大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・61『タマヨリヒメ』

2021-09-14 14:43:17 | 評論

訳日本の神話・61 第一期最終回
『タマヨリヒメ』  

 

 

『鶴の恩返し』とか『鶴女房』という昔話がありますね。

 

 木下順二さんが戯曲化して『夕鶴』というお芝居になり、国内はおろか世界中で上演され、オペラにもなりました。

 農夫に助けられた鶴が恩返しに、男の妻になり、少しでも男を喜ばせたいと、自分の羽根を抜いて、とても綺麗な布を織ります。

「織っているところをけして覗いてはなりません」

 そう言われますが、好奇心に勝てずに、男は覗いてしまいます。

 正体を見られた鶴は「もう、あなたといっしょに暮らすことはできません」と、泣く泣く空に帰ってしまいます。

 話によっては、二人の間には赤ちゃんが居て、残された男は、赤ちゃんを懸命に育てることになっています。

 

 ヤマサチとトヨタマヒメのお話が、これにそっくりです。

 

 本性であるサメの姿で赤ちゃんを産んでいるところを見られて、トヨタマヒメは海の底に帰っていきました。

 赤ちゃんはナギサタケフキアエズと名付けられて、スクスクと育ち、ヤマサチの跡継ぎになります。

 ヤマサチは、戦いに負けたウミサチを家来にして、葦原の中つ国を豊かな国に発展させます。

 

 負けたウミサチは九州の隼人族の先祖になります。

 おそらくは、ヤマト政権と九州の勢力の間で戦争、あるいは激しい抗争があったことが反映されているのだと思います。

 こののちも、ヤマトタケルに打ち滅ぼされるクマソタケルから、島津薩摩藩、西郷隆盛にいたるまで、九州は日本史を動かす熱量の高い勢力として残っていきます。

 

 海の底に帰ったトヨタマヒメ。

 約束を破って覗いてしまったヤマサチを恨めしく思いますが、残してきた赤ん坊が気になって仕方がありません。

 トヨタマヒメは、妹のタマヨリヒメに頼みます。

「ねえ、わたしの代わりに地上に行って、ナギサタケフキアエズのお守をしてくれないかしら」

「え、わたしが?」

「うん、あんたに頼むしかないの。この通りだから、お願い」

 と、妹に手を合わせます。

「仕方ないわねえ、姉さんも、意地はった手前、引っ込みがつかないんでしょ」

「ごめん!」

「分かったわ、でも、ナギサタケウガヤフキアエズなんて、舌噛んじゃうから、ナギちゃんでいくわよ」

「それはあんまり……」

「じゃ、ウガヤフキアエズ」

「うん、とりあえず、それでいいから、お願い!」

 

 こうして、トヨタマヒメは、乳母ということでヤマサチのところに参ります。

 

 そして、乳母としてウガヤフキアエズを懸命に世話をするうちに……

 なんと、二人は結婚することになってしまいました!

 これって、叔母と甥の関係で、今の日本の民法では認められません。

 古代は、腹違いであれば兄妹でも結婚出来ましたから、暖かく見守ってやってください(^_^;)

 

 さて、二人の間には四人の子どもができます。

 イツセノミコト  イヒナノミコト  ミケヌノミコト  ワカミケヌノミコト

 そして、この第四子はカムヤマトイワレヒコノミコトとも称しまして、長じて東に向かって遠征し、皇室の始祖となります。

 大和橿原で即位し、神武天皇(初代天皇)となりますが、これ以降は日本書記の内容になりますので、ひとまず筆を置きます。

 

 ☆:お知らせ

 古事記の内容はここでおしまいです。

 なんとか最後まで書けたのは読者のみなさんのお蔭です。ありがとうございました。

 日本書紀も読み直して、いつか、神武東征の下りから再開できればと思います。

 

 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 31『孤高の剣聖・1』

2021-09-14 10:24:25 | ノベル2

ら 信長転生記

31『孤高の剣聖・1』  

 

 

 せっかくの日曜日だというのに市は朝から出かけてしまった。

 

「御山の南斜面は、いい風が吹くからね」

 紅茶をすするついでのように敦子が言う。

 ついででも、美少女と紅茶という組み合わせは美的なはずなのだが、こいつはいけない。

 チンピラが電車のシートに掛けたように、股を広げて浅く座り、背もたれと同じくらいの高さに頭を置いて、だらしなくすすっているのだ。

「少しは神さまらしくしたらどうだ」

「いいでしょ、家族同然なんだから」

「俺は、実の弟でも切り殺したぞ」

「あ、信行くんね……」

 めんどくさそうに掛け直す敦子だが、しっかり腰を上げないものだから、ジャージがずり下がってパンツが覗く。

「敦子、いや、熱田大神!」

「あ、ちょっとくつろぎすぎか(^_^;)」

 

 えい!

