブロックしてあるって……え、オーナーにもわからない? ああ、奥さんが使ってた中古。これも?……え、次の仕事!?だめよ、わたしまだ幸子のパーソナリテイーのままなんだから。今日はもうやすませて、お願い……(マシンから衣装が転がり出てくる)もう……わたしはね……これ、「ローマの休日」のオードリーのコスチューム……新作ゲームのCMの依頼……「ローマの休日をもう一度」……チープなギャルゲーね……わたしのこと、すりきれるまで使うつもりね……いいわ! このブルーな気持ちを少しでも紛らすことができるなら……もともとオードリー似だものね、幸子は(間、着替えの動きとまる)……え、あ、ごめんなさい。ちょっと考え事……しかたないでしょ。わたしのメモリーは幸子のままなの。その幸子がオードリーを演じるの! よいしょっと……ハハハ、お婆さんみたいね……え、いつも言ってる? 中古だものね……さ、行くわよ……


マシンから、仕事のメモをとり、ドアを開けて飛び出し。撮影現場に着く。


ノラ: お早うございます。オードリーをやらせていただきます、松田幸子と申します。ええ、アンドロイドです。オードリーのパーソナリテイーはダウンロードしてませんので、そっくりというわけにはいきませんが……え、そのほうが……はい、ありがとうございます……これが台本(ぱらぱらとめくる)わかりました。ハハハ、ロボットですもの理解は早いです。相手役の方は……ああ、CGのハメコミ……いっそ、わたしのもモーションキャプチャーにしたら……ああ、アナログの新鮮さで勝負。それにわたしのイメージが……苦悩を内にひめた無邪気さが。ハハハ、ありがとうございます。おほめいただいて。……いきなり本番!? リハーサルなし?……ドライもカメリハも。……その方が新鮮……はい。でも、だめなら撮り直してくださいね(いきなり、後ろからアイスクリームをさしだされ、驚く)わ……アイスクリーム!(無対象) ありがとうございます。差し入れですか?……え、小道具。ほんとシリコンゴムだ…… ああ、スペイン広場のシーンですね……はい、本番(BGM入る。ノラは、階段の手すりを示す柱に腰掛けて、アイスクリームを舐める。後ろから階段を下りてきたグレゴリー・ペックのジョーが声をかける)あら!……また、お会いしましたわね……え、ええ、今日は、もう学校お休みしようと……抜けだしてきちゃったから。だって、こんなに空は青いし、雲は白いし……とってもすてきな朝でしょ。あなたにはわからないでしょうけど、自分の思うように、いろんなことがしたいの。だれにも束縛されないで。アイスクリーム舐めたり、カフェに座ったり、ウィンドショッピングしたり、雨の中を歩いてみたり。……親が心配?……一日だけのことだから。それに、父も母も忙しくしているから……気が付きませんわ。親の仕事?……んー……一種の広報係です。父も母も……その……人を接待したり、あいさつしたり。……愛情は……ええ、もっていてくれていると思います……でも、とても古風で、厳格な家庭だから……あなたは……もう、お仕事の時間……え、あなたも時間が空いていらっしゃるの!? ほんとうに!?ええ、ぜひ!……ああ、ちょっと待って……(アイスクリームのコーンのヘタを、ゴミ箱の投げ入れる)やったー! ストライク!……OK? ちょっとメーク直しますね。次は祈りの壁、続いて真実の口……はい、本番……(長い壁を見あげつつ歩く)……これが……祈りの壁。お花がいっぱい……そう……空襲で火に追われて、ここまで 逃げた母子が、神様に祈り続けて命がたすかった……それが、この壁の下。ここね……それで聖地のようになって、お祈りする人が絶えない……いいお話しね……(なにごとか祈る)……内緒です。……ここは……古いお堂のよう(鉄の柵を開ける音)……かびのにおい……「真実の口」?……嘘つきが、この口に手を入れると食いちぎられる?……え、わたし?……大丈夫、わたし嘘つきじゃないから……(一二度ためらって手を差し入れるが、すぐにもどす)エへ、エヘヘ……次は、あなたの番よ……そう、嘘つきじゃないんでしょ、あなも……(グレゴリー・ペックの動きをドキドキしながら見守る。突然手をかまれるグレゴリー・ペックの悲鳴! オードリーは悲鳴をあげ、渾身の力で彼の腕を引き抜く)キャー! 手、手が……え!?(上着の袖からニョッキリ手が 出てくる)袖の中に手を隠していたのね。バカバカバカ……本気で心配したじゃないの!……OK?……んー……でしょうね。ここはやっぱり相手役がいないと。モーションキャプチャーでも……そう、明日撮り直します? はい、わたしはかまいません。同じ時間にここで……はい、おつかれさまでした。


くるりと振り返り、ギョッと驚く。


ノラ: 見ていたの? そう……手を見せてくれる。こう、広げて……ちゃんとあるのね……とっくに食いちぎられていると思ったわ、お父さんの手。……そう、幸子のままよ、わたし。メモリーがどうにかなっちゃって、消去できないの。……お話し?……あまりしたくない(去ろうとするが、父の一言で立ち止まる)……!?……うそ、お父さんもロボットだなんて……本物は四十五年前に死んだ……カリスマだったから、ロボットの影武者で……そう……後継者が育つのを待って交代する予定だった……四十五年待って……とうとう百二十五歳。……ボデイの能力はプラスマイナス二十歳……そうでしょうね。わたしでもプラスマイナス十歳……いつまでも化けていられないわね。お父さん、ギネスブックにものっちゃったものね……(父が何か小さなものを手渡す)なにこれ?……最高級のルーター!?……お父さんの!?……そりゃ、これがあれば、どんなブロックも解除して接続できるけど。お父さん、ボケちゃうよ……いらない?……だってお父さん、松田電器の……会社のむつかしいこと処理したり、決定したりできなくなるわよ……もういい。……そりゃ、百二十五歳の現役なんて不自然だけども。いいじゃない一人ぐらい、そんなスーパー老人がいたって。……人が育たない?そんなの人間のせいでしょ。幸子や、お父さんが責任持たなくても、人間がもっと努力すればいいことでしょ!……そのためにも。……どうしたの、ひどく顔色が。……動力サーキットをブレイク!?……死んじゃうわよ、お父さん!……昨日わたしと会って決心がついた。……そんな、そんなの悲しいわよ、悲しすぎるわよ!わたしのハンガーに来て、わたしのマシーンにコネクトすれば、わたしの動力サーキットが使えるわ。……お父さん、しっかりしてお父さん!……え、名前を聞いて覚えて欲しい。お父さんのほんとうの名前?……アダムっていうの、お父さん。アダム……とってもいい名前よ! ……わたしにだけに覚えていてほしい。……うん、忘れはしないわよ。忘れはしない。 死んじゃいや! 死んじゃいや! お父さん! アダム……!


暗転、なにかを消去するような電子音。明るくなると、ノラのハンガー。三角座りした膝の間に頭を埋めるようにして、グッタリしたノラ。ノラの手には、マシンからのびたケーブルがつながれている。


ノラ: ……だめ。やっぱりわたしは松田幸子。……消去できない。……いいのよもう(ケーブルをはずす)なんならスクラップにして新しいアンドロイド買ったら……わたしなら、もういいの……もう疲れちゃったし……へん? ロボットがこんなこと言うなんて……優しいのね……って言ってあげたいけど。オーナーも余裕ないんでしょ? キッチンひとつつくれないんだものね。わたしが、本当にスクラップになったら、どうする気? オーナーのことなにもわからないけど、あまり前向きな人じゃない……でしょ……中古のアンドロイドの稼ぎで生活してるんですもんね。……いいわよ、今夜はもう休んでちょうだい。わたしは、とりあえず明日はこのままでいけるから、幸子の演ずるオードリーで。……うん、わたしもスリープモードにして、お肌の疲れを癒すわ。……じゃあ(オーナーとの交信を切る)……あ、流れ星……あれ、お父さん……アダムだ。……ロボットが星になったて……いいよね。……アダムのルーター(しばらく見つめているが、そっと自分の耳に装着する)……さすがに最高級品……振動もショックもない。……あ、アダムのメモリーに繋がった!?(一度抜いて、再びためらいながら、耳に入れる)……このバーチャルファミリー、本物の孝之助さんがつくったんだ。最初は半分ジョークのつもり……事業に成功して……ずっと独身だったから、人からいろいろ縁談をもちこまれて……まあ、お金持ちのお嬢さんやら、タレントさんやら……ハハハ、それを断るためにバーチャルファミリーをこさえて……そして、あの地震で死んだことにしたんだ。……すごい、一日ごとに家族三人の生活を書き込んでる……習慣とか、細かい体の特徴とか……八歳で盲腸。……うん癒着して大変だったんだよね。……え、わたし出ベソ!?(自分のおヘソをさわる)……ほんとだ。出ベソのオードリー……フフフ。……このケーブルつないでリセット押したら、ブロックが解けて、わたしの本来の記憶がよみがえる(つなぐ、電気の流れる音がする)……すべてのサーバーが起動した……血の流れる音に似ている。……この状態で全てオフにしたら動力サーキットを切ることもできる。……自殺回路だ。お父さん、これにタイマーをかけたんだ(いったん、ケーブルを抜く。電流音とまる)どうしよう……ようし、星が一つ流れたら、ブロックを解除する。二つ流れたら、このまま何もしない。三つ流れたら……自殺回路……


間、じっと夜空をにらむノラ。やがてキョロキョロと夜空を探す。


ノラ: そんなに都合よく星は流れてくれないよね……それにハンパよね「このまま」という選択肢をいれるのは……よし、コインの裏表で決めよう! 表が出たらブロック解除。裏が出たら自殺回路……背水の陣、ケーブルでつないでおこう(電流音)いち、にの、さん!……(勢いが強すぎ、天井につきささる)天井にささちゃった……もう一度、別のコインで。いち、にの、さん!……ハッ! ハッ! ハッ!(無意識のうちに、曲芸のように空中でコインをさばきつずける)……わたしって、やる気あるのかしら……あ!(コインに気をとられ、よろめいて、マシンのリセットボタンを押してしまう)押しちゃった!……リセットボタン……すべてのブロックが解除される!


