大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 017・ヒュドラを討つ・2

2024-09-23 15:42:36 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
017:ヒュドラを討つ・2 




 峠を下り、北に向かう街道を横目に森に近づくと、甘い香りが漂ってきて思わず足を止めてしまう駆け出しの冒険者とガーディアン。

「こんなにいい香りがするんですねぇ……」

「学食で出てくるリンゴなんて目じゃないなぁ……でも、こんなにいい匂いがしたら街道を通るやつらが取りに来るだろ」

「さっきは、それほどじゃなかった。森の中を進んで果樹園の手前まで行かなきゃ、リンゴの匂いはしなかった……」

 並の勇者や冒険者なら、敬遠して通り過ぎるか、あるいは匂いにつられて森に踏み込んで番人のヒュドラに返り討ちになるかなんだろう。

「じゃあ、入るぞ」

「おお」「はい」

 プルートを先頭に森に足を踏み入れる三人。

 ようやく日が上り始めたと見え、微かに小道が窺える。

 カシャ カシャシャ……

「なにか変なものを踏みつけていません?」

「枯れ葉じゃ……ない!?」

「……え!?」

 立ち止まって足元をうかがうと、木の葉や枝の切れに紛れている骨だった。

 獣の骨も混じって入るが、あきらかに人のそれと分かるものも混じっている。

「さっきは獣道を探りながら進んだから気づかなかったが……先客は居たようだな」

「冒険者たちですね、装備や服の切れもあります」

「登録書の切れだ……」

「ええ、七級と八級……わたしたちよりもレベルが高いわ!」

「運が悪かったか、ただの間抜けだったかだな」

 それだけ言うと、プルートは「そうか、さっきはあっちを通ったのか……」と小手をかざして薮の向こうを見たりするが、足は緩める様子がない。

「ウン、がんばりましょう!」「おお!」

 ベロナは気合いを入れると髪をひっ詰めにまとめてマントのフードの中に収める。アルテミスも無意識に髪に手をやるが、元がショートカットなので、ペシっと自分の頬を打ってごまかした。

 三人は、さらに森の奥に足を踏み入れた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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馬鹿に付ける薬 016・ヒュドラを討つ・1

2024-09-18 14:54:15 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
016:ヒュドラを討つ・1 




 プルートは夜遅くになって帰ってきた。


「あら、いつの間に帰ってきたんですか?」

 自分たちのために森に行ってくれたんだと思って、ベロナは火の番をしながら起きていたのだが、つい睡魔に勝てずにまどろんでしまった。アルテミスはかまわずにブランケットにくるまって寝てしまっている。

「なにを言ってる、もう行くぞ」

「え?」

 帰って来るなり「行くぞ」と言われては混乱する。

「儂も三時間寝た十分だ」

「え、あ、じゃあアルテミスを起こして朝ごはんにしなきゃ」

「それは果樹園の用事が済んでからだ」

「え、あ、ちょっ……」

 熟睡中のアルテミスを起こすと、すでに峠の中ほどまで下ったプルートを追いかけてベロナは坂を下った。まだ東の空に明けの明星が煌々と輝き、目標の森は夜の底に黒々と蟠って空との境目が定かではない。

「森にはヒュドラという蛇の化物がいてな……」

「ヒュドラ!」

 ベロナは思わず立ち止まってしまった。

「ヒュドラ……だってぇ!?」

 寝ぼけ眼のアルテミスも瞬間で目が覚めた。

「知っている様子だな。じゃあ、説明はいらんだろ、行くぞ」

「ちょっと待てよプルート、ヒュドラなんてオレ……あたしでも知ってる100個も頭のある蛇の化物だ、レベルは、ほとんど100だぞ」

「さっき、いえ、夕方にカロンが認定書を持ってきてくれましたけど、わたしのレベルは8でした」

「あたしは10だ」

「とても、レベル100の魔物なんか無理です」

「普通にやればな」

「ヒュドラは眠る時でも一つだけは起きてる。寝込みを襲っても、その起きている一つが、たちまち、残りの99を起こしてしまうから、駆け出しの冒険者じゃ返り討ちになるだけだ」

「年にニ三回は100の頭が全て眠る。それが、今朝の明け方の一時間ほどだ」

「どうして分かるんですかぁ(^_^;)」

 穏やかだが、眉をひきつらせてベロナが聞く。

「ヒュドラの奴が相談しているのを聞いた」

「ヒュドラの相談相手って……」

「100の頭が相談するんだ。前の記録から言って、今夜あたりだろうと、息を殺して聞いていたのさ」

「じゃあ、その一時間の間なら、簡単にやっつけられるというわけなのか?」

「ああ、無防備になるからな」

「おし、それなら勝てるかもしれないな」

「でも、アルテミス。わたしたち曙の谷でチュートリアルみたいな戦いしかしたことないのよ」

「寝てる間は、臨時の魔物が入る。なに、ヒュドラに比べればなんでもない」

「その臨時の魔物って?」

「なんなんだ?」

「たかのしれたケルベロスさ」

「「ケルベロス!?」」

 ケルベロスでも十分すぎる脅威だ。

 プルートに付いていく足どりが目に見えて落ちてくる二人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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馬鹿に付ける薬 015・カロンと晩ご飯

2024-09-15 14:33:29 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
015:カロンと晩ご飯 




「おめえら、こんなもの食ってんのか!?」

 お湯で温めただけのレトルトシチューをコッフェルに入れてやると目を丸くするカロン。

「悪いな、いちいち調理なんかしてられねえ『ダンジョン飯』じゃないんだからな」

「ああ、あれはすごいわね。ドワーフが調理のベテランで、どんな素材からでもご馳走を作ってしまうのよね。あ、でも、旅は始まったばかりだから、パンは、まだ新鮮よ。はい、どうぞ」

「グ、グググ……」

「なんだ、まだなんか文句あるのか!」

「ち、ちげーよ。有機物の……それも白いパンなんて初めて食うぜ……」

 カロンがビックリしているのは、レトルトとかの安直さではない。旅の簡易な食事なのだが、カロンには、とんでもないご馳走に思えるのだ。

「う、うめぇ!」

「カロン、普段はどんなもの食ってるんだぁ?」

「アルテミス、失礼よ」

「別にかまわねえよ。オレたち、太陽系のいちばん外れだし、オヤジが惑星のカテゴリーから外されてからは、そこらへんの星くずとかデブリとかを分子変換して食ってる、ムシャムシャ」