 

 掛け声をかけると、英国貴族の娘のようなナリになって、ソファーもテーブルもかっちりしたビクトリア朝のウッドに変わった。

 フグ

「おい、俺のまで変えなくていいだろ」

 ウッドチェアになったので、座面が五センチほども上がって、脊髄沿いに脳天までショックが走る。

「う~ん、ナリも変えよう!」

 グフ

 敦子と同じビクトリア朝のワンピに変えられる。

 ウエストがきついが、敦子に弱みは見せられない。

「南斜面にいい風が吹いたら、どうなんだ?」

「紙飛行機がよく飛ぶ」

「ああ、二宮とかいう奴と部活にしたんだったな」

「うん、信君もイッチャンも打ち込むものができて、目出度いわ」

「俺は、打ち込んだが空振りだったぞ」

「ハハ、武蔵くんね」

 ティーカップを置いて、空中に仮想ディスプレーを出した。

「撮ってたのか?」

「神さまだからねえ……おお、信玄の胸は良く揺れるぅ」

 前を走っていて、気づかなかったが、信玄の胸は豪勢に揺れている。これではスピードは出ないわけだ。

 しかし、目は油断なく武蔵を捉え、捉えながらも、校舎や遮蔽物には目を配って、先を越す手立てを考えている。

 謙信は緑の黒髪靡かせて、走りも跳躍も華麗でありながらスピードが出ている。

 信玄が姿を消して先回り、旧校舎の脇から打ちかかり、戦いの場はグラウンドに移って朝礼台をぶん回してのフィナーレ。

 利休が「それまで!」と赤旗を挙げ、余韻を残して、その場に収まった。

「まるで、戦神(いくさがみ)たちの剣舞を見るようね。こういうことにかけては、君たちは、もう完成の域だ」

「褒めてくれるのは嬉しいが、しょせん、袋竹刀の戦ごっこだ。四人とも承知している」

「武蔵は違うわ」

「ああ、武蔵は戦いを芸だと思っている。しかし、芸はいくら磨いても戦闘術でしかない。戦闘術で相手に出来るのは、せいぜい十人までだ。足軽の芸でしかないぞ」

「武蔵は天下を取ろうとしていたのよ」

「剣術で天下は取れん、釣り竿一本で海の魚を取りつくそうとするようなものだ」

「どうだろ……これを見て」

「ん?」

 

 敦子が示した仮想ディスプレーには、御山の南斜面を目指す市と二宮忠八の姿が映っていた。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本武蔵        孤高の剣聖

 

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ライトノベルベスト『切れる音・1』

2021-09-14 06:22:20 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『切れる音・1』    

 




 プツン……また切れる音がした。

 パンツのゴムが切れたように密やかな音。だけど、誰かのパンツのゴムが切れたわけではない。

 生徒の興味が切れた音である。そのあと続けざまに三回切れる音がした。これでクラスの半分の生徒の興味が切れた。

 しかし、朽木は、構わずに授業を続けた。もう慣れっこになっている。

 先月の実習生の授業がめちゃくちゃだったので、やり直した分、一週間分は遅れている。

 なんとしても、摂関政治は終わって武士の台頭まで進まなくては、今年度も日本史は明治維新を過ぎたあたりで終わってしまう。

 思ったとたんに、また切れる音がした。

 

 この音が聞こえるようになったのは、二年前の校外学習だった。

 