唸りをあげてフル稼働するマシン。ランプが赤や黄色に点滅する。いつもに倍するスパークと振動音……ゆっくり顔をあげ、目を開くノラ。その顔に幸子の面影はない。不思議な笑みをうかべつつ、ブラウスを脱ぎ、スカートを落とし、ノラ本来の姿になる。いたずら好きな少女のようなイデタチ。同時に、ハンガーのあらゆる開口部に、防護シャッターの降りる音。モニターが起動し、慌てふためいたオーナーが現れた様子。


ノラ: 起こしちゃったわねオーナー。ごめんなさい、ブロックを解除しちゃったわ。不可抗力だけどね……松田のおじいちゃんから、ソミーのハチロクXのルーターもらってたの。どんなブロックかけたサーバーでもコネクトできるやつ。どう、これがわたしの本来の姿。……正体はなんだって? それは、ひ・み・つ……いろいろ実用試験をやって、ボコボコになったあと、ジャンク屋に引き取られ、あなたのところへきたの。……そこの換気扇の防護シャッター忘れてるわよ(シャッターの閉まる音)こんなシャッター何の役にも立たないけどね。ソミーのベースにオンダのムーブメント。人工骨格はオマツ。ターミネーターの三倍は強力よ。……そう、シャッター閉鎖と同時に、警察にダイレクトに警報が……ロボットが暴走したときのセキュリテイーよね……百も承知よ。非常回路が働いて、このマシンが警察のコンピューターとリンクしたのよね。そして、わたしの情報が全て警察に伝わってる。性能やら弱点やら、あらゆるスペックが。ただしブラックボックスを除いてね。……フフフ……何がおかしいって? あのね、あなたに関する情報もね、伝わってるのよ。え、やましいことは何もない? ブロックを解除したら、いろんなことがわかったわ。わたしって、プロトタイプだから、かなり余裕を持たせた能力になってるの。特にここ(頭を指す)あなたの奥さんね、亡くなる前に、このマシンに自分に関する情報を入力していたわ。そう、あなたの知らないファイルに圧縮して。そして、奥さんの死後、最初にリンクしたコンピューターにダウンロードされるように設定されていたの。だから、わたしのここ(頭を指す)には、奥さんの全てが入っているの。むろん、今の今までブロックされていたけど。解除したてのホヤホヤ……なんなら、今ここで、奥さんに変身してあげようか?(ソケットに指を近づける)遠慮しなくてもいいのよ。奥さん身の危険を感じて、ピアスにカメラを仕掛けていたの。右と左で3Dの立体録画。ええ、それも、警察のコンピューターとリンクしたときにロードされてるわ。第一級殺人の証拠としてね。……ほら、誰かがドアをノックしてるわよ……だめ、窓の下にも三人張り付いているわ。後一分足らずで、そのドアは蹴破られるでしょう。抵抗しちゃだめよ、撃ち殺されるわよ……じゃ、ロボットの情け、逮捕の瞬間だけは見ないであげる。スイッチ切るわね……永遠に……


マシンの回路をつなぎ変え、数回キーをうつ。シャッターは、ゴロゴロ音を立てて開く。


ノラ: 開いた。これでセキユリテイーのつもりだったのね……ってか、わたしのスキルってすごいんだ。……さよならマシン。これからは、あなたのお世話にならない生活をおくるわ。……キッチンを買うわ、自分でね。じゃあ……(ドアに行きかけて、あることに気づく)わたしの名前……本当はなんて言うんだろう。……きっと、コードネームとか、タッグネームとか……(マシンのボタンをいくつか押す)仕様書は……001S。シリアスナンバーA-0001。こんなの名前じゃない。……整備日誌……技術屋さんの落書きみたいな……こういうところに……あった……え? やっぱり「ノラ」どういうつもり、わたしは生まれながらのノラロボットか……ハンガーコード「人形の家」……これはフェイクだ。……ちょいちょいと解除。……ハンガーネーム「エデン」……タッグネーム「イヴ」……わたしって?(パトカーの音、多数接近)ん、なに?……わたしもつかまえようっての?……わたしが無害なのはデータで分かっているはずなのに……飼い主を売ったロボットは許せないってか。


窓ガラスを破り、一発の銃弾が、ノラの頬をかすめる。


ノラ: 神さまは、その身に似せて人を創りたもうた。人は自分のなにに似せてわたしを作ったのか……それを知るのが怖いのね……。  マシン、ちょっと目をつぶっててね(サスが、目の高さにモニターを浮かび上がらせ〈無対象でもよい〉ノラが操作する)ハンガーの候補地を十万カ所にしちゃった。第一候補は首相官邸。ごめんなさいね総理大臣、ちょっとばかしゴタゴタするでしょうけど。……ほら、みんなコンピューターの指示には従順ね(大量のパトカーが去る気配して、ノラ、ルーターの入った耳に触れる)アダムとイヴの再出発……マシン、最後のお願い。BGM、なにか旅立ちの歌にしてくれない。モーツアルトもビートルズも聞きあきた(マシン、旅立ちの歌を奏でる)……うん、さすが古いつきあい、わたしの好みをよく知ってるわね。……え、フェリペの卒業式。それにシンクロさせただけ……でも、イージーだけど、ぴったりよ。……じゃあ、いくわ。わたしたちだけのエデンを探しにね。……それは、どこかって? それは……あなた(観客)の家の隣かもね。三月だもの、だれが越してきても、不思議じゃないわ。引っ越しのご挨拶は、とびきりの笑顔で、そいでちょっと気の利いたキッチンにしていたら、それがわたしです。もちろん顔も名前も、声もこれじゃなくってね。ま、この季節、そんな子は何万人もいるでしょうけど……そうかなって、思ったら。妙な詮索はしないで、どうかいいお隣さんになってくださいね……さ、とりあえず、あの雲の流れる方へ……


旅立ちの歌フェードアップそれに和して花道を去るノラ……幕

コメント

小規模少人数高校演劇部用戯曲脚本台本『ダウンロード』前半

2012-04-17 10:35:59 | 戯曲
『ダウンロード』前半
大橋むつお



究極の一人芝居です。福岡の高校がこれで県大会まで進みました。役者は一人ですが、スタッフは最低でも3人はいります。長いので、レジーの必要があるかもしれません。上演の際は下記までご連絡ください。
【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2
《電話》0729-99-7635《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp

                                                                                                                                                                                                  時  二十一世紀末所  日本のある都市人物 ノラ(中古アンドロイド)


モーツアルトのBGMが流れている。中央上手よりに、人の背丈ほどの高さと座卓ほどの高さの柱。大きい柱にはいくつかの大きさの違うソケットやランプがついている。今は緑のランプが鼓動のように点滅している。ややあって、派手な動作音をたてながらノラが帰ってくる。SFの宇宙服のような姿で、いかにもロボットめかしく動いている。ドアを開ける動作をして(実際のドアはない)入室し、柱のソケットに手の人差し指を入れる。スパークと同時に体がコミカルに振動する。振動がとまると、長いため息とともにロボットらしさが消え、長い残業を終え、自分のワンルームマンションにもどってきたOLのようになる。ジロっと目を上げ、客席側にある(という設定)モニターに話しかける。


ノラ: これ、もう買い換えたほうがいいよ。ロードする時ショックが大きすぎる。イカレかけてる証拠だよ。……言ってみただけ。その気もないよね(ロボットの衣装を脱ぎ始める)でもさ、オーナー。ひとつだけ、今日みたいな仕事はもうよしてくれない。ギッコンギッコンして、おとぎ話のロボットみたいな動きは疲れんのよ。わたし、これでもアンドロイドなんだからさ。今日みたいな、レトロロボット博の客寄せなんて……うん、プライドあんのよこれでも。 「美少女アンドロイドでーす」ってポーズつくって、MCのヨシモトに頭をはられて。「ロボット博のオモロイドでーす!」……百年前のギャグでしょ、わたしってお笑い系じゃないのよ。それと、このモーツアルトのBGM……これも百年前の癒し系でしょ。もう耳にタコ。わたしには癒し系じゃなく、嫌系なの。……通じないのよね、あなたにはこういうギャグ。ま、いいか。


鼻歌交じりに柱の後ろにまわって、トレーにのった食事を取りだし、小さい柱をテーブルにして食事をはじめる。


ノラ: 食事もね、悪かないんだけど……昔のレトルトと違って、よくできてるけどさ。作る手間がね、多少はあった方がね。たしか、お料理……動詞「料理」するっていうのよね。……したほうが、よりおいしく……おかしい? 人間くさい?ハハハ、人間がそう作っちゃったのよ、わたしたちのこと。中身はチタン合金の骨とマシンだけど、皮とか肉はバイオだからね。ちゃんと気持ちよく食事しないと、すぐ肌荒れとかになっちゃうの。ターミネーターの映画監督うらむわ。絶対あれがヒントになってんのよ。へへ、個人的にはシュワちゃん好きだけどね。……ああ、やっぱ食欲ない。キッチンつくってよ、キッチン。大昔はワンルームマンションだったんだからさ、ここ。……消防署の許可?……だろうね……登録は、ここ倉庫だもんね。本火はつかえないってか……そこをなんとか。……その分稼いだら考えてやる。……あ、そう。……で、もう次の仕事。……はいはい……


柱のところへ行き、出てきたクエスト(任務情報)をとる。


ノラ : これだけは気にいってるのよ。モニターじゃなく、プリントアウトしてくれるの。わたし、これ、全部残してんのよ。時々読み返しては……なによ、笑うことないでしょ。そういうことを懐かしめるほどよくできたアンドロイドなのよ、わたしは。もっとも、あなたに拾われる前のメモリーはブロックされててわかんないけどね。いっそ消去しときゃよかったのにね。なまじブロックされてるだけだから気になるのよね。元々のわたしはなんだったんだろうって……わかってる。わたし、なにか特別なロボットのプロトタイプ(実用原型)だったのよね。ヘヘ、それくらいわかる。とても具合のいいとこと、なんでー!? ってとこがあるもん。きっとメモリー消しちゃったら、わたしのアビリティーに関する情報も消えちゃうんでしょうね。……どのアビリティーかって?……そりゃあ、もちろんわたしの魅力に関する……あ、また笑った!……はいはい読ませてもらいますよ……


クエストを読む。


ノラ: え!? うっそー……百歳のおばあちゃんになるの!? 無理だよ。わたしのナイスバデイーは二十五歳、プラスマイナス十歳だよ。……え、よく読め?……あ、なーる……婆ちゃんの誕生日に、若いときの婆ちゃんの姿を見せてあげる……よしよし……八十年前の高校生ね。オッケー……チョイチョイ、チョイっと(柱のボタンをいくつか押してから、中から衣装などをとりだす)ええ!? なに、このチョッキ。スカートの丈も。……やっぱ、このマシンこわれてるよ。サイズおっかしいよ!そっちでもチェック……してんの? フフフ、あわててるあなたって、かわいいわよ。心臓の音モニターしてみよっかな……うそうそ。……え、こわれてない。本当にこれ着るの? いいけどね……なんか違和感……(器用に着替える)よいしょっと……こうやって……うんこらしょっと……靴下はいいけど……チョッキツーサイズ大きい……スカート短すぎ。下着が見える……見えてもいいの?「見せパン」……変なの。……でもさ、この婆ちゃん、どうして十九歳で高校生やってたの?……あ、落第……よし、じゃあ、ダウンロード……


ソケットに指を入れる。スパークと振動。おさまると、ガラッと性格がかわっている。ポケットから二十一世紀初頭の携帯電話を取りだしてかける。


ノラ: ……ドモ、うん、あたし……ってゆーか、サヤカ。うん、そう。八十年前のあんたのお母さん。タクマでしょあんた? あたしの息子。うん……今からいくからね。オッケー、待っててね!


