大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・41「須磨の呟きに三人も嫌な予感がした」

2017-06-29 10:52:07 | 小説・2
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
41『須磨の呟きに三人も嫌な予感がした』




「……臭いはしませんね」

 沈黙を破って千歳が呟いた。

 返ってきたトランクは、空気を十分に抜いていない布団圧縮袋みたいな厚めのビニール袋に入っていた。
「臭いがうつらんためやろ」
「うつったら他の鑑識業務の妨げになるだろーね」
「アメリカで聞いたことあるわ、かつお節のパックが元らしいよ。匂いも風味も逃がさへんから車のガソリンタンクに応用されて、冷蔵庫のストックパックなんかにも使われてるんやて」
「そやけど邪魔やなあ」

 仮部室のタコ部屋は教室の半分もなく、返って来たトランクはテーブルの上に鎮座している。

「荷物整理して収まるようにしましょうか」
 壁面に沿って無造作に積まれた荷物の山を指して、千歳が提案する。
「整理すると、またゴミが出そうだけど」
「快適空間の確保が第一ですうー」
「せやな、くつろげる場所の確保が第一やもんな」

「「「うん!」」」

 演劇部の主題は『心地よい高校生活』である。
 
 啓介は昼休みと放課後をウダウダ過ごすため。
 千歳は、空堀高校でがんばったけど、やっぱり駄目だったというアリバイを作るため。
 須磨は、四年間幽閉されている生活指導のタコ部屋から脱出するため。
 ミリーは、解体されていく部室棟(ひい祖父さんの若き日の作品)を静かに観察するため。

 三者三様の動機であるが、真っ当な部活動などしたくもないし快適な住空間が必要という点で一致している。
 
「でも、須磨先輩って、元々のタコ部屋にいるのに平気なんですか?」
 廊下に待機して、出てきたゴミの袋詰めをしながら千歳が聞く。
「うん、一人じゃないしね、それに指導されてここに居るんじゃなくて、自主的な部活だから、全然違うよ」
「それ分かりますう! 授業中の教室はウットシイけど、昼休みとかは嬉しいですもんね!」
「ミリーも日本人の感覚になってきたんやなー」
「啓介、そこは、もう一段積んで」
「あ、こう?」
「そう、そうしたら横が空くからトランク収まるよ」
「その横も詰めたら楽勝ですよ」
「あー、それて全面積み直しになる」
「そうだよね」
「このままいってしもてええんちゃうかなあ」
「「「うん」」」
 四人の意見が一致して、啓介は「んこらしょ!」とトランクを収めた。
「じゃ、ゴミ捨てに行こうか」
「千歳、いくつある?」
「四つです」
「じゃ、行ってしまおうか、グズグズしてたら雨降りそうや」

 千歳は車いすの膝の上に、三人はそれぞれ一袋を持ってゴミ捨て場に向かう。
 グータラな演劇部だが、それなりの仲間意識生まれ呼吸が合ってきたようだ。

「よし、ほんなら部室に帰ってお茶でもしよか!」

 四つのゴミ袋を所定のゴミ捨て位置に収め、四人は部室に向かう校舎の角を曲がった。
「あれ、なんだか騒々しいですよ」
 部室の有る校舎の方が騒がしい。
「なんだか、虫が湧いたときの感じ……」
 須磨の呟きに三人も嫌な予感がした。

「ちょっと、あんたたちーーーー!!」

 生徒会副会長の瀬戸内美晴が血相を変えて詰め寄って来た!
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・40「引き取りにきてちょうだい」

2017-06-27 11:22:45 | 小説・2
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
40『引き取りにきてちょうだい』




 注目されたのは、音楽部のスタンウェイのピアノと演劇部のミイラだった。

 ピアノは、きちんと手入れすれば一千万円くらいの価値がありそうで、学校には何件もの問い合わせが来ている。

「一割くらいもらわれへんねやろか」

 解体の手始めに窓やドアを外された部室棟を眺めながらミリーが呟いた。
「一割て……百万円か!?」
 SNSに書かれている予想売価から計算して啓介が目を丸くする。
「世の中そんなに甘くないわよ、一千万もする学校備品の売却って法律的にすっごく難しいのよ」
「せめて修理とかはできないんですかね」
 千歳は、自分で発見したこともあって、思い入れが強い。
「ピアノって、調律するだけでも十万くらいするからね。あれだけ古いグランドピアノだったら、その一ケタ上だろうね」
「望み薄ですかー」
「じゃ、あのピアノはどうなっちゃうんでしょう」
「とりあえず保管されて、二三年もしたら忘れられて、また校舎の建て替えかなんかで発見されて、SNSとかで評判になって、そんでもって、とりあえず保管されて、二三年もしたら忘れられて……」
「ループしてますよ」
「それに、なんか厭世的ですねえ、先輩」
「梅雨やからでしょ、日本にきて五年目やけど、梅雨のジトジトと夏の暑さはかないません」
「ミリーはそうだろうね、あたしは……」
「あたしは……なんですかあ?」
「ううん、なんでもない」
 四回も三年生やってりゃね……と愚痴が出そうになり、アンニュイな笑顔で須磨はごまかした。

 六月の最終週になって連日の雨。それまでが空梅雨気味だったので、湿っぽく繰り言みたいな会話しかない演劇部である。

「湿気た演劇部ねえ」

 四人が振り返ると、開け放したドアのところに瀬戸内美晴が腕組みして立っている。
「生徒会副会長……」
 ミリー以外の三人が凹んだ眉になる。美晴が演劇部にやってくるときはロクな話がなかったからだ。ミリーは日が浅いので、美晴のオーラには反応しない。
「あんたらパブロフの犬か? せっかく廃部を免れたんでしょ、ちっとは演劇部らしいことしようと思わないの?」
「あーー同化の訓練中」

「同化あ?」

「梅雨時の空気に同化して、アンニュイを自分の中で作ってみる基礎練習、そ、同化の基礎練習」
「同化あ? どうかしてるわよあんたたち」
「えーーー」
「「「アハハハ」」」
 
「で、今日は、どんなご用件で?」

「警察からブツが返ってきたから引き取りにきてちょうだい」

「「「「ブツ?」」」」

「ミイラ美少女よ」

「「「「え!?」」」」

 あれが返されてくるとは思いもしなかった演劇部だった。
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・39「ミイラ事件急展開!」

2017-06-25 11:47:14 | 小説・2
高校ライトノベル・オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
39『ミイラ事件急展開!』



 ちょっと見てくれるかな

 化学の先生という感じの鑑識主任に呼ばれて、演劇部の四人は恐る恐るブルーシートの囲いの中に入った。

「結論から言うと、これは作り物だよ」
 四人は一瞬混乱した。
 視界に入らないようにしていても目に飛び込んでくるトランクの中身は、飴色のミイラ化した死体。
 そして、囲いの中に充満している強烈な腐敗臭。
 五感で感じる情報は、トランクの中身が本物だと強烈に主張している。
「作り物って……?」
 死体はミイラ化しているので、単純に病死とか殺された死体ではなく、死後に加工されたという意味に感じて疑問形になってしまう。

「手の込んだ舞台道具のようなんだ」

 鑑識主任の説明は、ほんとうに化学の先生のように明確だ。
「ウレタン樹脂が芯の上からシリコンゴムが掛けられている。髪の毛は市販のウィッグ、頭部はプラスチックの頭蓋骨の上から、同様にシリコンゴムで作られている。精巧な舞台道具という感じなんだ」
「でも、この臭いは?」
 最年長だけあって、口を押えながらも須磨が質問する。
 作り物だと言われても、この腐敗臭いは納得できない。

「臭いの元は、これだよ」

 主任はトランクの底の方を示した。
 底の方には、ミイラから剥がれ落ちた皮膚のようなものが散らばっている。
「これはスルメと魚の干物を砕いたものさ。かなり古いものなんで、臭いがほとんど腐敗臭のようになっているんだ」
 そう言いながら主任は四人の顔を見た。いつのまにか、刑事らしいオジサンも混じっている。
「君らは見覚えないねんな?」
「は、はい。なんせ古い部室なんで、ゴミみたいな古道具ばっかりで確認もしてないんです。解体といっしょに処分してもらお思てたもんですから」

「そうか、心当たりはないねんな」

 一拍置いてから、刑事が念を押した。
 どうやら、人騒がせな舞台道具が啓介たち現役の部員たちの仕業かどうかを確認したかったようだ。
 答えの内容よりは、答え方で真贋を確かめるという感じだった。
 早とちりというか誤解から生まれた騒ぎなのだが、警察の鑑識まで出てくる大騒ぎになったので、警察としては、事の顛末を明らかにしておかなければならないのだろう。