「そ、そうなのか(;'∀')」

「たまに、迷い込んだUFOとかも、ズルズル」

「UFO食うのか!?」

「ああ、中に食料とか積んでるのがあるし、宇宙人て基本有機物だから変換したら、ムシャムシャ……けっこうなご馳走だ」

「「…………」」

「あ、むろん生きてるやつは食わねえぞ。生命だからな。くたばってる奴をいただくんだ。ムシャムシャ」

「そ、そうなのか」

「オヤジはよ、248年かかって太陽の周りを周ってるんだけどよ、人類が発見してからまだ日が浅くって、公転の様子は、まだ半分以上分かってねえ」

「ああ、言語化するには人類の知性を経由しなくちゃならないからな」

「だから、オヤジにはがんばってもらわなくちゃ……オレもがんばるしな。ムシャムシャムシャ……」


 それから、ひとしきり晩ご飯を食べると、空になったコッフェルに手を合わせ、あっという間に消えてしまった。


「いまのアレ、ごちそうさまだよな?」

「意外と礼儀正しい……」

 それから、自分たちはほとんど食べていないことに気づき、それぞれカロンの半分ほどの晩ご飯を食べた。

 プルートは、深夜になって戻ってきたが、しっかり寝ていた二人は朝まで気づくことが無かった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
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馬鹿に付ける薬 014・野営の準備

2024-09-11 13:17:10 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

014:野営の準備 




「ここらで野営にしよう」

 
 峠まで差し掛かったところでプルートが立ち止まった。

「あの木陰がいい。前のパーティーが使った石組が残っている」

「でも、まだ陽が高いですよ」

「そうだ、他のパーティーは峠を越えて行くみたいじゃないか」

 ベロナもアルテミスも少し不満だ。

「やつらは普通の道を行く、もう二時間も歩けばアケメネスの村だからな」

「だったらアケメネスの村まで行こうじゃないか、好き好んで野営することもないだろ」

「我々は違う道を行く、ほら、向こうの森だ」

「わざわざ遠回りして森を通るのか?」

「森の中に果樹園があってな。そこでリンゴを仕入れる」

「まあ、リンゴですかぁ(^〇^)!?」

 ベロナは果物には目が無いようだ。

「果物を仕入れてどうする。足が早いし、かさばる。荷物になるぞ」

 二人のリュックとカバンは勇者のそれで相当なアイテムがしまい込めるが無限ではない、まだまだ旅の序盤、いたずらに中身を増やしたくない二人だ。

「ポーションの代わりになる。それに熟れることはあっても腐ることがない、ちょうどこれくらいのリンゴだ」

「まあ、プチトマトかブドウほどにかわいい」

「でも、そんなにいいアイテムなら、他のパーティーも行くんじゃないのか?」

「森にはいろいろモンスターや魔物が出るんでな」

「そうか、それを先に行って退治しておいてくれるってわけか!?」

「様子を見に行くだけだ。儂はガード、旅の主人公はお前たちだ。じゃあな」

「いってらっしゃーい」

 意外な身軽さで駆けていくと、先行のパーティーを追い越して森へ続く茂みの中へ消えて行った。

 石組みを整えていると、一陣の風が吹いてカロンが戻ってきた。


「オヤジ、行ってきたぞ……なんだ、居ねえのかぁ?」


「あ、カロンさん、町までお使いご苦労さまでした」

「お、おお、オヤジは?」

「向こうの森に行ったぞ、明日、森の果樹園に行く下見って言ってぞ」

「ち、そうか」

「カロンさん、これから晩ご飯の用意するんですけど、いっしょに食べて行きませんか?」

「いらね。オレ、いつも一人だから。ほれ、ギルドの登録書とドロップの代金とレシートだ」

「おう、ありがとう……って、手数料が二つあるぞ、一つは手書きだし」

「ああ、オレの分だ。5%格安だろ」

「そんな話聞いてないぞ」

「文句あんのかぁ、これはオヤジも承知の上だ」

「なんだと」

「なんだぁ、やろうってのか!」

「まあまあ、カロンさんにも事情があるんでしょ。四人も弟妹がいるっておっしゃってましたし」

「ち、なんで知ってんだ!?」

「あ、プル-トさんが……」

「クソオヤジが余計なことを……とにかく、オレは行く!」

 グゥ~~~

「ほらぁ、お腹空いてるんでしょ。すぐにできますから、どうぞ(^▽^)」

「おぉ……食ってやらねえこともねえけど、費用はそっちもちだぞ」

「はいはい」

「火おこすぞ」

「お、おお」


 火を起こし、調理になると、意外に呼吸が合って段取りよくできる三人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 013・カロン

2024-09-07 12:19:57 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

013:カロン 




「さあ、一度町に戻らなきゃですね」

 ベロナが、ギュっとこぶしを握る。

「それには及ばん、代理でいい」

「「代理?」」

 ピュ

 プルートが口笛を吹くと、ショートヘアの小柄な少女が降ってわいたように現れた。

「なにぃ?」

「始まりの町に行って、手続きをしてきてくれ」

「ええぇ(‎ ‎¯ࡇ¯ ) 」

 すごくメンドクサソウな顔をして、赤いショートヘアの頭をゴシゴシ掻く。

「儂らは先に行ってる、ほら、記録とドロップを渡しておく」

「おお」

 ショートヘアが腰のタガーを少しだけ抜くと、プルートのソードの束から小さな三つの光の玉が出てきてタガーに移される。

 パチン

 タガーを鞘に納めると、もう回れ右をするショートヘア。

「挨拶ぐらいしていけ」

「それには及ばん」

 プルートそっくりな捨て台詞を残してショートヘアは消えてしまった。

「なんだ、あいつ(`へ´)」

 アルテミスは機嫌が悪い。

「儂の衛星のカロンだ」

「ちょっとアルテミスに似てましたね」

「ちょ、あそこまで不愛想じゃないぞ(‎ ‎`▢’ ) 」

「下に四人も妹弟がいるんでな」

「まあ、大変なんですねぇ」

「まあな……」


 おお、プルートじゃねえか!


