大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・245『ウルトラマン』

2021-09-19 13:40:13 | ノベル

・245

『ウルトラマン』さくら      

 

 

 それって、お好み焼き?

 

 言うたとたんに『こいつはアホか』いうような顔された。

 遠慮なく『こいつはアホか』いう顔したんはテイ兄ちゃん。

 言われたんはあたし。

 向こうのキッチンで留美ちゃんと詩(ことは)ちゃんが笑ってる。

 

 日曜の朝から、純情なうちがスカタン言うて『アホか』いうような顔されたのは、ウルトラマンのブルーレイディスクのパッケージが原因。

 最初はテイ兄ちゃん。

「やっぱり北米版は安いなあ」

 テレビの前にパッケージが置いてあるのを手にしたテイ兄ちゃんがネットで検索した。

 ネット通販で3200円と出てる。

「日本のんやったら3万とか5万とかするなあ」

 同じブル-レイでも、日本のんは十倍近い。

「なんかちゃうのん?」

「ほとんどいっしょや。仕様が違うから、日本のデッキでは再生でけへんのあるけど、プレステ4とかやったら問題なしやし、まあ、字幕があったりするかなあ」

「プレステで見れるんやったらノープロブレムやんか、それだけ?」

「日本は、メディアミックスやからなあ」

 

 このメディアミックスで「それって、お好み焼き?」のスカタンになったわけ。

 お好み焼きとか焼きそばのデラックスにナンチャラミックスてあるしねえ。

 ここのとこ、キャベツ焼きやらお好み焼きやら粉もんに凝ってるんで、つい、ミックス焼きを連想してしもたんです。

 

「委員会方式のことですね?」

 留美ちゃんと詩ちゃんが人数分のお茶を持ってきてくれる。

「委員会?」

 委員会と言うと学校の『保健委員会』とかが思い浮かんで、ますます分からへん。

「ほら、アニメのエンドロールに出てくるじゃない『鬼滅の刃制作委員会』とか」

「あ、ああ……」

 思い出した。スタッフロールの最後に出てくるやつや。

「せやけど、あれて、なにかのシャレちゃうのん?」

 スタッフとかがイチビって、そういう子どもめいたグループ名付けてんのんかと思てた。

「ちゃうちゃう。出版社とかアニメ制作会社とか放送局とかオモチャ会社とかが一緒になって、作品を管理するやりかたや。そうやって、著作権とかそれぞれの利益を管理するわけや。つまり、それ以外は作品に関するグッズ制作とか販売とかができんようになるから、値段が高くなる傾向がある」

「へえ、そうなんや」

 返事はしとくけど、意味は、よう分かってへん。

「ウルトラマンて、ついこないだもリメイクされてましたよね」

「ああ『シン ウルトラマン』だったっけ?」

 留美ちゃんも詩ちゃんも情報通や(^_^;)

「ちょっと、観てみよか……あ、もう入ってるわ」

 というので、テイ兄ちゃんがプレステのコントローラーを持つ。

「おお、4:3のアナログサイズや!」

 テイ兄ちゃんは感動するけど、両端がちょん切れた画面は、なんや損した気になる。

 なんか、捩じれたマーブル模様がグニグニと回って、出てきたタイトルは『ウルトラQ』……え?

 言うてるうちにテーマ曲。

 

 光の国からぼ~くらの街へ き~たぞ我らの ウル~トラマン(^^♪

 

 ふ、古い(^_^;)

 

 で、なんちゅうか……ショボイ。

 ウルトラマンも怪獣も子どもの粘土細工かいうくらいグレードが低い。

 ウルトラマンの着ぐるみはウエットスーツぽくて、あちこちに皴が寄る。

 家やら飛行機やらが壊されても、いかにもミニチュア壊しましたいう感じ。

「もう五十年以上も前の作品やさかいなあ……」

 え、50年!?

「正確には、55年前です」

 留美ちゃんはすかさずスマホで検索してた。

 55年前て……お母さんも生まれてへん昔。

「なんで買ったの、ネトフリとかでも見られるでしょ?」

 詩ちゃんもテイ兄ちゃんには遠慮が無い。

「え、おれのんとちゃうで」

「「「え?」」」

 ビックリしてると、お祖父ちゃんがやってきた。

「なんや、みんなで観てたんか」

 お祖父ちゃんの手ぇにはソフビのウルトラマンが握られてる。

「「「「ひょっとして?」」」」

 みんなの声が揃った。

「え、ああ、ちょっと懐かしいんで中古のブルーレイ買うたんや」

「お祖父ちゃん、ひょっとして、昔みてたん?」

「うん、中二やったかなあ」

「そのウルトラマンは(* ´艸`)」

 詩ちゃんが笑いをこらえながら聞く。

「ああ、婆さんがくれた奴や。懐かしなって、押し入れから出してきた。よっこらしょっと……」

 そう言うと、ウルトラマンをテーブルに立たせて、プレステを点けた。

「自分らが観ても、あんまり面白なかったやろ」

「うん」

「ハハ、さくらはハッキリしてるなあ」

「あ、でも、役者さんとか、風景とか懐かしいですよね。さっき、横浜の氷川丸映ってましたけど、船体の色が若草色で、あれって『コクリコ坂から』の時といっしょで、時代が出てました」

「留美ちゃんは、よう見てるなあ」

「あ、いえ。コクリコ坂好きだったんで……」

「ウルトラマンの前には『ウルトラQ』いうのんやっててなあ、ワシは、そっちの方が好きやった」

「あ、タイトルロゴがウルトラQやった!」

「うん、最初はウルトラQの新シリーズいう感じやったなあ。そのうち、もとのウルトラQに戻るやろと思てたら、いつまでたってもウルトラマンでなあ。で、婆さんとケンカしたんや」

「え、お祖母ちゃんと?」

「うん、まだ、セーラー服もダブダブの中学生やったけどなあ……ぜったい、ウルトラマンの方が面白い言うて、くれたんが、このソフビのんや……」

 そうなんや……。

 ちょっとシミジミ。

 

 ジョワ!!