「今年一番の大騒ぎになったなあ」

 千歳が入れてくれているコーヒーのドリップ音にホッとため息をつく啓介。
「車いすの千歳が入部したこと、部室棟が文化財やて分かったこと、ミリーがSNSで一躍有名になったこと……」
「ニュースにはならなかったけど、害虫が湧きまくったこととかね」
「そもそも、それが始りやったわねえ」
「そう言えば、五人規定で潰されそうになったこともあったなあ」
「あれは感謝してます、須磨先輩」
「よしてよ、あたしはただ安息な場所が欲しかっただけなんだから」
「……あ、もうネットに出てる」

 千歳がスマホの画面を示す。

「空堀高校ミイラ発見……ミイラ騒動……今度はオカルト……アミューズメントパーク空堀高校……」
「いろんなタイトルがつくもんねー」
「あ、これ……」

 千歳が指差した画面には薬局のオッチャンが映っていた……。
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・38「これから鑑識作業に入ります」

2017-06-23 11:34:44 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)38
「これから鑑識作業に入ります」
                   



 去年の夏に、放課後のプール更衣室に侵入者がいて、水泳補講中女子の制服やら下着が盗まれる事件があった。

 しばらくセキュリテイーが厳しくなったが、三月もたつと、もとのユルユルに戻った空堀高校。
 ユルユルでも、それ以降問題が起こらなかったのは、訪れる関係者や地域の人たちのモラルの高さがあったからだろう。

 そのモラルが一瞬で無くなってしまった。

 部室棟の解体修理のための物品整理で、演劇部の部室から運び出されたトランクに、ミイラ化した死体が入っていたのだ。
 それも昔の制服をまとった女生徒だというのだから、大騒ぎだ。
 スマホとSNSの時代なので、発見の二分後には写真や動画付きで流出してしまい、パトカーが到着した時には、野次馬やマスコミが流入してきた。

「だめだ、鍵がかかっている」

 警官がトランクを検分した時には鍵がかかってしまっていた。
「さっきは開いていたんですが」
 生活指導の先生がトランクを閉じた時に、はずみで鍵がかかってしまったようだ。
「鑑識が来るまで手はつけられないなあ」
 警官は規制線を張り、先生たちは中庭にまで溢れた野次馬を校外に押し戻し始めた。

「しかし、この臭い、死体に間違いはないなあ」

 警官たちはハンカチで鼻を覆いながら所轄に連絡を入れている。
「演劇部の人たちに来てもらいました」
 美晴は、演劇部の四人を示した。
「発見者の話から聞くから、ここで待機してくれる」
 そう言うと、警官は、藤棚の下で待機している発見者たちの方に足を向けた。

 やがて濃紺の鑑識車両が正門から入って来た。

「これから鑑識に入りますんで、校舎の二階以上にいる人たちに退去してもらえませんか」
 近ごろの警察は鑑識作業を見せない。先生たちに指示すると、半分の鑑識さんたちはブルーシートを目隠し用に張りだした。

「えー、あんなに校舎の中に居てたんやねえ」

 ミリーが呑気そうに言うので、啓介は振り向き、須磨は車いすの千歳ごと向いた。
「あれ、薬局のおじさんじゃない?」
 校舎の出入り口から追い出される野次馬たちの中に懐かしい禿げ頭を発見した。
「他にも商店街が居るなあ」
「いつもはお行儀いいのにね」
「でも、みんなかわいい」
 たしかに、追い出される商店街の人たちは、いけないところに隠れていたかくれんぼうのように照れながら出てくる。
「あ、おじさんも気が付いたみたい」
 頭を掻きながら、薬局が手を振った。

「じゃ、これから鑑識作業に入ります」

 鑑識の主任が告げると、現場の空気がピリッと引き締まった。

 カチャリ

 ブルーシートの中で密かな音がした。トランクが開いたのだ。
 腐敗臭がマックスになってきた。

「これは……」

 鑑識主任の呟きで現場の緊張感の糸が張り詰めた。

 
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高校演劇・創作劇のいたしかた(^:^)%

2017-06-22 06:33:07 | 演劇作法
高校演劇・創作劇のいたしかた(^:^)%


1・ドラマの構造を知ろう!
 わたしの居る大阪は、異常に創作劇が多いところです。大阪府高校演劇連盟のコンクール出場校の90%以上が創作劇です。
 わたしは、これに警鐘を鳴らし続けてきました。コンクールの最優秀の学校でも、表現はともかく本が書けていません。もう、根負けしたところがわたしにもあります。
 で、それならば、いっそ、創作劇の書き方を折に触れて書いてみようと思いました。

まず本を読もう!
 野球を観たことも無い人は野球はできません。ちなみに、わたしは未だに野球のルールが分かりません。それと同じ事で、戯曲(脚本)を読んだことの無い人が、本を書くのは、わたしが野球をやるようなものです……でも、戯曲というのは、小説などと違って、基本的に台詞だけで出来ています。読むのが辛いですよね。そこで代案を考えました。

映画を観よう!
 DVDでけっこうです。ドラマの構造を、これで勉強しましょう。
 お勧めの映画を紹介しておきます。『スウィングガールズ』『三丁目の夕日』です。『三丁目の夕日』は1~3まであります。できたら、3本とも観た方がいいのですが、第一作だけでもけっこうです。
 ドラマというものは、起承転結でできています。例えば以下のようです。

 ――サザエさんがお風呂に入っています。
 ――母親のフネさんの「お風呂に指輪落っことしたから探して」という声。
 ――「しかたないなあ」と、サザエさん。「ん、これかな?」と風呂の底で何かを発見、引き上げます。
 ――指輪と思ったものは、指輪ではなく湯船の栓に付いているリングで、お湯が流れ出し裸のサザエさんが真っ赤になって、チャンチャン!

 この構造を、作品から読み取って下さい。『スウィングガールズ』の場合、上野樹里の鈴木友子が、夏休みに数学の補習を受けているところから始まります。
 退屈していると、グラウンドにバス。吹奏楽部員達が野球部の応援に行きます。補習がイヤでたまらない友子は、そんな吹奏楽のバスを見て、ため息。
「いいよなあ、吹奏楽は……」
 バスが出た直後、にお弁当屋さんが、遅れて吹奏楽のお弁当を持ってきます。
 バスは出た後なので、お弁当屋のオジサンは困ってしまいます。そこで、友子は思いつきます。お弁当を弁当屋さんに代わって届けてやれば、補習をサボレます。
 で、「先生、お弁当屋さん困ってますよ」と、提案、見事に、補習をサボルことに成功します。

 この中に、起承転結の構造があることが分かると思います。そして、この部分が、この映画の前半の起に当たります。で、ここで工夫があります。友子たちが、お弁当屋さんの代わりにお弁当を届ける必然性がいります。作者は、ここで、お弁当屋さんが、お通夜の仕出しの配達が入っていて、自分では届けられないという状況を用意しています。
 そして、竹中直人が演ずる補習の先生も、補習するのがイヤで、その話にのってしまうことになっています。

 このように、ドラマというのは、小さな起承転結があり、それが全体の起になり、承に、転に、結になっているものなのです。まず、その構造を頭に入れてください。

2・アイデア帳をつけよう
 無から有は生まれません。
――さあ、ドラマを書くぞ! という段階で、頭の中がカラッポでは、芝居は書けません。書いたとしても、ひどくウスッペラでご都合主義で、むりやりツジツマをあわせたものしか書けません。
 審査員は、こういうとき、こう言います。
「言いたいことは分かるんだけど……」という枕詞を付けて、「あそこは、あーで、こーで、惜しかった」で、創作脚本賞など出してお茶を濁します。高校演劇の審査というのは相対評価で、必ず最優秀と創作脚本賞、個人演技賞などを一定の割合で出さなければならないのです。だから、もらった方は「やったー!」という気になるし、観ているほうは「ああいうのが良いんだ!」と、未熟なものをサクセススタイルと思いこんでしまいます。これが、高校演劇の凋落に拍車をかけています。その証拠に全国大会でも観客席は満席になることがありません。
 