 坂道を上がって行くと谷の上から、ちょっとバカにしたような声が降ってきた。

 見上げると先行のパーティーたちが、バカにしたような顔で見下ろしている。

 三人と四人のパーティーに、もう一つはメンバーは前衛とメイジが二人もいて充実している。どうやら、アルテミス達の戦いを高みの見物と決め込んでいたようだ。

 メイジの一人が――ごめんなさい――というような顔をしているが、残りはどうでもいいような、あるいは、ハッキリとバカにしている。

「ヒヨッコ二人連れて、修学旅行の引率かあ?」

 腹の突き出たアーチャーが皮肉を言うと、前衛の一人が身を乗り出してトドメとばかりに悪態をつく。

「大変だよなあ、惑星のライセンス取り上げられちまっ……」

 シャリーーン!

 鞘走りの音がしたかと思うと、瞬間移動をしたかのように、プルートは前衛の首筋にソードを擬している。

「めったなことを言うな……儂は今でも太陽系の第九惑星だ!」

「あ……あ……そ、そうだったな(;゚Д゚)」

「そこのメイジ、すぐに回復魔法をかけてやれ。このソードを離した途端、こいつの首から致死量の血が噴き出すからな」

「は、はい……わ、我、神の御名において、曙の力もて汝の命を繋がんとす……」

 詠唱の最後の言葉が終わると同時にプルートはソードを引き離し、前衛の首からスイッチ入れたての小便小僧ほどの血が放物線を描き、その先が地面に落ちると同時に停まった。

「少し詠唱の力が弱い、精進するんだな」

「は、はい……」

「行くぞ」

 三人は曙の谷を後にして北に向かった。



 
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馬鹿に付ける薬 012・曙谷 初めてのダンジョン

2024-09-02 11:25:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

012:曙谷 初めてのダンジョン 




 曙の谷に三人は着いた。

 差し渡し50メートル、深さは平均5メートル、深いところでも8メートルほど、谷底への傾斜もさほどには無く、幅の狭い盆地といったところだ。

 谷底には森というほどではないが、所どころに木がまとまっているところがある。そこを避けて通れば手ごろなハイキングコースと呼べるくらいにのどかで、そうと言われなければ分からないくらいの穏やかさだ。

「あの木がまとまっているところがダンジョンだ。いちおう森と呼ばれているが、書類上の名称でな、始まりの町以外で言うと馬鹿にされる。ダンジョン以外でもモンスターは出るが確実ではない」

「森を通るんですね」

「サッサとやっちまおうぜ……って、どこに行くんだ?」

 気の早いアルテミスが下りようとすると、プルートは谷への坂道ではなく、ちょっと横の岩のところに向かった。

「なにかの石碑ですかぁ?」

「メニュー表だ」

 プルートが手で突くと、グルンと石碑が回ってメニューが現れた。

「固定が甘いんで、時どき裏向きになる……日替わりでなあ、何が出ても大したことはないんだが……」

 メニュー表には『Kスライム』と『Kウルフ』と書いてある。

「よし、時どきKスケルトンというのが出るんだが、下手な狩り方をすると粉々になる。服や装備につくと面倒なんだ」

「ああ、クリーニングは町まで戻らなきゃですものね」

「行くぞ」

 プルートは迷わずに一番手前の森の前に飛び降りた。

「ちょ、待てよオッサン!」

 続いてベロナとアルテミスが駆け下りた時には、すでにプルートは森の中に踏み込んでいる。

「闘志満々ですね!」

「え、あれ?」

 ザザザァ

 飛び込んだばかりのプルートが飛び出してきた。

「二人とも離れろ! Kスケルトンだ!」

 ザザ!

 三人が跳び退るのとモンスターが飛び出してくるのが同時だった。

「スケルトンは居ないんじゃねーのか!?」

「よく見て、あれは……」

「Kオオカミがスケルトン化したものだ。アルテミス、距離をとって矢を射かけろ!」

「おお!」

「て、こっちに向かって来ます!」

「儂が引き付ける、ベロナは防御にまわれ!」

「はい!」

 パシ!

 瞬間凍結したような音がすると、アルテミスを庇うベロナの前に半球状の防御結界が現れた。

 シュシュシュシュシュ!

 アルテミスが一瞬で五本の矢を射かける。

 パッシャーーン!

 あやたず五本の矢が付き立って、スケルトンオオカミは粉々になって飛び散った。

「やったあ!」「やりましたあ!」

 初手柄に舞い上がる二人だったが、プルートの表情は険しかった。

「Kスケルトン如きに五本は多すぎる、見ろ、粉々になって、少し被ってしまったぞ」

「あ、ごめん」

「ベロナの防御も優雅すぎる」

「え、優雅じゃいけないんでしょうか?」

「半球状のバリアはきれいだが、不慣れだと脆い。K級のモンスターだからいいが、上級のモンスターなら卵の殻のようにぶち破られる。当分は亀甲バリアでいけ」

「は、はい」

「さあ、次はKスライムだ」

「おお!」「はい!」

 その後は次の森でKスライムを簡単にやっつけた三人だったが、やはり初めてのことで爆砕したスライムを浴びてしまってベトベトになってしまう三人だった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 011・ガードはソードマンのプルート

2024-08-29 11:20:38 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

011:ガードはソードマンのプルート 



 
 町の北門を三人が出ていく。

 ソードマン(剣士) アーチャー(弓士) メイジ(魔法使い)のナリをした三人なので最低要件を満たした冒険者一行には違いない。

 ソードマンが先頭なのだが、アーチャーのアルテミスもメイジのベロナも、この小柄なソードマンが何者なのかよく分かっていない。

 ジョバンニ教頭が「学校の方から依頼したガードが待っている」と言っていたので間違いはない。しかし「話はあとだ、さっさと手続きを済ませろ」とソードマンが言うので、あっという間に用件を済ませ、取りあえず町を出ていくところだ。


「では、話だ」


 ソードマンが道祖神の前で立ち止まった。

「おう」

 自分よりも小柄なソードマンに素直に返事してしまうアルテミス。ベロナは品よく頷いた。

「ガードのプルート、冥王星のスピリットだ。お前たちが目的を果たして学校に戻るまで付き合う。身分的にはお前たちの方が上だが、冒険に関しては俺の方が遥かに上だ。冒険が終わるまで、このプルートの指示に従ってもらう。いいな」