 

 ビックリした! 画面で主役がウルトラマンに変身するとこで、お祖父ちゃんもウルトラマン握ってポーズをとった!

「婆さんと勝負して、負けたら変身ポーズやれて言われてなあ(^_^;)」

 勝負?

 なんの勝負やろ?

 聞きたかったけど、子どもみたいに画面に集中したお祖父ちゃんには聞けませんでした。

 

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ライトノベルベスト・『マッチ売りの少女』

2021-09-19 06:24:25 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『マッチ売りの少女』   

 




 ガールズバーかなんかの客引きだと思った。

 まるでマッチ売りの少女だ。

 

 客引きの感じはまるで無く、ラミゼラブルの世界から、そのまま抜け出してきたようなリアリティーがあった。まあ、どこかの弱小劇団か演劇専門学校生のバイトだろう。配っているのはマッチではなく、店のチラシの入ったポケティッシュ……。

 が、近づくと様子が違う。

 その子の周辺だけ粉雪が降っていてひんやりしている。もう初夏と言っていい季節なので、サービスも兼てビルの二階あたりから雪と冷気を吹き下ろしているんだろう。ま、やっている子も、この時期に冬装束。それぐらいやらなければやってられないだろう。

 マッチはいかがですか……

 遠慮がちに少女が言った。手に載っているのはポケティッシュではなく、本物のマッチ。それも高橋が子どもの頃馴染んだ爪楊枝のようなものではなく、その倍ちょっとはあった。そして少女の顔は、どう見ても青い目にブルネットの巻き毛。顔の造作から言っても欧米人の顔である。

 それに聞こえる日本語と口の動きが微妙に合っていない。「どうぞ」は「プリーズ」の口の形をしていた。

「いくら?」

 思わず聞いてしまった。さっき会社の同僚と飲んだアルコールがまわってきたのかもしれない。

「一円です」
「一円?」
「はい、ものの始まりの数字。お金にすると一円です」

 高橋は、無造作にポケットから五百円玉をだしたが、少女は固辞した。しかたなく財布の小銭ポケットから一円を取り出し、マッチ一本と交換した。

「燃えてる間、夢がかなうのかな?」
「わかりません。ただ燃えている間、人生で一番大切だと思った時に戻れます」
「ハハ、じゃ生まれた瞬間だ。オレの人生は、その瞬間から狂っていた」
「それは……やってみなければ分かりません」

 高橋は、カッコをつけて、靴のかかとでマッチをすった。

 

 シュッ

 

 マッチの灯りだけが残って、周りが暗くなった。

 と、思ったら晩秋の、あの駅のプラットホームになった。

 

 オレは、ヨッコの見送りに来ている。ヨッコは東京に見切りをつけて故郷に帰るんだ。ホームの場内アナウンス、行き先指示のパネルがハタハタとかそけき音で新潟行きを示すそれに変わった。

 それまで線路の彼方を見て居たヨッコが不意にオレの方を向いた。

「あたし、高橋君が好き! 高橋君が止めてくれたら、あたし東京に残る!」

 え………あのとき、ヨッコは「高橋君が好き!」で言葉を止めたはずだ。

 おれから、プッと噴き出して「なーんてね」と目線の定まらない俺を笑ったんだ。

 オレには、真由という好きな子がいた。で、紆余曲折の結果真由と結婚、で、今の家庭がある。何かにつけて文句の絶えない真由。それに輪をかけてわがままな一人娘の真央。

 真央が三つの時に、真由が整形していることに気づいた。目・鼻・口のどこをとっても真由に似ていない娘。でも気立ては母親そっくりの自己中で、最近は「万年係長!」などと悪態をつく。
 今日、帰りが遅くなったのも、同僚と飲みたいだけじゃない。たとえ一分でも帰宅を遅らせたかったからだ。
 

 でも、いまのヨッコは「高橋君が止めてくれたら、あたし東京に残る!」と続けた。

「オレも好きだ。ヨッコ新潟に帰るな!」

 !!

 ヨッコが胸に飛び込んできた。

 家に帰ると中年になって愛嬌が出てきたヨッコが元気よく迎えてくれた。

「お帰り、今日あずさが選抜に入ったのよ!」

 いろんなことが思い出すというか、心に湧いてきた。

 オレは真由ではなくて、気立てのヨッコを選んだ。二人とも十人並……ちょっと下だと思っていた。だが生まれた一人娘のあずさは、マイナス×マイナス=プラスのように可愛く、ヨッコ似の気立てのいい子で、中学でAKPの研究生になり、今日十七歳でチームPからの選抜メンバーに選ばれたのだ。

 その後あずさは、AKPのセンターになり、二十三歳で卒業。今は若手女優として力をつけている。

 家は、あずさの収入で十分やっていけるが、ヨッコの主義で自分たちの食い扶持は自分で稼いでいる。仕事はきついが、やり甲斐はある。今日も後輩たちとプロジェクトの成功を記念して飲み会が終わったところだ。

 街角で、マッチ売りの少女を見かけた……はるか昔、あの子からマッチを買ったような気がした……。

 

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