 演説はこれくらいにして本題に。
 アイデア帳というのは大したものじゃないんです。面白いと思ったことは、その場でメモをとるようにしましょう。
 わたしのアイデア帳の一部を紹介します。ほんとは企業秘密なんですが、もう使用済みのものや、だれでも思いつきそうなものを列挙していきます。
 最近は、歌手もアナウンサーさえも鼻濁音に無頓着『鼻濁音殺人事件』 
 警察では人相着衣のことを「人着にあっては、どうのこうの」という専門用語を使う。 
「ここではきものを脱ぐ」履き物を脱ぐやつと、着物を脱ぐやつが現れるなあ。 
「わたし、自分の名前嫌いなんです」「なんで?」「だって、イニシャルHGですよ」「それがどないしたん?」「だって、HGはハードゲイでしょ」 よく聞くと、親の離婚でHGになってしまったようだ。 
 いつも7階までエレベーターで上がってきて、一階分だけ階段を使っている子がいる。まだ、子どもなので、8階のボタンに手が届かない。
 海上自衛隊では毎週金曜日にはカレーライスを食べる。なぜか? 海の上にいると曜日感覚がなくなるから。 
 なぜ、横書きの日本語は左から右に書くのか。戦前は右から左が原則。だけど歓楽街にいくと左から右もあった。なぜか? 戦時中、南洋庁という植民地支配のための役所が、植民地の人たちが日本語を覚えやすくするために、通達を出して、戦後の閣議で追認した。だから日の丸なんかよりずっと軍国主義の遺産。でも、だれも何も言わない。どうして? ちなみに「大阪府庁」の看板は、いまだに右から左だ。
 スクランブル交差点、国防婦人会、ノーパン喫茶、こういうものは大阪で始まったものが多い。
 東京では、エスカレーターの右側を開ける。大阪は左側。境目は名古屋あたりか?
「山手線」を「やまてせん」とよぶのは地方出身者。江戸っ子は「やまのてせん」と言う。
 大阪でいう「レーコ」は東京では通じない。アイスコーヒーのこと。
 冷たいものを口にして頭が痛くなることを「アイスクリーム頭痛」という。これ、れっきとした専門用語。 最近の、大阪の女子高生は、自分のことを「オレ」という。東京では「ボク少女」と言うそうな。
 AKB48のタカミナの家に泊まった、あるメンバーはタカミナのパンツを借りて返さない、と、テレビでタカミナがぼやいていた。
 ヘビーローテーション、フライングゲット、みなネーミングがいい。両方とも放送局や、ダクショの専門用語。秋元康のアイデア帳もたいしたもの。
 校内で10万円のお金を盗まれた子がいたっけ。クラス全員拘束して調べたけど、今の学校は持ち物検査も出来ない。「ごめん。学校は警察ちゃうから、これ以上は調べられへん……」「……先生、ありがとう」その子は無言で涙目になって礼を言う。「警察に被害届出してもええねんで」言いながら冷や冷やもの。「うん」と言われれば、警察が捜査に乗り出す。学校としては困る……それを察したのか「もういい」と、彼女。10万円は、その子の家の、家賃やら、水道代やら、その子が、学校の帰りに振り込むことになっていた。学校で盗難は多いが、金額的にも内容的にも許せない。もう一度「ごめんな」と言う。彼女の目が涙で溢れる。衝動的に俺に抱きつこうとする。ここは素直にハグしてやるべきだ! しかし、先月、似たようなことでセクハラを取られ、戒告になった同僚のことが頭に浮かび、一瞬の逡巡。彼女はすぐに、それを察し、身をひいた。寂しいことだった。 
「でんでれりゅば、出てくるばってん。でんでられんけん出てこんけん、出てこられんけん、こん。こん」パッソという車のCM。「でんでれりゅうば」は長崎の手遊び。大阪には「ちゃちゃ壺、ちゃ壺、ちゃ壺にゃ蓋がない」というのがある。それよりも難しい。でも無邪気で、リズムがいい。調べてみると、長崎の遊郭のお女郎さんの話しがもとだとか「出られるものなら出ていくんだけど、出られないから、出て行かない。来ないよ、来ないよ」になる。
 名古屋では、自転車のことを「ケッタ」という。ケッタイな話し、ちなみに、大阪の「チャリンコ」は東京では通用しない。ただの「チャリ」である。
 『上からマリコ』というAKBの曲が、ちょっとヒット。これ少しひねったら『上からアリコ』いけるかも(今、このタイトルで、ネットで連載中)

 並べあげるとキリはない。それに、未使用のアイデアは書けません。

3・本書きは失恋しよう
 世の中には、モテるやつと、モテないやつがいます。作家はモテないほうがよろしい。
 モテないやつは失恋の連続です。自然とモテない人の話や、失恋に敏感になります。
 わたしは失恋の連続の人生でした。そういう人間が『ロミオとジュリエット』を読むと、あることに気づきます。台詞の中だけですが、ロミオはジュリエットを好きになったとき、ロザライン(ロザリンドの訳もあり)という、恋人がいました。どの程度の仲かは、わかりませんが、ロミオはかなり彼女の店に通ったようです。ロザラインは、なかなか良い返事をしてくれません。そこで出会ったのがジュリエットなのです。
 女の子の心理としては分かりますよね。「好きだ」と言われて、簡単に「わたしも」とは、なかなか言えません。ロミオはジュリエットが一目惚れするような、イケメンです。ロザラインも憎からず思っていたはずです。しかし、シェ-クスピアのオッサンは、彼女については、その後、一言も語りません。わたしは、このロザラインにひどく同情しました。そして『ロミオにフラレたロザライン』という本ができあがりました。
 
 作家は、弱い心、弱い立場に敏感であったほうがいいようです。
 太宰治。名前ぐらいは知ってますよね、『走れメロス』で有名です。友人セリヌンティウスを助けるために、メロスはひたすら走ります。ときに気持ちがくじけそうになりますが、見事に完走して、処刑される寸前のセリヌンティウスを助けます。
 この作品は、友情、約束の大切さという間違ったテーマで、教科書に載せられていました。太宰が書きたかったのは「待たせる者の苦悩」なのです。
 このメロスの話には、裏話があります。太宰が友人たちを連れて、旅館に連泊して遊び倒します。ある日オカミから「とりあえず、昨日までの料金を支払って欲しい」と、言われます。しかし、だれもお金を持っていません。そこで太宰は、友人たちに宣言します。
「ぼくが、一足さきに東京へ帰って、お金を都合しよう。みんな、ボクを信じて待っていてくれ!」
 で、太宰は、それっきりドロン。友人たちは非常な苦労をし恥をかいて東京に戻ってきます。
「太宰、おまえは、ひどい奴だ!」と、罵られます。
「君らに、待たせる者の苦悩が分かってたまるか!」これが太宰の返事でした。
 その気持ちを正当化するために(と、わたしは思っています)書かれたのが『走れメロス』なのです。
 戦時中、空襲警報が鳴って、太宰は家族といっしょに防空壕に非難します。幼い娘さんがグズるので、太宰は『カチカチ山』の絵本を読んでやります。『カチカチ山』では、タヌキが悪者で、田畑を荒らすので捕まえられ、タヌキ汁にされかけます。それを助けてくれたオバアサンをだまして怪我をさせて逃げたことになっています。で、ウサギさんが義侠心から、正義の味方になってタヌキを泥船に乗せて、溺れ死にさせてしまいます。ところが、太宰の娘さんは、こう言いました。
「タヌキさん、かわいそう……」
「どうして?」太宰は聞きました。
「敵討ちはいいけど、ウサギさん、やりすぎ」
 タヌキは、カチカチ山で、背中に大やけどをさせられ、そのあとはヤケドの薬とウサギに騙されて、カラシをヤケドに塗りつけられます。そして、お馴染みの泥船に乗せられて殺されてしまいます。敵討ちにしては、ウサギのやりようは執拗で残酷です。で、太宰は思い至ります。
「この執拗さと残酷さは、ティーンの女性特有のものだ!」
 わたしも、この太宰の説には大いにうなづけます。そういう経験は豊富ですから。
 そうして太宰は『お伽草子』の一つとして『カチカチ山』を書きます。ウサギはティーンの女の子。タヌキは中年のオッサン。このオッサンタヌキが、美少女ウサギに惚れます。タヌキはウサギの気持ちを引こうと涙ぐましい努力をします。ウサギはただウザイだけ。で、さまざまな意地悪をし、最後に泥船に乗せます。溺れるタヌキに、ウサギは船の櫨(オールのようなもの)で、タヌキにトドメをさします。タヌキは最後に叫びます。
「惚れたが悪いか……!」
 ウサギは、額の汗をぬぐい。
「ほ、ひどい汗」
 こういう視点が作品を生みます。