「はい」「お、おう」

「インタフェイスを開け」

「はい」「おう」

「所持金とアイテムの半分を預かる」

「「え?」」

 ジャキーーン

 反論する間もなく現金とアイテムの半分がインタフェイスから消えていった。

「金とアイテムが欲しければ稼げ。常に稼ぎの半分は俺が管理する。食事、宿泊、アイテムの出し入れは俺がやる」

「あ、オレだって……」

「アルテミス、お前の『オレ』は禁止だ」

「え、なんでだ!?」

「おまえ、一応はかぐやの妹で女なんだろ。女がオレとかボクとか言うもんじゃない」

「オレだって神さまなんだぞぉ……なに見てんだ!」

「……胸を張るな、ほとんど痕跡器官にしか見えんぞ」

「な、なんだとヽ(`Д´)ノ !」

 アハハハ

「わ、笑うな!」

「アルテミスだって、時どきは『あたし』って言ってますよ」

「TPOで使い分けてんだ、こんなオッサンに言われる筋合いはねえ!」

「それから、ベロナ」

「はい」

「最初に行っておく。地球と同じ公転軌道を周ろうなどと思うな」

「え、なぜですか( ゚Д゚)!?」

「惑星というのは、自分の軌道を守ってこその惑星だ」

「でも、それは!」

「いま分からんでもいい。大事なことだから最初に言っておいた。もう、当分は言わん。では、行くぞ。夜までには曙の谷で用事を済ませて、正式に出発するからな……返事!」

「「ハ、ハイ」」

「では、駆け足!」

「「え?」」

 いきなり駆けだしたプルートを追いかけるベロナとアルテミス。

 最低限で妙なパーティーに行きかう冒険者たちが笑っていく。

 異世界を照らす太陽は、そろそろ南中しようとしていた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 010・ギルドの扉はめちゃくちゃ重い

2024-08-25 11:45:22 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

010:ギルドの扉はめちゃくちゃ重い 




 ギイイイイ……


 ギルドの扉は思いのほかに重く、でも、重そうに開けては中に居る冒険者やギルドの受付たちに軽く見られてしまうと思って、ポーカーフェイスで押し開けるアルテミス。

 半ばまで開けると視界の端にベロナも押しているのが分かる。

 ザワ

 昼時の学食を思わせる殺気だった賑わいの中、冒険者やクエストの依頼人、ギルドのスタッフたちの視線が集まる。

 半ばは意外そうな、半ばはバカにしたような目だ。

 一瞬たじろぐ二人だが、みんなかかずらってはいられないという感じで、クエストの張り紙、ステータスアップの手続き、ドロップアイテムの査定や買取、苦情の処理などに忙しい。

「目がキョドってますわよ(^_^;)」

「そう言うベロナも手が震えてるぞ(-_-;)」

「ええと……」

「フーー まずは登録だな」

 一つ深呼吸をして登録の窓口に向かう。

「窓口、二つあるわ」

「あ……初回登録の方かな」

「でしょうね」

 自分たちと歳の変わらない若者や自分たちの不向きを悟って転籍したい中年たちが並んでいるBの列に並ぶ。
 隣りのAの窓口は遠くからやってきた冒険者たちで、すでに持っているランクやステータスをこの街の表記に切り替えに来ているベテランたちだ。

 窓口から一メートルほどは仕切りを兼ねた観葉植物が置いてあるが、A列からの圧はハンパではない。ベテランとルーキーの違い以外にも、この街の冒険者たちへの侮蔑や揶揄が感じられる。

――クソ、こいつら舐めてやがる――

 ムカつくアルテミス。

――でも、保険やら年金があって、インフラやら老後の生活に目が向いているんだから、外からは軟弱に見えるんでしょうねえ――

 こないだまで生徒会長をやっていたベロナは冷静に分析する。

「お次の方ぁ」

 眼鏡っこの受付が笑顔で応対してくれる。

「初めての方ですね、スキルとステータスを伺ってもよろしいですかぁ」

「ええと、学生証でいいか?」

「ええと……卒業証明書と単位取得証明などはお持ちではないのでしょうか?」

「あ、それは」

「あ、まだ在学中なんですかぁ?」

「うん」「はい、そうです」

「少々お待ちください」

 眼鏡っこは後ろの課長に伺いに行った。

「次の方、先におうかがいしまーす」

 バレッタで髪をまとめたのが次の受付を始めてしまう。

――学生?――わけありか?――段取り悪ぅ――弱そう――生意気そう――

 揶揄やら馬鹿にしたのやら物珍しげな眼が突き刺さって来て居心地が悪い。

「クソぉ」

「ここは辛抱ですよアルテミス(^_^;)」

 なだめるベロナの目も引きつっているが、さすがにアルテミスは突っ込まない。

「お待たせいたしましたぁ」

 眼鏡っこがバレッタの横から体を斜めにして書類を見せる。

「ええと、曙の谷のあたりに初級のモンスターが出ますので、取りあえずそれを狩ってきていただけますか? その成果でスキルとステータスを決定する運びになります。よろしいでしょうかぁ?」

「あ、ああ」

 曙の谷は広場でも聞いた。大したところではなさそうなので小さく頷く二人。

「それでは、魔石とかドロップアイテムがありましたらぁ、必ずお持ち帰りください。それを元に査定いたしますのでぇ」

「おお」「承知しました」

「ええと、前衛はどうなさいますかぁ?」

「前衛?」

「お見かけしたところ、アーチャーとメイジ(魔法使い)のようにお見受けするんですが?」

「ああ」

「だとしたら、近接防御の戦士とか剣士が必要だと……あ、腕に覚えがおありなら構わないんです。まあ、曙の谷ですからぁ(^_^;)」

 聞こえたのか眼鏡っこの応対で想像がつくのか、フロアーの半分ほどがクスクス笑う。

「お、おう、なんとかする」「はい」

「そうですか、では向こうの窓口で冒険者保険をおかけになってからお出かけください……」

 もう少し話したそうにしていた眼鏡っこだが、バレッタと次の登録者に押されて消えてしまった。

「そうだ、学校で用意したガードがいるって教頭先生がおっしゃってなかったかしら?」

「あ、そういや……ギルドに行って登録のついでに確認しなさいとか言ってたなあ」

「登録のついでなら、ここだなあ……」

「どこに居るんでしょう……」

――ここだ――

 直接頭の中で声がして、振り返ると柱の横にドアーフの戦士が見えて、ビックリする二人だった。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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馬鹿に付ける薬 009・広場を抜けてギルドに向かう