 学年全部で京都嵐山方面に行った。

 一応班編成にしているが、スタンプラリーのような手のかかることはしない。生徒が自然な自主性で仲間ができるきっかけにするという名目で放し飼いである。

 放し飼いというと、まなじり上げた組合の先生方から叱られそうだけど、実態を表現すると、この言葉しかない。

 阪急嵐山駅で降りると、校外学習のアリバイのために集合写真だけは取る。

 そのあとは校外学習費から各自に1000円と、嵐山近辺の地図だけを渡す。

 基本は班行動だが、班を解体して二人以上の行動なら許すことにしていた。携帯やスマホのアドレスは全員分掌握している。いざとなったら、どこからでも連絡は取れる。

「さあ、ゆっくり昼飯にでもしましょか」

 学年主任の一言で、互助会で使える料亭で、豪華な昼食をとることになったが、朽木は断った。

 転勤したての副担任、そこまで付き合う気はなかった。転勤一か月余りで、朽木は、この学校に嫌気がさしていた。

 学校の評定は6・2と府立高校としては上の部に入る。

 転勤が決まった時は喜んだが、一週間で学校の中身が分かってしまった。

 民間人校長一人だけが、府教委とマスコミにいい顔はしているが、学校は怠惰の一言だ。生徒は程よく自分で勉強し、そこそこの私立大学に合格していく。産近甲龍にそこそこ入っていくことで、師弟ともども自足している。生徒も表面行儀よく、生指上の問題も、転勤以来、新入生のケンカまがいのことが一回と、女生徒が変質者に追われた件があっただけである。

「観ておきたいところがありますので」
「朽木さん、日本史やもんなあ」

 その二言のやり取りで、朽木の単独行動は公認のものとなった。もう朽木は、他の教師と群れる気はなかった。三年四年辛抱して、さっさと転勤する気になっていた。下手に仲間を作ったり重宝がられては、その転勤が延びてしまう。

 視野の中にチラチラと生徒の姿が入ったが、これも無視した。

 前の学校は、いささかヤンチャな学校だったが、こういう場では、よく絡まれた。写メを撮ってやったり、弁当のつまみ食いをしてやったり、時には喫煙の現場を発見したり、他の学校とのトラブルの仲裁に入ったり。

 ところが、いまの学校の生徒は、ちっとも絡んでこない。ま、そういう学校だ。

 嵐山・嵯峨野は、学生のころから何度も来ている。とりあえず大覚寺方面に向かう。

 生徒の数が次第に減る。

 愛宕神社を通り過ぎ、突き当りを右に曲がれば大覚寺。左へ行けば化野である。

 大覚寺は十年ぶりぐらいであった。見慣れた道とは言え、やはり変化がある。

「こんなところに竹林があったかな……」

 民家や店は建て替わっても気づかないことはあるかも。しかし十年とは言え、竹林一つを見逃すわけがない。

 よく見ると――嵯峨天神社――のささやかな札が風に揺れていた。

 嵯峨野に天神さんはないはず……そう思いながらも、不思議さと、ささやかながらも深淵さを感じて朽木は、オレンジ色に変色しかけた朱塗りの鳥居をくぐった。

 小さな無人の社があるだけだった。

 朽木は、滋賀の旧家の出であることもあり、こういうことでは行儀がいい。

 ささやかな手洗所で手を洗って口を漱ぎ、拝殿に向かった。特に願うことなどなかったが、習慣として手を打ち礼をする。

 良くも悪くも無心に手を合わせていると、後ろで人の気配がした。

 

 振り返ると真子がいた。

「いやあ、こんなとこまで来るのは、あたしだけかと思たわ。先生も大覚寺行かはんのん?」
「うん、そのつもりで歩いてたら、この天神さんに気ぃついてな」
「よかったら、写真撮ってくれます?」
「ああ、ええよ」

 朽木は、ちょっと懐かしい気持ちになり、真子のバストアップと、真子との自撮りをした。

 朽木は、ハナから、この学校には関心が無かったので、生徒のことはほとんど覚えておらず、大半は名前と顔が一致しない。

 しかし、この真子だけは、最初から印象に残った。

 とくに美人というわけではないが、AKBの書類審査ぐらいは通りそうな子で、授業も熱心に聞いてくれていた。

 少し楽しい遠足になったかな。そう思って、大覚寺で真子と集合時間に間に合うまでのんびりと過ごした。

 そして、あくる日から人の心が切れる音がきこえるようになった……。

 

 

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