4・シンデレラと白雪姫
 作家の目の話しの続きです。『シンデレラ』は比較的に素直に喜んでハッピーエンドを受け入れられます。
『白雪姫』は、そうはいきません。白雪姫は悪い后によって、毒リンゴを食べて仮死状態になります。で、白馬の王子さまが現れて、白雪姫にキスをして、姫を助け、メデタシメデタシになります。
 しかし、(ひねくれた)大人の目から見れば、王子さまの、この行為は大変なことなのです。姫を助けたということは、姫の味方となり、悪い后の国と戦争をやらなければならず、始めた戦争には勝たねばならず、勝ったからには、新しい領土を平穏に統治せねばならず、当然まわりの国々は、大きくなった王子さまの国を警戒します。地域の政治的、軍事的バランスが崩れるからです。そんなことをなにも考えずに白雪姫にキスをするのは、あまりに軽率です。だから、王子さまは苦悩するはずなのです。白雪姫はクチビル一センチまで近づきながらキスをしてくれない王子さまに焦れる(じれる)はずです。ここにドラマが始まります。わたしは、ここに赤ずきんちゃんを登場させ、『ステルスドラゴンとグリムの森』という話を書きました。
 一言で言えば、人とは違う視点でモノを見ることが大切ということです。

5・気持ちや状況を説明してはいけない
 時々芝居に語り手を置く場合があります。ナレーター、狂言回し、MCなどと言い方やスタイルは様々ですが、要は説明役です。
 
 昔々、あるところにオジイサンとオバアサンがいました……という類の説明をします。はなはだしいときは、影マイクで済ますときもあります。語り手を置く場合は、かなり語り手に力がなければできません。
 だって、そうでしょう。授業中どれだけ先生の話を聞いていますか? 全校集会で、校長先生や、生活指導の先生がいくら喋っても、ほとんど聞いていませんね。

 舞台も同じです。オジイサンとオバアサンは説明しなくても登場すれば分かります。モンタギュー家とキャピュレット家が対立していることは、説明しなくとも、両家の若者たちにケンカをさせればすぐに分かります。だから、『ロミオとジュリエット』の芝居は、このケンカから始まります。冒頭にちょっとした説明役が出てきますが、これはシェ-クスピアの時代の芝居の約束事のようなものです。マイクも照明設備も無い時代です。
「さあ、これからお芝居を始めますよ。みなさんお静かに」
 この程度の意味しかありません。これ無しで芝居を始めたら、ざわついている観客席は静まらず、いきなりケンカのシーンなど始めたら、観客はほんとうにケンカが始まってしまったと思いかねません。そのためで、語る内容も、原稿用紙で一枚分ぐらいしかありません。
 まずは、語り手を置くのは、あまりいい方法では無いと申し上げておきます。

 役者にも、あまり説明的な台詞を喋らせてはいけません。あくまでも人間の葛藤として描かなければなりません。
 有名な『ロミオとジュリエット』の第二幕、第一場、キャピュレット家の庭園。バルコニーと庭に別れて、ロミオとジュリエットが、互いの思いを語るシーンがあります。原稿用紙で八枚ほどあります。
 この場の主題は「愛しています」なのですが、6000字あまりのこのシーンに「愛しています」は一度も出てきません。どうして愛する相手がカタキの家の人間なのか、という嘆き。それを超えても愛したい! 愛している! ということを言葉を尽くして語らせあいます。互いの言葉が、互いの恋心を高めるしかけになっています。そして、愛の語らいの場は、キャピュレット家の庭なのです。ロミオは、そのカタキのモンタギュー家の若様なのです。見つかればただでは済みません。その状況への気遣いと、一瞬でも長く二人で居たい気持ちの葛藤に満ちています。で、このシーンの主題は「愛しています」の、六文字なのです。シェ-クスピアは、それを字数にして千倍にして、しかも飽きさせません。本屋さんで、このシーンだけでいいですから立ち読みしてください。シェ-クスピアのスゴミを分かるのには一番いいシーンです。

6・特殊をもって普遍とするなかれ
 ちょっと難しいタイトルなので、例をもって説明な替えたいと思います。
 なんだか、対立していた者たちが、最後に和解して互いのいたらなっかったことや、間違っていたことを理解するカタルシス(心的浄化)を描きたいとします。そのために特殊な状況を作り出す手法です。
 イジメのために生徒が自殺します。遺書が残されました。加害者と思われる生徒たちの名前が書いてあります。そして、その親たちが学校に呼ばれ、事情を聞かれます。死んだ子の遺書も見せられます。
「うちの子が、そんなイジメをする側にまわることなんて、あり得ない!」
 親たちは、そう信じようとして、集められた他の親たちの子どものせいだと言い合います。
 次に、死んだ子が弱かったんだ、死ぬなんて当てつけがましい。とまで言い出します。しかし、しだいに真相が明らかになり、自分たちの子が死んだ子を追いつめたことを悟ります。そして、死んだ子に申し訳ない気持ちで一杯になり、自分たちこそ、子供たちに向き合っていなかったことに気づき、互いに和解し、死んだ子のの冥福を祈ります。
 わたしは、こういう芝居の書き方は「演劇的な殺人」だと思い、そういう書き方をしないことを戒めとしております。
 こういう本を書く人は、最初に和解などのカタルシスが書きたいのです。そのために現実的ではない状況を作り出してしまいます。
 イジメが原因で自殺にいたることは、ごくまれです。まれであるからこそ、マスコミは取り上げます。わたしは三十年教師をやって、六人の生徒の死に出くわしました。全員が交通事故です。高校生の死因で一番多いのは交通事故なんです。ありふれているので、マスコミはほとんど取り上げません。しかし、肉親にしてみれば、自分の子どもの死に違いはありません。
 わたしも、イジメや不登校を題材にして二本ほど書きましたが、子どもは死なせていません。死なずに耐えているのが普通なのです。中には、去年までイジメられていたのが、今年になるとイジメる側にまわることもあります。これは難しくいうと、集団の中で生きていくための人間関係の持ち方のネガとポジなのです。
 もし、かりに、本当にイジメのための自殺があり、そのことを芝居にしたいことがあったとしましょう。実際数は少ないですが、存在することです。
 現実に起こった出来事を素材にする場合は、かなり厳密なフィールドワークが必要です。自分が作家としてカタルシスを描きたい。作家として賞賛されたい。そういう気持ちで、現実に起こった出来事を素材にするのは、その出来事の関係者、当事者の方々への冒涜になります。
 現実の出来事を扱う場合、当事者、特に被害に遭われた方々への深いシンパシー(共感です。同情ではありません)を持たなければなりません。シンパシーの無い作品は、観れば分かります。シンパシーを持っている作品も分かります。井上ひさしさんの『父と暮らせば』 村上春樹さんの『アンダーグラウンド』など、その典型です。

7・とりあえずのまとめ
 本の書き方を述べるというのは、「どうやったらカレやカノジョを口説けるか」を、相談相手の顔を見ないで、答をいうようなものです。カレやカノジョへの告白の仕方というのは、誰が、誰に、どんな状況で告白するのかで千差万別です。
 芝居も、誰が、どんな役者を使って、誰に観せるのか、どんな上演目的か、そして何を書きたいのか、どこで上演するのかなどで、書き方は変わってきます。
 もし、コンクールで優勝を勝ち取りたいなら。あ、べつに皮肉じゃありません。コンクールは競技会です。優勝を目指してあたりまえです。わたしは、この姿勢を積極的に支持します。
 等身大の高校生の生活を描いてみましょう。テーマは「友情」ぐらいがいいでしょう。他に「友だち以上、恋人未満」「進路、正直実感湧きません。不安はあるけど」「約束」「先輩の心から見える高校生活」「これってイジメ?」「女子高生にとってのイケメンとは!?」「男子高校生にとってイケテル彼女とは!?」この逆もいいですね。「男子高校生にとってイケメンとは?」「女子高生にとってイケテル彼女とは!?」「ウザイ先生との距離の取り方、そこから見えてくる高校の現状(今またはNOW)」ちょっと考えただけで、これくらいのものがすぐに出てきます。審査員うけ……これも悪い意味じゃありません。審査や、審査員の傾向を知って作戦を練ることは、他のジャンルでは、ほとんど当たり前です。

 念のため、これは高校演劇に審査基準がないことへの遠まわしな批判です。

 では、どうやったら、等身大の高校生が書けるのでしょうか?
 簡単です。ネットで、上に書いたテーマ、むろん他のことでもけっこうです。検索してみてください。ヒントや情報は山ほどあります。審査員は基本的に、現場の高校生を知りません。自分自身のフィルターがかかっています。マスコミのそれであったり、観客として見ている高校生です。そこに照準をあてましょう。
 もし、もう一歩踏み込んで、借り物ではない感性で本を書きたいのなら、自分で調べましょう。生活指導や進路指導、保健室の先生に「うちの生徒の特徴とか、問題はなんでしょう?」と聞いてみてください。普段君たちが思いもしなかった自分たちの姿を教えてもらえます。

 わたしが、コーチをしていた学校で、生徒が、こんな叱られ方をしていました。
「分かってもいてへんのに、すぐに『はい』ていうな!」
「はい!」と、生徒の返事。
「それや、それが、あかんのや!」
「は、はい……」
 まるで漫才でした。ここからドラマが書けるなあと思いました。