2024-08-21 12:07:28 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

009:広場を抜けてギルドに向かう 




 活気が無いわけではない。


 伝説の英雄神に胸板を貫かれた魔王の口からは五メートルあまりの水が噴き出て、周囲の魔族や英雄神の弟子たちも互いに刃を交わしながら、それぞれの主神を見上げて水を噴き上げる。
 その噴水のブロンズたちが噴き上げる水は、たちまちのうちにミストになって、広場に集う者たちを潤す。
 集う者たちは、そのミストにびしょ濡れになる前には噴水の周囲を離れ、それぞれの目標の場所に移っていく。

 移っていく者たちは、両手にストックを持ったウォーキング、あるいは散歩の者たち。あるいはマイカートを押した買い物の者たち。
 ミストの届かない木陰では杖に顎をのせたり、大方の体重をベンチの背に預け、UVカットの帽子やサングラス、日焼け防止の腕カバーに身を固めた元冒険者たち。
 彼らは、バザールの安売りや健康法や、かつての話半分の冒険譚に花を咲かせる。元は現役であった彼らは声だけは大きい。

 だから、広場はけっこうな活気ではある。

 活気はあるが、それは沈みゆく夕陽の輝きに過ぎない。若い現役の冒険者たちは待ち受ける初めての、あるいはせいぜい二度目か三度目の冒険の障りになってはかなわぬと足早に通過するか、広場そのものを回避して目的のギルドや素材屋、武器屋、保険の代理店に向かっている。

「夏場の午後五時と言ったところですわねえ」

「え、まだ二時を回ったところだぞ」

「ふふふ、アルテミスは元気いっぱいですね」

「ここは、ざっと見ただけで十分だ。さっさとギルドに行こう、保険ならギルドでも受け付けてくれるだろう」

「すこし、お年寄りの方々とお話してもいいかと思うベロナなんですけど」

『おお、そこのお若いのぉ』

「あ、わたしたちですかぁ?」

『初々しいなあ、初めての冒険かい?』

「はい、これからギルドに向かうところです」

「ち(-_-;)」

 木陰の年寄りたちが一斉にベロナとアルテミスに顔を向ける。

『そうかい、そりゃあいいなあ』

『今からなら、曙の谷ぐらいには行けそうだなあ』

『ダメよ、吊り橋でこじれたら谷底で野営しなきゃならなくなるわよ』

『それも風流なもんじゃないか』

『なに言っとる、最初の野営でションベンちびったのはだれだ』

『それは剣士のなんとかいうやつだ』

『そうよぉ、ヤコブは狼の遠吠えで卒倒しちゃってぇ』

『う、うるせえ』

『あはは、お爺ちゃんたちに付き合ってたらきりが無いわ。行ってちょうだい(^_^;)』

「ありがとうございます。みなさんもお元気で」

『あんたら、ひょっとして馬鹿に……』

 馬鹿の次に来る言葉が気になる二人だったが、老魔法使いの婆さんの注意に従ってギルドを目指すことにした。

 
 ギルドはドイツ風の質実な三階建で、角を曲がって姿が見えた時から特別な感じがする。
 黒ずんだ柱は太々と地面に根を張っているようだし、頑丈そうな窓からは冒険者たちの気炎が溢れるよう、屋根の風見竜は――風向きなど見ていられるか!――と、いまにも戒めを解いて空に舞い上がっていきそうな気配だ。

 建物の前面いっぱいに据えられたポーチには、現役冒険者たちのオーラを浴び、話しかけたり冷やかしたりしようとする年寄りたちがいたが、さすがの二人も、その視線に応えようとはせずに厳めしい金具付きのドアを開けた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 008・始まりの町は少し変

2024-08-17 09:59:12 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

008:始まりの町は少し変 




 峠の上から見た時は小さく見えたが、じっさいに近くまで来ると結構大きく、町というよりは街だ。

「お店も家も少し大きいような気がするわ。そうは思わない、アルテミス?」

「ああ、増築した感じの家もあるなあ」

「窓辺やベランダの鉢植えも手入れが行き届いている感じだわ」

「おっと、工事中だ」

 メインストリートが二股に分かれた先にギルドの看板が見えるので曲がろうとしたら道路工事中で、腰の曲がった警備員が指示棒を振って迂回路を示している。

「仕方がない、迂回するか……どうしたベロナ?」

 ベロナは工事の看板を熱心に読んでいる。

「ガス管を耐震仕様のに変えているんですって。行き届いていますねえ」

「へえ、あ、向こうでもやってるぞ」

 ギルド方面の道の向こうでもクレーン車が出て電柱の作業をしている。

「あれは、たぶん光ケーブルの工事ですね」

「始まりの町って、冒険の準備をするところだろ。いわばベースキャンプみたいまもんで、そんなにインフラとかは揃っていないもんだと思ってたけどな」

「キャ!」

 ドタドタドタドタ!

 五六人の子どもたちが、手に剣や杖を持ってベロナの脇をかすめる。

「ゴラあ、気を付けろガキども(ꐦ°᷄д°᷅) !」

「まあまあ、子どもの遊びじゃないですか。そんなに怒らなくても……まあ、可愛い。あの子たち冒険者ごっこをして遊んでいるのね」

「ん、なんだ、先着組になんか言われて……戻ってきやがるぞ」

「謝りに来たのかしら、だったら可哀そう……」

「……でもなさそうだ」

 子どもたちは二人の横をスゴスゴと通り過ぎていく。

「おい、おまえら」

「ちょ、アルテミス!」

「なんでしょぼくれてんだ?」

 年かさの勇者風の子どもが振り返った。

「なんだ、あんたら?」

「あ、ごめんなさい。さっき、ぶつかりかけたんだよ、あたしたち」

 魔法使い風の女の子が済まなさそうに、でも、勇者風の後ろに隠れて呟く。

「んだぁ、んなとこ突っ立てる方が悪いんだろが」

「んだとぉ」

「アルテミス! ううん、いいのよ、ちょっとかすっただけだし。でも、なんで元気なくなったの、あんなにやる気満々だったのに」

「冒険者保険と年金の掛け金払えって。あ、それと遅延金」

「ああ、なんだそれ?」

「ネエチャンたちも冒険者だろ?」

「そうだ」

「常識じゃねえか、冒険には危険が付き物だから保険があるし、引退後の生活のために年金かけるの」

「ああ、でも、二丁目の子たちが言うのは、ただの嫌がらせだし(^_^;)」

「そうだよ、もう三丁目だけで遊ぼうぜ!」

 アーチャー風の男の子が胸を張る。

「おお」

「そうね、午後からは引退ってことでお部屋で遊ぼ。さっきはごめんなさい。おねえちゃんたちもがんばってね」

「はい、ありがとうございます(^▽^)」

「ニイチャンも男なんだから、ネエチャン護ってやれよ!」

 ドタドタドタドタ!