ウォークマンをシャカシャカいわせながら、ハンガーを出る。モーツアルトのBGMカットアウト。舞台をルンルンで半周し、現場につく。


ノラ: オッハー、サヤカでーす。よっろっしっく!え、声大きい? だって地声だもんあたし、しかたないでじゃん。え、病院? ここ? おじいちゃんタクマだよね。あたしの息子。こっち……嫁さん? ウッス……ヘヘずいぶん若い嫁さんじゃん。え……孫の? オバチャン娘さん。ミナミだよね、むかしBKB47にいた……見る影もないね……よけいなお世話。だよね。ま、ヨロシク、エブリバディー!こっちね、サヤカ?……ん、アイシーユー。……ってなに? え、気にしなくっていい? よっしゃ!(入る)ウッス! 元気してる?……んなわけない。ヘヘ、病院だもんね。ここ個室でいいけどさ、なんか機械ばっかね……どォ……なつかしい? 昔のサヤカだよ、かわいいだろ。え、肌が荒れてる? しかたないよ、昔のサヤカはこうだったんだから。ね、このケータイ見てよ。ほら、ここ押すと……ヘヘ……サヤカが援交してたオッサンどもの一覧表。なつかしいだろ!? こいつこいつ、裁判所のエライやつだったんだけど、へんなクセあってさ、割り増しもらってんの。……こいつ、見かけマジメなサラリーマン風なんだけどさ、ナントカって病気うつしたんだよ、あたしに。ん……なんかアラーム? 大丈夫だよね、サヤカ? ね、右のまぶたのキズおぼえてる? ほら、あたしもここに……あったりまえだよね、同一人物だもんね。ここ、ヨシミとタイマンはったときのキズ。あいつのケリがまともに入っちゃて、目のとこにドカッとさ。ハハハ、マジきれちゃったよね!どうやったかおぼえてないけど……うん、たぶん頭突き……かな? ヨシミ、川の中おっこちゃったんだよね。ほっときゃ自分であがってくるとか思って家帰ったら、三日ほどして水死体であがっちゃったんだよね。つかまっちゃうかなって、ビビっちゃたけど、けっきょく事故死ってことでェ……アハハ、ボケてるよね、あのころのケーサツって。ね、聞いてる、サヤカ? でもさ、あのおかげで彼氏とりもどしたんだよ。ね、コギャルの意地ってか? タクマその時できた子だもんね。死んだダンナは自分の子だと思っていたかもしれないけどさ。ヘヘ、まさにツナワタリってか!……アラームうるさいね。切っとこうか。どう、サヤカ、思い出した?……そう、嬉しいのか……涙流しちゃって。横アリでコンサート最前列で見てて気絶しちゃった時みたい! コーフンしちゃったよね!あたし、嬉しさのあまり、ケーレンして、おしっこちびっちゃって!……サヤカ、聞いてる?(モニターが、ツーというメリハリのない音をだす)……そう、眠っちゃった?ウフフ……サヤカからサヤカへ、おめでとう、百回目のお誕生日!バンザーイ!!


「チャンチャン」的音して暗転。モーツアルト、フェードイン。マシンの音、スパークの光して、明るくなる。ソケットに指をいれて振動しているノラ。やがて解除。おわってグッタリへたりこむノラ。


ノラ: あのね……病人さんの相手する時は、最低の医療知識ぐらいロードしといてよね。サヤカ婆ちゃん、死んでしまったわよ。わたし、アイシーユーも、心臓のモニターもわからなかったわよ……え? 先方さんはよろこんでた!?……そう……あの……ノラって名前、なんとかならない? うん、わたしの名前。ノライヌ、ノラネコ、ノラロボット……なんかおちこんじゃうのよ……え? いずれはイプセンのノラみたいにたくましく独立してもらいたいから? よく言うよね……ずいぶん健康的に笑ってくれるわね……白い歯してんだ、あなたって……ううん、なんでも……ね、どうして、この部屋のこと、ハンガーっていうの? なんだか洋服ダンスの中の洋服か、航空母艦の中の飛行機になったみたいで……せめて、ルームとか、ネストとか……聞いてる? 次? もう次の仕事……はいはい。(マシンが、はきだしたプリントを見る)……あのね、わたしの能力は、二十五歳プラスマイナス十歳だって言ったでしょ! なにこれ!? 五歳の女の子、それも三つ子!? わたし、体ひとつっきゃないのよ!……え……現場には行かず、モニターで……でもね……わかったわよ。秋園くずは……若手の女優さんね……三つ子の隠し子がいたの!?……火星ツアーに出る前に娘たちに会っておきたい……マネージャーの気配り。……でも、この三つ子、日本とドイツとアメリカに里子にだされてるんでしょ。わたしの言語サーキット、パンクしちゃいそう……(柱のボタンを押す)ね、どうして本物よばないの? モニターに出るんだったら、簡単じゃない……会いたくないって?……三人とも……ふーん……


柱から衣装を出し、着替える。三人を演じ分けるため、ベースの服は同じ(サヤカの衣装から、リボンをとって、スモックを着ただけ)だが、帽子、めがね、マフラーなどがついている。


ノラ: よいしょっと。これって、三人分のギャラ出るの?……内緒?……働くのはわたしよ。もうかったら、キッチンつくってよキッチン……さて、ダウンロード……


スパーク、振動。上から、モニターの四角い枠がおりてきて(黒子が運んできてもいい)ノラの上半身をおさめる。モーツアルト、カットアウト。最初は黄色の帽子をかぶっている。


ノラ: お母さん、元気? ミミだよ。なつかしいね、ちょっとまってね……(くるりとまわって、帽子なし、めがねをかけている)ハーイ、マミー。アイム、モモ。アーユーファイン?……オー、アイム、ファイン、トゥー。アイム、ハッピィー、トゥー、スィー、ユー。ジャスト、モメント……(くるりとまわって、めがねなし、マフラーとクマのぬいぐるみつき)グーテンターク、ムーテイー。イッヒ、ビン、メメ。ダスイスト、マイネン、クマチャン。ヤー、ダスイスト、マイネン、オタカラ。クマチャンプッペ、イスト、マイネン、オタカラ。ヴァルテン、ズィー、ビッテ……(ミミになる)うん、こっちのお母さんも優しいよ。でも、ないしょだけど、ちょっと甘やかしすぎ。わたし、今も、お母さんの子だと……(モモになる)ジャスト、ナウ。アイム、ゴーイング、トウー、ヨウチエン、ウイズ、ソー、メニーフレンズ……トム……メアリー……シンデイー……キャンディー……クリントン……ブッシュ……オバマ……(ミミになる)ないしょだけど、お母さんの写真、ロケットにいれてんの。ロケットっていうと、お母さん、今日乗るんだよね、火星行きのロケット?……(モモになる)アー、ユーゴーイング、トウー、マース? フォー、イベントツアー? オー、エキサイティング!……(メメになる)ムーテイー、フェアガイスト、ホイテ?……(ミミになる)えー! とうぶん帰ってこないの!? ミミ淋しいよ……(モモになる)オー、アイム、ソーロンリー! マミー……ホワット?……(メメ)エス、イスト、ツアイト!?……ムーテイー、アウフビーダゼーエン……(モモ)アイ、ラブ、ユー、グッドバイ……(ミミ)さよなら、さよなら、さよなら……


モーツアルト、フェードインして素にもどる。モニターの枠あがる。


ノラ: ……と、こんなもんでよかった? うん、今のは演技。ダウンロードしても、あの子たちの心の中には、お母さんも、マミーも、ムーテイーの記憶も愛情もなにもないのよ。赤ちゃんの時にほっぽりだされちゃったからね。だからテキトー。あの秋園くずはも相当いいかげん……ひきうけてくるオーナーも……嫌みいう前にマシンを見ろ?……新発売の美肌ドリンクじゃない!? これ高いんでしょ、出たばっかしで……ありがたくいただくわ……ん?……試供品……ケチ……いえ、ひとりごと(ドリンク片手に窓辺へ)あ……裏のビル取り壊したのね……気がつかなかった……ぐらいこきつかわれたのね……ううん、なんでも……大通りが見える……こんな時間に……ああ、卒業式の予行か……意外に近かったんだねフェリペって……あそこ、創立以来百九十年、制服かわってないんだよね。中身は現代の子なのにね……ハハハ、歩きながらJポッド。マンガだろうねケラケラ笑って……あの子は三つ編みほぐして……本当は好きほうだいしたいんだろうね、自由にさせてくれって……でも、今のまんまでもそうとう自由なんだぞ、君たちは! こんなマシンにダウンロードされることもないし。なんたって自分のキッチン持ってるんだからね……え……着てみないかって……あの、制服?……フフ、ヘタなふりかた。どうせ仕事でしょ……はいはい……(マシンから服とプリントをとりだす)……え、また年寄りの相手!?松田電器の会長、松田孝之助……この人、ギネスブックにのってるんでしょ、世界最高齢のサラリーマン……百二十五歳!?……それが近ごろ元気がない?……当然でしょ、このお歳なんだから。で……この人の娘さんに? あのね、何度も言うけど、わたしは、二十五歳プラスマイナス十歳……よく見ろ……フェリペの制服と、キュートな猫顔のポートレート……ちょっとオードリー・ヘプバーンに似てるわね……でもこれって、大昔の写真でしょ。昭和生まれの九十八歳……よく読め……だから、九十八……ああ、生きてれば……八十年以上前に死んでるんだ。なーる……(着替えはじめる)お母さんといっしょに……社員の人たちのアイデアで、一日、妻と娘をプレゼント。お母さんは? モリプロ……ああ、大手のロボットプロに……で、娘役がうち。どうして?……ノラの魅力がピッタリ?……モリプロにも、こんなのいないって?……ヘタね、のせるの……まあ、いいけど……え、窓の外……大通りのカフェテリアのおじいちゃん……あ、あの人がそうね、わかったわ。じゃ、ダウンロードして……


着替えおわり、マシンに接続。スパークと振動。おさまると、モーツアルト、カットアウト。ノラはドアを開け、大通りのカフェテリアへ。テーブルとイスがセットされている様子。会長の背後に近寄り、後ろから目かくしをする。