8・最後に、やっぱり……
 本当に、アンチョコではなく本を書きたい人は、戯曲を50本、自分たちより上手いお芝居を10本は見てください。他のブログでも書きましたが、故藤本義一という、大阪を代表する作家の方は、「先生、芝居を一本書いてもらえませんか」と、頼まれ、こう言いました。
「ちょっと待ってください。勉強してから書きます」
 そう言って、藤本さんは100本の戯曲を読んでから、書くことを始めました。
 充電しない電池は放電できない。当たり前の話です。

 司馬遼太郎という偉い作家がいらっしゃいました。ご生前、東京の劇団から戯曲を依頼され、二本だけ書かれました。それ以後は一本もお書きになっていません。
 太宰治も「演劇界に原爆を落としてやる!」という意気込みで戯曲を書きましたが、やはり二本です。
 さほどに、本気で取り組むと、ムツカシイものなのです。それを承知の上で、戯曲を書く人が現れるのを待っております。
 ちなみに、わたしは20歳から書き始め、延べ150本ほどの作品があります。
「大橋さん。代表作とか自信作はなんですか?」
 そう聞かれたら、こう答えます。
「次に書く本」

後書き
 一応、これでおしまいです。あんまりゴチャゴチャ書いては、かえって分からなくなります。後日、書き足したほうがいい、書き直した方がいいということが出てきたら、手を加えます。では、腰を据えていい本を書いてください。
 もし、4月以降にこのブログを読んだ人は、今年度の創作は断念したほうがいいと、思います。台詞を並べただけでは戯曲ではありません。ただのプロットです。自分で読み、みんなで読み、実際演技として立体化して、何度も手を加えなければなりません。慣れていても、本書きに3ヶ月。稽古も最低3ヶ月はかかります。
 コンクールには、少し間に合いません。そういう人は来年のコンクールを目標に勉強してください。
「そんなあ~」
 という人は、部室の中から先輩たちが演った本を引っぱり出してください。一度は観客や、審査員の目をくぐっています。むろん、そのときの記録や改稿した分が残っていなければ意味がありませんが。一度探してみてはどうでしょう。

      〈完〉
 

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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・37「トランクの中身は……!」

2017-06-21 11:41:13 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)37
「トランクの中身は……!」
                   




「「「「「「キャーーーー!」」」」」」

 中庭にこだます悲鳴!

「え、なに!?」「きゃ!」「なに!?」「なんだ!?」
「ちょっと見てくる!」「なにごと!?」「見にいこ!」

 部室棟の中を捜索していた演劇部員たちは、ほかの部室棟の住人たちと中庭に飛び出した。

 車いすの千歳と、付き添っているミリーが部室棟を出た時には人だかりがしていた。
 どうやら、部室棟から運び出されたガラクタが並べられている、演劇部の札が立てかけられているところだ。
「わ、わたしいい」
 人だかりに怯えたのか、なにかを予見したのか、千歳は車いすを止めて尻込みした。
「ほんなら、ここで待ってて」
 安全な場所に車いすを停めると、ミリーは人だかりの中に突入した。
 人だかりの中心からは変な臭いがして、みんな手やハンカチで口と鼻を押えている。

 OH MY GOD!!

 めったに出ない母国語が口をついた。
 人ごみの真ん中には古ぼけたトランクが口を開いている。
 そして、トランクの中には信じられないものが海老折になって入っていた。

 それは、古いセーラー服の制服を着てミイラ化した死体だ。

「見るんやない!」
 立ち会っていた松平先生がトランクの蓋を閉めたので、ミリーが見たのはほんの一瞬だった。
 でも、その姿は一瞬でミリーの脳に焼き付いた。

 くぼんだ眼窩には乾ききった梅干しのような眼球が収まり、鼻の先は欠落して二つの鼻孔が露わになっていた。
 唇は周囲の皮膚と一緒に乾ききってめくれ上がり、異様に白く見える歯列が覗いている。
 長い髪は整って、上になっている左頬を隠しながら体に掛かっていたが、古い絹糸の束のように艶が無く、幅広のカチューシャだけが艶めいていた。

「うーーーーえらいもん見てしもたあ」

 部室に戻ったミリーは腕組みをしたまま椅子に座り固まっている。
 啓介も口を利かない。
 須磨は椅子を車いすに寄せて千歳の手を握ってやっている。
 四人とも中庭の方を見ようとしない。
 中庭には、運び出されたガラクタが並んでいて、その真ん中には古いカーテンを掛けられたトランクが鎮座している。
 
 部室棟残留物の捜索は打ち切られ、急きょ現状保存のためのロープが張り巡らされた。

 他の文化部員たちは早々に下校したが、トランクの出所が演劇部の部室だったので、発見者の生徒たちと足止めを食っているのだ。

 梅雨時の湿った空気のせいか、地獄の使者を思わせるくぐもったサイレンが響いてきた。

「警察が来たわ、大変だけど中庭に集まってちょうだい」

 生徒会副会長の美晴が、四人を呼びに来た……。
 
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・36「最後の立ち入りを許可します」

2017-06-19 12:19:17 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)36
「最後の立ち入りを許可します」
                   



 部室棟の周りに足場が組まれた。

 本格的な解体修理作業が開始されるようだ。


「四時から五時まで最後の立ち入りを許可します」
 
 昨日の部長会議で、瀬戸内美晴が通知した。
 解体修理が決定した先週、一応の運び出しはやったのだが、なんせ築八十年、いろんなものが溜まっている。

「今回は、自分のところ以外の部室を見てもらいます。ちがった目で見れば、見えてくるものも変わってくると思うからです。不要なものは解体に伴い全て搬出されて廃棄されます。今回搬出したものはいったん中庭に出してください、先生や同窓会の方々にも見ていただいて、最終的に保存するモノを決定します」

「瀬戸内さん、賢い人ですねえ」
 お茶を入れながら千歳は感心した。
「そうか、この部屋は、これ以上は入れへんで」
「そうだろうけど、啓介はめんどくさいだけだろ?」
「俺は、グローバルクラブの再建に忙しいんです」
「なにい、そのクラブ?」
 先週入部したばかりのミリーには分からない、啓介は「しまった」という顔になり、須磨と千歳はクスクス笑っている。
「あとで教えてあげる。それより金目の物を見つけたら、必ずチェックね」
「お、売り飛ばして演劇部の資金に!?」
「ばか、演劇部のイメージアップよ。少しでも学校に貢献して置けば、さきざき風当たりも弱くなるでしょ」

 先月の部員定数問題では、生徒会の盲点を突いて、演劇部の存続を認めさせた須磨を単なるマキャベリストかと思っていたが、一目置く気持ちになった啓介だ。

 部室棟の中は解体寸前で、部室どころか、廊下もゴテゴテしている。
 邪魔になってはいけないので、千歳は中庭で待機しているつもりだった。

「いっしょに行こ」

 ミリーが車いすを押し、須磨が先導して部室棟の中に入った。
「さすがに二階はむりだなあ……」
「あたし、千歳といっしょするから、先輩は啓介と周ってください」
「サンキュ、じゃ、そういうことで」
 演劇部は二班に分かれて捜索に掛かった。

 ほとんどの部室は手つかずと言っていい状態だった。

 なんせ八十年以上ほったらかしの校舎で、部室棟になってからも半世紀が経過している。
 残している品々は、備品というよりはガラクタ……というよりはゴミの山だ。
 美晴が、最後にもう一度見ておこうと言ったのは、このまま取り壊したのでは学校の評判に傷がつくと思ったからかもしれない。

 千歳とミリーのコンビは三つめの音楽部の分室に踏み込んだ。
「あ、あれ、ピアノ?」
 車いすの視点の低さが幸いしたのか、ガラクタの下に覗いたピアノの脚に気づいた千歳。
「どれどれ……」
 ミリーがガラクタをかき分ける。
「よいやっさ!」
 乗っかっていたガラクタをカバーの布ごと引き落とす。

 すると、ホコリまみれのピアノが現れた。

 ピアノは、元々の脚は無くなって、ボディーだけだ。
 千歳が気づいたのは、脚の根元で、普通の目の高さでは気づかないように思えた。
「……これ、スタンウェイやんか!」
「え、スタンウェイ!?」
 ミリーも千歳もピアノをやっていたので、その値打ちが分かる。
 世界的な名器で、ものと状態によっては一千万円以上の値打ちがある。

「「す、すごい!」」

 二人が感動したのと同時に中庭でも歓声……いや、悲鳴が上がったのだだった!