「ニ、ニイチャン……だと?」

「アハハ(´∀`)、じゃ、行きましょうか」

「ああ、ギルドに行く前に、ちょっと町の様子を探ってみるか」

「ええ、わたしも、そう思ったところよ」

 二人は道を変えてバザールの方角に向かった。


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馬鹿に付ける薬 007・ループ道

2024-08-13 16:27:50 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

007:ループ道 




「……聞いておけばよかったかもしれないわ」

「聞かなくても分かるさ、道はほとんど一本道。道しるべも立ってるし、町への道は脇道よりも太いから、よっぽどボンヤリしていなければ無事に着くさ」

「ええ、道に迷うことは無いと思うんだけど……」

「じゃあ、なんだ?」

「馬鹿に付ける薬のことよ」

「え、ああ……」

 思いがけず校長に出会っておはぎをご馳走になって、月と火星の宿命と使命について話し、桃栗三年ではケラケラ笑って、ずいぶん気楽になって旅の道に戻った二人だった。だが、肝心の『馬鹿に付ける薬』の話しは一つも無かった。

「楽しく話ができたから、校長も忘れてしまったんじゃないか? あの畑の道で出会ったのはたまたまだったんだし」

「ええ、それはそうなんだけれど。あそこで出会ったのは、校長先生のタク……」

「校長の?」

「タクマシイ計画だったんじゃないかしら。式場では言えなかったことを伝えるための」

「え、そうなのか?」

「おはぎの用意と言い湯呑の数と言いピッタリだったでしょ」

「あ、ああ……でも、畑はわざわざ用意したようには思えないだろ。桃や栗も昨日今日に植えたものには見えなかったぞ。申し渡し式で言えなかったからといって、簡単に準備できるものじゃないだろ」

「でも、一か月も有れば準備できる」

「あの、ヨタ話みたいなお茶会を一か月も前から準備していたって言うのかあ?」

「ええ、校長先生と話せたことで、ずいぶん気が楽になった。そうは思わないこと?」

「え、ああ……でも、そうやって準備したのなら、肝心の馬鹿に付ける薬のことに触れなかったのは、不自然すぎないか?」

「わたしたちが留年するって決めて、校長先生は気が付いたと思うのよ。使命の事を考えていることを。ふつうの留年じゃなくて旅に出したのも……」

「難しいことは分からねえけどな。オレたちの狙いと学校の方針が一致してラッキーだったってことでいいんじゃねえかぁ」

「あ、まあ、それはそうなんだけれどね。そうよね、馬鹿に付ける薬は想定外だったけど。薬を見つけてうまくいくんなら、とても幸運なことだものね」

「水や食料も足りなかったし、それを補充できただけでもラッキーだったってことでいいんじゃねえか」

「そうよね、ごめんなさいアルテミス。とりあえず、始まりの町に着くことだけを考えて進みましょ!」

「そうだな……あれ、またやっちまったかぁ?」

「あ、ああ……」


 気が付くとさっき通った時に見た道しるべが立っている。


「景色もいっしょみたいだぞ」

「ああ、アルテミスが癇癪起こして蹴とばした石がそのままだわ」

「え、同じだってなんでわかる?」

「三回目だったから、マジックインクでチェックしといたのです。ほら」

 示した石には三回目を現す『3』書かれていた。

「ああ、さっきはオレの方がグチってたんだっけ」

「そう、今度はわたしの方から振ってしまったようですね」

「歩いてるうちに忘れてしまって、交代でグチっては、ここに戻って来ていたんだな」

「今度こそは『始まりの町』に着くことだけを考えて行くことにしましょう!」

「よし!」

 そうやってループすること四回目にして始まりの町を見晴るかす峠に立つことができた月と火星の女神たちであった。



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馬鹿に付ける薬 005・即席青空天井の茶店・2

2024-08-10 10:46:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

006:即席青空天井の茶店・2 




 二つ目のおはぎに迷ったベローナ、きなこモチに手を伸ばして気が付いた。

「先生、あの小さいのは桃ですか?」

 畑が少し高くなった灌木林との境目に、盆栽をそのまま植えたような幼木を見つけたのだ。

「え、となりは栗……と、柿か?」

 アルテミスも、その横に並んでいる幼木に気が付いた。

「うん、桃栗~三年、柿八年~」

 美味そうに番茶をすすって校長が節をつける。

「柚子は九年でなり盛り~~梨の馬鹿めは十八年~~(^▽^)♪」

「ほほう、よく知ってるねぇ」

「兄のマルスが機嫌がいいと歌うんです」

「ああ、そうだろうね。マルスは軍人だけど、根はのんびり屋だからねえ」

「戦士がのんびり屋でいいのか?」

 三つ目の粒あんもあっさり食べ終えてアルテミスも話に加わる。

「戦士や軍人が気が短いと戦争の絶え間が無くなる」

「ホホホ、それもそうですね」

「ん? 梨の隣にもなにか植えてあるみたいだけど?」

「リンゴだよ」

「え、梨の続きがあったんですかぁ?」

「林檎にこにこ二十五年という」

「へえ、気の長い順に並んでるんだ」

「フムフム……これは、教育者としての先生の戒めなんですねえ」

「アハハ、ボケ防止さ」

「「ボケ防止?」」

「桃栗三年とは、よく言うけどね。柿から次はめったに言わないだろう?」

「はい、りんごにこにこ二十五年は初めて聞きましたぁ」

「りんごの次もあるんだよ。女房の不作は六十年、亭主の不作はこれまた一生 ……ってね」

「「あはははは(^▽^)」」

「さすがに、女房と亭主は植えるわけにはいかないからね」

 わははははは(^▽^)(^〇^)(^▢^)/

 師弟三人の笑い声が響き、近くの木々に憩う小鳥たちがビックリして飛び立っていく。その小鳥たちを目で追いながら校長は真顔で続けた。

「君たちは、母星の運命を知ってるんだね?」

「うん」「はい」

「教育というのは、師弟の阿吽の呼吸だと思うんだ。役所のように、いちいち書類に記してハンコを捺くようなものじゃない。でも、これは大事なことだから、もういちど確かめておきたいんだよ。いいかな?」