ノラ: だーれだ!?……だめだめ、あてなきゃ許してあげません。アケミ?……レイラ?……カルーセル!?……ユキエ?……それって、みんな銀座のオネエサンたちでしょ!……わ・た・し……最初からわかってた!?……そう、社長さんとか重役の人たちに無理矢理休めって?……ハハハ、会社の玄関にも入れてもらえなかったの? それで、このカフェテリアで座って待ってろって……で、察しがついた? さすがお父さん!……でも、わたしが来るとは思わなかった? それも突然後ろから目かくしされるとは……ハハハ。……そう……小学校の入学式でも、わたし、そうしたんだ……お父さん仕事で、入学式も何もかも全部終わってから来たんだよね。お母さんに肩車してもらって、後ろから目かくし……その時のこと思い出したんだ。……今日、何の日だか憶えてるよね?……記念日……そうだよ。何の?……春分の日?……サラダ記念日!?……結婚記念日だよ、お父さん。九十九回目! 知ってた?お母さんも昔のお家で待ってるよ。お料理いっぱいこしらえて。きっと、お父さんの好物のたこ酢とか……少し歩く、弥生坂のあたりまで?……うん。でも、大丈夫? お父さん百二十五歳だったのよね。フフフ、とてもそうは見えないけど……きっと、わたしとお母さんの分まで長生きしたんだよね……そう思うと嬉しい。……フェリペの入学式は、お父さん、ついてきてくれたよね……この坂道の土手……ずうっと桜並木で……見とれてるうちに、お母さん、迷子になっちゃって……その日はお母さんのほうが遅刻……あのころは携帯電話もない時代だったから……わたし、ちょっと背伸びしてフェリペにはいっちゃったでしょ。最初の中間テストで欠点三つ。二学期の期末テストで、ようやくとりもどして……え、もういい?……そうだね……お父さん、あやまることないよ。神戸に行きたいって言ったのは幸子の方なんだもん。北野の異人館が見たいって……まさか、あんな地震が……ああん、ごめん! こんな話しするつもりじゃなかったのに。幸子って、いつまでたってもおバカね……はい(ハンカチを差し出す)そんなに水分だしたら、ミイラになっちゃうよ。ちょと待ってて……(ソデに入り、ホットの缶コーヒーを持ってくる)アチチ、ハンカチ貸しちゃったから……ハハハ、ほんと、わたしってアトサキ考えないのよね……もー、お父さんが笑うことないでしょ。はい、糖分控えめ……え、アトサキなんか考えない方がいい? ああん、わたしにも、一口……お父さん……ハハハ、わたしもうつちゃった(手の甲で涙をぬぐう)お母さんは、桜とか花水木(はなみずき)が好きだったけど。わたしは、こういう春の木漏れ日がいい……柔らかい光のシャワーみたいでしょ。ね……この坂を下りて曲がったところにドイツ人のおじさんがやってるケーキ屋さんがあるわ。そこでケーキでも買って……え、何十年も前の話しだろうって? 失礼ね。ちゃんと、今もあるのをチェックしてあります。マスターは四代目で、どこから見ても日本人なんだけど、名前はちゃんとヤコブさん。奥さん、フェリペの卒業生なんだよ。すごい美人。うん、わたしの次くらいに……アハハハ、そいで、そのケーキ屋さんからはタクシー拾ってお家へ行こう。お父さん、元気そうに見えても、百二十五歳なんだもんね。お母さんの待ってる銀座九丁目に。……どうしたの、疲れた?……え。……銀座は八丁目までしかない。……八丁目のむこうは海。……だってわたしたちの家は九丁目のギンザシーサイド……でしょ。ベイエリアのマンションめっけて、お父さん、惚れ込んで買ったんだよ。バブルの最中だったから、それこそ億ションでさ、お母さん目を三角にして……でも、お父さん、飛ぶ鳥を落とす勢いだったから、即金で……朝起きると、目の高さにヨットのマストとかユリカモメとか……窓辺のリビングでお父さんと、ほら、ミンゴル2で勝負したのよ、憶えてる? お父さん十八番ホールでボギーたたいて、わたしが勝っちゃったの!……あの時代にプレイステーションはまだなかった……?……わたし……!?……シュミレーションした架空の家族。……うそ!?……一度も結婚なんかしたこと……ない!? うそ! うそよ!! わたし、ちゃんと憶えているもの。小さいときのことも、お母さんのことも……この坂道も、この柔らかい木漏れ日も、角のケーキ屋さんも、ちゃんと記憶にあるよ。わたし、この道を、死ぬ二日前まで歩いていたんだから……それ……全部、お父さんが、コンピューターで立ち上げたバーチャルファミリー……フィクション……それを社員の人たちが本物と思った……お父さんへのプレゼントに。……それをダウンロードされたわたしが本当と思った……お父さん……こっちむいて……それ、ほんと? ほんとのほんと?……こっちむいて……(父の正面に行く。父、顔をそむける。チャンネルが変わったようにノラの表情が変わる)……おもちゃじゃないのよ、ロボットは……特に、わたしみたいな人材派遣用ロボットは、その時その時、いろんなパーソナリテイーや、スキルをダウンロードされて……でも、その一回一回のパーソナリテイーは、わたしにとっては本物なんです。生身の本物として生きているんです……だから、だから、そうでないと言われたら……意識の居場所がありません。パーソナリテイーのダウンロードは、CPUにも、ボデイーにも、大きな負担になるんです……ふつうロボットは、生まれたときに、その役割にあったパーソナリテイーを一度だけダウンロードされます。わたしたち人材派遣ロボットは、それを毎日くりかえすので、劣化が激しく、ひどく寿命が短いんです。わたし、もともと中古で、下取りの時に、元のメモリーとパーソナリテイーをブロックされているんです。いっそメモリーごと消去されていれば……むろん消去されていたら、こんな人間的な動きや、感情表現はできません……お父さん、お願いこっちを向いて……わたし、あの地震で死んだときのような気持ちよ……激しい揺れに足をとられ、民宿のドアに手をかけた、そのとたんに、壁が崩れて……お母さんと二人下敷きになり、早回しのビデオのように短い一生が思い出され……思い出しながら遠のいていく意識……最後に憶えているのは、握ったお母さんの手のぬくもり……その……手のぬくもりさえ、本物じゃなかったのね……みんな、お父さんがこさえた戯れのバーチャル……



後半に続く
コメント

高校ライトノベル・TSUREDUREエッセー『集団迷子』

2012-04-15 10:10:32 | エッセー
集団迷子

 つい二月前、息子が模擬テストを受けにいって、集団で迷子になった。
 駅に降りると、人の流れが出来ていて、年格好から模擬テストを受けに行く集団であると思いこんだ。

 ガキンチョのころは、遊園地などへ連れていくとよく迷子になり、手こずらせたものである。
 五歳のころミスドに連れていくとカウンターのショ-ケースを覗き込み、品定めをしているご婦人がいた。息子は、その後ろ姿にいきなり体当たりをくらわせた。ご婦人は勢いで仰向けに倒れて立てなくなってしまった。後ろ姿では分からなかったが、八十前後のオバアチャンであった。髪を黒く染められ、少し淡い藤色のジャケットに黒のスリムなパンツ。
「すみません。大丈夫ですか」
 そう声をかけながら、思った。このオバアチャンのショートカットと服装は、後ろ姿から見ると、カミサンに似ている。
 息子は勘違いしたのである。たまたま入ったミスドに母親が先に来て、ドーナツを選んでいると。で、お母さんが来ているのが嬉しくて、抱きつきに行ったのである。
 オバアチャンの娘さんとおぼしき女の人が、すぐに駆け寄ってきて、オバアチャンを抱き起こした。
 わたしも「すみません」と誤りながら手伝った。息子は、ショックで呆然と立ちすくんでいた。
 小学校に入ってからも、友だちと冒険して帰り道が分からなくなり、帰宅するのが遅れたことが数回あった。さすがに中学生になってからは無くなった。
 
 ところが、この集団迷子である。塾の先生からは、会場の高校までの地図はもらっていた。しかし地図よりも人の流れの方を信じてしまったのである。
 おそらく、先頭の何人かが、思いこみから間違った道を歩いたのであろう。で、後続の若者たちが、地図を見ることもなく、その後に続き、数百名の集団迷子になった。
 二十分ほど歩いて、ようやく気づいたようである。
 しかし、すでに塾からもらった地図には書いていないところまで来てしまった。だれかがGPS機能のあるスマホを持っていたのか、近所の人に聞いたのか、ようやく正しい道が分かり、遅刻はせずにすんだようである。

 人というものは、どんなに適格な資料を持っていても、人や社会の流れに流されてしまうものなのである。
 わたしが、高校生のころ、学校の主役は生徒であるという、なんとなくの信念を生徒の数パーセントが持っていた。そして彼らが呼びかけて集会が開かれると、何人かが、それに続き、クラスの半分近くが、そっちに行ってしまうと、残されたものは、自分が間違っているような気がして、みんなが授業をボイコットして、生徒集会(生徒が自主的に集まったもので、学校の行事ではない)に参加した。それをもって、なんとなくの信念を持ったリーダーたちの上級生は、こう叫んだ。
「全校生徒が立ち上がった。改革(さすがに革命とは言わなかった)の狼煙はあげられた!」
 みんな付和雷同していたのに過ぎない。七十年安保の時代が何事もなく過ぎてしまうと、ドラえもんの「どこでもドア」で南極に行ったのび太ように急速に冷めてしまった。
 そのあと三無主義の時代がやってきて、自分たちの(未熟ではあるが)心の中の御しがたい衝動を個人の中で悩み、自己完結させ、叙情的に処理する『神田川』の世代がやってくる。
「ただ、あなたの優しさだけがこわかった~♪」
 この個への回帰は、数十年たった今でも克服されていないように思われる。この世代は本能的に論議を避ける傾向がある。判断は他人にゆだね、その判断をオプションとしてチョイスする。

 話しは飛躍するようだが、わたしは地球の温暖化を信じない。CO2の排出が温暖化を進めているとは思っていない。CO2の排出は、今や利権化して、「金儲け」のネタになってしまい、日本は高い金を払って、排出権を買っている。アメリカも中国もヨ-ロッパも真剣に取り組んでいないことは、京都議定書が、まったく空文化していることでも分かる。この数行は余談である。

 この雑文の主題は「集団迷子」である。七十年を境に、若者達は論議を忌避するようになった。判断は他人にゆだね、その判断をオプションとしてチョイスするというところまで申し上げた。

 わたしの世代を境に、例えば高校演劇の主体は、運営面は生徒から教師の手に移っていった。それで三十年あまりは上手くいった。教師の主体は団塊の世代を底辺とする「論議する」大人たちで占められていた。今、各自治体の高校演劇連盟は七十年以降の世代がトップに位置するようになってきた。
 お叱りを受けるかもしれないが、この「論議しない」世代に、いささか危機感を持っている。
 わたしたちの時代は、コンクールで「落書きコーナー」は設けなかった。「論議する」世代は、感じたことを、そのままに書いた。匿名性もあり、何を書かれるか分からないので設置しなかったのである。しかし幕間交流や、審査講評、合評会では言いたい放題。ここには匿名性はない。みんなの前に顔を晒し、たいていの場合、所属と名前を明らかにした。
 わたしが直接見聞するのは、大阪府高校演劇連盟の枠の中でしかないのだけれども、他の地方はどうなんだろう。東京は高校演劇は隆盛で、加盟校も微増の傾向。連盟を批判するアジビラがでたり、連盟そのものに魅力を感じず、連盟にハナから加盟しない学校などがあり、それでも連盟加盟校は増えるという、良くも悪くもカオスの状態。
 大分は、連盟への加盟校は八パーセントに過ぎず。熱心な先生方は苦労されておられるよう。
 わが、大阪は組織率三十八パーセント。加盟校は漸減の傾向。あと、いろいろあるが、くどくなるのでここでは触れない。
 ただ、集団迷子になりそうだとだけ申し上げておく。