 
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・35「アジサイよりも早く」

2017-06-17 11:09:39 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)35
「アジサイよりも早く」
                   




 あれっと思った。

 パパさんが新聞を広げ、雄太さんがタブレットをスクロールして、ママさんとお婆ちゃんがテレビのワイドショー、千代子がスマホ。


 見た目には変わらない朝の食卓なんだけど、それぞれ見ているものが違う、昨日までとは。
 パパさんと雄太さんは連日のキョ-ボーザイとかカケガクエンとかの最新ニュースを見ては親子で言い合いをしていた。
 もちろん深刻な論議になることはなかったけど、やっぱ、日本でも大人たちは、時事問題というか、社会や国のことを考えているんだなあと思った。
 パパさんが広げているのはA新聞じゃなくてスポーツ新聞だ。
 雄太さんのタブレットは、ポリティカルな動画サイトではなくてネットゲームだ。
 ワイドショーはパンダの赤ちゃんとアジサイの名所を特集している。

「千代子はいつも通りやなあ」

 そう言うと、虚を突かれたようにワタワタした笑顔を向けて「アハハハ」と顔を赤くした。
 千代子は彼が出来たようで、スマホでチェックしているのは彼からのメールばかり。もともと朝食でのメールチェックは千代子の日課だけど、メールの相手が彼だと気づいているのは下宿人のミリーだけだ。

「ミリー、気ぃついてたん?」

 駅までいっしょの通学路で千代子が聞いてくる。
「うん、隣に座ってるし、微妙にパパさんママさんから見えへんように画面傾けてるやろ、あたしからは丸見えやねんで」
「あ、えと、しばらく内緒ね」
「分かってるよ、そやけど、パパさんら見てるもんが変わったね」
「え、そうなん?」
 ミリーは朝の食卓の感想を述べた。
「そら、共謀罪成立してしもたしなあ、もう、おもんないんちゃう?」
「そうなんかなあ」
「うん、ミサイルのことも、もうトレンドやないし」
「そうか……」
 ミサイルが発射されて新幹線までが停まったのが、遠い昔のように思われる。

「あれ?」

 立ち止まりはしなかったが、コンビニに目を向ける千代子。
「なに?」
「昨日までは、ミリーのこと見てる男の子らがおったんやけど」
「え、そんなんおったん!?」
「うん、学校の部室棟のことでネットとかに載ったやんか、先週は新聞にも載ったし、あれから密かに注目されてたんやで」
「そんなん、言うてくれやなら!」
「ハハ、そんなガッツかんでも、ミリーはモテモテやろ~し」
「いやあ、そんなことあれへんよ!」

 千代子と上り下りに乗り別れた電車の中でスマホをチェックしてみた。

――アクセス頭打ちにになってきたなあ――
 
 部室棟のことで先週までは、ちょっとしたアイドルという感じだったが、世間は急速に感心を失ってきているようだ。

――まあ、こんなもんやねんやろけど、ちょっと早すぎへん?――

 改札を出ると、植え込みのアジサイが目についた。
 昨日まで青っぽかったアジサイは赤っぽく色を変えはじめていた。

 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・34「部室棟が見える窓」

2017-06-15 13:28:30 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)34
「部室棟が見える窓」
                   




 へーーここがタコ部屋やねんなーー!

「よかったら入りませんか」
 千歳が勧めると「うん、ありがとう! よっこらせ!」と、ミリーは窓から入って来た。
「あ、ごめん!」
「わ! あわわわ……」
 自分の間近に着地したミリーは、狭い床にタタラを踏んで、延ばした両手で千歳の胸を掴んでしまった。
「いや、ほんまにごめん!」
「あ、あ、ごめんはいいですから、手をど、ど、どけてください」
「ごめんごめん!」
 慌ててどけた手を、握ったり開いたりするミリー。
「自分以外の女の子のオッパイ初めて触った……アハハ、なんやったら、うちのオッパイ触ってみる?」
 胸を突きだしたミリーに、両手をブンブン振ってイラナイイラナイをする千歳。
「今からお茶にするから、空いてるとこ座れや」
「うん、おおきに!」
「えと、紅茶とコーヒーどちらにします?」
「うちはコーヒー、あったらミルクも砂糖も」
「おれもコーヒー」
「あたしは紅茶」
「はい、じゃ、これお茶うけです」
 
 千歳は器用に身体を捻って、背もたれの後ろからお菓子の袋を三つばかり取り出した。

「千歳の車いすって、いろんなものが付いてるのねえ」
「電動アシストにしたんで、ちょっと余裕なんです」
「えー、そうやったんか、気いつけへんかった」
「へー、どれどれ」
「あ、やだ、じろじろ見ないでくださいよー」
「そだね、ここ狭いから、また、広いところで見せてよね!」
「え、あ、えと……」
「千歳、お湯が噴いてる!」
「わ、あわわわ」

 いつのまにか、狭さが距離の近さになり嬉しくなってきた。

「ここから、部室棟がよう見えるんやねえ……」
 コーヒーカップを両手で包むようにして、ミリーが呟いた。
「部室棟たすかってよかったねえ」
「ほんまや、こんどばっかりはアカンかと思たもんな」
「小汚い建物としか思ってなかったけど、すごいものだったのね」
「わたしもビックリですぅ、なんかの縁でしょうねえ、ひいお祖父ちゃんの設計やなんてね……」
「補強すんねんやろか、解体修理するんやろか」
「ここから、ゆっくりと見届けですねー」

「ね、うち、演劇部に入れてくれへんやろか?」

「「「え!?」」」

「部室棟が、どないなっていくか、ここから見てみとなってきたよって」

「お、おう!」
「いいじゃん!」
「ぜひとも!」

 演劇部が四人になった……。
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・33「タコ部屋が仮部室というのもいいですね~!」

2017-06-14 12:29:50 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)33
「タコ部屋が仮部室というのもいいですね~!」
                   



 部室棟の取り壊しは撤回された。

 マシュー・オーエンの初期の作品でアメリカ建築史の上で大きな価値があることが分かったからだ。


 日本というのは外圧に弱い。
 外国とか国連とかの名前が付くと恐れ入ってしまう。
 啓介たちがいくら頑張っても、大阪府が一度決めた取り壊しは覆らなかっただろう。
 
 これも外圧と言えるのかもしれない、ミリーの人気だ。

 伯父さん夫婦が部室棟の調査に来た時に撮った写真がSNSで評判になった。
 どうも須磨がコメントを付けてリツイートしたのが原因のようだが、評判が立ち始めると、須磨は削除してしまったので、ここまで人気が出てきた経緯は分からなくなってきた。

 世の中の不思議さを感じまくった一週間だった。

「タコ部屋が仮部室というのもいいですね~!」
 車いすを旋回させて千歳は喜んだ。
「ごめんね、掛け合ったのがあたしだったから、こんなとこで……」
 須磨は恐縮しながら荷物を整理している。
「部室棟のクラブがみんな臨時に移動なんだから、一部屋丸々使えるんだから御の字ですよ」
「そーですよ、なんか秘密基地みたいで、嬉しいんですよ」
「そう言ってもらえると救われるんだけど、この部屋は、あたしの黒歴史そのものだからね」

 部室棟は、日米の建築家たちと大阪府の役人とで調査され、緊急の害虫駆除と補強工事がされている。
 その間、部室棟のクラブは校内各所に臨時の部室があてがわれているが、たいていは空き教室をパーテーションで区切ったところをあてがわれた。和気あいあいと言えば聞こえはいいが、ようは雑居部屋。
 演劇部も空き教室になるはずだったが、演劇部と同居するのは、どこのクラブも嫌がった。
 そして、交渉に当たったのが須磨であったせいか、このタコ部屋が臨時に部室になったのだ。

「車いす通りにくくない?」

 タコ部屋は、元々の部室の半分もない。それに生活指導部の倉庫も兼ねているので荷物が多く、車いすでは厳しい狭さだ。
「いいですよ、入り口入って、自分のポジションまでは確保できてますから……それより、お茶にしましょう、紅茶とコーヒーどっちがいいですか?」
「千歳、道具一式持ってきたんか!?」
「ええ、昨日下見したら、コンロが使えるって分かったので、このコンロ、車いすの高さにピッタリなんですよ」
「それ、使ったことないよ、ちゃんと使える?」
「もちろん!」
 千歳がコックを回すと、せわしない点火プラグのカチカチ音がした。

 ボッ!

「わ!」
「ビックリ!」
 
 長年使われていなかったコンロは、気合いを入れるように大きな音で火が付いた。

「ウヒョー! エンジン始動やねえ!」

 三人はガスの点火よりもビックリした!