「ああ」「はい」

 ベロナは――どちらから話す?――と目配せすし「じゃ、自分から」とあっさり言ってアルテミスが切り出した。

「月は、その昔、巨大な隕石が地球に衝突して、その時千切れ飛んだ地球の一部が丸まって地球の周りを周るようになってできたものだ。月と地球は互いに引き合っているが、月に働く遠心力をわずかに下回る。そのために、月は少しずつ地球から離れ、やがては互いの引力が及ばないほどに離れ。月は、いつか銀河の迷い星になって宇宙を彷徨うことになる。だから、それを食い止めて、地球との距離を昔に戻すことが自分の使命だ」

「そうだね、簡潔に述べてくれてありがとう、アルテミス」

「ええと……火星は、ですね、元々は地球の姉妹星です。姉の地球に比べると少しゆっくりしている火星は、地球の少し外側の軌道を回っています。むかしは地球のように海や湖があって、地球のように生物も文明もありました。でも、すこしゆっくりしすぎて水は極地方に氷となって残っているだけで、いずれは、それも無くなって永遠に死の星になってしまいます。わたしの……このベロナの役目は……火星を地球の軌道に組み込んで、地球と仲良しの双子星にして、ともに栄えることです。ガミラスとイスカンダル的な……みたいな」

「そうだね、ロマンチックに語ってくれてありがとう、ベロナ」

「…………」

「なにか、話してみると、とんでもないことを決心してしまったんですねぇ、わたしたち(^_^;)」

「ああ、でも、これで区切も踏ん切りもついた。そろそろ行くよ、校長先生」

「そうか、そうだね、戻ってくるころには梨もリンゴも大きな実をたくさんつけているだろうさ」

「ですね、このさき何代目の梨やリンゴになるかしれませんけれど(^_^;)」

「ひょっとしたら、リンゴのとなりに校長先生と奥さんがいたりしてな」

 アルテミスの真顔に、宮沢校長は「アハハハハ(^▽^)」と明るく笑って返した。

 そうして、ベロナとアルテミスは水を補充して元の道に上がって、こんどこそはほんとうの出発(たびだち)になった。

 仰ぐ異世界の空は、相変わらずの曇り空だが、山の向こうに少しだけ青空が覗いていたような気がする二人だった。

 
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馬鹿に付ける薬 005・即席青空天井の茶店・1

2024-08-05 15:12:54 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

005:即席青空天井の茶店・1 



「……校長先生?」


 思わず声をかけて――しまった!――と思うアルテミス。

 木の間隠れに見える校長は、思いのほかアタフタしてしまっているのだ。

 異世界の旅に出たところで怪しい土を掘る音が聞こえた。

 さては早くも魔物が現れたか!?