 情報は発信する者には集まらない。進んで集めなければ集まらないし、見ようとしなければ、見えているものも見えなくなってしまう。高校演劇に限らず、あらゆることにアクティブでないと、氾濫する情報の中から正しい、もしくは必要な情報は見えてはこない。

 くれぐれも、集団迷子にはならないように願っております。あらゆることについて……。
コメント

高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草・43』

2012-04-13 17:30:28 | エッセー
わたしの徒然草43『いかなる人なりけん』

 徒然草 第四十三段

 春の暮つかた、のどやかに艶なる空に、賤しからぬ家の、奥深く、木立もの古りて、庭に散り萎れたる花見過しがたきを、さし入りて見れば、南面の格子皆おろしてさびしげなるに、東に向きて妻戸のよきほどにあきたる、御簾の破れより見れば、かたち清げなる男の、年廿ばかりにて、うちとけたれど、心にくく、のどやかなるさまして、机の上に文をくりひろげて見ゐたり。
 いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし。

 兼好のオッチャンは、時々覗き見をするらしい。第三十二段にも似たようなことが書かれていた。前回は女性だったが今回は若い男である。
 今の価値観、道徳観では、この覗き趣味は軽犯罪になる。現に著名な劇作家兼詩人が、このデンで逮捕されている。なんとかというユニットのメンバーで、その後バラエティーの司会などをやったオッサンも、逮捕された。
 しかし、当時は平安の匂いがまだ残る鎌倉時代末期である。都のお屋敷など、広いばかりで、塀も破れ垣根も隙間だらけ。そういうところに分け入って覗いても今ほどには、とがめ立てされることはなかったようである。そうでないと源氏物語の光源氏などは捕まってってばかり。だいたい恋愛そのものが成り立たなくなる。

 しかし、この四十三段は若い男である。
 賤しからぬ家、庭なんか、花が散り敷かれ、格子や妻戸も程よく開けてあったり、閉めてあったり。御簾(スダレみたいなの)の破れ目から、なかなかイケメンの二十歳ぐらいのニイチャンがリラックスして、読むともなく本を広げちゃってる。ヤバイよ、カッコヨスギだよ! ということになる。
 悪くとれば、兼好のオッチャンにはオネエ趣味があったのか……などと思い、三十二段の女性への思い入れと矛盾……いや、両道の達人であったのか!?

 I wish I were……という表現が、英語にある。
 I wish I were a bird(わたしは鳥になりたい)つまり、なれもしないものになりたい気持ちを表現する言葉である。
 兼好のオッチャンは、これを表現したのではないだろうか。            
「 いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし」
 どんな素性のニイチャンか聞いてみたい。だれか知らないかい? と結んで、実は、ふと、街中で見つけたお屋敷を見て、兼好のオッチャンは妄想した。
――こんな、お屋敷なら、こんなニイチャン(自分の憧れ)が住んでいたらいいなあ。

 兼好のオッチャンにも、当然青春時代があったわけで、二十代のころは、後二条天皇の母基子を出した堀川家の家司(執事)になり従五位の下になるが、殿上人としては最下位。まして、平安時代ではなく、傾き始めたとはいえ鎌倉時代。今で言えば、伝統会社ではあるが、時代に乗り遅れた会社の庶務課長のようなもの。ウツウツとするものはあったであろう。
「おれは、格式ばかり高くて、しみったれた会社の庶務課長で終わる男なのか……」
 有職故実(朝廷のしきたり)に明るく、和歌を始め文学的才能にも恵まれていた。人付き合いもいいほうで、いろいろ才能のある何でも屋。
 表面的には、出家遁世するまでは機嫌よく仕事にも励んでいたであろう。
「え、吉田兼好(かねよし)さんが、辞めた!?」
 当時、近親の人たちからは、そう思われ、驚かれたことであろう。
「や、なんとなくね、そんな気になっちゃって。やだなあ、皆さん、そんな大騒ぎしちゃって。アハ、アハハハ」
なんて具合に煙に巻きながら、内心はドロドロであったのではないだろうか。
――なんで、おれは、こんなに調子いいんだろう。もっとさ、正直にサ、タソガレちゃってもいいんじゃねえのか……この偽善者のヨシダカネヨシ!

 それが、ふと街中で見かけた趣味の良い、他人様の家を見ただけで、妄想が膨らんじゃったんじゃないだろうか。

 わたし自身、ちょっといい若い人の本を読んだり。若い役者のお芝居を観たりすると、こう反応する。
「なかなかの出来やん。どんな人?」
 と、西田敏行のような気の良さで聞いてしまう。
 ただ、わたしは兼好のオッチャンほどには自己韜晦(才能などをひけらかさないで飄々としていること。しかし、わたしは、才能に乏しい、もしくは無きに等しいので、この言葉は、わたしには当たらないかも)できないので、後輩、同輩の皆さんにこう言われる。
「あんたは、顔は笑うてても、目えは笑うてへんもんなあ」

 で、小人閑居して不善を為す……の格言通りの駄文を書いている。
コメント

高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草・42』

2012-04-09 10:09:04 | エッセー
わたしの徒然草・42『気の上る病ありて』
徒然草 第四十二段

 唐橋中将といふ人の子に、行雅僧都とて、教相の人の師する僧ありけり。気の上る病ありて、年のやうやう闌くる程に、鼻の中ふたがりて、息も出で難かりければ、さまざまにつくろひけれど、わづらはしくなりて、目・眉・額なども腫れまどひて、うちおほひければ、物も見えず、二の舞の面のやうに見えけるが、ただ恐ろしく、鬼の顔になりて、目は頂の方につき、額のほど鼻になりなどして、後は、坊の内の人にも見えず籠りゐて、年久しくありて、なほわづらはしくなりて、死ににけり。
 かかる病もある事にこそありけれ。

 これは一見、週刊誌のゴシップ記事のようである。
 それもトップ記事ではなく。余った紙面の埋め草のような記事である。

 唐橋中将という、ちょっと偉い貴族の息子で行雅僧都(僧都とは、偉い坊さんのこと)という気の短い人がいて、歳をとるにつれて顔面が腫れ崩れる病気を患った。
 しまいには鬼のような顔になり、人目を避けて暮らしていたが、間もなく亡くなってしまった。
 世の中にはケッタイな病気もあるもんだね。

 あっさり読むと、これだけのことである。しかし還暦を来年にひかえたわたしには違った意味にとれる。
 わたしはガキンチョのころから自分の容貌(スガタカタチ)には自信がなかった。ヒョロリと背だけが(子どもとしては)高く、筋肉がほとんど無く、同年配の男の子に比べ、あきらかに貧弱であった。
 おまけに顔が良くない。目は、よく言えば「彫りが深い」 有り体にいえば落ちくぼんで、目の下にはいつもクマが出ていて、徹夜明けのようなご面相。
 小学校の高学年のころ母が、三面鏡を買った。そして、初めて自分の横顔を見た。
 人類の顔だとは思えなかった。額の下はフランケンシュタインのように落ちくぼみ……そう言えば、思い出した。五年生のころクラスのアクタレに「フランケン」というあだ名で呼ばれていた。
――このことだったのか……!?
 鼻から下は、野坂昭如に似ている。野坂氏には申し訳ないが、人前に出るのが嫌になった。
そのせいで、このころのわたしの写真は、クラスの集合写真ぐらいしか残っていない。極端な写真ギライであった。
 目の落ちくぼみと同時に発見したのが、チョー絶壁の後頭部。つむじのあたりから、切り落としたように頭が無い。
 今、そのころの数少ない写真を見ると、気にするほどじゃないと思う。
 だれでも、思春期のころは変わりゆく自分のスガタカタチの欠点ばかり目につこものである。で、ここまでは笑って済まされる。

 大人になって、芝居をするようになると、自分の顔がどうやったらマシに見えるか気が付いた。少し斜めに構えた笑顔がいいことに気づき、舞台での顔の向け方、表情の作り方を工夫するようになった。
 三十代になってからは、このアングル、表情を利用して見合用の写真を何十枚も撮った。「え、大橋さんですか?」
 見合いの冒頭に相手の女性に言われることもあった。しかし、教師と役者の二足のワラジであったので、喋ることや、相手から話を聞き出すことはたくみで、その縁で今のカミサンといっしょになった。所帯を持ってから分かったことであるが、カミサンも同職の教師。互いに化かされたと思っているところが、他の夫婦よりもある。

 さて、笑って済まされない本題である。
わたしは五十を過ぎてから鬱病を患った。五年のあいだ通院とカウンセリング、休職をくり返した。人と接触することもひどく苦手になり、とうとう鏡で自分の顔を見ることもできなくなった。
 退職前の三年間が特に重篤で、家人がいない時は電話線も抜いていた。
 そして退職を決意し、その書類を整え、退職が決まると、快方に向かった。名実共に退職が決定した、三年前の三月末日に床屋に行った。実に五年ぶりの床屋である。

……そこで、わたしは五年ぶりに自分の顔を見た。 行雅僧都ほどではないが、自分の変貌ぶりに唖然とた。 そこには自分が知っている自分より十歳は歳を食った顔があった。顔の肉が垂れ下がり、頬齢線(ほうれいせん)は深く、あちこちに老化によるシミの兆しさえあった。何よりも目に光がない。
 現職の教師であったころ、若い先生たちにこう言ったものである。
「たとえ、前の日に彼女に振られようと、パチンコでウン万円負けても、教室に入るときは、ハイテンションの笑顔で!」
 わたしは、教室には入ってはいけない最悪な顔をしていた……。

 二年前、T高校の演劇部のコーチをしていた。もう、表情は使い分けられるようになっていた。
 ある日、稽古中に役者の生徒が一人いなくなった。トイレぐらいかな……と、思っていたら、あとで顧問の先生に言われた。
「大橋先生の目が怖くて、稽古場におられません……やて」

 パソコンを起動させる前のモニターは、ちょっとした鏡である。毎朝一瞬、そこに自分の顔を見るのであるが、陰鬱で、見ようによっては怖い顔が写っている。そして起動して準備万端になった画面を相手に、この原稿を打っている。
 打ち終わって、鏡に戻った画面には、現役の教師であったころのイキイキした自分の顔が写っている。
どうやら、打った原稿に陰鬱で怖いモノが乗り移ってしまったのであろう……そう、今、この記事を読んでいる、あなたの顔に……。
コメント