 開け放した窓に満面笑顔のミリーが顔を覗かせていたのだ。
 
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・32「ミリー 啓介に抗議する!」

2017-06-12 12:44:18 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)32
「ミリー 啓介に抗議する!」
                   


 ネットの時代、情報の拡散は劇的だ。

 マシュー・オーエンの初期作品が日本にあった! 


 ミリーを真ん中に伯父さんと伯母さん、その後ろに空堀高校の部室棟。
 その写真とコメントがSNSを通じて世界中に拡散。
 今朝は新聞やテレビが取り上げて、評判が確定してしまった。

「そやけど、なんでわたしが演劇部!?」

 ミリーに詰め寄られ、のけ反りながらも――こんなに可愛らしかったか?――と思ってしまう啓介だ。
「ちょっと、なんとか言いなさいよ!」
「いや、そんなこと知らんがなー!」
「そやかて、新聞もSNSでも、わたしが演劇部員で『部室棟の復活を熱望してます!』になってんのんよさ!?」
 ミリーは新聞やらSNSやらからコピーしてきたのを啓介の机に叩きつけ、勢い余ったコピーの半分が宙を舞った。
「あー、そやけど、この写真さまになってるやんけ!」
「いやあ、ほんまや、ミリー、メッチャいけてるやないの!」
「ハリウッド映画のチラシみたいやんか!」
「あたしにも見せて!」
「俺にも!」
「あたしにも!」
 ホームルーム前のクラスは、ミリーがまき散らしたチラシで、いや、コピーで持ちきりになってしまった。

 な、なんでやのん……。

 ボヤキながら、今やプロモーションチラシになってしまったコピーにサインをするは目になってしまったミリー。
「ちょっと多すぎひん、わたし、こんなぎょうさん持ってきてへんよ!」
 サイン会の列は教室を出て廊下にまで続いている。
「自分でダウンロードしてプリントアウトしてるのよ」
「職員室でやってくれないから、向かいのコンビニ!」
「俺も、行って来よう!」
「ちょ、ちょっと!」
「もう時間ないからあ!」
「じゃ、写真だ!」
「写真いっしょに撮ってえ!」
 サイン会は撮影会になってしまった。

 あら、ずいぶん盛況……

 廊下でほくそ笑む女生徒が居た。
「あ、松井先輩!?」
「がんばってね、ぶ・ちょ・う・さん」
 ニヤリと笑って須磨は行ってしまった。

 この騒動の原因は松井先輩だろうと疑い始める啓介だった。
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大橋むつおの劇評・劇評・劇団往来 第47回公演『リサの瞳の中に』 

2017-06-11 18:48:14 | 評論
大橋むつおの劇評
劇団往来 第47回公演『リサの瞳の中に』

 
 第41回大阪春の演劇まつり参加作品
 
 2017年 6月8日~11日

 作:ジェームス・リーチ 訳:小澤僥謳 演出:鈴木健之亮  小屋:大阪ビジネスパーク円形ホール



 乃木さんの漫談というかベシャリ、なんとも心地いですね。

 軽妙なオトボケで、とても暖かく、この人が出てくると、役者が出てきて芝居を始めるよりもお客さんの心を掴んでしまいます。
 往来の芝居を観はじめたン十年前からお歳を召しません。昔からいい味の初老のオッサンです。
 ベシャリの中でお母さんが92歳になられたとかおっしゃっていました。亡くなったオカンと同い年ですので、乃木さんは同世代だと拝察いたしました。一度乃木さんの漫談だけのイベントがあってもいいのではないかと思いました。

 その乃木さん、劇の冒頭でポーターの役で出てきます。心地よく舞台の芝居に入らせてくださいます。

 
 芝居は10人のモブが現れ「わたしは何者?」という問いかけと「わたしは~」というアンサーで始まります。

 モブたちの次に、クレメンス家。クレメント夫人と息子のディヴィッドの会話になります。
 どうやら、ディヴィッドには精神的な疾患があることが分かります。自分のカラの中に閉じこもり、人が自分の身体の接触することをひどく嫌がります。クレメント夫人は、ディヴィッドを全寮制の治療施設にいれようと決心しているのです。
 心身ともに触れられれば破裂しそうな自分をなだめながら母に従い、16歳のディヴィッドは治療施設への旅に出ます。
 旅の第一歩、駅頭で親子の荷物を運ぶポーターが乃木さんであります。

 治療施設には、要冷蔵さんの所長・エンスフィールド以下の医師や先生たち、10人余りのハイティーンの入所者たちがいます。
 入所者たちは冒頭のモブたちです。
 子どもの設定の役もあったのかもしれませんが、役者さんたちが二十歳前後のフレッシュな人たちなので、そう納得しました。

 いろんな精神的な障害を持つ入所者の中で、自閉症で二つの人格を持つリサという女の子が居ました。

 日ごろは満足に言葉を発しない人格が支配していて、立ち居振る舞いはほとんど幼女のごとしです。
 日ごろのコミニケーションは切れ切れの単語とスケッチブックに書く言葉で済ましています。

 初めは溶け込めないディヴィッドですが、悲喜こもごもの事件や葛藤の中、しだいに施設の中で自分の場所を見つけていきます。
 
 両親の無理解で、いったん自宅に連れ戻されますが、自分の意志で脱走して施設に戻ります。
 戻ったことで、施設と施設の仲間たちが自分にとって大事なものであることを自覚します。
 そして、それまでは関わろうとしなかった入所者たちにも進んで関わろうとし、将来は精神科の医者になろうとまで前向きになる。
 しかし、その前向きの中でリサを傷つけてしまい、リサは施設を飛び出してしまう。

 ディヴィッドは強い責任を感じて、施設のみんなと捜索に出る。
 そして暴漢に襲われ危機一髪のリサを助けることができた。
 
 人に触れられるとパニックになるディヴィッドでしたが、ラスト近くでは自分からリサに手を差し延ばせるところまで回復します。
 リサも、言葉を喋れる自分を取り戻し、差し出されたディヴィッドの手をとることが出来ました。

 サルサの明るいリズムの中大団円を迎え、乃木さんの漫談で、その後ディヴィッドは精神科の医者になったことが伝えられます。
 観客は、ほっこり心が温まりニコニコと観劇後のアンケートを書くことになりました。

 さて、この舞台の優れているところはミザンセーヌだと思いました。

 ミザンセーヌとは、舞台に置かれた道具や人物の配置ですが、特に人物の配置です。
 登場人物は総数24人(25だったかもしれません)で、全員が舞台に出ているのはフィナーレぐらいなのですが、施設内のシーンですと、たいがい10人以上舞台に存在しています。
 舞台上の人物が、しっかり自分の位置を占めています。観ていて不自然さや外連味が無く、役者の皆さんも、ちゃんと自分の位置を納得して存在しています。簡単そうですが、役者を自然に舞台に存在させられているのは演出の力量だと思います。
 若い役者さんが多く、まだ伸びしろの大きな方が何人もいらっしゃいますが、まだまだ表現が伸ばせる位置に存在しています。
 このメンバーで、この先上演の機会があるとしたら、さらに伸びていく舞台だと思いました。

 若い役者さんがノビノビ演じ、ベテランが脇を固めているのはいいものですね。
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・31「マシュー・オーエンは近年注目され出した建築家だ」

2017-06-10 10:56:40 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)31
「マシュー・オーエンは近年注目され出した建築家だ」
                   



 車いすの演劇部の少女が寂しそうに部室棟を見つめている。
 震度6の地震で倒壊の危険があるといっても、いきなりの立ち入り禁止はないだろうと思った。


 気づくと、ミリーはスマホを出して構えている。

 本当は断ってから写さないといけないんだろうが、そうすれば、少女の自然な寂しさが出ないとも思った。
 ま、撮ってから声を掛ければいいや。
 そう思ってシャッターを切ろうとすると、風がブロンドの髪をそよがせ、顔に掛かってしまって手許が狂った。
 車いすのステップに載った足だけが写り、画面の大半はトラロープで封鎖された部室棟だ。