 ベロナをおいて見に来ると、さっき申し渡し式で舞台の脇に立っていた宮沢校長がザックザックと鍬を振るっているのだ、アルテミスはビックリした。

「どうかしたのぉ~?」

 ベロナものんびりした声を上げて、こちらにやってくる。

「あらあぁ、校長先生ではありませんかぁ」

「あはは、とんだところを見られてしまったねえ(^_^;)」

 手拭いでハタハタと土を落とす校長。正体を知っている学校関係者が見れば紛れもない宮沢賢治校長なのだが、知らない者が見れば、ただの初老のお百姓だ。

「いや、すまんねえ。畑のことが気になって、つい教頭先生に任せてしまった」

 校長とはそういうものだと思っている二人にこだわりはいないが、こんなところで畑仕事をしているのは不思議だ。

「裏の畑とは繋がっていてね……いや、なに、来年からは学生も増えそうだし、学食のメニューもね、もうちょっと品数を増やそうと思って、畑を増やしているんだ」

「それは、どうもごくろうさまです」

「校長先生も大変なんだな」

「あはは、いやいや、君たちに比べたら年寄の道楽だよ」

「わたしとアルテミスは、ただの落第生です」

「そうだそうだ、学食のおばさんにもらったおはぎがあるんだ。はなむけと言ってはなんだが食べて行きなさい。下の川でお茶も冷やしてるから」

「あ、あの川だな」

 校長の返事も聞かずに川に下りるアルテミス。校長は朴葉(ほうば)の葉っぱを切り株に敷いて即席の茶店のしつらえが整う。

「すみません、先生(^_^;)」

 ベロナは、こういう急な思い付きや展開は遅れるところがある。

「いやいや、生徒会長は、それぐらいドッシリとしていた方がいい」

「そっちの方はしばらく休むことに……」

「ああ、そうだったね。でも、今年度の予算も年間計画も立ててくれているし、大丈夫さ。真の指導者は、自分が不在でも回るようにしているもんさ」

「おそれいります(^_^;)。湯呑はこちらのでよろしいですか」

「ああ、自由に使ってくれたまえ」

 湯呑はちょうど三人分――先生、見越してらっしゃった?――と思わないでもないベロナだが、ちょうどアルテミスがヤカンを下げて来て、即席青空天井の茶会が始まった。


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馬鹿に付ける薬 004・ブーツに保革油を塗る

2024-08-03 15:20:51 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

004:ブーツに保革油を塗る 




 ザクッ ザクッ ザザ ザ ザクッ ザザ ザクッ ザクッ

「これは荒れ野というよりは……荒れ地だなあ……」

「気を付けていないと……足を挫いてしまうかもしれないわ……」

 荒れ野の道は大小の石が混じっていて、学校の通路や中庭を歩くようなわけにはいかない。

「今のうちにブーツに油を塗った方がいいぞ」

「そうね、始まりの町に着くまでにブーツが破れちゃかなわないわね……保革油はあったかしら」

「……五回ほどスクロールすると出てくる、82番だ」

「あ、うん。あったわ」

 ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ

 油を刷り込みながら振り向くと、荒れ野の灌木林の向こうに学校の屋根が見えている。

「まだ、いくらも来てないわね」

「早く気づいてよかった」

「アイテムは一杯あるけど、アドバイスやヒントとかはいっさい無いみたいねぇ」

「肉の保管袋がある……よし、油を塗ったらウサギでも狩っておこう」

「ウサギいるかしら、もう異世界でしょ?」

「学校の屋根が見えてるんだ、なにか居るだろ。いざとなったらスライムでも」

「スライムって、食べられるの?」

「干せばスルメみたいになる。醤油とワサビもあるみたいだし、刺身でもいけるかも」

「刺身にするなら、よっぽど洗わなくちゃいけないわ……水は、そんなには無いわよ」

「ああ……初心者用の50リットルだ。飲料と煮炊きに使って四日分ほどだな」

「……あ、一番下に予備の水袋があるわ。そっちは?」

「……こっちにもある。学校で入れてくるんだったなあ」

「戻って汲んでくる?」

「それはカッコ悪い」

「フフ、アルテミスらしい。わたしなら平気よ」

「ケジメだ、ケジメ」

「フフ、そうね。マップは無いのかしらぁ……」

「行ったところだけ解除されるシステムだな……この周辺のことしか分からないぞ」

「でも、地面に傾斜があって、これだけの木や草が茂ってるんだから、こっちの方に川か池が……」

 地面が傾斜している右側に注意を向ける。アルテミスは狩りの女神だけあってこういう時の感覚は鋭い。

 ザク ザク ザク ザク……

「誰か歩いてるの?」

「いいや、歩く音じゃない……土を掘っている音だ。見てくる」

「わたしも!」

「ベロナはそこに居ろ、二人で行ったら、元の場所が分からなくなる」

「あ、うん、分かったわ」

 念のため弓に矢をつがえ、身を低くして木の間を拾うアルテミス。

 え?

 直線で20メートル、高低差で4メートルほど行ったところでアルテミスは意外なものを見て、思わず声を上げてしまうところだった。



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馬鹿に付ける薬 003・旅の始まり

2024-08-02 13:45:07 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

003:旅の始まり 




「では、正門まで見送ろう」

 ベロナの兄であるマルスは、武人らしく妹に告げた。

「ありがとうございます、お兄さま」

 ベロナも良家の子女らしく、きちんと頭を下げる。

「留年の使命が冒険の旅だとは聞いたことも無い。だが、逆に言えば、それだけ期待されてのことであるだろうし、それに耐える力が二人にあると理事長も校長も判断されてのことなんだろう。厳しい旅になるだろうが、我々も陰ながら応援しているぞ」

「はい、お兄さま」

「ありきたりだが、頑張れベロナ」

 マルスは妹の細い肩に手を置き、愛おしそうに揺すった。

「そんなに揺すられては、旅に出る前に壊れてしまいます(^_^;)」

「せめて太陽系を出るところまではガードとして付いて行ってやりやいところだが、公転軌道の警備も揺るがせにはできん。アルテミス、どちらがどうと言うほどに力には差のない二人だろうが、どうかベロナをよろしく頼む」

「お、おう」

「ベロナも、なにごともアルテミスと相談し、力を合わせて進んでいきなさい。そして、この試練を乗り越えれば二人は、惑星と衛星という枠を超え、この太陽系に二つとない親友の星になれるだろう」

「はい、お兄さま」

「ありがとうマルス……ねえちゃんも、なんかねえの?」

「え、わたし?」

「姉妹なんだからさ、こういう時はなんかあるっしょ」

「あ……馬鹿に付ける薬って……なんだろうね」

「古来『馬鹿に付ける薬は無い』と言われてきたが、アマテラス殿が言われるんだ、必ずあるさ」

「そうだよ、まあ、がんばりなさい」

「おう……じゃ行くか」


 そっちじゃありませーん!


 四人が正門に進もうとすると、式の終わった講堂から飛び出してくる者がいる。

「あ、教頭先生」

 気づいたベロナがきちんと振り返って頭を下げる。一応の礼服に身を包み髪も黒々としたジョバンニ教頭、どこか少年の匂いを残しているが、近づいてくると目元や口元に隠せない年齢を感じさせる。

「北門から出てもらいます」

「北門?」

 マルスが眉を顰める。

「あ、不浄門とは言われていますが、始まりの町にはいちばん近いんです」

「「「「始まりの町?」」」」

 四人の声が揃う。

 始まりの町というのは異世界冒険もののゲームやラノベに出てくるお決まりの設定。ここで装備を整えギルドに登録し、チュートリアルを兼ねた初期ダンジョンの攻略があったりする。

「ということは、二人の旅は銀河宇宙を飛び回るスペースファンタジーではなく、異世界冒険RPGだと?」

「まあ、そういうことですね。初期装備と七日分の水と食料は二人の道具袋に入っているから後で確認しておきなさい」

「はい」

「おう」

「……えと、質問とか疑問とかは無いのかなぁ?」

「はい」

「質問して普通の留年になるんならするけど」

「あ、それは絶対無いから……」

 保護者二人をチラ見する教頭だが、保護者も生徒もここに至っては言葉も無い様子で目を合わそうとはしない。

「ええと……始まりの町で、学校の方から依頼したガードが待っているからね。予定では五日目には町につくから、ギルドに行って登録のついでに確認しなさい。名前や特徴は道具袋のメモ帳にあるから、間違わないで声をかけるように」

「それならば、登録番号で確認した方がいいだろう、ギルドに来るガードなんて似たり寄ったりだろうからな」

「あ、それもそうですね、将軍。なにぶん学校の仕事ばかりで冒険などしたことが無いもんですから(^_^;)」

 北門に着いて門扉が開かれると、それに連動していたんだろう、二人の制服は瞬間でアーチャーと魔法使いのものに切り替わった。

「アーチャーなのは、いいけど、ちょっとダサくない?」

「わたくしのも、ちょっと胸がきついような」

「初期装備だからね、まあ、二三個クエストやって気に入ったのを買えばいいよ」

 北門から出してしまえば任務終了なのだろう、教頭の言葉には熱が無い。

「初期装備には裁縫セットが入っているはずだ。あとで直すといい……ほら、ここだ」

 マルスは妹のインタフェイスを開いて示してやる。

「まあ、なんとかなるわよ、わたしの時もそうだったから」

――あんたは何もしないで月に帰ってきただけだけどね――

 辛辣な言葉が出そうになるが、さすがにアルテミスは飲み込んだ。

 門を数歩出ると、ロケーションは『始まりの荒れ野』の風情で、一陣の風が吹いて来て見送っていた教頭の髪の毛を吹き飛ばした。

 あ、ウイッグ!?

 教頭を慌てさせ、少しだけ笑ってアルテミスとベロナの冒険の旅が始まった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
  
コメント
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