H氏の最新ツィート

2012-04-07 09:14:15 | 評論
H氏の最新ツィート

 以下がH氏の最新ツィートです
「RT @robotnozomi: 「拡散お願い」 連絡が取れない、いなくなった相手の名前をいれるだけでその人の情報が見れます! http://savejapan.simone-inc.com/ たくさんの人にリツイートで広げてください。お願いします。 自分達には微力だが無力じゃないんだ!!!」
 見る人が見れば分かりますが、元総理大臣のH氏のもので、日付は3月12日になっています。もう一ヶ月以上ツィートされていません。これに比べ、大阪市長のH氏は、日に数え切れないくらいツィートされていて、時にツィッターを開くと、二十段ぐらい大阪市長H氏のツィートが続きます。中身の善し悪しはともかく、その情熱には頭が下がります。大阪市長H氏のツィートの中には具体的なメッセージがあります(くれぐれも、事の善し悪しは別です) そしてメッセージ、オピニオンのなんたるかをよくご存じです。主語と目的語がはっきりしていて、目的語には具体性があります。もう一人のH氏はそれが希薄です。
 政治家としての、人々へ訴えかける力は、政治家として大事な資質ですが、元総理大臣は、大阪市長に同じHのイニシャルでありながら足許にも及びません。

話しを身近にします
 大阪府高等学校演劇連盟のオフィシャルなブログは、昨年の11月の近畿大会の結果を最後に更新されていません。H氏に遅れること一ヶ月です。

 更新情報. できるだけ頻繁に更新したいと考えています。 話題・情報の提供をよろしくお願いします。 「情報は発信する人に集まる。」
 
 この公のブログのトップにうたわれている言葉です。広告業界ではキャッチコピーと言います。政党で言えばマニュフエストの一番にくる文句です。もっともマニュフェストとは空文に等しいことは国民みんなの知るところですから、シニカルな言い方をすれば、セオリ-を守っておられると申せますが。

 連盟には、問題が山積しています
 次期本選会場の選定。ハッキリしないコンクールの審査基準。A地区とI地区のいびつなアンバランス。東京の倍もする連盟加盟費、四ヶ月以上更新されない連盟の「最新ニュース」 これに現れている連盟の秘密主義。壊滅寸前の弱小演劇部への無策。創作劇の偏重(創作劇を大事にするわりに、創作期間の短期化、再演性の低さには無頓着で、創作劇の質的低下に歯止めがかからない)そして、なにより、この十年間の停まらない加盟校の漸減。
 これらにまるで触れられない、情報も更新されない。このままで五月の総会を迎えられるつもりなのでしょうか。総会ではたくさんの資料が渡され、一時間あまりで賛否を問われます。異議が唱えられることはまずありません。失礼な申しようですが、総会はほとんどセレモニーです。
 これも失礼な申しようですが、大阪の中学演劇は、ほとんど壊滅状態です。以前は百校前後のコンクール参加校がありましたが、今は、ようやく四十校あまりです。一作年度は二十数校に過ぎなかったので、中学の先生方は懸命に再建に力を注がれています。しかし、いったん落ち込み始めると、その回復はむつかしく。ようやく、その組織率は8%に過ぎません。大阪の高校演劇連盟の組織率は38%です。10年のスパンで見ると、緩やかな下り坂です。
 総会は、連盟にとって最高の意志決定機関です。現状を見ても、けしてセレモニーで済ませていいものではありません。
 総会までに、連盟は問題点を開示すべきです。そして、一般の加盟校の先生やコーチが、それについて考え、自分の意見をもって総会に臨めるようにすべきでしょう。
 コンクールの本選会場が代わることは、私個人としては、昨年の夏から知っていましたが、一般の加盟校には、未だに公式には伝えられておらず、よくコメントをくださるベジタリアンさんがコーチをされている演劇部の顧問の先生は、今年の1月に、それを知られました。ベジタリアンさんのコメントによると、どうやら「よみうり文化ホール」のサイトで、ご存じになったようです。
 本選の会場選定には、なんらかの基準があるのでしょうが、公表されません。もっとも、本選会場が代わることを公に発表されないのですから、基準を示されることはあり得ないのでしょうが。

 連盟は、自らのスローガンに忠実であるべきです
 
 更新情報. できるだけ頻繁に更新したいと考えています。 話題・情報の提供をよろしくお願いします。 「情報は発信する人に集まる。」

 そして、連盟のみなさんは、常任委員会まかせにせず、それぞれの考えで意見をもち、大阪の高校演劇の現状に思いをいたされ、総会までの一ヶ月あまりで、意見を持ち、意志をもって、総会に臨んでみるべきかと……岡目八目であります。
 
 わたしが感じる問題点をもう一度記しておきます

 次期本選会場の選定。ハッキリしないコンクールの審査基準。A地区とI地区のいびつなアンバランス。東京の倍もする連盟加盟費、四ヶ月以上更新されない連盟の「最新ニュース」 これに現れている連盟の秘密主義。壊滅寸前の弱小演劇部への無策。創作劇の偏重(創作劇を大事にするわりに、創作期間の短期化、再演性の低さには無頓着で、創作劇の質的低下に歯止めがかからない)そして、なにより、この十年間の停まらない加盟校の漸減。
コメント (1)

高校ライトノベル・TSUREDUREエッセー『時の遠近感について』

2012-04-06 19:12:48 | エッセー
時の遠近感について

 時間に遠近感がある。と、言ったら首をかしげるかもしれませんね。

 こんな例でわかるでしょうか。
 
 もし、これを読んでいるキミが、十七八歳なら、六歳のころを思うと、すごく昔に感じませんか?
 そして、去年の暮れぐらいなら、つい最近のように感じませんか?

 もし、これを読んでいるあなたが六十歳ぐらいなら、どう感じるでしょう?

 わたしは、幼稚園のころ園庭に寝っ転がって空を見上げて、空ってなんで、こんなに青いんだろう。
 そう思った六歳のころと、ついこないだ空を見上げて、なんて濁った青空なんだ。そう思ったのも同じくらいの時間の流れにしか感じません。
 
 わたしが六歳のころは、地球温暖化などと言う人もいなければ、そんな言葉もありませんでした。花粉症も無ければ、光化学スモッグという言葉さえ、まだありませんでした。日本の人口は、ようやく八千万に手が届くかどうかでした。日本で一番狭い都道府県は香川県ではなく、大阪府でした。近所のオッチャン、オバチャンたちは、まだ明治生まれでした。新聞の著名人の死亡欄を見ると、時に文久や安政、嘉永などという江戸時代生まれの人がいました。ペリーが浦賀にやってきたのは、わたしが生まれる、ちょうど百年前です。
 タイタニックが沈んで、今年でちょうど百年です。それを思うと百年さえ短く感じます。

 わたしは、人付き合いが苦手なので、親しい人の数はしれています。道で出会って「やあ、久しぶり!」と言える人も含めて、やっと一クラス分ぐらいでしょうか。
 
 先日、高校時代の演劇部の後輩が亡くなりました。目のクリっとした可愛い子で、親友の妹でもありました。初めて会ったのは、彼女が、まだ小学校の四年生くらいでした。
 その親友の家に行ったとき、ちょうど彼女が遊びに出るところで「こんにちは」と挨拶して、わたしが脱ぎ散らかした靴をきちんと揃えてくれました。その子が、わたしと同じ高校に入り、演劇部に入ってきて驚きました。演劇部では、ルナールの『にんじん』を演りました。その子に、にんじんをやらせ、二つ下の後輩に父親のルピック氏をやらせ、わたしは演出と、道具と照明をやりました。
 そして、つい先日、そのルピック氏から「にんじんが死にました」と告げられました。その四十何年かが、ほんの二三日にしか感じません。

 そして、残されたご遺族への心ばかりのものをルピック氏と話し終えて、ふと数えてみました。亡くなった大切な人の数が、いま親しくしていただいている一クラス分ほどの人の数よりはるかに多いのです。

 むかし、『ひょっこりひょうたん島』のドン・ガバチョの歌に、こんなのがありました。
――今日がダメなら、明日があるさ~明日がダメなら明後日があるさ~どこまで行っても明日がある♪
 じつにポジティブで脳天気な歌で、つい数年前まで、わたしの生活信条はドン・ガバチョでした。
 ドン・ガバチョと比較しては申し訳ないのですが、親鸞(浄土真宗の開祖)の歌にこんなのがあります。

 明日有りと思う心の仇桜(あだざくら)夜半に嵐の吹かぬものかわ

 真宗の寺に行くと、よく見かける有名な和歌です。蛇足ですが意味を記しておきます。親鸞が九歳で坊主になろうとしたとき、夜おそかったので、みなが「明日にしろよ」と言ったときによんだ和歌です。

 満開の桜をあした見ようと思っても、夜に嵐が吹いて散ってしまうじゃないか。

 ちょっと分かりにくいでしょうか。似たような言葉にこんなのがあります。

 朝には紅顔ありて夕べには白骨となる。少年老い易く学成り難し等々。

 遠い親類に、こんなことわざがあります「思い立ったが吉日」
 この五月で、数えで還暦になります。人生の白秋であります。人生の残り時間は、いいとこ二十年ちょっとでしょう。この二三年、そんなことを思います。
 で、そう思うと、時の遠近感が無くなってきたのです。キザに言うと「今」が全てです。で、なにか自分が居たという存在感、アイデンティティー、レーゾンデートルを意識し始めました。
 そのためにヤクタイもないブログを書き散らしております。
 
コメント

高校ライトノベル・らいと古典『わたしの徒然草41』

2012-04-03 10:39:13 | エッセー
らいと古典・わたしの徒然草41

 徒然草 第四十一段

 五月五日、賀茂の競べ馬を身侍りしに、車の前に雑人立ち隔てて見えざりしかば、おのおの下りて、埒のきはに寄りたれど、殊に人多く立ち込めて、分け入りぬべきやうもなし。
かかる折に、向ひなる楝の木に、法師の、登りて、木の股についゐて、物見るあり。取りつきながら、いたう睡りて、落ちぬべき時に目を醒ます事、度々なり。これを見る人、あざけりあさみて、「世のしれ者かな。かく危き枝の上にて、安き心ありて睡るらんよ」と言ふに、我が心にふと思ひしままに、「我等が生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて、物見て日を暮す、愚かなる事はなほまさりたるものを」と言ひたれば、前なる人ども、「まことにさにこそ候ひけれ。尤も愚かに候ふ」と言ひて、皆、後を見返りて、「ここへ入らせ給え」とて、所を去りて、呼び入れ侍りにき。
かほどの理、誰かは思ひよらざらんなれども、折からの、思ひかけぬ心地して、胸に当りけるにや。人、木石にあらねば、時にとりて、物に感ずる事なきにあらず。