――良い写真になった!――

 少女に声を掛けようとしたら、再び髪がそよいだ、今度は目と口にまとわりつく。
「もー、ペッペッペ!」
 髪を整え直した時には少女の姿は無かった。

――ま、足だけしか写ってないし……――

 写真はサイズを変えただけでSNSに投稿した。
 別に、これで世論を喚起しようなどと大それたことは考えていなかった。

――あの校舎を壊すっていうの!?――
――かわいそう!――
――あの足だけ写っている少女は!?――
 いろんなコメントが、主に母国アメリカから寄せられた。
 
 決め手は、伯父からの電話だった。

――あれはひいお祖父さんが日本で建てた記念碑的建築物だよ!――

 伯父は、その後に日本到着の日時と便名をメールで寄越してきた。

「もー、おっちゃんらは気ぜわしすぎ!」
 関空のゲートに現れた大叔父夫婦に口を膨らませた。
「よう、元気そうじゃないか!」
「二年ぶりね、すっかり大人びちゃって!」
「おばちゃん、うち汗かいてるよって」
 ハグしてきた伯母に気を遣う。
「ハハ、なるほど、その髪はヒヤシチュウカを連想させるなあ!」
 啓介に言われて、最初はむかついたが、自分でも冷やし中華のファンになると、面白いのでSNSに載せていたのである。
「ひいお祖父ちゃんは、ここのところ見直されてきてね、円熟期の作品はいくつも残っているんだが、若いころの作品はアメリカにも残ってないんだよ。本物だったら大発見だ」
「車いすの少女もいいわね、彼女の細い足が、気持ちを十二分に現している。あの子がやっと見つけた居場所を奪っちゃいけないわ」

 ミリーからすればひいひいお祖父さんにあたるマシュー・オーエンは近年注目され出した建築家だ。

 ミリーはすっかり忘れていたが、自身建築家である伯父は、ミリーの投稿を見て矢も楯もたまらずに日本にやって来たのだ。
「今日は学校休みやから、明後日でも見に行く?」
 電車に乗ったころには、具体的な視察の話になっていた。
「大使館を通じて話はつけてあるよ、この足で見に行くよ」
「案内頼むわね」
「あ、あたし制服着てないし」
 休日でも生徒の登校は制服と生徒手帳に書いてある。ミリーは、こういうところは日本人の生徒よりも律儀なのだ。
「急な話なんだから、私服でもいいんじゃないか?」
「あら、わたしはミリーの制服姿見てみたいわ!」

 ミリーは下宿先に戻って着替えることになった……。
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・30「立ち入り禁止の部室棟」

2017-06-09 12:52:05 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)30
  「立ち入り禁止の部室棟」
                   



 二日で駆除できます。

 部室棟の検分を終わった業者は太鼓判を押した。
「ただ、柱や基礎への浸潤が限度を超えていてますんで、建物自体の検査をやって頂かないと手が出せません」
 校長と事務長は渋い顔になった。

 業者の言うのはもっともで、建物の劣化を見過ごしたまま作業をすると後々問題になる。

 そこで府の教育庁と連絡を取り、検査官に来てもらって検査をしたのが昨日のことだ。
「震度6で倒壊の恐れがあります、とりあえず緊急に使用禁止にしてください」
 学校はただちに部室棟の出入り口を封鎖した。

 生徒も教職員も入れなくなってしまった。

「私物のパソコンとか残ったままなんですよ!」
 教頭に詰め寄った啓介だったが、決定事項やねん! そう突っぱねられてしまった。
 遅れて気づいた部長たちも、顧問やら教頭やらに木で鼻をくくったような返事しかしてもらえず、部室棟の前にたむろするしかなかった。
「どないなんねん、荷物くらい取らせてもらわんと活動でけへん」
「制服脱いだままや」
「あたしは体操服」
「俺は教科書」
「うちは金庫に部費!」
「弁当箱!」
「思い出!」
 騒ぎ始めた生徒たち、それを見かねたのだろうか、教頭と生徒会顧問の松平が現れた。
 なにか対策を発表してくれるのかと期待したが、予想もしない答えが返って来た。

「たった今、府から連絡が来た。今月末には取り壊しになる。けして中には入らんように!」

 いつになく厳しい物言いをする教頭。
 差し迫った事態というよりは、大阪府の権威を背負った小役人が威張っているだけのように思える啓介だ。
 部室棟の周囲にはロープが張られ、大阪府のハンコの押された立ち入り禁止証がペタペタ張られた。

 それが今朝の状態である。

 朝練の運動部のさんざめきが部室棟を貫いて聞こえてくる。
 文化部が退去させられた部室棟は、スカスカになったみたいで、いつもより、そのさんざめきが大きく聞こえるような気がする。

 キーキー……

 車いすを転がす音もいつもより響くような気がする。
――なんでこうなるかなあ――
 順調に学校を辞める計画が進行していた。

 がんばったけど、クラブが潰れたら仕方ないよね。

 その免罪符を勝ち取るための演劇部だった。
 この一か月学校に通えたのは、この企みがあったからだ。
 ズルズル在籍して、休みがちになり、いろんな人に気持ちを忖度されステレオタイプの同情をされ、お母さんと学校が眉寄せて相談、家庭訪問、クラスのみんなが手紙とか書いてくれて、それが口をきいたこともないような学級委員とかが家まで持ってきて、殊勝な顔でお礼を言って、先生とかクラスの何人かが痛ましそうな顔して……そのあげくに辞めるのなんてやだ。
 演劇部潰れたのが引き金で「やっぱ、空堀には合いません」くらいの軽さで辞めたかった。

 たった一か月だったけど、辞めるという不届きな目標だったけど、久しぶりにハリがあった。

 ハーーーーーーーーーーー

 緩くて長いため息が出る、涙まで出てきた。

 そんな千歳の姿を渡り廊下の柱の陰で見ている者がいたのだった。
 
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高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・29「え、指原に!?」

2017-06-08 06:29:43 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)29
  「え、指原に!?」
                   


 あれ?

 テレビのチャンネルを変えると、瑠璃の鼻歌が聞こえてきた。
 と言っても瑠璃がテレビに映っていたわけではない。
 それまでAKB総選挙だったのが、NHKの静かな天気予報になったので、キッチンで朝ごはんこさえながらの瑠璃の鼻歌が聞こえてきたのだ。
「それって、AKBの新曲だよね?」
 ダイニングに向かいながら、千歳は聞いた。
「え、あ、そうだっけ?」
 瑠璃は、目玉を天井に向けながら思い起こす。昔からの瑠璃の癖だ。千歳は、この姉の表情が好きだ。キャリア然とした姉は、この表情の時だけ、幼いころのそれになるから。
「…………やだ、これ千歳が歌ってるやつだ。いつの間にかうつっちゃったんだ!」
「え、そうだっけ?」
 千歳は、その歌をリフレインしてみた。
「……ほんとだ、あたしも口ずさんでたんだ!」
「これって『翼はいらない』だったよね?」
 
 翼はいらない……ちょっと後ろ向きな言葉だ。翼ときたら、フレーズとしては「翼をください」「翼ひろげて」という前向きなものになる。それほどポジティブな力を持った単語を「いらない」で真逆にしている。ちょっと気になってスマホで検索してみた。

 すると、最後の方に「遥かなる道の先を夢見て歩こう」と締めくくられていることが分かった。

 リリースされて間のない曲なので最後まで歌ったことはない。
 でも、聴いてはいたんだ。ネガティブな歌なら、けして口ずさんだりしない。
 人にはけしてネガティブな自分は見せないようにしている。例外は演劇部の部長の啓介だけだ。入部するときに、なんだか宇宙人を見るような目で見られたので、なんだか挑戦的になってしまい本当の気持ちを言ってしまった。

「あたし、演劇部潰れるの前提で入るんだから。そこんとこよろしくね」

 啓介の目には「車いすの子が演劇なんてありえないだろう」という決めつけと「車いすの子を入れたらムゲに廃部にもできないだろう」という打算が見えた。だから千歳は静かにキレて本音を言ったんだ。

「早く食べないとお母さんたち来ちゃうわよ」

「え、あ、うん」
 千歳は、器用に車いすを定位置につけ、おみそ汁の椀をを手に取った。
 瑠璃はキャリアの勤め人なので、平日の朝食はトースト・目玉焼き・カップスープなのだが、休日にはきちんとお味噌汁付の和食だ。
 アジの一夜干しも、前の日に黒門市場まで行って買ってきた本格的なもの。大阪での生活を一日も早く清算したい千歳だが、この休日のメニューには未練が有った。
 AKBの総選挙で姉妹が盛り上がった。休日の瑠璃はキャリアの緊張感が無いので、千歳は話がしやすい。
「おねえちゃん……似てるね」
「え、だれに?」
「鈍いなあ、今の話の流れならサッシーに決まってんじゃん」
「え、指原に!?」
 瑠璃は千歳とは違う意味でAKBの主席を思って鼻白んでいる。
「サッシーってすごいんだよ。小林よしのりと博多の屋台で、屋台ってラーメン屋さんなんだけどね、対談してて、小林よしのりはラーメン食べ残したんだけど、サッシーってば完食したんだよ。なんか大物だよね」
 またしても、瑠璃は反応に困ってしまう。千歳は、そんな瑠璃が面白くてしかたがない。

 すると、スマホが振動した。

「ん……啓介せんぱいからだ」

――部室棟の取り壊しが決まってしまった―― 
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