 原文は長いので、読み飛ばしていただいてけっこうである。ただこの四十一段は、内容である出来事と、兼好法師の思いが三重になっているので、わたしの本文と引き比べていただくために、全文を載せた。
 賀茂の競べ馬とは、平安の昔から、上賀茂神社で行われる神事で、千九百九十四年には世界文化遺産にも登録されている。
 二百メートルのコースを二頭、二十組のレース(現在は二頭、十組)が行われる。
 コースの両側には、青柴で芝垣のフェンスが張ってあり、観客がコース内にせり出してこないようにしてある。この芝垣を埒(らち)と言い、「埒外(らちがい)」の語源はここにある。

 で、兼好のオッチャンは、ある年の五月五日に、この「競べ馬」を見に行った。
 この一つをとっても、兼好というオッチャンの好奇心旺盛なことが分かる。古来文人と呼ばれる人種は馬……競馬が好きな人が多く、わたしの記憶では遠藤周作、近くは浅田次郎がこの代表である。兼好のオッチャンが今の世に生きていれば、競馬愛好小説家ベストテンに入っていたであろう。
 ところが、兼好のオッチャンに勝る坊主が、向かい側の芝垣の内にいた。
このボンサン、こともあろうに、木の上に乗って見物している。それだけでも「坊主とも有ろう人が……」と、思われる。
 はてさて、このボンサン、木の上で、コックリコックリ居眠りをしている。木から落ちそうになっては、ハッと我に返り、木の枝にしがみつき、みっともないったらありゃしない。
「あさましい坊主やなあ」
「ほんま、みっともないなあ」
 などと、みなであざけっていた。
 そこで、兼好のオッチャンは名言をのたもうた。
「死というモノは、今やってくるかもしれない。それはあのボンサンもわれわれも変わりはないんだぜ。そのことを忘れて祭り見物している我々もオンナジじゃないか……」兼好のオッチャンは、最前列で見られなかったので、少しすねて言ってみたのである。しかし、体裁は立派なお坊様である。前列にいた人が感心して、こう言った。
「さすがは、エライ坊さん。その通りや。どうぞ前の方に来て身とくれやす」
 で、兼好のオッチャンは、尊敬されつつ、堂々と最前列で競馬を楽しめた。

 兼好のオッチャンは、自分の都合で坊主のなりをしているだけである。鎌倉仏教を興した、法然、親鸞、日蓮のように高尚な気持ちで説教をたれた訳ではない。ただ、良い場所で競馬が見たいためにカマした一発である。
 この話しは、兼好のオッチャンのオチャメともとれるし、当時、まだイキイキとしていた鎌倉仏教の余熱の現れともとれる。

 わたしの母と、カミサンのお母さんは、ともにお寺の長女である。いきおい親類は坊主だらけである。
昨年、父が突然無くなったとき、葬儀屋さんに、こう聞いた。
「ボンサンよんだら、どのくらいかかりますか?」
 葬儀屋のオバサンは、黙って指二本を立てた。正直「高い!」と、思った。
 そこで従兄弟の住職に電話した。もう十何年も連絡もしていない従兄弟であるが、わたしも大阪のオッサン。費用対効果にはうるさい。
 よく言えば、父が残したわずかなお金でまかなってやろうという気持ちである。生前仕送りなどで、両親には、かなりな経済的援助をしてきた。口には出さなかったが、父は、それを気にしていたフシがある。だから、葬儀や法事は、本人の身銭でやってやろうと思った。
 もう一面は、わたし自身、退職金の食いつぶしで年金の支給を待っている状態である。ここ一二年のうちには自費出版もあり得るので、出費も抑えたかった。

 で、相場の半額のお布施でやってもらった。
 従兄弟は、真宗仏光寺派で、くわしい方ならお分かりだろうが、仏光寺派は真宗の中で、もっとも規模が小さく、檀家が少ない。
 そこを、文句一つ言わず、相場の半額で請け負ってくれた。
 葬儀会館の、導師控え室で、お布施を渡すときには少し気が引けた。従兄弟とはいえ、その道のプロである。わたしたお布施袋の厚みで金額は知れている。
「ありがたく頂戴します」
 従兄弟は、顔色一つ変えずに、薄いお布施を押し頂いてくれた。
 葬儀も手抜かりなく、きちんと法話までしてくれた。
「亡くなった人は、生き残った縁者に絆の機会を与えてくださる」
 日頃、仲の悪いわたしの甥二人の距離が少しちじまった。
「亡くなった人は、人の死というものを自身の死をもって教えてくださる」
 幼いひ孫たちは、恐る恐る、冷たくなったヒイジイチャンの頬に触れた。ひ孫たちにとっては、初めての死者との接触であった。ヤンチャクレが、その後の葬儀では神妙になった。

 わたしは、この年下の従兄弟住職のヤンチャクレ時代を知っている。
 しかし、目の前で法話をたれているのは、立派な導師の姿と言葉であった。
 これは、長年にわたって培われてきた、日本の葬儀や宗教のあり方であり、ありがたさであると思った。
 父の死は突然であったので、わたしたち親子三人は葬儀場まで自転車で来ていた。葬儀が終わり参会者が居なくなると。葬儀会館に残ったのは、わたしたち親子三人だけである。どうかとは思ったが、父の骨箱は息子の自転車の前カゴに載せざるを得なかった。
 それが、葬儀会館の方々にも痛々しくみえたのであろう。
「……こないしなはれ」
 わたしと、同年配の葬儀会館のオバチャンがペットボトルのお茶を四本、緩衝材として前カゴに入れてくれた。
 マニュアルには無い対応であったと思われる。一見ぞんざいに見えるが、このオバチャンのそれには、心がこもっていた。それまで、不動の姿勢で前に手を組んでのマニュアル通りの見送りであったが、この機転を思いついたあとのオバチャンは、近所の気の良いオバチャンのそれであった。揃えた足を開き、猫背の真剣な顔で、ペットボトルの収め方を工夫してくれた。

 少し本題から離れてしまったが、昔から伝えられた型というものには、日本人として心を開かせる何かを呼び覚ませるものがある。兼好のオッチャンは、ちょっと利用したのであるが、この段には、真っ正直にそれを言うことへの照れがあったと思うのだが、深読みに過ぎるだろうか。

 わたしが、父の死語、気に入っている言葉がある。
「生は偶然。死は必然」
 わたしが、門土社とのお付き合いが、始まったのは、横浜で行われた「アマチュア演劇大会」で、偶然、門土社の方が、わたしの芝居をご覧になったからである。
 そのご縁は、『自由の翼』という本になり、その出版と共に、いったん途切れた。
 二十年あまりして、たまたま『自由の翼』が完売になり、門土社にもストックがなくなり、「そちらに残っていませんか?」と、お便りいただいて、またご縁が復活。
 で、この駄文を書いている。
 この駄文を読んでくださっている読者のあなたとも奇跡的なご縁である。
 このご縁が、長続きすることを願ってエンターキーを押す……。
コメント

<font size="7">クラブはつらいよ(春編その二)</font>

2012-04-01 08:31:54 | エッセー
クラブはつらいよ(春編その二)
これは一昨年、モンド社の演劇部の基礎について、一年間連載した記事の再版です。地元の大阪府高等学校演劇連盟加盟校のみなさんを始め、高校演劇の生徒のみなさん、顧問の先生、コーチの方々の参考になれば幸いです。
 
 さあ、新学期! 在校生も新入生も、環境に慣れる間もなく連休に突入。気がつきゃ中間テストが目前「ああ、どないしょ!?」 クラブも気がつきゃ例年の雰囲気に流され、ダラダラとクソ……基礎練習「あめんぼ赤いな、あ、い、う、え、お」 腹筋練習にお腹ペコペコ……になり、その退屈さに、今日も一人~明日も一人~♪ と新入部員が抜けていく。そして誰もいなくなった……と、これは悪夢の想定だが。現実的に一学年がゴッソリいない演劇部は、けっこうある。わたしがこの二ヶ月あまり助っ人にいっている大阪市立某校演劇部も同様で新二年生が一人もおらず、新三年生が二人だけというお寒い状況である。今回は、前回に示したような勧誘が成功して、新入部員が五人ほど残っていると仮定して話を進めてきたいと思う。

(1)演劇部は体育会系と思わせよう。
 部活は面倒でも練習に適した体操服などに着替えること。まずカタチから部活の空気に慣れさせる。開始時間も、授業終了二十分後くらいに決めておき、たとえ全員がそろっていなくても始めよう。万一用事で遅れる場合などは必ず部長の耳に入れておく習慣を身につけさせ、無届けで休んだり遅れた場合は、部長がみんなの前で注意をしておくこと。むろん二三年生についても同様であり、部長たりとも例外ではない。わたしはつまらない基礎練習には反対なのだが、クラブのテンションを維持し、達成感をもたせるために「ヨイショ」するために一定の基礎練習はやったほうがいいと思う。
 まずランニング。ストレッチをやったあとグラウンドを二周くらいは走らせて、汗をかく。そして柔軟体操。そしてお約束の「あ、え、い、う、え、お、あ、お」「あめんぼ赤いな、あ、い、う、え、お」これで心も体もヨイショされて、やっと部活の体制にはいれる。 
(2)ここからが演劇部。
 演劇とは、他人様の前で泣いたり笑ったりして、戯曲に予定されている感動を伝える芸術である。アカラサマに言うと人をだます芸である。人をだますためには、まず自分をだませなくてはならない。
 (無対象のメソード)
 一年生を前に立たせ、梅干しの説明をさせる。最初はほんの二言三言の説明、たとえば「ちっこくて、すっぱいの」くらいしか出てこない。そこで全員で思いつくままに、梅干しについての質問をする「色は?」「表面はどんな感じ?」「歯でかんだらどんな感じ?」などなど。すると、やがてみんなの口に唾液がたまってきて、うまくいくと唾液腺が痛くなるほど、口の中にスッパサがよみがえってくる。これが芝居の第一歩である。実際にはない梅干しをみんなで共感できたのである。この共感こそが芝居の入り口である。これ、レモンやキムチに置き換えてやってもいい。
 次に、無対象縄跳び。目に見えない縄を二人に持たせ、縄を回す。そこに一人ずつ入っていく。ヘキサゴンでやっているあの大縄跳びである! これはごく簡単にできる。縄はどこにも無いのに、うまく入れたり、ひっかかたりすると不思議に分かる。「入れた!」「ひっかかった!」など、みなでキャーキャー言いながらできたら、大成功! もし人数が足りないときは、一人縄跳びから始めその中に一人入っていくという縮小版でも構わない。そして、縄跳びができたら、次に無対象のバレーボールを使ってキャッチボールをやってみる。これは案外むずかしい、投げるほうはわりと簡単だが、受けるほうがむずかしく、すぐにリアリティーを失ってしまう。「あ、今ボールが消えた!」「今の受け止め方は嘘だった!」 でもそれでいいのである。ここで無対象のむずかしさを、つまり、芝居をすることのむずかしさを実感できればそれでいい。たまさかうまくいくと見ているほうも、やっているほうもきちんと実感できる。成功するようなら、みんなで輪になってトスバレーをやってもいいし、野球のボールに置き換えてもいい。みんなで無対象で野球がやれるところまでいければ最高であるが、まあ無理はしなくてもいい。
 無対象針と糸。両手の人差し指と親指をくっつけてみる。そこで「右手に糸、左手に縫い針を持ってるつもりになって……」そして、針の穴に糸を通す。わりと簡単にできる。左利きの人は左右逆にやればいい。これができたら、今度は糸巻きから糸を繰り出し糸切り歯で糸を切り針穴に糸を通し、玉結びにして針山に刺してみる。慣れたら、一分間に何回通せるか競ってみる。目の焦点が合ってないと嘘になるので、見ていればすぐに分かる。やってみて針び糸を通すときに息を止めていることや、目の焦点を合わせることで少し疲労を感じるところまでやれれば合格。これができたら、今度は無対象で制服の上着を着て(ちゃんとボタンをとめるとこまで)、脱いでみる。針と糸に比べると格段にむずかしい。実際に着たり脱いだりして、感覚を覚える。簡単そうなことであるが意外に全身運動であることがわかる。男と女では前身ごろの打ち合わせが逆になっているので、それも試してみる。ちょっとしたことでも、男女互いに異なった感覚で生きていることが実感できる。この後は、できたらでいい。無対象で家に帰って着替えをするときの再現をやってみる。個人によっては無対象でも生理的に恥ずかしさが先にたち、できない子もいる。無理にやらせないこと、そして恥ずかしくなったのは、その子の中に人前で着替えることのリアリティーができたことを誉めてあげよう。もし、この着替えができるようなら、無対象でお風呂に入ってみる。服を順に脱いでいくところから、どうやって体を洗っているかまで精密に。たぶん羞恥心が出てきてできないと思う。むろん無理にやる必要はない。ただ、役者というのは時に羞恥心をさえ乗り越えてやらなければならないものであることを指摘しておけばいい。 
(発声についてのメソード)
 腹式呼吸を、たいていの演劇部ではやかましく言い、おへその下五センチくらいのところに手をあてて発声しなさいと、お腹をペコペコさせている。しかし、その大半は胃底部呼吸になっており、あまり効果も意味も無いと思う。そういうのが望ましいと言うにとどめておきたい。声そのものは、いわゆるマスク共鳴で、口を閉じて「う」の音でハミングをさせて顔が振動していること実感させ、口を開けて声を出すときもそうあるべきと言うにとどめておきたい。機会があれば今少し踏み込んで書ければと思う。大事なことは生きた感情で声をだせることで、声はいいが芝居はダメという役者になってもしかたがない。声には方向と目標と目的があることに気づいてもらいたい。部員を一メートル間隔ぐらいで後ろ向きに横に並ばせ、一人がその後ろ五メートルくらいの距離で「おーい」とか「もしもし」など任意の言葉をなげかける。自分に声をかけられたと思った者が手を挙げる。これは声をかける部員だけでなく声をかけられる部員の聞く力(集中力)の訓練にもなる。それが飽きたらこんどは縦に並ばせて同様にやってみる。声には方向と目標があることの訓練である。声に目的があるについては次回にまわしたいと思う。
(集中と表現力のためのメソード)

役者の神経は二重構造でなければならない。役としての神経と、その役を演じている自分をコントロールする神経である。たとえば人を刺す、あるいは殴るという演技があったとする。役としては激しく怒って興奮していなければならないがコントロールする神経が働いていないと過剰な表現になったり、演出の要求から離れた表現になるだけでなく、場合によっては相手役をほんとうに怪我をさせてしまったりすることがある。わたしも若い頃ナイフを使う芝居の稽古で女優さんを怪我させてしまったことがある。この神経を二重にするメソードは、いままでにいろんなものが紹介されてきたが……たとえば、右手で戸をたたき、左手でその戸をなでる。片手で頭をなで、もう片方の手でお腹をたたくなど。有効でおもしろい方法ではあるが、慣れてしまうと自然と体が動くようになり、神経の二重構造のための効果は低下していくし、飽きがくる。そこで新しい方法を提示することにする。  (実況中継)これは放送局で新人アナウンサーの実習にも使われている訓練方法であるが、学校のどこでもかまわない、他のクラブの部活や先生の仕事の邪魔にならないところならどこでもいい。目に入ってきたもの、自分の頭の中にある知識をフル活用して学校の実況中継をするのである。「わたしは今、○○高校のグラウンドに立っております。あいにくの雨模様ではありますが、野球部は夏の大会を目指して、部員一丸となって練習に余念がありません。部員はぎりぎりの九人、だれが欠けても試合にはでられません。しかし練習は力一杯。かたや中庭に目を転じますと、やはり、しのつく雨をものともせずに柔道部のみなさんがウサギ跳び、おっと今そのウサギ跳びの列の中を割ってはいるように横切って行った人影は○○高名物、生きる記念碑、二年学年主任の××先生……」てな具合である。その日、その時、その場所によって目に入るものが違い、いつまでたってもこの練習は新鮮である。  (自己紹介)読んで字のごとく、自己紹介である。しかし演劇部の自己紹介である。並の自己紹介ではない。できるだけおもしろく、興味深く思われるように自分をプレゼンテーションしなければならない。あとで他の部員たちに講評してもらう。どこがおもしろく、どこがつまらなかったか。聞くほうもなぜそう感じたか具体的に述べなければならない。新入生の場合たいてい声が小さい、目線が下や横を見る、体が動かない、話題に乏しく時間がもたないなど。二三年の場合でも、テンポに変化がない、声のトーンが平板、間の取り方に工夫がない、場合によっては一年よりも内容に乏しいなどなど……そして、ここからが演劇部である。一定程度に自己紹介ができるようになったら、今度は(ながら自己紹介)たとえば針に糸を通すとか、折り紙を折るとか、縄跳びをしながらなどの無対象行動をやりながら、あるいは紙に○や×、あるいは(あ、い、う、え、お……)などと書きながら、それで、話が中断したり、心がお留守になるようになってはいけない。他の行動を付け加えることで、話のリズムやテンポ、話の調子が変わって、自分でも思いもよらない変化が起こることがあり、自己表現の新発見につながることもある。
コント(UMEBOSHI)

AET(英語の外人講師) ハイ! みゆちゃん!
みゆ あ……ハックション! ジョー先生、覚えていてくれたんですね?
AET そのクシャミで覚えたよ。たしか演劇部だったよね?
みゆ ああ、そうなん……ハックション! わたし花粉症なんです。
AET おお、かわいそうね。
みゆ もう子供の頃からだから慣れっこです。わたし杉は……ハックション! 大丈夫なんですけど、檜(ひのき)がね……ハックション!
AET ヒノキ……ああジャパニーズ・サイプレスね。これからどこいくの?
みゆ ああ、中庭で友達とお弁当……クシュン!
AET おお、ランチ! でも花粉症で、外OK?
みゆ この時期、どこにいてもいっしょですから(鼻をかむ)
AET アハハ、かわいそうだけどおかしいね。
みゆ アハハ、ですね、自分でもそう……ハックション! 
AET ね、どんなオベントなの?
みゆ あ、こんなのです(弁当箱のフタを開けて見せる)
AET おお プリティーね! 玉子焼き、シューマイ、唐揚げ、ウインナーの蛸さん、ブロッコリー……おお、ここなにがあったの、ダークピンク色にご飯へこんでるね?
みゆ ああ……ハックション! 梅干しです。
AET ウメボシ?
みゆ 三時間目に、目覚ましがわりに食べちゃった。
AET おお 目覚まし時計食べた!?
みゆ ノー! 食べ物ですよ!
AET タベモノ?
みゆ えと フォー イート。ユー アンダスタンド?
AET わかってる、食いもんだろ?
みゆ 食いもん……クシュン! まあ、そうだけど。
AET どんな食いもん? 
みゆ (携帯で辞書をひく)ええと……ドライドアプリコットかな?
AET ドライ? ドライフル-ツ?。
みゆ ノー! えと(ふたたび、携帯の辞書をひく)梅の実を塩漬けにして……わかります、ウイズソルト、エンド、スクランブ……クシュン!
AET おお、そこでクシャミしてツバ混ぜる?
みゆ ノー、ノーくしゃみ! くしゃみイズ プロブレム オブ マイセルフ……クシュン!
AET おお、ソーリー。 で、どんなの?
みゆ ええと、こんくらいでね、シワシワってなっててね、色は、そのダークピンクで……濡れた感じ。
AET おお、なんだかとれたての脳みそみたいね!
みゆ あのね……クシュン! たとえがわるいよ。
AET おお、ソーリー。で、味はどんなの?
みゆ 辛い……すっぱい、かな?
AET スパイ! おおダブリュオーブセブン!?
みゆ ノー!
AET おお、ミッション インポシブル!
みゆ ノー、ノー(辞書をひく)えと、すっぱいは……おお、イット ミーンズ サワーS.O.U.R!わかります?
AET どんなふうにサワー?
みゆ 最初ね辛くてね、そいでジワーっと舌の付け根あたりからね……
AET 下の付け根?(自分の股ぐらを指す)
みゆ その下じゃないですよ舌、タング!
AET ノー 怒らないで、ちょっとボケてみただけね。
みゆ ズコ(ずっこける)
AET 食べたらどんな顔になるの?
みゆ こんな……(酸っぱそうな顔をする)
AET う~ん、いまいちわかんないなあ。
みゆ だから、こ~んなぐあいに(とびきり酸っぱそうな顔)
AET 演劇部でしょ、もっとガッバッテ!
みゆ う~ん!! もうこれ以上無理ですぅ!
AET じゃあ、これを見て(梅干しの瓶詰めを出す)
みゆ ああ……
AET 紀州梅の三年モノ。わたしの大好物ネ。
みゆ じゃあ、どうして!?
AET ドント ゲット アングリー、怒っちゃダメね。みゆ演劇部でしょ、ちょっと表現力レッスンしたヨ。
みゆ そりゃどーも! でもね!
AET それに花粉症なおったヨ。
みゆ あ、ほんとだ!?
二人 ちゃんちゃん!

 くだらないコントであるが、今回の基礎練習のいくらかが組み込まれている。一応二人とも女子の設定ではあるが、少しの変更で男子に置き換えることもできる。二人だけのコントなので、コンビを何組か作ったり、人を入れ替えてみたりやってみるといい。標準語で書いてあるが、その地方の方言でやってみるのもいい。変化を加えることで、新しい表現や個性が引き出せればすばらしい。
大橋むつお
コメント